幻想支配の幻想入り   作:カガヤ

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過去編Ⅱ:絶対能力進化編です


過去編Ⅱ
第64話 「木原」


8月10日  某所

 

 

俺は今非常に重たい足取りで、とある収容所の廊下を歩いている。

この廊下の先に、1人の女が待ちかまえていた。

 

「やーっと来たのか、随分と待ちくたびれたわね」

 

歪な形をした格子の先に体中に包帯が巻かれた女、テレスティーナ=木原=ライフラインがいた。

手錠も拘束もないが、右足と右手にギブスをはめている。

まぁ、こういう姿にしたのは俺と美琴なんだけどな。

 

「随分会わない間に面白い格好してるな、顔芸の次はコスプレに目覚めたか? 痛々しすぎて目も当てられないけどな」

「そういうあんたも随分と面白い顔つきになってきたわね。いえ、これは予定通りなのかしら? 木原殺しのヒーローさん?」

「木原殺し、今回はその名の通りに出来なくて心底残念だ」

 

こっちの皮肉も涼しい顔で返してくる。

直接会うのは数年ぶりだったけど、やっぱりあのクソジジイの孫だけはあるな。

 

「木原勇騎、木原であって木原ではない木原。木原を殺せる要素として 【ヒーロー】 の属性を付与されてきた。こいつに殺された木原は10人以上。最近では幻想殺しとの接触によりその属性を更に強化させている……くっくっくっ、よくもまぁこんなカイブツを育てたもんだな、尼視のババァは」

「ヒーローは殺しなんて手段を選ばないし、選択肢にも浮かばない奴の事を言うだろ。お前らが勝手に俺をそう呼んでいるだけだ」

 

そうだ。ヒーローと言うのは当麻みたいな奴の事を言うんだ。俺なんかじゃない。

 

「で、そのヒーローさんが今回私を殺す手段として選んだのが。レベル5第三位超電磁砲を取りこむって事? あんなモルモット共をよくもまぁあそこまで使いこなしたものね、流石は木原」

 

モルモット、か。確かにそうかもしれないけど、だけど……

 

「俺やお前みたいなクズよりはマシだろ? それにそんなモルモットに負けたお前は、一体何だろうな? 後、今回俺は棚から牡丹餅でお前を捕まえたんだ。取り込んだわけじゃないし、そもそもそういう考えが通じない世界の人間だぞ美琴達は?」

 

コイツを今回捕まえたのは運が良かった。

普通なら殺す事も捕まえる事も出来ないはずだった。

それが数週間前に起きた木山春生の元生徒を使った実験で乱雑解放事件なんてモノを引き起こした。

あげく美琴達とトラブルを起こしたばかりではなく、大げさに部隊を展開し駆動鎧まで出動させた事で俺が介入出来るようになった。

とはいえ俺は錬金術師とか言うフザケタ魔術師と戦ったばかりだったってのに、面倒事起こしやがってこのババァ。

 

「ふーん。暗闇の五月計画の被験者にもかなり気にかけてたようだし、まさかあんたが年下趣味だったとはねぇ。これは傑作だ、あっはっはっはっ」

 

暗黒の五月計画、最愛と海鳥の事か。

別にそこまで気にかけてはいないけどな、海鳥は今何してるか知らないし。

 

「そんな趣味はねぇよ。ただ俺の周りにいるのはろくでもないババァとジジィだけだからな。その反動だ」

 

ホント、裏側にはロクな大人いないからな。

 

「で、そろそろこんな所にきた本題を話したらどうなのかしら?」

「本題か、なら単刀直入に聞くぞ。木原幻生はどこにいる?」

 

その名を口にした途端、今までへらへら笑っていたテレスの顔つきが変わった。

 

「……あのジジィはお前が殺しただろうが?」

「いや、死んでなかった。確かに俺が殺したが……生きていた」

「へぇ~死んで逃げるとは、流石にしぶといじゃねぇか」

 

この反応。テレスはそこまで深くはしらないな。

実の祖父なのに随分と……ってそんな情を期待する方がおかしいか。

ま、コイツからアイツの情報を得られるとは思ってないけど。

 

「時間の無駄ってわけか」

「そういう事。じゃ今度はこっちの質問にも答えてもらおうか……ギブアンドテイク、それくらいはわかるだろう?」

 

聞き入れる理由はないが聞いてやるか、コイツも誰かと話したいのだろうし。

 

「その哀れんだ目を止めろ! ちっ、お前……あのレールガンをこっち側に引きこませないようにしてるな?」

「あぁ、そうだ。美琴はレベル5の中で唯一こっち側を知らないからな。知らないままでいればいいさ」

 

操祈や軍覇も暗部の事知ってるけど、美琴は違う。

全く何も知らない。知らないなら、知らないままの方がいい。

勿論、レベル5である以上いずれは嫌でも知ってしまうだろうけど……まだいいはずだ。

 

「ぷっ、ふふっ、あーっはっはっはっはは! こいつは傑作だ。お前のそういう甘さは相変わらずだなぁ、勇騎?」

「安易に想像出来たリアクションどうも」

 

俺だってこういう甘さを自覚してる。

 

「けどよぉ。お前だって分かってるだろ? 学園都市で生きるには闇に呑まれて無知なモルモットとして生きるか、闇に使ってぶっ壊すか、それしかねぇんだよ! それにもうあのモルモットは手遅れさ!」

 

それを聞いて今度は俺が笑う番だ。

 

「……ぶふっ、んくっ、ははっ……くくっ、あははははっ!」

「何がおかしい?」

「だ、だってよ……くくっ、その、ドヤ顔で闇だなんて……はははっ、あーおかしいったらねぇな!」

 

心の底から笑ったのは久々な気がする。

よりにもよってこんな奴が学園都市の闇を語るだなんてな。

 

「ふふっ……い、いいか、学園都市の闇なんてのはな、てめぇみたいな三流木原が語れるほど浅くはないぞ?」

「……何?」

「ましてや、ドヤ顔で……闇っ、キリッ! だなんて、お前何十年遅れの中二病だ?」

「言ってくれるじゃねぇか、紛い物の木原の分際でぇ!!」

 

さっきまで俺の言葉に無反応だったのに、これくらいの挑発に簡単に乗るようじゃやっぱ三流だなコイツは。

 

「勿論、俺だって学園都市の闇を分かっているわけじゃないさ。いや、俺だけじゃない、てめぇも尼視のババァでさえも学園都市の闇だなんて全部理解しちゃいない……だから、うかつに言葉にしないんだよ。この三下!」

「うぐっ……」

 

もうこいつと話す事はない。もう一つの用事を済ませて帰るか。

 

「てめぇがそんな三下だから……こうなるんだよ」

 

俺は懐から小さいボールを出して、素早くテレスに向けて投げつける。

 

「っ!? なんだこりゃ? は、離れない!? まさか、このクソガキ!」

 

テレスはとっさにボールを左手で掴んだが、それは間違い。

ボールはテレスの手にピッタリとくっついて離れない。

 

「お前、俺が何なのか、さっき自分で言ったのにもう忘れたのか? 俺は木原であって木原ではない木原、木原を殺す木原……昨日は美琴達の手前、本業はせずに捕えただけだけど……今は遠慮する必要あるか?」

「ちぃっ!」

 

テレスは咄嗟に壁や天井に目を向けた。

やっぱどこに隠しカメラが付けられているか把握してたか。

 

「もう1つお前が忘れている事がある。それは俺の得意分野、ハードではなく、ソフト開発。施設への侵入・暗殺・破壊工作に必要なスキルの特化、特にハッキングに関しては、そこいらの電気能力者以上だって事」

 

ここの監視カメラなんてとっくの昔にハッキングして俺の思うがまま。

警備員も監視員も席を外している。

つまり、ここで俺が何をしようが、すぐには外部に漏れない。

 

「クソガキィ! てめぇ、私を殺しに来たか!」

「俺が木原幻生の事を聞く為だけに、わざわざお前なんかに会いに来ると思うか? お前が本当の事しゃべるとはおもえねぇし、精神操作対策もしてるだろうし」

 

幻生が生きていると話した時の反応を見れば、それで良かっただけだし。

 

「な? お前の存在価値なんかないだろ? むしろ目障りだし、殺せるうちにとっとと殺すに限るよな? 俺がお前を殺せるわけないと安心しきって油断して、ばっかだよなー」

「くそっ、このぉ!」

 

さっきまでの余裕の表情とはうって変わって、汗をかきながら俺を睨んできている。

左手に着いたボールを必死にはがそうと、格子や壁に叩きつけている。

殺す気ならもっと早くやっていただろうから、俺はテレスを殺せないと踏んでいたんだろうな。

 

「あーそういう事しない方が身のためだぞ? 使えない右手でどーにかするしかないんじゃないか? ま、もう時間ないけど……じゃあなぁ」

「お、おい! まちやがれ、これを外せぇ!」

 

涙目になりながら、それでも懇願するわけでもなく命令口調で叫ぶテレスに一瞬だけ目をむけ、俺はその場を後にした。

 

「クソガキっ、外せ、くそっ、やめろ、やめろぉ~!!!」

 

――ポンッ

 

後ろでテレスの絶叫と、間の抜けた音が聞こえ、辺り一面が急に静かになった。

 

「どれどれ。おぉ~こりゃ効果は抜群だったな!」

 

スマホを取り出しリアルタイムでの独房の映像を見ると、そこには涙を流して気が狂った顔をしたテレスティーナが白目をむいて失神しているのが映し出されていた。

その左手には可愛らしい兎の人形が飛び出たボールが握られている。

 

「この映像は後で尼視や他の木原に売りつけるか……あ~あ~ぁ、ホントに爆弾でふっ飛ばせたらなぁ」

 

本気でテレスを殺す気でいたけど、止められた。

テレスはまだ利用価値があるからと言う事だけど、実際の理由は分からない。

だからせめてもの憂さ晴らしにと、わざわざ俺がきて根回ししてイタズラをしたと言うわけだ。

少なくともテレスは学園都市の誰かに生かされてるって事、これで思い知らされただろうな。

 

それから、留置所を後にして隠れ家の1つに行き、昨日消耗した武器や弾薬の補充をしながら一息ついた。

備え付けのベッドに身を投げ出し、ここ数日の出来事を思い浮かべた。

 

「それにしても、アイツもう手遅れとか言ってたな。まだ何か美琴に仕掛けているって事か? うーん。ま、いいか」

 

別に何かやばそうな仕掛けだったら、その時にどうにかすればいいし。

俺がどうにかしなくても、美琴達なら何とかしそうだし。

 

「今はともかく……少し休むか」

 

一昨日は当麻と捨て犬……ステイルと一緒にアウレオルスと言う錬金術と戦い、昨日はテレスの駆動鎧部隊と戦った。

 

「アウレオルスとの戦いで幻想支配を使わなきゃ、昨日はもっと楽に行けたんだろうけどなぁ」

 

まだ魔術を幻想支配で視る事には慣れていないので、昨日は使わずに戦わざるを得なかった。

最も、魔術を見たのはアウレオルスで2回目だからしょうがない事だけど。

 

「木原殺しの木原、か……」

 

俺は赤ん坊の時に学園都市で木原尼視に拾われた置き去りだ。

どういうわけか尼視が気紛れに俺を手駒にしようと、育て始めた。

これには他の木原達がすごく驚いたが、数年もたつと俺の利用価値を思い知る事になった。

俺に幻想支配という能力が備わっている事が分かったからだ。

その能力がいつから使えるようになったのか、それとも最初から使えてたのかは覚えていない。

ただ、学園都市で能力開発を受ける前にそれが開花した事で、俺は原石と呼ばれた。

それからは幻想支配の実験に付き合わされて、地獄のような苦しみを受けた事もあった。

幻想支配に目覚める前、俺がまだ幼い頃から銃やナイフを手に取り、人を撃ったり斬ったりもした。

身体がある程度大きくなると、重火器やヘリの操縦も覚えさせられた。

施設への潜入、ハッキング、暗殺、破壊工作……etc

俺は教えられた事は何でも覚えて、すぐに身につけて行った。

木原一族は一般的には科学者だが、俺は実験などを行う頭脳ではなく実働と言う分類に入る。

勿論、実験を参加したり企画をしたりもしたけど、肉体労働の方が専門だ。

特に、俺がやらされる暗殺や破壊工作、その中でも……木原を殺す事が俺の専門分野になっていった。

しかし、木原殺しとは言え、無作為に殺すわけじゃない。

他の木原や学園都市の統括理事会からの依頼があって、初めて俺は木原を殺す事が出来る。

これまでに殺した木原の数は14人。

いずれも外道とかマッドサイエンティストとか呼ばれるクズばかりだったが、俺が殺すべき理由は毎回まちまちだ。

木原一族への裏切りだったり、木原と言う情報を表に出そうとしたり、などなど。

 

「俺には関係ないけどな、木原を殺せれればそれでいいし」

 

俺は木原が憎い。それは多分、尼視に拾われた赤ん坊の頃から抱いていた感情。

理由は分からない。そもそも、理由があるのかすら分からないが、俺は昔から木原と言う物が憎かった。

そんな俺が木原殺しの為に調整されたのは必然だったのかもしれない。

そして、木原を殺す為、俺に施された処置の1つ、ヒーロー性の付与。

これは俺もよく知らないし、興味なかったので知ろうとした事もない。

ヒーロー性なんて言葉にすれば簡単だけど、どうすれば付けれるのかも分からないし。

ただ、俺が木原ではない木原、と呼ばれたり変わり者やら甘い奴と言われる事も自覚している。

それに、俺はヒーローと呼ばれるのは嫌いだ。

上条当麻、本物のヒーローの存在を1年前に食蜂操祈の一件で知った時からは特にだ。

 

「ダメだ。最近動いてばっかりだったから、落ちついて休むと変な事考えちまう」

 

俺はベッドから起き上がり、外へと出た。

いい加減腹も減ってきたし、何か食べに行くか。

そう言えば、最近は幻想支配使ってもそこまで腹が減る事はなくなったな。

 

 

 

続く

 




先週モンゴルでリアル紅霧異変が発生したそうですね。
写真見たらシャレにならないくらい赤くて驚きました。

レミリア「わ、私は何もしてないわよ!?」

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