ユウキのプロフィールに関してはプロローグが終わってから書こうと思います。
※一部修正しました。
Side ユウキ
『悪役ゴッコはいい加減卒業して、囚われのお姫様を助ける英雄(ヒーロー)になろうぜ……』
『手を伸ばせば届くんだ、まずはそこから始めようぜ……』
『『魔術師!』』
懐かしい、夢を見た。
「ぅ……うぅ、身体いてぇ」
穴の入口から零れる眩しさで目が覚めた。
昨日、俺は学園都市から突然幻想郷なんて所に飛ばされたが、どうでもいい事。
「川は、あっちか」
草木も眠る丑三つ時、博麗神社を出た俺は、人里に向かっていた途中、川の側にある大樹の根元に穴を見つけて入口を雪で固めて、カマクラを作りそこで寝た。
こんな大樹は見た事もない。けれども、そのおかげで寒さをしのぐ事が出来た。
学園都市は冬で、きていた防寒服もそのままこっちに流れ着いたので寒さ対策には問題はない。
持ち物も最低限しかないが、もっていた携帯電話のおかげで時間も分かる。
「最新型携帯に変えていて良かったな」
これは高性能太陽電池内蔵型で、常に太陽の光を吸収しているのでコンセントから充電する必要がない。
しかも、時計も衛星電波で合わせるのではなく、全く新しい方法で自動的に合わせてくれるので問題がない。
最も、異世界の幻想郷で時間合わせが正確に出来るかは謎だ。
霊夢曰く、今は冬の終わりが近い時期らしく、学園都市とは数カ月ずれがあった。
「……霊夢はもう起きたかな」
去った博麗神社の方角に目を向ける。書置きは残したけど、博麗神社を出たのはこれ以上誰かの世話になるのは嫌だったからだ。
違うな、もう誰かに関わるのは嫌だったからだな。
「それにしても、懐かしい夢をみたな」
あれは俺と当麻がインデックスの首輪を破壊した時だな。初めて科学以外の力である魔術を目にして、最初は軽い頭痛程度だったがインデックスの放った 【竜王の息吹】 を見て、俺もそれと同じ魔術を使ったんだっけ。
あの時は咄嗟の事だったし、よく覚えていないけど気がつけば俺はベッドに寝かされていた。
それ以来、能力者以外にも魔術師を相手にする事が増え、条件付きだが相手の魔術を使えるようになって……第三次世界大戦では 【天使の力】 なんてものも使ったっけ。
「ここでは妖怪の力を使えるようになる。って事か……何なんだろうな幻想支配って」
「そうなのよねぇ。私達の力も使われると色々困るのよねぇ」
「うわっ!?」
川で顔を洗おうと覗き込んだら、目の前に女の顔が現れた。
「お前は、八雲紫」
「ゆかりんって呼んでと言ったのに、まぁいいわ。どうして博麗神社から逃げだしたの? おかげでこんな朝っぱらから動く羽目になったじゃない」
眠そうにあくびをする紫を、俺は油断なく睨む。
左手に日傘を、右手に扇子を構え飄々としているけど、こいつは殺意まではいかないけど、かなり警戒している。
「そんなに身構えなくてもいいわ。私はただ……確かめたい事があるだけよ。霊夢がいない今のうちにね」
そう言って紫が扇子を振りかざすと、どこからともなく弾丸が放たれてきた。
木々を盾にしながら、転がるように走り回ってかわす。
「いきなり何するんだ!」
「あなたに弾幕ごっこについて教えようとしているだけよ、その身体にね」
抗議の声をあげても紫の攻撃は止まらない。
放たれている弾幕に誘導性はないが、それでも数が多い。
それに昨日見たく紫を見ても、頭痛はするがその力が使えない。
なのでこちらから攻撃する手段がないので、逃げの一手だ。
幸いここは森の中、木を盾代わりにする事が出来る……自然破壊しているようだが、悪いのは紫だ。
「あら、自然は大切にね☆」
「だったら攻撃を止めろ!」
「あなたが全部喰らえばいいだけの事ですわ」
地面に降りた紫は懐から一枚のカードを取り出した。
「このカードはスペルカードと言います。説明するより一度喰らってみれば分かりますわ……境符『二次元と三次元の境界』」
紫がカードをわざとらしくかがけ、技名らしきものを唱えると、足元からいくつかの青白い波動が俺にむかって放たれた。
今までの攻撃よりも速い、よけきれるか?
「っ、にゃろ!」
咄嗟に木を蹴り、三角跳びの要領でかけあがり、太い枝を掴み回避した。
「身体能力は高いわね。それに戦い慣れてもいる。よほど学園都市は物騒な所なのね」
「お前みたいな危険思考の変人は、確かにゴロゴロいたさ!」
そのまま枝を飛び回り、紫の側へと突進する。
紫もさっきまで放っていた弾幕を再び展開したが、速度に目が慣れてきたのでなんとかかわせるようになってきた。
服や頬を掠める程には受けているが、あまりダメージらしいダメージはない。
「チョン避けもできるのね。でも、あなた自身には攻撃力はなさそうね」
「そうでもない!」
ちょうど紫の真上に飛び移った時、適度な大きさの枝を踏んだ。
枝は簡単に折れて、紫の上に落ちる。
だが、紫はそちらに見向きもせずに傘で叩き落とした。
「これ、反則ギリギリですわね」
「何の反則だか分からないな!」
木から飛び降り、全力で紫の死角を付くように回り込み、殴りかかった。
「あら、てっきり殴られると思っていましたのに。フェニミストですか?」
「老若男女問わず敵には容赦はしないつもりだけど、仮にも恩がある人を殴る趣味はない」
俺の拳は紫の手前で止まっている。
紫は俺が死角から殴りかかってきた事にも、俺が紫を殴らない事に気付いていて涼しい顔で笑みすら浮かべていた。
「で、こんな茶番をした理由はなんだ? あんたなら俺を秒殺するくらい簡単だろ? 弾幕とか言って速度も遅いし、狙いもバラバラで、わざと避けやすくして、何のつもりだ?」
「それが 【弾幕ごっこ】 だからですわ。口で説明するよりも身をもって味わった方が、あなたにはいいと思ったのですけれども?」
「……人間が妖怪を退治しやすくする為か? スペルカードもその一環?」
「理解力が高くて助かりますわ。弾幕ごっこは殺し合いとは違う、幻想郷式の決闘。スペルカードは弾幕ごっこに使用する各々の能力を元に作られた弾幕を誓言する為のカード」
要するに弾幕ごっこはゲーム感覚らしい。それはそうか、ただでさえ人を襲う妖怪が多い幻想郷、弱い人間はあっという間に食いつくされてしまう。
それを防ぐ為や妖怪同士のストレス解消に弾幕ごっこは最適らしい。
「と言うわけで決闘前にスペルカードを使いきった方の負け。さて、私が何を言いたいか理解して頂けると手間が省けるのですが?」
「俺の能力が危険なら殺しかかってくればいい……抵抗はするけどな」
今までの霊夢や文の反応を見て、俺の能力が幻想郷でいかに危険なのかは理解出来る。
学園都市でもそうだったし、そのせいで神の右席にも狙われたしな。
強者の能力のコピーだけでなく、反動はあるが使用不能にする事も暴走する事も出来るなんて、反則もいいとこだし。
「あらあら、そんな物騒な事は致しませんわ。 幻想郷は全てを受け入れるのよ。それはそれは残酷な話ですわ。私はただ弾幕ごっことスペルカードに付いて教えに来ただけ……それとあなたの幻想支配についての考察と忠告、ですわ」
「忠告、ね」
「あなたの力はまだ幻想郷に適合していないだけで、とても危険な能力です。使う時には十分気を付けて下さいね。と言ってもここであなたが生き残るにはその力を使う以外ないでしょうけど」
当然、俺には魔力も霊力も妖力もない。元の世界でだって能力者や魔術師相手には優位に立てたけど、木原や神裂、アックアなど身体能力や近接能力が高い相手には負ける事もあった。
「ですから、妖怪相手には相手の通常弾幕を使っての攻撃で対処をお願いしますわ。今のあなたでは私達の能力やスペカまでは支配できないでしょうけど」
「分かった。と言っても俺にはそれしか対抗手段がないけどな」
「分かって頂ければ結構。それと……出来れば博麗神社で過ごして頂きたいですね」
そう言う紫の表情が、ほんの少しだけ変化したように見えた。
「俺を監視しやすくする為か?」
「それもありますけど、保険、ですわね。後は霊夢が1人では何かと心配なので」
「霊夢が? なんだ意外と寂しがり屋とかか? そうは見えなかったけど、むしろ1人だろうが何人いようがお構いなし、だろうな」
会ってまだ間もないし、話もまともにしてないけど。彼女はそういう少女だと思う。
何と言うか、無干渉でも、無関心とも違う、宙に浮いている。それが彼女の印象だ。
「……はぁ、あなたのその尋常ではない適応力と理解力の高さ、それも能力かしら?」
「それは買被りだ。俺は一般人より少しだけ怪奇の世界に触れて、少しだけ殺し合いをして、少しだけ戦争の真っただ中にいただけだ」
「それだけで十分普通じゃありませんわね。そこら辺をもう少し詳しく聞きたいのですけれど……」
「………」
「またの機会に致しますわ。そうそう、あっちに行くととても大きくて綺麗な湖がありますわよ。幻想郷の名物の1つ、ぜひ行くことをお勧めしますわ。ではごきげんよう」
扇子を振りながら胡散臭い妖怪は消えて行った。
大きくて綺麗な湖……経験的にこういうオススメをされた場所には、必ず何かある。
それでも特に行くあてもないから、行ってみるのもいいかもしれない。
と言うか……
「人里がどっちかわかんなくなったし……」
昨日霊夢から人里の方角も獣道も教えてもらったけど、紫と戦ってるうちに方向を見失った。
「方向音痴ではなかったはずだけど……森の中歩き慣れていないせいかな」
とぼやきつつ、しょうがないので紫が言っていた湖へと歩き出した。
「その湖で魚釣れればいいんだけどな……朝飯食ってないし」
ま、なんとかなるか。
Side out
???
「おかえりなさいませ、紫様」
「ただいま、藍。どう? あれから何か分かった事はある?」
「いえ、何も……紫様の方はどうでしたか? 彼の能力は危険だとおっしゃっていましたが」
「確かに危険。でも、今すぐどうこうって事ではないわね。霊夢の力も弾幕程度しか使えてなかったみたいだし、スペルカードも使用出来なさそうね。私の弾幕もコピー出来ていなかったし」
「……幻想支配、本当に私達の力も使えるのでしょうか?」
「それはこれからの様子見ね、彼が幻想郷に馴染めばあの力もそれに応じて順応していくかもしれないけど。今は 【通常弾幕をコピー出来る程度の能力】 と言ったところかしら。ただ、あの力は……」
「あの力は?」
「異世界の力と言う感じがしなかった……むしろ、こちら側の……」
「?? 紫様?」
「なんでもないわ。それより私は少し寝る事にするわ。あの吸血鬼達が近々何かしそうだけど、その時になったら起こしてね」
「はい、わかりました。おやすみなさいませ、紫様」
続く
ユウキの過去や能力についてのネタばらし、どの段階でやろうか迷い中だったりします……一応東方側は神霊廟までやりたいですが、長くなりそうです(汗)