幻想支配の幻想入り   作:カガヤ

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お待たせしました!
まりさ……ではなく、マリカ8にハマってました(爆)


第35話 「初めての弾幕ごっこ」

俺が紅魔館に世話になって今日で4日目。

左腕も動かせるようになったし身体の傷も癒えたので、朝食の時にここを出る事にしたんだが……

 

「「「「ダメ(です・よ)!」」」」」

 

とレミリア達に言われてしまった。

強引に出るのも考えたが、フランに涙目で、レミリアに睨まれ、咲夜には諌めるように、美鈴は心配そうに、パチュリーからはなぜか獲物を狙う獣のように言われて結局1週間、つまり3日後までここに居る事にした。

 

 

そして、今は昼食を終えた午後。

 

「はぁ~……」

「さっきから溜息ばかりですけど、大丈夫ですか?」

「大丈夫、だと……思う」

 

隣で一緒に作業するこぁが心配そうな顔をしているが、俺は苦笑いで答えた。

今俺は、紅魔館地下にある大図書館にいる。

あと3日とは言え、流石にベッドで寝ているだけでは身体がなまるだけじゃなく、かえってストレスが溜まりそうなのでレミリアに何か手伝える事はないかと聞くと。

 

『なら、図書館の整理を手伝ってもらえる?』

 

と、パチュリーに頼まれた。大図書館には見渡す限りの書物が収められており整理するのも大変で、尚且つ危険な魔導書も多く、膨大な魔力を持つパチュリーかレミリアでなければ触る事すら出来ない物も多い。

そこで俺がパチュリーを幻想支配で視る事で、彼女の魔力を使い魔導書を整理して欲しいらしい。昨日の実験もこれを見越しての事だったようだ。

「いや、どこを見渡しても本ばかりのこの図書館に圧巻されてるだけだ」

 

今パチュリーの力で宙に浮いているが、上も下も右も左も本棚だからけだ。

 

「そうですか? うーん、私はここしか知りませんけど、外の世界の図書館って大抵こんな広さじゃないんですか?」

「少なくとも俺が知る中では、ここがダントツの広さだな」

 

インデックスの記憶している魔導書を全部形にすればこれくらいは……いや、それ以上にありそうだな。

既に作業を始めて1時間くらいだけど、手にした本は様々だ。

パチュリー自筆の魔導書だったり、製作者不明の珍妙な図鑑だったり、人間が開けば食われる呪われた本とか危ない物もあった。

まぁ、虎がバターになる絵本とか、別の意味で危ない本もある。でも普通の小説や漫画もあるのには驚いた。

これを見る限りでは、幻想郷の外の世界と俺がいた学園都市がある世界では、出ている本にあまり変わりはないようだ。

未来から来た青狸の漫画だったり、少し懐かしいものも見つけた。

今日一日で出来る範囲でやってくれればいいと言われており、それが終われば自由に見て構わないとお墨付きも貰っているのでその時に読ませてもらおう。

 

「読むのは構いませんけど……気を付けてくださいね。普通のカバーしてても中身が危険な本、と言うのもありますから」

「それは……例えばこれか?」

 

こぁが怖がらせようとすごんで言ってきたが、俺が手にしたのはカバーが8作も映画が作られたメガネをかけた魔法少年の話……だったが。

 

「中身はパチュリーのポエムが綴られた……」

「なぁ~に、してるのよおぉ~!」

「……あ、パチュリーさ、ま“!?」

 

ページをペラペラめくっていると目の前をいくつもの火球が飛び交い、こぁが爆発した。

続けてパチュリーが息を切らしながら飛んできて、俺の手から黒歴史ノートをかっさらった。

 

「はぁはぁ、はぁ……見た?」

「ここは地下、私は1人闇に向きあう……」

「読まなくていいわよ! と言うか読むんじゃないわよ! 忘れなさ……ゲホゲホッ!」

「大丈夫かパチュリー?」

 

さっきから怒鳴ってばかりのパチュリーがせき込んでしまった。

確か、パチュリーは喘息を患っているんだったな。これは悪ノリしすぎたか。

 

「い、いえこれは喘息とは違うわ。全力で飛んで全力で魔法使って全力で叫んだから……少し喉が」

 

あーそこまでしてあのノートは見られたくなかったのか。

と、呑気な事考えてないで、近くにあったお茶を飲ませると少しは落ち着いたようだ。

 

「全く、せっかく咲夜が3時のおやつにと、紅茶とケーキを持ってきたって教えにきたのに」

「あはは、悪い悪い。ちょっと興味沸いたからな、パチュリーのポエム」

「昨日といい今日といい、なんで私の恥かしい所をあなたに見せないといけないのよ!」

「ひ、酷いですよパチュリー様。全力のアグニシャインなんて、私には避けれません!」

「黙りなさい! あなた、まだあんな悪戯してたのね! 昨日のお仕置きが足りなかったかしら?」

「ご、ごごごめんなさいパチュリー様」

 

体中から煙を上げているこぁも本気で怒ったパチュリーは怖いらしく、涙目で俺の後ろに隠れた。

 

「まぁまぁ、こぁにはさっき一発いいの当てたんだからさ。はやく咲夜のケーキ食べようぜ、パチュリー」

「……次はないからね、こぁ」

「は、はい! ありがとうございます、ユウキ様」

 

パチュリーがどうにか機嫌を治したところで、ケーキを食べに行こうとした、その時だった。

 

「やっほーー! お邪魔するぜーー!!」

「魔理沙!?」

 

と、声と共に箒に乗った魔理沙が図書館に突撃してきた。

 

「一体何の用かしら? 私達これからティータイムなのだけど」

「お、ユウキ。ちょっと久しぶりー! 怪我は治っているみたいだな? 良かった、良かった。結構ボロボロだったから心配してたんだぜ。霊夢はなんだかずっと不機嫌だったから、お前さんの事聞けなくてさー」

「魔理沙にも心配かけたな。それと、あの時は助かった、借りが出来たな。魔理沙来なかったらフランに殺されてた、ありがとう」

「い、いいって事だ。借りはいつか返してもらえればいい」

 

フランとの戦いで俺は自分を見失い、狂気のまま戦ってそして殺される所だった。

けど間一髪、魔理沙が来てくれたおかげで助かった。

その御礼がやっと言えたのは、良かった。

 

「ちょっと私を無視しないでよ! 魔理沙、あなたこの前のどさくさにまぎれて、私の魔導書何冊も盗んだでしょ? あれ、返しなさい!」

「あれはパチュリーに勝ったから、その報酬として頂いただけだぜ?」

 

確か異変の時、魔理沙は霊夢とここに突入してパチュリーに勝って、この図書館に案内されている時俺とフランの戦いを知ったんだったな。

 

「私はここを案内して、魔導書を少し見せるとしか言ってないわ!」

「じゃあ私は魔導書を借りてる事にするぜ。いつか返しに来るから、それならいいだろ? で、今日も借りてくぜ」

「良くないわよ! そんな狼藉これ以上見過ごすと思う?」

 

パチュリーがどこからか魔導書を取り出し、魔理沙も帽子の中から小さな八卦炉を出して構えた。

 

「わわっ、ユウキ様、こっちへ」

 

こぁに手を引かれて、本棚の影に隠れる。

2人の邪魔をするつもりはないし、流れ弾に当たるのも御免だ。

 

「おいおい、連敗記録を伸ばすつもりか?」

「まだ一度しかやってないし、一度しか負けてないわよ! この前のようにはいかないわ!」

 

パチュリーの周りに光の球がいくつも浮かびあがり、魔理沙へ弾幕を放ち始めた。

 

「この前の再現にならなきゃいいな!」

 

魔理沙も箒で器用に飛びまわりながらも、パチュリーに向けてレーザーのような弾を放った。

パチュリーが魔理沙目がけて文字通り弾幕を放ち、魔理沙が自分の周囲に光球を浮かばせピットのように操り反撃する。

さながらパチュリーが移動要塞で、魔理沙がそれに挑む戦闘機のようだ。

 

「これ、図書館壊れないか?」

「大丈夫ですよ。パチュリー様が魔法をかけてますから本棚が倒れる事はあっても、本が傷付くとはありません」

「便利な魔法だな」

 

俺の知っている魔法、魔術はここまで応用力はない。

何かしらの儀式や道具を必要として、大々的な物が多かった。

 

「それにしても、相変わらず綺麗だな」

 

こぁと見上げる先では、パチュリーと魔理沙が弾幕を打ちあい続けて、図書館いっぱいに花火が上がっているような鮮やかさだ。

 

「あれ? ユウキ様、弾幕ごっこしていませんでしたっけ?」

「まともにした事はないよ。フランとだって、半ば殺し合いだったし。魔理沙とフランがやっている時は見ていたけど、意識朦朧としてたしな」

 

俺はまともに弾幕ごっこをした事がない。フランとのアレは弾幕ごっことは言えないだろう。

フランのスペルカードを攻略した事にはなるが、あれはまた別モノだと思っている。

 

「行くぜ! 【魔符・スターダストレヴァリエ】」

「それはこの前見たわ! 【月木符・サテライトヒマワリ】」

 

魔理沙の星の弾幕を放つが、パチュリーはそれ以上の高密度の弾幕を放った。

互いの弾幕が相殺し合って行くが、物量差なのか徐々に魔理沙が押され始めて行った。

魔理沙は避ける余力はなく、別の魔法で迎撃出来る余裕もない。

このままいけば、パチュリーの勝ち。俺もこぁも魔理沙ですらそう思ったはずだ。しかし。

 

「っ!? げほごほっ!」

「「パチュリー(様)!?」」

 

突然パチュリーが激しく咳き込み、弾幕が切れてしまった。

そして、それまで相殺していた魔理沙の弾幕は、全てパチュリーへと向かった。

 

「おわっ!? ま、まずい。避けろパチュリー!」

「ごほごほっ……え? きゃあぁぁ~!?」

 

魔理沙の弾幕は自分では消せないようで、無防備なパチュリーへと思いっきり当たってしまった。

いかに殺傷力のない弾幕とはいえ、まともに食らって気絶したのかパチュリーはそのまま頭から地面へと落ちて行った。

 

「ちっ、間に合え!」

 

幻想支配で魔理沙を視て、急いでパチュリーの元へと飛んだ。

高速で飛翔する事だけを考え、その為にこの身に纏った魔理沙の魔力をどう使えばいいかを瞬時に理解し、行使した。

魔力による移動速度はパチュリーより魔理沙の方が早いので、魔理沙の方を選んだ。

どうにか地面ギリギリでパチュリーをキャッチした。

ん? 魔理沙……本当は箒なしで飛べるじゃん!?

 

「……あ、ありがとう。でも、降ろしてくれない? ごふっごほっ」

「まだそんな変な咳してるじゃないか。いいから、じっとしてろ。あ、魔理沙、少しだけ待っててくれな」

「お、おう……」

 

パチュリーを助けようとして固まった魔理沙に背を向け、図書館内を飛びソファーやテーブルが置かれた一角へと降りた。

そこで抱きかかえたパチュリーをソファーに寝かせると、こぁが薬と飲みモノを持ってきた。

 

「パチュリー様、お薬です。飲んで下さい」

「ありがとうこぁ。この前の異変以来落ち着いていたから油断したわ」

 

紅霧異変の時、咳のせいで魔理沙に負けたがあれから調子がいいので、次は負けない。

パチュリーはそう言っていたが、今度も同じ原因で負けそうになるとは思わなかったのだろう。

 

「ユウキもありがとう。で、でも出来れば……この体勢以外で助けてほしかったわ」

「この体勢? お姫様だっこか?」

「言葉にださなくてもいいわよ! 全く、なんで私がこんな体勢に……」

 

パチュリーは顔を少し赤くしながら何かブツブツと言っているが、聞こえないフリをした。

それにしても自分で言っておいてなんだが、誰かを抱きかかえるなんて久しぶり、いや、初めてだったかな?

いつも当麻や浜面が女の子をお姫様だっこしているのは見ていたけど、まさか自分がする事になるとは。

 

「とにかく、魔理沙を放っておいたらまた本を持って行かれるわ。とっとと追っ払ないと。もう、美鈴も咲夜も何をしてるのよ! ゴホゴホッ!」

 

美鈴は魔理沙の侵入に気付かないとは思えないから、多分負けたんだろうな。

近中距離戦の格闘戦なら美鈴は負けないが、弾幕ごっこでの遠距離戦は苦手そうだし相性の問題だろうな。

咲夜も負けたのか、いや今の時間なら掃除で忙しくて気付かなかったかも。

いや、待てよ。この感じは……まさか、そう言う事か。

 

「パチュリーはここで大人しくしてろ。代わりに俺が魔理沙追っ払ってくるから。あ、これと魔力借りるぞ」

 

そう言って、幻想支配でパチュリーを視て、持っていた魔導書を手に取った。

 

「ちょっと、何をする気?」

「さっきの続きだよ。俺がパチュリーの力を使って、パチュリーのスペルカードを使うんだ。いわば代理だ」

「ケホゲホッ、そ、そんな真似させれるわけないでしょ。こんなの少し休めば大丈夫。ここは私の図書館よ、私が守るわ!」

 

声はしっかりしているが顔色は悪く、フラフラしているパチュリーにこれ以上無理はさせられない。

こぁは俺とパチュリーをオロオロして交互に見ながら、意を決したようにパチュリーに向き直った。

 

「パチュリー様、ここはユウキ様に任せましょう」

「こぁ、あなたまで何を言うのよ!?」

「今のパチュリー様が魔法を使うのは身体に障ります。ここはユウキ様を信じてお任せしましょう!」

「でも……」

 

パチュリーは俺を信用していないのではなく、自分の場所は自分で守るというある種のプライドから来ているように見える

レミリアの親友であり、魔女でもある彼女らしいと思った。

 

「だったらパチュリー、俺は元の世界では何でも屋だったんだ。破壊工作から護衛まで何でもやってきた。だから、俺に図書館を守れと依頼しろ。それならいいだろ?」

「……分かったわ。ユウキ、私の代わりに私の力を使って、あの泥棒魔理沙にお仕置きして頂戴。それとアレは……」

「了解、オーダー受領したぜ。あっちは、まぁ分かってる。アイツの魂胆もな」

 

久々に何でも屋として依頼を受けたな。

さて、幻想郷での初仕事、さっさと始めよう。

観客もいる事だしな。

 

 

 

ユウキがパチュリーをお姫様だっこしてどこかに連れて行った後、私はポツンと地下図書館に浮いたままでいた。

今なら逃げるのも本を 【借りる】 のも自由だったが、流石にそこまではしないぜ。

とにかく少しだけ待って見ると、ユウキがやってきた。

彼の手にはパチュリーが持っていた魔導書があり、目が赤くなっていて全身からパチュリーの魔力を感じた。

幻想支配でパチュリーを視たんだろうな。さっきは私の力使ってたし。

 

「待たせたな、魔理沙。てっきり逃げているか、本を盗んでいるかと思ったんだけど」

「あのなぁ、私はそこまで鬼じゃないぜ」

「うーん、俺は魔理沙の事全く知らないからな。てっきり傍若無人かと」

「おいおい、命の恩人に向かってそれはないだろ!」

 

確かに彼と私は全く面識なかったな。フランの時に乱入したけど、あの時も話らしい話しなかったし。

 

「慧音からは図々しくて、豪胆な所があると」

 

慧音、今度会ったら覚えてろ! ってか本人目の前にしてよくそう言う事言えるな!?

 

「でも根は優しくてお人よしとも聞いてる。ま、実際会ってその通りだと思ったよ。この前もわざわざ地下まで来て助けてくれたし、改めてありがとな」

 

ユウキと話してると調子狂うな。霊夢が良く分からないと言ってたのがうなづけるぜ。

 

「それじゃあ恩人としてここは黙って通してくれないか? 本は借りていくだけでいつか返すぜ? それにユウキも怪我が治ったばかりであまり無茶するのはよくないだろ?」

「あーそれは無理だな。たった今パチュリーから仕事引き受けたから、魔理沙を捕まえるって。仕事に私情は挟まない主義なんでな。怪我の方は身体もまともに動くし問題ない。それにこれはリハビリのようなものだからな」

 

恩人だから見逃してー作戦、失敗か。

目の前にで左手をぐるぐる回すあたり、本当に怪我も治っているようだ。

仕方ない。ここは、さっきの続きをするしかないようだぜ。

 

「ユウキは弾幕ごっこ初心者だったな? 生憎、私にはEasyモードは存在しないぜ?」

「それは良かった。相手が素人じゃないなら……手加減する必要ないよな?」

 

挑発に挑発で返された。そう言えば、ユウキは元いた世界で戦争も経験してる、かなりの実力者だったな。

フラン相手にも初めは圧倒されてたけど、力を使った後は逆に圧倒してたし。

これは油断しない方がいいな。

 

「あ、そうそう。フランの時みたいに接近戦や肉弾戦を仕掛けたりしないから、安心していいぞ。女の子を無暗に殴ったりするのは好きじゃないからな」

「それ、嘘だろ? 顔思いっきり笑ってるぜ?」

「バレたか」

 

つ、疲れる奴だ。口では恐らく勝てないな。

 

「まあいいや。それじゃ、再開だ……ぜ!」

 

箒に跨りユウキの横を一気に突き抜け、振り向きざまに彼の背中に弾幕を放つ。

それでもユウキは驚く事も振り向く事もなく、ゆらりと揺れるような動きでそれをかわした。

 

「卑怯……って言ってほしいか?」

「いや、お前ならかわすと思ったぜ」

「そうかい、じゃこっちの番だな」

 

こっちを向く事なく、ユウキは右手を振うと彼を中心に弾幕が放たれた。

 

「おっと!」

 

一度距離を取ったが、ユウキは更に弾幕を撃ち続けてきた。

これは、パチュリーの使っていた弾幕。やっぱりユウキは他人の弾幕を使える能力の持ち主。

恐らくパチュリーのスペルカード、魔法も使えるだろうな。

 

「だったら、これはどうする? 【星符・メテオニックシャワー】」

「それなら 【火符・アグニシャイン】」

 

私が放った星のシャワーは、ユウキの放った沢山の火球に防がれた。

あのスペルカードは一度見ているけど、今回は軌道が違った。

攻撃用スペルカードを防御に使うなんて、発想が面白いな。

 

「今度はこっちの番! 【水符・プリンセスウンディネ】」

 

これも一度見た事ある。針のような細長い弾幕と、水玉のような丸い弾幕の2段攻撃。

 

「へへっ、スペカで迎撃するまでもないぜ!」

「それはどうかな!」

 

ユウキはスペカを放ちながら、私の動きに合わせて動きだした。

おかげで軌道が不規則になり、パチュリーの軌道に合わせて動いていた私は少しだけ焦ってしまった。

パチュリーは弾幕を放っても、あまり高速で動かなかったからなぁ。

それは喘息持ちだから激しい動きができないのか、それともパチュリーの飛行魔法は高速移動向きではないのか分からない。

だけど、ユウキはパチュリーの力で高速で飛行……って待てよ。

高速で飛行してると見せかけて、実は本棚や天井や壁を蹴って移動している。

 

「なかなかアグレッシブな動きだな」

「俺は飛びまわるより、駆け回る方が性に合ってるんだよ!」

 

スペカの効果時間まで避けるのが辛くなってきたので、仕方なく私もスペカで迎撃しようとした。

ミニ八卦炉をユウキに向け、狙いを定める。

もう少し遊んでいたかったけど、そろそろ咲夜やレミリアが気付いてきそうだからな。

そう言えば、なんで今日は美鈴門にいなかったんだ? アイツ門番クビになったか?

ってそんな事どうでもいい。早く終わらせて本を借りてずらかるぜ!

 

「ちまちま撃つだけっていうのも味気ないよな? やっぱ、弾幕はパワーだぜ! 【恋符・マスタースパーク】!」

「なっ!?」

 

ミニ八卦炉から極太の砲撃が、ユウキに向かって放たれた。

流石のユウキもこれには驚いたようだぜ。それもそのはずこれは私の十八番。他のスペカより強力だぜ!

 

「なんの!」

 

ユウキはスペカを解除して、身体を回転させながら落下した。

飛行魔法を解除して重力に身を任せて回避するつもりか、間に合うかな?

 

「ふぅ~危ない危ない。あんな大火力レーザー、美琴や沈利といい勝負だったぞ」

「その2人が誰か知らないけど、私の十八番をよくかわせたじゃないか。流石だぜ」

 

ユウキはどうにかギリギリでかわせたようだ。十八番を使ってもダメだったのが、少し悔しい

こうなったら、私の新しいスペカを試すしかないぜ!

 

「なかなかやるじゃないか。霊夢並にやりにくい相手だぜ」

 

主に性格と言うか、相性的に。

 

「でも、これが私の最後の1枚。これで勝負を決める。行くぜ! 【彗星・ブレイジングスター】」

 

これは私が膨大な魔力を纏い、相手に一直線に向けて突撃するスペカ。

単純な構成だけど、結構前から霊夢に対抗するために試行錯誤繰り返しの結果、ようやく形になった私の魔法だ。

生み出したばかりで試し撃ちもまだけど、これはかなり強力だぜ。

パチュリーの力を使っていても、弾幕ごっこ初心者のユウキにはちょっとキツイかもな。

 

「何のこれくらい、ってうおっ!?」

 

一撃目は何とか避けたけど、私のとっておきはそれくらいじゃ終わらないぜ。

スペカの効果時間まで、何度でも相手に向けて突撃を繰り返す。

 

「このっ! って効かない!?」

 

ユウキもただ避けるだけじゃなく、私に向けて弾幕を撃ってきているが無駄だ。

これは迎撃不可能。避けるしか手はないはずだぜ!

しかも、通り過ぎた後は弾幕がばら撒かれるおまけ付きだ!

さぁ、どうする? パチュリーのスペカで逃げるか? どんなスペカでも突破してやるぜ!

 

「…………」

 

ユウキは弾幕での迎撃をやめ、本棚の上に立ち飛行魔法ではなく自分の瞬発力で避ける方を選んだようだ。

それでも私が幾度となくアタックを繰り返しているで、徐々に避けきれなくなってきている。

スペカの効果が切れる前に、ユウキに一撃を当てる方が早い。

 

「うわっとと!?」

 

とうとうユウキを掠めた。避けれたが体勢を崩したユウキは、本棚の上にうずくまった。

まだ時間もある、次で最後だ!

 

「これで、トドメ!」

「……それはどうかな?」

「えっ?」

 

私の全魔力が籠った彗星が、ユウキに直撃する寸前。本棚の上からユウキが消えた。

そして、今までユウキがいた本棚を通り過ぎた私の背後から、膨大な魔力が感じられ……

 

「【日符・ロイヤルフレア】!」

「なにぃ!? うわあぁ~!?」

 

背後に巨大な火球が直撃して、私のスペカは解除されそのまま吹き飛ばされてしまった。

スペカは解除されたが、それまで高速で飛びまわっていた勢いは止まらず、本棚にぶつかりそうになり、思わず目を瞑った。

けど、直後に味わったのは何か柔らかいもの、誰かに抱きとめられたと言う感触だった。

 

「ふぅ~、大丈夫か魔理沙?」

「ユ、ユウキ?」

 

恐る恐る目を開けると、そこにはユウキの顔があった。

どうやらさっきパチュリーを助けた時のように私の力を使い、どうにか追いついて間一髪助けられたようだ。

お姫様だっこされているのも、パチュリーの時と同じだった。

結構恥ずかしいな……

 

「つい熱くなって、攻撃当たった後の事考えてなかった。悪い、魔理沙」

「い、いや……助けられたし、それに私の……負けだ」

 

男に抱きかかえられるなんて、おとう……いや、アイツと香霖以外じゃ初めてだな。

でも、段々とお姫様だっこされている羞恥心よりも、それ以上に悔しい思いが胸に込み上げてきた。

あれだけ苦労して生み出した私の魔法、スペルカードをよりにもよって初心者のユウキに破られるなんて。

 

「どうして……どうして私に弾幕を当てられたんだ? まだ時間切れには猶予があったはず」

 

そう、ブレイジングスター中は攻撃が当たらないはず。何せ私の全魔力を籠めているんだ。それでも、破られた。

 

「あーそれはだな、まず俺も幻想支配が切れそうになったから、パチュリーの魔力を使わないようにする為に本棚の上で身体能力だけでかわす事にしたんだ」

 

確かに幻想支配には制限時間があるのは知っている。だからフラン相手でも、途中で切れてしまったんだよな。

 

「パチュリーの残った魔力を、最後のスペカに集中する為時間稼ぎもしたかったしな」

 

なるほど、確かにあのスペカは結構な魔力使ってたからな。

 

「で、肝心の魔理沙のスペカ攻略だけど、アレ背後ががら空きだったぞ?」

「へっ? 背後が?」

 

背後ががら空きって……まさか!?

 

「膨大な魔力を身に纏っておまけに弾幕もばら撒いていたけど、背後つまり真後ろには弾幕はばら撒かれていなかったし、纏っていた魔力に穴も視えたな」

 

まさか、私のブレイジングスターにある弱点を、私でも気付かなかった弱点をこの短時間で気付いたのか!?

 

「だから、わざと体勢を崩して隙を見せて。で、魔理沙が最後のトドメをさしに来るタイミングを見計らって、本棚の淵に両手をかけるように落ちて、魔理沙が通過した瞬間に飛び上がって、穴目がけて俺も最後のスペルカードを使ったんだ」

「なっ、んだって……?」

 

体勢を崩したののも、隙を見せたと思ったのも全部わざとでまんまと私は釣れられたのか!?

 

――パチ、パチ、パチッ

 

その時どこからともなく、拍手がなった。

ユウキから地面に下ろされて私は目をキョロキョロさせたが、ユウキは最初からその拍手の主がどこにいるのか気付いていたように斜め上を見上げていた。

その視線の先には、レミリア、フラン、咲夜、美鈴がいた。

 

「大変面白い見せものだったわ、2人共」

「お兄ちゃんも魔理沙もかっこよかったよ!」

「……おいおい、俺らを見せもの扱いかよ。魔理沙がここに来た時から視線を感じたけどさ」

「えっ? ユウキ、レミリア達いたの気付いてたのか?」

 

ユウキの呆れた口ぶりから、ずっと前からレミリア達がいた事に気付いていたようだ。

 

「パチュリーをソファーに寝かせていた時にな、パチュリーもその時に気付いていたみたいだな。レミリア達の視線は一度感じていたしすぐに分かったよ」

 

なんてこった。私1人だけ気付かなかったのか……ユウキにも、パチュリーにも気付けたのに、私は……

 

「お嬢様が突然美鈴を呼び出して何を言うかと思えば、白黒ネズミが来るけどほっておきなさい。で、まさかこうなるとは思わなかったわ」

「ホントですよ。まさかユウキさんがパチュリー様の代わりに弾幕ごっこをするなんて、流石お嬢様そういう運命が見えたのですね」

 

そうか、やけにここまで美鈴にも咲夜にも妖精メイドにも妨害されないと思ったら、レミリアの仕業だったのか。

大方、能力で私とユウキが戦う運命でも見えて、それでみんなで見に来たと言うわけか。

 

「レミィ、もし運命が見えたのなら私にも一言言ってほしかったわ。おかげで喘息がまた起きたじゃない」

「あら、喘息持ちなのは今に始まった事じゃないでしょ、パチェ」

 

こぁと共にパチュリーが奥から戻ってきた。どうやら喘息は収まったらしい。

 

「さぁ、魔理沙。負けたのだからここの掃除や片付け、1人でしてもらうわよ? 魔力がでかいあなたなら魔法で簡単でしょ。勿論、本も返してもらうわ」

「なっ!?……分かったよ。ってこれ1人でやるのか!?」

 

良く見ると図書館内はかなり荒れている。本はパチュリーが魔法をかけていたおかげか、全く傷はついていないようだけど。

 

「当たり前でしょ。私は発作が治まったばかり、ユウキも病み上がりにこれ以上無理させれないでしょ。こぁには元々の仕事あるもの。それに、敗者は黙って勝者に従うものよ?」

「うぐぐぐっ……勝者はユウキだろ?」

「あら、ユウキは私の代わり、代理としてやってもらったのよ? だから私の魔力で私のスペカを使ったの。だから勝者はユウキであり、私なの」

「魔理沙、諦めろ。パチュリーの勝ちだ」

 

自分でもヒドイ負け惜しみだと思うけど、それ以上にパチュリーがヒドイ笑顔になった。ユウキも苦笑しているぜ。

 

「そうだ、魔理沙。後で折角来たんだしこの前の続きしようよ」

「あらいいわね。魔理沙、図書館の片付けが終わったらフランと遊んであげなさい。あの時の決着うやむやに終わったでしょ?」

 

そう言えば、異変の時私はフランと弾幕ごっこしたけど、ユウキが間に入って代わったせいで決着付かなかったんだよな。

 

「ちょっと待て、フラン。弾幕ごっこは今度してやるから。ここの後片付けで精一杯で、フラフラで倒れちゃうぜ」

 

そもそも今も魔力がほぼなくて結構フラフラなんだけど、その上この荒れた図書館の後片付けなんて、魔力が全快でも厳しいぜ。

 

「その時は私が魔力回復薬調合してあげるから、それ飲んで回復しなさい」

「私も精の付く料理、沢山作ってあげるから、諦めなさい」

「フラン様のお相手頑張って下さいねー」

「お、お前らなぁ……」

 

パチュリーや咲夜は私を回復させてでも、フランの相手をさせたいらしい。

美鈴は純粋にフランの相手が出来たのを喜んでいるようだけど……あ、そうだ!

 

「ユウキ! お前の幻想支配で手伝ってくれよ。何でも屋なんだろ? だったら私が依頼するからさ!」

「ん? 俺は先約があるから、今度魔理沙の依頼引き受けるよ」

「ねぇねぇ、早く行こうよ。ケーキ一緒に食べよ♪ 魔理沙、またあとでねー」

「そうね。せっかくだし、みんなでティータイムにしましょうか。行くわよ、咲夜、パチェ、美鈴」

 

ユウキに仕事として頼もうとしたが、フランとレミリアに連れられ図書館を出る所だった。

両手どころか周りに華ばかりなのに、ユウキは困惑した顔だったのかちょっと面白かったけど。

 

「う、裏切り者~!」

 

結局片付けやフランの相手が終わって、解放されたのは次の日の出の時間だった……

 

そして、私がユウキに対して、嫉妬や恨みに近い思いを抱くようになったのもこの日からだった。

 

つづく

 




独自設定がますます強い弾幕ごっこでした!
次回は咲夜回です!

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