幻想支配の幻想入り   作:カガヤ

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西行妖戦決着です。


第60話 「死闘(後編)」

一歩一歩 【敵】 へと進む。

周りに倒れている魔理沙達を一瞥して、少なくとも命に別条はないと分かり、少し安堵する。

魔理沙は頭を抑えて起き上がった。咲夜や妖夢ほどの怪我はなさそうだ。

近くで起き上がろうとしている咲夜に肩を貸している。

咲夜は頭から血を流してはいるが、意識はあるようだ。

俺を心配そうな眼で見ている。

妖夢も腕が折れている以外では、足元がおぼつかない程度で目立った傷は見えない。

だけど、安心はしても胸の熱さは収まらない。

コイツは、西行妖は、絶対に倒さなければいけない俺の敵。

止めなければいけない相手でも、俺が相手をしなければいけない相手でもない。

俺が倒すべき敵。でも、俺じゃ倒せない、俺だけじゃ倒せない。

ならばどうする?

妖夢との戦いと咲夜の能力を限界まで使った反動、そして、霊夢を庇って受けた攻撃のせいで体中が少し麻痺している。

でも、この影響はもうすぐ収まる。もう少しでまともに動けるようになる。

それまでに少しでも敵に近付くしかない。

痛みはない。いや、あるのだろうけど全く感じない。

 

「ま、待てユウキ君! その体でアレに立ち向かうのは自殺行為だ!」

 

後ろで藍が声をあげているように、きっと俺は見た目よりも重傷だろう。

美鈴とパチュリーのおかげで俺は命拾いをした。

だけど、命拾いをしただけ、無傷じゃない。

頭はくらくらするし、足元もおぼつかない。

でも、そんな事はどうでもいい。

今は西行妖を倒す事だけを考えている。

その為に必要な手段は、必要な力は全部揃っている。

 

「霊夢、今度は俺が隙を作る。急いで霊力溜めてくれ」

「……分かったわ。後で言いたい事がごまんとあるから、覚悟なさい」

「了解だ」

 

霊夢は何かを言おうとしたが、すぐに返事をした。

もう時間がない事は分かっているからだろう。

地面に落ちていた白楼剣を鞘におさめ、鞘に収まったままの楼観剣と共に腰に差す。

少し離れた場所に落ちている八卦炉と箒を拾い上げた時、体の感覚がある程度戻ってきた。

これなら、戦える。

 

「咲夜、魔理沙、妖夢……力、借りるぞ!」

 

まずは、咲夜の力だ。

 

 

 

ユウキさんが一歩ずつ西行妖に向かって歩いて行く。

ボロボロになった服は既に脱ぎ捨てていて、上半身は裸だ。

思わず目をそむけたくなった。ユウキさんの背中にはいくつもの傷跡が見えた。

最初に出会った時、神社で文と腕や胸にある沢山の傷跡は見たけど、背中はもっとひどかったのね。

 

「咲夜、魔理沙、妖夢……力、借りるぞ!」

 

ユウキさんがそう言うと、咲夜の方を向いた。

最初は咲夜の力を使うようね。

ユウキさんがゆっくりと、西行妖が張った空間を歪める結界に手を伸ばす。

何をするつもりなのかしら? 時を止めても空間の歪みは関係ないと思うのだけど。

 

「や、やめな、さいっ!」

 

魔理沙に担がれた咲夜がそれを見て叫んだ。

咲夜はユウキさんが何をしようとしているのか分かるのね。

私には分からないけれど、嫌な予感しかしない。

 

「……邪魔」

 

ユウキさんが右手を振うと、割れた風船のように空間が弾けた。

弾けたと言うよりは、結界が消し飛んだと言った方がいいかしら?

 

――プシュッ

 

それと同時にユウキさんの頭から、血管が千切れたかのように血が噴出した。

 

「ユ、ユウキさん!?」

 

思わず駆け出しそうになったけど、彼はそれを左手を突き出し制した。

彼は、自分がどうなろうと西行妖を倒す気でいた。

ここで無理にでも止める事も出来る。けれども、時間がないのは確か……私は歯を食いしばり、霊力を溜める事に集中した。

次にユウキさんが魔理沙の力を使い、箒の上に乗った。

 

「ブレイジングスター」

 

八卦炉をブースターにした、魔理沙の新スペルカード。

その突進力は私でもかわしきれる自信はない。

流石私用に開発したスペルカードの改良版ね。

 

――ウォン!

 

ここで西行妖が唸り声のような叫びをあげた。

先程までとは比べ物にならない程、濃密な弾幕がユウキさんに向けて放たれた。

さっきはブレイジングスターに弾かれていたけれど、今度のは威力が高く簡単に貫いてくる。

それでもユウキさんはひるむ事なく、体をひねったりしてかわしながら両腰に差した妖夢の刀を抜いた。

 

「はぁっ!」

 

2本の刀を振い、西行妖の攻撃を次々と撃ち払って行く。

よく見ると魔理沙の魔力が刀に注ぎ込まれているのが分かった。

相変わらず力の使い方がうまいわね。

 

「すごい……」

 

自分の刀で弾幕を突破するユウキさんを見て、さっきまで泣いていたのに思わず妖夢が感嘆の声を上げた。

咲夜から簡単に聞いていたらしく、幻想支配についてはあまり驚いた風には見えないわね。

今のユウキさんは西行妖の攻撃を切り裂いて進む、まさに流れ星。

でも、なぜかユウキさんは西行妖の周りを飛びまわるだけで、特に攻撃をしかけるわけでもない。

ユウキさんは何か叫んでいるようだけど、爆音と雄叫びが大きくてこっちまでよく聞こえない。

 

「彼、幽々子に呼びかけているわ」

「えっ? なんて言っているの?」

 

紫が彼を見ながら言った。

唇の動きを見ているのか、妖怪だから聞こえているのか、紫と藍にはユウキさんが何を言っているか分かるようね。

 

「お前を呼ぶ妖夢の声が聞こえないのか。などと彼は言っています」

「なっ!? 攻撃を捌きながら説得してるって言うのかアイツ! あんな加速してあんな動きする事すら無茶なのに!」

 

魔理沙が驚くのも無理はないわ。西行妖の濃密な弾幕を刀2本で防ぎながら、ユウキさんは幽々子へと叫んでいる。

そんな余裕があるわけないのに。

 

「どうして、そんな事を?」

「幽々子の意識を少しでも表面に出す為よ。あそこまで融合してしまったら、白楼剣でも私の能力でも簡単には引きはがせないわ」

 

ユウキさんの言葉が聞こえているのか、浸食の速度が遅くなっている。

それどころか、顔まで埋もれていたのが今では首が見えるほどに出てきている。

 

「ユウキさんは、幽々子を絶対に助けるつもり、なのね。さっき私の力を使って空間の歪みを無理やり元に戻したけど、アレは私の能力の限界を越えているわ。体にかなりの負担がかかっているはずよ」

「っ!? くっ!」

「待つんだ、妖夢!」

 

咲夜の言葉を聞き、藍の制止も聞かずに妖夢が駆け出した。

折れた左手を抑え、足を少し引きずりながら西行妖に近付いていく。

 

「目を覚まして下さい、幽々子様! そんな妖に呑みこまれる幽々子様じゃないはずです!」

「幽々子! あんた西行妖に生前も死後も良いようにやられていいの!? そんなに諦めのいい性格じゃなかったはずよ!」

 

妖夢だけでなく紫ですら声を張り上げた事に、私と藍は目を丸くした。

魔理沙と咲夜も驚いた顔をして、紫を見ている。

こんな紫は初めて見た。

 

「幽々子、妖夢があれだけ無理をしているのに、主のお前が根性見せないでどうするんだ!? とっとと目を覚ませ!」

 

そう叫びながら弾幕をかいくぐり、刀を収めたユウキさんが勢いをつけたまま幽々子を殴った。

 

「ゆ、幽々子様!」「幽々子!」

 

その時だった。

 

「ゆかり……よう、む……」

 

聞こえた。今まで西行妖に操られていた時とは違う。弱々しくもはっきりと意思の籠った声。

西行寺幽々子の声が私達にも聞こえた。

妖夢と紫が声にならない叫びをあげる。

 

「今だっ!」

 

ユウキさんは西行妖から距離を取り、垂直に飛び上がった。

両腰には鞘に収めた2本の刀。

そのうちの1本、左腰に差した短めの刀、白楼剣を手に取り抜刀の構えのまま西行妖へと急降下してきた。

今彼が纏っているのは魔理沙の魔力ではなく、妖夢の霊力ね。

もう箒を自由に操る事は出来ないけど、その分白楼剣に妖夢の霊力を溜めている。

少しでも勢いを付けて威力を高める為に、わざと上空で力を切り替えて箒から飛び降りたのね。

 

「はあぁぁぁ~~~!!」

 

西行妖も黙っているわけではなく、自分に向けて落ちてくるユウキさんに向けて弾幕を撃ちづけている。

 

「てめぇの殺す為の攻撃なんか、面白くもなんともないんだよ!」

 

ユウキさんは首をそらしたり、落下で体の自由が利かないはずなのに体をずらすだけの必要最低限の動きで全てかわしていた。

痺れを切らしたのか西行妖が淡く輝きだし、私の結界でも防げなかったあの光線が放たれた。

 

「させるか!」

 

魔理沙が残った魔力で箒を操り、ユウキさんを乗せ光線をかわした。

 

「さんきゅ、魔理沙。うおぉぉ~~!!」

 

ユウキさんが空中で箒を蹴り、更に加速して西行妖へと突っ込む。

そして、白楼剣を抜き幽々子を斬った。

いえ、彼が斬ったのは幽々子ではなく、幽々子と西行妖の繋がり。

 

「幽々子様!」

 

彼が斬った所から白いヒビが入り、幽々子がそこから落ちてきた。

 

「紫!」

「分かってるわ!」

 

彼は間髪いれずに紫に叫んだ。一度だけならスキマを開く妖力が回復していると彼は読んだのね。

その読みは正しく、紫は何とかスキマを開き落ちていく幽々子を回収して、こちらへと運んだ。

 

「幽々子様、しっかり!」

 

妖夢が幽々子へと駆け寄る。しかし、まだこれで終わりじゃないわ。

ユウキさんは斬った勢いそのままに滑るように着地した後、すぐに駆け出した。

その手に握られているのは白楼剣ではなく、楼観剣。

 

「はぁ~!」

 

楼観剣に霊力が注ぎ込まれていき、西行妖にも匹敵するほどの巨大な蒼い刀身が生み出された。

 

「い、いけない! それ以上力を使えば、体が!」

「迷津慈航斬・霊!」

 

妖夢が叫ぶと同時に、ユウキさんは楼観剣を西行妖に叩き付けた。

巨大な刀身は西行妖、ではなくその周りに漂う膨大な妖力を斬っている。

赤紫色の妖力が、蒼い刀身に削り取られて徐々に消し飛んで行くのが分かる。

 

「妖力を注ぎ込む楼観剣に霊力を注ぐ事で、妖力を削る技に変えたんだ。しかし、無茶にも程がある!」

 

藍の言う通り、かなり無茶をしていると思う。

刀を振うユウキさんの身体から血が噴き出してきた。

 

「くっ、霊夢まだか、まだ溜まらないのか!」

「あと、もう……少し!」

 

魔理沙と咲夜を助ける為に結界を使ったせいで、再度霊力を溜めるのに時間がかかっている。

せっかくユウキさんが時間を稼いで……いえ、それだけじゃない。

まさか、ユウキさんがやろうとしているのは……

 

「ユウキさん、もういい。もう、離れて!!」

「おらぁ!」

 

私の声が聞こえていないか、ユウキさんは楼観剣をそのまま振り下ろした。

と、同時に西行妖から漂う赤紫の妖力に大きな隙間が生まれた。

 

「まだ、まだぁ!」

 

楼観剣を地面に突き刺し、次にユウキさんの目が青から赤に戻った。

魔理沙の魔力を再度使い、箒と八卦炉を手元に寄せた。

そして、そのまま穂先に八卦炉を付けて、先程空いた妖力の穴にへと突っ込んだ。

なんなの、あの構えは? とても嫌な予感がするわ。

 

「ま、まて、それは……その魔法は使うなぁ!」

「ファイナル・スパーク!」

 

魔理沙が止めようと叫ぶが一足遅く、八卦炉から巨大な砲撃が放たれた。

その砲撃はマスタースパークのようだったけれど、威力が段違いね。

 

――ウッ、ウオォォーン!

 

西行妖が苦しんでいる。これはかなり効いているようね。

と、ここで西行妖に変化が現れた。

今まで西行妖に咲いていた異形の花が爆発したかのように、四方へ飛び散った。

同時にファイナルスパークを放っていたユウキさんが爆発の余波で、吹き飛ばされた。

 

「あれは、春の光。彼が内側から砲撃で無理やり西行妖から春の光を吹き飛ばしたのね。これで幻想郷中に春が戻るわ……霊夢っ、今しかないわ!」

「えぇ……」

 

蓄えた妖力は削り取られ、復活の礎にしていた春の光は全て吹き飛ばされ、全身のあちこちから煙を吹いた西行妖は満身創痍ね。

 

「これで、終わりよ西行妖! 八方龍殺陣!」

 

ありったけの霊力を注ぎ込んだ御札を、包囲するように西行妖へと配置し、一気に縛る。

その時、西行妖の根元から紫色に輝く光の蝶が出てきて、封印を強化するかのように陣へと吸い込まれていった。

 

「あれが、幽々子が命と引き換えに張った封印術よ」

 

そして、西行妖は再度封印された。

博麗の力をも上書きした事で、もう西行妖の封印が解かれる事はないと紫は言った。

 

「はぁ、はぁ……こ、これで……終わったのね。私も、霊力がすっからかんよ……っ、ユウキさん! どこにいるの!?」

 

思わず倒れこみそうになったけど、踏みとどまった。

魔理沙や咲夜もユウキさんを探そうと駆け出した。

と、そこへまだ晴れぬ土煙りの中から、ゆっくりとこちらへ歩く人影が見えた。

あれは……ユウキさん!

 

「ユウキさん、良かった。無事だったのね!」

 

少し俯きながらゆらりゆらりと、こちら歩いてくるユウキさんだったが、様子がおかしい。

 

「ユウキ……お前、大丈夫、っ!?」

「ユウキ、さん?」

 

魔理沙と咲夜がハッと息をのんだ。

ユウキさんは全身傷だらけで、髪の毛は真っ白になっている。

 

「……よか、った……みんな、ぶじ……で」

「ユウキさん!」

 

体の痛みも忘れ駆け寄った。

もう少し、もう少しで彼に手が届く……所で

 

「がふっ!」

「「「っ!!?」」」

 

口と全身から血を飛び散らせながら、ユウキさんは倒れた。

 

 

続く

 




ユウキ視点で行くか霊夢視点で行くか迷いましたが、霊夢視点にしました。
西行妖に勝つには、咲夜+妖夢+魔理沙の力を限界以上に使ってようやくです。

迷津慈航斬は妖力を溜めて斬る技なので、今回は霊力を溜めたので「霊」を付けました。

後、3話程で妖々夢編終了、そして、過去編Ⅱ絶対能力進化実験編になります。

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