幻想支配の幻想入り   作:カガヤ

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独自設定ますます強くなってきます。


第27話 「木山春生」

7月24日 

 

 

幻想御手のデータを手に入れて、それを尼視に渡してから4日が経った。

最初は自分でも解析しようとしたが、体調不良やら幻想御手を使ったバカの排除に多忙だったので、ろくに解析が出来ないでいた。

体調不良の原因は、幻想御手を使ったバカ相手に幻想支配を使ったせいだけど。

21日に涙子と黒子が複数のスキルアウトに襲われているのを、たまたま通りかかった俺が見つけて交戦。

2人共怪我をしていたから長引かせるのは良くないと思い、幻想支配で奴らの強化された能力をコピーして一掃した。

けど、その後激しい頭痛と倦怠感に襲われ2日程まともに動けなかった。

 

「そりゃ、幻想御手の副作用をお前も受けたからだろうな。幻想支配の原理が未だに分からない以上、何が起きてもおかしくはないわけだ。でも、そこまで無茶するほどあの子達に入れこんでいるなんて……お前はそっちの趣味があったのか?」

「……そういう話をしにきた覚えはないんだが、クソババア」

 

今俺は、木原尼視がいる研究所に来ている。

幻想御手の解析結果を聞きに来るためだ。電話でもよかったのだが、見せたいものがあると言う事でわざわざ出向いた。

俺自身で解析出来ていればこんな手間かからなかったのに。

で、目の前に座り優雅にコーヒーをすすっている年齢不詳で、いかにも科学者と言う風貌の女性が木原尼視。

 

「そう言えば、暗闇の五月計画の被験者達の事も気にしていたか……おっと、無言で銃を向けるのはやめてもらおうか? しかもそれは演算銃器じゃないか」

「コイツの性能テストまだしてなかったからな。相手がお前ならちょうどいいだろ? それと、いい加減会う度に口調変えるのやめろ」

 

尼視は昔から口調をコロコロ変える。個性だの気分だのと言っているが、実際なんで変えているのかは知らない。

 

「そろそろ本題に入るか。幻想御手の解析、どこまで進んだ? と言うか終わっただろ?」

「あーアレか? うん、そうだなどこまで進んだかと言われれば、今日の朝始めたばかりだな♪」

 

その瞬間、無言で尼視のパソコンに巨大な風穴を開けた俺は、悪くない。

 

「ぎゃー!? 私のエットリーナちゃんがぁー!? ちょっと、何してんだてめぇ! よりにもよってソレで撃つんじゃねぇよ!」

「やかましい! 俺がそれ渡したの4日前だぞ! 今まで何サボっていやがったんだクソババァ! ってかいい加減自分のパソコンに変な名前つけるのやめろ!!」

 

ちなみにエットリーナは尼視愛用パソコン第23号だ。

それにしても、コイツにかかれば2日もあれば解析して複製や強化もしそうなのに、まだ手をつけたばかりとか……

 

「仕方ないだろう。こんなのより急ぎの用事が出来たんだ。それも総括理事長じきじきのな。お前にも頼みたい事があるそうだから、多分今回の一件片付いたらオーダー入るじゃないかい?」

「理事長直々にか? 一体何事だろう」

 

統括理事会、と言うか親船最中や芹亜先輩経由でオーダー来る事はあるけど、理事長から直々のはすごく珍しい。

 

「まぁそれは今回の一件を片付けてからだろうな。さてと、じゃ早速幻想御手の正体を明かそうか」

 

そう言って尼視はキーボードを操作すると別のPCが起動した。

どうやらさっき壊したエットリーナはゲームや趣味用で、こっちが仕事用のPCらしい。

 

「幻想御手は音楽ソフトであり、聴覚により能力強化を促進させている……が、聴覚に訴えただけで能力に影響を与える事は不可能なのはずっと前から分かっていた事であり、現状、学習装置でもない限り同様の効果は認められないっと」

 

学習装置≪テスタメント≫。布束砥信が監修した視覚・聴覚・味覚・嗅覚・触覚の五感全てに対して電気的に情報を入力する事で、脳に技術や知識を埋め込む事が出来る装置。別名は洗脳装置だ。

 

「学習装置が本来の用途以外で、もしくは性能をコピーされて他で使われた形跡は?」

「ないね。それに学習装置は今別件で忙しいからな。誰かがコピーしたりする隙はないさ」

 

実に楽しそうに笑いながら尼視が言う。コイツがこんな顔してるって事は、今学習装置はロクでもない実験に使われているのだろうな。

 

「待てよ、学習装置……なるほど、そうか、そう言う事か!」

「何1人で納得してんだよ。これを仕込んだ奴に心当たりでもあるのか?」

「いやはや私とした事が、多忙を理由にすっかり頭の中から外していた事案があった。確かに彼女なら、動機もこれの開発も思いつく!」

「おーい、ついに頭のネジが全部ぶっ飛んだか? あ、そりゃ前からか」

 

1人で狂喜乱舞する尼視の頭を叩くが、それでもコイツは気にしていない。

何がそんなにおかしんだ?

 

「あーもういいや。どいてろ、俺が自分で調べるから。大体の見当はついてる」

 

伊達にここ数日ベッドで寝ていたわけじゃない。

俺なりに幻想御手の仮説は立てていた。

幻想御手は音楽ソフトだが、ただ音を聴くだけでなく、聴く事により何かの信号が頭にインプットされたと仮定した。

俺が幻想御手使用者を幻想支配で視た時、何かに引っ張られる感覚があった。

それは自分が何か別のグループ、ネットワークの一部にされていくような感覚。

ならば、幻想御手とは使用者をとある脳波ネットワークに接続させるキーになる物。

人間の脳波も指紋や声紋と同じく、人それぞれにパターンがある。それを逆手にとって脳波をキーとするセキュリティ構築を作ろうとしていると、前に冥土返しから聞いた事がる。

 

「だったら、ネットワークで同系統の脳波パターンと同期させていけば……」

 

学園都市には多種多様の能力者がいると言っても、ある一定のカテゴリーで分けられている。

美琴の能力も、カテゴリーで言えば、第4位の麦野沈利と同じ電子制御系能力に分類される。

第五位の食蜂操祈も暗部の心理定規と同じ、精神系能力に分類される。

もちろんカテゴリーに属さない未知の能力もある。俺や当麻が良い例だ。

 

「ユウキ、それで正解だ。流石は木原」

「これに木原は関係ないだろ。ってかやっとこっちの世界に戻ったかメンヘラババア」

「さっきからヒドイ言われようだな。まぁ、それは慣れたからいい」

 

慣れるなよ。いや、昔からずっと言ってる事だから慣れるだろうけど。

 

「んで、幻想御手の使用者リストは……うげ、こんなにいるのかよ。そりゃあ同系統の能力者が多く集まるわけか」

「そして、幻想御手を使うと昏睡状態になるのは、他人の脳波と無理やり同調させられる事で負荷がかかり、オーバーヒートするからだな」

 

涙子に使わせなくて良かった。

 

「ん? 誰かに使わせなくて良かったと言う顔をしているな?」

「してねぇよ。俺がそんな顔するわけないだろ」

 

涼しい顔で答えるが、尼視は悪そうな笑みを浮かべそれを否定した。

 

「いやいや、お前と会うのは数カ月ぶりだが、前よりずっと 【良い顔】 になっているぞ?」

「そりゃお前にとっての良い顔だろ。どんな顔だっての……さて、昏睡状態の患者に共通脳波パターンと一致するのは誰だ?」

 

学園都市に居る人間は大人も子供も関係なく、書庫に脳波パターンを含めたあらゆる個人情報がインプットされている。

そこへアクセスして情報を引き出す。普通は特別な権限が必要だが、今は尼視のパソコンからなので容易に侵入できる。

自分でも出来るが、コイツの使った方が手っ取り早い。

そうして浮かんできた脳波パターンと一致するのは……

 

「木山春生? 随分不衛生そうな顔をした人だな。老け顔に見えるが、実際は今俺の肩に頭を乗せている厚化粧ババアよりもかなり下だな」

「このまま首を絞め殺したいが、今は我慢してやろう。しかし、やはり木山春生か……くっくっくっ、まだ諦めていなかったと見える」

「お前コイツの事知ってるのか? 確か、こいつは数年前に……あ!」

「そう、幻生のクソジジイが主導となって行った、暴走能力の法則解析用誘爆実験の科学者の1人だ」

 

暴走能力の法則解析用誘爆実験。俺はこいつには関わっていなかったが、詳細は知っている。

木原の1人。幻生が置き去りを拾い集めて行った、能力を故意に刺激させて、暴走条件や結果を観察する実験だ。

確か、アイテムの理后が使っている体晶はこの実験の副産物だったはず。

 

「となれば、動機を予想が付く。この実験で意識不明になったのは木山の教え子達だ。彼らを快復させるシュミレーションがしたかったのだろう」

「どうしてそんな事がわかる?」

「実はな、これまで同一人物による短期間での23回もの 【樹形図の設計者】 の使用申請が却下されているんだよ」

 

樹形図の設計者≪ツリーダイヤグラム≫ は学園都市最大、いや地球上で最大のスーパーコンピューターだ。

それゆえにその使用には申請が必要だが、手順と目的が明確化されていれば特に却下はされないはず。

それが短期間で、何度も却下されたと言う事は……

 

「申請者は木山春生で、却下されたのは統括理事会の誰かが動いたため、そしてそれを裏で操っているのが、木原幻生か」

「正解。私がここしばらく忙しかったのも、そこから幻生の足取りを追って、お前に処分させる為でもあるんだ。あ、理事長からの仕事はこれとは別件だぞ?」

 

幻生はしばらく前から行方不明で、木原の間でも行方を探されている。

尼視は何か因縁があるのか個人的に嫌いなのか、このクソジジイの行方を掴んで俺に始末させようとしている。

俺としては、そんなオーダーが出たら最優先で執行するけどな。

 

「で、肝心の春生はどこにいるのか見当ついているのか? もう、こいつの居場所には警備員を行かせたんだろう?」

「いや、私がする前に誰かがこれに気付いて先に手を回したようだ。で、木山本人は人質をとって逃走中。木山のPCはトラップが仕掛けられていて、データが完全にフォーマットされた……全く手際の悪い無能共だ」

 

尼視は警備員の間抜けさに心底悪態をついている。ま、仮にも科学者なんだ、トラップくらいは残しておくと警戒するのが俺達じゃ普通かもしれないけど。

 

「俺みたいな手際の良さをあいつらみたいな 【真っ当な】 奴らに期待するなよ。それにしても人質とはな……ん、電話だ」

 

かけてきた相手は美偉先輩だった。これは……木山春生絡みか?

 

「美偉先輩? 何かありましたか? ひょっとして、幻想御手、木山春生絡みで何か?」

『相変わらず情報が早いわね。そこまで掴んでいるなら説明の手間が省けて助かるわ……実は』

「木山春生が飾利を人質に逃走中? しかも、確保に向かった警備員が彼女の能力によって全滅状態? しかも使う能力は多種多様!?」

 

美偉先輩から告げられた事に、俺だけでなく尼視も眉をひそめた。

 

『白井さんはこの前の怪我で動けないの。今、御坂さんが現場に到着したわ。でも、悪い予感がするの。ユウキ君、あなたにも正式に風紀委員として協力を要請するわ。これ以上被害が広まる前に初春さんを助けて、木山春生を確保して、お願い!』

「……オーダー了解。すぐに向かうよ。ま、美琴が先に片付けてるだろうけど、それじゃあ」

 

電話を切って振り向くと、尼視がパソコンのモニターを観て何やらにやついている。

そこに映っていたのは、木山春生と思われる女性が、竜巻や水流を操り警備員をなぎ倒していくカメラ映像だった。

 

「これはこれは、幻想御手のシステムはここまでの副産物を生みだすとはな」

「まさか多重能力者? でも木山春生は能力開発を受けていないはず」

「恐らく、幻想御手で昏睡状態に陥っている1万もの能力者の能力を使用しているのだろう。1人1人はレベル1や2でも、幻想御手のネットワークを同期させているせいで、どれもこれもレベル4クラスの能力になっているな」

 

これは、美琴でも万が一を考えた方が良いな。

普通に戦えば美琴に勝ち目があるが、木山春生のこの表情。

何がなんでも邪魔はさせないと言う気迫に満ちている。簡単には折れないだろう。

 

「行ってくる」

「はいはい、ここで 【ヒーロー】 の登場ってわけか」

 

尼視は嫌味たらしく言うが、これは笑えない嫌味だ。

 

「ちっ、いいからてめぇはワクチンソフトの開発でもしてろ。万が一って事もあるからな」

「……いいだろう。それが今回のオーダー報酬だ」

 

木山春生が持っている可能性は高いが、それだけをアテにはしていられない。

常に万が一を考えて行動する。それが俺のやり方。

だから、今回嫌な予感がしたので、仕事用のバイクに銃器とナイフ、刀もフル装備で仕込んである。

 

「多重能力者もどきか、俺の幻想支配でどこまで支配できるかな?」

 

幻想御手使用者と言うネットワーク端末を視ただけでも体調不良を起こしたのに、今回はそのマザーコンピューターを視る事になる。

どんな副作用が起きるか分からない。けれども、それに躊躇いは一切ない。

 

「木山春生……待っていろ」

 

俺はバイクを高機動エンジンで起動させ、現場へと向かった。

 

 

 

尼視の研究所から無謀なショートカットをしつつ、全力で飛ばして10数分。

ようやく現場に到着した俺が見た物は、まさに戦場だった。

高架道にはいたるところが寸断、崩落していて警備員の車両がなぎ倒されており、数名倒れている。

警備員の黄泉川愛穂先生が、無事な同僚と救助している所見るとまだ死者はいないようだ。

高架下の空き地はまるで爆撃でもあったかのように、瓦礫に埋もれ、地面がえぐれ、大穴が開いている。

その瓦礫の中に、無傷で立っている目の下に隈が出来た女性科学者が1人。あれが……

 

「……木山春生」

「なんだ、君は? 学生のようだが、見た所風紀委員ではなさそうだが?」

 

そして、少し離れた瓦礫に埋もれ頭がかろうじて見える女子学生の姿。

 

「……美琴」

 

状況を視ると、何か爆撃に巻き込まれたのだろう。恐らく、量子爆弾。

良く見ると瓦礫を盾にして、直撃だけは避けてたようだが、軽い脳震盪でも起こしたのか動く気配がない。

 

「この子の知り合いか? 埋もれてはいるが、命までは取ったつもりはない。すぐに病院に運んであげるといい」

「だから?」

「道路の上には風紀委員の子もいる。あの子は衝撃で失神しただけだ。彼女に幻想御手のワクチンソフトを渡してある」

「だから……どうした?」

「君も分からない子だな。ここで勝ち目のない私に殴りかかるより、もっとやるべき事があると言っているのだが? この子にも言ったが、私はある事柄について調べたいだけだ。それが終わればすぐに全員快復させよう。誰も犠牲にするつもりはない」

 

目の前の女は、特に感情も込めずにただ淡々と自分の目的を語っている。

 

「……誰も、犠牲にするつもりはない?」

「それでも、ただ義憤に駆られて私に怒りをぶつける気か? これだから子供は……」

「俺を美琴と同じただのガキと思うなよ。お前が暴走能力の法則解析用誘爆実験で意識不明となった教え子達を快復させるという目的も。その為に23回も樹形図の設計者の使用許可を却下された事も、全部知っている」

「何? 君は一体、何者だ?」

 

ここではじめて木山春生は真っ正面から俺を見た。

 

「俺の名は、木原勇騎。お前を止めに来た男だ。覚えておけ」

「き、木原……だと? くっ、くくっ……ははっ、あっはっはっはぁ! そうか、そう来たか。樹形図の設計者の申請を却下するだけではなく、木原直々に私の邪魔をしに来たか。そうはさせない、もう邪魔はさせない!」

 

多重能力者もどきの影響か、木山の片目は充血したかのように赤い。

その両目に殺気すら籠めて俺を睨んでくる。

 

「お前が木原幻生の元で実験をしたのも知っているし。その暴走にあのクソジジイが関与しているのも知った。俺は確かに木原だ。そして、木原の他の奴からお前を止めろと、最悪殺せとも言われているさ。けどな、俺が今ここにこうしてお前の前に立ちふさがっているのには、木原は関係ねぇ!」

「な、に? ならばなぜ私の邪魔をする! なぜ私の前に立つ!!」

「さあな。なぜかははっきりとは俺もわかんねぇ。けどな、お前に怒りを覚える理由ははっきりと言える。美琴をボロボロにした事もだが、それだけじゃねぇ。お前は……お前がした事が許せない」

 

――私も能力者になれる。その夢が、やっと叶うんだって、でもそれは幻想だったんですね。

 

「お前は誰も犠牲にするつもりはないと言った。けどな、お前は……沢山の能力者達の憧れを利用した! 1人の女の子の夢を踏みにじった!」

 

ここまで怒りを覚えたのは初めてかもしれない。

木山春生以上の、たくさんの木原やクズを見てきたが、ここまでなった事はない。

置き去りをモルモット以下の扱いで、ゴミのように捨てた科学者達にさえ覚えた事のない怒り。

それがなぜか、木山春生には感じた。

 

「お前が沢山の夢や希望や憧れを犠牲にして、踏み台にしても……そんな事でしか教え子達を救えないと思っているなら」

 

当麻、お前ならきっと俺と同じような事言うだろうな……

理屈じゃなく、本能とも違う、それは心の底からの叫び!

 

「その幻想……俺が支配する!」

 

つづく

 




さて、次回からは少しトんでもないバトルが続きます。

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