やっと書けました!
真っ白になったレミリアと文をほっといて、他に誰が来ているかと宴会を見渡してみる。
するとこっちを手招きしている作業服っぽい服と、やけに現代風な帽子を被った青髪の少女が見えた。
「おーい、こっちこっち!」
手招きされた方へ行くと、一緒にいた栗色の髪を紫のリボンでツインテールに纏めた少女が俺の顔を興味深そうに見ていいた。
「ちょっとはたて、いきなりそんなガン見は失礼だって。あ、ごめんごめん。私の名前は河城にとり、見ての通り河童だよ」
いや、どこが見ての通りか分からないけど、とにかく河童と言う事か。
河童……頭に皿がある、キュウリ好きな妖怪だっけ。
なら、彼女の帽子の下には藍の獣耳のように皿が隠れているのかな?
「ん? 私の帽子の下も見たいのかな? へっへっへっ、秘密だよ♪」
酒に酔っているらしく、にとりは頬を染めてかなり上機嫌だった。
「はぁい、こんばんは。あなたが文お気に入りの外来人さんね。私の名前は姫海棠はたて、文と同じ鴉天狗。よろしくねー」
で、さっきから俺をジロジロ見ているのが、同じく酔っ払っている鴉天狗のはたてか。
にとりはともかく、はたての方は関わると面倒そうだ。
「俺は知っていると思うけど、ユウキだ。よろしく……って文お気に入りのって何だ?」
「文字通りの意味よ。最近文はあなたの事ばっかり言っているのよ。それに、さっきもあそこまで文を取り乱させたり真っ白にしたり、なかなか見られない光景だったわ」
「あれは笑ったね。まさか、天狗に向かって妖怪らしくないなんて」
さっき笑い転げていたのこの2人か。
「あーでも私も河童らしくないしね。外の世界での河童や天狗が描かれた本見た事あるけど、すごくゲテモノに描かれてたねぇ」
「そうだな。文やレミリアもだけど、にとりやはたても妖怪に見えない可愛い女の子だもんな」
「ひゅい!? わ、私をおだてても何も出ないよ? 帽子取ればいいかな!?」
何やらにとりが急に慌てふためきだしたぞ?
ん、何か寒気してきた……誰かに睨まれてる? 殺気?
「あはははははっ、あなたやっぱり最高に面白いわ! あんたも落ち着きなさいってにとり。まー私も可愛い言われて嬉しいけどねー。で、文は確かに私から見ても天狗らしくないわね。人間と積極的に関わっているし」
そう言って、はたては再度俺を舐めまわすように見た。
「ふーん、確かにいい男ね。度胸もあるし、強いし。文に興味ないなら、私とどう? なーんて……ヒィッ!?」
はたてが冗談で言った途端、突然顔が真っ青になり震えあがった。
色々な所からさっきの倍以上の殺気が向けられたみたいだけど、具体的に誰からかは分からないな。
皆、冗談と分かってなかったのか、それともそういうフリだと思ったのか?
「はたて、あんたも相当度胸あるよ、この場でそんな事言うなんて」
酔いが覚めたのか、急ににとりが真顔になりはたての背後を指さした。
「は~た~て~、ちょっと向こうでOHANASHIしましょうか♪」
「文、いつの間に復活したの!? 怖い、顔怖い! それに耳引っ張らないで、痛い! 冗談だから、あんたの片思い人は取らないから!」
「この! 言うに事欠いて片思いというなぁ!」
復活した文に尖がった耳を引っ張られて、はたては悲鳴をあげながら外へ連れ出された。
「さーって、鴉鍋って美味しいのかしら」
「あ、あれ? なんで霊夢も付いてくるのよ!? それに鴉鍋なら文がいるでしょ、文が!」
「私よりアンタの方が肉付きいいでしょ。一部の肉はほとんどないけど」
「ちょっと待ちなさい。どこを見て言ってるのよ! そこの巫女よりはあるわよ!」
「よし、その挑発乗った! これでも着痩せするのよ、私は!」
なぜか霊夢までも参戦して、はたては文と霊夢に足を引っ張られ退場した。
その時、助けを求めるような目をこっちに向けた気がしたけど、気のせいだよな。
それから外から女の子の悲鳴や爆音が聞こえてきたけど、誰も気に止めてないからこれも気のせいだな、うん。
「はははっ、君もなかなか気苦労が絶えなさそうだね」
男の声が聞こえたので振り向くと、白髪にメガネをかけた青年が俺の隣に座った。
「ん? 僕の顔に何か……あぁ、申し訳ない。僕の名前は森近霖之助。よろしく、ユウキ君」
「男に君付けされた事ないから、呼び捨てでいい。俺も霖之助って呼ばせてもらうよ」
「了解した。僕も呼び捨ての方が気が楽でいい。しかし、君はとても変わっているし、珍しいタイプだね。外来人は何回か見てるけど、こうも早くみんなに馴染んでいるのは見た事がないよ」
霊夢も慧音も言っていたか、外来人は大抵取りみだすか絶望するって。
別に馴染んだとかじゃないけど、普通にしてるだけだしな。
「そういう霖之助もこの中じゃ珍しいな。正直、女の子ばっかりで男がいるとは思わなかった」
俺が気になったのはそこだ。人里では男は見かけたけど、それ以外じゃあまり見かけない。
紅魔館でも昔は男がいたけど、今は女の子ばかりだしな。
「もう慣れたよ。こう見えて結構彼女達と付き合い長くてね。悲しい事にあまり男扱いされてないとも言えるけど」
と言いつつも悲しそうに見えない。こんな個性的な女性の中でも全く臆していない所を見ると、それなりに人生経験があるのだろう。
霖之助は慧音と似たような感じがするが、半妖か?
まぁ、慧音は半人半妖と言うか、半人半獣みたいなものだけど。
「失礼な事だったら悪いけど、霖之助は半妖なのか?」
「よく気付いたね。僕は人間と妖怪のハーフさ。でも、別に差別とかはされた事ないし、寿命も長くて困る事はないね。でも、僕は彼女達のように特別な力があるわけじゃから、そこはちょっと不便かな」
確かに。霖之助からは強い力を感じない。でも、何かしらの能力は持っているようだ。
「霖之助は霖之助でちゃんと能力持っているじゃない。私からすれば羨ましい能力だよ」
にとりがそう言うと、霖之助は少し嬉しそうにメガネを上げた。
「霖之助の能力って何だ? あ、そう言えば霖之助は確か香霖堂っていう雑貨屋してるんだったよな?」
「雑貨と言うか道具屋だけどね。特にこれと決めた商品を取り扱ってるわけじゃなく、外から流れてきた品物も取り扱っているよ。良ければご贔屓に」
「いずれ行こうと思っていたんだ。俺の持っている貨幣を換金して、日用品買いそろえようと思ってさ。紅魔館に行ってたりで、今まで忘れていたけど」
俺は財布から元の世界で使っていたお金をいくつか霖之助に見せると、彼は興味深そうに観察した。
「なるほど、君の事情はある程度は八雲紫から聞かされているよ。このお金は外の世界のお金と同じだから、僕が買い取ってあげられる」
周りに聞こえないように霖之助が小声で言ってきた。
ふーん、紫は俺が異世界から来た事を霖之助には話しているのか。にとりが不思議そうな顔をしているけど、何かを察したのか特に食い付いては来なかった。
「今度店に来るといい、そこで買い取らせてもらうよ。それで、僕の能力なんだけど 【道具の名前と用途が判る程度の能力】 だ。外の世界の道具だろうと名前と用途は分かるんだ」
なるほど、だから外の世界から流れてきた物を扱って商売出来るのか。
「本当、外の世界の道具が分かるなんて、羨ましい限りだね。私も調べれば分かるけど、それでも分からない事が多いからね」
「にとりは外の世界の道具に興味あるのか?」
「私はこう見えて技術屋だからね。未知のテクノロジーには興味津々さ」
と、なぜかにとりは目をギラリと光らせた。
「ところで……あなたは何か外の世界の変わった道具は持ってないの? 持ってたらぜひ見せてほしいんだけど!?」
にとりがどういう性格かこれで分かった。極度の機械バカって奴か。
確かに幻想郷の文化レベルはかなり低く、外の世界の技術は珍しく見えるから仕方ないか。
と言っても着の身着のままで来てるので、武器もなければ小道具もない。
アレ? 今更だけど、なんで俺携帯と財布以外何も持ってないんだ? 普段何かしら武器は身に着けているのに。
靴もナイフや爆薬を仕込んだ靴ではなく、何の変哲もない靴だ。
一度小さな疑問を抱くと、それは立ちどころに膨らんだ。
幻想郷に来る前の記憶はあいまい……でも、何も身に着けていない俺はどこに何をしに行っていたんだ?
「おーい? もしもーっし? 聞こえてる?」
「あっ、ごめん。考え事をしてた。俺の持っている道具はこれしかないな。携帯電話、って分かるか?」
学園都市に居た時の事を考えても仕方ない。もう幻想郷に来てしまって戻れない以上はな。
「うん、分かる分かる。現物も見た事あるし、作った事もあるよ」
懐から携帯を出すと、にとりだけではなく霖之助も興味深そうに覗き込んできた。
「へぇ、僕の所にも携帯電話と言う名称の物はいくつかあるけど、これはそれよりずっと小さいな」
霖之助が見た事あるのは、どうやら数十年前の携帯電話の初期型のようだ。
俺の携帯はタッチパネル式の学園都市でも試作段階の未来型携帯だから、ここの外の世界の人間が見ても珍しがるかもしれない。
「見てもいいけど、解体するなよ、にとり。それ電話は使えなくても、まだまだ他に使える機能あるんだから」
「わ、分かってるよ。見るだけだよ見るだけ」
だったらその両手に持ったドライバーやペンチは何に使う気だ。
「こんなに小さいのに電池がよく持つね。ん、ひょっとしてこれ……太陽光パネルかい!? 外の世界じゃこんな小さいのまだ実用段階じゃないはずなのに、すごいじゃないか!」
「ちょっと見ただけでそれに気付くにとりもかなり凄いと思うぞ?」
仮にも学園都市の最新技術の結晶を触ったり、裏面を見ただけでこの携帯の充電機能に気付いたり、外の世界の技術レベルを知っているとは流石だな。
そう言えばさっき携帯電話を作った事もあると言っていたし、何か機械的な相談は彼女にするのもいいかもしれない。
「えへへ、霖之助の店にあるの弄った事があるからね。機械はお任せだよ」
「そうだったね。おかげで貴重な外の世界の道具を何回壊された事か」
「う、うぐっ……その度にちゃんと弁償してるじゃないか」
「外の世界の物は貴重なんだ。お金を詰まれても売ったりなど出来ない物も沢山あるんだよ。君と言い、霊夢や魔理沙と言い、弄りたいなら買ってほしいものだね。少しは紅魔館のメイド長達を見習ってほしいよ」
どうも香霖堂は霊夢やにとり達のせいで、あまりちゃんとした客がいないようだ。
そう言えば、咲夜が珍しい紅茶やティーカップを香霖堂で購入していると話してた事あったな。
「失礼ね、霖之助さん。私は魔理沙みたいに勝手に物持ち出したりしてないでしょ。ツケにしているだけじゃない」
「私はちゃんとお金払っていますよ!? カメラのフイルムとか貴重ですし!」
いつの間にか外が静かになり、霊夢と文が戻ってきた。
「文はともかく。霊夢、そういうなら溜まりに溜まったツケを少しは払ってくれ」
霖之助が渋い顔をして言うと、霊夢は明後日の方を向いて口笛を吹きだした。
「あたたたっ、なんで2人ともそう真剣になるよ……って理由は聞かなくても分かるけど、本当に2人共ベタ惚……」
少し遅れてボロボロになったはたても入ってきた。
「陰陽宝玉!」「天狗道の開風!」
「ってちょ、きゃあぁ~~!!?」
と思ったら、また外へとぶっ飛ばされた。
いつもなら文がああなるのに、今日は違うようだ。
「2人共、過激だねぇ 「「にとり?」」 は、はい、私は何もいいません!」
2人共怖いって。完全ににとりが怯えてるよ。
霖之助は深く溜息をつくあたり、見慣れた光景なのだろう。
と、はたてが飛んでいった辺りに携帯電話が落ちているのに気付いた。
折り畳み式の携帯で、型は古そうだけどそれでも学園都市でも見かけるタイプだ。
「なんだ。幻想郷にもこんな携帯電話があるのか」
「あぁ、それははたての仕事道具ですよ。彼女はその携帯を使った念写で写真を撮って、新聞を書いているんです」
「ちなみにその携帯は香霖堂にあるのを元に、私が作ったんだよ。と言っても仲間と一緒にだけど」
なるほど、にとり製の携帯電話か。防水加工もしてあるみたいだし、使えないが一応電話としての機能もあるようだ。
それにしても念写か。聞き慣れた単語に思わず笑みがこぼれた。
学園都市にも念写系の能力者がいて、水面に映し出したりカメラで撮ったりとタイプが沢山いたけど、携帯電話タイプはいなかったな。
「念写と言えば聞こえはいいですが、実際には部屋で引き籠って楽してる出不精ですけどね。にとりがそれを作ってからは特に」
「ちょちょっと、はたての出不精は携帯のせいじゃないでしょ。私は頼まれて作っただけだし」
「それに彼女の書く新聞、花果子念報は人気がありませんしね。私の新聞には遠く及びません!」
いや、俺からすれば文の新聞も十二分に低レベルな新聞だと思う。
「私はどっちも掃除に使えるから、便利に使っているけどね」
「僕は包装紙や緩衝材代わりに重宝してるよ」
霊夢も霖之助も、新聞本来の用途とは違った使い方をしているようだ。
「咲夜も掃除の時に役立つ、とか言っていたな。良かったな、文。新聞大人気で」
「いやいやいや、せめて読んでくださいよ!」
文が抗議の声をあげているが、文の新聞の内容は酷いからなぁ。
はたての新聞は読んだ事ないけど。
「あんなに取材しても、俺の事を謎としか書かないような新聞に価値はあるのか?」
「あら、懐かしい事言うわね。そう言えば、ユウキさんの記事めちゃくちゃだったわね」
なつかしむように霊夢が言うけど、まだ1週間くらいしか経ってないんだけどな。
「い、いやアレは色々私なりに考慮した結果でして、そうだ! でしたら汚名返上の機会と言う事で、ユウキさん! 再度私の取材を受けてください! 今度こそしっかりとした記事書かせて頂きますから!」
文はどこから取り出したのかメモと鉛筆を取り出し、取材モードに入った。
「なぁ、霖之助。香霖堂には外の世界のどんな物が入ってくるんだ?」
「それは本当に色々さ。危ないモノも流れてくるけど、それは紫が引き取ってくれる。そうだ、今度店に来た時にでも道具をいくつか見てくれないかい? 僕の能力じゃ用途は分かっても使い方までは分からないんだ」
「いいぜ。その代り、安くしてくれよ?」
「ははっ、君はなかなか商売上手だね。いいよ、君の気に居る物があればいいけど」
「ねぇねぇ、盟友。私の所にも遊びに来てよ。見せたい発明がいくつかあるんだ」
「にとりの所は妖怪の山でしょ、ユウキさんでも危険じゃない。彼が行くのじゃなくて、あんたがその発明ここに持ってきなさいよ」
「あの~目の前でスルーされるのは、いくら私でも傷付くんですけど……」
文の声は宴会の騒がしさにかき消されていった。
つづく
宴会も後2、3回で終わる予定です。
あー早く戦闘が書きたいです。