幻想支配の幻想入り   作:カガヤ

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お待たせしました!
日常編Ⅰラストです


第49話 「前兆」

4月も下旬に差し掛かった頃。幻想郷は未だに雪に覆われていた。

流石に怪しいとは思ったけど、慧音曰くここまで雪が残る事は昔からたまにある事と言う事だ。

最も霊夢も慧音も怪しんでいたようだけど、はっきりとは何かを感じてはいないようだ。

 

「まぁ、もうしばらくは様子を見る事にしよう。人里の皆もそれほど不審がってはいないよ。子供達は雪遊びがまだ出来ると喜んでいる程だ」

「そうだな、見ていれば分かる」

 

慧音と2人して寺子屋から外を眺めると、梨奈達人里の子供とチルノや大ちゃん達妖怪の子供が雪合戦を楽しんでいるのが見える。

その中にはフランの姿もあり、みんなと一緒で楽しそうだ。

今日はフランが初めて寺子屋に来る日だった。

前の宴会で慧音がレミリアと話をして、もう少し力の制御を学んでから来る事にはなっていたが、ようやく今日から通う事になった。

万が一の為にと、フランは俺と一緒に寺子屋に来る事にして、朝紅魔館でフランを迎えに行き俺は慧音の手伝いをしながらフランの様子を窺っていた。

人間を見慣れていないフランが人里の子となじめるか俺もレミリアも少しだけ心配していたが、その心配は必要なかった。

梨奈が真っ先にフランに話しかけ、他の子達もすぐにフランと友達になれた。

チルノや大ちゃん達も今日はいたので、馴染み易かったのもあるのだろう。

 

「梨奈は君の事でフランとよく話をしていたな。なかなかモテるじゃないか、ユウキ君」

「……ア、アハハ」

 

フランよりも一回り大きい梨奈が率先してフランに話しかけ、2人は大の仲良しになれた。

最も、大ちゃんやチルノも混ざり俺の事を色々話しているので、物凄く気恥かしい。

話している内容は……耳を塞ぎたくなるほどだったが。

 

「こんにちは、フランを迎えに来たわよ。どう、あの子はうまく馴染めたかしら?」

「失礼します。御無沙汰しております、慧音先生、ユウキさん」

 

そこへ咲夜を連れたレミリアがやってきた。

 

「おや、レミリア、こんにちは。フランの事ならこっちに来て実際に見てみるといい」

「よっ、こんにちは。俺らの心配はいらなかったぜ」

 

レミリアが窓から外の様子を見ると少し驚いたようだったが、すぐに優しい笑みを浮かべた。

 

「あの子をここに通わせたのは、正解だったみたいね。一日でこうもなるなんて。2人のおかげよ、ありがとう」

「私は何もしていないよ。最初は不安そうにユウキ君の方を見る事が多かったが、すぐにここに慣れたみたいだ」

「あら、流石はユウキさんね」

「俺は何もしてないっての、咲夜。礼は慧音やあそこでフランと遊んでいる梨奈や子供達に言えよ」

 

外ではフランと梨奈が雪まみれになりながら、ルーミアやリグルを追いかけていた。

そんな光景をレミリアは羨ましそうに見ていた。

 

「そんなに羨ましいなら混ざってきたらどうだ、レミリア?」

「へっ? う、羨ましい? 私がそんな事思うわけないじゃ…ヘブッ!?」

 

窓から半分身を乗り出してまで、外を眺めているのに説得力皆無だな。

で、顔を赤くしてレミリアが否定していた所に、どこからともなく雪玉が見事に命中した。

 

「やった、命中♪」

 

雪玉を当てたのはフランで、もちろんわざとだ。

さっきフランに目で合図を送ったのだが、うまく通じたようだ。

 

「フ~ラ~ン~! 良い度胸じゃない!」

 

レミリアは雪まみれの顔のまま、窓から外へ飛び出た。

一応フランと同じくパチュリー特製の日焼け止めクリームを塗っているから、今日みたいな曇り空で長時間でなければ日傘がなくても大丈夫らしい。

フランと梨奈目がけて雪玉を投げまくるレミリアは、外見相応の子供っぽかった。

それを咲夜は暖かい目で見守っている。

 

「咲夜はどうするんだ?」

「そうですねぇ、ユウキさんは?」

「俺は見ているよ……」

 

と、その時俺達に向けて雪玉が投げられた。それも割と本気の速度で。

 

「むきゅっ!?」

「……どうやら誘われてるみたいだな」

「そのようですね」

 

が、次の瞬間には雪玉は2つともレミリアに命中していた。

てかレミリア、その叫びはパチュリーのだろ。

 

「っ!?……あぁ、時を止めたのか」

 

慧音が今の一連の流れを不思議がったが、俺の目をみて納得したようだ。

ついさっきスカーレット姉妹が、割と本気で俺達に向けて雪玉を投げてきたのを見えた。

なので俺は即座に幻想支配で咲夜の力を使い時間を停止して、俺と咲夜のすぐそばまで迫っていた雪玉をレミリアに投げ返した。

まぁ、俺か咲夜が時間停止してどうにかすると思ってたみたいだけど、レミリアに2発とも投げ返されるとは思ってなかったようだ。

 

「仕方ないな。せっかくだし、慧音もどうだ?」

「そうだな。たまには童心に帰って楽しもうか」

「ふふっ、下剋上の時間ですね」

 

と言うわけで俺達3人も雪合戦に混ざる事になった

咲夜、何だか嬉しそうだな。それに割と本気で言ってないか?

 

 

 

結局みんなで雪合戦をした。

俺、慧音、咲夜対その他のチームでやったけど、結構盛り上がった。

それからそれぞれの親が迎えに来て、お開きとなった。

咲夜が買い物をしてから紅魔館に戻ると言うので、俺も霊夢から頼まれていたのもあったし一緒に買い物を済ませた。

レミリアもフランも一緒だ。

 

「でもまさか、お姉様が迎えに来てくれるとは思わなかったよ」

「そうだな。よっぽどフランが心配だったか?」

 

フランと俺がニヤニヤしながらレミリアを見ると、本人は顔を赤くしてそっぽを向いた。

 

「わ、私は別にフランを迎えに行くついでに、咲夜の買い物に付いてきただけよ!」

「お嬢様、それは言い方が逆だと思います。ですが、間違ってはいないですね」

 

咲夜までもがニコニコ顔でそう言うと、レミリアは顔を更に真っ赤にして帽子を深く被って顔を隠した。

 

「ふふっ、お姉様可愛い♪」

「ははっ、これじゃどっちが姉だか分からないな、ん?」

 

その時、白い何かがフワフワ浮いているのが目に止まった。

少し大きめの籠がぶら下げている。

 

「うわぁ、なにあれなにあれ!」

「人魂かしら? でも何か違う感じがするわね。咲夜は知ってる?」

「いえ、私もあのようなものは初めて見ました」

 

フラン達も気付いたようだけど、何なのかまでは分かっていないようだ。

道行く人もチラチラ視線を送るが、特に気にはしていないようだ。

人魂のようなものは左右に動いていて、まるで何かを探しているかだ。

やがで俺達の前までやってくると、首をかしげるかのような仕草で止まった。

 

「俺達に何か用か?」

「あなた躊躇なく話しかけるわね」

 

俺に何かを訴えるかのような仕草で思わず尋ねたが、レミリアに苦笑いをされた。

確かにこんなのに声をかけるなんて酔狂だろうけど、まぁそれだけ幻想郷に馴染んだと言う事だ。

 

「あ、何か言ってるよ。でも……」

「何を言いたいのでしょうか?」

 

人魂は必死で身体を動かしたり、尻尾の部分をパタパタさせたが俺達には何も伝わらない。

 

「うーん、俺達が何を言っているかわかるか?」

 

こっちの言葉は分かるようで、激しく頷いてきた。

 

「わぁ~この子可愛いよ! お姉様この子、飼っていい!?」

 

人魂の仕草が可愛らしくフランのツボにハマったようで、思わず抱きついた。

 

「ダ、ダメに決まっているでしょ。せめて手足が付いているものをペットにしなさい」

 

と言いつつも、レミリアも人魂の仕草に心惹かれているのか興味津々といった目をしている。

そんな主に苦笑いをしていた咲夜だったが、ふと顔をあげた。

 

「どうかしたのか、咲夜?」

「どうやら、この子の飼い主が現れたみたいよ。ほら、あそこでキョロキョロしている子がいるわ」

 

咲夜が指さした先には、白髪でオカッパ頭の少女両手いっぱいに食べ物が詰まったかごバックをかかえ、こちらに向かって走ってきてるのが見えた。

 

「もう、どこに行ってたの! 探したんですよ!」

 

オカッパ娘は俺達が目に入っていないか、一直線に人魂に向かって説教を始めた。

人魂もシュンとなって、ペコペコと頭を下げながら何かを言っているようだ。

 

「お腹が空いていた所に良い匂いがしてきたから、それでついフラフラと? ってあなたは幽々子様ですか!? って私に言ってもしょうがない!? いやいや、私はお腹など空いていない! 武士はくわねど親知らずとおじい様が言っていたもの!」

 

傍から見てると1人で漫才をしている頭が残念な子に見えてくる。

大体爪楊枝じゃなくて、親知らずをどうするんだ。

今気付いたけど、この子2本の刀を持っている。

結構物騒な子だ。

 

「……この子、チルノと同類?」

「流石にチルノと一緒にするのは失礼だろ」

 

咲夜が真顔で失礼な事を……俺も同じ事考えてたけど。

 

「おい、そこのお前。いい加減私達に気付きなさいよ」

「何ですか、私は今忙しい……って誰だお前達は!? 気配が全くしなかった……タダ者じゃないわね」

「ねぇ、お兄様。この子頭が可哀相」

 

レミリアが溜まりかねて声をかけて、アホな子はそこでようやく俺達の存在に気付いたようだ。

で、とうとうフランにまで心底同情されてしまったぞ。

 

「フラン。世の中には色々な人がいるんだ。チルノ以上の頭が空っぽな人もいるんだ。でも、そう言う人に出会っても何も言わず暖かい目で視てあげるのが大事なんだぞ?」

「うん、分かった!」

 

元気よく返事をしたフランは文字通り暖かい目で、アホっ娘を見つめた。

つられて俺や咲夜達も同じような目をした。

 

「な、何なんだお前達は! そんな目で私を見るな、照れるだろう!」

 

本気で照れてるぞ、コイツ。

 

「……咲夜、私頭痛くなってきたわ」

「奇遇ですね。私もです」

 

紅魔主従コンビが揃って頭を抱えると言うシュールな光景は、結構レアだけどこれじゃ話進まないな。

いや、進まなくていいからとっとと買い物済ませて帰ろうか……

その時、人魂がアホっ娘に向けて何かを訴えた。

 

「ん、今まで迷子になっていて、私を見かけなかったかこの人達に聞いてた所だった? そ、それは失礼しました。私がご迷惑をおかけしました!」

 

アホっ娘はやっと事情を理解し、急に口調が変わり俺達に頭を下げた。

 

「ねぇねぇ、あなたは誰? そのお餅みたいなのは何?」

「私の名前は魂魄妖夢と言います。これはお餅ではなく、私の半霊です。私は半分人間ですが、もう半分は幽霊なんです」

 

魂魄妖夢、聞いた事ない名前だな。

それに半分幽霊か、どうりで変な気配がしたと思った。

俺達も自己紹介をした所で、レミリアが半霊を興味深そうに眺めた。

 

「半霊って言う事はこれもあなたって事なの?」

「はい。本体は私自身ですが、この半霊もまた私なんで……ヒャッ!? な、何するんです、アヒッ!?」

 

妖夢はいきなり変な声をあげ、よがるように身体をクネクネさせた。

何事かと思ったが、フランが半霊に雪を乗せているだけだった。

 

「あははは、おもしろーい! じゃあこうしたらどうかな?」

 

良い玩具を見つけたように瞳をキラキラとさせたフランが、今度は半霊をくすぐり始めた。

 

「っ、や、やめ……やめて、くだしゃ……っく」

「うわぁ~」

 

顔を真っ赤ににして必死に笑い声を抑えている。

その様子が卑猥を通り越して、すごく可哀相に見えてきた。

 

「フランお嬢様その辺でやめてあげてください」

「はーい」

「っ~、はー……はー……な、なんとか勝ちました」

 

見かねた咲夜がフランを止めたが、妖夢何と戦っていたんだ?

 

「私の妹が迷惑かけたわね。大丈夫かしら?」

「こ、これくらい……平気です、鍛えてますから」

 

妖夢は笑みを浮かべてレミリアに答えたけど、その顔はまだ赤い。

 

「ごめんね。はいこれさっき落とした荷物だよ」

「ふー……いえ、大丈夫です。ありがとう、フランちゃん」

 

どうにか息を整え、落ち着いた妖夢が落としたかごバックをフランから受け取った。

その時ちらりとバックの中身が見えたが、びっしりと野菜やら食料品がつめこまれていた。

半霊が持っていたのと合わせるととてつもない量の食料だ。

一体何人分何だろ?

 

「ひょっとして、半霊が持ってるあの籠にも食糧がびっしりと?」

「あ、はい。ここで買ったものだけではなく、森や川などで見つけた山菜や魚が入っています」

 

それを聞いて、俺もレミリアも口があんぐりと開いてしまった。

半霊の持っていた籠をみせてもらったけど、確かに山菜や魚が入っている。

 

「あなた、すごい量ね。一体何人分の食料なの?」

 

咲夜もそれを見て驚きながら尋ねた。

紅魔館も人が沢山いるとは言え、それに比べても多い。

 

「……あ、いえ、これは私と幽々子様、私の主との2人分、です」

「「「2人分!?」」」

 

俺達は驚いたが、妖夢もこれで2人分なのはおかしいと分かっているようで恥ずかしそうに小声だ。

 

「幽々子様は大食でして、それにちょっと最近忙しくてこれからも忙しくなるので、食料の買い溜めしておこうと思いまして」

 

それを聞き、レミリアが少し眉をひそめた。

何か気になる事でもあるのだろうか?

 

「あなたも咲夜と一緒でメイドみたいな事してるのね。それじゃあ、その刀は何?」

 

フランは次に妖夢が腰に指している刀を指さした。

 

「これは魂魄家に代々伝わる刀です。私は幽々子様の警護役ですから」

 

ますます咲夜みたいだな。咲夜は洋風だけど、妖夢は和風と言ったところか。

 

「へー咲夜みたいでかっこいいね」

「あはは、ありがとう。では、私はそろそろ帰らないといけませんので、これで失礼します」

「うん、ばいばーい!」

 

妖夢は半霊を連れて飛んで帰って行き、それをフランは手を振って見送った、。

レミリアはさっきからずっと妖夢を訝しそうに見ているし、咲夜もそんなレミリアが気になっているようだ。

 

「お嬢様、先程からじっと妖夢を見ていましたが、何か気になる事でも?」

「……何でもないわ。私の気のせいかもしれないし、それよりあなた達は何か感じた?」

「私は特には、剣術の達人だと言う事しか……ユウキさんはどうでした?」

「俺も同じだ。妖夢はアホかもしれないけど、剣の腕はかなり立つな」

 

直接やりあってないから何とも言えないけど、両手にあれだけの荷物を持っていたのに全くフラフラしていなかった。

流石に半霊をいじられて落としてはしまったけどな。

それにあの刀、使いなれている。

剣術はそれほどでないけど、ナイフでならいい勝負が出来そうだ。

 

「そう。それじゃあそろそろ帰りましょうか、フラン、咲夜。あ、忘れる所だったわ。ユウキ、冬がまだ終わらず寒い日が続く事、霊夢は何か言っていたかしら?」

 

レミリア達もまだ春が来ない事を変に感じていたようだ。

 

「いや、変かも知れない。とは言っていたけど、まだそこまでははっきりと異変だとは言っていなかったな。慧音が言うには昔は雪が遅くまで残っていて春が遅かった年もあったそうだ」

「それなら、もう少し様子を見ましょうか、それじゃまたね。たまには紅魔館にも遊びにいらっしゃい、美鈴やパチュリーが会いたがっていたわよ。勿論、フランと咲夜もね」

「あ、お姉様自分の事忘れてるよ」

「そうですね。本当は今日フランお嬢様に付いてきたのは、ユウキさんに会えるのも理由の1つでしたのに」

「だ、誰もそんな事言ってないじゃない! 咲夜だって今日身支度に少し時間かけてたじゃない! 誰を意識してたのかしら?」

「当然、ユウキさんですよ?」

「は、はっきり言ったわね……」

「お前ら、そういう会話は本人の目の前で言うなよ……」

 

ものすっごく恥ずかしい。さっきから人里の皆の注目の的になってんだよ!

しかも、何だかクスクスと笑われてるし、暖かい目で見守られながら何かささやかれてるし!

フランは何ともないようだけど、レミリアと咲夜は流石に恥ずかしいようだ。

顔を赤くして、わざとらしく咳払いをした。

 

「コホン、そ、それじゃあ今度こそまたねユウキ」

「お兄ちゃん、まったねー!」

「失礼します。ユウキさん、御身体に気を付けてくださいね」

「あぁ、またな」

 

苦笑いを浮かべつつも、3人を見送って……ある事に気付いた。

 

「あ、やばっ……幻想支配で誰か視るの忘れてた。どうしよう、雪道をこの荷物で歩いて帰るのは少しキツイかも。米もあるのに」

 

結局寺子屋まで戻り、慧音の力を借りて博麗神社へと飛んで帰った。

 

 

その日を境にますます寒さと雪が厳しくなり、幻想郷は春どころか完全に真冬になってしまった。

 

つづく

 




妖夢が初登場!
しかし……どうしてこうなった?(汗)

次回から妖々夢編です。

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