幻想支配の幻想入り   作:カガヤ

34 / 159
長かった過去編もひとまず終わり、今回は紅魔館の朝食風景その2です。
少し短めです。


日常編Ⅰ
第33話 「紅魔館の悪魔」


紅魔館での生活を初めて2日目。

昨日は朝食がてら霊夢や紫達と今後の事を話したらすぐに眠くなり、気がつけば夕方になっていてほぼ1日をベッドで過ごした。

ベッドから起き上がると、日が昇りだしたくらいの時間だった。

この部屋には時計はないが、大体6時くらいなのは分かった。

 

「1日くらいじゃ治らないか」

 

厳重に包帯が巻かれた左手に目を落とす。痛みはないが、指を動かす事もできず、感覚も鈍い。

触っても特に痛まないのは、包帯に籠められたパチュリーの魔法のおかげだから日常生活にはあまり支障はない。

それでも食事やら色々世話を焼きたがる紅魔館の人達。感謝はしてるが、困惑はそれ以上だ。

 

「……これが、看病されてるって事か」

 

朝から深く考えるの止め、寝巻から普段着に着替える。

手の骨折は初めてではないので、左手が使えなくても着替えるのは簡単だ。

昨日は咲夜に危うく着替えを手伝わされそうになったけど、それは流石に恥かしい以前の問題だし。

 

「失礼します。ユウキ様、おはようございます。朝食の用意が出来ました」

「おっはよー! お兄ちゃん!」

「おはよう、咲夜、フラン」

 

昨日と同じように咲夜とフランが朝食の用意が出来た、とやってきた。

フランはいつの間にか俺のベッドで寝ていた昨日と違い、今日は普通に来た。

吸血鬼は本来夜行性で、昼夜が人間と逆転しているはずなのに、レミリアもフランもあまり気にしてないようだ。

 

「おはよーございまーっす!」

 

ただ、今日は2人だけはないようだ。

ドアの向こうから長い赤髪が少し見えたのでてっきり美鈴かと思ったが、声を張り上げながら元気よく部屋に入ってきたのは違う少女だ。

 

「……お、おはよ」

「わはー、やっと挨拶出来ました。もう感激ですよー!!」

 

目をキラキラさせながら、赤毛の少女は一目散に俺の元へと飛んできた。

その頭と背中にはそれぞれ黒い羽が付いていて、それがパタパタと動いていてまるで犬が尻尾を振るかのようだ。

 

「こぁ、ユウキ様に失礼よ」

「そうだよ。お兄ちゃんはこぁの事知らないんだから、ちゃんと挨拶しないとダメだよ」

「あ、そうでした。コホン、では改めまして、私は小悪魔のこぁと言います。パチュリー様の使い魔で、普段は図書室にいます」

 

なるほど、小悪魔だからこぁ、ね。それにしてもなんでこの子は目をキラキラ輝かせて俺を見ているんだ?

まるで目の中に星があるみたいだ。操祈にも似てるが……あっちはシイタケだったな、うん。

それにしてもフランが常識を語るのって……

 

「むっ、お兄ちゃん今何か失礼な事考えなかった?」

 

フランは鋭い視線で俺を睨むが、何食わぬ顔をしてそれに答えた。

何気に鋭いな、フラン。

 

「いや、そんな事考えなかったぞ? で、こぁはなんでそんな目で俺を見てるんだ?」

「それはですね。ズバリ、ユウキ様がフラン様の為に奮闘する姿を見て、私……あなたのファンになりました!」

「…………は?」

 

突然のファン宣言。なぜに?

あ、咲夜とフランが揃って深く溜息を吐いている。

 

「ユウキ様がフラン様と戦っているのを私、水晶で見ていたんですよ。あそこまで実力差があって、体中がボロボロになりながらもフラン様とレミリア様の為に戦う姿を見て……もう、感動しました!」

「は、はぁ……」

 

ますます目を輝かせて俺を褒め称えるこぁ。

ここまで言われた事はないので、全身が痒くなってきた。

ドア付近で呆気に取られている咲夜とフランに目で助けを求めたが、すぐに助け舟がやってきた。

 

「こぁ! あなたここにいたのね。頼んでいた資料の整理、まだ半分も終わってないじゃない。すぐにやりなさい!」

 

いつの間にか俺の側まで来ていたパチュリーが、こぁの脳天を分厚い本で叩き叱りつけた。

恐らくは魔法でこぁを探して、ここまで来たのだろう。部屋に微かに魔法を使ったと思われる残留魔力が見えた。

 

「は、はい、パチュリー様! それじゃあユウキ様、怪我が良くなったら図書館にぜひお越しくださいね」

 

最後まで目を輝かせたまま、こぁはパタパタと急いで部屋を出て行った。

 

「はぁ~、ごめんなさいね。あの子が本以外であそこまで夢中になる事滅多にないのに。昨日もあなたに会いたい会いたいとブツブツ呟きながら仕事してて、嫌な予感したのよね」

 

パチュリーは申し訳なさそうに頭を下げた。

 

「い、いや、別に俺は何もされてないから大丈夫だぞ? それにしても、彼女本当に悪魔なのか? 何だか悪魔らしくない悪魔のような」

「う~ん、悪魔で間違いないはずなのだけど、私もたまに分からなくなるわ」

 

フランとは別の意味で無邪気と言うか無垢と言うか、小悪魔らしいと言えばらしいな。

「そんな事より、早く行きましょ。レミィが朝食を待ちかねてイライラしてる頃よ」

「ふふっ、そうだね。早く行かないと今頃お姉様が美鈴に八つ当たりをしているかも」

 

楽しそうに言うパチュリーとフランに、咲夜と笑い合い俺達は割と早足で食堂へ向かった。

 

 

「遅い!」「遅いですよぉ!」

 

食堂へ行くと、ご機嫌斜めなレミリアと半涙目な美鈴が座っていた。

 

「あはは、ごめんねお姉様、美鈴。ちょーっとお兄ちゃんの部屋で面白い事あったから」

「何よそれ? 私も見たかったわ。咲夜今度からユウキ絡みで面白い事あったらすぐに私を呼びなさい!」「かしこまりました、お嬢様」

「なんで俺絡み限定なんだよ。俺を肴に楽しむ気か」

 

そう呟くとレミリアは俺に向けてニヤリと笑みを浮かべた。こぁよりよっぽど悪魔だな。

俺達が席につくと、それまで何もなかったテーブルに一瞬で料理が乗っていた。

確か、咲夜は時間停止が出来るんだったな。便利だ。

 

「で、今日はお前ら2人か」

「そうよ、不満かしら?」

「……もう諦めた」

 

今日も昨日と同じく、俺の食事係がついていた。左手が動かせなくても問題ないと昨日と同じ事を言ったが、聞き入れてくれなかった。

鎖で縛ってでも食べさす。そう言ったレミリアの顔は本気だった、なぜこうなった……

左に座るのはレミリアで、俺の右にはなぜかパチュリーがいた。

向かいの席には、フランが不満そうな顔をして座っている。

上座とかそういうのはないのかこの食卓は。

 

「ま、また負けた……今日はカラスもいないから行けると思ったのに」

「パチュリーが参加したのが意外だったね……」

「全くです」

 

じゃんけんに負けた3人が恨み節を見せているが、俺もかなり意外だ。

昨日は参加していなかったパチュリーが今日は参加して、しかも勝ってしまった。

 

「昨日のあなたの反応が面白かったから自分でもやってみたくなったの。そこまで気にする事ないわ、ただの気まぐれよ」

「パチェは私以上に変わり者だからね。でもあなたの反応が面白いと言うのは同意するわ。はい、あーんして」

 

レミリアは外見年齢相応の顔をしながら、肉の刺さったフォークを俺に差し出してきた。

 

「紅魔館の主様が、こんな事してプライドが傷つかないのかよ」

「主だからこそ客人であり、恩人でもあるあなたをもてなすのよ。ほら早く食べなさい」

 

いいや、絶対俺の反応楽しんでるだけだろ。

 

「あら、レミィじゃ不満なのかしら? だったら、私の方がいい? 少なくともレミィよりは大人よ? 美鈴には負けるけど」

 

パチュリーは半ば強引に、俺の顔を自分に向かせてきた。てか何の話だ何の!

 

「ちょっとパチェ、それはどこを言っているのかしら?」

「あら、言った方がいいかしら? 身体よか・ら・だ♪」

「カッチーン。たかが100年しか生きてないあなたより、私は5倍長生きしてる大人よ!」

「胸は私の方が5倍くらいは大きいわよ? 失礼、0に何をかけても0だったわね♪」

「よーし、その喧嘩乗った!」

「お前ら、喧嘩するならよそでやってくれ。俺を挟むな!」

 

こいつら親友じゃなかったっけ? なんで俺を挟んで火花飛ばしてるんだ?

何だか昨日と似たようなやりとりしてないか? いや、今日の方がもっとヒドイな。

 

「2人共やめなよ。お兄ちゃん困ってるじゃない。咲夜、お願い」

「はぁ、分かりました」

 

次の瞬間、俺は今までいた席から反対側の美鈴と空いた席の間にいた。

 

「あ、ちょっと。咲夜何してるのよ!」

「そうよ。食事中の席移動はマナー違反じゃない」

 

さっきまでの口論がピタッと止め、レミリアとパチュリーが咲夜とフランに抗議した。

どうやら咲夜が時間を止めて、俺を移動させたらしい。

 

「お客様を挟んで喧嘩をする方が、よっぽどマナー違反だよ2人共!」

「ガーン!? フ、フランにマナーを説かれるなんて」

「お姉様、みっともない真似しないでよ。妹の私が恥かしいじゃない!」

「うー……」

「妹様、ここ数日で急成長ね……はぁ」

 

まさかフランに正論を言われるとは思っていなかったらしく、2人共ショックを受けていた。

でもそれは美鈴や咲夜も同じようで、驚いた顔をしてから喜んでいるような笑顔になった。

 

「じゃあ、咲夜はここね」

 

そう言ってフランは咲夜の手を掴み、なぜか俺の隣の空いた席に座らせた。

 

「えっ? あの、フランお嬢様? 私はお嬢様達の世話をするメイドなので、こういう席には……」

「むぅーまたそういう事言う。昨日の夕食でも言ったでしょ。紅魔館の一員である咲夜も一緒に食べるの!」

 

昨日の夕食も咲夜はレミリアの後ろに控えていたが、フランが同じような事を言って一緒に食事を取ったのだ。

その時、レミリアは笑いながら許可したが、フランの発言には驚いていた。

 

「ねぇ、レミィ。どっちが紅魔館の主か、段々分からなくなってきそうじゃない?」

「言わないで、私も少し危機感覚え始めたんだから」

 

初めに会った時から、レミリアから随分と色々な物が失われている気がする

 

「それに、席に着かないつもりならなんでさっきのじゃんけん、昨日も今日も参加したの?」

「そ、それはその……お世話をするのは当たり前かと」

「だったら、今がチャンスだよ。私は昨日十分にお兄ちゃんのお世話したんだから、今日は美鈴と咲夜がすればいいよ。どうせお姉様もパチュリーも面白半分だったんだし」

 

さっきから俺の意思とは関係なしにドンドン話が進んで行ってるけど、これも慣れなきゃな。昨日から分かってた事だし。

 

「フランお嬢様もこう言っているんだし。一緒にユウキさんに食べさせましょうよ」

「しょうがないわね。と言うわけで、ユウキ様。あーんしてください」

 

咲夜、お前もか。

少々赤くなりながら、スープをすくったスプーンを差し出す咲夜の表情に少しドキっとした。

レミリアとパチュリーがニヤニヤしながら、こっちを見ている。

お前らさっきまでの喧嘩はどうした? 今ならいい、思う存分やってくれ。

 

「早く食べないと、無理やり口移しで食べさせちゃいますよ?……咲夜さんが」

「えっ!?」

「ふぐぅ!?」

 

美鈴がぼそりと呟くと、咲夜の顔が真っ赤になり勢いよく俺の口にスプーンが突っ込まれた。

思ったより熱かったスープをスプーンごと喉に押し込められるとは、学園都市でもなかなかなかった拷問の仕方だ。

 

「っ!? な、なんで私なのよ!? それより朝から何トンでもない事言っているのあなたは!?」

「わわっ、それよりお兄ちゃんが!」

「白目むいてますよ!?」

「ユウキ様!? しっかりして下さい!」

 

喉の奥に激痛を感じながら俺が思った事は、本物の悪魔なこぁよりもっと悪魔がここには沢山いるなぁ、と言う事だ。

 

 

つづく

 




こぁは長身巨乳、これは譲れない(ォイ

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。