幻想支配の幻想入り   作:カガヤ

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お約束とフラグを大事にする話です(ォイ


第42話 「宴会Ⅳ」

文とはたての漫才にも似たやりとりを肴に霊夢や霖之助と酒を飲んでいると、ふと肩を突っつかれた。

振り向くと、そこには小さな人形が宙に浮いていた。

 

「シャンハーイ!」

「ん? なんだこの……人形?」

「その人形はアリスのね。向こうにいるわよ」

 

霊夢の指さす方を見ると、金髪の女の子がこっちをニコニコ見ていた。

どうやら今度はあっちにお呼ばれしたようだ。

 

「モテモテだね、ユウキは」

「そうね、モテモテね、ユウキさん」

「……行ってくる」

 

楽しそうな霖之助と少し不機嫌そうな霊夢という正反対の声を聞きながら、人形に引っ張られるような形で席を移動した。

 

「あら、やっとこっちに来たのね。待ってたわよ」

 

人形に連れられてきた席には、金髪の少女の他にパチュリーと魔理沙がいた。

金髪の少女からは魔力が感じられる。パチュリーも魔理沙も魔法使い同士として、アリスと仲良く談笑していたようだ。

 

「なんだここに居たのか、パチュリー。それに魔理沙も少しぶり」

「よっ、ちょっとぶりだな。あの時は色々どーも、おかげで死ぬかと思ったぜ」

「臨死体験って割と貴重だぜ?」

「私はまだ三途の河を渡る気はないぜ」

 

何だか微妙に刺々しい視線と言葉を投げてくる魔理沙を軽くかわし、俺を呼んだ人形の主に目を向けた。

 

「初めまして、私はアリス・マーガトロイド、この子は上海。ごめんなさいね、お楽しみの最中に呼んじゃって。こうでもしないとあなたと話すタイミング逃しそうで」

「別に構わないよ。宴会に居る全員と話すつもりでいたからな。タイミングをそっちが図ってくれたのは好都合だ、アリス」

「そう言ってくれると助かるわ」

 

アリスの名乗った少女。アリスは確か欧米などで一般的な女の子の名前、日本で言う山田太郎的な名前と聞くけど、これほどアリスと言う名前にふさわしいと思える人を見た事がない。

その視線に気付いたのか、アリスがちょっと照れくさそうな笑みを浮かべたので、慌てて視線を逸らした。

 

「ふむふむ、どうやらユウキはアリスに一目惚れかしら?」

「違うっての、パチュリー。ただ、アリスと言う名前がこれほど似合う人を見た事ないなって思っただけだ。その人形と一緒で可愛いしな」

「あら、そんな事言われたのは初めてよ。上海の事も褒めてくれて、ありがとう」

「シャンハーイ!」

 

上海はシャンハーイとしか喋ってないが、その表情は嬉しそうでくるくる回ってからペコリとお辞儀をした。

 

「まるで人間みたいな人形だな。ここまで表情豊かなのは初めて見た」

「外来人なら動く人形は見慣れていないわよね。これは私が全部手作りした人形よ。今日はこの子、上海だけだけど。家にはまだ他にも沢山いるわ」

「なるほど、アリスが魔力の糸で操っているのか」

 

そう言うとアリスは驚いたように目を見開いた。

 

「……驚いたわ。まさか外来人に一目で見抜かれるなんて、私の糸は見たり触ったりはできないのに、魔理沙やパチュリーが言うように普通じゃないのね」

 

この2人が何を言ったのか知らないが、確かに俺は普通じゃないな、色々な意味で。

で、なぜか自然と俺の膝に座っていた上海を撫でていた。

 

「ふーん、まるで上海を普通の女の子のように接してくれるのね。私としても嬉しいわ」

 

別にそんな事は思っていないが……人とそうでないかの区別なんて、俺は明確にはない。

木原を人間扱いせず、ガラクタのように殺したり、妹達を人間のように接したりなどなどだ。

 

「ふむふむ、ユウキはやはり小さい子に弱いのね。これはレミィや妹様が有利かしら?」

 

で、こっちはこっちで何やらメモっているし。

 

「おいパチュリー、文みたいな事するなよ」

「失礼ね。あんなバ鴉と一緒にしないでよ。魔法使いは好奇心で出来ているのよ、だからアリスだってあなたに興味沸いて誘って来たのよ?」

 

それとこれとは全く関係ない気がする。

 

「アリスが俺に興味? それは幻想支配にか?」

「うーん、それもあるわね。けど、それよりも……」

 

アリスはさっきから無言で酒を飲みながら、たまに俺を睨んでくる魔理沙に目を向けた。

 

「なんでこっちを見るんだよ。私は何も言ってないぜ?」

「そう言う事にしておいてあげましょうか」

 

おかしそうに笑うアリスに不機嫌そうな魔理沙は更に不機嫌になった。

まぁ、十中八九原因は俺だろうけど、別にそれは気にしていない。

 

「今日は宴会を楽しむとしましょうか。あ、でも今度私の手伝ってもらっていいかしら?」

「パチュリーみたいに幻想支配の事を調べたいのか?」

「ううん、それはパチュリーから教えてもらったからいいわ。それとは別よ、あなたをなんでも屋と知っての依頼。ちゃんと報酬も出すわよ?」

 

何でも屋か、確かに学園都市ではそうだったけど、別に幻想郷でもそうするとはまだ言ってないんだけどな。

でも、神社に居候中に寺子屋の仕事しつつ、何でも屋としても仕事受け持つつもりだったからいいか。

 

「報酬と言えば、ユウキ。この前の魔理沙の一件の報酬は決めたかしら?」

「あぁ、あの時のか。うーん、まだだな」

 

数日前、魔理沙が図書館に侵入して俺が初めて弾幕ごっこをしたあの時。

俺は何でも屋としてパチュリーの依頼を受けたが、報酬はまだきめてなかった。

金銭でもいいのだけど、せっかくの機会だからと保留にした。

 

「そう。まぁ、忘れるつもりはないけど、早めに言ってくれると助かるわ。お金はいらないのだったわよね?」

「七曜の大魔法使い、パチュリー・ノーレッジの報酬だぜ? そんなありふれたものよりもっと有効的な事をお願いするさ」

「そ、そんな大げさに言われても何も出ない……わけじゃないけど、私にも出来ない事はあるわよ?」

 

大げさに言ったつもりはないけど、パチュリーは照れくさそうに言い、アリスがその様子を見てクスクス笑った。

 

「あらら、パチュリーは思っていたよりテレ屋なのね。でも、私から見てもパチュリーは凄い魔法使いだもの。借りを作ったのなら、それは簡単には返してもらうわけにはいかないわよね?」

「ア、アリスまでそんな事言わないで、もう!」

「そうそう。だから私もついついパチュリーの才能を借りたくて、御邪魔しちゃうんだぜ」

「魔理沙の場合は私じゃなくて、私の魔道書が目的でしょ!」

 

パチュリーがこう狼狽するのも珍しいが、きっと同じ魔法使いの友達が出来て嬉しいのだろうな。

パチュリーは孤独な魔法使いだったらしく、レミリアに出会うまでは独りだったらしい。

それからこぁを召喚したり、美鈴や咲夜、フランとも出会ったがそれでも同じ魔法使いの魔理沙やアリスがいい刺激になっているようだ。

 

「あ、そうだ……ねぇ、ユウキ? 報酬は身体で払うのはどう? 好きにしていいわよ……こぁの身体を」

「「そこは自分じゃないのかよ!」」

 

妙に演技っぽく艶めかしい目つきで迫ってきたパチュリーに、魔理沙と2人でツッコミを入れるとアリスが盛大に吹きだした。

どうやらこの3人かなり出来あがっているようだ。

魔法使いでも酔っぱらうんだな。

 

「なんて、冗談……」

「はいはいはーい! 呼びましたか? ユウキ様へのご奉仕ですか!? パチュリー様公認でやっていいのでしたら、それはもう今から一週間でも一年でも永遠でもしちゃい 「しなくていいわ」……はぅ!?」

 

目をキラキラ……ではなくギラギラ輝かせてこぁが俺の手を掴もうとしたが、一瞬のうちに咲夜が現れてこぁの姿が消えた。

と思ったら、また次の瞬間には咲夜が戻ってきていた。その手には頑丈そうな鎖を持っている。

目がかなり怖いぞ。

 

「失礼しました。こぁがひどく酔っていたので介抱のために裏の池に放りこんでおきましたが……パチュリー様も酔いが酷いようですが、霧の湖に沈めましょうか? 鎖でがんじがらめにして」

「い、いえいえいえ、さめました! 肝と一緒に冷めました! ごめんなさいごめんなさい、もう変な事言いません!」

 

それを見たパチュリーは顔を真っ青にして涙目で、咲夜に土下座をした。その様子を見た魔理沙とアリスは爆笑している。

うーん、平和な光景だなーと少し現実逃避するしかない。

 

が、すぐに首を曲げ、飛んできた傘を掴んだ

 

これは明らかに俺の首を狙って投げられた傘だな。

あれだけ騒がしかった空気が一瞬で静まり、霊夢や慧音、文やレミリア達までもが身構えている。

上海は俺の膝から離れ、アリスの側にいてその手には剣が構えられている。

 

「ごめんなさいね、傘がすっぽ抜けてしまったわ。怪我はなかったかしら坊や?」

 

飛んできた方を向くと、そこには緑の髪をして明るい服を着た女性がにこやかに立っていた。

その後ろでは美鈴が口をあんぐりと開けていたが、同じくいつでも飛び出れるように身構えている。

そう言えば、この女性は美鈴と話しているのをちらりと見たな。

 

「あらあら、失礼。別に騒ぎを起こす気はなかったのだけどね。さ、皆さん続けてくださいな」

 

この一言で、また宴会の空気となり、それぞれ飲み食いやおしゃべりを再開したが、霊夢達はまだ警戒をしていた。

この女性、美鈴のように一見すると人間と変わらないが、紫のように言葉に言い表せないそこはかとない迫力があり、かなりの妖怪だと言う事が分かる。

レミリア達のような幻想郷の新参者だけでなく、顔馴染みと思われる霊夢や文まで警戒しているのがその証拠だ。

 

「ちょっと、幽香。ユウキが掴まなかったらこの傘、私に当たる所だったじゃない」

 

場の空気を変えようとしたのか、アリスが明るい口調で微妙に論点がずれた抗議をするが、幽香には効果はないようだ。

 

「あら、アリス。そこに居たのね、坊やに隠れて見えなかったわ。失礼、私は風見幽香。よろしくね、坊や」

 

オリアナと同じく俺を坊やと呼ぶが、彼女とは違いその響きには明確な違いがあった。

それに幽香の目、俺と美鈴が戦っていた時のレミリアや文の目だ。

コイツ、俺の事を獲物と見ているな。

 

「俺を坊やと呼ぶのは2人目だな。よろしく、俺はユウキだ。別に坊やと呼んでも構わないが、坊や扱いは後悔するぞ?」

 

宣戦布告に近い挨拶の代わりに、こちらもありったけの殺気を籠めて幽香を睨む。宴会の喧噪の中、俺と幽香の間に冷たい空気が流れた。

アリスやパチュリー、魔理沙は訝しげな表情で俺達を見守っていて、霊夢と慧音が思わずこちらに向かって来そうになったが、文と藍がそれを止めた。

 

「ふっ、ふふふっ、あっはっはっはっ……ごめんなさい。ちょっとからかってみただけ。さっきも言ったけど、こんな楽しい宴会で物騒な真似はしないわ」

 

さっきまでの雰囲気を消し、幽香はただ単純に笑った。そして、俺の隣に座りこんだ。

 

「分かっている、さっきのはお前流の挨拶だろ。別に俺は気にしてない」

 

霊夢と慧音を見ると、2人も警戒を解いた。

レミリア達ももうこっちを向いていない。

 

「ぷっはぁ~……おいおい、何宴会らしくない事してるんだよ、2人共」

 

魔理沙がジト目でこっちを睨んできてるが、パチュリーとアリスは素知らぬ顔で話を再開していた。

 

「文句は俺じゃなく、幽香に言えよ魔理沙」

「ごめんなさいね、魔理沙。彼の事ちょっと知りたくなって、カマをかけてみたのよ。でも、思ったよりノリが良くてびっくりしたわ。いい余興になったでしょ?」

 

余興、ね。確かにこの場で何かをするつもりはなかったようだけど、幽香の目は間違いなく本気だった。

本気で俺を……潰そうとしていた。いや、単に戦いたがっていたのか?

 

「余興って、お前さんが本気で殺気出したら、宴会どころじゃなくなるっての。ユウキもユウキであんな挑発に乗ってくるとは思わなかったぜ」

「あんな熱烈な歓迎に答えないのは失礼だと思ってな。ま、でも幽香の言う通り、余興としては十分だろ。ま、飲み直しだ飲み直し。幽香もせっかくだし、色々話聞かせくれよ、ほれ」

「気が効くわね。頂くわ」

 

まだ空いていない徳利の蓋を取り、幽香が出したお猪口に注ぐと彼女はそれを一気に飲み干した。

 

「それじゃ、私からも。ようこそ、幻想郷へ」

 

今度は幽香が徳利を持ち、俺に酌をした。

その時、一瞬だけ幽香と目が合った。

 

――いずれ、な。

 

――えぇ、いずれ、ね。

 

 

 

「はぁ~、全く。アリスだけじゃなく幽香にまで目を付けられるって、どんだけなのよ。彼は」

 

袖から出しかけた札をしまい、私は一息ついた。

幽香がユウキさんに興味を持った。何となく予想出来た事ではあったけどね。

幻想郷の中でも幽香の強さは断トツの部類に入っている。

そんな強豪妖怪は、普通の人間や妖怪に興味は持たず、強い能力を持った人間に興味を示す。

紫は幻想支配と言う異能を含めてまだユウキさんを警戒しているけど、幽香は彼と戦いたがってるわね。

さっき藍に、幽香はここで騒ぎを起こす愚か者ではない。と言われて、少しは落ち着いたけど、結構焦ったわよ。

 

「確かに、彼はモテモテだね、色々な意味で」

 

さっきの騒ぎにも動じる事なく、霖之助さんは私の盃にお酒を注いだ。

 

「ありがとう、霖之助さん。色々な、意味ねぇ。何だか含んだ言い方をしてるけど、まさかっ!? 霖之助さんも彼を?」

「「おぉ~!?」」

「っ!? んぐっ、ゲホゴホッ、れ、霊夢……その手の冗談は酒を飲んでいない時に言ってくれ。それにそこのブンヤ達にわざわざ根も葉もないネタを与えないでくれ」

 

半分に冗談のつもりだったが、霖之助さんは飲みかけた酒が喉に詰まったらしく盛大にむせた。

そして、文とはたては色めきだし、メモ帳を取り出していた。

 

「これは良いネタが出来そうです! フラグメーカーユウキさん、ついに男性も落とす!?」

「香霖堂に恋人誕生の予感? これはいい記事かけそうね!」

「そこの2人。そんな記事書いて、ユウキさんに何かされても知らないわよ?」

 

全く。さっきまで文ははたてに嫉妬しまくってたのに、こういうネタには食い付くのね、新聞記者ってこんなのばっかなのかしら。

 

「あーそう言えば、椛は来なかったのかい?」

 

思い出したかのようににとりが言うと、文はつまらなさそうに答えた。

 

「えぇ、来ないわよ。一応呼んだんだけど、割と強めに。でも、仕事があるからって断られたわ。相変わらずあの子は面白みがないと言うか、固いわね」

「あの子呼んでどうする気だったのよ。まさか彼に会わせて何か面白い弄りネタでも?」

「うーん、そんな気はしたけど。まーそのうち焚き付けるわ。面白い事になりそうだし」

 

素に戻った文がここまで言う白狼天狗の椛とは、私はまだ会った事はない。

けど、河童のにとりは仲が良くて、同じ天狗の文やはたてとはあまり仲が良くないのは皮肉だろうか。

文もはたても天狗としては強いけど、天狗らしくないとは幻想郷の共通認識だから、それが関係してるのかもね。

あ、らしくないと言えば……

 

「そう言えば、霖之助さんが宴会に来るなんて珍しいわね」

 

霖之助さんは、こんな賑やかな場所を好まない。

少人数での花見などは私や魔理沙とするけど、宴会に来た事は……なかったかもしれない。

 

「そうだね。最初は僕も来る気はなかったさ……けど」

 

そう言う霖之助さんの視線の先には、さっきまでの険悪な雰囲気はどこへ行ったのやら幽香達と楽しそうに飲んでいるユウキさんの姿が。

まさか、本気で彼に惚れたんじゃないわよね!? 霖之助さんには魔理沙がいるでしょ!?

まぁ、魔理沙の事は妹のように思っている感じはあるけど、それ以上にも見えているし……

 

「だから、そう誤解しないでくれ。僕が彼に興味を持ったのは、魔理沙の事でだよ」

「魔理沙が、どうかしたの?」

 

確かに、魔理沙の様子は数日前からおかしい。

何だか妙にイラついているみたいだし、私が聞いても何でもないとしか言わなかったから詳しくは聞いてないけど。

 

「そうか、霊夢には言っていないのか。なら、僕が言う事じゃないか」

「何よそれ。気になるわね。話して頂戴よ」

「イヤ、これはどちらかと言えばユウキに言う事だからね」

 

はぁ、これ以上は話してくれそうにないわね。

 

「一つ言えるのは、ユウキと言うよりは魔理沙がちょっと気になったから、だね」

 

妹の事を心配する兄のような目で霖之助さんが見つめる先には、アリスやパチュリーと楽しそうに話しながらも、時折ユウキさんを見る魔理沙の姿があった。

 

 

 

つづく

 




キャラを出す順番って難しい。
本編で名言している以外に、ユウキの事を外ではなく異世界から来た外来人と知っているキャラはいません。
まぁ、いずれ皆が知る事ですけど。

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