幻想支配の幻想入り   作:カガヤ

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原作時系列複雑だなぁ。


第23話 「爆弾魔」

その後、待ち合わせがあるとかで美琴達とは別れた。

特にこれといった情報は仕入れれなかった。ま、美琴は幻想御手にも爆弾事件にもそこまで興味を持っていないようだが。

涙子の方は幻想御手に興味津々なのが少し気がかりだ。

と、考え事をしながら何となくブラブラしていると、セブンスミスト近くまで来ると当麻が小さい女の子に話しかけられているのが見えた。

 

「アイツ、とうとう幼女にまで好かれる体質になったか」

 

当麻は不幸体質だが、それと同時にフラグ体質でもある。

女の子を助けて不幸に巻き込まれるが、同時にその女の子に好意を持たれるという何ともバランスが良いと言える体質の持ち主。

 

「おーい、当麻。何幼女をナンパしてるんだー?」

 

わざと大きい声で当麻を呼ぶと、案の定周囲の視線は釘付けになった。

 

「おいこら、ユウキ! 何誤解を招く事を大声で言ってるんだ!?」

「あっ、違った? なら、幼女にナンパされたのか。相変わらずモテモテだな、幼女に」

「だから違うって言ってるだろ! 見ろ、周りの皆さまの冷たい視線を……って何だか暖かい視線に変わってる!?」

 

まぁ可愛いわね。だの、青春じゃん。と言う声がちらほら聞こえてくる。

 

「あぁーもう、こっちこい!」

 

いきなり手を引っ張られ引きずられるように、近くにあったセブンスミストに連れ込まれた。

当麻と話していた幼女は、にこにこ笑いながら後についてきていた。

 

「お兄ちゃん達おもしろいねー」

「面白いのは、このウニヘッドだけだ。」

「誰がウニ頭だ! はぁ……不幸だ」

「ま、この子にセブンスミストの場所でも聞かれたんだろ。とっとと案内してやれよ」

「分かってたんならあんな事言うなよ! はぁ……行きたい売り場はこっちにあるから、行こうぜ」

「はーい!」

 

そんな溜息ばっかり付くと、少ない幸せがますます逃げる事になるぞー。

と、心の中で言いつつせっかくなので、俺も店内を見て回る事にした。

学校がある日は制服でほぼ過ごし、仕事が入った時は私服だけどそれも防弾や耐衝撃などが組み込まれた服を着ている。

こうやって外をぶらぶらと歩き回る時の私服もあるが、数は少ない。

 

「少し私服買うか、っ!?」

 

その時、一瞬だけ何か不穏な気配を感じた。

学舎の園で感じたような、見えない人の気配などではなく、純粋な敵意や悪意のような物。第六感で感じる、見えない物。

木原であるがゆえに自然に身に付いた探知能力のようなもの、と数多は言っていた。

それが何かを感じたなら、このセブンスミストで何かが起きる。

不穏な気配の出所は分からない以上、セブンスミストをしらみつぶしに回るしかない。

 

「……買い物は次の機会だな」

 

当麻と同じく、俺も溜息をつきながら、セブンスミストに入って行った。

 

そして、セブンスミストを歩き回ったが、これと言った収穫はなかった。

強いて言えば、4階で美琴の姿を見かけた事か。

涙子は少し離れた場所にいるのか、俺が隠れた物影からじゃ姿は見えない。

美琴は子供趣味全開のパジャマを買おうとしている姿を動画で撮ったくらい。

そこへなぜか当麻も現れ、いつも通りの光景を見る事もできた。

ここで俺も混ざっても良かったが、特に面白くもなさそうだから止めた。

 

「うーん、なんか変な感じはするけど。どこで誰が、ってまではいかないな」

 

屋上階段付近にある休憩椅子に腰かけ、情報を整理し直す事にした。

懐から取り出した特殊なPDAを操作し、風紀委員のデータベースにアクセスする。

こう言う時、木原の技術や権限が役に立つのは、正直腹立たしいが使える物は何でも使う。

 

「爆弾は初めのうちはただの空き缶やスプーンだったが、ぬいぐるみの中に偽装されているようになった、か」

 

偽装工作は発見を遅らせる為だと思う。でも、目的が読めない。

場所や建物を破壊できるような威力ではない。

爆弾事件のあった個所を見てみたが、何も重要な施設なども近くになくただのコンビニだったり様々だ。

 

「なら、人を狙った?」

 

それなら直接本人に送るか、その人の活動範囲に置くはず。

再び被害状況などを見直したが、そういう形跡はない。

 

「爆弾は重力の変動が探知される為、被害者は最小限に抑えられて死亡者もなし」

 

普通の爆弾と違い、どんな偽装をしてもアルミを加速させて爆発させるので兆候が捉えやすい。

 

「不特定多数か本命を狙う為の実験、みたいなものかそれとも……ん? 被害者は主に風紀委員それも9人?」

 

爆発の兆候が観測された現場で、処理中に巻き込まれるのは主に風紀委員だからおかしくないとも言えるが、数が多い……なら、最初から狙いが風紀委員だとすればどうだ?

爆発の危険性が分かれば真っ先に風紀委員が動く。それを逆手にとれば、風紀委員を狙いやすくなる。

携帯を取り出し、風紀委員の固法美偉先輩に電話をかける。

黒子や飾利にかける方が自然だが、狙いが風紀委員全体である以上、指揮系統の上位にいる美偉先輩に書けた方が良いと思ったからだ。

 

『ユウキ君? 今ちょっと立てこんでるから話なら……』

「美偉先輩、虚空爆破事件の狙いは風紀委員だ。今すぐ第7学区にいる全員に連絡して注意を促した方が良い」

『えっ、ちょっといきなり何を?』

「虚空爆破事件の負傷者は全員風紀委員だ。犯人の狙いは風紀委員の可能性が高い」

『こ、これは……なるほどね。分かったわすぐに皆に連絡を……ちょっと待って!』

 

電話口の向こうと、俺のPDAからアラートが発せられた。

みてみると、衛星が重力子の加速を確認したようだ。

場所は……セブンスミスト!?

 

「俺にも重力子異変の情報はきた。そして今、ゼブンスミストにいる……」

 

と、そこまで言って、俺はハッとして急いで階段を駆け降りた。

美琴は誰かと待ち合わせしていると言った。美琴と涙子が待ち合わせる相手は大抵黒子か飾利、もしくはその両方……なら!

 

「美偉先輩、黒子と飾利はそこにいますか!? 嫌な予感がするんだけど」

『白井さんがいるわ。初春さんは外出中で白井さんが今電話をしている所よ……まさか!?』

 

電話の向こうで、何ですって!? という黒子の声が聞こえた。

恐らく飾利がセブンスミストに居る事に驚いているのだろう。

 

『あなたの勘ってどうして悪い方にばかり当たるのかしら。初春さんはセブンスミストにいるそうよ。白井さんも今向かっているから、あなたも早く逃げなさい』

「……あぁ、了解」

 

爆発は毎回大きくなっていっている。前回の規模を考えると、今回は広範囲で被害が出るかもしれない。

周りがセブンスミストから逃げる人々で混んできた。爆弾がどこにあるか分からない以上、俺もここにいるのは危険……と思うのが普通だ。

でも、ピンチとチャンスは同時にくる。

爆破した後の遺留品を視ても、意味はない。が、爆発前の爆弾を幻想支配で視る事が出来れば……犯人は追える。

 

『お客様に申し上げます。店内で電気系統の故障が……』

「こう言う時のいつものアナウンスだな」

 

店内に閉店のアナウンスが流れ、客が次々と避難を始めているのを横目に目的の場所へ急ぐ。

エレベーターは、この非常時に使えなくなるのは分かっていたので、階段で駆け降りているのだが、こんな事なら屋上になんかいなきゃよかった!

 

 

先程、美琴を見かけた階にはいなかったのでセブンスミスト中を走りまわって、ようやく当麻と美琴を見つけた。

 

「当麻! 美琴! ここは危険だ、早く逃げろ!」

「ユウキ、ちょうど良かった。さっきの女の子見かけなかったか!? はぐれちまったんだよ!」

「あの子が? はぐれたのか!?」

 

と、そこへ飾利を見つけた。駆け寄りながら、逃げろと言おうとした時。飾利に走りよるあの子の姿が見えた。

そして、その手に抱きかかえられたぬいぐるみの姿も。

急いで幻想支配でぬいぐるみを視ると、AIM拡散力場の反応があった、やはりあれが爆弾!

 

「飾利、その子のぬいぐるみを遠くに投げろ! それが爆弾だ!」

「は、はい!」

 

飾利がぬいぐるみをほ降り投げ、女の子を抱きかかえてうずくまる。

投げ飛ばされたぬいぐるみの顔が内部に歪み、圧縮されていくのが見えた。

もう爆発まで数秒もない。

 

「まずい、美琴!」

「分かってる!」

 

美琴もあれが爆弾だと早くに気付いたようで、ポケットからコインを取り出しレールガンを放とうした……が、肝心な時にコインを落としてしまった。

ただの電撃では意味がない。俺も美琴の能力コピー出来ても、コインを持っていないのでレールガンが撃てない。

あのぬいぐるみを視る事は出来ても、とっておきの切り札は使えない。

アレは能力者本人を視なければ使えない。

 

「っ!」

 

俺は最後の希望に声をかけようとしたが、既に当麻は駆け出していて、飾利と女の子を守るように前に立ち右手を構えた。

その瞬間、フロア全体に爆炎と爆音が響き渡り、目の前が真っ白になった。

 

 

セブンスミストから少し離れた所で、メガネをかけた学生が狂ったように笑っていた。

 

「くっくっくっ、今度こそ死んだだろう。もう少しして支部にでも送りつければ、無能な風紀委員共はみな殺しに……」

「うっさい」

「ゲフッ!?」

 

もうこれ以上クズの声を聞きたくなかったので、手加減して蹴り飛ばした。

そして、蹴り飛ばした先には美琴が仁王立ちして、クズの退路を塞いでいる。

 

「な……なんだお前らは!?」

「お前にそれを答える義務も義理もないし。お前がそれを知る意味も資格もない。お前に許されるのはたった2つ、選択と質問への回答だ」

「せ、選択だと!?」

「あぁ、レベル5のレールガンを食らうか、それとも俺にぼっこぼこにされるか……どっちがいい、爆弾魔さん?」

「爆弾魔? な、何の事だが」

 

爆弾魔と呼ばれ、学生はぎょっとしたがすぐにしらばっくれた……つもりらしい本人としては。

 

「大した威力の爆弾だったわね。けど、残念。風紀委員の子も誰も怪我どころか、かすり傷一つしてないわよ?」

「バ、バカな。僕の最大出力だぞ!! はっ!?」

 

美琴の言葉にかみついたが、すぐにしまったという顔になった。

 

「別にお前がボロを出さなくても、俺にはお前があの爆弾を作った能力者だってことは分かってるんで、無駄な抵抗はやめておけ」

「覚悟しておきなさい。今の私達、手加減できる自信ないから」

 

ゲーセンのコインを指で遊びながら美琴は笑顔だったが、内心ではすごく怒っているのが学生にも理解出来た。

 

「レベル5の第三位、常盤台の超電磁砲か!」

 

学生が鞄からスプーンを取り出し、能力を発動させようとしたが何も起こらない。

レールガンを放とうとしていた美琴も、怪訝な表情を浮かべている。

 

「な、なぜ……なんで能力が使えない!」

「俺が支配しているからだ、クズ野郎」

「目、目が……青い!?」

 

今この学生が能力を使えないのは、俺が幻想支配で封じている為。俺の切り札 【能力封じ】 でだ。

幻想支配で能力者を視る事で、その能力を全て封じる事が出来る。

さっきの爆弾は能力者が発動させた事象だった為、幻想支配で視てもコピーも封じる事も出来なかったが、能力者自身を視ている今は違う。

今の俺は、コイツの能力を使う事も封じる事も出来る。

 

「お前に質問する……あの子に爆弾入りのぬいぐるみ渡したそうだが、あの子も犠牲になるって考えなかったのか?」

 

さっきの女の子は目の前にいるクズ学生に、風紀委員のお姉さんにぬいぐるみを渡すように頼まれたそうだ。

あの爆発の規模では、あの子も巻き込まれる可能性は十分に……いや、確実だっただろう。

 

「そ、そんな事知るか! 大体無能な風紀委員が悪いんだ。お前らみたいな力ある奴がいつもそうだろうが!」

「……そうか」

 

その叫びに美琴が無表情のまま、歩き出していたがそれより早く、俺がこのクズの腹を殴っていた。

 

「お前は高位能力者や権力ある風紀委員みたいな力のある奴が嫌いか、だからあんな小さな子が巻き込まれても自分のせいじゃないないと。そうかそうか、だったらさ……」

 

この時俺がどんな表情だったか分からないが、目が見開く程に驚く美琴を観てどんな表情しているかは分かった。

 

「レベル0の無能力な俺が、徹底的に潰してやるよ」

 

腹を抑えうずくまる学生の顎を蹴り飛ばし、更に回し蹴りを脇腹に放ち壁に叩きつけた所で、トドメの一撃を放った。

 

「や、やりすぎでしょアンタ……」

「別に、脳味噌や臓器に影響が出ない個所に、それなりの力でやったから後遺症は出ないはずだ。アザとかも残らないようにやったしな」

 

傷跡が残らないように、骨や臓器に異常が出ないように拷問するのは慣れっこだしな。

 

「後は、任せたぜ黒子」

 

ふり返りながらそう声をかけると、黒子が手に持った金属矢を太もものホルダーにしまっていた。

 

「暴行罪として現行犯逮捕、と行きたいところですが、正当防衛として認めておきますわ。貴重な情報提供の借りはこれでチャラと言う事で」

「あの程度の情報、お前らならすぐに気付けそうだけどな。ありがとさん」

 

黒子は風紀委員が狙いと言う情報の事を言っていたが、あの程度美偉や黒子なら気付けただろう。

飾利も含めて一七七支部は皆優秀だからな、だから俺もよく情報収集で利用しているんだし。

 

「ちくしょう……ちくしょう」

 

学生は、意識はまだあるようで、恨み言を呟いていた。

これ以上関わる気はないので、さっさとその場を後にした。

 

後で聞いた話では、美琴があいつに自分は、元はレベル1で、必死に努力してレベル5になった事を話したらしい。

力を言い訳にするような奴、美琴が一番嫌いなタイプだしな。

 

 

 

セブンスミスト近くに戻ると、当麻が俺を待っていた。

 

「よっ、お疲れユウキ。片付いたのか?」

「勿論。後は黒子に任せた。そっちは大丈夫だったか?」

「あぁ、結構怯えていたけどさっきの風紀委員の子が色々話しかけたりして、どうにか落ち着いたようだから俺の出番は終わりだ」

「それにしても、今回ばかりはお前に助けられたな。俺じゃどうにもできなかったし」

 

あの爆発の時、俺にはどうする事も出来なかった。

当麻が間一髪間に合って、右手の幻想殺しで守ってくれたから誰も傷付かなかったが。

 

「黒子や飾利達は、美琴が何かして助かったと思ってるようだけどな」

「ははっ、結果的に皆助かったんだから問題ないだろ」

 

……多分、明日にでも美琴がその事で突っかかってきそうだが、それは黙っておくか。

 

「お前らしいな。んじゃ、今日は晩飯奢ってやるよ。恩人だしな」

「なにー!? ユウキが奢りだと!? 明日は雪か、槍か、それとも地球最後の日かー!?」

「すごく失礼な事言ってるなお前」

 

オーバー、と言うか当麻の場合心の奥底からそう思ってるだろうな。

 

「せっかくとある高級役肉店の割引チケット手に入れたから行きたがってたお前をつれて行こうと思ったが、そこまで言うなら俺1人で行くさ」

「嘘です、前言撤回します! だから連れてってくだせぇ、ユウキ様ぁ!」

 

おぉ、見事な土下座スタイル。でも街中でやるなよ……

 

「分かった、分かったからその三文芝居を止めろ……でも、お前なら貧乏なお百姓役似合うだろうな」

「お前の方が失礼な事言ってるだろうが!」

 

当麻と軽口を叩きながら、俺は尼視への報告についてどうするか迷っていた。

さっきの学生を幻想支配で視た時、巨大なプールに落ちたような浮揚感と、何かに無理やり頭を引っ張られるような感覚。

今まで味わった事のない感覚に襲われた。

恐らくアイツは、幻想御手を使っていたのは間違いない。

明日、読心能力をコピーして面会に行くかな。

 

 

つづく

 




どうでもいい裏設定。
この小説に出てくる大妖精、リリーホワイトは胸が割とでかく、中学生くらいの見た目(笑)
と言うか、チルノも見た目はそこまで幼くない設定(笑)

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