これが言いたかっただけで、全く意味はありません。
幽香の乱入があったが、アリスとも知り合えたしこれで宴会での初対面者はいなくなったはず。
途中チラホラと魔理沙から睨むような視線を感じたが、気にしない事にした。
「あら、どこにいくの? まだまだ飲み足りないわよ?」
「いやいや、少し飲み過ぎた。ちょっと外の空気吸ってから戻ってくるよ」
「人間にしてはペース早かったものね。いってらっしゃい、戻って来なさいよ?」
幽香から警告(?)を受けながらも、俺は宴会場の外の縁側に出た。
「流石にお疲れのようね」
外に出ると誰かに声をかけられ、横を向くと縁側の先に妹紅が座っていた。
彼女は1人で飲んでいたようで、大きな酒瓶と焼き鳥が盛られた皿を持ちながらこっちに向かってきた。
「流石にな。幽香みたいなタイプは初めてじゃないから慣れてるけど」
「ははっ、あなたはアイツが好きそうだものね。強いし、相手の力をコピー出来るし。でも目を付けられたなら気を付けた方が良いわよ?」
「あぁ……そうだな」
幽香は美鈴とは違った意味でのバトルマニアだな。
まぁ、そういう相手はあっちでも沢山いたし。
つい俺も殺気で応えちゃったけど。
「妹紅はどうしてこんな所で飲んでいるんだ? 慧音はどうした?」
「慧音はレミリアやフランと話してるわよ。私には分からない話だし、ちょっと休憩がてら夜風に当たりたくなってね」
そう言って豪快に酒瓶を飲む姿は、とても休憩に来たとは思えなかった。
「あなたも飲む? 思ったより残ってたみたい」
「じゃ、いただくかな……んぐっ、ふぅ、結構キツイけどうまいな」
苦笑いを浮かべて差し出された酒瓶をひと飲みしてから、これ間接キスじゃないか?
と思ったけど向こうが気にしてないみたいだし、俺からも何も言わなかった。
「良い飲みっぷりね。お酒は飲み慣れているの? 確か外の世界じゃ20歳にならないとお酒飲めないでしょ?」
「まぁな。そんなの俺の周りの大人は気にせずにいたけどな。酒の相手もさせられたし……」
本当は様々な身体状態で幻想支配の作用が変わるかの実験で、アルコールやら毒やら病原菌やらを接種させられたのが始まりだけど。
「なんだかここでも向こうでも苦労していたみたいね」
「向こうではともかく、ここじゃあまり苦労はしてないけど。みんな優しいと言うかお節介と言うか、物好きで世話好き多いし」
「あははは、その筆頭は間違いなく慧音ね」
笑った後、急に妹紅は空を見上げて黙ってしまった。
つられて俺も空を見上げる。
スモッグも電灯もない幻想郷の星空は透き通っていて、まるでプラネタリウムを見ているように綺麗だ。
「……あなたのいた所って、羽を生やしたりした奴とか色々なのいるのよね?」
俺が文とレミリアに言った事を思い出したかのように、妹紅が聞いてきた。
「あ、さっきは言いそびれたけど、吸血鬼は多分いる。実物は会った事ないけどな。後天使もいたな」
吸血鬼殺しなんて能力があるって事は、逆算的に吸血鬼は存在する事になる。
「て、天使!? それは私も会った事ない……」
そう驚くと妹紅はなぜか急に黙りこんでしまった。
辺りには風の音と、宴会場から聞こえてくる声だけが響き渡った。
何気なく妹紅の横顔を見ていると、何か変な感じがしてきた。
紅魔館で初めて会った時に感じた小さな違和感。
こんな近くで2人きりで話をして、それが強く感じた。
妹紅は人間だ。と慧音は言っていた。確かに妹紅は人間だと思う。歳も俺とあまり変わらない……ように見えるけど。
何だろうか。物腰や話し方、それ以外にもどこか遠くを見ているような、達観しているような面持ち。
こんな面持ちは俺と歳が近いとは思えない。
組織のボスとして、様々な経験を積んできたレイヴィニアのような大人っぽさとは違う。
小萌先生のような見た目は幼女中身は熟……いや、でもこれとも違う。
言うなればレディリーのような……
「ねぇ、流石に不老不死は……いなかったよね?」
少し考え事をしていると、ふと妹紅が恐る恐るという感じで聞いてきた。
「いや、いるぞ。最低2人、もっといるかもしれないけど、俺が知ってるのは2人だな」
なぜそんな事を聞いてきたのかは分からないが、興味本位でないのが分かるので素直に答えた。
「ふ、2人もいるの!?」
すると妹紅は心底驚いた顔をした。ホントなんでこんな事知りたかったんだ?
ひょっとして、不老不死に興味がある……なわけないな。
「間違いない。そのうち1人は実際に戦ったし。肢体を斬り落としても、爆弾で吹き飛ばしても、全身を焼きつくしても生き返る……ってのは変だな。元に戻っていたから間違いない……あ、悪い……」
焼き鳥を食べながら聞いていた妹紅から、非難の目を向けられた。
うん、物を食べながらする話じゃないよな、普通。
それにしても、今思い出しても変な奴だったな、幻想支配が効かなかったから能力ってわけじゃなかったし。
本当は妹紅に言った以上の事を永遠とやって、こっちが根負けしそうになったな。
「で、戦ったって事は……勝ったの?」
「勝った、と言えるかな。そいつは地球ごと自爆して死のうとしてたんだけど、それをどうにか止めて捕縛した。後の事は知らないな」
実験体にされたんだろうけど、アイツには同情も興味も沸かなかったから本当に知らない。
「ち、地球ごとか……あなたって、本当に元の世界でも結構な敵を相手にしてたのね」
妹紅は感心半分呆れ半分と言った具合だ。
「で、なんでそんな事を聞いたんだ? 不老不死になりたいのか? でも、俺あいつらがなんで不老不死になったかは知らないぞ?」
すると妹紅は何を思ったか、右手を自分の顔に向けたかと思うと……
――ボンッ
妹紅の頭が爆発し、吹き飛んだ。
「……へっ? も、も……こう? っ!?」
しかし、次の瞬間には妹紅の顔が元通りにそこにあった。
「……あー熱かった。ははっ、見ての通り。私は……もう1000年以上も昔に不老不死になった、蓬莱人なんだよ」
蓬莱人っていうのが、不老不死になった人間の事を指すのか。
あ、そうか。やっと分かった。レディリーだ。
彼女は見た目こそ幼かったが、言動や仕草が大人っぽいのではなく、達観しすぎているように感じた。
それは不老不死で長い間過ごしてきた者だからこそ、元がただの人間で不老不死になった者だからこそだ。
あの時、妙な親近感を沸いたが、妹紅にもなぜか近い物を感じた。
「じゃあ、レミリアやフランよりも年上なのか。なら妹紅の事今度から、もこばあちゃんって呼ばないと失礼だな」
「いやそこ!? じゃなくて、なんで妹紅じゃなくてもこ!? でもなくって失礼っていうなら……あぁ~もう! もっと他に言う事ないの!?」
なぜか妹紅が立ちあがり激しく動揺しながら俺に詰め寄ってきた。こんなやりとり、ついさっきしたような……なんだこのデジャヴ。
「言う事……あー、後ろに慧音がいるよ」
「へっ? け、慧音!?」
本当は結構前からいたんだけど、俺と妹紅の様子を窺っていたから黙っていたんだが……
妹紅が自分の頭をふっ飛ばしたら、一瞬鬼のような形相になって、次に俺を心配そうに見てきた。
俺が慧音に気付いているのを、向こうが気付いていたかは知らないけど。
でも何で心配そうに俺を見たのかは、大体想像つく。
「も~こ~う!」
「ど、どうしたの慧音? 何をそんなに怒っている、の?」
首をかしげて可愛らしく言ったつもりだろうけど、それは男にしか通じない手だと思う。
「自分の顔を吹き飛ばすなんて正気か!? いくら不老不死だからって、自分の身体を何だと思っているんだ!」
「い、いや、それはユウキ君には口で説明するより、実演した方が早いから……じゃ、ダメ?」
「ダメに決まっているだろ! 彼なら口で言うだけで納得したはずだ!」
いやどうだろうな~? 多分、不老不死ですって言われても、ふーん、としか俺は言わなかっただろうし、それを信じてないと思った妹紅が頭をバーン! ってしそう。
てか慧音、俺は自分で言うのも何だが確かに物分かりは良い方だけど……なぁ?
「それは……その、さっきちょっとグロテスクな話を聞かされたから、お返しに~と思って……」
「こどもか!?」
慧音、そのツッコミはおかしい。
それよりも妹紅が目でSOSを出してきた。妹紅は慧音にすごく弱いみたいだな。
「慧音、その辺でいいだろ。こういう言い方も変だけど、実際に目で見た方が納得しやすいのは事実だし。でも慧音の言う通り不老不死と言われても、すぐ納得しだろうけどな」
「……はぁ、分かった。妹紅、頼むから自分の身体をもっと大事にしてくれ」
慧音、さっきとはうって変わった表情になって、よほど妹紅の事が心配なんだな。
「……分かった。ごめん、慧音」
妹紅もそれが痛いほど分かるから、心の底から謝ったんだろう。
それを見てやっと慧音が笑顔になった。
「うん、よしっ! で、2人共。なんでこんなところで飲んでいるんだ?」
「俺は一通り挨拶し終えたから、ちょっと休憩してただけだ」
「私も似たような物だよ。大勢で飲むのは慣れたけど、騒がしすぎるのは性に合わないから」
きっと妹紅はずっと1人だったんだろうな。だから、人が大勢いる場が苦手なんだろう。
俺も、そうだしな。
「全く……似た者同士め」
慧音は呆れたように言いながら、俺と妹紅の間に座り横にあった酒瓶を一気に煽った。
あ、それ俺と妹紅が間接キスした奴だ。
「ふぅ~……月夜の下で飲む酒もうまいな。それで、ユウキ君。妹紅の事だが……」
「ん? ひょっとして、妹紅が不老不死だって話まだ続いてたのか?」
「うん、あなたは私を見て何とも思わないの?」
あーこれはアレか。気持ち悪くないのか? とかそういう話か。
「ん~別に何とも思わないぞ? しいて言えば、妹紅は和服が似合いそうだなとか、そういう事なら思った」
「ブッ!? い、いきなり何を言い出すの!? 確かに和服は着なれているけど、それは不老不死になる前の話だし……って慧音も何笑っているの!?」
顔を真っ赤にした妹紅が、同じく顔を赤くして笑っている慧音をぽかぽか叩く。
「あははははっ、いや、ユウキ君らしいなと思っただけだ。それに和服が似合いそうと言うのは私も同意見だよ」
「はぁ~……そうよね。単身で吸血鬼の館に乗りこむ、超が付くほどの変人だものね、あなたは」
「そうそう。不老不死とか言われても、別にどうとも思わないぞ。まして幻想郷には神様までいるって言われればな」
それを聞き、それもそうね。と妹紅も笑いだした。
その時、トテトテと廊下の向こうからこっちに走ってくる影が見えた。
「あ~、ユウキさんみーっつけた!」
「おわっ!? だ、大ちゃん!?」
突然俺の背中に抱きついてきたのは大ちゃんだった。
妙に顔が赤いし、酒臭い! 妖精って酔っぱらうのか!?
「も~う、探したんですよ~。全然こっちに来てくれないですし~」
「わ、悪い悪い……すぐに戻るから、離れてくれないか?」
せ、背中に柔らかい感触が!
そんな俺の様子に気付いた妹紅が何やらいじわるそうな笑みを浮かべた。
「大ちゃん。ユウキ君は大ちゃんに抱き付かれて嬉しいみたいだよ」
「え~そうですか~? やったぁやったぁ~!」
大ちゃんは大喜びで俺に抱き付いたまま、ピョンピョン跳ね上がった。
「大ちゃん、酔ってるのにそんなに跳ねると気持ち悪くなるぞ!?」
背中に柔らかいモノがこすられてるし!
「えっ、私気持ち悪いですか? 私の事……嫌いですか?」
なぜか勘違いした大ちゃんが俺の前に周り、涙目で見上げてきた。
「い、いやいやいや。誰も大ちゃんが気持ち悪いだなんて言ってないぞ!? 慧音、いつのまに離れてるんだよ!」
隣に座っていたはずの慧音は、妹紅と2人でいつの間にか離れた場所に座りこっちを暖かい目で見つめていた。
「ははっ、2人の邪魔をするほど私は野暮ではないが?」
「何言ってんだよ!? それに、寺子屋の先生なら酔っぱらった生徒を指導しろ、指導!」
「そうだな。大ちゃん、酔っている時に激しく動くと危ないぞ?」
「は~い、慧音せんせー♪」
慧音の言葉で涙目は止めたけど、大ちゃんはなぜか俺に抱き付いたまま頬ずりし始めた。
「ちがっ!? いや、違わないけど、もっと別の事指導しろよ! 妹紅も何か言ってくれ!」
「私? ん~じゃあね、後ろを見た方がいいわよ?」
「後ろ? ハッ!? なんかさっき似たやりとりしたような……」
後ろから何か殺気を感じ、恐る恐る後ろを振り向くとそこには……子鬼がいた。
「おに~ちゃ~ん~……なにしてるのぉ~?」
目を赤くして俺と大ちゃんを睨むフランがいた。
いつぞや見たく狂気に溺れているわけでもないのに、冷や汗が止まらない。
あの時よりも数倍危機感が増している気がする。
「フ、フラン? これはだな……って、大ちゃん寝るな!?」
大ちゃんは急に頬ずりを止めて静かになったと思ったら、俺に抱き付いたまま寝てしまっていた。
これでは逃げられない。
「おにーちゃーーん!!」
「ちょっ、待てフラン。この状態で飛び付いて……ギャー!?」
大ちゃんが眠ってしまったので、体勢を変える事が出来ず。フランのタックルを背中からモロに受けてしまった。
「大ちゃんに衝撃が伝わらないように受け止めたのは、流石と言っておこうか。さて、私達は戻ろうか、妹紅」
「そうね。じゃ、ユウキ君。ごゆっくり~♪」
「待て、2人共! あーもう! 不幸だー!!」
宴会の喧騒に負けないくらいの大音量で、俺の叫びが月夜に木霊した。
つづく
気が付けば妹紅は男口調になってしまう……けど、こんなものになりました。
宴会も次回で最後です。
それから数話挟んで、いよいよ次の異変に移ります。