『外来人に関する報告書
対象者
氏名:ユウキ
名字は不明。数回尋ねた事はあったが、返答はなし。
種族:外来人
ただし、外の世界からきたのではなく、未知の異世界から流れてきたので異世界人とも言える。
幻想郷や外の世界の人間と構造上の変わりはなし。
性別:男性
年齢:16
外見:少し赤みがかった黒髪、こげ茶色の目、身長は高く香霖堂の店主並、体重は不明だが推定数値は標準並。
筋肉質で全身が引き締まっており無駄な筋肉は付いていない。力でも速度に特化でもない、バランス型の肉体と言える。
目立つ所にはないが、全身に古傷がある。
身体能力:体力も含め全体的に極めて高い。博麗の巫女も含めた幻想郷の人間内では一番の能力値と思われる。
特筆すべきは動体視力と瞬発力であり、どんな弾幕をすり抜けて突破する眼力と体力がある。
魔術や幻術、呪術の類は使用せず、ただし、毒物や薬物への対抗力は高く、自然治癒力と免疫力も高いと推測される。
性格:良い意味でも悪い意味でもお人よしであり、困っている人には手だったり口だったり出す偽善者。
温厚ではあるが、冷酷さも持ち合わせている。
悪人である事を自称していて人を殺すことへの抵抗感はないが、まずはそれ以外の方法を模索する。
自分より他人を優先させるが、自滅志願者でも自己犠牲者でもなく他者依存者でもない、形容しがたい性格。
特徴:子供に好かれやすく、本人も子供には弱い。だが、敵として現れた場合には老若男女問わず容赦はない。
元いた世界では人殺しや暗殺、護衛、破壊活動など様々な活動をしていた何でも屋らしい。
対価を払えば自身への実験も了承する。気配を読む事に長けていて敵意や殺意に敏感だが、好意には困惑を示し鈍い面もある。
能力:幻想支配(イマジンロード)
能力を持った人物を視る事で、その能力をコピー出来る異能。
視た相手の能力を強制的に停止させ、発動も阻害する事が可能。
その際、目の色が変わる。目の色は視た相手が使用する力によって変わる。
人間がもつ霊力は青、妖怪が持つ妖力は銀、魔法使いの魔力は赤、妖精など自然が具現化したものの力は緑となる。
ただし条件があり、初めて視る異能相手や強大な力の持ち主相手では視れない事があったり、効果が現れるまでに時間を要し、コピー出来る時間もごくわずかに限られる場合がある。
弱点:幻想支配は1人しか効果を発揮せず、多人数の能力を一度にコピー出来ない。
また、能力を無効化している間は身動きが取りにくくなる。
本人自体は霊力も魔力もないただの人間なので、単体では空を飛べず弾幕も撃てない。
また、力を用いない身体能力には効果がない。
例えば現在はいないが鬼を幻想支配で視た場合、鬼の能力はコピーできても身体能力はコピー出来ず、天敵となると本人も認めている。
対処法:前述の通り、強大な力を持つ相手ほど優位に立てるので、単体では天狗とはいえ分が悪い。
加えて身体能力も高い為、白狼天狗では例え数人掛かりでも返り討ちの可能性が高い。
それでも彼を排除しなければならない時は……』
「だぁ~……もう!」
そこまで書いて私はレポートを書いた紙を丸めて、ゴミ箱へと放り投げた。
「ダメだ……うまく書けない。いえ、書きたくない……」
外来人のユウキさんの事を大天狗様に報告する為、報告書を書きだして数時間経ったけど一向に進まない。
「脅威性、ねぇ。こっちが敵に回す事さえしなければ大丈夫だと思うけど……」
大の字に寝転がり外を見ると、もう日が傾き始めていた。
「昨日の宴会は楽しかったなぁ……せっかく、良い気分だったのに」
今朝軽い二日酔いの中、大天狗様から直々に報告書を催促された。
確かに、数日前に言われてそれから色々調査はしてきたけど、そこまで急かされるなんて。
「ま、幻想支配の事知ったら黙っていられないのは分かるんだけどね」
やっぱり隠しておくべきだったかなぁ。でもそれは色々まずいし。
「こうも気乗りしなくなるとは……はぁ」
本日何度目かの溜息。
朝から彼の今までの監視報告を纏めているけど、どうしても最後の項目が書き進められない。
ユウキさんが 【退治する側】 ではなく 【敵】 として現れた場合の対処法。
簡単に言えば、どうすれば彼を殺せるか。
「敵、か。異変が起きれば解決する為に、私や他の天狗と対峙する事もあるだけど……」
さっきから同じような考えが、頭の中でグルグル回っている。
彼が敵として現れたらどうするか。
私は、彼を……殺せるか。
「……そんなの、考えたくないに決まってるじゃない」
そんなのは絶対に嫌だ。
「あらあら、随分乙女ちっくな顔してるわね」
突然、この場にいないはずの声が聞こえてきた。
「この声は……あなたですか、八雲紫」
後ろを振り向くと、いつからそこに居たのかスキマ妖怪が立っていた。
「覗き見なんて相変わらず悪趣味ですね」
「覗き見じゃないわ。あなたが書いた報告書を拝見していただけよ」
「もっとタチ悪いですね!?」
スキマ妖怪が手に持っているのは、恐らく私が今日書いていた報告書。
破って燃やすべきだったわね。
「うふふっ。ごめんなさい。あなたが彼をどう評しているか、ちょっと気になったのだけど……例えばコレ。
『子供に弱いが、そういう性癖はないのが救い。』とか『一番好きな動物は狐、次に猫・犬なので、椛に会わせるのは色々な意味で不安』とか『軽い色仕掛けではたじろぎもしないので、多少の強引さも必要。胸を押し当てるのは効果的。私の胸でも大丈夫か……』とかとか♪」
ええええええぇぇぇぇ~~!? それ私が最初に書いてすぐに恥ずかしくなって捨てたやつ!?
「ワァ~!? わぁ~!! うわぁ~~!!? ちょっ、何読んでるですかぁ!!?」
「うふふっ、あなたも女の子ねぇ。可愛い事考えてるじゃない♪」
なんで? それはちゃんと破って捨てたのに……あっ、戻したんですか、そうですか。
「……オワッタ、シノウ」
首をつろうか、それとも空から落ちて落下死にしようか……
私がフラフラと外へ出ようとすると、スキマ妖怪が苦笑いを浮かべながら肩を叩きました。
「まぁまぁ、待ちなさいって。この事は彼にも霊夢達にも秘密にするわよ。コレもホラ、この通り綺麗さっぱりよ」
スキマ妖怪が手に持ったメモを消し飛ばしたのを見て、私もようやく心が落ち着いてきた。
「……で、他に何かご用でしょうか?」
私が彼をずっと観察していたのを知っていて、その報告を堂々と盗み見る為だけとは思えないわ。
「そんな怖い顔しないでよ。色々な観点から彼を監視したかったのよ。お詫び……と言うか、代わりに良いモノみせてあげるわ」
そう言ってスキマ妖怪は、一冊の冊子をスキマから取り出した。
その冊子には 【幻想支配考察 パチュリー・ノーレッジ】と書かれていた。
「これは、紅魔館の魔女が?」
「えぇ、そうよ。あの魔女の観点から幻想支配を調べるようにとお願いしたの。で、ある程度の事が分かった訳よ。いいから読んでみなさいな」
そう言えば、あの魔女も幻想支配の事調べてたわね。
まー調査結果を見せてはくれないだろうな、とは思ってたけど、これは棚ボタ。
『幻想支配考察
結論を先に言うと、幻想支配・ユウキには霊力や魔力に該当する 【力】 が存在する。
しかし、その力は無色透明と言うべきものであり、どれだけの量を持っているか観測する事は不可能に近い。
ならばなぜ力の存在を確認出来たのか。それは彼が幻想支配を使用する過程を数日に渡り観察した結果である。
幻想支配とは、他者の霊力や魔力などを目で視て自身の力に染め上げるものである。
透明な水が様々な色に変化していくイメージだ。
彼の元々の力は無色透明なので他者の力を容易に浸透させる事が出来、尚且つ他者への力に干渉して同調させる事で支配する事も可能になる。
浸透させた力は行使する事で消耗して薄まっていき、元の無色透明な力に戻っていく。
また強力な力は自身に浸透させるのに時間を要し、またすぐに薄まっていく。
力を使えば使うほどに能力の使用時間が伸びて行くのは、彼の力が他者の力に慣れて行き、使っても薄まる割合が小さくなっていく為である。
幻想支配の能力使用条件もいくつか分かった事がある。
① 霊力や魔力などを使わない能力は、幻想支配が通用しない事。
② 道具や武具を必要とする能力の行使には、力をコピーするだけでは使用出来ないと言う事。
②については彼自身の口から説明があった。
元いた世界の魔術師達は何らかの霊装と呼ばれる道具や魔道書を用いて魔術を発動させる。
彼がその魔術師が使える魔術を行使する為には、その道具がなければ使用できない。
ただし、魔道書や霊装を使わず己の魔力のみで発動させる魔術は彼にも使用できる。
また、魔力を停止させる事が出来れば相手も霊装があっても魔術を行使できなくなる。
なので彼は元の世界の魔術師達からは特に警戒・嫌悪されていたようだ。
こちら側で例をあげるならば、霧雨魔理沙。
彼女の魔法は箒やミニ八卦炉を使用したものが多い。
魔法、スペルカードの1つ 【マスタースパーク】 はミニ八卦炉を使用する事で発動させていた。
もし彼が彼女の魔力をコピーしても、ミニ八卦炉を持たない彼ではマスタースパークは使用できない。
彼女がミニ八卦炉を使わずに発動出来るのかは不明だが、恐らくそれなしでは効果は激減するだろう。
①について。
これは体質による能力によるだろう。
能力持ちの幻想郷の住民は数多くいるが、大抵は霊力や魔力などの力を用いた能力が多い。
咲夜や美鈴も霊力や妖力を元にした能力だ。
ただし、幻想郷の能力は体質が元になった能力がある。
先日知った 【蓬莱人】 がそうだ。
藤原妹紅という蓬莱人は、【老いる事も死ぬ事も無い程度の能力】 と言う能力を持っている。
もし彼が藤原妹紅を幻想支配で視たとしても、この能力は使えない。
なぜなら、藤原妹紅は特別な薬を飲む事で不老不死になったので、霊力や魔力を使っていないからだ。
なので幻想支配で視た場合、彼女の霊力をコピーして、発火などが使えるようになるだけだ。
このように薬や元からの体質で得て、力を必要としない能力には幻想支配は無力である』
後冊子に書かれているのは、彼自身に関してや実験結果などで目新しい情報はなかった。
「蓬莱人に関しては、昨日の宴会で彼が実際に藤原妹紅を視て試したそうよ」
そう言えば、宴会の後半でユウキさんと魔女と蓬莱人の3人がどこかに行っていたわね。
はたてに絡まれていて後を追うどころじゃなかったけど、そんな事してたのか。
それにしても、昨日の宴会の後すぐにこの追加項目を書きあげたって事よね……
あの魔女も宴会で結構酔ってたと思ったけど、スキマ妖怪に急かされて急いでかきあげたのかしら。
……恐らくそうだろう。御愁傷様と心の片隅で手を合わせておく。
「なかなか興味深い内容でした。一応礼を言っておきます」
「レポートを見た代わりよ。ところで、さっきこれを博麗神社のユウキさんと霊夢に見せに行ったんだけど。彼はなんて反応したと思う?」
ユウキさんの反応ですか、幻想支配の事は彼も知りたがっていた感じだったし、元の世界でも分からない事だらけだったから喜んだか、驚いたかかな。
「ふーん。の一言で終わったわ」
「えっ? いや、もっと他の感想は? 驚いていたとか、喜んでいたとかは?」
「なかったわね。霊夢もその反応に驚いていたわ。これを読んで初めて分かった事が多かったみたいだけど、ものすごく淡泊だったわ」
か、彼らしいと言えばそうかもしれないけど、反応が薄いってもんじゃないわ。
でも……やっぱり彼は。
「霊夢と似ているようで、まるで正反対。他者に関心を持たない霊夢と自分に関心を持たないユウキさん。って所ね」
私と同じ事を思っていたのか、スキマ妖怪が呟くように言った。
「それが博麗神社に住まわせた理由の1つですか?」
ユウキさんを博麗神社に住まわせる理由。彼も考えていたみたいだけど、どうも霊夢に対しての何かの為に住まわせたみたいね。
最も、それだけじゃなくて別の理由も色々ありそうだけど。
「ま、そうね。彼に関わる事でみんな少しずつ変わっていったわ。紅魔館の連中も、それにあなたもね」
「わ、私はなにも変わっていませんよ!」
「ふふっ、その顔じゃ説得力がないわね。」
そう笑いながら言う彼女に私は抗議したが、どうも顔があつい。
「そんな彼と一緒に住む事で霊夢も何か変われば、と思ったわ。で、それが理由の1つ……あとは内緒よ」
「でしょうね。あなたはそんな単純じゃないですものね」
付き合いはそれなりに長いですが、スキマ妖怪の考えている事は簡単には読めないわ。
「ふふっ、そういう事よ。それじゃ、お邪魔したわね」
「あ、待って下さい。1つ気になる事があるのですが」
そう微笑んでスキマで帰ろうとする彼女を呼び止めた。
「……何かしら?」
スキマ妖怪は扇で口元を隠しながら振り向いた。
その目はさっきまでと違う。
「なぜ、あなたは 【まだ】 起きているのですか? あの吸血鬼や彼の事で目覚めたのは分かりますが、いつも目覚める時期には早いはず。もう少し睡眠を必要とするのではないですか?」
スキマ妖怪はいつの頃か冬の時期に数カ月眠るようになった。
妖力の回復の為か、もしくは別の理由かは知らないけど。
でも、今まで年末年始など冬の間に起きる事はあっても、すぐにまた眠りについていて本格的に活動を始めるのは桜が咲く時期だ。
今回は彼が来てからずっと起きている。
たまたま、と言う事も考えられるけど、違う理由があると思った。
これは記者としての勘と言うよりは、用心深い天狗としての勘。
「……近々何かが起きる予感がするのよ。嫌な予感と言うやつね。下手をすれば、吸血鬼達が来た時以上にもなりそうな程の……」
真剣な表情で言う彼女の目は嘘を言っているわけでも、冗談を言っているわけでもない。
これは、ちょっと厄介な事になるかもしれないわね。
「でも、その時は霊夢や彼に動いてもらうから。私は何もしないけどねー」
真顔から一転し、いつもの怪しい笑顔を浮かべあっけらかんと笑いながら、彼女はスキマに消えた。
「……はぁ~、どうも彼女と話すと疲れるわ」
スキマ妖怪が来た理由や、あの魔女のレポートの事は頭の隅に置いておくとして、まずは報告書報告書っと。
『幻想支配が敵対した時の対処法。
彼が自分から進んで妖怪の山へ敵対する事は考えられず、仮にこちらから彼を排除しようと動いた場合、最悪紅魔館や博麗の巫女、人里の守護者やその他多くの妖怪や人間を敵に回す可能性がある為、現時点で行動を起こすのは愚行である。
彼の能力は非常に脅威になるが信頼関係を結ぶ事こそ、我々への有益となりえる。
よって、彼の事は現状維持として観察の続行を進言いたします。
射命丸 文』
「よしっ、出来た!」
ようやく満足いく出来となったこの報告書を大天狗様へ見せた所。
「文……要するに彼を観察する名目で、彼の側にいたいって事じゃないのかこれは?」
と、やけにニヤニヤしながら図星を付かれた。
「そ、そそそそんな事あるわけじゃないですか、いやだなぁ大天狗様」
「はたてが文にも春がキターと言っていたが、こういう事だったか。いや、結構結構」
あの報告書を読んでどうしてそんな結論になるのか、大天狗様に言いたかったけど、まずは……
「変な事吹き込んだのははたてかぁ~!」
はたてとOHANASIする必要があるわね……
つづく
文に関するイベントばっか浮かんでくる……一番動かしやすいの彼女ですが(笑)
どうしても はたて を ほたて と打ってしまう今日この頃、また次回!(爆)