八雲藍に介抱されているボロボロのユウキさんに目を向ける。
情けない、本当に情けないわ。何のために私はユウキさんに付いてきたのかしら。
私は彼をサポートする為のはずだったのに。
レミリアお嬢様やフランお嬢様、美鈴達からもユウキさんの事を頼まれていたのに。
結果、彼は致命傷こそ負ってはいないけど、意識不明で倒れてしまった。
しかも、彼の命を救ったのは美鈴とパチュリー様。
私は何もしていない。何も出来なかった。
自然と奥歯を強く噛みしめ、ナイフを握った手に力が入る。
ユウキさんは私の力をコピーして、西行妖に襲われていた霊夢を助け出した。
私の時間停止は長時間維持出来ないし、連続で使用出来ない。
だから、ユウキさんは霊夢を助ける瞬間時間停止が解けて、自分を守る事が出来ず光に呑まれた。
でも彼は自分を助けるなんて、そんな選択肢は頭にないわね。
なんて、そんな事を今は考えている場合じゃないわね。
「何考え込んでいるんだ咲夜? 遅れても知らないぜ」
「あら、私はもう始めているわよ、魔理沙?」
「うおっ!? いつの間に!?」
既に私は考え事をしながらも時間停止をして、西行妖に向けてナイフをばら撒いている。
捕らわれている幽々子という亡霊を助ける義務も義理もないし、むしろ事の元凶である彼女を西行妖もろとも滅ぼしたい気持ちが強い。
けれども、ユウキさんならきっと助けるだろうと思い直して協力する事にした。
「合わせなさい。魔理沙!」
「任せろ! メテオニックシャワー!」
霊力を籠めたとはいえ、ナイフだけでは心もとない。
だから魔理沙の魔法と同時に撃った方がいい。
と、思ったのだけれど……
「げっ!?」
放たれた弾幕によって、全て撃ち落とされてしまった。
弾幕はそのまま私と魔理沙に向けて放たれ、かろうじてかわせた。
西行妖の弾幕や攻撃や全て即死攻撃と思って完全に避けなきゃいけない。
相手は巨木。動けはしないし、いい的だけどこうもやりにくい相手だとはね。
「直線でダメなら、こいつだ!」
魔理沙が帽子を勢いよく振ると、中から沢山の小瓶が出てきた。
あれはプリズムリバーとの弾幕ごっこで使ったマジックミサイル、まだあんなにあったのね。
ミサイルは左右に大きく展開した後、曲線を描きながら西行妖へ向かって飛んだ。
さながら誘導ミサイル。
「なら私はこれよ!」
また時間停止を行い、ナイフを沢山展開させた。
でも今回はただ投げただけじゃない。
ナイフとナイフがぶつかるようになげ、跳弾の要領で機動が不規則になるようになげた。
これなら簡単に迎撃はされない。
「ルミネスリコシェ……」
私と魔理沙の攻撃は西行妖の迎撃に半分近く落とされたけど、残りは全て命中した。
しかし、すぐに西行妖は私達に弾幕だけではなく、レーザーのような光線まで撃ち返してきた。
どうにか、避けれたけれどもまた西行妖との距離が空いてしまったわ。
「叫びをあげないから、攻撃が効いているのか分からないわね」
「だな。少なくとも私達の攻撃は通っているみたいだぜ。このままやるから、締めは頼んだぜ妖夢、霊夢!」
「任せなさい。死ぬんじゃないわよ、2人共!」
抜刀の構えをした妖夢は無言で頷き、霊力を溜めている霊夢の激励を受けて私達は再度攻撃を再開した。
このまま妖夢が突撃しても、西行妖に弾かれるだけ。
私と魔理沙で隙を作らなきゃいけない。
「いっけぇ!」
魔理沙が八卦炉を構え、マスタースパークや他の魔法で攻撃を繰り出す。
私も時間停止で場所を変えつつ、ナイフを投げつける。
もっとも私のナイフじゃ対して効果はないので、もっぱら西行妖の弾幕を迎撃する事に専念している。
防ぐのが無理でも、軌道を反らす事は出来るわ。
でも、最初はすぐに弾き飛ばせたけど、段々と逆に弾かれている。
段々と、攻めているはずの私達が、押し返されてきているわ。
「魔理沙、咲夜。一端戻って!」
その時、霊夢が声を張り上げた。
「このままじゃダメ! 作戦があるわ!」
「くっ、しょうがない。ここは霊夢の作戦に期待しようぜ」
「そう、ね!」
迫っていた妖力弾をどうにかナイフで防ぎ、私達は後退する事にした。
霊夢の言う通り、このまま攻め続けても無駄に消耗するだけね。
幸い、ある程度距離を取ると西行妖からの攻撃は止んだ。
どうも、時間稼ぎをしているようね。
「ちまちま攻めてもラチがあかなわ。こうなったら多少力押しでやるしかないわね。魔理沙、咲夜、妖夢よく聞いて」
霊夢の作戦を聞いて、私達は思わず顔を見つめ合った。
「作戦って、ようするに……力押し?」
「な、何よその目は。小細工を弄する時間はないの。時間をかければかけるほどアイツは強くなる。私でもどうしようもなくなるわ。だから……」
霊夢の言う力押し。私と魔理沙の攻撃程度では西行妖に隙を作るのは難しい。
そもそも、動かない、動けない相手で目も耳もなく、相手をどうやって識別しているのか分からない相手に囮だの何だのは意味がない。
こういうのは目と耳があり、動ける相手でないと意味がない。
しかも、木の幹に捕らわれている幽々子がさっきよりもだいぶ同化が進んでいる。
これ以上時間をかけていては、西行妖に幽々子が完全に取りこまれてしまい、幻想郷全体の危機になる。
あの八雲紫と藍の2人がかりでやられるくらい強力な妖怪が更に強くなってしまっては、流石にレミリアお嬢様やフランお嬢様でも……勝てない。
だから、ここで勝負を付けなければいけない。
次の攻撃で、決めなければいけない。
魔理沙が私達の前へと進み、箒の尾に八卦炉を付けて構えた。
「それじゃあ、とっておきだぜ! ブレイジングスター!」
ブレイジングスター、以前図書館でユウキさん相手に使ったスペルカードね。
彗星のごとく西行妖に突撃する魔理沙。
身に纏った魔力は半端なく、西行妖の攻撃を尽く弾いている。
前見たあの時よりもはるかに速く、力強い。
それは箒の後ろに八卦炉をブースター代わりに取り付けた事推進力が増したせいね。
あれなら、ユウキさんに指摘された背後からの攻撃も、八卦炉ブースターで弾かれてしまうだろうから気にする事もなくなったわね。
前よりもさらに攻防一体の魔法。
「魔力の消耗が激しいわね。あれじゃ長くは持たないわよ。魔理沙、本当にこれでケリをつけるみたいね」
霊夢の言う通り。魔理沙が残る魔力を全て使っているかのような力強さ。
西行妖の周りを飛びまわり、攻撃を一身に受け、弾き、そしてかわして行っている。
恐らく、今西行妖の意識は魔理沙に向かっている……はず。
目も耳もどころか、顔もないから表情が分からないけど、今なら多少なりとも隙が出来ている……といいわね。
背後に目を向けると、霊夢が頷いた。
今しかチャンスはないわ。
「そろそろ私達も行くわよ、妖夢」
「お願いします!」
妖夢を抱きかかえ時間停止を連続で使用して、西行妖との距離を詰める。
最初からこれをすれば良かったかもしれないけれど、実は結構消耗が激しいのよね。
「おーにさん、こっちら!」
魔理沙が煽るように上空を旋回している。
挑発に乗ったのか分からないけど西行妖が淡く輝きだし、上空にいる魔理沙に向けて何十本ものレーザーを放った。
今しかチャンスはない。
「今よっ、妖夢!」
「はい!」
一気に西行妖の近くまで来た所で、妖夢が駆け出した。
ここまでくれば時間停止で近付くよりも、妖夢が走った方が速いわね。
妖夢が腰に下げた白楼剣に手をかけ、幽々子を取りこんでいる木の幹へと斬りかかった。
白楼剣がどういうものか私には分からないけど、紫の言う通りならこれで幽々子は西行妖から切り離せる。
「幽々子様、今お助けします……「妖夢」……えっ、ゆ、幽々子様……?」
だけど、妖夢の刀は西行妖を斬る寸前で止まった。
「妖夢……」
「ゆ、幽々子……様?」
「妖夢、早く斬るのよ!」
しまった。主思いの妖夢が助ける為とはいえ、主に刀を向ける事を躊躇するんじゃないのか。
そう思っていたのに、強い意思が籠った顔を見て大丈夫だと安心してしまっていたわ。
今の幽々子の声は、恐らく……いえ、間違いなく西行妖が幽々子の声を真似た。
だったら、まずいわ!
「妖夢……死んで」
「えっ!?」
捕らわれていた幽々子がレミリアお嬢様ですら浮かべた事のないような、邪悪な笑みを浮かべた瞬間、私は妖夢へと手を伸ばした。
それよりもはやく西行妖から膨大な妖力が集められた。
アレはさっきユウキさんを飲みこんだ光。
妖夢の肩を掴み逃げようとしたけど、時間停止は使ったばかりで逃げれるような時間は止めれない。間に合わない!
目も眩むほどの禍々しい赤紫の閃光が放たれた。
「八方鬼縛陣!」
霊夢の声が聞こえて、私と妖夢を守るかのように壁が出来あがっていた。
「これは、霊夢の結界?」
「馬鹿! 早く逃げなさい!」
霊夢が私達を守る為に、結界を張って閃光を防いでくれた。
けれども、その結界もすぐにヒビが入った。
完全に壊れる寸前、時間停止をしようとしたけれど、少し遅かった。
結界が破壊されその余波で私達は吹き飛ばされた。
「咲夜、妖夢!」
咲夜と妖夢は砲撃が直撃こそしなかったけれど、大きく吹き飛ばされ地面に激突した。
「このぉ~! ブレイジングスター!」
魔理沙はそんな私達を見て激昂し、再度魔法を使い西行妖に突撃した。
その時、西行妖の周りが赤紫色に輝きだした。
まるで西行妖の周りの空間に異変が……待って、これに似た現象を私は見た事があるわ。
「なっ、う、動けない!? 違う……前に進めない?」
突っ込もうとした魔理沙が空間に押しとどめられているかのように、空中で止まってしまった。
「これは、フランの時と同じく空間が歪んでいる?」
「でも、歪み方があの時の比じゃないわね。それだけあの悪魔の妹よりも膨大な妖力があると言う事よ」
あの場にいなかったはずの紫が空中に止まった魔理沙をみて言った。
分かっていたけれど、紫は紅霧異変の一部始終は見ていたようね。
「恐らく、我々が近寄れないようにしたのでしょう。1mの距離を100kmにまで広げるような歪み方です」
藍の言う通りなら、厄介なんてもんじゃないわねあの結界。
「魔理沙、そこからすぐに離れて!」
「言われなくても……し、しまった。魔力が……くそっ……」
「魔理沙!」
どうにか西行妖が攻撃する前に、魔理沙は離れる事が出来たけれど、魔力が切れてしまったようで箒から落下してしまった。
「……最悪」
最悪。何もかもが最悪。
妖夢は白楼剣で幽々子と西行妖の繋がりを斬る事に失敗。
咲夜は攻撃されようとしている妖夢を助けようとしたけど、能力が不十分だったようで失敗。
私はせっかく溜めに溜めた霊力を、2人を守るための結界に全て使ってしまい、あげくその結界もすぐに破られ咲夜と妖夢は直撃こそしなかったけれど、その余波で重傷、大失敗。
魔理沙は魔力切れで魔法の効果が切れ……墜落、失敗。
結果、私は無傷だけれど、さっきの結界に霊力を一気に使ったので、結構キツイ。
咲夜と妖夢はユウキさんよりはボロボロになってはいなくて意識もあるようだけど、怪我はユウキさんよりヒドイ。
少し離れた場所に落ちた魔理沙は寝転がりながら手を振っている。無事見たいだけど、動けないみたいね。
けれども、今の私には彼女達の心配をしている余裕はない。
「最悪、ね。確かにそうだわ……妖夢が倒れた以上、白楼剣が使えなくなったわ。これでは幽々子を助けられない。おまけに西行妖の周りには空間をゆがませる結界。近付く事がますます困難、いえもう不可能に近いわ」
横で紫がさっきよりはマシな顔色になったけれど脂汗を流しながら、感情を無理やり押し殺したような声を上げた。
失敗した私達を責めている、わけはないようね。
「まだ、力は戻らない?」
「……スキマを作るのも無理ね」
紫はスキマを作ろうと、手で線を描いたけれども何も起こらない。
その表情からして本当に戻っていないようね。
そもそも、紫の能力さえあれば幽々子を助ける事も出来るのに……
「霊夢…… 【夢想天生】 の準備をしなさい。もう本当に時間がないわ」
「……分かったわ」
夢想天生。私のとっておきの切り札にして最後の手段。
これを使えばどんな妖怪でも確実に、滅ぼせる。
空間をゆがませる結界だろうと、貫ける。
ただし、これを使えば幽々子は助からない。
西行妖だけを滅ぼす、なんて真似は出来ない。
「ま、待って下さい。紫様……一体どうする気ですか?」
頭から血を流し、折れたのか左腕を庇いながら妖夢が紫に詰め寄った。
「どうもこうもないわ。さっきも言ったでしょ。あなたたちが失敗すれば、幽々子ごと西行妖を消滅させると」
「そ、そんな待って下さい! 私が今度こそ、白楼剣で幽々子様を……あぐっ」
妖夢は地面に転がった白楼剣を手に取ろうとしたけど、痛みでうまく握れない。
「その腕では無理よ。それにあなたじゃ幽々子は斬れないわ。さっきみたいにね」
紫の目には妖夢への失望の色はない。
まるで最初から妖夢には期待していなかったかのようね。
「霊夢、急ぎなさい」
「えぇ、分かっているわ」
私はさっきまでと同じく精神を集中させ、霊力を溜める。
でもそれは結界の為じゃない。西行妖を滅ぼす為の準備。
私の周囲に陰陽玉が浮かびあがる。
この全てに霊力を溜める事で、夢想天生が放てるようになる。
「待って、待って下さい! 見捨てるんですか……幽々子様を、見捨てるんですか! 紫様!」
「見捨てるわ……このままじゃ、幻想郷は幽々子、いえ、完全復活した西行妖によって滅ぼされる」
「霊夢、さん。あなたも止めてください。幽々子様を……助けてください!」
涙を流しながら妖夢が私の足にすがってくる。
それを目に留めながらも、私は夢想天生の準備を続ける。
「助けるわ。だから……完全に呑まれる前に私が、西行妖ごと消すのよ」
「……そ、そんな……」
すがりつく妖夢への非情な最後通告。
本当はそうは思わないはずなのに、こんな自分に嫌悪感が湧くわね。
ホント、私どうしちゃったのかしら。
今も幽々子をどうにかしようと色々考えてるし、どうにもできないって結論を認めたくはない。
けれども、やっぱり手は浮かばず、このまま夢想天生を使うしかない。
私は博麗の巫女。幻想郷を守るのが役目。
このまま西行妖が完全復活すれば、私でも止められない。夢想天生も効かなくなる。
そうなれば、ユウキさんもみんなも、確実に死ぬ。
それだけは絶対にダメ。
だから、涙を流して私に懇願する妖夢にかけれる言葉はこれしかない
「……ごめんなさい」
小さく、絞り出すように呟いた。
唇を深く噛みしめる。口の中はさっきから鉄の味しかしない。
「ぁ……あぁ、幽々子……さま、幽々子様!」
たまらず西行妖へ、幽々子へとかけだした妖夢だったけれど、足がおぼつかずすぐに倒れてしまった。
「やだ……やめ、て……幽々子、さま……」
必死に手を伸ばす先で、幽々子が西行妖に呑みこまれていく。
もう顔以外は全て西行妖の中。
後、数分も持たない。
私の夢想天生なら……間に合う。
「……紫様」
「何も言わないで、藍」
ちらっと紫に目を向けると、眉間にしわをよせ険しい表情をしているが、一筋の涙が零れ落ちている。
「やだ……やだぁ……ぅ、うぅ、だれか……だれか、たす、けて……誰か、幽々子様を助けて!」
妖夢の泣き叫ぶ声……耳が、痛い。
私も涙が溢れてきた。
その時、静かな、だけどとても優しく力強い声が聞こえた。
「……任せろ」
誰かの、泣き声が聞こえる。
――ぁ、ぁぁ……やだっ
届かない手を必死に伸ばしている。
――やだ、やだぁ、やめて……やめてっ
でも、その手は何もつかめず、誰も救えない。
――ぅっ……うぅ……
泣き声だけが木霊する。それを聞き、体中に力が戻る。
あの時もモニターの中での小さな泣き声ははっきりと聞こえ頭から離れず、血が出るまで両手を強く握っていた。
「ぁ……あぁ、幽々子……さま、幽々子様!」
あぁ、いやだ。こんな声は聞きたくない。
こんな声をさせたくない。
「やだ……やだぁ……ぅ、うぅ、だれか……だれか、たす、けて……誰か、幽々子様を助けて!」
なら、俺がやる事はただ一つ。
あの時は何も言えなかったけれど、今は違う。
あの時は側に居れなかったけれど、今は違う。
「……任せろ」
涙を流す2人の少女に声をかけ、その涙を流させる元凶を強く睨む。
「おい、お前。お前がこの子の涙を踏みにじってでも復活しようっていうのなら」
九尾の妖狐が、声も出せずただ驚愕の表情で俺を見上げていた。
「そして、その人を滅ぼさなきゃお前を倒せないというのなら」
妖怪の賢者が式神以上の表情を浮かべ、その扇を落としていた。
「もう誰も悲劇を止められないというのなら」
涙を浮かべた2人の少女の頭に手を置き、そっと撫で、そして……
「まずは、その幻想を支配する!」
幻想郷で初めて出会った 【敵】 へと向き直った。
続く
なんか……チートすぎたかな(汗)
何にせよ西行妖はユウキが初めて出会った敵です。
でも、チートさではユウキも負けてはいませんよ?