幻想支配の幻想入り   作:カガヤ

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お待たせしましたー今回は難産でした……


第69話 「闇」

いくつかのセーフハウスで準備をしていたら夜になった。

実験は中断されているようだけどあいつらの事だ、ミクの怪我が回復次第すぐに再開されるはず。

ミクの様子から見ると、実験再開まで2、3日もないかもしれない。

今夜中にケリを付けるつもりでいなければ、間に合わない。

 

「まずは、ここか」

 

目的の研究所からかなり離れた場所にバイクを停め、装備を整えて下水道から侵入する。

正面も裏もカメラや警備が多くて侵入は無理。

他に警備が手薄そうな研究所はいくつかあったが、そんな所じゃ俺の欲しい情報は手に入らないだろう。

木原としてのパスで入れるとは思うけど、侵入の痕跡は残したくない。

なので下水道とパイプラインを使ってこっそりと侵入する事にした。

ま、どうせバレるだろうけどな。

 

「おい、とっととそれを運べ、主任が待ってるぞ」

「へいへい、全くバックアップの取り忘れなんて死活問題だってのに」

「ぼやくなよ。仕事だろ?」

 

などという研究職員達の会話を聞きながら排気ダクトや、特にカメラの死角を歩く。

ここに来るまでにこの施設の警備システムにはすでに手を加えてある、もちろん、バレないようにだ。

もう少し時間がたてば人は減るかもしれないけど、時間もないし人が多い方がいざという時に脱出しやすい。

今回の目的は内部からのハッキングだ。外部からでは破れないセキュリティーも内部からなら簡単に破れる。

なので、目指す部屋はサーバールームだ。

いくつか分散されているが、その中の一つに細工すればいい。

 

(さーってと、ここまでは順調)

 

変装したりカメラの向きを変えたり注意をそらしたりと、色々な手段を用いてやっとサーバールーム前にたどり着いた。

今俺がいるのはサーバールーム正面通路にある換気ダクトの中だ。

正面と言ってもここからサーバールームはかなり離れている。

ここから落りて侵入すれば楽なのだがそこは学園都市の研究所。ここへの侵入は容易じゃない。

セキュリティーは完ぺきで、入れる人数も限られていて声紋や指紋は誤魔化しが効かない。

 

(ここでコイツの出番っと)

 

懐からPDAを取りだし、操作する。

 

――ウィーンウィーン

 

すると1分もせずに研究員と武装した警備員達が駆け寄ってきた。

 

「なんだっ!? 火事か!?」

「分かりません、カメラには何も異常は見られなかったのですが、今開けます!」

 

望遠メガネでその様子を確認した俺は次に演算銃器を取りだした

演算銃器で発射するのは通常の弾薬ではなく、先端に液体が入った特殊な弾薬だ。

 

「空きました!……みた所何も異常は見当たりませんね?」

 

職員達がサーバー内を慎重に探索しているのが、内部の監視カメラをハッキングした映像で確認出来る。

しかし、異変は起きていないのだから見つかるわけがない。

 

「異常なし、ただの誤報だ。念の為警備システムのチェックをしてくれ」

 

やがて部屋の隅々まで調べた所員達が出てきて、ドアを閉めた。

 

(システムチェック程度じゃ無駄だぜ、っと)

 

ドアが閉まって行き完全に閉まる寸前、ルームの一角に狙いを付け、撃った。

極小の弾丸は音もなく発射され、誰にも気付かれる事なくルーム内のサーバーに当たった。

弾丸はサーバーに触れた瞬間に弾けて、透明な液体をばら撒いた。

 

(これでよしっ……ハッキング完了。データ受信開始)

 

PDAには次々と実験に関するデータが送りこまれてきている。

今撃ったのは俺が作った特殊な液体をサーバーに付着させる為の弾丸。

この液体はデータを吸い出し、俺のPDAに送信させる送信機の役割を持っている。

俺特製で名前もまだないが無色透明で空気に触れると5分で蒸発してしまい、痕跡は一切残さない。

普通にサーバーにハッキングしても良かったけど、念には念を入れた。

まずは、警備システムを誤作動させサーバールームのドアを所員達に開かせ、わずかな隙を狙い演算銃器で音もなく液体をサーバーに振りかける。

普通の銃器では、当たった瞬間にサーバーを傷付ける事なく弾を弾けさせて液体を振りまくなんて芸当出来ない。

直接液体を振りかける事が出来ればこんな手間をかける事はなかったけど、それは仕方ない。

 

(データ受信完了……とりあえず、ここから移動するか)

 

今いるダクトは狭く複雑な構造をしているので、結構無理な体勢をしている。

データ受信が終わったのでこんな所にいる必要はない。

来た道は使わず別ルートで研究所の上層階へと向かった。

その途中にある少しだけ開けたベースで、改めてデータの閲覧をした。

本当はセーフハウスに戻ってからの方がいいけど、この研究所で何か出来る事があるかもしれないので残る。

 

(絶対能力進化と幻想支配について……俺が知りたかった事とは微妙に違うけど、これも興味深いな)

 

このデータによると、俺の能力である幻想支配はレベル5との接触によって、レベル6への進化の道筋を探ったが結果は芳しくなかったようだ。

一方通行と第六位以外のレベル5と偶然接触した事はあったが、あれは全て意図された事だったか。

で、次に一方通行の能力をコピーして絶対能力進化実験の代理を行う事も計算されたが、結果として代わりにはならないという結論が出された。

 

(幻想支配の能力は幻想殺し以上に未知数であり絶対能力進化への誘導は不可能。また一方通行と戦闘した場合、幻想支配が勝つ確率は100%であると出た為、代理にはならない……だと?)

 

つまり、俺が一方通行と戦った場合、俺が勝つと言う結果が既に出ていて、尚且つ俺じゃレベル6にはなれない。

他に分かった事がいくつかあった。

 

――あ、そうそう。実験だけど、一方通行を殺しても無駄だぞ?

 

アイツがああいった理由が分かった。

一方通行を殺したとしても、それは予測範囲内であり実験は違う形で続行されると言う事だ。

早い段階で俺が一方通行に勝てると出ている以上、代案を用意しない程あいつらは甘くない。

具体的なプランは分からないが、それを探ってから対処するよりも一方通行には手を出さない方が早いだろう。

 

(でも、これでますます実験の本当の目的が分からなくなったな)

 

どうも一方通行が妹達を2万人殺せば終わると言う実験にはどうしても思えない。

この実験が終わった後の展開が読めない。

暗黒の五月計画や体晶実験など俺が今まで潰してきた実験は成功した後の展開が読めていた。

けれども、この実験は読めない。

まるで……成功する事が前提に入っていないかのようだ。

綿密に計画されているように見えて、目に見えない矛盾や穴が見えてくる。

一番の穴は、一方通行が現時点でレベル6に最も近い学園都市 『最強』 の能力者という前提で動いている事。

確かに一方通行は能力者の中では最強だ。

なのに、レベル0認定の俺には早い段階で負ける事が分かっている。

 

(なんだ、この焦燥感は。嫌な予感とでも言えばいいのか)

 

言葉に言い表せない焦りが、違和感と共に湧いてくる。

おかしい。何かがおかしい……けど、何がおかしいのか分からない。

 

(尼視が何か仕掛けたのか、俺に?)

 

そんな事をされた覚えはないけど、アイツの事だから俺が気付かないように行く先々で飲み物や食べ物に何か混ぜたりするくらいはする。

 

(くそっ、もう一度ハッキングするか? いや、ここでは危険だな。ばれないうちに他へ移動しよう)

 

他の研究所へ移動しようとした時、ふと通路での研究員達の会話が耳に入った。

 

「で、実験の進捗状況は?」

「勿論、順調ですよ。問題はありません」

 

その会話が耳に入った時、猛烈な違和感に襲われた。

近くにあった通気口ダクトを静かに覗き込む。

今いるダクトの下は休憩室になっているようで、2人の所員が話をしていた。

実験が……順調? どう言う事だ? 昨日の夜に延期となってまだ再開されていないはず。

 

 

「先程、第9944次実験が終了したそうです」

 

 

……今、何と言った?

 

「連続した戦闘データの収集が目的ですが、一方通行に疲労はないですね」

「それはそうだろう。アイツならクローンを何千人相手にしても疲れるほどの戦闘にはならないさ」

 

9944次実験の終了、それが意味するのは……妹達が現時点で一方通行に、9944人殺されたと言う事。

つまり、その中には当然、9939号であるミクも……

 

(っ、そんなわけあるか! あいつの怪我はまだ治ってない。そんな状態で実験を強行しても結果に響くだけだ!)

 

高鳴る心臓を抑え、深く深呼吸をした。

ここで興奮しても見つかるだけだ。

まずは落ちついて……いられなかった。

 

(もう、見つかるリスクとか関係ない!)

 

ダクト内を通り、研究室に入りこみ内部から急いでハッキングを仕掛けた。

最初からこの手を使わなかったのは、内部アクセス履歴がどこかに痕跡として残ってしまう事を防ぐためだった。

PDAからの外部ハッキング、研究所内からの内部ハッキング、どちらも痕跡が残るリスクはあった。

だから、手間がかかる手段を取ったのだが、この際どうでもいい。

今は確実に早く情報が手に入る手段を取る。

 

「……頼む、まだ延期されていてくれ、ミク」

 

無意識に口にしてしまった。

 

「実験経過報告、これだ! 実験は9944まで滞りなく終了……な、に?」

 

9939次実験は……他の実験同様の結果で終了していた。

終了時刻は、ミクと別れてから30分も経っていなかった。

ちょうど俺が昨日実験に乱入してから12時間後に開始されていた。

 

「第9939次実験において、乱入者を装っての実験中断、再開する事によって予想外のアクシデントを盛り込む計画だった。当初の予定より若干のズレが合ったとはいえ、予定通り12時間後に再開……くそっ!!」

 

思いっきり近くにあった机を殴り、椅子に倒れこむように座った。

机が凹み、拳から血がにじみ出ているが気にする余裕はない。

 

「……元々、ミクの時に乱入者は用意されていた展開だった? つまり、俺が乱入していなくても実験は一時中断されて、12時間後に再開された……だと、ふざけんなっ!!」

 

今にして思えば、病理のタイミングがおかしかった。

俺の行動を先読みして、病理を送りこんだのかと思っていたが、それにしてもタイミングが良すぎた。

 

「っ!?……つまり、木原病理が乱入者役だったのか!!」

 

あんな深夜にあんな場所でどうやって乱入を装うつもりだったのか、それは分からない。

けれども、結果として俺が乱入者役に……そこまで考えて、違和感が頭の中をかけめぐった。

基本車いすの病理が乱入者役では、不自然すぎる。

 

「まさか……俺が乱入する事も、最初から予定内だった?」

 

俺が乱入する事が予測範囲内だったのではなく……俺が乱入する事こそ、9939実験の要だったと言う事。

病理は俺が一方通行を殺さないようにする為の、保険であの付近にいた。

他にも色々仮説は立てれるが、一番違和感がなかったのはこれだ。

 

「俺は……結局、良いように利用されていたってのか!」

 

サプライズ、一方通行が言っていたように昨日の乱入は一方通行にしてもミクにしても俺にしても、まさにサプライズだったのだろう。

 

――ミク、それがミサ、ミクの名前……ミク。

 

脳裏にミクとの会話が浮かんでは消えていく。

 

――それは……不可能です。ミクはやはり実験に参加する事に存在意義があります。とミサカは若干辛そうに答えます。

 

ミクは、実験を拒否したのだろうか? その事については全く触れられていない。

 

――あなたのアシスタント、ですか? いえ、それよりも実験が中止? とミサカは動揺しながら尋ねます。

 

何がアシスタントだ! 助けた事すら実験の一部に組み込まれていた事に気付かず、俺はミクに……生きる希望を抱かせた。

 

「俺は……なんて、馬鹿なんだ!!」

 

学園都市の闇? そうだよ、コレが闇だ。

テレスに散々中二病とか言っておきながら、俺はまんまと闇に踊らされた。

 

「俺は、ただのピエロだ!」

 

頭の中を色々な感情が駆け巡っている。

怒り、憎しみ、哀しみ……こんな事は初めてだった。

でも、それ以上に浮かぶのは……

 

――はい、御馳走様でした。それと、素敵な名前ありがとうございます、ユウキさん。とミサカは顔をあつくしながら見送ります。

 

ミクが最後に見せた笑顔だった。

それから何分、何十分か俺は凹んだ机に顔をうずめていたが、涙は出なかった。

そんな事よりももっと他の事を考えていた。

それは、これからどうするかだった。

 

「いいぜ、俺が一方通行を殺しても実験が止まらないって言うなら……一方通行以外、ミナゴロシにしてやる」

 

 

次の日、とある研究所が実験の失敗によって炎に包まれ、勤めていた所員が全員死亡したと言うニュースが学園都市に流れた。

 

 

 

続く

 




はい、ミク……死亡です。
これはかなり前から決まっていた事ですが、書いていてキツかったです。
それと、原作メンバー全く出ず、ユウキの独白のみで別の意味で書くのがキツかったです(爆)

次回、ユウキが……


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