幻想支配の幻想入り   作:カガヤ

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やっと原作に被って来ました。



第71話 「偽物」

8月16日

 

あれから眠れぬまま朝を迎えた。

セーフハウスに向かう気力もなく、ベンチに座りずっと考え事をしていた。

 

「……馬鹿だな、俺。何してるんだろ」

 

殺して壊して、それでも何も変わらない。

自己満足にすらならない。

 

「ヒーロー、か」

 

自分に与えられた性質、ヒーロー。木原を制御し殺す為に全くの正反対の性質を植え付けられた。

尼視が目指す先は知らないし、その為に色々されてきた洗脳に近い実験の事もどうでいい。

けど、その結果が今の自分なら……

 

「アイツなら、どうするかな」

 

ふと頭に浮かぶのは上条当麻、記憶を失っても何も変わらない超お人好し。

 

「止めだ。そんな事より、これからどうするか、だな」

 

いくら悩んでもキリがない。

それにミクの事を思うなら、行動あるのみだ。

 

「まずはコレを分析しないとな。もっとも、これで全部じゃないようだけど」

 

昨日手に入れた妹達のデータが入ったスティックを取り出す。

どうやらあそこにあったデータだけでは、まだ不足しているみたいだ。

機密情報の分割保存。全てを知るためにはピースが足りない。

でも、俺は医学の知識も少しはあるし、遺伝子の事にもそれなりに詳しい。

だから今まで入手したデータを組み合わせる事で全体像が見えてくるはず。

既に入手していたデータを昨日見たけど、やはり妹達には遺伝子に欠陥があるようだ。

 

「 【当然】 だな。実験のために生み出された妹達だ。そこまで長い寿命を設定する必要は……っ!?」

 

そこまで口にして、思わず息を飲んだ。

当然、俺は確かに自然とそう口にした。

 

「……何が、当然、だ!」

 

近くの電柱に思いっきり頭を打ち付ける。

流石に頭が痛み額から血が流れ落ちたが、気には止めない。

 

「ははっ……やっぱりこうか、こうなのか」

 

妹達が実験の為だけに生み出された存在で、だから寿命を短くされている……それが、当然と無意識に納得しまった。

昨日まであれほどミクの事で怒り狂っていたのに、もうこれだ。

 

「やっぱり、俺は……木原だ」

 

科学の為に全てを犠牲にして、その事に疑問を持たない、木原一族。

赤ん坊の時に木原尼視に拾われ、勝手に木原と名付けられたと言っても、俺はやはり木原だ。

 

「……だとしても、俺が止まる理由には、ならない」

 

額の血を拭き取ってこの場を後にしようとしたその時、遠くのベンチに膝を抱えて座り込む常盤台の服を着た少女が見えた。

そして、その少女はとてもよく見覚えのある顔をしていた。

 

「美琴? なんでこんな時間にこんな所……まさかっ!?」

 

憔悴しきった顔と汚れた制服、見るからにボロボロのその姿を見て嫌な予感がした。

まさかとは思うが美琴の奴、実験を知った?

声をかけるかどうか木陰に隠れて様子を窺っていると、美琴に近付く人影が見えた。

 

「久しぶりね。ベンチで夜明かししている不良少女がいると思えば……」

 

美琴に声をかけた少女は俺もよく知るウェーブのかかった髪とジト目が特徴的な先輩、布束砥信だった。

どうやら砥信先輩も実験に関わっているようで、美琴とは面識があるようだ。

少し意外だったけど、妹達に知識を植え込む学習装置の監修をしていた砥信先輩なら関わっていても不思議じゃない。

 

「あの実験に関わっている人間、みんなイカレてるわ」

 

美琴の言葉が胸に突き刺さる。砥信先輩は理非善悪とは少し違うと言っているけれど、あまり違っているとは思わない。

科学を第一に考えている連中は、ほとんどイカレていると自覚している連中ばかりだ。

いや、自分からイカレたと言った方がいいか。そして、その最先端が木原だ。

 

「アンタがマネーカードをバラ撒いていたのは、実験を妨害する為なんでしょう?」

「そうね」

 

これには驚いた。まさか砥信先輩が実験を妨害する為にすでに行動していたなんて。

俺の知る限り、砥信先輩がそっち側に周るようなタイプには思っていなかった。

 

「彼女の方が、ずっと人間らしいと思ったから……」

 

彼女が以前に調整に立ち会った妹達の1人。彼女は初めて研究所の外に出て空気の香りと風、太陽の光、世界をまぶしいと言った。

そんな彼女を見て、砥信先輩は科学で汚れた自分よりも人間らしさを感じたようだ。

ミクと出会った俺と……同じだ。

 

「あなたは彼女達をどう見るの?」

 

砥信先輩の問いに、顔を上げた美琴は死んだような目をしながらも、その表情には黒い決意が籠っていた。

 

 

 

美琴はそのまま暗い顔をしながら去って行った。

結局近くの柱の影に隠れていた俺の事には気付いていないようだった。

普段ならレーダーでこんな距離に隠れている俺の事が分からないはずがない。

それだけ、今の美琴は精神的に追い詰められている。

でも悪いが俺にも美琴にまで構っている余裕はない。

それに美琴なら、俺と同じ事を考えていても、同じ手段までは取らない。それは断言出来る。

もし、俺と同じ手段を使った時は……考えたくもない。

ともかく美琴の姿が完全に見えなくなってから、砥信先輩の背後に忍び寄り背中に銃を突きつけた。

 

「久しぶりですね。砥信先輩」

「っ!? えぇ、久しぶりね」

 

先輩は俺の顔を見ると驚いたが、すぐに諦めたような顔になり溜息をした。

 

「Shoot。甘く見ていたわけじゃないけれど、もうあなたをよこすとは思ってなかったわ」

 

どうやら先輩は、俺の事を始末しにきた暗部の刺客だと思っているみたいだ。

まぁ、逆の立場ならそう思うかも。

 

「安心して下さい。俺は先輩を始末する気はないですよ……今のところは」

「kidding? ならこのタイミングであなたが現れた理由は何?」

「その前に1つ質問に答えてください。先輩は実験を止める気が、今もありますか?」

 

もしここで偽りの答えをされたなら、始末する事も考えた。

始末すると言っても命を取る以外の手段でだ。

 

「どうやらさっきまでの会話を聞いていたようね。私は今でも実験を止める気はあるわ。それで? それを聞いてどうする気なのかしら?」

 

先輩の目は、嘘を言っているようには見えなかった。

俺は銃を懐にしまった。それを見た先輩が更に怪訝そうな顔をした。

 

「incomprehensible こっちの質問に答えて。始末するつもりじゃないなら、私に一体何の用かしら? 警告?」

「違います。俺も、実験を止めたい側なんでね」

 

それを聞いて、先輩は何か考え込んでいたが、ハッと目を見開いた。

 

「まさかここ数日、実験関係の研究所で謎の事故が多発していたのは……てっきり彼女の仕業かと思っていたけれど、あなただったのね」

 

信じられないと言う顔をしているけど、気持ちは理解できる。

普通、俺はそういう側じゃない。

 

「えぇ、俺の仕業ですよ。ちょっとデータを抜きとる 【ついで】 にね。美琴なら皆殺しより別のやり方すると思いますよ?」

 

自然に俺と先輩は美琴が去った方に目を向けた。

もう美琴はどこにいなかった。

 

「assent 甘い彼女なら確かにあんな事はしないでしょうね。でも驚いたわ。まさかあなたがあんな事するなんて……誰かの依頼? いえ、違うわね。あの実験の阻止なんて、あなたに依頼する関係者はいるわけないわね」

 

実験の事を知っていて、木原である俺にその破綻を依頼する。

本当に馬鹿げているというか、ありえない……わけでもないけど。

暗黒の五月計画やら俺が依頼されて潰した実験は結構ある。

けれども、今回の実験は今までとは規模も何もかもも違う。

実験や俺の事を知っている人ならば、この実験を中止させる事を俺に依頼出来るわけがない。

尼視は別だけど。

 

「ならあなたが私に用と言うのは、実験の事を聞く為?」

「正確には妹達のデータ、もっと言うなら寿命に関わる調整のためのデータです」

「……なるほど、私も考えなかったわけじゃないけれど」

 

それだけで砥信先輩は俺が何を言いたいのか理解できたようだ。

先輩は懐から小さなメモリスティックを出すと、俺に差しだした。

 

「念の為にとっておいた、と言うわけじゃないけれど、これをあなたに渡すわ。私が持っているよりも有意義に使ってくれるでしょ?」

 

俺は黙って頷き、スティックを受け取った。

今まで手に入れたデータと組み合わせる事で、きっと何かが見えてくる……はず。

先輩の持っているデータが全て俺の持っているデータと同じものだった時は、またどっかから入手すればいい。

 

「用事は済んだ。あまり俺と接触してない方がいいだろうから、じゃあな砥信先輩」

 

先輩にまであらぬ疑いや暗部の手が伸びないとは限らないし、これ以上関わらない方がお互いのためだろう。

 

「えぇ……待って!」

 

去ろうとしたその時、先輩がふと何かを思いついたような顔をして俺を呼びとめた。

 

「あなたまだ実験を止める気なのよね? なら、1つ依頼したい事があるの」

「依頼?」

 

何の依頼だろうか? 実験を止めると言う依頼は無意味だし。

 

「今はまだ準備が整っていないのだけど、数日中に連絡するから詳しい事はその時に、いいわね?」

「分かりました。こっちも色々準備した事があるので」

 

いつ何をどうする依頼かを知りたいけど、こんな所で話す事じゃない。

俺も少し頭を冷やす時間が欲しい。こうしている間にも実験は繰り返されている。

だけど、こんな状態で動いても事態は好転しないばかりか、悪化してしまうだろう。

 

「それじゃ、その時が来るまであまり動かないでね。ただでさえ警戒が強い中、彼女が動き出すとますます動きにくくなるわよ」

「……でしょうね」

 

今度こそ砥信先輩と別れた。

美琴が動く。それがどういう事になるか、予想はつきやすい事だ。

そして、砥信先輩が何を企んでいるか知らないけど、美琴が動く事を利用するみたいだ。

なら、俺はその動きを利用させてもらおうか。

 

 

 

砥信先輩と別れた後、俺は近くのセーフハウスに寄ってから第7学区のとある病院にやってきた。

依頼がある時か、俺が世話になる時以外でここに来るのはこれが初めてだ。

最も、病院なのだから当たり前か。

最近じゃ、錬金術師と戦って負傷した当麻の見舞いに来た時以来か。

夜間に来ればよかったのだろうけど、今は時間が惜しい

まだ診察時間前とは言え、なるべく他の医師や看護婦、患者に見られないように冥土帰しの部屋までやってきた。

ドアを開けるとカエル顔の凄腕の医師、冥土帰しがカルテとレントゲン写真を交互ににらめっこしていた。

 

「誰だい? なんだ、君か。珍しいじゃないか、君の知り合いは入院していないと思ったけどね? それとも、君が診察を受けにかい?」

「久しぶりですね、先生。今日は別件、裏の用事です」

 

それを聞き冥土帰しの表情が変わった。

 

「どうやら、今までにない厄介事を抱え込んでいるようだね。君、ここ数日ロクに睡眠も食事も取っていないようだね?」

「っ、流石気が付きましたか。でも、それよりまずはコレを見てください」

 

隈が出来たり、顔色が悪いのは自覚していた。

だから、道行く人に不信感抱かれないように、化粧品などで目立たないようにはしていた。

 

「僕を誰だと思っているんだい? 必要なら後で栄養剤を……これは!?」

 

俺が渡したメモリスティックの中を見て、冥土帰しの表情が強張った。

渡したのは実験と妹達に関するデータのコピーだ。

それから先生は10分ほど黙々とデータを見て、深く息を吐いた。

 

「なるほどね。量産型能力者計画は御破算になったと聞いたけど、で、これを僕にどうしろと?」

「見ての通り、御坂美琴のクローンである妹達は極端に寿命が短くなっています。先生ならどうにか出来ないかと……」

「ふぅ……まだはっきりとは何とも言えないよ。彼女を診れれば一番だけど、そういうわけにもいかないのだろうね?」

 

やはり冥土帰しとは言え、難しい問題か。

俺自身でももっと調べるつもりだけど、今後の事も考えて冥土帰しに任せた方が好都合だと思った。

 

「僕は出来ないとは言ってないよ。ただ、今すぐには解決策を出せないと言っているんだよ? 見た所彼女達に投与されている薬品に対する抗体と、ホルモンバランスの調整などが必要そうだけど、詳しい事はこのデータをよく見てみないと分からないよ?」

「……そう、ですか。それだけで十分です。ありがとうございます」

 

実験をどう終わらせるか、どう妹達を解放するか、色々大問題が山積みだけど、寿命に関しては……希望がある。

 

「気にする事はない、これが僕の仕事だからね。けど、実験を中止させてこの患者達を僕の所に連れてくるのは、僕の専門外だよ?」

「はい、それは俺の仕事です」

「結構。なら一先ず今はゆっくりと休養する事を勧めるよ。栄養剤は必要かい?」

「いいえ、ありがとうございます」

 

冥土帰しに礼を言って病院を後にする。

休養を勧められたが、俺にそんな時間はない。

調べなければいけない事はまだ山ほどある。

まずは、10032号が言っていた 【ネットワーク】 について調べるか。

その時、美琴の言葉が頭に浮かんだ。

 

――私は……クローンを人間としてなんて見れないし、殺される事を受け入れている連中を助けようなんて思えない。

 

美琴、アレがお前の本心だなんて俺はこれっぽっちも思ってないからな。

 

 

 

続く

 




この話に出てくる布束砥信はアニメ仕様です。
彼女の口調、地味に難しい……英語は苦手です(汗)
ギョロ目?ヽ(~~~ )ノ ハテ?(爆)

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