幻想支配の幻想入り   作:カガヤ

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お待たせしました!タイトルがすごく浮かばなかったです……


第38話 「こども」

紅魔館滞在最終日。長くて短いような紅魔館での生活も今日の夕方に終わる。

夕方から博麗神社で宴会をするそうなので、紅魔館の皆と共に行く事になった。

なんでも、異変を起こした主犯格が飲み物や食べ物を用意する決まりらしく、咲夜は朝から妖精メイドに指示を出したり買い物に出かけたりと忙しそうだ。

俺も手伝うと言ったが、咲夜に丁寧に断られた。

 

「今回の宴会は私達紅魔館が主催する事になっています。ですので、流石にユウキ様に手伝ってもらうわけにはいきません。家事も滞りないですし、大丈夫です……その気持ちだけで私は嬉しいわ、ありがとう」

 

と、笑顔で言われてしまっては、流石にそれ以上は言えなかった。

と言うわけで慌ただしい咲夜や妖精メイドの邪魔にならないようにと、紅魔館の外でジョギングをしていた。

昨日は久々にくたくたになるほど大暴れしたし、夜は遅くまで宴会があるから昼食は軽めの予定なので、それまでお腹を空かせる程度に走っていた。

 

「ユウキさん、流石に速いですね。館の周り結構距離あるのに」

「お、美鈴。昨日もしたけど、紅魔館って良い距離だな、なかなかいいジョギングになるよ」

「そうですね。長すぎず短すぎず、走りがいありますからね」

「美鈴なら幻想郷を一回りしても、まだまだ余裕なんじゃないか?」

「流石に疲れそうですね。幻想郷は狭いようでなかなか広いですよ? 私は人里くらいしか行った事ありませんけど」

「意外だな美鈴は人里に行った事あるんだ」

「休日の時に、何度か行った事あります」

 

などと門で美鈴とそのまま話しこんでいると、館からフランが飛んで出てきた。

 

「おにいちゃーん、ジョギングおわったー!? 終わったならあそぼー!」

「フラン、日傘ささないで大丈夫か!?」

 

今日は雲一つない晴天……って、アレ? いつの間にか紅魔館の周りだけ囲むように分厚い雲がかかっていた。

 

「パチュリーに頼んで雲出してもらったの! これくらい暗ければ大丈夫だよ」

 

パチュリー何してんだよ。それにしても、雲……ねぇ。やけに真っ黒い雲だな。

どう見てもただの分厚い雲じゃないよな?

 

「……雲は雲でも、これ雨雲だぞ? あ、降ってきた」

「えっ? えぇ~!? わ、わわっ! 痛い痛い!」

「フラン、体から煙出てるぞ!?」

「フランお嬢様!? 大丈夫ですか!?」

 

急いで上着を脱いでフランに被せて、館まで走った。

忘れかけていたが、フランはれっきとした吸血鬼で、日光だけじゃなく雨などの流水でもダメージを受けるんだったな。

それにしても……春が近いとはいえ外で上着を脱ぐと流石に寒いな。

 

「うぅ~もう! パチュリーのバカ! 外で遊びたいのに雨雲呼んでどうするのよ! ちょっと文句行ってくる!」

「……レミリアお嬢様の入れ知恵でしょうか」

「流石にそれはないだろ。パチュリーがボケたんじゃないか?」

 

命がけのボケとは思うけど。

その後どこかから、むきゅー! と言う誰かの叫び声と共に雨は止み、ただの曇り空となった所でフランが満足そうに帰ってきた。

 

「さっ、雨も止んだしお外で遊ぼう、お兄ちゃん、美鈴」

「……深く考えるのは止めましょう、ユウキさん」

「そうだな」

 

まさに悪魔の妹だ。

美鈴と2人、苦笑しながら曇り空の下フランと遊ぶ事にした。

それから少しして、何気なく空を見上げると何か黒い物体がこっちへと飛んできた。

 

「わは~、ユウキ~♪」

「ユウキさーん!」

「ん? あれはルーミアか? 大ちゃんも一緒か」

 

黒い物体は能力を使っていたルーミアで、その後ろには大ちゃんも一緒に飛んできていた。

 

「っ!?」

「フ、フランお嬢様?」

 

美鈴とフランも気付いたが、フランはすぐに美鈴の後ろに隠れてしまった。

 

「ルーミア、大ちゃん。ひさし……「ユウキ~久しぶり~!」「ユウキさん!」……え“!?」

 

手を振って挨拶しようとしたら、2人揃ってそのままの勢いで抱きついてきた。

思わず転びそうになったが、どうにか堪えれた。

 

「会いたかったです!」

「わ~い♪」

 

満面の笑みで見上げる大ちゃんと、嬉しそうに頬ずりするルーミア。

傍から見ればすごく俺がヤバい図になっていると思う。

でも正直少女に飛び付かれる経験などあるわけなく、何がなんだかさっぱり分からず、どうすればいいかと美鈴に目でSOSを出すと。

 

「ふふっ、頭を撫でてあげればどうですか?」

 

と、面白そうに笑いながら言ったので、とりあえず2人を優しく撫でて見た。

……これ、犯罪じゃないよな?

 

「わぁ~気持ちいいです」

「えへへ~」

 

ん~、ロリコン達が狂い死にそうな上目遣いの笑顔だな。

でも、確か2人共実年齢的には俺より結構上のはず……これが青ピの言っていた合法ロリと言う奴か?

ってそんな事よりも、さっきから物凄く睨まれているな、美鈴の背後に隠れているフランから。

 

「う~……おにいちゃ~ん!」

「フランお嬢様も行ってきたらどうですか?」

「えっ!? い、いや……その、そういうわけじゃ」

 

流石はレミリアの妹、そういう反応はそっくりだな。

 

「め、美鈴だって羨ましそうに見てたでしょ!」

「私は流石に、頭を撫でられるような年頃ではありませんので」

 

苦笑しているが、どこかしら残念そうな顔をしているのは気のせいか?

 

「っと、そろそろ2人共離れてくれるか?」

「「うん!」」

 

やけにあっさり返事したな。てっきりもっと粘ると思ったのに……って離れてないし!

 

「ユウキさん、暖かいからもう少しこのままで……」

「ユウキ……美味しそうな匂いするからこのままで……」

「おい、待てルーミア。どさくさに紛れて噛みつこうとするな。なんで2人共抱きついてきたりしたんだ?」

 

そこまで好かれるような事した記憶ないぞ。餌付けは……したか。

 

「しばらく寺子屋にも来なくてどうしたのかなと思ってたら、バカラ……文さんにユウキさんはここに居ると聞いて」

 

なるほど、あいつのおかげか。それにしても、大ちゃん。今何を言いかけた?

 

「それで、会いたかった―と抱き付いてあげれば、きっとユウキは喜ぶから、と言ってたからやってみたの!」

「なるほど……あのバ鴉のせいでしたか」

「今度会ったら……ヤキトリだね」

「美鈴もフランもそう怖い顔するな。まずは俺がぶちのめすのが先だろ」

 

この2人がやったらそれだけで終わりそう、俺がお仕置き出来なさそうだ。

 

「ユウキさん、嫌……でした?」

「む~ユウキが嫌なら離れる~」

 

おいおいおい!? これもアイツが仕込んだのか!?

 

―パシャパシャ!

 

ん? 今シャッター音が聞こえたような?

 

「ふふふっ、これは良い写真が撮れ……」

「ぎゅっとして、どっかーん!!」

「きゃああぁ~!? カメラが!?」

 

フランが木々の一角に手を向け、破壊の目を握りつぶすとバ鴉の声が聞こえたので、美鈴とフランに目配せした。

 

「ルーミア、大ちゃん、ちょっと待っててくれよな?」

「「【禁忌・フォーオブアカインド】 ……からの!」」

「クランベリートラップ」「レーヴァテイン」「カゴメカゴメ」「スターボウブレイク」

「過去を刻む時計」「カタディオプトリック」「495年の波紋」「フォービドゥンフルーツ」

「芳華絢爛」「セラギネラ9」「彩光乱舞」

 

これぞホントの弾幕だな。

 

「えっ、ちょっ、まっ!? 多い多い! 多すぎで……きゃあぁぁ~!?」

「わぁ~、花火だ花火だ!」

「昼間から……花火? それに今、文さんが花火のド真ん中にいたような……」

 

悪は滅びた、一仕事終えた俺達は無言でハイタッチした。

 

「ところで、美鈴は知ってるけど、その子はだーれだ?」

「私も知らない子ですね。ユウキさんのお友達ですか?」

 

友達、と聞かれても……返事に困るな。

見るとフランは少しオドオドしながら、俺と美鈴を交互に見ている。

あーなるほど。500年近くも地下にいたせいで、少し人見知りになっているのか。

俺や霊夢達はともかく、自分と同じような見た目のルーミアや大ちゃんは珍しいのかな?

 

「フランお嬢様、こう言う時はまずは自己紹介と挨拶ですよ?」

 

フランは美鈴に促されて、恥ずかしそうにルーミアと大ちゃんの前へいった。

 

「は、初めまして。フランドール・スカーレット……フランって呼んで」

「私は大妖精、みんなは大ちゃんって呼んでくれるよ」

「ルーミアだよ! よろしくね、フラン」

 

大ちゃんとルーミアが差し出した手をフランは握ろうとしたが、少し躊躇して俺を見上げた。

 

「大丈夫。今のフランは誰の手も握れるさ。それでももしもの時は、俺がいる」

「っ、うん!」

 

ゆっくりと、フランは自分の右手をあげ、その手を取った。

もう1人の手が重なり、3人の手はしっかりと結ばれた。

 

「え、えへへ」

 

恥ずかしそうに笑うフランにつられて、ルーミアも大ちゃんも笑った。

 

「フランに新しい友達が出来て良かったな、美鈴……レミリア」

 

振り向かずに背後に声をかけると、レミリアの声が返ってきた。

 

「……いつから気付いていたのよ」

「ルーミアと大ちゃんが来る直前、これでも気配を探るのは得意だぞ? 例えそれが吸血鬼でもな」

「そう言えば、何度も私達の気配に気付いた事あったわね。あなた本当に人間なの?」

 

当然美鈴もレミリアがこっそりと、フランの様子を窺っている事には気付いていた。

 

「レミリアお嬢様も隠れてないで、しっかり見ていればよろしいのに」

「ひょっとして、レミリアもあの輪に混ざりたかったのか?」

「そんなわけないでしょ、あなたのおかげでフランがどこまで人見知りが治ったか、見たかっただけよ。それに親友ならパチェと……あなたで十分よ、ユウキ」

「ははっ、そりゃどうも。でもよ、妹の友達なら姉として挨拶しないとな?」

「へっ? ちょっと、離しなさいよ!」

 

ドドンと腕組しているレミリアをつまみあげ、ルーミア達と話すフランの所へ行った。

 

「ユウキ~その手に持ってるの何? おやつ? 食べていい?」

「止めとけ止めとけ……レミリアじゃ物足りないだろ」

「ん~そうだなー」

「おい。それは私が小さいと遠まわしで言っているのか?」

「あはは、お姉様面白い格好!」

 

フランフラン……プランプランとむすっとしているおやつ、もといレミリア。

 

「あ、あんた達ねぇ……こほん、私はレミリア・スカーレット。この紅魔館の主よ。そして、フランは私の妹、妹の友達になってくれて礼を言うわ」

「威厳たっぷりに言っている所なんだが、この体勢で言ってもただシュールなだけだな」

「「うん」」

 

このままハンガーにかけて軒先に吊るせば、てるてる坊主の代わりになりそうだ。

 

「いい加減離しなさいよ! そこの妖精! 人の足をつっつくな!」

「わっ! 生きてる!」

「生きてるって何よ!? さっき自己紹介したでしょ!? 私は腹話術人形か!?」

「よしっ、今日の宴会でレミリアを使った腹話術を披露するか」

「しなくていいわよ!」

 

さっきからツッコミに忙しいレミリア。ちなみにまだ俺はレミリアを摘まんだままだ。

 

「レミリアお嬢様、楽しそうですね」

「これを見て心底そう思っているなら、その節穴な目玉引っこ抜いてあげるわ、美鈴」

 

とここで何か物足りない。と思っていた原因に気付いた。

 

「そう言えば、チルノはどうしたんだ?」

「チルノちゃんはヒミツの特訓をしているそうで、もう少しで完成すると言ってましたよ、アレが」

「へぇ、そうか、アレが完成するのか」

「はい、ユウキさんに見せるのが楽しみとも言ってましたよ」

「そうかそうか」

「?? 何の話?」

「お兄ちゃん?」

 

と、何の事か分からないルーミアとフランを秘密と指をたて、大ちゃんと2人で笑いあった。

それからみんなで鬼ごっこをしたり、弾幕ごっこをしたりした。

ハンデと言う事でレミリア対俺ら全員と、半ば冗談で言ったらプチっときたレミリアを……フルボッコにした。

 

「そ、それじゃあ約束通り、私が負けたからルーミアと大ちゃんも昼食を一緒に取るのを許可するわ」

「「「わーい!」」」

 

弾幕ごっこをする時にムキになったレミリアが、負けたら昼食を御馳走するという約束をして見事に玉砕。

ルーミアはインデックス顔負けの大食らいなのに、多忙な咲夜は大丈夫かと思ったけど、咲夜は既に大量の料理を用意していたようだ。

相変わらず手際がいいのか、レミリアが負けるのを予想していたのか。

 

「流石レミリア。わざと負けてフランの友達を招待しやすくするなんて」

「わ、わざとなわけないでしょ! 本気でやったわよ私は!」

「レミリアお嬢様……本気でやってボロ負けなんて、墓穴掘りまくってます」

「う、うるさいわね! 美鈴、そう言うあなたも手加減抜きで撃ってきたじゃない! 昨日も本気だったし、少しは主に華を持たせなさいよ!」

 

何だかこれ以上はレミリアのプライドが木っ端みじんになりそうなので、ルーミアや大ちゃんを交えた昼食会を始めた。

 

余談だけど、ルーミアと大ちゃんを見た咲夜とパチュリーがジト目で俺を睨んできたが、美鈴が事情を話すとそれならしょうがない。と何かを納得した。

更に、ルーミアと大ちゃんが文にたぶらかされて俺に抱き付いた事を知った2人が、その日の宴会で文をボッコボコにしていたのは……見なかった事にした。

 

 

 

昼食を終え、ルーミアと大ちゃんは帰って行った。

あの2人とチルノは他の友達と宴会に行くので、その時に沢山紹介すると言っていたので楽しみが1つ増えた。

フランは宴会に備えて眠ると行って自室に戻り、俺も少し休もうかと思ったが、レミリアに部屋へと呼ばれた。

 

「レミリア、一体何の用だ?」

「ユウキ、あなたのここでの生活は今日で終わりね」

「そうだな。この1週間は本当に楽しかった。レミリア達のおかげだ。ありがとう」

 

本気でそう思っていたので頭を下げると、レミリアは苦笑した。

 

「あなたと言う人は、全く。私があなたに礼を言いたかったのに……ま、その性格はわざとじゃなくて、地なのは良く分かったわ」

「フランの事なら、散々礼を言われたし十分すぎる恩返しももらった。これ以上もらうわけにはいかない」

 

レミリアはやれやれと溜息を吐き、右手をかざすと1つの大きな旅行カバンが現れた。

 

「じゃあこれは餞別よ。あなたのサイズに合う洋服と下着が入っているわ。幻想郷に来る前には紅魔館にも男の使用人やらがいて、それはその残りよ。外の世界とこことは文化も年代も違うから、少し浮いた格好になるかもしれないけど、それは今着ている服でも同じでしょ?」

 

中身を開けてみると、色とりどりの現代向きの洋服と下着が折りたたまれて入っていた。

俺は紅魔館では寝巻以外は来た時と同じ服と、防寒着を着ていたがこれは咲夜が能力を使い洗濯をしてすぐに乾かしてくれたから、ほぼ毎日着れる事ができた。

慧音の所では和服を借りてきていたけど、あれはどうにも着なれていなくて違和感あったな。

正直、これから服をどうしようかとは考えていたのでこれはありがたかった。

 

「おぉ、これは本当に助かるよ。ありがとう。って、これ俺がもらっていのか? レミリア達の大切な人とかの遺品じゃあ」

 

俺がそう聞くと、レミリアはおかしそうに笑ってこう答えた。

 

「あははは、あなたがそこまで気にしなくていいわよ。確かに遺品と言っていいモノもあるけど、それらは違うわ。ま、そこら辺は詮索しないでもらえると助かるわね。ただ、私たちの服の生地に使えそうと思ってとっておいたものだから、思い入れも何もないわ」「なら、遠慮なく貰っておくよ。じゃ、またあとで」

「えぇまたあとで……ってちょちょっと!」

 

バックを手に部屋を出ようとすると、慌てたようにレミリアが椅子から部屋のドアの前まで飛んで、俺の行く手を塞いだ。

 

「ま、まだ話は終わってないの、勝手に出ないでよ」

「あぁ、悪かった……」

 

と、レミリアがまた自分の椅子に戻って仕切り直し。

 

「私がフランの事で礼を言ったけど、それはあの異変の事だけじゃないわ」

「ん? あの時の事以外で俺は何もしてないぞ?」

 

むしろしきりにフランが俺の手伝いや世話を焼きたかがってたから、それこそ俺が礼を言う側だと思うけど。

 

「今日、フランがルーミア達と友達になれたのを見て思ったわ。もうフランは完全に癒されているって」

「………」

「495年もあの子は地下に閉じ込められた。それが誰の意思であろうと事実は変わらない。そこであの子は狂気に堕ちてしまった……けれども、あなたが救ってくれた。そして、この1週間であの子は友達が出来る程まで癒されたわ。それはあなたが普通に接してくれたおかげよ」

「普通に接した?」

 

意味があまりよくわからない。確かに普通に接したけど、そこまで意識しなかったし。それは誰にでも同じにだ。

 

「そう、フランは吸血鬼でかつあんな恐ろしい力を持っているのに、いくら狂気から解放されたとはいえ、あなたは何も億さず、1人の女の子として可愛がったり時には窘めたりしてくれた。フランはその事で心が癒されたのよ」

 

か、可愛がったって物凄く語弊があるように思うけど……けど、それは。

 

「それは俺だけじゃないだろ。魔理沙だって霊夢だってそうだったろ」

「そうね。でも確かにあの2人もだけど、でも一番普通に接してくれて嬉しかったのは、間違いなくあなただわ」

 

か、体が痒くなってきた。なんだこの味わった事のない感覚は。

 

「……で、でもね。それは私も同じなのよ」

 

レミリアはきょろきょろとあたりを見渡すと、少し小声で話し始めた。

 

「あなたはフランだけじゃなく、私にもパチュリーにも咲夜にも美鈴にも、誰にも偏見を持たず平等に接してくれた。それが嬉しいのよ、私達は」

 

あーなるほど、普通は怖がったり意識したりとするはずが、まるで人間、同種の相手をしているかのように振る舞ったのが嬉しかったと……

ん~、思えば俺かなりフランクすぎたな……

 

「それってただの無礼者じゃないか? それに妖怪って言うのは人間に恐れられるのが普通で、それを糧にしてるんじゃないか?」

「礼儀も良識もない愚か者の事よそれは。でもあなたは違うわ。あなたは例え相手が人食い妖怪でも吸血鬼でも殺人鬼でも、誰にでも優しくて時に怒ったり一緒に笑ったりしてくれる。それにね、恐れが糧にならない妖怪だっているのよ? だからこそ、あなたに聞きたい」

 

そこでレミリアの目付きが変わった。その眼から表情は読めない。

 

「なぜ、あなたはここに来たの? あなたのいた世界で、あなたに何があったの?」

 

―ドクンッ

 

「あなたが幻想入りした理由はスキマ妖怪から聞いて、みんな知っているわ。けど、そこで私達はみんな疑問に思ったの……なぜ、ここまで他人に厳しくも優しいあなたが、自分のいた世界の人間に忘れ去られてしまったのか、とね」

 

―ドクンッ!

 

心臓の高鳴りが酷くなってきた。

 

「異変が解決して、スキマ妖怪がやって来た時に教えてもらったわ。勿論フランも聞いた。その時私も含めた紅魔館のみんなは驚いたわ。あなたは決して誰にも忘れられるような……そんな孤独な人間じゃないのに、なぜ? とね」

「そ、それは……」

「フランなんて泣き出したのよ? でも、霊夢が言ったの。あなたは自分のいた世界に拒絶された事を全く動じていない。私達が下手に騒ぐ方が動揺する。とね。私も同意見だったわ、だからみんな普通に接していたの」

 

そっか、普通に接していたのは、俺だけじゃなかった。俺もみんなから普通に接してくれていたのか。

 

「あなたの過去はきっと想像以上の辛いモノだと言うのは、容易に想像できる。あなたが過去に沢山人を殺してきたのもすぐに分かったわ。それでもあなたは……独りになるような人間じゃない」

 

―ドックンドックン

 

嫌な汗が全身から溢れ出てくる。

 

「あなたは、色々な人を助けて救ってきた。私にはそれが分かる」

「それは能力で知ったのか? だったら俺の過去も分かるんじゃないか?」

「私に見えるのは過去じゃない、あなたがどんな運命を導いてきたかだけ。あなたが色々な人を助けて、救ってきた、その事実だけ……そう、あなたは 【ヒーロー】 だった。なのに、あなたは忘れ去られた。その理由が私には見えない」

 

―ドクンドクンドクンッ……

 

ヒーロー……当麻、一方通行、浜面……

 

「うっ、ぐっ……ああぁぁ~!!」

 

頭が、痛い。胸が裂ける……俺の身体が引き裂かれる……

 

「……私を見なさい、ユウキ」

「はっはっ、ふっ……はぁはぁ……」

 

息が、苦しい。何も見えない……

 

「目を開けて、私を見なさい……私を見るの!」

 

その声に全身が震えた。ゆっくりと息を整え、顔を上げるとすぐに近くにレミリアの顔があった。

 

「無理をさせたわね、ごめんなさい。ユウキ、あなたがいた世界の事を忘れろとは言わないわ。でも、今のあなたが独りじゃない事も忘れたらダメよ。あなたがいたこの1週間とても楽しかったわ」

「……あぁ、俺もとても楽しかったよ」

 

もう用は済んだのか、レミリアは俺に背を向けている。

息も整い、汗も引いた。宴会に行く前にシャワーを浴びさせてもらおう。ついでに、もらった服を着てみるか。

 

「宴会に行く時に呼ぶわ。それまで休んでいなさい」

「……ありがとう」

 

レミリアが何をしたかったのか、言葉には出来ないが何となく分かった。

ここに咲夜もパチュリーもいないのも、それが理由だろう。

 

「最後に一つ、言っておくことがあるわ」

 

部屋を出ようとした所で、レミリアに呼びとめられた。

ふり返ったが、レミリアは向こうを向いたままだ。

 

「博麗神社に行っても、たまにで構わないから遊びに来なさい……いえ、来てほしいの。私達はいつでも歓迎するわよ。あなたのせいで、紅魔館は変わった……これから先ずっと、あなたが死ぬまでその責任、取ってもらうからね」

 

振り向いたその顔は、これまで見た紅魔館の主でもなく、フランの姉でもない。

見た目相応な、少女の眩しい笑顔だった。

 

 

つづく

 




レミリア姉妹回&紅魔館最終回です。
次回は宴会です。
これから東方キャラがすごく増えるから描写がんばります!

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