幻想支配の幻想入り   作:カガヤ

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東方原作キャラ続々登場ー

4/6追記:小町の映姫への呼称を修正しました……映姫様か四季様か迷ったんですよねぇ。


第62話 「私闘」

目の前には西行妖が張った空間をゆがませる結界。

さて、まずは咲夜の力でこれを突破するか。

 

「や、やめな、さいっ!」

 

背後で咲夜が何か叫んでいるが、無視した。

咲夜の時を操る能力を応用させて、空間の歪みを元に戻す。

 

「……邪魔」

 

右手で結界を打ち払う。

結界は風船が割れたように弾け飛んだ。

 

――プシュッ

 

と、同時に頭の血管が切れる音がした。

限界を越えて使えばこうなるのは当然か。

俺の幻想支配は本人が出来ない事は出来ない。

今回の場合、咲夜の能力なら確かに結界は破れるけど、肉体にかなり反動が来る。

多分、咲夜がこれ使ったら死んでいたかもな。

だけど、これで終わりじゃない。だから、この程度の傷、痛くもなんともない。

 

「ユ、ユウキさん!?」

 

霊夢が駆け寄ろうとしていたので、手で制した。

これくらいじゃ俺は倒れない。

箒と八卦炉を空中に放り投げ、次の力を使う。

魔理沙の魔力を全身に滾らせ、箒の穂先に八卦炉を付けるとその上に飛び乗った。

 

「ブレイジングスター」

 

ブースターとなった八卦炉が火を噴き、一気に最大加速する。

前のブレイジングスターなら真後ろが死角になっていたけれど、これなら八卦炉の火が攻防一体のブーストとなり背後からは狙えなくなった。

良い改良をしたな、魔理沙。

 

――ウォン!

 

西行妖も黙って俺の接近を許すはずがなかった。

今までよりももっと濃い弾幕を放ってきた。

流石にこの威力の弾幕はブレイジングスターも突き破ってくる。

 

「はぁっ!」

 

両腰の刀を抜き、魔理沙の魔力を通して強化する。

そして、その2本で弾幕を切り裂きながら進む。

刀を使うのは久々だったけれど、問題はない。

だけど、流石にこの物量の弾幕を全部かわしたり打ち払うのは無理だ。

弾幕が少しずつ身体を掠めて良く。

それでも俺は西行妖の周りを飛びながら、幽々子に斬りかかる機会を窺った。

 

「いや、ダメだ。このままじゃ斬れない」

 

これは直感。今白楼剣で斬っても、幽々子と西行妖の繋がりを断つ事は出来ない。

それほどまでに幽々子は西行妖に浸食されている。

ならばどうする? どうすれば幽々子を助けられる?

俺は妖夢に任せろと言った。それにあんなのを見せられたら、助けないわけにはいかない。

 

「おい、こら! そこのねぼすけ亡霊! とっとと起きろ! お前を呼ぶ妖夢や紫の声が聞こえないのか!?」

 

俺が幽々子に呼びかけると、西行妖の攻撃が激しくなった。

どうやら呼びかけは効果的らしいな。

 

「目を覚まして下さい、幽々子様! そんな妖に呑みこまれる幽々子様じゃないはずです!」

「幽々子! あんた西行妖に生前も死後も良いようにやられていいの!? そんなに諦めのいい性格じゃなかったはずよ!」

 

傷付いた身体をおして、妖夢が幽々子に叫んだ。

驚いたのが紫も大声で幽々子に呼びかけていた事だ。

紫と幽々子は知り合いのようだけど、あんなに必死な表情を見るのは初めてだ。

よっぽどの大親友だったのだろうか?

そんな事より、西行妖に沈みかかっていた幽々子が浮かんできた。

あと少しもうひと押しで白楼剣で斬れるはずだ。

 

「幽々子、妖夢があれだけ無理をしているのに、主のお前が根性見せないでどうするんだ!? とっとと目を覚ませ!」

 

弾幕をかいくぐり、ダメ押しとばかりに目覚めの一発を幽々子の顔面にお見舞いした。

 

「ゆ、幽々子様!」「幽々子!」

 

それがきっかけになったのか、それとも妖夢と紫の言葉が聞いたのか、今まで無反応だった幽々子からはっきりと声が聞こえた。

 

「ゆかり……よう、む……」

 

声だけじゃない。うっすらと幽々子の瞳が開いている。

意識もわずかだがあるようだ。

 

「今だっ!」

 

これを逃したら後がない。

残った魔力で垂直に飛び上がり、即座に妖夢の力に切り替え腰に差した白楼剣に手をかけた。

もう箒を操る事が出来ないけど、それよりも白楼剣に霊力を溜める方が先決だ。

 

「はあぁぁぁ~~~!!」

 

勢いよく箒を蹴り、幽々子に向けて飛び降りる。

そうはさせないと西行妖も弾幕を撃ってくる。

 

「てめぇの殺す為の攻撃なんか、面白くもなんともないんだよ!」

 

さっきまでのように自由に身体を動かしてかわす事はできないけど、少しだけなら空中でも姿勢を変えられる。

弾幕ではかわされると判断したのか、西行妖はさっき俺が食らった極大の光線を放とうとした。

流石にこの体勢でアレはかわせない。楼観剣で切り裂くか?

 

「させるか!」

 

と思ったら、魔理沙が箒を操り俺を乗せて運んでくれた。

おかげで光線は間一髪かわす事が出来た。

全く、残り少ない魔力で無茶をする……ま、俺が言えた事じゃないか。

 

「さんきゅ、魔理沙。うおぉぉ~~!!」

 

幽々子の正面に周ったところで箒を再度蹴り、西行妖へ突っ込む。

妖夢の霊力に呼応した白楼剣の導くがままに刃を振う。。

狙うは西行妖と幽々子の繋がりだ。

 

「幽々子様!」

 

狙い通り、西行妖にヒビが入り大きく裂け、中から幽々子が落ちてきた。

 

「紫!」

「分かっているわ!」

 

スキマ一回分くらいなら妖力が回復していると踏んで、紫に幽々子を任せたけど、大丈夫だったようだ。

幽々子はあっちに任せて、俺は次の狙いへ向けて力を使う。

右腰に差した楼観剣を抜き、妖夢の霊力を籠める。

この楼観剣は妖力を集中させて巨大な刃を作る奥義があるが、妖力の刃じゃ西行妖には通じない。

なので妖夢の霊力を使う事にした。

 

「はぁ~!」

 

次の狙いは、西行妖の弱体化と春の光の解放だ。

幽々子を解放したとはいえ、西行妖はさほど弱体化したようには見えない。

恐らくほぼ封印が解けた事で、幽々子の力はもう必要なくなっていたのだろう。

このままじゃ霊夢でも封印出来ない。

いや、仮に封印出来たと言っても溜めこんだ春の光までそのまま封印してしまう。

それでは意味がない。

 

「い、いけない! それ以上力を使えば、体が!」

 

妖夢が忠告してくるけど、そんなの聞いていられない。

コレを使えばどうなるかくらい、俺にも分かっている。

 

「迷津慈航斬・霊!」

 

巨大な蒼い霊力の刃を西行妖に振り下ろす。

流石にコピーした妖夢の全霊力を使ってもなかなか削れない。

少しずつ刃が食いこんで行くが、それと同時に俺の身体が反動で傷付いて行く。

両腕が使いものにならなくなりかけているけど、もう少しだけ耐えてくれ。

 

「ユウキさん、もういい。もう、離れて!!」

 

霊夢が何か叫んだが、もうあまり聞こえてこなくなった。

そして、妖夢の霊力を通して西行妖の妖力に一本の筋道が見えた、ここが斬れ目だ!

 

「おらぁ!」

 

その筋道にそって刀を力任せに一気に振り下ろす。

 

すると西行妖が纏っていた禍々しく赤紫色の妖力が大きく斬れた。

と、同時に俺の左腕が裂けた。これはもう使い物にならないな。

フランの時以上に重傷だけど、これでまだ終わりじゃない。

 

「まだ、まだぁ!」

 

再度魔理沙を視て魔力をコピーし直した。

もう両脚にも力が入らない。

ひざから崩れ落ちそうになりながらも何とか堪えて、右手に箒と八卦炉を引きよせた。

さっきのブレイジングスターのように箒の穂先に八卦炉をくっつけ、そのまま西行妖の裂け目に突っ込ませる。

 

「ま、まて、それは……その魔法は使うなぁ!」

「ファイナル・スパーク!」

 

自身の魔力と生命力の全てを一気に放出する、マスタースパーク以上の火力を誇る魔理沙の最大魔法、ファイナルスパーク。

本人としては未完成で封印していた魔法なんだろうけど、今のこの状況にはコレを使うしかない。

 

――ウッ、ウオォォーン!

 

「苦しいか? 地獄へは俺も付き合ってやるよ……」

 

西行妖が苦しそうに断末魔のような叫びをあげると、一面に咲いていた赤紫色の花弁が一斉に四方八方へと吹き飛んだ。

同時に俺のポケットに仕舞っていた巾着の中から春の光が一緒に飛び出していった。

 

「……これで、幻想郷に春が戻る。後は頼んだぜ、霊夢」

 

直後、西行妖で爆発が起こり俺は吹き飛ばされ、そこで意識が途切れた。

 

 

 

次に意識が戻った時、辺り一面が薄い霧で囲まれた川辺にいた。

 

「あ、あれ? ここはどこだ? 霧の湖……じゃないな」

 

ゆっくりと辺りを見渡してみたが、見た事もないような景色だった。

次に身体の具合を確かめたが、これもまた不思議で全身に傷が無いどころか服も着ていた。

 

「俺は西行妖の爆発に巻き込まれて……死んだのか?」

「半分はそうだね」

「っ!? 誰だ!?」

 

独り言を呟くと、すぐ後ろで声と人の気配がした。

ふり返ったけど、誰もいなかった。

プリズムリバー達のように幽霊かと思ったけど、確かに今感じたのは人の気配だった。

 

「ここだよ、ここ」

 

続けて声のした方を向くと、歪な形をした大鎌を担いだ赤髪ツインテールの女性が立っていた。

身長は割と高めだが、それより何より胸元を強調させる服装は……火織みたいなただの痴女か。

当麻が喜びそうな格好はしているな。

 

「やっ、はじめましてだね。私の名は小野塚小町、見ての通りの…「変態痴女」 そうそう、露出が高いのは私の趣味……って勝手に人を変態呼ばわりしないでくれないかい!?」

「今自分でその服装は趣味って言ったじゃないか」

「お前さんに乗せられただけだよ! 私は至ってノーマルなただのしがない死神だよ! これ見て分かんないのかい!?」

「随分と、使いにくそうな鍬だなぁーと思ったけど」

「いやいや、これで慣れると案外耕しやすいんだよ……ってだから違う! どっからどう見てもこれは鎌にしか見えないだろう!?」

 

うん、魔理沙並にノリやすい性格だな。

 

「はぁ、はぁ……全く、変わり者だとは知っていたけど、初対面でこんなに疲れさせられるとは思わなかった」

「うん、俺も目が覚めたら痴女死神がお出迎えしてくれるとは思わなかった」

「痴女は余計だって! で、お前さん私が死神と分かってて、やけに冷静だね? 普通は自分の状況とかにパニック起こさないかい?」

 

痴……小町に言われて自分の状況を再確認してみる。

手足は普通に動くし、古傷痕はあるけれどそれ以外の外傷は身体にない。

強いて言えば、身体がふわふわした感じがする。

それがおかしいと言われればおかしいけれど、別に騒ぐような事じゃないな。

 

「はぁ~……お前さんは今死にかけの状態で、肉体は博麗神社にある。今ここにいるのは魂だけって事さ」

「なるほど、死にかけ? 死んでないのか?」

 

てっきり死んだと思ったんだけどな。

ファイナルスパークの反動で右手の骨がいかれて、それから爆発に巻き込まれたんだし。

 

「まだ、死んでないよ。今紅魔館の魔女と門番、それに人形遣いたちが必死でお前さんを治療中さ」

 

そっか、パチュリーや美鈴達が俺を治療してくれているのか、これで2回目だな。

それでもほとんど助かる見込みなさそうだな……なら、早く死んだ方が彼女達も楽になると思うんだけど、自分の事とは言え、どうにもならないか。

 

「それともう一つ、私は確かに死神だけど、お迎えは専門外さ。三途の河の船頭をやっているよ。だからと言って、お前さんを運ぶためにここにいるわけじゃない」

「三途の河……つまりここは死後の世界の入り口って事か」

「死後の世界の入り口でもあるけれど、あっちに行けばそのまま幻想郷へと行けるよ」

 

小町が指さした先には、霧が晴れて見通しのいい道が続いているのが見えた。

 

「幻想郷と地続きか、まぁ、冥界にも生きたまま行けたし流石は幻想郷、何でも有だな」

 

もう何があっても驚かないかも。

 

「ん? なら小町はここで何をしているんだ?」

 

てっきり死んだ俺のお出迎えかと思ったが、違うようだし。

かと言って死にかけて、今にも死んじゃいそうな俺に何の用だ?

 

「お前さんと話すと疲れるが、なかなか楽しそうでもある。けど、今回用があるのは私じゃない。私は彼女の立会人さ」

 

小町が言うと、どこからともなく砂利を踏む音が聞こえてきた。

 

――ジャリ、ジャリ

 

「待たせたね、小町。彼が思ったより早くここに来たみたいで、ちょっと驚いたよ」

「あーそれは確かに。私ももう少し先かなーとは思ってたけどねぇ」

 

小町に親しげに話しかけながら霧の中から現れたのは、霊夢と似た巫女服を着た女性。

顔つきや髪が霊夢に似ているけど、目付きが鋭くかなり違う。

霊夢と同じく脇が露出しているが、黒いアンダーウェアを巫女服の下に着込んでいる点と、長く黒い髪をリボンで止めてない点が違う。

それより何より身に纏うオーラと言うか雰囲気がまるで違う。

霊夢は少女な感じがしたが、この女性は違う。

洗練された大人の女性がかもしだつ気配だ。

年齢は特に読めないが、そこまで年上と言う感じはしない……霊夢の姉か親戚のお姉さんくらいか?

確かに気配は人間だけれど、この感覚は火織やアックアに初めて相対した時、いや、それ以上の威圧感があるかもしれない。

でも三途の河原で会うなんて、幽霊? ではないな。ちゃんと彼女は生きている。

 

「初めまして、ユウキ君。まずは礼を言わせてくれ、西行妖の一件本当にありがとう。彼女達を救ってくれて感謝する」

「あ、いや、俺はただリリーホワイトに頼まれた仕事を果たしただけだ。あんたは霊夢や紫の知り合いか?」

「ふふっ、さて、どうだろうな? のんびり自己紹介と雑談と行きたいところだけど、どうやら時間がないようだから……用件だけ済ませよう、か!」

 

言うが早いか、離れた場所にいた巫女が、次の瞬間には目の前にいて拳を打ち込んできていた。

 

「っ!?」

 

驚きはしたけど、避ける必要がないとすぐに分かった。

拳は俺の目の前で寸止めされていた。

 

「ふむ、避けないのかい?」

「当てる気がないと分かったからな。あそこから一気に距離を詰められるとは思わなかったけど」

 

少し強がって見た。仮に反応出来たとしても、あのタイミングではかわすのも受け止めるのも難しい。

確かにこの巫女は人間だ。だけど、下手をすれば美鈴よりも強いかもしれない。

 

「おいおーい。いきなり物騒な事するねぇ、あんたも。まぁ、時間がないのは分かるけどさ」

「あははは。いや、でも避けようともしなかったのは、かなり意外だったよ」

 

この巫女も小町も何が時間がないと言うのだろうか?

俺がもうすぐ死ぬって事か?

 

「で、名乗りもせずにいきなりこんな事をしてきた理由は?」

「理由は簡単さ、君と拳を突き合わせてみたくなってね」

 

コイツも美鈴や幽香と同じくバトルマニアか?

 

「俺が受ける理由はないと思うけど?」

「理由ならあるさ。私を倒さなければ、君は生き返れない」

「……はぁ」

 

これはあれか? リリカと同じく特撮ごっこか?

 

「随分と間の抜けた返事をするもんだね。ま、今のは冗談さ。特に意味はない。ただ、今回くらいしか機会がなさそうだったからね。話をしてからやろうとかと思ったけど、こっちの方が早い。どうだい? 私の挑戦、受けてくれるかい?」

「はぁ……よくわからないけど、まぁ、いいか」

 

受ける理由も断る理由もないし。せっかくだから冥土の土産にするか……冥土の土産とは言わないか。

 

「ありがとう。では、行くぞ!」

 

巫女はペコリと頭を下げ、瞬時に貫手を放ってきた。

 

「くっ!」

 

どうにか顔を傾けてかわせたが、彼女の攻撃はそれで止まらず次々と貫手を放ってきた。

この貫手1つ1つがまるで鋭いナイフのようだ。木にすら貫きそうだな。

 

「ちっ!」

「どうしたんだい? かわしているばかりじゃつまらないだろう?」

 

反撃の隙がなかなか見えない。でも……

 

「たしかにこのままじゃつまらないな」

「むっ? うぉっ!?」

 

貫手を見切り、右手で掴むように受け止めそのまま反動を利用して投げ飛ばした。

 

「ははっ、そうこうなくてはな。じゃあ、次はこれだ!」

 

巫女は次に腰を深く構え、手のひらを突き出し掌底を繰り出してきた。

とっさに両手を交差させガードしようとしたが、頭の中で警鐘が鳴り響いた。

 

「やばっ!?」

 

何とか身体を捻り、その一撃をかわした。

 

――ボンッ

 

彼女の一撃はそのまま空を切った。いや、空を弾いたと言うべきだろうか。

 

「あのままだったらガードごと腕持っていかれたかもな」

 

あの巫女、とんでもなく強い。

彼女の攻撃はかわすか受け流すだけにして、受け止めるのは選択肢から外した方がよさそうだ。

 

「……君は打って来ないのかい?」

「お望みとあらば!」

 

右の拳を強く握り、彼女の脇腹を狙ったボディブローを打った。

しかし、彼女は簡単に左手で払いのけた。

ならばと左手で顎をアッパーで打ち上げようとしたが、彼女は右手で掴まれた。

 

「思ってたより良い攻撃だ」

「そりゃ、どうも!」

 

右の膝蹴りを放つ。これも彼女は左手で払いのけ、両手で掌底を放ってきた。

このタイミングではかわせない。

 

「ならば!」

 

こっちも両拳を強く握り、彼女の掌底に合わすように突き出す。

 

――ドンッ

 

拳と掌がぶつかり、辺り一面に打撃音が鳴り響いた。

何とか威力を相殺出来たけど、少し拳が痛い。

彼女はここで一端離れ、両手を軽く振った。

 

「いい、いいぞ。私も数多くの妖怪と戦ってきたが、君ほど手ごたえのある相手はなかなかいなかった」

「そりゃ、どうも。でも、俺より強い奴なんざ幻想郷にごろごろいるぞ?」

 

彼女と同時に駆け出す。

いつかの美鈴と戦った時のように両脚を交互に蹴り合った。

 

「ふっ、はっ、オリャ!」

「やっ、ほっ、せいっ!」

 

 

最初は上段蹴り、続けて中段、最後は互いに距離を置いてからの飛び蹴り。

結果は互角。互いの蹴りが交差し、反動で吹き飛ばされた。

 

「驚いたな。君、本当に人間かい?」

「その言葉、そっくりそのまま返すぜ! あんたこそ人間かよ?」

「ふふっ、そう言われたのも久々だな」

 

それからはただ黙っての打ち合いになった。

俺の右拳を彼女が左手で払いそのまま右の手刀を放てば、俺は手刀を同じ手刀で受け止める。

反撃とばかりに回し蹴りを放ったが、地に深く沈みこれをかわし逆に蹴りあげてきた。

顔を反らす事でかわすと、彼女は地面に手を付きそのまま連続蹴りを放ってきた。

後ろに大きく飛び跳ねる事でかわし、腰を深く入れ右手を沈めた。

彼女も同じような動作で右手を構え、同時に駆け出した。

 

「はっ!」「やぁ!」

 

俺と彼女、2人が放った正拳突きは互いの顔の寸前で急停止した。

 

「はい、そこまで。白熱している所悪いけど、時間切れだよ」

 

どうやら俺と彼女の動きを止めたのは小町のようだ。

 

「むっ、もうそんな時間になってしまったか……残念だ」

 

それにしても時間切れとはどういう事だろ?

 

「なぁ、さっきから時間時間って一体何の時間だ?」

「答えはお前さん自身の身体にあるよ。ほれ見てみな」

 

小町に言われて、自分の身体を見渡してみると、薄く輝きだしているのが分かった。

 

「これは、一体……あぁ、もう死ぬのか」

 

それを聞いて小町と巫女は怪訝な顔をして、そして、笑いだした。

 

「ふふふっ、君は勘違いをしているぞ?」

「そうそう。言ったろ、お前さんは治療中だって。どうやらそれが成功したみたいだ。もうすぐここに居る魂は肉体に戻る。そうすればお前さんは目を覚ますさ。今度こそ本当にな」

 

そうか、何か暖かいものに包まれている感じがしたけど、これで俺は生き返るのか。

いや、死んでないから生き返るのとはまた違うか。

 

「そっか、じゃあな小町、色々世話になった。そこの巫女さん、最後まで相手出来ずに悪かったな。また今度機会があればな」

 

そう言うと、巫女は少しだけ哀しい顔をした。

 

「残念だけど、君とはもう会う事はないだろう」

「えっ? なんでだ? まさか、お前は亡霊?」

 

そんな気配はしなかったのに。

 

「ははっ、さて、どうだろうな? それじゃあ元気でな、今回の件は本当に感謝しているが、あまりあんな無茶はしないでくれよ?」

「……善処する」

 

無茶をしない約束は出来ないけどな。

 

「私はまた幻想郷で会えるから、そんときはまた話そう。それまでこっちに来るんじゃないよー?」

「ははっ、どうなるか分からないけど、こっちに来る事になったら世話になるよ」

 

小町の言葉に苦笑いを浮かべて返事をした途端、目の前がまた真っ白になった。

 

 

 

「ふーどうやら無事に蘇生出来たようだね」

「あぁ、良かった……これであの娘達が悲しまずに済む」

「そう思うなら、せめてあの娘達をよろしく頼む。くらい言っても良かったんじゃないのかい? 認めたんだろ、彼の事」

「ユウキ君の事は今回の手合わせで大体分かった。でも、その言葉は言えないよ。それは彼には逆効果だ。それにそんな事言わなくても、大丈夫さ」

 

彼女はまた寂しそうに笑った。

 

「そう言えば、小町。君はちゃんと彼に礼を言ったのかな? 西行妖の一件は、君らにも関わってた最重要案件のはずだっただろう?」

「……あっ、忘れてた」

 

不味い。彼女が礼を言ったけど、私は言っていない……最初に言うはずだったのに、変にからかわれて忘れちゃってた。

 

「やばい……四季様に怒られる」

 

何だろう、少し寒気がしてきたね。

 

「もう手遅れだな」

「こ~ま~ち~!」

「きゃん!」

 

突然背後から誰かに思いっきり叩かれた。

私にこんな事出来るなんて四季様しかいないんだけどね。

 

「全くあなたと来たら、人間にからかわれたくらいで大事な礼を忘れるだなんて、たるんでいる証拠です!」

 

やっぱり、私を背後から叩いたのは上司であり、閻魔大王である四季映姫・ヤマザナドゥ様。

 

「いや、ですけど、初対面でいきなりあんな事言われたら……」

「そもそも、あなたがそんな恰好をしているからいけないんです!」

 

そんな恰好、って一応これ死神の仕事着なんだけどなぁ。

 

「む、無茶言わないでくださいよ四季様。これが一番私に合ったサイズなんですよ? 文句はデザインした係に言ってくださいよ」

 

と言っても、胸元が開けているわけでもなく本当に普通の着物なんだけどねぇ。

 

「黙りなさい。人のせいにするとは何事ですか! 大体、あなたの胸がそんなに大きいのがいけないんです! 全く、死神でそんなに胸が大きな者はあなたくらいですよ!?」

「そんなぁ、私以外にも胸大きいの沢山いるじゃないですか、ほら、例の亡霊姫だって、スキマ妖怪だって……あっ」

 

これは、地雷を踏んじゃったかな。

四季様、身長の割に胸がないと思っているからなぁ。

でも、私から見れば普通サイズだと思うけどなぁ。

巫女に助けを求めるように視線を送ると、ひらりと目をそらされた。

あ、そうか。彼女も私くらい大きいからとばっちりを受けないようにしてるんだな、こんちくしょ~薄情者!

 

「ほ、ほほぅ、それはつまりあなたの周りには胸が大きい者が多くて、私みたいなのが少数派だと言う事ですか」

「い、いえいえいえいえ、そんな事はありませんし、言ってもいないし、思ってもいないですよ!? そもそも、四季様胸小さくないじゃないですか!」

「ふむ、良い度胸ですね。そこら辺あなたがどう思っているかじっくりと聞かせていただきま…「あ、あのー?」…なんですか巨乳巫女!」

 

これは、巫女が助け舟を出してくれたのか!?

さっきは薄情者と言ってごめんよ。

 

「すみませんけど、私もそろそろ時間なので失礼します。」

「あ、そうですね。申し訳ありませんでした。では、最後に……彼の事はどうでしたか? 何か掴めましたか?」

 

そうだった。忘れてたわけじゃないけど、巫女がここにいる理由、彼と戦った理由がちゃんとあったんだった。

 

「彼は、悪人とも善人とも判別はしにくいですね。しかも、本人はそれを強く自覚しています。ですが、霊夢達は彼のおかげで良い影響を受けているのは確かですね。言葉に言い表せない物を秘めているのは間違いないです」

「そうですか、貴方が言うのならばそうなのでしょうね」

「後は、彼の心の奥底に感じたものがあります」

「ほう、それはなんですか?」

「拳を突き合わせた時に分かったのですが、彼の心の奥底に彼自身も気付いていない程の底にわずかに見えたのは……【無】 でした」

 

そう言い残して、巫女は去って行った。

それにしても 【無】 か、私もそこまでは気付けなかった、流石は先代巫女。

 

「ところで四季様、そこまで彼の事が気にかかるなら直接会えば良かったじゃないですか? 仕事そこまで立てこんではいないでしょう?」

「……小町、正直に言って下さい。彼女は彼から 【無】 を感じ取りましたが、あなたは何か感じる物はありましたか?」

 

そういう四季様の目は普段以上に真剣だった。

裁判の時でも滅多にこんな目をした事はない。

しかし、つい最近こんな目をした事はあった。

それは西行妖の封印が解けかけていると分かった時だった。

結局、私達ですら手を出せない中、ユウキ君が霊夢達と協力してどうにか抑える事が出来た。

 

「四季様、私も巫女と似た感じですね。善人とも悪人とも違う、自殺志願者でもなければ命知らずでもない。形容しがたい性格、ではありました」

 

そう言う所を四季様は警戒しているのだろうか?

 

「そうですか、あなたでも気付きませんでしたか……」

「?? 一体四季様は彼の何をそんなに警戒しているのですか?」

「彼は、西行妖以上に危険な存在である事、それを覚えておいてください」

 

四季様は決して冗談で言っているわけではない。

本気で、ユウキ君を西行妖以上に危険視している。

 

「それは、幻想支配の事を言っているのですか? 私や四季様の力も使えるようになれば……」

「いえ、違います。確かに幻想支配は強力ですが、八雲紫が監視にとどまっている以上、危険は少ないでしょう。問題は彼自身の……いえ、今はまだ言えません。さぁ、仕事に戻りますよ」

 

分からない。なぜ四季様ははっきりと言わずに言い淀んだのだろうか。

私はさっきまでそこにいたユウキ君の事を思い浮かべた。

とても四季様が警戒するような人間には見えなかった。

彼は、幻想郷に何をもたらすと言うのだろうか?

 

 

 

続く

 

 




はい、次回でユウキ復活です。
で、今回出てきた巫女、もう出る予定ありません。
色々と気になる事を言っていましたが、彼女自身についてはわざとぼかしてありますので……

映姫様って身長は割と高いはずなのに、ロリ●乳で描かれる事多いですよね。
小町との対比でしょうか?
あ、映姫様は●乳ではありません、霊夢や咲夜並と設定してあります。
はい、わざわざ設定したんです!(ォイ

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