幻想支配の幻想入り   作:カガヤ

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東方M1ぐらんぷりの響子ダンスが可愛過ぎて悶え中(爆)


第57話 「経験値」

ユウキさんがナイフを上へと放り投げ、妖夢の脇を速く走り抜けた。

すれ違う瞬間、ユウキさんが瞬時に強い殺気を放ち 【手刀】 が妖夢の首を鋭く斬るように撫でたけど、本人にはナイフで斬られたように感じたでしょうね。

 

「……っ!? かはっ、げほげぼっ……ごほっ!……?」

 

妖夢は首に手を当てながら激しく咳き込んでいる。

でも、斬られたはずの首は無傷でちゃんと付いている。

その事に気付いた妖夢はしきりに首を撫でて、今何が起こったのか分からない顔をしてユウキさんにふり返った。

 

「斬られて……いない?」

「当然。俺は妖夢を殺す気なんてこれっぽっちもないからな」

「っ!?」

 

それを聞いて妖夢が一瞬驚いた顔をした後、ユウキさんを睨みつけた。

殺す気はない。裏を返せば、殺そうと思えばいつでも殺せるという事。

彼女はそう解釈したようね。間違ってはいないと思う……だけど。

 

「ユウキさん、なかなかのペテン師ね。詐欺師にも向いているかも」

 

ウソはついていない分タチが悪い。

ユウキさんは、相手のペースを崩すのが得意だ。

妖夢を自分一人に向けさせるために勝負を挑ませたのだろうけど、それにしては勝負を決める気があるのかないのか。

冷静さをかいた妖夢なら、ユウキさんは一瞬で決着付けられるのに、まだ勝負を続けるつもりね。

 

「随分と、余裕ですね。私になくてあなたと咲夜さんにあるモノのせいですか?」

「さーな。少なくとも今の妖夢よりは多少余裕はあるぞ?」

 

ギリッ、と歯ぎしりする音がここまで聞こえてきそうね。

さっきの言葉にもウソはない。ユウキさんは余裕そうだ……見た目だけは。

妖夢よりも余裕があるとはいえ、0.1と0の違い程度。

その事に気付かないよう振る舞っている。

 

「でしたら、その余裕……私が斬ります!」

 

刀を握り直す妖夢の側に半霊が飛んできた。

半霊は今まで離れた場所にいたようね。

 

「使うつもりはありませんでしたが……いきます」

 

半霊が妖夢に同化するように重なると淡い光を放ち、半透明だけどもう1人の妖夢が現れた。

フランお嬢様のスペカに似てるけど、これは自分の半身である半霊を変化させたものね。

 

「卑怯、とでもいいますか?」

「いや、2人で1人前なんだろ? ならこれでやっとハンデなしになるってわけか」

「……くっ!」

 

またもや挑発に乗った妖夢がユウキさんをまた強く睨み駆け出した。

それに続いて半透明な妖夢が駆ける。

妖夢が右からの袈裟きりをユウキさんは、身を捻ってかわす。

さらに妖夢は追撃とばかりに、大きく振りかぶって横薙ぎに刀を振った。

ユウキさんはナイフを逆さに持ち、受け止めるつもりだったけど、半透明な妖夢が時間差で袈裟きりを放ってきた。

 

「……そう言う事か!」

 

すぐに左のナイフで半透明妖夢の攻撃を捌き大きく飛びはね、2人の妖夢から距離を取った。

 

「分身と言うよりは、自身の動きを遅れて再現させる技って所か。下手な分身よりもやりにくい」

 

それを聞いても妖夢は反応しない。彼の言葉に反応してはいけないと、学習したのだろうか?

 

「けど、だからと言って、俺との差が埋まるほどじゃない」

「ぐっ!」

 

訂正。まるっきり学習してないわね。

2人の妖夢の時間差斬撃をユウキさんは、2本のナイフだけで全て捌いてかわしている。

二刀流×2、4本の刀を間合いが短いナイフ2本でかわしていく。

 

「なんで、なぜ!」

 

妖夢の焦りをうみ、動きが雑になってきている。

それでも妖夢の猛襲はユウキさんを再び防戦一方にして、後ろへと押して行っている。

本人は気付いていないようだけど。

そして、ついにユウキさんは大木へと押しのけられた。

 

「隙あり!」

 

これを好機と踏んだ妖夢は、刀を左右に交差させ一気にトドメを誘うとしている。

 

「もう……いいかな?」

 

でもそれはユウキさんが誘った罠。

追い詰めたつもりで、大ぶりの一撃をさせる為の罠。

ユウキさんは妖夢の動きに合わせて、木を蹴り反動で背後へと回りこんだ。

 

「しまっ……!」

 

ユウキさんの動きに気付いた妖夢は空振りした一撃の軌道を無理やり変え、背後へと回転斬りを放つ。

しかし、体勢を崩したまま無理に放った苦し紛れの一撃に速度はない。

そんな攻撃に対処できないユウキさんではないわ。

 

――キンッ!

 

ユウキさんが妖夢の刀を弾き飛ばし、首にナイフを押し当てている。

これでやっと勝負がついたわね。

 

「……私、の負けです。最後に教えてください、私になくてあなたと咲夜さんにあるものはなんですか?」

「それはな、対人戦闘経験。もっと言えば、強者との対戦経験。更に言えば……人を斬った事があるか、ないかだ」

 

対人戦闘経験。私もユウキさんも人を相手にイヤと言うほど戦ってきている。

彼は元いた世界で数多くの能力者や魔術師相手に、ナイフや銃火器、特に能力を奪い戦って、殺してきた。

私もレミリアお嬢様を狙うハンターなどと戦って……殺してきた。

 

「最初に出会った時に、妖夢が剣術の達人なのはすぐに分かってたさ。けど、昨日対峙してあまり対人戦闘経験がない事に気付いたんだよ」

「な、なぜですか!? 私は確かに未熟ですが、御爺様から厳しく指導受けましたし、これまでも妖怪や悪霊を斬って来ました!」

 

あー、そう言う事ね。

 

「妖夢、その妖怪や悪霊って、強かったかしら?」

「い、いえ。中には手ごわいのもいましたが、それほどの相手とは……幽々子様の方が強いです」

「言葉が悪かったわね。人、もしくは人型の妖怪と戦った事は?」

「……そう言われればありません。たまに人里で酔っ払いに絡まれる程度で……あっ!」

 

ここでやっと妖夢は、私やユウキさんが言おうとしている事に気付いたようね。

 

「どんなに剣の腕がよくても、人間相手に振っていなければその間合いの測り方、斬撃の組み合わせ、相手の力量の判断……などなど色々なモノが育たない。剣術の腕が劣っている俺でも、妖夢の動きがすぐに読めて簡単に対処できた」

「逆に人間、それも強敵相手との経験がない妖夢はユウキさんの動きが読めず、挑発に乗せられて動きが単調になり、技のキレが落ちたのよ」

「相手と力量差がある相手になら普段通りで対処出来ただろうけど、俺や咲夜、他にも力量差が近かったりする相手には遅れを取る」

 

さっきユウキさんが手刀で妖夢の首を捉えた時もそうだった。

放り投げた右手のナイフに気を取られ、そのコンマ1秒ほどの隙にユウキさんは本命の攻撃を開始した。

そして、達人との経験が少ない妖夢はユウキさんの本気の殺気にあてられ、ただの手刀をナイフによる斬撃と錯覚してしまった。

 

「それと一つ言っておく。妖夢にはどう見えたか知らないけど、俺結構余裕なかったからな? 防戦一方だったのも、本当に妖夢の攻撃に対処するのに精一杯だったんだぞ?」

「えぇ~!? そうだったんですか!?」

 

うん、私がユウキさんをペテン師と思ったのはこれだ。

ユウキさんは終始妖夢を圧倒していて、攻撃も簡単にかわして挑発しているように……見せかけていただけ。

実際、第3者視点だった私から見ればほぼ互角。

まぁ、挑発に乗ってムキになって技が荒くなって動きも大きくなった妖夢が、スタミナを無駄に消耗していたから自爆と言ってもいいかもしれないわね。

ギリギリで防いだ攻撃を、余裕で捌きわざと反撃しなかったと 【見せかけた】 ペテン。

それによって、若干優位なはずだった妖夢が焦り、ズブズブと自分の利点を削り取って行った。

 

「はっきり言って、本当の意味でまともにやりあっていたら、どうなっていたかな。負けはしないだろうけど、簡単には勝てなかったかな」

「…………うまく、私は乗せられたのですね」

 

ユウキさんは妖夢に負けない。と霊夢に言った。

絶対に勝てる、とは言ってないのよね。

ホント詐欺師かペテン師の才能あるわ。

 

「それで、私をどうするつもりですか? 殺されても文句は言いません。私は完敗しましたから」

「いやいや、そんなつもりはないと言ったろ? それに本来なら弾幕ごっこで決着付けるものなんだぞ? ガチで殺し合いなんてしたら霊夢に後で何言われるか分かったもんじゃない」

 

ユウキさんは1人で決着を付ける気だったのよね。

私は最初からユウキさんが妖夢と再戦するのに、弾幕ごっこではない勝負をするつもりと昨日気付いた。

レミリアお嬢様はここまで気付いていたから、私を同行する許可をくれた。

そして、それから私が思い至ったのがこの結論だった。

 

「あ、はい。弾幕ごっこの事は知っています。ですから、後腐れは残しません。どうぞ、先に進んで下さい」

 

こういう所は素直なのよね、この子。

弾幕ごっこ以外での決闘を望みつつ、決闘で負けたら素直に引き下がるなんて。

 

「先へは進むさ。霊夢にも言ったしな。でも、その前に聞きたい事がある……なんで妖夢の主は幻想郷から春を奪ったんだ? わざわざリリーホワイトまで拉致しようとして」

「それは……」

 

まさか、妖夢との戦いに執着した理由って、この異変を起こした訳を聞く為だったの?

ならなんで普通に勝つなりしなかったのかしら? それに、幽々子と言う白玉楼の主に聞く手もあった。

何だかとっても回りくどい事してるわね。

 

「それは……西行妖と言う桜の木を満開にする為です」

「西行妖?」

 

何だそれ? と言う顔で彼は私を向くけど、白玉楼や冥界すら知らなかった私が知るはずないわ。

 

「西行妖は、冥界で、いえ、幻想郷で一番巨大な桜の木です。白玉楼の裏にありますが、ずっと花を咲かせないんです。幽々子様も何百年も白玉楼にいますが、一度も咲いている所を見た事がないそうです」

「それでなんで春を集める事になるんだ?」

「幽々子様はただの春では咲かせるには十分ではなく、幻想郷中の春の光を集めれば、きっと花を咲かせられると」

「……桜の木を咲かせる為だけに春を集めたのか?」

 

その割には大騒動になっているわね。

 

「それだけではありません。幽々子様には亡霊となって冥界の管理を閻魔様に任せられた以前の、生前の記憶がないんです」

「亡霊はそういうものじゃないのか?」

 

私も亡霊に詳しくはないけど、生前の記憶をしっかり持っているなんて、怨霊や悪霊とか恨みをもった霊しかイメージにないわね。

 

「いえ、死者の魂からなる亡霊は皆生前の記憶を持っていますよ? 特に幽々子様のような強い力を持った人間の霊なら尚更です」

 

なら、私が将来寿命で死んでも安心ね。命失って尚且つレミリアお嬢様や紅魔館の皆の記憶を失いたくないわ。

 

「幽々子様が覚えている事は1つ、満開の西行妖を見て死んだと言う事。なので、西行妖を満開にさせれば何か思い出すかもしれないと仰っておられました」

 

西行妖、か。恐らく霊夢達が向かった桜色に輝く空の下にあるのね。

あそこからはとても嫌な気配しか感じないのだけど、何か怪しいわね。

 

「妖夢、西行妖ってただの大きな桜の木、それだけなのか? 他に何か由縁とかはないのか?」

「すみません。西行妖については、幽々子様も詳しくは知らず、御爺様も知ってはいけない事だと固く口を閉ざしていましたので……何も知りません」

 

妙ね。そこまでして隠すからにはただの桜の木じゃないのでしょうけど。

 

「なるほど、それが春を集めていた理由か。で、リリーホワイトにその光の制御をさせるつもりだったと?」

「はい、リリーホワイトがいれば、もっと効率よくなると思って、幽々子様はもし見つけたらでいい、とあまり重要視していなかったようですが」

 

これで春の光を集める理由が分かった。だけど、まだ私は腑に落ちない。

 

「ユウキさん、どうして妖夢に聞こうと思ったの? それに聞くだけなら普通に勝てばもっと早く終わっていたんじゃない?」

「ぅぐっ……た、確かに。今思えばもっと早く私を倒す隙はあったんじゃないですか?」

 

私と妖夢が尋ねると、ユウキさんはうーんと唸ってから答えた。

 

「確かに、勝つだけならもっと早く済ませる事出来たけど。それじゃ妖夢から話聞けないと思ってさ」

「私から話を? どういう意味ですか?」

「ただ勝つだけじゃ、妖夢は主のしようとしている事を教えてくれないと思ったんだよ。人里で会った時から忠誠心は高いと気付いたし」

 

そこで私に意味ありげな視線を送ってきたので、思わず目をそらす。

私だって妖夢に負けないくらい忠誠心はあるわ。だけど、たまに遊んでしまう事もあるのよね、最近は特に。

でも確かに私がもし、妖夢の立場だったら負けても教えなかったでしょうね。

数カ月前の異変の時、私は霊夢に弾幕ごっこで負けたけれども、レミリアお嬢様がなぜ紅い霧を出したかは、黙っていたし。

 

「尋問や拷問は何度もしているし、口が固い奴から情報仕入れる手段も色々知ってるけど、そういうのは今回したくなかったからな」

 

拷問と聞いて妖夢が若干顔色悪くしたわね。

ユウキさんもユウキさんでケロッと軽く言う物だから、尚更現実味あってリアルね。

まぁ、元いた世界で何をしてきたかは、聞く気はないし、聞きたくもないけど。

 

「だから、力づくじゃなくて妖夢が心から負けを認めたら素直に話してくれると思ってさ。結果はご覧の通り」

「なるほどね。だからあんなペテン師みたいな事したのね」

「ペテン師か、それは言われ慣れていたな」

 

あっはっはっはっ、と笑うユウキさん。

笑う所なのかしらこれ?

 

「……とことん私はあなたの手のひらで踊らされていたのですね」

 

妖夢ががっくりと肩を落としてるけど、そこまで気にする事ないと思うわ。

戦闘経験だけじゃなく、裏の仕事を数多く経験してきた場数の違いね。

その時だった。突然、私とユウキさんの胸元から眩い光が溢れ出てきた。

 

「な、何だ!? 巾着からだぞこれ!?」

「それは……春の光? お二人とも持っていたのですか!? てっきり博麗の巫女と魔法使いが残りの光を全て持っているのかと…」

 

あ、だからあの2人を先に行かせたのね。

 

「ぅぐっ!?……く、はっ、はっ……」

「ど、どうしたのユウキさん!?」

「どうされたんですか!? まさか怪我を!?」

 

春の光が少し収まってきたと思ったら、今度はユウキさんがうめき声をあげてしゃがみこんでしまった。

どこか怪我でもしていたのかしら? でも、外見はどこも斬られていないのに。

 

「い、いや怪我じゃない……さっきも感じたけど、とても嫌な感じがする。このままだと……霊夢達が危ない! 咲夜、力借りるぞ!」

 

そう言うとユウキさんは私を視てから飛びさってしまった。

これは幻想支配で私の力をコピーしたようね。

 

「えっ? い、今ユウキさんから咲夜さんの気配が?」

「説明は後よ。私達も追うわよ。確かに、嫌な気配、いえ力をあそこから感じるわ!」

 

でも嫌な力どころじゃないわね。

とても邪悪でドス黒い力、フランお嬢様が暴走していた頃よりも遥かに危険な力を感じるわ。

 

一体何があったのかしら?

 

 

 

 

妖夢と戦うユウキさんを咲夜に任せて、私と魔理沙は冥界の奥へと進んで行った。

山のような高さの階段を飛びあがっていく。

目指す階段の先には門があり、その向こうの空が桜色に輝いている。

 

「なぁ……本当に大丈夫なのか? アイツ、妖夢と弾幕ごっこじゃなくガチでやりあう気だぜ?」

「それくらい知ってるわ。何を考えているかは知らないけど、咲夜もいるんだし、ユウキさんなら妖夢に負けないし、大丈夫でしょ」

 

全く。私が近くにいるのに弾幕ごっこじゃなくて、ガチ勝負する気だなんて。

この前紅魔館の門番と本気の手合わせしたって聞いて驚いたけど、今回はそれ以上ね。

でも、今はそれどころじゃないわ。

 

「あそこで私達が足止め食らってるわけにはいかないのよ。あそこからとてつもなく嫌な力を感じるわ。早くアレをどうにかしないと、トンでもない事が起きる、そんな予感がするのよ」

「げぇ、霊夢の予感はシャレにならないぞ!? そりゃあ急がないとな!」

「そう言う事。さぁ、着いわ」

 

長い階段の先にある門をこえ、白玉楼に入った私達。

辺りを見渡すと奥に大きな桜の木が見えた。

離れたここからでもはっきりと見える立派な桜の木ね。

 

「あそこね……ん? 誰かいる?」

 

桜の木に誰が浮かんでいるのが見える。どうやら踊っているようね。

あれが異変の元凶西行寺幽々子のようね。

 

「霊夢、あの桜の木の下を見ろ、下を!」

「どうしたのよ魔理沙、まさか桜の木の下には死体が埋まっているだなんて迷信……えっ!?」

 

桜の木に近付きながら、魔理沙に言われた所を見てみると、人影が2人倒れているのが見えた。

そのうちの片方は尻尾が9本生えている。

 

「まさか……紫!? 藍!?」

 

桜の木の下には、死んだようにぐったりとしている八雲紫と藍の姿があった。

倒れた2人の上で優雅に舞う亡霊姫が、私達に妖しく微笑む。

 

「ようこそ、西行妖へ。そして、死出の旅路へ逝ってらっしゃい」

 

 

 

続く




はい、妖夢戦終了です。
ユウキが押してると見えて、実はほぼ互角でした(笑)
前回が変にテンポ悪かったので、今回はほぼシリアスでした。
次回からは幽々子戦……?

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