幻想支配の幻想入り   作:カガヤ

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バトル回です。



第28話 「VS多才能力」

幻想御手を応用した多重能力で警備員を壊滅させ、美琴ですら圧倒したこの事件の黒幕、木山春生。

一件何を考えているのか分からず、ただ無気力に立っているような彼女だが今は明確に俺に殺意に近い敵意をぶつけてきている。

それは、俺が木原の1人だからだろう。

 

「驚いたな。そんな事を言うとは、本当に君は木原なのか?」

「よく言われる。俺は木原の中でも異端児って言われてるからな」

「そうか。でも悪いが、君には手加減も容赦も出来そうにないな」

「あぁ、俺もお前には容赦も手加減もする気はない。自慢の多重能力もどき、みせてもらおうか」

「これは多重能力ではなく、多才能力なんだがな」

「どっちでも同じだ!」

 

言うと同時に木山春生に向けて走り出す。

今日は用心のために、仕事用バイクで来たし重火器も爆弾も刀剣類もフル装備できているが、今は風紀委員や警備員の目もあるから無暗に使えない。

それに、相手は多種多様な能力がいっぺんに使えるいわばチート。

下手に銃弾や爆弾使おうなら、逆にこっちが危ない。そして、幻想支配を使おうとしたが、うまく視えない。

恐らくしばらく視続けないとダメな感じだ。

だから、接近して肉弾戦に持ち込む。

 

「接近戦……君は無能力者か?」

 

木山春生が瓦礫に手をかざす。と、いくつもの瓦礫が宙を舞い、俺へと飛んできた。

 

「こんなもの!」

 

ただ飛んできただけの瓦礫なら、いくつ飛んで来ようがかわしやすい。

レベル5第4位の原子崩しに比べたら遅すぎるくらいだ。

 

「意外と速いな」

「お前が遅いんだよ!」

 

木山春生の顔面めがけて回し蹴りを放ったが、視えない壁に阻まれそのまま吹き飛ばされた。

恐らく、気流を操り防いだのだろう。

 

「やっぱこのままじゃダメか」

「どうした? もう終わりか?」

「いや、まだこれからだ!」

 

やはり木山春生を倒すには、幻想支配しかない。

さっきは視えなかった木山春生の力が、今ははっきりと視える。

 

「っ! 目が、青くなった!?」

「いくぜっ!」

 

いくつもの水の塊を浮かせ、それを一斉に木山春生に向けて放つ。

 

「これは、まさか!? ちっ!」

 

木山春生も地面の瓦礫を浮かせ、水の塊を防ぐ。けれども俺の攻撃はまだ続く。

 

「はっ!」

 

両手を勢いよく地面に突き、木山春生の周りの地面から壁を作り上げ閉じ込める。

 

「まだまだ!」

 

更に上空から圧縮した水の塊を落下させる。

木山春生も黙ってそれを食らっているわけじゃない。

自身を透明化させ、土の壁をすり抜けて回避した。

 

「驚いたな。他人の能力を使う能力者の都市伝説は知っていたが、まさか君だったとはな」

「降参するか? 半殺しで済ませてやるぜ?」

「それは丁重にお断りさせてもらおう、か」

 

何か鋭い音と共に見えない刃が迫ってきた。これは、かまいたち現象か。

高速移動で回避し、木山春生の背後を取ろうとしたが、逆に瞬間移動で背後を取られた。

 

「惜しいな」

「お前がな」

 

木山春生は、片手で掴んだ巨大な瓦礫を俺にぶつけようとしたが、背後に空気の壁を作りそれを防ぐ。

 

「燃え尽きろ!」

 

背後に振り向きざまに両手を突き出し、燃え盛る火炎を吹き出したが今度は木山春生が水の壁を作り、防がれてしまった。

それも予測済み。続け様に右手を大きく振りかざし、木山春生に殴るように突き出す。

俺の拳で殴られた空間がそのまま押しだされるように、木山春生へと迫る。

だが、木山春生もそれを予期していたかのようにヒラリとかわし、足元に転がるアルミ缶を蹴り飛ばしてきた。

能力で加速されたアルミ缶は、高速で俺へと迫ってきた。

 

「量子爆弾は、俺にはきかない!」

 

上空へ薙ぎ払うような動作で左腕を振りあげ上昇気流を巻き起こし、アルミ缶を遥か上空に飛ばし爆発させた。

 

「ラチがあかないな……くっ、動けない?」

「いちいち相手の攻撃を捌いてからじゃ遅いっての!」

 

さっきアルミ缶を上空へ飛ばすと同時に、ここら辺一体の地面を底なし沼へと変化させた。

木山春生の体は、もうすでに腰まで地面に沈み込んでいる。

他の能力で脱出をしようとしているが、それより先に動く。

 

「この程度、な、何? 渦が? うわあぁぁ!」

 

今、木山春生を中心に地面が大きく渦を巻いている。まるで洗濯機のようだ。

 

「いかに多才能力でも、演算に集中できなきゃ使えないだろ……ぐっ!? くそ、こんな時に」

 

突然頭痛に襲われ、その場にうずくまってしまった。

やっぱ幻想支配で多才能力をコピーして使用するのは、かなり俺に負担がきていたようだ。

木山春生はその隙に、地面の渦から脱出し、俺が変化させた地面を元に戻した。

 

「はぁ、はぁ……どうやら、君の能力には限界があったようだな」

「あぁ……俺は、自分の限界くらい見極めてるさ。俺の幻想支配でも、お前みたいな特異な能力は長時間使用できないってな」

 

地面に倒れ込んだまま、迫ってくる木山春生を見上げながらそれでも、余裕をもった声で答えた。

幻想支配は今までもどんな能力でもコピーしてきた。けれども、相手によっては初めて視た時は長時間使用できず、場合によっては頭痛が起こり、体力もなくなる事もあった。

レベル4まではそうはならなかったが、沈利や操祈などレベル5達が特にそうだった。

それに、幻想御手を使った能力者相手に幻想支配を使ったときの状況から、今回のこの結末は容易に予測できた。

 

「……だから、トドメは任せる事にしたんだよ」

 

そう、今回の俺の役目は木山春生の目をこちらにだけ向けさせ、時間を稼ぐ事。

後は……

 

「つーかまえった♪」

 

意識を取り戻した御坂美琴に、背後から奇襲をかけさせる。

 

「なっ!? き、君は、さっきの爆弾が直撃して……はっ!? まさか、瓦礫で壁を作っていたのか、死角から爆弾を爆発させたと言うのに」

 

木山春生が驚くのも無理はない。俺も美琴を最初見た時は、爆弾にやられて重傷を追っていると思ってしまった。

けど、すぐに美琴は磁力で周囲の鋼鉄などを集めて壁を作り、防御していた事に気付いた。

最も、爆発の余波で脳震盪を起こして、意識がもうろうとしていたようだだが。

ならば、意識が戻るまで俺が時間を稼げば、美琴は復活する。

と、最初は思っていた。

 

「お前も科学者なら、電子制御系能力者の応用力の高さを知っているべきだったな。ましてや美琴は学園都市最強の電撃使い。電磁波をレーダー代わりに使って奇襲に対処するなんてお手の物だ」

「そう言う事よ。さっきは散々私の攻撃を防御してきたけど、流石にあのバカやそこの変人でもない限り、ゼロ距離からの電撃は防御しきれないでしょ?」

「くっ……!」

 

それでも木山春生は往生際悪く、自分の身体の摩擦力を変化させ、美琴を弾き飛ばそうとしていた。

美琴はさっきまで意識が朦朧としていたせいか、能力発動までわずかなタイムラグが発生しているようで、このままでは間に合わないかもしれない。

 

「させるか!」

「な、何? 能力が消え……」

 

なら、俺が幻想支配で木山春生の多才能力を停止させるしかない。

介旅初矢にも使った幻想支配の奥の手、能力停止。

僅か1秒足らずしか停止出来なかったが、それで十分。

 

「遅いっ!」

 

美琴の身体から電撃が発生し、木山春生の全身を駆け巡った。

 

「……がっ、ぅぁ……ぅぅ」

「手加減はしたわ。でもこれでしばらくは自由に動けないはずよ」

 

力なく崩れ落ちる木山春生の体を受け止め、そっと地面に寝かした。

 

「随分と優しいのね。さっきまで殺すとかかなり物騒な事言ってたのに」

「半殺しにすると言ったんだ。お前も気絶したふりなんかしやがって、おかげで手間がかかったぞ」

 

そう、美琴は確かに脳震盪を起こしていたが、それもすぐに収まり意識がはっきりしていた。

 

「それはあんたがテレパシーで、しばらく気絶したふりしてろなんて言うからでしょ。大体あんなでたらめな能力合戦なんかして、警備員達も茫然と見てたわよ?」

「お前が本当に気絶したと思ってから、場所を変えながら時間稼ぎで戦ってたんだ! お前が気絶のフリだったら最初から別の作戦立ててたっての! それにお前さっき当麻をバカと言ったのは良いけど、俺の事変人と言ったよな?」

「本当の事を言って何が……うぐっ!?」

「っ!?」

 

突然美琴が頭を抱えて、その場にうずくまった。

何事かと身構えたが、俺の方にも異変が起こった。

 

――センセー、木山センセー?

 

「あ、頭に声が?」

「これは……木山春生の記憶?」

 

何か子供の声と共に、映像が頭に浮かんできた。

どうやら美琴にも同じ現象がおきているようだ。

さっきの電撃で、美琴と木山春生に電気を仲介した回線が出来たようだ。

俺の方は幻想支配で、木山春生と繋がってしまったのだろうが、こんな事は初めてだ。

俺がコピー出来るのは、他人の能力とその使い方のみで、記憶などは読めないはず。

 

「幻想御手の副作用のせい、か?」

 

無理やり、俺と木山春生の脳が繋がったせいかもしれない。

 

――君は確か、教員免許を持っていたよね?

 

木山春生の記憶が映像として次々と浮かんでくる。その中に出てきた、薄汚い老人は間違いない……木原幻生だ。

木山春生は幻生のジジイに言われ、実験の被験者達である置き去りの教師となった。

 

――子供は嫌いだ。

 

慣れない教師生活は、子供達に振り回されっぱなしだったようで木山春生は相当苦労していた。

 

――騒がしいし、デリカシーもない。

 

子供達のイタズラに振り回されたり、容赦ない言葉にショックを受けたりもしていた。

 

――馴れ馴れしいし、すぐになついてくるし。

 

けれどもそんな教師生活に、木山春生は心地よさを感じ始めていた。

 

――センセー、私達は学園都市に育ててもらったから、少しでもこの町の役に立てるようになりたいなーって。

 

そして月日が流れ、木山春生は生徒達の為に実験を必ず成功させるようと、子供達を立派に育てようと心に強い決意を抱いていた。

 

――センセーの事、信じてるもん。怖くないよ。

 

しかし、現実は彼女の夢を打ち砕いて行った。

【木山春生の思い描いていた実験】 は失敗した。だが、【本当の実験】 は成功した。

子供達は瀕死の重傷を負い、意識不明のまま今に至る。木山春生は実験について幻生のジジイに問いただしたが。

 

――学園都市のお荷物である【置き去り】 が科学の発展に貢献したんだ。いい事じゃないか。

 

この言葉で片付けられてしまった。

 

「……い、今の……本当に、あった……の?」

「そうだ……これが木山春生が、今回の事件を引き起こした動機だ」

 

美琴には今の記憶はショックが大きすぎたな。

信じられない物をみたかのように、身体が小刻みに震えて力が入っていない。

 

「見られて、しまったか。しかし……このくらいの、事。木原の君には日常茶飯事だろう?」

「そうだな……見慣れているよ。俺は木原で、クズで極悪人ってのも否定しないし、肯定するさ」

 

俺自身も実験材料になったり、実験を行った立場になった事もある。

実験でバラバラになった死体も、廃人となった子も見てきた。

見慣れてきた……はずなのに、なぜか今の木山春生の記憶をみて、心に言いようのない怒りが、苦しみが湧きあがってくる。

 

「で、これを冤罪府に出来ると本気で思っているのか?」

「何、を……?」

「私はこんな非道な実験を行い、罪もない子供達を大勢犠牲にしました。だから、その子達を救う為に他の子達を犠牲にするのは仕方ない事です。この町の全てを敵に回しても止めるわけにはいかないんです。って言いたいんだろ、お前は」

「違う! 私は……私はぁ、お前達と違う!」

 

木山春生はまるで子供のように、俺の言葉を否定する。

きっと、あの子達を助ける事だけに必死で、それだけを心の支えにしてきたのだろう。

でも……コイツのした事は変わらない。

 

「同じだよ。人助けだなんて大義名分があると言っても、それは俺達と変わらない……他人を犠牲にして救おうだなんて、それに気付かない限り、お前はあの子達を救えない」

「う、ぐっ……ぁあ~~!!」

 

突然、木山春生の苦しみ方が変わった。俺の言葉に動揺しているのとは違う。

頭を抑えて、うずくまってしまった。

 

「ちょ、ちょっと、どうしたのよ!」

 

茫然自失になって俺達の会話も聞こえていなかった美琴も、異変に気付いて木山春生に駆け寄ろうとした。

が、俺は嫌な予感がして、足を止めた。

 

「美琴! 木山春生に近付くな!」

「えっ!? 何?」

「ぐぐっ……がっ、こ、これは……ネットワークの、暴走……いや、これはAIMの……」

 

そううめきながら倒れ込んだ木山春生の頭から、何かが生み出された。

 

「何よ、これ……胎児?」

 

美琴の言うように、それは胎児に見えた。けれども人間の胎児とはまるで違う。

目と口はあるが、異様な色と形をしており、まるで怪獣映画に出てくるような化け物だ。

臓器のような水色の物体が、クラゲのような透明な膜で覆われている。

足と思われる下半身からは、何本もの触手がうごめいている。

 

〈ギッ、ギィ……ギイィィアァァァーー!!〉

「っ!? なんて大きな悲鳴!」

「頭が、割れそう! 美琴、防壁!」

 

ガラスを引っ掻いたような悲鳴と共に、辺り一面に衝撃波が放たれた。

美琴が磁力を操り、鋼鉄で防壁を作り俺も気絶した木山春生を抱えそこへ転がり込んだ。

 

「何なのよ、アレー!!」

 

美琴が胎児に向け電撃を放つと、かわそうともせずに直撃して肉が爆ぜ飛んだ。

 

「攻撃が、効いてる!? でも、血が出ないのは生物じゃないから?」

「どうやらそうみたいだ……次の攻撃来るぞ!」

 

胎児の爆ぜた肉体の一部が結晶のように形どり、俺達へと飛んできた。

 

「ちょ、ちょっと! 無茶苦茶でしょ!」

 

流石に数が多く、距離を取ろうと背後を振り向いたが視界の淵、道路の鉄柱の影に涙子と飾利の姿が見えた。

彼女たちの方へも結晶が向いている。

 

「マズイ! 美琴、力借りるぞ!」

 

咄嗟に幻想支配で美琴を視て、能力をコピーして電撃で結晶を砕いた。

さっきまで無茶していたから、使えないかもと思ったが、そんな事はなかった。

 

「初春さん! それに佐天さんまで!?」

 

美琴も2人に気付いたようだ。2人がこっちに向かってくるのを大声で制した。

 

「こっちに来ちゃダメ! 隠れてて! 今こいつを片付け……て?」

 

俺も美琴もまるこげにしようと身構えたが胎児はこちらに目を向けず、何かにすがるように虚空に手を伸ばしている。

 

「まるで何か苦しんで、助けを求めているようですね」

 

涙子の言う通り、胎児はもがき苦しんでいるような悲鳴を上げている。

その時、俺の携帯が鳴った。

 

「この非常時に誰だ? ……もしもし? 今取り込み中なんだけどな!」

『一体何があった? 突然そこら辺一体のカメラが落ちてしまって、何も映らなくなったぞ』

 

電話の相手は尼視だった。ここら辺一体の監視カメラがダウンして状況が掴めなくなったらしい。

隠しカメラの1つや2つ持っていそうだが、それを含めて全部ダウンしたようだ。

 

『それと、病院に収容されている幻想御手の昏睡患者たちが一斉に苦しみ出したようだ。意識は戻っていないが、まるで何か悪夢にさいなまれているような苦しみ方だそうだが、もう一度聞く、何があった?』

 

尼視に手短に目の前で起きている現象を話すと、興味深そうな声をあげた。

 

『きっとそいつはAIM拡散力場の集合体だ。幻想御手で集められた脳波ネットワークが、木山春生では制御しきれなくなって暴走したのだろう』

 

非常時なので、スピーカーで美琴達にも声を聞かせる事にした。

尼視の事は俺の仕事上の上司と言う事にしてある。木山春生も意識も戻して、尼視の声に耳を傾けていた。

胎児の方は、木山春生からの攻撃から逃れた警備員達が、高架道路から銃器で応戦しているが、あまり効果はない。

それどころか銃撃を食らいながら、大きくなっていっているようだ。

 

「なるほど、虚数学区の正体、その1つがアレ。と言う事なのだろうな。さしずめあれは 【幻想猛獣(AIMバースト)】 と呼んでおこう」

『さぁ? 虚数学区については私では専門外なので深く言う事は出来ないが、1つ確かなのは……それ、幻想猛獣をどうにかしないと、幻想御手の患者たちは全員良くて廃人、悪くて死亡するだろうな』

 

一応一般学生がいるからか、いつもよりも胡散臭くない声を出しているが、白々しい事だ。

虚数学区なんて、お前が知らないわけないじゃないか尼視。

木山春生も訝しい顔をしているが、今はそれどころじゃないと深く追及しようとはしてこない。

 

「そんな……どうすればいいんですか!?」

『幻想御手のワクチンソフトは、私の方でも作成中だが間に合いそうもない。木山春生、君なら持っているだろう? それを使えばいい。少なくとも患者達は幻想御手から接続が切れて、幻想猛獣も弱体化するはずだ。うまくいけば触媒を失った幻想猛獣が消滅するかもしれない』

「それ、私が持っています! 木山先生から預かりました!」

 

飾利がポケットから、小さなメモリーカードを出して見せた。

 

「これは……本物なのか?」

「本物です! 木山先生はこれでみんなが良くなると言ってくれました!」

 

俺と美琴が疑わしい目をメモリーカードと木山春生に向けると、飾利は力強く言った。

 

「確かに、あの時はそう言ったが君達はそれを信じるのかい? 私の言葉など君達はもう信じるわけも……」

「いーえ、私は信じます! 木山先生は私を人質にしようとしている間も、昏睡状態の皆の事を心配していました。それに私に怪我しないように手錠も外してくれました。」

「私も、信じます! 事情は初春から聞いたけど、子供達を助けるのに木山先生が嘘付くはずないです!」

「初春さん、佐天さん……」

 

木山春生が自虐的な笑みを浮かべ、吐き捨てるように言った言葉を飾利と涙子はきっぱりと言い切った。

 

「本当に、人の言葉を簡単に信じるバカが多いな。だから子供は苦手だ……君は、どうなんだ? 御坂君に、勇騎君?」

 

ここで俺を木原と呼ばなかったのは、飾利達がいたからだろうか、そんな気遣いをする余裕が今の木山春生にはあるようだ。

きっと飾利達の疑いようのない言葉に、何か思う所があったのだろう。

 

「私は、信じるわ。正直、幻想御手の事は許せない、けど、それでも私はあなたの言葉を信じる。あなたが子供達を救いたいって気持ちは嘘じゃなかったもの」

「俺はお前の言葉を信じる気はない……だが、お前を信じると言った飾利と涙子を、俺は信じる」

「……本当に、この学園都市の子供達は……バカ、ばかりだ。そのワクチンソフトは幻想御手の原理と同じ、音声ファイルだ。それを学園都市中に流す事が出来れば……」

『くっ、くくくっ……』

 

尼視が電話の向こうで笑いそうになっていたので、電話を切った。

もう用はない。やるべき事はこれで決まった。

 

「俺と美琴で幻想猛獣をひきつける。飾利と涙子はワクチンソフトを警備員の元へ!」

「「はい!」」

 

飾利と涙子が警備員の車両に向かうの見ながら俺は携帯を操作し、離れた場所に留めたバイクを呼び寄せた。

見上げると、道路上からの銃撃は止まっており、幻想猛獣は方向を変えようとしていた。

 

「警備員は全員戦闘不能か」

「私たちでやるしかないわね」

 

と、その時俺の視線はある1点に止まった。

幻想猛獣の向かう先に見える建物、正確にはその壁にうっすらと視えるマーク。

激しく嫌な予感がした。

 

「まさか……」

 

走ってきたバイクから双眼鏡を取り出し、そのマークを確かめると俺の嫌な予感は的中していた。

 

「美琴。マズイ、あいつをこれ以上進ませるな!」

「どうしたっていうのよ……えっ!?」

 

俺の反応に、美琴は疑問符を浮かべたが、渡した双眼鏡を覗くとすぐにその理由を理解したようだ。

 

「あの壁にあるハザードマークって、まさか!?」

「あぁ……ったく怪獣映画じゃあるまいし、何にせよどんな事してもアイツを足止めしなきゃならなくなったな」

 

あの幻想猛獣の行く先にある建物。

 

それは……原子力実験炉だった。

 

 

つづく

 




次回もバトル、そしてその次も……?

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