布束砥信最後の出番です(笑)
8月19日
それから数日間、美琴は暴れに暴れまくった。
俺がまだ潰していない実験関連施設を能力でハッキング。人的被害を出さずデータや機器のみ破壊。
残りは直接乗り込んでこれも人的被害を出さすに破壊。
「見事な手際だ。流石レベル5って所か」
俺の場合、痕跡を残さず事故に見せかけてって事は出来るけど、時間がかかるからな。
美琴みたいなスピードじゃ出来ない。
「俺がやった破壊活動とは別物として考えられており、能力者の襲撃による可能性が高い事を踏まえ、実験の外部研究施設への引き継ぎと、暗部への護衛の申請……ちっ、やっぱりか」
最悪、でもないが予想していた中では悪い部類に入る展開だ。
引き継ぎ先がどこかまでは掴めないけど、今までよりも侵入が難しくなるのは確実。
暗部が動いたとなると……俺が動いても色々とヤバい事になる。
「動きにくくなるか、ま、俺がやりすぎてた時にこんな動きが出なかった方がおかしいか。で、警備に当たる暗部は……って電話か」
セーフハウス内でデータ収集をしていた時、携帯が鳴った。
出てみると連絡してきたのは砥信先輩だった。
数日前にされた砥信先輩からの依頼は、先輩が収集してきた人間の感情データ、それを調整中の妹達に入力する手伝い。
この感情データを妹達の1人に入力できれば、ミサカネットワークによって妹達全体にインストールされる。
ミサカネットワーク、妹達が同一クローン体であり、電気操作能力者である事を利用して構築された脳波ネットワーク。
これによって妹達は自身の経験を他の妹達にアップロードしたり、どれだけ離れた場所にいてもお互いの場所を瞬時に把握して通信を行ったりと多種多様な使い道がある。
今回、先輩はそのネットワークを利用して感情データを妹達全員にインプットする事を思いついた。
勿論、それで実験が中止になるとは先輩も思ってない。
俺や美琴がどれだけ施設を破壊しても、実験は中止にならない。それほどこの闇は深い。
けれども、もし妹達に仮初でも人間らしい感情があれば、実験による死を恐れ、その姿に心動かされる研究者が増えれば、もしも、一方通行がその姿を見れば何かが変わるかもしれない。
俺は先輩からその話を聞いて、ミクの事が頭によぎった
ミクは生きたいと願い、その為に一方通行に挑んだ。
それはそれまで妹達にない感情が芽生えた結果によるものではないか、それなら今回先輩がやろうとしている事は既に行われている事ではないか、無駄ではないか。
それでも、俺は先輩からの依頼を受ける事にした。
先輩のたくらみが成功するに越した事はない。だけど、恐らく失敗する。
でも、その失敗を利用して俺はある事を知りたかった。
色々な施設に忍び込んで実験や妹達のデータを得たけど、それでも掴み切れなかった部分がある。
それを知るために先輩を、利用する。
『依頼が出来たわ、今日の夜動くわよ』
「了解。で、場所はどこでしたか?」
『あなたの予測した通り、Sプロセッサ社脳神経応用分析所よ、流石ね』
「あそこの施設はこんな大規模移設の経験ないから、先輩に手伝いを建前としてお願いすると思ったんですよ」
ただ単に感情データを妹達にインプットするだけなら、俺に任せればいい話だけど先輩は自分ですると言った。
美琴が派手に暴れたせいで研究施設のデータ移動が決定し、その混乱に乗じてデータを入力する。
Sプロセッサ社脳神経応用分析所、あそこは実験関連施設の中でも特に大きい。
大きい分、データを移設する作業は大規模になり、そんな作業が不慣れな連中は学習装置の監修を担当した砥信先輩に移設の手伝いをお願いするだろう、そう俺には簡単に予測がついた。
先輩も同じ事を思っていて、尚且つ、いざ問題が起きた時のスケープゴートとして自分が呼ばれる事も分かっていた。
『あなたはどうするの? 私の助手として一緒に来る?』
「いえ、俺は裏からこっそり入りますよ。色々やりたい事もあるので。でも、もしもの時はすぐにかけつけますんで、渡した発信機無くさないようにしてくださいね」
『certainly 暗部が来たら、頼んだわよ』
今回、俺が依頼された手伝いとは、暗部対策だ。
残った研究関連施設は2つ、そのどちらにも暗部が手配されているのは分かっている。
問題は、どの暗部が当たっているかだが、それは分からなかった。
分からなかったけれど、先輩が暗部に邪魔されないようにするのが俺の役目。
その為の小道具はいくつか用意したし、先輩に通信機能付きの超小型発信機も渡してある。
先輩の企みを利用する分、アフターケアは万全にしないとな。
そして、その夜。Sプロセッサ社脳神経応用分析所に先輩が入ったと同時に、俺も地下から侵入した。
通常なら俺でも簡単に侵入出来ないほどのセキュリティが施されているが、急な移送の為にセキュリティが甘くなるのは予測済み。
それに外部ハッキングで稼働しているセキュリティはあらかた把握したし、侵入経路のカメラも抑えてある。
『私は何をすればいいですか?』
『ああいえいえ、後ろに控えていて下されば結構です』
先輩が持っている発信機から、先輩とここの職員の会話が聞こえてきた。
どうやらこの施設のアホ職員達は先輩の事を微塵も疑っていない。
一番問題なのは、ここに美琴が襲撃して来ないかどうかだったけど、どうやらもう一つ残っている病理解析研究所の方を襲撃したようだ。
もし、美琴がここを襲ってきた場合の対処も俺の仕事、今の美琴には話をして分かるような精神状態じゃなさそうだし。
そういう意味では、まずは一安心。あとはここを警備している暗部がいつ動くかだな。
「急げ! もたもたしてるとお前だけ置いて行くぞ!」
「そう言うならコレもつの手伝えよ!」
施設内部に潜入した俺は、服を着替え研究所員に紛れて施設内部を進んでいく。
途中何人かの所員と遭遇したが、移設作業でてんやわんやの彼らに見慣れない俺に不審を抱く余裕はない。
まぁ、移設作業してる風に見せる為にダミーの荷物両手に抱えて、顔をうまく隠しているのも効果があるか。
そうやって施設内を周り、小細工を仕掛け終え先輩と合流しようとすると所員の動きが慌ただしくなってきた。
『目的地に到着したわ。そっちは?』
「今そっちに向かっていますよ。それより、ここの奴ら、やっと気付いたようで今先輩を皆探しているみたいですよ」
『問題ないわ。すぐに終わるもの 「そうですね、もう超終わりです」 なっ!?』
「っ!? ……発信機を潰されたか。それに今の声は、最愛」
どうやらここに配置された暗部は、アイテムのようだ。
で、最愛が先輩の目的に気付いて先回りして確保、と言ったところか。
大方沈利の指示だろうけど、的確だな。
とにかく急いで先輩の元に……と思いつつ、先輩の居る場所に到着。
「この通信機で一体誰と話をしていたのですか? まぁ、超手遅れでしょうけど、このまま連行します」
隠れつつ室内の様子を窺う。中には暗部の下っ端が数人と先輩を取り押さえている最愛が見える。
その奥の部屋にシリンダーが見えた。中までは見えないが、あそこには調整中の妹達がいるはず。
悪いな、最愛。と心の中で謝りつつ、閃光爆弾と携帯を取り出し、ゴーグルをかけて準備完了。
まずは複数の発電機にしかけた爆弾を爆発させ、照明を落とす。
――ドガンッ!
「なっ!? これは一体何事ですか!?」
「照明が!?」
一瞬にして建物全体の明りが落ち、真っ暗になる。
すぐに予備電源が作動し、照明が元に戻ったがこれで終わりじゃない。
今のはただの合図、これで先輩は目を瞑ったはず。
続けて室内に閃光弾を投げ入れる。
――ボボンッ!
「ま、まぶしいっ!?」
「目がぁ~!」
目を瞑った先輩以外の税んの目がくらんだ所で、内部に突入する。
まずは取り押さえていた先輩から思わず手を離し、両目に手を当てている最愛に幻想支配の能力停止で窒素装甲を無効化。
「ゥグッ!」
即座に急所に一撃を食らわせ、気絶させる。
残った雑魚達も素早く昏倒させた。
普段窒素装甲で自動防御している最愛以外は、普通にやりあっても問題なく無力化出来る。
「大丈夫ですか、先輩?」
「unbelievable 暗部の能力者を一瞬で無力化させるなんて、流石ね」
「そんな事より早く作業済ませてください。3分で脱出しますよ」
「こんなの30秒もあれば……できた」
先輩は流れるような手つきで感情データが入ったディスクをコンソールに入れて、データを入力し終えた。
これでガラスの向こうに眠る妹達の1人、検体番号19090号に感情データがインストールされた。
さて、これで後はどうなる?
――ブーッ!
「エラー? な、なんで!?」
呆然とする先輩が見ているコンソール画面には、ERRORとWARNINGの赤文字がいくつも点滅していた。
どうやら19090号にインストールする事は成功したが、ミサカネットワークに流し込むのは失敗したようだ。
「やっぱり、こうなったか」
「っ! い、今なんていったの? やっぱり? どういう意味よ、それは!」
「話は後で、ここから逃げますよ、先輩」
詰め寄ってきた先輩の手を取り、急いで部屋を出る。
遠くから多くの足音が聞こえてきた。
「やっと侵入者に気付いたのか、遅すぎだっての」
携帯を取り出し、さっき仕掛けたもう一つの罠を作動させる。
――ドドッ!
数か所で爆発音が聞こえ、また建物内が真っ暗になった。
さっきと違うのは、今回は照明が復旧せず非常灯も完全に落ちて完全な暗闇になった事だ。
「非常電源も落としたの? ま、待ってそれじゃあの子が!」
発電機を全て落とし予備すら切った事で、あの部屋にいた19090号の調整に問題が出る事を先輩は危惧した。
「大丈夫ですよ。調整関係の設備は他とは遮断していますから、問題ないです」
でも、それくらいはちゃんと考えて処理している。
「そ、そう……それなら良かったけど」
真っ暗闇の中、俺は暗視ゴーグルを使っているが、何もない先輩は俺の手に引っ張られる形で走っていて足元がふらついている。
このままじゃ危ないので、先輩を担いで逃げる事にした。
「それより、ちょっと失礼!」
「えっ? ちょ、ちょっと何をするの!?」
背中に担ぐよりもお姫様だっこの方が手っとり早い。
幸い、先輩は何も視えていないので自分がどんな状況なのかは……分かってない、はず。
「こっちの方が早いんですよ、少しの間我慢して下さい」
「だ、だからってお姫様だっこする事はないでしょ!?」
「あ、やっぱバレバレですか?」
暗闇の中、何が起きたのか右往左往している所員を尻目に、俺は先輩を抱っこしながら脱出経路から外へと逃げ出した。
施設を飛びだし、停めてあったバイクに乗り急いでその場を離れた。
俺達が脱出した事にまだ気づいていないのか、追手がくる気配はなかった。
ひとまず、隣の学区にまで逃げた所で人気のない公園にバイクを停めた。
「いやぁ~それにしてもいたのが最愛だけで良かった。理后か沈利がいたらちょっと面倒だった」
もしくは配置された暗部がスクールだったら、ちょっと危なかっただろうな。
最愛は俺が先輩の手助けした事には気付いていないだろうけど、今度会ったら映画のチケットでも贈ろう。
「……あなた、こうなると分かっていたのね?」
しばらく俯いていた先輩が睨みつけるように俺を見上げた。
「ある程度の予想はしてました。勿論、先輩が成功する事を祈っていましたよ」
「よく言うわ。抜け目ないあなたの事だもの。こうなる事があなたにとっての成功だったんじゃないの? ミサカネットワークのセキュリティがどうなっているか、それを突き止めるのがあなたの本当の目的、違う?」
無言で頷くと、先輩は深く息を吐いた。
そう、俺の本当の目的は、ミサカネットワークのセキュリティの解明。
ミサカネットワークの存在を知った時、いや、妹達の事を知った時からずっと考えていた事。
それは2万人ものクローンをどうやって管理するか?
ましてや2万のクローンが脳波ネットワークで繋がっているのなら、1人でも学園都市の敵に悪用されてたら連鎖的に妹達全員が敵の手に落ちる事になる。
今回先輩がやろうとしていた事は、まさにうってつけだった。
ミサカネットワークに外部から正規とは違ったルートで情報を入力しようとした場合、どうなるか。
その答えがアレだった。
「私もヤキが回ったわね。まさかあんなセキュリティをいつの間にか用意していたなんて……」
「先輩はこれからどうしますか? ほとぼりが冷めるまで逃げると言うのなら、逃走手段は俺が用意しますけど?」
先輩は今日の騒動の犯人として既に知れ渡っているはず。
最愛と他の雑魚に現場を目撃された事が決定打となって、暗部から追われるだろう。
例えあの場の全員を口封じで殺しても、先輩が訪問した直後にこの騒動が起こった事で真っ先に疑われるのは明白だ。
「いいえ、これ以上世話になるわけにはいかないわ。それに暗部に捕まる事はとっくに覚悟できていた事だし……ここで別れましょう」
見るからに傷心し切った先輩は、そのままいずこかへ去って行った。
俺も実験の妨害で派手な事をしてきたが、なぜか目をつむられてきた。
だから、先輩もひょっとしたら……なんて甘い考えは起きなかった。
先輩はすぐに他の暗部に捕まり、スタディと言う組織に売られそこでまた事件があった。
だが、俺はそれに直接かかわる事が出来なかった。
結局、あれが先輩と交わした最後の会話になった。
続く
左手が腱鞘炎になり、それをかばいながら仕事してたら右腕の筋肉が張ってしまい、色々ボロボロな毎日です。
さて、そろそろ当麻が出てくる頃……かな?