幻想支配の幻想入り   作:カガヤ

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妖々夢編スタート!
かなり独自設定強いです。


妖々夢編
第50話 「春告精」


5月に入っても寒く、雪は解ける気配を見せず降り続いた。

 

「今日も寒いわね」

 

朝ご飯を食べ終えて、外の雪景色を眺めながら霊夢がポツリと呟いた。

 

「流石にこれは異変じゃないのか?」

 

いかに冬が遅い年があるとはいえ、5月に入ってからもこの寒さはおかしい。

 

「間違いなく異変ね。と言っても、誰がどうやっているのか見当がつかないわ」

 

紅霧異変の時は紅魔館が霧の中心だったのですぐに解決できたが、今回はどうやっているのか分からないらしい。

誰が、何の目的で、どうやって行っているか。

そのどれも分からないのであれば、どこへ行けばいいのかも分からず、異変を解決出来ない。

 

「まぁ、勘で行こうとは思うけど、それにしたって目星くらいは付けたいわね。じゃ、行ってくるわ」

 

と言う事で、霊夢は出かけて行った。

俺も俺で寺子屋の仕事があるので、人里へと向かう。

 

 

人里でも冬が遅い事が話題になっており、道行く人が不思議そうに話していた。

寺子屋につくといつもの面子がいたが、チルノ達妖精や妖怪の子はいなく梨奈もいない。

フランは今日は一日パチュリーの訓練があると言ってたな。

チルノ達はたまに来ない時があったからいいけど、梨奈がいないのは珍しいな。

 

「梨奈ちゃん熱出しちゃって、来れないの」

 

子供達の1人が心配そうな顔でそう言った。

その表情からよほどの風邪なのかと思ったが、慧音は心配するなと言う顔をした。

 

「ただの風邪だ。食欲もあるし、少し寝ていれば大丈夫だろう」

「寒さのせいか。後でお見舞いに行ってくるか」

 

俺がそう言うと、慧音はやけにニコニコしていた。

 

「なんだよ。その顔は」

「いや、なんでもない。それより寺子屋をはじめようか」

「……分かった」

 

釈然としない中、慧音の授業が始まった。

相変わらず授業内容は小学生レベルだけど、慧音の教え方は高校レベル。

なので最近は俺が間に入って解説したりしている。

一応学園都市でもレベル5クラスの頭脳と言われてたし、これくらいならなんでもないがたまに自分がなんで寺子屋にいるのか疑問になってくる。

 

「慧音、冬の終わりを遅らせる事ってどうすれば可能なんだ?」

「ふむ、色々と方法があるとは思うが……どれが今回使われているかまでは分からないな」

 

最近天気が良くないので寺子屋の授業は昼ごろに終わった。

みんなが帰った後で慧音に季節の異常について聞いてみた。

慧音も独自で調べていたようだが、手掛かりがないのではっきりと断定出来ないみたいだ。

 

「魔法や能力の類じゃないと思うんだ。もしそうなら痕跡とかが分かるはず、と霊夢は言っていたぞ」

「そうだな。私も過去の文献を見て似たような事がなかったか、もう一度探ってみよう。そう言う事に詳しい知り合いもいる事だしな。あぁ、そうだ。その知り合いに君を紹介するのを忘れていたよ」

「どんな知り合いかは知らないけど、今はそれどころじゃないだろ」

「そうだな。彼女は君好みの可愛い子だから、気にいるかもしれないぞ?」

 

悪戯っぽい笑みを浮かべる慧音、全く俺を何だと思っているんだ。

 

「可愛い子なら今目の前に居るから十分だ」

「そうかそうか……って!? か、可愛いってそれはどういう意味だ!?」

 

俺が言った意味を理解した途端、慧音の顔が赤くなった。

この前も色々からかわれたし、たまには俺もやりかえさないとな。

 

「くっくっくっ、俺をおちょくろうとするから仕返しだ。じゃあな、慧音」

 

梨奈へのお見舞いの品も用意したし、行くとしよう。

 

「むむっ、君にからかわれるとは思わなかった。まぁ、いい、またなユウキ君。梨奈によろしく伝えてくれ」

「あぁ、からかいはしたけど、嘘を言った覚えはないぞ、慧音?」

 

さっきよりも顔を赤くした慧音が何か言ってくる前に、飛んで寺子屋を退散した。

 

 

 

梨奈の家に行き、ちょうど外で雪かきを終えたばかりの母親がいて部屋へと通された。

 

「あ、お兄ちゃん! お見舞いに来てくれたの?」

 

部屋では梨奈が退屈そうに横になっていたが、俺の顔を見ると布団から飛び起きた。

 

「おいおい、梨奈。ちゃんと寝てなきゃダメだろ?」

「そうよ。それに、ユウキさんに風邪を移す気?」

「あ、ごめんなさい……」

 

母にそう言われ、しずしずと布団へと戻って行った。

かなり聞き分けが良い子だけど、親の教育がいいのだろうか。それとも慧音や友達か。

多分全部だろうな。

 

「寝込んだって聞いたけど、その様子じゃ……大丈夫そうだな」

 

梨奈の額に手を当てたが、少し熱があるくらいで問題はなさそうだ。手を離すと梨奈は恥ずかしそうに布団にもぐった。

 

「あらあら、この子ったら急に静かになったわね」

「ぅ~、お母さん!」

「ははっ、それだけ元気なら大丈夫だな」

 

その後、少し話をして部屋を出た。梨奈はもっといてほしいと言ったが、風邪をぶり返すと大変なのでと言うと渋々納得したようだ。

で、早々に帰るつもりだったが、梨奈の母親にお茶でもと半ば強引に引きとめられてしまった。

 

「あの子は寺子屋でも一番歳が上で、皆のお姉さんとして慕われていました。だからでしょうか、兄や姉と言う存在にあこがれていたようで、ユウキさんに出会って兄が出来たように喜んでいますよ」

「俺は特に、何もしてないんですけどね。それにしても思ったより元気そうで良かったですよ」

「最近寒かったからでしょう。あの子が熱を出すなんて久々でしたよ。慧音先生に背負われて運ばれた時は驚きました」

 

慧音、口では大丈夫そうな事言っていたが、昨日はかなり慌てていたそうだ。

それでも薬を飲んで少し寝ると熱は下がったのが幸いだった。

 

「幻想郷でもここまで冬が長い事は珍しいんでしたよね?」

「えぇ、少なくとも私は経験した事はないですね。春告精も見ていないですし」

「春告精?」

 

梨奈の母からの聞き慣れない単語に首をかしげる。

 

「えぇ、リリーホワイトと言う名前で、文字通り春が来た事を幻想郷中に伝える妖精の事です。梨奈や寺子屋の子達と春が来ると花の冠を作ったりと、遊んでくれるんですよ」

 

春告精か……待てよ。

俺も霊夢も冬が長い異変と考えていたけど、春が来ない異変と考えればどうだ?

何者かが春告精を捕えるなりして、力を利用して春が来るのを遅らせているとすれば……

けど、母親からの事を聞く限り、春告精は春が来るのを告げるだけで、春を運んでくるわけではない。

でも手掛かりにはなりそうだな。

霊夢ならとっくに気付いているかもしれないけど、念の為聞いてみるか。

 

「あなたも霊夢ちゃんも風邪には気を付けてね」

「はい。梨奈にもまた寺子屋でと伝えてください」

 

母親に手土産まで頂いて、家を後にした。

日は少し傾きかけているが、それでも時間的にはまだ夕方になろうかというくらいだ。

 

「日の傾き方は春だよな、でも感じる空気は冬そのものだ」

 

真っ直ぐに神社に帰ろうとしたが、何かが引っ掛かる感じがしたので森へと向かった。

すると人里の方から誰かがこちらに飛んでくる気配がした。

後ろを振り向くと、そこへ来たのは咲夜だった。

 

「ユウキさん、こんにちは。こんな所で何をしているの?」

「仕事帰りだ。で、ちょっと森で気になる気配がしてな」

 

咲夜は買い物帰りのようで、籠を持っていた。

 

「ふーん。で、霊夢はまだ動かないのかしら? そろそろ燃料がつきそうなんだけど」

 

慧音も人里で冬の備えが尽きそうになってきていると言っていたな。

 

「霊夢はもう動いているぞ。でも、異変の原因や犯人がなかなか分からなくて、苦労してる。こう寒さが続くと風邪をひく子も出てきて早くどうにかしないととは言っていたけどな」

「そう。それならいいけど、お嬢様が 『私の時はすぐに異変解決したのに、今回は随分のんびりね』 と言っていたわ」

 

意外とレミリアのモノマネうまいな。

 

「それは本人に直接言ってくれ。霊夢だって寒いのは苦手と言ってたんだし、早く解決させたいのは霊夢も一緒だ」

 

その割には異変に気付くの遅かったけど。

 

「フランお嬢様は大喜びだけどね。湖の側でチルノ達とよく雪合戦をしてるし」

 

勿論、美鈴が付き添いしてるわ。と付けくわえた。

 

「きゃー」

 

その時だった。俺の耳に女の子の悲鳴が微かに聞こえた。

聞こえるかどうかほどの小さな声だったが、咲夜にも聞こえたようだ。

 

「今の悲鳴よね?」

「だな!」

 

放っておく事も出来ない。俺と咲夜は急いで悲鳴がした森の中へと入って行った。

今は霊夢の力を使って飛んでいるので、かなり飛行速度は速い。

 

「で、寄り道してていいのか?」

「あら、寄り道もたまには悪くないわよ? それより、あそこ!」

 

咲夜が指さす先には、見慣れない女の子が誰かから逃げるように飛んでいるのが見えた。

 

「おい! 大丈夫か!」

 

逃げていた子は俺に気付くと、猛スピードで飛びこんできた。

 

「た、助けてください!」

 

涙目で俺を見上げるこの子はどうやら妖精のようだ。

金色の髪に白い服ととんがり帽子を被り、背中には大ちゃんとは違った透明な羽が付いている。

握られた手には何かが握られているようで、暖かい力を感じた。

 

「来たわよ」

 

森の一角を見ながら、咲夜がナイフを取り出し構えると妖精の子は俺の背後に隠れた。

 

「……この気配は」

 

何か強い気配が森の奥からして現れたそれは……魂魄妖夢だった。

 

「あなた達でしたか、お久しぶりですね。今は急いでいますので、その後ろの子を渡してもらえますか?」

「久しぶりね。あの時とは随分と様子が違うようだけど、イメチェンかしら?」

 

咲夜が油断なく構えながら妖夢に尋ねた。

確かに、この前の妖夢はアホの子だったが、今目の前にいるのは毅然とした態度をして、隙のない抜刀の構えをしていてまるで別人だ。

これが、魂魄妖夢のもう一つの姿。

主の命に従い、使命を果たそうとする姿なのだろう。

 

「で、この子をどうする気だ?」

「……危害を加えるつもりはありません。少しの間だけ、来て頂くだけです。それと、渡してもらいたい物があります」

 

それ以上は教える義理も義務はない。そう刀を抜き放とうとしている妖夢は言っているようだ。

その言葉を聞き、ある一つの確信が俺にはあった。

 

「なぁ、君ってひょっとして春告精、リリーホワイトか?」

「は、はい。私の名前はリリーホワイトと言います」

 

見知らぬ人に名前を言われ、少し驚いた様子だったがこの子がやはりリリーホワイトか。

だったらまさか妖夢がこの子を狙う理由は……

 

「ねぇリリーホワイト。なぜ妖夢はあなたを狙っているのか分かる?」

「はい、あの人は少し前から春を集めていました。だから幻想郷に春が来なくなって、私も生き物に春を告げられなくなってたんです!」

「春を、集める?」

 

季節を集めるとは抽象的な意味ではなく、文字通りの意味だと思うけど、それにしても春を集めるとはどういう意味だろうか?

咲夜を見ると、彼女も意味が分からないようで首を振っていた。

 

「あなた達には分からなくていい事です。これが最後です、リリーホワイトを渡して下さい。そうすれば私も何もしません、ですが……これ以上邪魔をするようなら、斬ります」

 

脅しやハッタリではない。妖夢は本気で斬りかかってくる。

ゆっくりと彼方の抜くその一つ一つの動作に隙はない。だけど相当の剣の使い手と言うのはこの前出会ってからすでに分かっていたので、特に驚く事はない。

咲夜は今にも能力を使って妖夢を倒す気でいる。

それが一番てっとり速いが、それを行わないのは、妖夢に時間停止からの攻撃はこの距離ではあまり意味がない。そう本能で察知したからだろう。

それは俺も同感だ。それほど、妖夢は強い。

 

「へぇ、妖夢に俺が……斬れるかな?」

 

けれども、俺はあえて小馬鹿にしたような声で妖夢を挑発した。

 

「………」

 

その刹那、妖夢が俺のすぐ目の前まで来て刀で斬りかかってきた。

速い。あの距離を1秒もかからずに詰めてきた。

この速さでは咲夜が時間停止をしても、それよりも速く動くかもしれない。

 

「きゃっ!?」

 

リリーホワイトが短い悲鳴を上げ、咲夜が驚いた顔をしながら、時間を止めようとしていたが少し遅い。

それほど妖夢は速かった。けれども……俺はもっと速い。

 

「なっ!?」「えっ!?」

 

次の瞬間、妖夢と咲夜の声が重なった。

それもそのはず、斬りかかったはずの妖夢の手に刀はなく。

代わりに俺が右手に刀を構えて、妖夢の首にぴたりと当てていたからだ。

 

「な、なぜ……? 私の刀はあなたを捉えていました。なのになぜ!?」

「私の能力で? いえ、違うわね」

 

咲夜は幻想支配で俺が時間を止めたと考えたが、すぐにその考えを振りはらった。

それが正解。

俺は幻想支配を使っていない。

確かに寺子屋での雪合戦のように、咲夜の力を借りて時間を止めれば良かっただろう。

けど、それよりもこうした方が俺には速い

 

「今、何をしたんですか?」

「俺がそれを教えると思うか? 【敵】 であるお前に?」

 

その時、俺は殺気を籠めて妖夢を睨んだ。

宴会の時での幽香に絡まれた時以上の殺気を籠めた。

それだけで、妖夢の顔は怯み、一歩下がった。その隙を逃す気はない。

即座に妖夢の腹に蹴りを放つ。

うまくお腹に食い込んだ蹴りは容赦なく妖夢を蹴り飛ばし、そのまま遠くの木に背中から激突した。

 

「がはっ!?」

 

俺は間髪いれず、右手に持った刀を妖夢に向けて投げた。

 

「っ!?」

 

受け身を取れず、思いっきりぶつかった妖夢にコレを避ける事は出来ない。

が、刀は妖夢のすぐ側に突き刺さっただけだった。

自分の僅か数ミリに突き刺さった刀を見て、妖夢は気絶したようだ。

 

「俺が殺すと思ったか、咲夜?」

 

咲夜はいつでも時を止めれるように身構えていたが、手を出す様子はなかった。

 

「あれだけの殺気を出しておいて、よく言うわね。本気で焦ったわ、あなたが妖夢を殺すんじゃないかってね」

 

口ではそう言っていたが、恐らく俺が妖夢を殺さないと分かっていたと思う。

でも、俺の後ろにいたリリーホワイトはそう思っていなかったようで……

 

「きゅ~……」

「「あっ……」」

 

目を回して俺にもたれかかるように気絶していた。

 

「……小さい子の目前でやる事じゃなかったわね」

「あ、あははは。と、ともかく妖夢を捕まえて、なんで春を集めていたか聞くか」

 

気絶したリリーホワイトを俺が背負う事になり、咲夜が妖夢に近づこうとした時。

 

「っ、危ない!」

 

森の奥から妖夢の半霊である人魂が現れ、俺達に弾幕をばら撒いた。

咄嗟に背負おうとしたリリーを置き、咲夜を庇うように覆いかぶさった。

だが、身体に弾幕が当たった衝撃はなく、弾幕は俺達の周りにばら撒かれ雪煙が視界を覆った。

 

「ちっ、煙幕の代わりか。こりゃ逃げられたな」

 

背後に振り向くと雪煙の向こうには、もう誰もいなかった。恐らく半霊が妖夢を連れて帰ったのだろう。

思えば、妖夢が最初から半霊を連れていない事に気付くべきだった。

コレは俺の失策だな。

 

「ユウキさん……あ、ありがとう。でも……その、近い、わ」

「ん……っ!? あ、あぁ」

 

咲夜の方に向き直ると、すぐ目の前に真っ赤になった顔があった。

咲夜の吐息が俺の口に当たり、慌ててその場から離れた。

 

「ご、ごめん。その、大丈夫か?」

「だ、大丈夫よ……どこにも当たって、ないわ」

 

当たってない。それは弾幕の事だよな?

 

「それは、良かった。咲夜に怪我なくて……」

「ありがとう、助けられたわね」

 

そこで2人、無言で見つめあってしまった。

 

「……お前ら何してるんだよ?」

 

突然俺達の頭上から心底呆れかえったような声が聞こえた。

 

「えっ!? ま、魔理沙!?」

 

見上げた先には、苦笑いと呆れが混じった表情を浮かべた魔理沙が浮かんでいた。

 

「あー……私より、そっちを見た方がいいぞ?」

 

魔理沙のあきれ顔は一瞬でひきつり、俺の背後を指さした。

その時、俺と咲夜は突き刺さるような冷たい殺気にも似た視線を感じ、恐る恐る振り返ると

 

「悲鳴が聞こえたから来て見れば……ホント、ナニヲシテイタノカシラオフタリサン?」

「れ、霊夢……?」

「あ、あなたもいたのね……」

 

般若か鬼か、恐ろしい表情をした霊夢が腕を組みながら、今日の気温以上の冷たい眼で俺達を見下ろしていた。

 

 

 

つづく

 




ラブコメしつつ異変スタートです。
まぁ、明確にはとっくに異変でしたけど、色々な理由で気付くのが遅れました。
今年は後2回更新出来るかどうかです。

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