幻想支配の幻想入り   作:カガヤ

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大変お待たせしました。
過去編Ⅰのラストです。


第32話 「魔術」

7月27日  23:30

 

火織達との待ち合わせの時間。

寝込んだままのインデックスを当麻に任せ、待ち合わせ場所であるこの研究施設入口で待っていると、2人の魔術師が現れた。

 

「よっ、時間通りだな。首尾の方は……その顔見れば分かるか」

「えぇ、芳しくありませんでした。イギリスにいる信頼できる仲間に極秘に調査も頼みましたが、やはり分かりませんでした」

「そっか。ともかくインデックスはこっちだ。付いてきな」

 

火織達はインデックスにかけられていると思われる魔術、それについて調べてもらっていた。

インデックス本人を調べる事は、火織達が今まで何十回もしている。

だから、今までインデックスの記憶を消去する前後の記録から、それに類似した魔術を調べる方が効率がいいと判断した。

けど、流石に時間が足りなすぎたか調べつくせなかったようだ。

こうなれば後はインデックスにかかっている魔術を、当麻の幻想殺しで解くしかない。

 

「ここは使われていない実験施設と聞いていましたが、てっきり廃墟だと思っていました」

 

インデックスが眠っている場所へと施設内を案内している時、火織が周りを見渡しながらポツリと呟いた。

もう1人のバーコードはやる事があると、どこかへ行ってしまった。何をしているかは見当がつくけど、放っておく。

 

「今は使われていないってだけだ。データベースは外部アクセスしなきゃ空っぽだし、重要機器は撤去されているだけだ」

 

そう。確かにここは使われていない実験施設だが、破棄されたわけではない。

ここは主に強力な能力の測定や実験に使われているので普通の施設より頑丈だ。

電気もガスも水道も通っているし、万が一のための日用品や食料品、医薬品も備蓄されている。

緊急時にはちょっとした避難場所にもなる。

 

「随分奥まで行きますね」

「襲撃に備えたセキュリティーも整っていて、空調も整ってベッドもあるそれなりの部屋を用意してある。ここだ」

 

この施設で一番頑丈な一室にインデックスは寝かせている。

そこは、広いドーム状になっていて天井は防弾ガラスになっているが、今は閉じている。

中に入ると、インデックスが苦しそうに眠っていて、看病していた当麻が心配そうな顔でこっちを向いた。

 

「神裂! その、どうだった? 何かインデックスを助ける手掛かりは見つかったか?」

「………」

 

当麻が期待を籠めて聞くが、火織は首を横に振っただけだ。

 

「そう、か」

「話した通り、当麻にやってもらう。0時15分までに何も見つけれなければ……インデックスの記憶を消す」

 

それを聞き、当麻が何か言いたそうだが今回はぐっとこらえたようだ。

インデックスの記憶を消す儀式の時間は0時15分でなければ行えないらしい。

だから、それまでは改めてインデックスに魔術的な何かが施されていないか火織とバーコードが調べる。

 

「一応ここにある設備で診たが、インデックスに異常はなかった」

「……そうですか」

 

この施設にも医療設備が整っていて、データに残らないように調べる事が出来る。

もっとも、そっち方面は専門知識が気薄だから本当に基本的な検査しか出来ないが、それでも火織には言っておいた。

火織は、僅かに期待はしていたのか、少し落胆した表情を浮かべたがすぐに真顔に戻った。

後、幻想支配で何度か視たのは内緒だ。インデックスを見ても何も起きず何も視えなかったのでわざわざ言う必要はない。

こっちの手札を詳しく説明する気もなかった。

 

「じゃ、始めるか、神裂」

「はい」

 

俺と当麻は邪魔になるので部屋の外で待機し、火織とバーコードがインデックスの身体を調べたが何も見つからなかった。

そうしているうちに……0時を過ぎた。

 

「時間だ。こちらの提案通りインデックスの記憶を消すよ。異論はないね?」

「あぁ」

「……くそっ、結局こうなるのかよ!」

 

当麻が壁に拳を打ち付け、まだ納得がいかないようだったが、火織とバーコードは気にせず儀式の準備を始めた。

 

「黙ってみているしか、もう手はないのかよ。これでいいのかよ、ユウキ!」

「限られた時間で俺達に出来る事は全部した。あと、出来る事は記憶をなくしてもインデックスの友達でいれば……ん?」

 

魔法陣らしき中で眠るインデックスを視ていると、何か違和感があった。

初めて味わう感覚だが、言葉で現すとすれば、歯科医が虫歯を見つけたような感覚だ。

それは、インデックスの喉、もっと正確に言えば口の中の奥に感じた。

 

「ちょっと待った。お前ら、インデックスの口の中は調べたのか?」

「口の中、ですか? そう言われてみれば調べては……はっ!?」

 

2人も気付いたようで、インデックスの口を開き喉の奥を調べた。

 

「なっ、これは!? ありました! インデックスの喉に魔術が施されています!」

「っ! 見た事もない術式だが、これを調べている時間はないぞ!?」

「……火織、そのままインデックスの口を開いていてくれ。当麻、出番だぞ?」

「お、おう!」

 

当麻は少し躊躇しながらも、インデックスの口に右手の指をゆっくりと差し込んでいった。

バーコードが物凄く当麻を睨んでいるが、時間がなく他に手はないのが分かっているようで、何もいわない。

 

「もう、少し……いづっ!?」

「わっ!?」

 

当麻がインデックスの喉に指が届いたと同時に、バチンと静電気が走った音がしたかと思うと、当麻とインデックスの口を開いていた火織が弾き飛ばされた。

 

「イン、デックス!? これは一体……」

 

さっきまで眠り込んでいたはずのインデックスの身体が宙に浮き、目を大きく見開いた。

その眼には赤く輝く魔法陣が浮かびあがっていた。

 

「まずいっ! インデックスから離れてください!」

 

火織が叫ぶと同時に、インデックスの身体から衝撃波のようなものは放たれた。

当麻が右手で防ぐ間もなく、俺達4人は大きく吹き飛ばされ、ドーム状の壁に叩きつけられた。

 

「警告、第三章第二節―禁書目録の『首輪』第一から第三まで全結界の貫通を確認」

「これはインデックスが言っているわけ、じゃないな」

「えぇ、おそらく自動書記(ヨハネのペン)と呼ばれる魔術です。自動防衛魔術、と言えば分かりますか?」

「要するに首輪に気付いて破壊しようとする誰かを攻撃する為に、あんたらの上司が備え付けたえげつない魔術って事だろ。これくらいは予想済みだ!」

 

懐から携帯とは別の端末を取りだし、操作する。簡単にインデックスの首輪を破壊出来るとは思っていなかった。

何らかの防衛システムくらいは組み込んでいると予想していたからこそ、ここの施設に連れて来たのだ。

ここは、レベルの高い危険な能力者の実験を行う施設。当然能力が暴走したり、能力者が牙を向く可能性は考慮されているので、防衛設備や攻撃設備も整っている。

そのいくつかを起動させる。が、ここでトラブルが起こった。

端末が、いや設備が何の反応もしない。

 

「複数の敵性因子を確認。これより排除を開始します。敵性脅威測定、失敗。未確認因子、1。正体不明の因子、1をそれぞれ確認」

「自動書記の影響か、施設の防衛設備が全部使えなくなってやがる。こうなれば俺には打つ手がない。任せたぜ、魔術師さんよ」

「……わかりました」

「君に言われるまでもない」

 

何だか2人の反応が鈍い気がするが、それを気にしている暇はない。

未だ幻想支配でインデックスを視ても、何も変わりはない。防衛兵器も使えない今の俺はこの中で一番の足手まといだ。

 

「で、鍵はお前だ当麻。おそらくインデックスを苦しめていたのが、アレだ。なら……」

「今のインデックスを右手で触って、あの魔術をぶち壊せばいいんだな?」

「触るだけだぞ? 殴るなよ?」

「殴らねぇよ!」

 

当麻が右手を突き出し、インデックスに走ろうとした時だった。

 

「複数の脅威に対し、制圧にて行動を停止した後、排除します。マタイによる福音書より構成『迷える子羊の審問(ストレイシープ)』」

 

インデックスが何かを詠唱すると、白い光が部屋全体を照らした。

 

「がっ!?」

「ぐっ、ぐぅ……」

「ステイル、神裂!?」

 

それぞれの得物を構え、対抗しようとしていたバーコードと火織が見えない何かに押しつぶされたかのようにうつ伏せに倒れた。

 

「おい、どうした!?」

「こ、この魔術は、恐らく人の迷いを増幅させて重みとする魔術です。あなたたちは何ともないのですか?」

 

見るとバーコードの方が辛そうだが、火織はどうにか立ち上がろうとしているが、すぐにまた倒れてしまった。

 

「俺は、別に何ともないな」

「当麻は幻想殺しがあるからだろ。俺は……っておい、魔術師! この期に及んでまだ迷ってたのかよ!」

「っ!!」

 

この魔術が迷いを重さに変えるのなら、魔術師2人が動けないのはそれだけ迷いがあると言う事。

あの2人が迷う事と言えば、インデックスの事しかない。

 

「警告。侵入者2名に効果を確認できず。魔術構成を変更。物理法則への干渉を最優先。『聖ジョージの聖域』を発動します」

 

何かを呟いていたインデックスの前方に、眼と同じ模様の赤い魔法陣が展開していく。

それと同時に、空間に黒い亀裂が走りそこから青白い光が発射された。

 

「やばっ! 当麻!」

「分かってる!」

 

右手を突き出し、光を消そうとした当麻だったが、その光は右手に当たっても全ては消えない。

それは、もはやただの光ではない。学園都市の光学兵器ですら玩具に見える程の、極太のレーザーだ。

 

「お、押さえ……きれねぇ」

 

幻想殺しでも消しきれない大質量の光に押され、当麻の両脚が徐々に後ろに押し下げられていく。

当麻は空いた左手で右手首を掴み、何とかこらえようとするがそれでもふんばるのがやっとだ。

俺も俺で当麻の背中から出られない。

少しでも出れば、この光の余波をモロに受けてしまうだろう。その結果何が俺の身体に起きるかは想像したくない。

 

「ちっ、おい魔術師共! お前らにはこれが、今のインデックスの状態や何してるか分かってるんだろう。それで、これをどうにかするよりもインデックスの記憶を消した方が、こいつの負担がかからなくて済むんじゃないか。そう思ったんだろ!」

 

未だに地面に倒れ伏せ苦しむ2人の魔術師を睨み、俺は声を張り上げた。

あれだけ希望を見せても、それでも尚違う道を歩みだせないのか。

 

「あ、曖昧な可能性なんかいらない。あの子の記憶を消せばひとまずの、苦痛はなくなる。現に今! 人の身にあまりある魔術を酷使し、肉体への影響がないわけない! ならば、僕がやるべき事は……あの子の命を助ける事を最優先にする。そう、誓ったんだ!」

 

バーコード、ステイルへの重みが幾分か軽くなっている気がする。

これは迷いを重みに変える魔術だ。ならば、ステイルの悩みが解消されつつあると言う事か、悪い方向へと。

それを火織はただ黙って聞いているだけだったが、あいつと同じ考えと言うわけではないが、それに近い迷いがあるみたいだ。

 

「ふざけんな! そうやってインデックスの命を助けれれば自分はどうなっても、悪役になっても構わないってのか!」

 

幻想殺しをも圧倒する光を必死で抑えながら当麻の叫びが、ルーンカードを取りだしたステイルの動きを止めた。

 

「お前らはずっと待ってたんじゃねぇのかよ! インデックスを助ける方法を探して、インデックスが心の底から笑える日を、お前らは待っていたんだろ!」

 

火織の眼が大きく見開いた。

 

「押しつけられた悪役なんてもうこりごりだろ? ここらで自分勝手な偽善者な脚本家や監督に抗議して、主役になろうぜ」

 

俺と当麻の言葉に徐々に魔術師たちの身体から、何かが抜け出て行くのが視えるようになった。

 

「悪役ゴッコはいい加減卒業して、囚われのお姫様を助ける英雄(ヒーロー)になろうぜ……」

「手を伸ばせば届くんだ、まずはそこから始めようぜ……」

「「魔術師!」」

 

俺達2人の叫びに、魔術師たちは立ちあがる事で応えた。

もうさっきまでの迷いある影が顔から消えている。

が、当麻の右手がついに大きく後ろに弾かれた。

レーザーのような極太の光は当麻にぶつかりそうになったが、それより先に俺が当麻の左手を掴み、力任せに投げ飛ばした。

スローモーションのように当麻が、驚いた顔をして俺の名を叫びながら左へとんでいく。

それを見て、俺は笑みを浮かべ光へと向き、そして……

 

「ユウキ!!」

 

光がそのまま、俺を包みこんだ……ように当麻達は見えただろう。

 

「な、に!?」

 

だが、光は俺に届いていない。正確には俺の数センチ手前でとどまっている。

いや、それも正確ではない。インデックスが放った光は、同じく俺が放った光に押しとどめられている。

 

「馬鹿、な……なぜ、彼から魔力が? しかも、この魔力は」

「インデックスから感じる魔力と同じだと? どういう事だ!」

 

魔術師たちが驚くのも無理はない。

今の俺は、幻想支配でインデックスの魔力で、インデックスの放った魔術に対抗しているからだ。

 

「やっと……視れた」

 

予兆はあった。さっき火織達が『迷える子羊の審問』から立ち直った時に、確かに視えた。

それは火織達を縛っていたインデックスの魔力だったのだろう。

 

「ユウ、キ? お前、その眼はどうしたんだよ。真っ赤だぞ?」

 

驚いた声を上げる当麻。そうか、今の俺の眼は赤いのか。

普段能力者達の能力を使う時の眼は青い。

なるほど、俺が魔力を視ると赤くなるのか。

なぜ視えるようになったのか、など疑問はいくらでも沸いたが、それは今は後回し。

 

「警告、同規模同一の魔力を探知。このような現象を起こせる術式は存在せず、現象の正体不明、解析不能。戦場の再検索、完了。現状最も脅威となる未知の魔術師 【木原勇騎】 の消滅を最優先とします」

「俺は、魔術師じゃないんだけどな。おい! 何呆けてる! 今のうちに速くインデックスを止めろ! コレ、長くは持たないぞ!」

 

未だ固まったままの当麻達3人に叫ぶ。

現状を確認し、今できる行為を瞬時に識別。

この一瞬で、インデックスの使用している 【竜王の殺息】 の性能は理解出来た。

これを相殺するには、同じ魔術をぶつけるしかない。

けど、木山春生を相手にした時と同じく、長くは持たない。

魔術なんて能力とは全く異質の力を、コピー出来ただけで奇跡のようなものだ。

長時間の使用は無理だろう。現に今も頭が割れそうなほど痛い。

でも能力者は魔術を使えないらしいから頭が痛いだけで済む分、俺の幻想支配は特別扱いしてくれるらしい。ありがたいことだ。

 

「走れ、当麻!」

「あぁ!」

 

当麻はインデックスと俺の魔術の激突を迂回するように走りだした。

かっこよく檄を飛ばした俺だったが、初めての魔術で負担がかかりすぎたようだ。

 

「っ、あぐっ……も、もう持たない」

 

激しい頭痛に片膝をつき、体中から力が抜けて行くのを感じた。

 

「火織! 俺が相殺している間に、インデックスの床を!」

 

この魔術は目が向いた方向が標準となるので、横目すら向く事が出来ず、どこにいるか分からない火織に向けて俺は叫んだ。

 

「―――Salvere00!!」

 

答えるように火織の叫び声が聞こえ、インデックスの床に向けて鋼糸のワイヤーが走った。

 

「そうか、アレが火織の魔法名か」

 

足元に敷き詰められた床のタイルがバラバラに切り裂かれ、インデックスは体勢を崩し後ろに倒れ込んだ。

それと同時についに身体から力が完全に抜け、幻想支配の効果が切れた。

床に倒れ込んだ視線の先では、後ろに体勢を崩しても尚インデックスはレーザーを放ち続けており、ドームの屋根を突き破り、宇宙に届かんばかりの光の柱になった。

 

「……あれでどっかの衛星撃ち落とされてないといいな」

 

なんて、呑気な事を考えたが、インデックスにはすぐに体勢を立て直し無力化した俺ではなく、自分に向かって走っている当麻にレーザーの標準を向けた。

 

「やばっ!?」

「―――Fortis931。我が名が最強である理由をここに証明する、イノケンティウス!」

 

ステイルの詠唱と共に、当麻を守るかのように炎の巨人が現れ、レーザーを受け止めた。

 

「行け、能力者!」

 

ステイルの叫び声を追い風に、当麻は走った。

と、インデックスと当麻の周りに何か白い羽が舞い降りてくるのが見えた。

さっきまで、幻想支配でインデックスの魔力をコピーしていた俺にはそれが何か瞬時に分かった。

 

「マズイ、アレに触れれば、ただじゃすまない、当麻、インデッ……クス」

 

もはや1ミリも動けず意識を失いかける中、俺はありったけの声を出すしか出来なかった。

 

「うおおぉぉ~!!」

 

周りの羽には目もくれず、当麻はインデックスの元へ対にたどり着いた。

黒い亀裂も赤い魔法陣も全て消しながら、当麻の右手はインデックスの頭を確かに掴んだ。

同時に、部屋全体を照らしていた光も消え、全てが静寂に包まれた……はずだった。

 

「まだ羽は消えていません! すぐにそこから逃げてください!!」

 

火織が叫んだが、既に遅く羽が1枚インデックスの頭に落ちようとしていた。

俺も頭痛がひどくなり、意識が刈り取られていった。

 

「……の、能力停止で、あのはね……を」

 

出来ない。そう分かっていてももう一度幻想支配を使い、能力停止で羽を消そうとしたが俺の意識は闇へと落ちた。

微かに視界のふちに、インデックスを守るように覆いかぶさった当麻の頭に、白い羽が落ちたのが見えた。

 

 

 

 

とある病院の屋上

 

「今頃当麻はインデックスに下手な芝居で嘘ついて、噛みつかれてる所かな」

 

インデックス救出から一夜明けて、病院のベットで眼を覚ました俺は記憶を失った当麻を見舞い、事情を話した後、屋上にやってきた。

別に、屋上で黄昏たかったわけじゃない。

会う約束はしてないが、来るべきであろう人達を待っているからだ。

 

「よう、やっと来たな……神裂火織」

 

誰もいないはずの背後にそう呼びかけ、後ろを振り向くとそこには申し訳なさそうな顔をした火織ともう1人。

 

「そして、土御門元春」

「やぁ~ユウやん。ひっさしぶりぃ、大怪我で入院したって聞いたけど、元気そうで何よりだにゃ~」

 

相変わらずのアロハシャツとサングラス姿で、おちゃらけた笑みを浮かべた元春がいた。

 

「心にもない事言ってないで、用件を済ませろよ。大方俺の幻想支配で魔術が使えた事で、魔術サイドが俺の排除を求めたか? で、俺が絶対に勝てない天敵である火織を引き付けれて、お前が来た。って所だろ」

 

嫌味を混ぜて言うと、元春は苦笑しながら首を横に振った。

 

「いやーそっちの話はねーちんから言うぜよ。俺はちょいと改めて自己紹介しにきただけ、あ、お見舞いってのも本当だぜ? お見舞いのフルーツ詰め合わせは病室に置いてきた、後で食べるといいにゃー。カミやんにはまだ正体明かすわけにはいかないが、ユウやんは別だからにゃー。けど、思いっきりバレてるとは、流石はユウやん」

「お前が外部組織のスパイってのは、とっくに気付いていたけど、まさか魔術師とはな。火織やステイルとお前が同じ感じしていると気付いてな」

「なるほどなるほど、いやーこれで少しは肩の力抜けて話せそうだにゃー。秘密を知られている相手だとほんの少し気楽に話せるからにゃー」

 

にゃーにゃーと、大げさな身振りをする元春に何かツッコミをいれたそうな火織だったが、深いため息をつくと俺に一礼した。

 

「あなたと彼には返しきれない恩が出来てしまいました。おかげでインデックスの記憶を消さずに済みました」

「よせよせ、実際インデックスを助けたのは当麻だぞ? 俺は依頼をこなしただけだ」

「し、しかし、あなたの協力がなければ私達は真実に気付かずに」

「あーそこまででいいだろ、ねーちん。ユウキはそういうの気にする奴じゃない」

 

お、元春がシリアスモードになったな。

 

「自己紹介と謝罪が済んだ所で、本題に入らせてもらおうか……木原勇騎」

 

と、元春が懐から拳銃を取り出し俺へと向けた。

俺はただ無表情のままじっと元春を見つめるだけだ。

 

「お前の言う通り、魔術側はインデックスの魔力をコピーした幻想支配の存在を無視出来ないでいる。ある意味魔導図書館以上の危険な存在になった……という自覚はあるようだな」

「火織からそっち側の話を少し聞いて、お前らの上司を木原に置き換えて、それでこれから色々と起こりうる可能性は考えていたからな」

「それで魔術を知らないあなたが、やけに迅速に動けたわけですね」

「科学者は臨機応変に対処するのが大事なんだぜ? で、俺を排除するならとっととしろよ。俺はこの通り隠し武器も何も持っていない。着ているのも普段着のような防弾機能もないただの患者が着る服だ。ってか、それより脳天にズドンと一発の方が楽に逝けるからそっち狙ってくれ」

「……ちっ、俺達がお前を殺さない事分かっててよく言うぜ」

 

苦虫をつぶしたような表情で元春が拳銃を懐に仕舞った。

 

「お前が俺を殺す気ならとっくにしている。それに自分のここでの立場や力の利用価値はよく自覚しているつもりだ。当麻と違ってな?」

 

理事長から直々にオーダーが来た時点で、こういう結末は予想出来ていたしな。

まさか、俺の幻想支配の成長のために、か?

まぁそんなのはどうでもいいか、オーダーはこなしたんだし。報酬はたんまりと請求してやる。

 

「それもそうだな。じゃ、俺はもう行くぜ。これからはお前には魔術側からのオーダーも入ると思うぞ?」

「だったらお前らの上司に言っとけ。俺に貸しを作ると高くつぞ? ってな」

「はははっ、確かに伝えておくぜい。じゃあな、ユウやん、ねーちん」

 

豪快に笑いながら去った元春を見送り、俺はまだ立っている火織に目を向けた。

 

「で、なんでお前はまだここに居るんだ?」

「それは……あなたに聞きたい事があったからです」

「ちょうどいい。俺も火織に聞きたい事があったんだ。お前、なんでああもあっさり俺達を信用したんだ?」

 

それは小萌先生の部屋でのあの話し合いだ。

インデックスの面倒を見ていた当麻にならともかく、初対面で本気で殺しにかかった俺をあそこまで信用するなんて思わなかったからだ。

 

「……あなたは覚えていないでしょうが。あの夜、私に蹴り飛ばされ意識を失ったあなたは、何をしたと思いますか?」

「いや、意識を失ってて何か出来るわけないだろ」

 

誰かに操られてたとか、分割思考能力者ならともかく。

 

「それもそうですね。あなたは、意識を完全に失ったにもかかわらず、あの少年上条当麻を守るように立ち塞がったんです。私は元々あなた達2人を殺す気はありませんでしたが、それでもあなたは上条当麻に私が何かすると思い、意識を失いながらも守ろうとしたのです」

 

……ナニソレ? 聞いてて物凄く恥かしくなった。

俺が、意識を失っても当麻を守った? なんで俺はそこまでしたんだろ。

確かに、当麻みたいなバカな善人は俺や木原みたいなクズに巻き込まれて怪我したり、死んだりする事はないと思っていたけど。

 

「それで私はあなたの事を少し誤解していたようでしたので、それで話だけでも出来そうならばと思い、あそこへ行ったのですが」

「前日までの俺と別人に見えて驚いた、って所か? もしくは見ず知らずのインデックスを、あそこまで助けようとする人間に見えず、戸惑った?」

「……はい」

 

なるほど。公私混同しない人間、と言うのもおかしいが。俺は変に見えるだろうな。

 

「戸惑う理由はわかるけどな。俺は知っての通り殺しも非道な実験もいくつもやってきた。これからもやるだろうな。けど、こんな俺でも当麻やインデックス見たいな、本当の善人が理不尽な目に合うのが、どうも納得できない性分。ただそれだけだ」

「そうですか。なるほど、あなたという人間が少し理解出来ました」

 

これだけで理解出来たのか……妙に納得いかないが、これ以上ここに引き留める理由はないか。

 

「では、私もこれで失礼します。もう一度言いますが、インデックスの事本当に感謝しています。彼女は上条当麻と一緒に居る事になるでしょうが、もし良ければ」

「あぁ、俺に出来る範囲で気に留めておくよ」

「それで十分です。では、また会う事もあるでしょう……その時敵でないことを祈ります」

「じゃあな」

 

敵でない事を、か。そりゃこっちのセリフだ。

万全の装備で本気で挑んであっさり無傷の返り討ちだなんて、あんなの初めてだ。

出来れば二度と戦いたくない相手だ。

 

「さてと、俺も部屋に戻って元春からの見舞い品でも食べるか……アイツが置いたの、食べ物だよな。変な本やDVDじゃないよな……ん? 電話? げっ!」

 

屋上のドアを開けようとした時、電話が鳴った。着信相手は尼視だった。

病み上がりで声が聞きたくない相手だったが、出ないわけにはいかない。

また屋上に戻り、人目のつかない角で電話を取った。

 

『もしもーっし、ユウキちゃん元気かな―?』

「お前の声聞いて元気がなくなった。これ以上元気をなくしたくないから切る」

『ちっ、絡みがいのない子だよ、全く。で、初めての魔術はどうだった?』

 

やっぱり俺の経験値稼ぎが目的だったか、まぁ分かり切った事はどうでもいいか。

 

「まだ頭がズキズキいてぇよ。ってか幻想御手事件から今までずっと無理しっぱなしで、流石の俺も疲労困憊なんだが? しばらくオーダーは緊急の以外はキャンセルするぞ。文句あるか?」

『んー別にない。緊急以外のオーダーがお前に行くとは思えないけどねー』

 

確かに、俺へのオーダーは緊急性が高いものばかりで、他へ回せない内容も多い。

 

「と、とにかく、せっかくの夏休みを少しは堪能したいんだ! それと、理事長からのオーダー報酬は、新型のバイク。そう言っといて」

『直接言えばいいだろうに。ま、あのバイクでは良いデータが取れたからね。新型モデルの参考にさせてもらうさ。数日で特注バイクをお前宛に送っておくよ』

 

新型バイクが回されるのは何も報酬だからだけではなく、性能実験も兼ねている。

 

「用件は以上で良いな? もう病室戻るから切るぞ」

『あぁ、そうだ。最後に一つ言っておくよ。お前は魔術側からもマーク対象に入ったんだ。学園都市内部でも気を付けるんだぞ? くれぐれもあっち側に誘拐されないようにな。大切な実験体を失いたくはない』

「御心配どうも、嬉しくて涙が出る。俺はそんなへまはしないさ。お前を殺すまではな」

『くっくっくっ、早く私を殺せるようになるといいな』

 

尼視は憎たらしい笑いをしながら、電話を切った。

 

「ふぅ……やれやれ、これから厄介事が増えそうだな。それも未知の領域から」

 

魔術、俺の幻想支配が得た新たな領域。

でもなんでだろうな……インデックスの力をコピーした時。

どこか、懐かしさも感じたんだよな。

 

つづく

 




エピローグ部分は分ければ良かったかも(汗)
オリジナル魔術の名称で少し苦戦しました。
ネーミングセンスが欲しいなぁ(笑)

さて、次回からは幻想郷に話が戻ります。
書くぞラブコメ!

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