幻想支配の幻想入り   作:カガヤ

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無駄に長くなったー!?


第6話 「人里」

紅魔館の門で朝食を食べ、咲夜から昼食に食べてと渡されたサンドイッチを片手に、俺は人里に向けて森の中を歩いている。

人里までそれなりに距離があると言われたが、1日中かかる距離ではないのでそれくらいなら大丈夫だ。

 

「ま、何事もなく行ければ……だけど」

 

襲いかかってきた妖怪の眉間を殴り、昏倒させる。

チルノや大ちゃんとは違った妖精も、何度か見かけたがこちらをジッと見つめるだけで特に何もして来ない。

 

「当然だよ、だってあたい達が一緒だもん」

「妖精はイタズラ好きなだけで、特に人を襲う事はないですよ?」

 

そう言ってチルノと大ちゃんは、遠くから見ている妖精に手を振っていた。

大ちゃんに妖精のイタズラが結果として襲ってる事になる事もある。とサラリと言われたが。

 

「ほら、ユウキも手を振りなよ」

「はいはい」

 

チルノに言われ、妖精に手を振ると、妖精も笑顔で手を振り返してくれた。

……あまり経験した事のない気分だな、これは。

 

「で、2人は人里にはよく行くのか?」

「うん、たまにだけどね。て……てとりす屋に行ってるよ」

 

テトリスも幻想入りしたのだろうか?

 

「違うよ、チルノちゃん。寺子屋だよ、寺子屋。慧音先生が人里の子以外にも私達にも色々教えてくれるんです」

 

そう、チルノや大ちゃんと一緒に人里に向かっているのかと言うと、2人も寺子屋に行くからと着いてきたのだ。

1人で行けると言ったが、道案内がいた方が迷わないから。と、美鈴や咲夜に言われて渋々同行している。

何かあれば2人を守るつもりだったが、チルノは氷の妖精でその中でも飛びぬけて強い部類らしく、雑魚妖怪程度なら氷の弾幕で追い返したりしていた。

大ちゃんも妖精にしては少し強い程度の強さだったが、彼女達がいるおかげで妖精から悪戯をされずに済んでいる。

 

「ユウキも飛べればもっと早く行けるんだけどなー」

「仕方ないよチルノちゃん。ユウキさんは外の人間だもん。博麗の巫女とか慧音先生みたいには行かないよ」

「お前らは飛べるんだから、とっとと行った方がいいんじゃないか? 寺子屋に遅れるぞ」

「大丈夫! あたい達は大抵お昼食べてから行くから、これくらいならちょうどいいもん」

 

本当は1人で行きたいんだが、それをこの子達に言っても無駄だろうな。

この子達の目は打ち止めやアニェーゼ達に似てる気がする、似ているからって何を期待するわけでもない。

それに、例えどんな目で見られても結果は変わらなかった。なんて、いらない感傷に浸っても仕方ないのにな。

1人になりたいから博麗神社から出たと言うのに。

 

「……やっぱ1人になるべきだったな」

「えっ?」

「なんでもない」

 

それから2人の他愛無い会話を聞きながら、森の中を進んでいった。

チルノや大ちゃんには妖精以外にも友達がいるらしく、色々教えてもらった。

人食いだけどなかなか食えないルーミア、ホタルの妖怪リグル、八目鰻屋をしている雀妖怪ミスチー。

友達の話をする時の2人はすごく楽しそうだった。

美鈴が紅魔館の人達を話す時のように、彼女達の事をとても大切に思っているのが良く分かった。

それが……とても羨ましく、妬ましく、少し悲しかった。

 

「そーいえばさ、ユウキって外ではどんな事してたの?」

「私も知りたいです」

 

今の俺に一番困る質問をされた。紫や文のような警戒心を奥底に秘めた目ではない、ただの子供の好奇心から来る質問。

適当に誤魔化すか、こんな子達に聞かせる話じゃないしな。

 

「おや、チルノと大ちゃんじゃないか」

 

そこへ聞き覚えのない声が空から聞こえてきた。

 

「あ、けーね先生だ。やっほー!」

 

チルノと大ちゃんに手を振りながら降りてきたのは長髪の女性で、頭にはどっかの大学教授でも被っていそうな形をした帽子をしている。

飛んではいるが、人間……ではなさそうだな、何か別の力を感じる。ま、どんなのがいても不思議じゃないか。

俺の幻想支配は他人の力を感じる事も出来る。目の色が変わらないから、力を使っても別にバレル事はないと思う。

 

「2人共今から寺子屋に行く所だったのかい? おや君は……ユウキ君だね? ちょうど良かった、博麗神社に行ったら、君はもうどこかに行ってしまったと聞いたのでね」

 

昨日助けた子を探しに来た人が、確か慧音という教師だったな。

慧音は、美鈴とはまた違った聞く者を安心させるような、ゆったりとして芯の強い声をしている。

なるほど、まさに教師らしい人だ。

 

「ここで立ち話もなんだから。人里へ行こう、飛べないなら私に捕まると良い。これでも人一人くらいは一緒に飛べるさ。チルノと大ちゃんも一緒に飛んで行こう」

 

美鈴の時とは違い、彼女は手を差し伸べるだけで強引に連れて行こうとはしなかった。

ここは、掴んだ方がいいのだろうか? それとも慧音にチルノと大ちゃんを任せ、自分は景色を見ながら行くと言えば1人になれるかも。

いや、ならば私も歩こう。と言いそうだな。

 

「……よろしく」

「あぁ、すぐに着くから辛抱してくれ」

 

手を掴まれたまま空を飛ぶ。チルノ達も後ろに続いて空を飛んでいる。

 

「空を飛ぶ感覚はどうかな? 機械で飛ぶ事はあっても、生身で飛ぶ事はないのだろう?」

「一応飛んだ事はある。数回」

 

一方通行の力でロケット噴射のように飛んだり、美琴の力でグライダーのように滑空したりもしたな。

垣根の力を使った時は面倒だったな、色々と。

待てよ? もしかしたら俺も飛べるようになれるかも? 今度試してみるか、今は止めておこう。

 

「ほう、それは少し意外だな。君は何か能力でも?」

「ま、そんな所だ。でも今は飛べないな」

「そうか」

 

慧音は、それ以上何も聞いては来なかった。

 

 

やがて、森が開けて人里らしい集落が見えてきた。

コンクリート固めの無機質な家ばかり見てきた俺には、藁や木などで出来た家はすごく新鮮だった。

まるで時代劇がそのまま目の前に現れたかのようだ。

 

「ここが人里だ。外の世界から来た君には古風だろうけど、良い村だよ」

「あぁそうだな。博物館や図鑑で見た昔の日本がそのままある感じだ。何か温かい感じがするよ」

「そう言ってもらえると嬉しいな。さて、話は寺子屋でしよう、こっちだ」

 

人里の中を歩く。慧音は道行く人に挨拶をされて、丁寧に返している。

 

「おっ、チルノに大ちゃんじゃないか、これからお勉強かい?」

「うん、寺子屋でおべんきょー!」

「そうかいそうかい。あ、これ良かったら食べなよ、飴だよ」

「ありがとうございます!」

 

チルノや大ちゃんも知っている人が大勢いるようだ、しかも人気者だ。

他にも明らかに人間ではない見た目の少女などが、ちらほら村人たちと会話をしていた。

妖怪と人間が共存する楽園。人間中心の里でも妖怪や妖精は差別されずに、受け入れられている。

 

「本当いい所だな、ここは」

 

俺みたいな奴でも、受け入れてくれるかな。

 

 

 

「ここが寺子屋だ。さぁ入ってくれ」

 

昔の学校、寺子屋。古風な建物で年季も入っているが、立派な建物だ。

 

「チルノと大ちゃんは先に教室に行っていてくれ。他の皆は午後から来る事になっているから、しばらくは遊んでいても構わないよ」

「うん! ユウキ、後でねー」

「またね」

 

2人と別れた俺は、慧音に客間に案内された。

 

「さてと……まずは」

 

正座した慧音はまず俺に向けて、深く頭を下げた。

 

「昨日は梨奈、あの子を助けてくれてありがとう、心から礼を言うよ。梨奈の家族も君にお礼をしたいそうでね。夕食に招待したいと言っていたんだ、後で案内しよう」

 

あまりに丁寧過ぎる慧音の態度に、困惑しながらも俺は言った。

 

「待て、礼を言うのは俺じゃない。霊夢にだろ? 俺は気絶したんだし」

 

そうだ。俺は助けていない、霊夢がいなければどうなっていたかは分からない。

妖怪を倒せても梨奈に怪我を負わせていたかもしれない。

 

「勿論霊夢にも御礼をしたさ。けど、最初にあの子を助けたのは間違いなく君だろ?」

「目の前で女の子が食われる姿見るのは気味が悪いからな、自分のためさ」

「例え、君がそう思っての行動だとしても、結果的に梨奈は助かったんだ。その礼は素直に受けておくべきだと思うよ? それに君は梨奈を背負って走っていた時も、必死に呼びかけていたそうじゃないか。大丈夫だ。絶対守るからしっかりつかまっていろ。と、そのおかげで梨奈はあまり怖くはなかったそうだよ?」

 

……何もかも見透かされたような目、この目はチルノ達以上に苦手だ。

 

「……後で案内してくれ。けど、過ぎた礼は受け取らないぞ?」

「ふふっ、分かった。それで、霊夢から君はしばらく帰れないと聞いたが、それまではどこに住むつもりなんだい?」

 

どうやら、俺が世界に捨てられた事は霊夢も言っていないらしい。

しばらく帰れない、しばらくしたら帰れるかもしれない……なんて甘い幻想は抱かないが。

 

「金はあるが、それは外の世界のお金でここでは使えない。だから仕事と住む場所を探しに人里に向かっていたんだ。外の世界じゃまだ学生でロクに働いた事はないが、力仕事は結構自信があったから」

「ふむ……そうか、ならば寺子屋で働かないか?」

「はっ?」

 

俺が学校で働く? あまりに考えていない提案だったので思わず間抜けな声をあげてしまった。

 

「聞いてただろ? 俺は学生だ、物を教わる学校に通ってたんだぞ? 子供相手だからって物は教えられない」

「いやいや、何も教壇に立てとは言わないさ。ただ事務作業を手伝ってほしいんだ。1人で全てやっていたからね、人手が欲しかった所なんだよ。たまに親友に手伝ってもらってはいたけどね。寺子屋には空き部屋がある、そこを部屋代わりに使ってくれて構わない」

 

正直、嬉しいというか美味しすぎる提案だ。慧音は誰かを利用したり陥れたりするタイプではないだろうが……

 

「素直に受け入れられない。と言った顔だな? これは親切が過ぎたかな」

「いや、ただ会って間もないのにそこまで親切にされる謂われはない。と言うだけだ」

「ではしばらく他の仕事や住居が決まるまで私が貸す。と言う事でどうだろうか?」

 

それを聞き少し考えた。確かに学校の裏方ならあまり人に関わらずに仕事が出来るかもしれない。

が、チルノや大ちゃんみたいな好意的な子供ばかりではないだろうし、見ず知らずの外来人がいるとなれば子供の親も心配かもしれないが……その時は去ればいいか。

 

「どうやらあんたよほど人の世話をするのが好きみたいだな」

「悪人の世話までは焼かないつもりだが?」

 

皮肉にも笑顔で答える。オルソラ2号かこいつは……

 

「はぁ……分かった。しばらく世話になる」

「よろしく頼む。早速だが、午後からの授業に一緒に出て、子供達を見てほしい」

「……は?」

 

裏方の事務と言っておきながら、いきなり授業の手伝いとは。なんだか嵌められた気分だ。

 

「これから住み込みで先生の手伝いをしてもらう、ユウキさんだ」

「ユウキだ。よろしく」

「見た事ない服だ!」

「あったかそう!」

 

特に無難な挨拶をしたつもりだけど、子供達は眼をキラキラさせて俺を見ている。

 

「ユウキは外来人だ。だからと言って物珍しそうにジロジロ見るんじゃないよ?」

「「「はーい!」」」

 

元気よく返事をする中に、チルノと大ちゃんがいた。2人共こっちにしきりに手を振っている。

他にも明らかに人間じゃない子もいるが、それでも人里の子と自然に溶け込んでいる。

なるほど、外来人ごときじゃ心配しないって事か。

 

「では早速だが……」

 

授業が始まるようだ。俺は教室の隅の椅子に座り見学をした。

授業内容自体は小学校レベルの算数や国語、歴史を主にやっている。と言っても小学校には通った事ないけど。

慧音はとても真剣に教えようとしているが……なんだろう、内容は小学生レベルなのに、高校レベルの授業に感じる。

しかも、小萌先生や黄泉川先生の方がわかりやすい気がする。

 

「……キュゥ」

「だ、駄目だよチルノちゃん、寝たら怒られるよ」

「だって、言ってる事よくわかんないんだもん」

 

チルノが退屈そうにするのも無理はないかもな。

 

その後、授業で使う資料作りなど裏方の仕事を教わり、早速別室でやろうとしたのだが、今日一日は授業の見学をしてくれと言われ、渋々付き合う事になった。

 

「では、これで今日の授業は終わりだ。みんな、ユウキさんは人里が初めてなんだ。見かけたら色々教えてあげてくれ」

「「「はーい!」」」

「………」

 

俺はガキか!? まぁ、子供だけど。

 

その後も慧音の授業を見学しつつ、子供達の話相手をした。

あまり愛想よくしてたつもりはないが、適当にあしらってたのが返って子供の好奇心に火を付けたらしい。

一方通行みたいな無愛想さを身につけたいな、ホント。

 

「で、どうだった? 寺子屋の授業は」

「慧音は先生より、研究者の方が向いていると思う」

「そうか、私は歴史書の纏めなどもしているからな。研究者と言うのも間違いではないな」

 

遠回しな嫌味だったんだが、通用しなかった……

 

 

「娘を助けていただいてありがとうございました」

 

気は進まなかったが、昨日狼に追いかけられていた少女、梨奈の家に2人で行った。

本来は梨奈も寺子屋に通っているが昨日の事もあり、今日は一日家で安静にしているそうだ。

そして、梨奈の家に着き出迎えたのは母親らしき女性とお手伝いさん、どうやら人里の中では割と裕福らしい。

来るまでもそうだったが、昔風の服装と言うのは新鮮だな。田舎の方ではこういう服装している人もいるみたいだが、あいにく日本の田舎には行った事がない。

 

「あ、お兄ちゃん!」

 

続けて、小さな女の子が走ってきた。昨日は暗がりでよく見えなかったが、大体最愛や涙子と同じくらいの年頃か……

って、さっきから学園都市の奴らばっか頭に浮かぶな。早く忘れないと。

 

「ん? どうかしたか、ユウキ君?」

「なんでもない。それより身体は大丈夫なのか、梨奈……だったよな?」

「はい! 御咲梨奈(みさき りな)です! 昨日はありがとうございました!」

 

 

ここまで礼儀正しく御礼を言われるとは、少し困った顔をしたら隣にいる慧音が不思議そうな顔をしていた。

 

「あ……梨奈、それに家族の人も。俺は昨日たまたま近くにいただけで実際助けたのは霊夢なんで、御礼は博麗神社にして下さい」

「それも慧音先生から聞きました。けれどもユウキさんがいなければ、梨奈はその前に食べられていたでしょう。ですからあなたも梨奈の恩人です。さぁさぁ、主人も奥で待っていますし、お二人ともどうぞ」

 

またか、また俺を恩人扱いか。別に今までしてた事と変わらない、変わらないはずなのに……どうしてこうも違うのかな。これが普通だと言うのなら……今までは。

 

「ほら、いこっ、お兄ちゃん」

「あ、あぁ……分かったよ」

 

それからも、梨奈の家族と共に楽しい夕食会になった。

明るい暖かな家庭は、俺には火傷するくらい熱かった……

 

 

「では、私の家はすぐ裏だ、何かあれば呼んでくれ」

「女性の就寝を邪魔する趣味はないさ」

「ふふっ、そうか。おやすみなさいユウキ君」

「あぁ……おやすみ、慧音」

 

寺子屋の部屋に案内された後も、慧音は何も尋ねてはこなかった。

でも、気付いてはいると思う。時折心配そうな表情で何かを尋ねようとはしていた。

俺はそれに気付かないフリをした。

 

「ここは優しすぎる場所だな。そして、世話焼きの馬鹿が多い。居心地がいいと言えるのか、言えないのか。分からないけど学園都市より腐った連中はいなさそうだな。あのクソババアの依頼を聞く必要もなくなったし、それが一番良かった事かも。なぁ、お前、俺の事忘れるのはいいが、代わりに当麻や一方通行達に面倒ふっかけてないだろうな 【木原尼視(きはら あまみ)】 」

 

月に向かってそう呟き、静かに目を閉じた。

 

――――――――――――――――――――

 

彼、ユウキ君の心はとても暗い。表面上では他者を気にかけているが、それのせいで自分を傷つける事を彼は気付いているはずなのに。

 

「妹紅も、最初はああだったな」

 

自分の部屋で月を眺めながら、不老不死の親友と出会った頃を思い浮かべる。

他人を信用せず、頼らず、壁を作り、手を拒む……そんな悲しい人生を送っていた親友を。

でも、彼は彼女とは違う。住んでた世界に拒絶され、忘れられ、捨てられ……それでも他人に手を伸ばせるお人よし。

いや、普通なら心が壊れるくらいなのに、平然と運命を受け入れているかのような異端者。

 

「彼の傷は、ここで癒えるといいのだが。さて明日は少し豪勢な朝食にするか、よし!」

 

そう決意し、私は眠りについた。

 

が、その時に異変に気付くべきだったのかもしれない。

 

さっきまで眺めていた月が

 

血のように赤い霧で、染まって行く事に。

 

 

 

続く

 




プロローグ終了!
次回からは ≪紅霧異変編≫ の始まりです。
原作とは少し違った流れになるかと思いますがご了承ください。

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