幻想支配の幻想入り   作:カガヤ

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今年最後の更新になります。


第51話 「異変」

鬼のように不機嫌な霊夢の理不尽な弾幕をなんとか避けきり、気絶したリリーホワイトを背負って紅魔館へとやってきた。

最初は人里へ連れて行こうかと思ったが、紅魔館の方が近いのためこっちにした。

レミリアに事情を話すと快く受け入れてくれた。

 

「へぇ、この子が春を告げる妖精なのね。噂でしか聞いた事ないけど、確かにうちにいる子とは違うモノを感じるわね」

 

客室のベッドで静かに寝息を立てているだけで、リリーホワイトには特に怪我はないようだ。

 

「うちのメイド妖精と比べるのは可哀相でしょ。この子はちゃんとした役目があるもの」

 

パチュリーはリリーホワイトが手に持っていた光について調べている。

幻想郷生まれの霊夢や魔理沙も見た事がない光らしい。

 

「それにしても、あの妖夢が本気であなた達に斬りかかるなんて思わなかったわね」

「うんうん。あのお姉さんものすごくアホの子にみえたもん」

 

吸血鬼姉妹は俺や咲夜から聞いた妖夢の変わりように驚いていた。

ま、それは俺も咲夜も同じだけど。

 

「霊夢、魔理沙2人は妖夢の事何か知ってるか?」

「魂魄妖夢と言う名前に聞き覚えはあるし、それらしい人影はたまに見かけたけど特に話した事はなかったわね。魔理沙は?」

「私は名前さえ聞いた事ないぜ。あ、でもたまに人魂らしいのを見かけるって話は聞いたけどな」

 

どうやら霊夢も魔理沙も妖夢の事はよく知らないようだ。

 

「でも、魂魄家は冥界の白玉楼に代々使える護衛兼庭師、と言うのは知っているわよ」

「冥界? なんだ幽霊の世界でも幻想郷にはあるのか?」

 

聞くからに幽霊だらけの場所と言う感じがするな。

 

「冥界は死後閻魔から転生や成仏を命じられた幽霊が駐留する場所よ。幻想郷のどこかにあるはずだけど、正確な場所は私も知らないわ。結界が張られていて生者は往来も認知も出来ないけど、魂魄家や一部の者は通れるらしいわ」

 

幽霊がいる時点で転生やら閻魔やらは驚かないけど、とことんファンタジーだな幻想郷は。

 

「ともかく、冥界に住む妖夢が原因で幻想郷に春が来ないのか?」

 

魔理沙が言っている事の半分は正しいだろう。

どうやって春が来ないようにしているかは分からないけど、妖夢が実行犯なのは間違いない。

でも真犯人は他にいる。

 

「いや、妖夢は誰かに命じられてリリーを狙っていた。おそらくは冥界の主って言う奴が原因だろう」

「あ、あれ……ここは」

 

その時、眠っていたリリーホワイトが目を覚ました。

最初は自分がどこにいるのか分からず不安そうに辺りを見渡したが、俺と咲夜の姿を見て安心したように笑顔になった。

そして、俺達が自己紹介をして紅魔館だと告げ話を聞く事にした。

 

「あの、助けて頂いてありがとうございました! すみません、安心したら気がぬけちゃって気絶しちゃったみたいで、ご迷惑をおかけしました」

「……良かったわね。あの子、気絶する前後の記憶が曖昧みたいよ」

 

隣にいた咲夜に小声で言われ、うすら笑いを浮かべるしか出来なかった。

まさか俺の殺気に当てられて、それで気絶しただなんて言えないもんな。

 

「それでリリーホワイト。あなたが持っていたこの光、これ簡単に言えば 【春の光】 でいいのかしら?」

「あ、それ! すみません、良かった! 持って行かれなかったんですね!」

 

パチュリーが瓶に入った光を見せると、リリーはベッドから飛び起きて瓶を抱きかかえた。

よほど大事な物みたいだが、パチュリーが言った春の光とはなんだろう?

 

「春の光? リリーホワイト、最初から全部話してくれない? あなたがなぜ狙われていたか、あの光は何なのか、全部ね」

「あっ、はい……分かりました」

 

霊夢に促され、リリーホワイトは話し始めた。

 

「私は春を告げる妖精なのですけど、今年は全く春がくる気配がなくて、それで不思議に思って色々回っていた所、この光をやっと見つけられたんです」

「これね。で、この暖かい光は何なの?」

 

フランが指さした光はリリーホワイトの手の中でさっきよりも、強く輝きだし辺りが少し暖かくなった気がした。

 

「これは文字通り春の光です。春になると、この光が幻想郷を包みこんで春になるんです。でも、今年はこの光が幻想郷に見当たらなくて、やっと見つけたこの光もとても弱々しくて。それで、私は他の光を探していた所にあの刀を持った人に見つかったんです」

 

うーん、季節が変わると季節ごとの光が幻想郷を包みこむのか、理解できるような出来ないようなだな。

深く考えるのはやめておこう。そういうシステムとだけ理解しておこうか。

霊夢も魔理沙もポカーンとしている所を見ると、この事はあまり広まっていないのかもしれない。

 

「いや、なんで霊夢までそんな顔してるんだよ。まさか、知らなかったのか?」

「しょうがないでしょ。博麗の巫女が幻想郷の事全部知っていると思わないでよ、魔理沙」

「はいはい、霊夢が博麗の巫女としては勉強不足って事はよくわかったから。さ、話を続けて頂戴」

「なっ!? い、いいわよ。先を続けて、リリーホワイト」

 

レミリアの言葉に言い返そうとして黙った所を見ると、博麗の巫女としては常識の事だったのか。

 

「は、はい。あの人は最初、私が持っていた光を渡すように言っていたのですが、私が春告精である事に気付いて一緒に来るように言われて……私は怖くなって逃げたんです」

「なるほど。そこへ俺と咲夜がと言うわけか。で、なんで妖夢は春の光を集めているのか分かるか?」

「いえ、それは分からないです。あの人もそれは言っていませんでした。すみません。でも、あの人が白玉楼に来てもらうと言っていたので、きっと白玉楼という所にこの光は集められているはずです。でも、私には取り戻す力がありません……」

 

申し訳なさそうな顔をするリリーホワイト。だけど、これは彼女のせいではない。

 

「春が来ないと、冬眠中の動物や春の植物達が起きて来れなくなります。だから、早く春を取り戻さないと……」

 

リリーホワイトは目に涙を溜めて俯いた。

自分の役目を果たせない事で、幻想郷に春が来ない事への責任感が沸いているのだろう。

そんな彼女を見て、放ってはおけない。

 

「大丈夫だ。春が来ない原因が白玉楼にあると分かったんだ。後は取り戻せばいいだけだ。俺に任せろ」

「……あなたが取り戻してくれるんですか?」

「あぁ、俺は何でも屋だ。だからリリーホワイト、依頼してくれ。春を取り戻してくれと」

 

そう言うと、さっきまで沈んでいた彼女の表情が見る見る明るくなっていった。

 

「おいおい、ちょっとまてよ、ユウキ。取り戻すって、この異変をお前が解決するのか?」

 

魔理沙が驚いた顔をして言うと、霊夢も厳しい顔つきになり続いた。

 

「ユウキさん、これは立派な異変。解決するのは博麗の巫女である私の役目よ。だからあなたが関わる事じゃないわ」

 

魔理沙も異変解決しようとしている事はスルーか。

 

「分かってる。けど、もう関わっちゃったからな。最後までちゃんとしないと気が済まない」

「でも、いくら幻想支配という強い能力があるとはいえ、ユウキさんは空も飛べないただの人間なのよ!?」

「ユウキ、以前の異変の時はフランがあなたを呼んだから紅魔館へ来た。けど、今回あなたは自分から関わろうとしているわ。なぜ、そこまでするの? 霊夢に任せておけばいいじゃない」

 

レミリアはこう言っているが、彼女は俺がどう答えるか分かっているはずだ。

 

「俺は、俺が出来る事をするんじゃない。俺は今まで俺がやりたい事をやってきた。それはこれからも変わらない。だから……行く」

 

それにこの異変。何か嫌な予感がしている。

霊夢や魔理沙にだけ任せておくのは危険だと言う、勘。

こう言う時の勘は外れた事がない。

 

「そう。ま、あなたならそう言うと思ったわ」

「うん、お兄ちゃんは悲しんでる女の子を放っておけないもんね」

 

レミリアは満足そうに微笑み、フランもどこか嬉しそうに言っているが、その言い方は誤解を招きそうだな。

 

「あーま、こうなる予感はしてたんだよなー。けど、ユウキは強いから大丈夫だろ、霊夢」

「無責任な事言わないでよ、魔理沙。はぁ……朝からした嫌な予感はこれか」

 

魔理沙は苦笑いを浮かべ、霊夢はまだ何か言いたそうだが、渋々と言った顔だ。

パチュリーは溜息を吐き、咲夜はさっきから何か考え込んでいるようだ。

 

「リリーホワイト。あなたはとても責任感の強い子ね。大丈夫よ、ユウキならきっとあなたの願いを叶えてくれる。だから、安心して依頼しなさい。春が戻るまではあなたはここにいていいわよ。あの妖夢がまた来ても私達が追い払ってあげるわ」

「うん、リリーホワイトは安心して、お兄ちゃんに任せればいいんだよ」

「そこは普通、博麗の巫女であるあたしに言う事だと思うのだけどね……まぁ、いいわ」

 

レミリアに言われ、リリーホワイトは不安そうに俺を見上げていたが、フランにも後を押され意を決したように言った。

 

「ユウキさん、霊夢さん、お願いします。春を、みんなの春を取り戻して下さい!」

 

みんなの春、ね。本当にこの子は優しいんだな。

 

「その依頼確かに受けた。俺達が必ず春を取り戻す。それをここで待っていてくれ」

 

安心させる為に頭を撫でながら言うと、彼女は満面の笑みを浮かべた。

この時、複数の冷たい視線を感じたような気がするが、気にしない事にした。

 

「私は博麗の巫女としての責務を果たすだけよ。ま、その後はあなたの仕事よ。良いわね?」

「はい!」

 

霊夢の声がどことなく怖い気がするが、リリーホワイトは気付いていないようだ。

 

「おいおい。私の事も忘れてもらっちゃ困るぜ。冥界なんて行った事なかったからな、楽しみだぜ!」

「あーまだいたわね、魔理沙」

「すっかり忘れてた」

「こら! 私は最初からいただろ!? まさか、おいてけぼりにする気だったのか!? あ、まさか霊夢、ユウキと2人きりでデートのついでに行こうと……って、まてまて札を構えるな! ここで夢想封印はダメだろ!?」

 

魔理沙、お前のおかげで俺への視線が逸れた。感謝する。

 

「で、白玉楼がどこにあるか、誰か知ってるの?」

「「「あっ」」」

 

今まで黙ってきいていた、パチュリーがふと言った事に俺達はハッとなった。

異変の元凶が白玉楼にいる事は分かっても、肝心の場所が分からなかった。

 

「冥界の結界は私がどうにか出来るけど、場所までは知らないわね……適当に飛んでいけば着くでしょ」

「結局、霊夢の勘だよりで行くしかないか」

 

霊夢の勘の良さは俺も知っている。一番手っとり早く正確なのはこの方法だろうな。

 

「今日はもう遅いから紅魔館に泊まっていきなさい。今から行く気はないでしょ?」

 

外を見るともう日は沈みかけていた。

レミリアやフランの為にカーテンを閉めていたので、外が暗くなっている事には気付かなかった。

 

「そうね。今から神社に戻るのも面倒だし。せっかくだから、今日は世話になるわ」

「私もそうさせてもらうぜ」

 

俺も断る理由がなかったので、俺達3人は紅魔館に泊る事になった。

 

「わーい、御泊り御泊り♪」

「決まりね。咲夜、早速用意を……咲夜?」

「あ、はい。お嬢様、部屋と夕食の用意は済ませてあります」

 

レミリアに呼ばれ、ハッとした咲夜だったがもうすでに俺達が泊る準備をすませているとは、流石だ。

そう言えばさっきから咲夜はずっと黙っていたな。

パチュリーも黙っていたけど、それは俺達の会話を聞いていただけだ。

でも、咲夜は考え事をしているようだった。

 

「咲夜、ユウキの部屋は勿論大きなベッドがある部屋でしょうね?」

「勿論です。フランお嬢様と私と美鈴が一緒に入っても大丈夫です」

「流石、咲夜だね!」

「ちょーっと待ちなさい。パチェやこぁはとまかく、なんで私が数に入ってないのよ? さり気に自分を入れてるし!?」

「いやいや、私とこぁはともかく、って何よ!? 良いわよ、後でこっそりユウキだけを図書館へ転送させるから」

「あんた達……少し、頭冷やそうか?」

「「「「っ!?」」」」

 

……俺、1人で博麗神社に帰ろうかな。

 

「モテる男は大変だなぁ?」

「うるさい!」

 

ニヤニヤする魔理沙に割と本気でチョップした俺は悪くない、はず。

 

 

 

 

ユウキを中心にした賑やかな夕食が終わり、久々の満月を眺めながら私は部屋でワインを飲んでいた。

最近は夜は吹雪で雲に隠れて月どころか星すら見えなかったのに、今日は運が良いわね。

 

―コンコンッ

 

「……入りなさい、咲夜」

 

部屋のドアがノックされて、私は外を眺めながら咲夜を招き入れた。

別に私が呼んだわけでもないけど、訪問者が咲夜と言う事は容易に予想できた。

 

「失礼しますお嬢様」

「こんな時間にどうしたのかしら?」

「はい、実はお嬢様にお願いしたい事がございます」

 

咲夜は夕食のときは普通だったけど、今日は何か考え事をしていたのものね。

 

「それはお願いごとによるわね。どう言った事かしら?」

「実は、私も明日ユウキさん達に同行したいので、許可をもらえませんでしょうか?」

 

やっぱり。ユウキが異変解決に向かうと言った時から、ずっと何かを考えてたものね。

そこまで考え込まなくてもいいと思うのだけど、そこは咲夜らしいわね。

 

「いいわよ」

「えっ? あ、はい……ありがとうございます」

 

私があっさりと許可した事が意外だったのか、一瞬ぽかんとしたわね。

 

「何を驚いているの? ユウキの力になりたいんでしょ? 私が反対すると思った?」

「いえ、そうではなくて、何か言われるかと思っていましたが……」

 

あぁ、私が弄ると思ったのね? でもね、咲夜。そう言われたからには……ねぇ?

 

「ふふっ、私が何か言うと思った? 例えば、今日ユウキに助けられた時にキスをしかけた事、とか?」

「っ!? な、なななぜそれをお嬢様が!?」

 

一瞬で顔が真っ赤になったわね、少し湯気出てる気がするわ。

 

「私だけじゃないわよ? みんな知っているわ。フランや美鈴、こぁはとても羨ましそうにしてたわよ? パチェは何も言わなかったけど、結構不機嫌そうな顔をしたわね」

 

まぁ、私も結構心穏やかじゃなかったのだけど、そこは、私は、大人だもの!

すぐに冷静に慣れたわ。それに美鈴とだって彼は似たような事になったし……次は私が、だなんて思ってないわよ!?

 

「そ、それで夕食の時美鈴達の反応が冷たかったのですね。それにしても一体なぜ……」

「そんなの魔理沙が面白そうにバラしたからに決まってるじゃない? 怒った霊夢に一方的な弾幕ごっこを仕掛けられた事まで話してくれたわよ? そう言えば、あの時あなたはユウキと霊夢を案内していたものね」

 

さっきから咲夜は顔を真っ赤にしっぱなしね。羞恥心と怒りが交互にだけど。

 

「そ、そうですか……コホン。それではお嬢様、許可を頂きありがとうございます。では、失礼いたします」

 

無理やり話を切り上げたわね。

 

「待ちなさい咲夜。ユウキの事頼んだわよ?」

「? はい、わかりました……ですが、お嬢様。ユウキさんに何か不吉な運命でも視えたのですか?」

 

やけに念を押して言ったから、咲夜が不安そうな顔になったわね。

 

「そういうのじゃないわ。咲夜、あなたは彼がなぜ必要以上に妖夢を挑発したのか、不思議に思わなかったのかしら?」

「そう言われて見れば、少し違和感がありましたけど。でもそこまでは……」

 

ユウキが妖夢と対峙した時の事を魔理沙から聞いた時、私はユウキが必要以上に挑発したように思えた。

直接見たわけじゃないけど、ユウキの実力なら挑発しなくて妖夢に対処出来たはず。

これは、考えすぎかもしれない。だけど、彼の性格を考えると……

 

「ならいいわ。私の考えすぎかもしれない。とにかく、同行する以上、彼から眼を離さないようにね」

「はい、分かりました。失礼します、お嬢様」

 

咲夜は私が何をいいたのか分かったようね。

ユウキは、自分への関心がまるでない。

生にしがみついているわけでも、死にたがりというわけでもない。

だからこそ、彼は……自分の生死をまるで考えていない。

 

「ふぅ……全く、なんで私が1人の壊れた人間をこうも気にかけるのかしらね」

 

月に問いかけても、答えが返ってくるはずもなかった。

 

 

 

続く

 




クリスマスイブに外付けHDが壊れると言う惨事……クリスマスなんてキライダー!(ォイ

それはともかく、これで今年の更新は終わりです。
また来年もよろしくお願いいたします。

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