幻想支配の幻想入り   作:カガヤ

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これにて妖々夢編終了です。


第63話 「目覚め」

誰かに呼ばれた気がした。

それが誰か思い出せず、必死で思い出そうとして……目が開いた。

 

「……ここは」

 

最初は自分が寝かされている事すら気付けず、頭だけを動かして辺りを見渡してようやく布団の中で眠っていた事に気付いた。

外から流れる空気が今までと違って暖かい。

どうやら幻想郷の長い冬もやっと終わったようだ。

 

「って事はここは博麗神社、か」

 

やがてここが博麗神社の自室である事に気付き、起き上がろうとしたが身体が動かせなかった。

かろうじて頭が少しあがる程度で、首から下は全く動かせない。

 

「参ったなぁ。流石にここまでは初めてだな」

 

フランの時みたく頭痛がないだけマシかと思ったが、全身が動かせないのだから今までで一番ヒドイ。

両手足は付いている感覚はあるが、まともに付いているのかもさっぱりだ。

そこで自分が西行妖にした無茶の数々が頭に浮かび、生きているのが不思議だと感じた。

 

「うーん、五体がまともに動かせないのは流石に初めてだな。骨が折れてるのかすら分からない」

 

死にかけた事は何度かあったけど、今回はその中でも1、2位を争うくらい瀕死の重傷だったって事か。

三途の河での出来事も覚えているし、あれが夢でない事も分かる。

俺は……まだ生きている。

 

「……そっか、生きているのか、俺」

「そうよ。生きているわよあなた」

 

何となく口にしてみただけだけど、誰かに聞かれているとは思わなかった。

声のした方に顔を向けると、そこに立っていたのはパチュリーだった。

相変わらず三白眼な目でこっちを見下ろしてるけど、その口元は僅かに微笑んでいるようだった。

 

「パチュリー、あれからどうなった? 霊夢や咲夜達は? 西行妖は?」

 

そう聞くとパチュリーはあからさまに大きいな溜息をついて、俺を睨んだ。

そしてなぜか小声で話すように言って来た。

まぁ、見た所早朝のようだから、大声出すと霊夢を起こしちゃうだろうからな。

 

「最初に知りたい事がそれなのね。本当にどうしようもないわね、あなた。まぁいいわ、まず今日で異変が解決してから丸一週間たったわ。西行妖は霊夢によって封印されてもう解ける事はないわ。と、同時に幻想郷の冬も終わったわ。と言っても雪が解け切ってないから本格的な春はもう少し先になるそうよ」

 

仕方ないな、異変解決の時も猛吹雪に見まわれたし、あれだけの雪が数日で全部溶けるわけがない。

それでも春の日差しと風になったのは分かる。

 

「で、みんなの状況だけど、一番ひどかったのは勿論あなた、手足は引きちぎれかけてて内臓もボロボロ、9割9分死んでいたわ。次に酷かったのが妖夢と咲夜ね。2人共手足をどこかしら折っていたし。で、魔理沙は軽傷、霊夢、紫、藍は無傷。だけど、全員が力の全てを使いきっていて消耗が激しかったわ」

 

咲夜と妖夢が酷かったのか……霊夢が庇ったとはいえ西行妖の攻撃を受けたからな。

ん? 丸一週間しか経ってない? 俺は瀕死の重傷だったのに?

 

「パチュリー、俺の怪我経った一週間でよくなったのか?」

 

身体は動かせないけれど、どこにも傷を負っている感覚はない。

フランの時でさえ目を覚ましたら傷はかなり残っていて、完治に数日かかった。

今回はあの時より重傷なのに、何かおかしい

 

「あぁ、その事ね。あなたの怪我は私とアリスが回復魔法かけたけど、あまり効果がなかったのよ。命が助かったのは妹紅が知り合いから貰った薬のおかげよ。その薬のおかげで咲夜も完治したわ。後で礼を言っておきなさい」

「妹紅が? そっか……パチュリーもありがとな。マフラーの件もだし、今回だけで2回も助けられた」

「べ、別に良いわよ。あなたが死ぬとレミィや妹様、紅魔館のみんなが悲しむから、助けただけよ……私だって、あなたに死んでほしくないし」

 

頬を赤くして言うパチュリーが何だか色っぽく感じたけど、言わない方がいいな。

俺の身体が動かないのは、その薬の後遺症と幻想支配の使いすぎが原因のようだ。

咲夜も薬を飲んで傷は治ったけど、丸一日布団から出られなかったらしい。

 

「で、聞きたい事は終わり? 私からは色々と言いたい事はあるけれど、それは彼女達から言ってもらう事にするわ」

 

パチュリーが俺の身体を後ろから起こしてくれた。そして、指さした方に見ると布団に寄りかかるように眠る霊夢と文、そして、少し離れた部屋の隅で正座して眠っている咲夜がいた。

 

「3人共、まさかずっと?」

「3人だけじゃないわよ。アリスと魔理沙は別室で休んでるし、美鈴やこぁも最近まで付きっきりだったわ。後は慧音や妹紅、チルノやら大妖精やら大勢が毎日来てたわよ」

 

どうやら、宴会の時にいたメンバーが毎日お見舞いに来ていたようだ。

どうしてここまで大事になるかな。

と、俺を支えていたパチュリーが後ろから抱きしめてきた。

 

「おわっ? 何だよいきなり?」

「黙ってて、霊夢達が起きちゃうわ。少し……このままにさせなさい」

 

背中と後頭部に柔らかいのが当たってるんだけど、それを指摘するのは……止めておこうか。

 

「んぐっ……良かった。本当に、目を覚まして……」

 

後ろを振り向かずとも分かる。パチュリーは俺を抱きしめながら、泣いていた。

 

「最初に瀕死のあなたを見た時、頭が真っ白になったわ。回復魔法も効かなくて、段々あなたの命が消えていくのが分かって……でも私にはどうにもできなくて、死んじゃうって思ったら、とても怖くなったわ」

「パチュリー……」

「妹紅の薬で傷が治って一安心したけど、あなたは全然目を覚まさなくて……」

 

それからパチュリーは俺の頭を自分の膝へと乗せた。

これって膝枕と言うやつか? 初めてで実感沸かないけど、枕よりも柔らかい……って当たり前か。

と味わったことのない感触に浸っていると、涙が俺の頬に落ちてきた。

見上げると目を真っ赤にしたパチュリーが俺を見て、また泣いていた。

 

「本当に、えぐっ……ひぅっ……良かった」

 

意識を右手に集中させて、どうにかその涙を拭いた。

ただ、誰かが泣いているのを放っておけなかった。

西行妖を倒そうとしたのも、妖夢が泣いているのを放っておけなかっただけだ。

 

「ユウ、キ……」

「ありがとな、パチュリー」

 

俺が改めて礼を言うと、パチュリーは初めて笑顔を見せてくれた。

その笑顔がとても眩しくて何だか頬が熱くなり、不意に顔をそむけると……

 

「…………」

 

障子の隙間から覗く小さな顔と目が合った。

こちらの様子を窺っていたのは、上海だった。

 

「……シャンハーイ」

 

とても小さな声だったが、その声は脳内に直接響くほど印象的な声だった。

どうやら怒っているような恨んでいるようなそんな声。

 

「シャン、ハーイ」

 

あ、今明らかにトーンと言うか声の出し方が変わった。

そして、上海はゆっくりと襖を閉めてどこかへ行ってしまった。

……きっとアリスに俺が目を覚ましたと 【それだけ】 を伝えに行ったに違いないな、うん!

 

「これはマズイ」

 

パチュリーは何だか顔が林檎のように赤くなって、ブツブツ言ってるけど何言ってるか分からない。

とにかくトリップしているのだけは分かる。

足元に目を向けると、幸い霊夢達はまだ寝ているようだけど、いつ目が覚めるか分からない。

 

「パ、パチュリー? そろそろ離れた方がお互いの為だと思うぞ?」

「……はっ!? そそそそうね。そうしましょう。うん、それがいいわね」

 

パチュリーが今の状況を把握して慌てて立ちあがったので、俺は頭を床にぶつけてしまった。

 

「~~~~!?」

 

すぐにパチュリーが再度頭を持ってさすってくれたけど、いきなりの事だし受け身も何もないので地味に痛い。

 

「あっ、大丈夫ユウキ!?」

「だ、大丈夫……」

 

パチュリーの声に何事かと霊夢達がようやく目を覚ました。

 

「朝からうるさいわねぇ」

「ぅ、ぅ~ん……何よ、パチュリー、ユウキさんがどうかした……ってユウキさん!?」

 

文はいつもと違った口調をしていたが、俺に目を向けカッ! と目を見開き飛びこんできた。

霊夢と咲夜も俺を驚いた表情で見てるけど、反応が遅れた。

 

「ユウキさん、ユウキさん、ユウキさん!!」

「むきゅっ!?」

「うごっ!? ちょっ、文。落ちつけ……く、苦しい……」

 

パチュリーごと吹き飛ばされそうなくらい、猛烈に突っ込んできたな。

後ろでパチュリーが支えてくれてなかったら外までぶっ飛んだかもしれない。

いや、それよりも胸を押しつけてくるな! 後ろのパチュリーと合わせてトンでもない絵になってるぞ!?

 

「あ、文……いいから、離れて、くれ……む、胸に押しつぶされる……」

「いーえ、もう離さない、離しませんとも! ユウキざん、良かった……心配じだんですよっ!」

 

途中から文は涙声になり流石に罪悪感が湧いてきたけど、息が出来なくなってきて命の危機もそれ以上だった。

 

「「離れろ、バ鴉!!」」

「あややややっ~!?」

 

次の瞬間、霊夢と咲夜が鬼のような形相で文を蹴り飛ばした。

そのまま襖をぶちやぶりそうだったが、咲夜が時を止めて襖を開けたようで文は無事にお空に帰って行った。

 

「あ、あははは……お、おはよう霊夢、咲夜。迷惑かけてごめんな」

「ぁ……お、おはよう、ユウキさん。迷惑だなんて、こっちこそ助けてもらった恩人だもの、ありがと……」

「……おはようございます。礼を言うのはこちらです。私達の代わりに戦ってくれたのですから」

 

俺が挨拶すると、2人は正気に戻ったようでバツの悪そうなにしながら、照れ臭そうに顔をそらした。

咲夜はいつものように瀟洒に挨拶を返したつもりだろうけど、少し冷や汗が出てるぞ。

 

「2人共、朝から元気ねぇ」

「う、うるさいわよ、パチュリー! 大体ユウキさんが目を覚ましたなら、私達を起こしてと言ったでしょ!」

「そうですパチュリー様、私達が起きるまで一体何をしていたんですか?」

 

2人がジト目でパチュリーを睨む。

流石は霊夢と咲夜、勘が鋭い

 

「な、何をって……し、診察に決まっているでしょ! 目を覚ましたからって完治には程遠いのよ。現にユウキは今身体を全く動かせないのよ」

「えっ、やっぱり薬の副作用? それとも力の使い過ぎで?」

 

霊夢も咲夜も診察と言う事で誤魔化せたけど、全くの嘘じゃないしな。

 

「その両方ね」

「やはり、そうなのですか。私は丸一日で身体の自由が戻りましたけれど、ユウキさんはどれくらいかかりそうですか?」

「大体最低でも1週間くらいは見た方がいいわね。それ以上かかるかもしれないわ」

 

一週間身体が満足に動かせないのか……

 

「長いな、身体がなまっちゃうぞ」

 

ぽつりとそう呟くと3人の表情が一変した。

 

「そういう問題じゃないわよ! あなたどれだけ無茶したか忘れたの!? さっきも言ったけど本当に死にかけたのよ!?」

 

死にかけと言うより、三途の河に行ったなんて言ったらどんな顔するかな。

絶対に言えないな、そんなあからさまな地雷。

 

「1週間でも短いわよ! と言うか、ユウキさんは完治するまで絶対安静、いい!?」

「は、はい」

 

思わず即答したけど、さっき文を蹴り飛ばした時以上の迫力だな、霊夢。

 

「霊夢の言う通りです! 絶対に安静にしててください。私がしばらくここに残って家事をしますので、ご心配なく」

「えっ、なんで!?」

 

咲夜の言葉に霊夢やパチュリーが反対するかなーと思ったけど、霊夢もパチュリーも特に反応はない。

どうやら前もって話はしていたみたいだな。

 

「私1人じゃ、ユウキさんに付きっきりになるのは無理だもの。咲夜に居てもらった方が色々助かるわ」

「レミィや妹様達も納得済みよ。と言うより、咲夜が言いだす前にレミィが言ったのよ。あ、私もここにいるわよ。咲夜よりは紅魔館に戻ったりはするけどね」

 

レミリア達まで承諾済か……って、パチュリーもかよ。

 

「当然、経過観察の為よ。誰かさんのおかげでこの100年図書館に籠って研究してた時以上に、回復魔法の腕上がっちゃったしねー有効に使わないと」

 

霊夢じゃ包帯も満足に巻けないでしょうし。と付けくわえると霊夢が何か言いたそうにパチュリーを睨んだけど、押し黙ってしまった。

まぁ、霊夢は昔から怪我や病気になった事ないから、看病なんて経験ないんだそうだ。

 

「よぉ、ユウキ目が覚めたんだな」

「おはよう、ユウキ。具合はどうかしら?」

 

そこへ魔理沙とアリスがやってきた。

上海はアリスの側に浮かんでいるけど、俺と視線を合わせようとしない。

何だかパチュリーを睨んでいる気もする。

 

「魔理沙、アリス、おはよう。2人にも迷惑かけた、ありがとう、それとごめん」

「礼はいらないぜ。むしろ、こっちが御礼を言わないとな」

 

そう言うと魔理沙とアリスは揃って俺に頭を下げた。

 

「おいおい、何もそこまでしなくたって……」

「いや、これくらいじゃ全然足りないぜ。ユウキがいなかったら私達は死んでいた」

「そうね。話は聞いたけど、あなたが無茶をしなければ私も、いえ、幻想郷がどうなっていたか」

 

魔理沙とアリスを見て、霊夢達も姿勢を正し改まって俺にお辞儀をした。

 

「れ、霊夢達まで、止めてくれって。そこまでされる覚えはないぞ? 逆に俺がそこまでしなきゃいけないのに」

 

身体が動いていれば、即座に土下座しただろうな。

 

「いいえ、ユウキさん。あなたは私の命を救ってくれたわ。それにあなたがいなければ西行妖を封印出来なかった。本来博麗の巫女である私がすべき事を、払うべき犠牲を……あなた1人に背負わせてしまった。ありがとう、そして、ごめんなさい」

 

普段の霊夢からは想像も出来ない程、凛とした振る舞い。

博麗の巫女として礼を言ったのだろうな。

 

「ユウキさん、申し訳ございませんでした。私はサポートをする為に付いて行ったはずなのに、結局何も出来ず逆に助けられてしまいました……このご恩、一生忘れはいたしませんわ」

「妹様の時も、今回もあなたは無茶ばかりしたわね。でも、その無茶をしなければ、もっと酷い事になっていたのは確実。だから幻想郷に住む者として、私はお礼を言いたいの。きっとレミィ達も同じ事をするわ」

 

か、身体がかゆくなってきた。

 

「だから止めろって。咲夜は十分に俺のサポートしてくれたし、咲夜がいたから俺は能力を使って霊夢を助けられたし、西行妖とも戦えたんだ」

 

そう、咲夜の時を操る能力がなければ、きっと霊夢は救えず、西行妖の結界は突破できなかった。

まぁ……流石に結界を破る時は力のキャパシティがすこーーし足りなくて、無茶したけど。

 

「それにパチュリーはさっきも言ったけど、美鈴と作ってくれたマフラーのおかげで俺は助かったんだ。だからパチュリーが礼を言う必要はないさ」

 

そうだ。俺が礼を言われる筋合いは、ない。

その時だった。部屋の片隅で空間に筋が入りスキマが開いた。

 

「ふふっ、まぁ人の御礼は素直に受け取る物よ。おはよう、ユウキさん」

「おはよう、ユウキ君。礼を受け取らないとは君らしいと言えば、らしいな」

 

そこから出てきたのは紫と藍。

 

「おはよう、藍、それと紫。どうやら妖力は完全に戻ったようだな」

「おかげさまでね。あなたが魔理沙の砲撃で春の光と一緒に、溜めこんだ私達の妖力を解放してくれた時に、ってどうして私よりも藍に先に挨拶したのかしら?」

「人徳の違いだろ。今回の異変の元凶の件もだけど、お前が橙の猫達にしでかした事覚えてるしな」

 

そう言えばそうね。と霊夢と咲夜は思い出したかのように紫を睨んだ

 

「……意外と細かいわね」

 

扇子で口元を覆って誤魔化そうとしたけど、流石にマヨヒガの一件は悪いと思っているみたいだな。

藍も紫を睨んでるし。でもすぐにこっちに向き直った。

 

「君には本当に感謝している。幻想郷も幽々子様も助けてくれてありがとう。ここには来れない妖夢に代わって、礼を言わせてくれ」

「だーかーらー礼なんかいらないっての。そう言えば、妖夢と幽々子はどうしたんだ?」

「幽々子も妖夢もまだ寝ているわ。幽々子は消耗が激しいし、来たがっていたけれど妖夢は怪我がまだ治っていないから安静にさせてるわ」

 

俺や咲夜を治した薬を妖夢は受け取らなかったらしい。

自戒の為にコレは自然治癒に任せると言ったようだ。

 

「で、その報告か? それとも……俺を殺しに?」

 

俺の言葉に場の空気が変わった。

紫は目を細め、藍は困った顔をしている。

 

「どうして、そう思うのかしら?」

「……西行妖の一件で、俺の幻想支配がますます危険と判断したんだろ? 本人が無意識にかけてる能力のリミッターを自由に外して限界以上に引き出せると分かったから」

 

俺の言葉に紫から殺意と敵意が増したのが分かった。

それを見て霊夢や咲夜、パチュリー達も戦闘態勢になっている。

襖の向こうからはいつ戻ってきたのか、文の気配もする。

 

「……そう怖い顔しないで頂きたいわ。その天狗も入ってらっしゃいな」

 

紫が指を動かすと襖が独りでに開き、怖い顔をした文が手に持った扇を紫に向けている。

 

「あなたは信用できません。異変に関わるなと警告された時は素直に聞きましたが、もしユウキさんを殺すならば……私は容赦しません」

「私も同じよ。あんたが警戒を強めた理由は分かるけれど、だからと言って同意すると思わないでね」

「もし、ユウキさんに害をなすならば……」

「紅魔館を敵に回すと思いなさい。これは紅魔館の総意でもあり、レミィからの伝言でもあるわよ」

 

霊夢や咲夜達だけでなく、魔理沙とアリスもそれぞれの武器を構えている。

俺は警戒こそすれど、全く身体が動かせず幻想支配も使えないので何も出来ない。

 

「霊夢達はともかく、あなた達まで見抜いていただなんて意外ね」

「ユウキの事が心配なのも理由の一つだけど、お前の事も私とアリスがここに居る理由の一つだぜ?」

「そう言う事よ。彼をむざむざと殺させはしないわ」

 

魔理沙やアリスの警戒の仕方を見ると、俺が寝ているこの1週間の間に紫は何度か俺を殺す機会を窺っていたのか?

 

「さっきは別に冗談で言ったわけじゃないけど、俺を殺す気ならわざわざ正面からは来ないよな?」

 

紫はそれを聞き、ゆっくりと口元から扇子を離し敵意と殺意を解いた。

霊夢達はまだ警戒しているけれど、それでも場の空気が少しは和らいだ。

 

「……あなた相手に回りくどい真似は逆効果になるわね。そうよ、あなたの言う通り、幻想支配の危険性が増してすぐにでも排除しようと思ったわ。けれども、排除した時のリスクも幻想郷を滅ぼすくらい大きい事も事実。なので……まだしばらくは様子見をさせて頂くわ」

 

つまり現状維持ってわけか。

 

「それにこれでも親友を救ってくれた恩義も感じているのよ? 不意打ちや暗殺もどきで排除するのは、流石に心が痛むわ」

「よく言うわ。どの口がほざくのよ」

 

吐き捨てるように言った霊夢の言葉に、この場の全員が同意したと思う。

 

「ふふふっ、これ以上ここにいると何されるか分からないから出直すわね。ユウキさん、西行妖と幽々子の事、心から礼を言うわ。感謝もしている。これだけは信じてね」

 

紫はそう言ってスキマの中へと消えていった。

続けて藍も俺達に頭を下げ、無言で付いて消えた。

やれやれ、これから何かある度にこう言う事が起きそうな気がするな。

 

別に、本当に俺の力がここでは危険だと言うなら、殺す事なんて構わないってのに。

 

 

 

 

「紫様、本当に彼を殺す気があったのですか?」

「そうね。7:3くらいで殺すつもりだったわ。霊夢や紅魔館の事は地底の連中の力を借りれば、抑えこめるでしょうし」

「……私には紫様が本当にユウキ君を殺せるとは思いません」

「あら、どうしてかしら?」

「西行妖に向かう彼を見ている時の紫様の表情を見れば、分かりますよ」

「……一体私がどんな表情をしてたのかしら?」

「霊夢達は気付いていないようでしたが、紫様はひどく動揺していました……まるで二度と会えないと思っていた相手を偶然見かけたような顔をしていました」

「……それは本当なの、藍?」

「覚えていないのですか?」

「私も少し疲れているようね。藍、この話は終わりよ……あなたもこれ以上追及はしないように、これは命令よ」

「はい、分かりました、紫様」

 

 

続く

 




霊夢回のはずが書き終えたらパチュリー回になってました。
ヽ(~~~ )ノ ハテ?

まぁ、いいか(ォイ
次回からは過去編Ⅱ絶対能力進化実験編です。

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