幻想支配の幻想入り   作:カガヤ

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オリジナル能力って名前付けるのがすごく難しいです。


第22話 「都市伝説」

7月18日

 

第十九学区

 

再開発に失敗し、廃ビルなどが立ち並ぶ学区。ちゃんとした研究所もあり、それなりに有効活用はされているが人は少ない。

なので、スキルアウトなどが秘密基地を作ったり、不穏な取引現場にされたりと悪い意味でも有効活用はされている。

そんなそこらじゅうから不穏な気配が漂う、ビル群をバイクに乗って奔る。

 

「そろそろか」

 

デバイスが指し示す目的地に近付いてきたので、物陰にバイクを止める。

俺はバイクの免許を持っているので、遠出する時はこいつを使う。

と言っても、今乗っているのは買い物などで使う【私用】ではなく、今回見たいな物騒な時に使う【仕事用】。

見た目は普通のバイクだけど、光学迷彩やら小型ジェットバーナーによる超加速。

フロントやバックに機銃やミサイル、マキビシが内蔵されており、更に両サイドカバーにはナイフや拳銃が収納できる、まさに戦闘用バイクだ。

今着てるライダースーツも防弾性やら超加速に耐えうる設計された特注品。

これは、仕事の報酬で得た大金を使って作らせたもの。

幻想支配があるとはいえ、それは能力者が相手で初めて効果が発揮される。だから、俺自身の戦闘力を上げるにはこう言う武装をするしかない。

 

「ビル内の人数は……1階に6人、2階に10人、見張りは2人。か」

 

目を閉じ、耳を澄ませ、目的のビル付近の音を聞く。

今俺が幻想支配で使用している能力は【存在把握(ルームマップ)】、半径2キロ以内の音を聞き取り、脳内に立体地図を描ける大能力。

これによると、ビル内にいるのはスキルアウトと外部からの侵入者らしい。

厳重な警備をしていても、外部から侵入される事はよくある。

今回の侵入者の目的は、自分達が開発した新型麻薬の能力者への影響を調べる事。

その麻薬は通称【アッパー】と呼ばれている。

 

「アッパー……幻想御手と何か関係あるのか? まぁ、あいつらに吐かせればいいか」

 

バイクのサイドカバーを開き、中から拳銃とナイフを取り出しビルへと向かう。

 

「な、何だお前は!?」

「侵入者だ!」

「こういう荒事は久々なんでな、悪いがストレス解消させてもらう」

 

見張りの2人の眉間を撃ち抜きと、同時に発煙筒を投げ入れた。あっという間に煙が立ちこめ、視界が遮られる。

 

「ゲホゲホッ、み、見えねぇ!」

 

視界を塞がれパニックを起こした1人が、がむしゃらに拳銃を乱射した。

が俺には当たらず、仲間に当たったようだ。

 

「危ないなぁ、大人しく死んでろ」

 

まずは身近にいた1人の喉元を切り裂き、返す刃でそいつの胸を突き刺す。

 

「がはっ! な、なんで……てめぇには」

 

見える? と言う前に絶命した。こいつの疑問に答えるつもりはないが、答えは簡単。

発煙筒を投げ入れてから俺はずっと目を閉じている。

相手がどこにいるかは、存在把握を使えば簡単に分かるので、目が見えなくても問題はない。

1階に居るのは、金で雇われたスキルアウトのみ。

こいつらのリーダーと、本命の侵入者達は2階に集まっている。

騒ぎを聞きつけ、脱出をしようとしているが、もう遅い。

2階から外に出られる、出口はすでに塞いでいる。

 

「今回はハズレだなぁ」

 

面白い能力者でもいるかと、少しは期待したがここにいるのは全員レベル0。

流石の幻想支配でも、レベル0をコピーしても何も意味はない。

 

「つまらん仕事は、とっとと片付けるか」

 

脱出出来る場所を探して右往左往している、2階の連中の声を聞きながら俺は階段をゆっくりと上って行った。

 

 

 

その後数分でビルを制圧し、侵入者とスキルアウトのリーダーを拷問し終えて、尼視へと電話連絡をした。

 

『で、結局アッパーは、幻想御手と無関係のただの麻薬って事かい?』

「あぁ、最初に睨んだ通り、外で出回っているタイプより強力な奴を、学園都市の能力者相手に使うのが目的だったらしい。ま、能力者に出回る前に釣れたのがレベル0の不良共ばっかりなのは、奴らも誤算だったみたいだな」

『なんとまぁ、学園都市を実験場にしようって野望を企てる割には、随分とお粗末な事だ』

「全くだ。能力者用の麻薬の類は、こっちじゃもう結構あるってのにな。そのデータを餌に、釣りでもしてみるか?」

『そいつは面白そうだが、今のお前のオーダーは違うだろ? そっちの進展は?』

 

――都市伝説として広まりつつある幻想御手の実態を掴み、首謀者とサンプルを入手する事。また、幻想御手使用者に対して、幻想支配を使いどのような効果が出るか確認する事。

 

学舎の園での一件の後、尼視から出た新しいオーダーがこれだ。

 

幻想御手、名前のみならどこかで聞き覚えがある程度の認識だった。レベルを上げる事が出来る夢のようなアイテム、それが幻想御手。

尼視曰く、学生の間で少し前から話題となり、最近になってただの都市伝説ではなく、実在するものだと言う。

 

「全然だめだな。幻想御手の使用者の情報はそっちじゃ分からないのかよ」

『さーねー』

 

いつもこれだ。肝心の情報は明かさない。自分で調べろと言う。何かしら理由があるのか、それとも単に俺に探させたいだけか、両方だろうな。

 

「お前の情報なんかアテにするるだけ無駄だしな。こっちで適当に探すさ。今回の報酬、ちゃんと振り込んどけよ」

『まぁまぁ、そんなに拗ねるな拗ねるな。1つ面白い事を教えてやろう』

「……もったいぶってないで早く言え」

『最近、爆弾事件が相次いでるのは知っているな?』

「あぁ、虚空爆破事件だろ?」

 

虚空爆破事件。1週間ほど前から学園都市の各地で怒っている連続爆破事件。

使用されているのは、アルミを基点に重力子を加速させる事で爆弾へと変化させる能力とは分かっているが、それ以上の事は不明。

俺も昨日、爆破現場に行った事はあるが、レベル4クラスの威力があった。

 

『アレ、どうやらレベルに合わない能力者の仕業らしいんだよなぁ。該当するレベル4の能力者は全員アリバイ確認できたみたいだし』

「なるほど。そんな簡単に能力者特定されちゃうバカは、こんな事起こさないだろうけどな」

『と言うわけで、お前のお気に入りがいる110支部に行ってみたらどうだ? 色々聞けるかもよ、何でも屋さん?』

「110じゃなくて177だ、てめぇに110番してやろうか、コラ」

 

そこで一方的に電話を切り、バイクに跨る。

確かに、虚空爆破事件は不可解な点が多い。あまり風紀委員、と言うか美琴や黒子達に関わらない事件から追って行きたかったけど、仕方ないか。

 

「でもまずは、マンションに戻ってシャワーでも浴びるか。バイクも替えたいし」

 

侵入者の首謀格を除いた総勢19名を殺して返り血は浴びていないが、匂いは色々付いたからな。

 

 

 

「まさか……バイクが壊れるとは、マメにメンテナンスしてたんだけどな」

 

自室に戻り、着替えを済ませいざバイクで情報収集にと思った所で、普段私用で使っていたバイクが煙を吹いた。

もう1つの方ならともかく、こっちは変な運転やら無理はさせていないのにとぼやきながら、行きつけの修理屋まで運んで、歩いて177支部に向かう事にした。

 

「ん、涙子に美琴。こりゃまた珍しいコンビだな」

「ユウキさん、こんにちは」

「げっ、なんでアンタはまたこんな所にいるのよ」

 

その途中、公園の出店に並ぶ2人を見かけて声をかけた。

涙子はともかく、美琴なら何か知っている事があるかもしれないと思ったからだ。

そして、なぜか俺が涙子にドリンクを奢られる事になり、3人で公園のテーブルに座った。

 

「ユウキさん、この前は本当にありがとうございました!」

「いきなりなんだ? この前のって学舎の園の一件か? あれは介抱したの美琴で、俺は特に何もしてないぞ?」

 

あの後、黒子から詳しい経緯を聞いたが、最終的に解決したのだって美琴だったしな。

 

「佐天さんが言ってるのは、それの事じゃないわよ」

「そうです、これですよこれ」

 

そう言って涙子は前髪をかきあげ、おでこを見せつけてきた。

そこで俺はようやく涙子が何を言いたいのか理解できた。

 

「あー眉毛のインクちゃんと落ちたんだな」

「はい! もう一週間は落ちないと聞いた時はとんでもなく落ち込んだんですけど、ユウキさんが送ってくれた化粧品のおかげですぐに落ちたんですよ」

 

学舎の園で涙子は、視覚阻害を使った重福省帆によってマジックでぶっとい眉毛を描かれた。

しかも、そのマジックは一度塗られると1週間は落ちない特別製だった。

俺は、なんとなくそんな予感がしたので、マジックやインクを人体から落とす化粧品を涙子に送ったのだ。

 

「女の子があの眉毛で1週間ってのは、酷だと思ってな。俺の知っている研究所でその手の化粧品取り扱ってたからな、たまたまだ」

「本当にありがとうございました。ユウキさんは命の恩人です!」

「大げさな子だな、涙子は。でも、美琴もこれくらい素直だったなぁ」

 

チラリと意味ありげな視線を向けると、美琴はムッとした表情を浮かべドリンクを一飲みした。

 

「アンタ、そういう所細かいわよねぇ。それでいじわるな所がなきゃ、結構モテると思うのに」

「一言余計だ美琴。あの画像をばら撒くぞ」

「だから、いつまで持ってるのよアンタは!! いい加減に消しなさい!」

「あ、あはは。まぁまぁ御坂さん、あの画像結構可愛いじゃないですか」

 

涙子が苦笑しつつフォロー(?)したが、すぐに沈んだ表情を浮かべた。

 

「ホント、美坂さんもユウキさんもすごいですよね」

「涙子?」

 

いきなり何を言うのかと美琴と顔を見合わせる。涙子は何か思い悩んでいるのは分かるが、それに俺の名が出て来るのが分からない。

 

「初春も白井さんは風紀委員頑張ってて、御坂さんはレベル5ですごいし。ユウキさんも何でも屋として色々顔利いてて活躍もしてて、私はなー……って思っちゃって」

「うーん、同い年の黒子や歳近い美琴は分かるが、俺を比較対象にするのは色々間違ってるぞ?」

 

と言うか俺自身涙子が思うほど、すごい人間ではない。悪い意味ではすごいけど。

ついさっきも19人ヤっちゃったんだZE☆ とか言ったらどんな反応するだろうな……言わないけど。

 

「そうよ、コイツは特別なの、バカだけど、器用貧乏と言うか、ドSだし、いじわるだし」

 

美琴が何か言っているが、涙子に何を言いたいのか分からない。

 

「美琴、とりあえず、あの画像。みさきちに送ったから♪」

「なんですってー!? よりにもよってなんでアイツに送るのよー!?」

 

あまりにヒドイ言われようなので、ついあの画像を送信してしまったが、俺は悪くない。

 

「あ、送り先間違えた……当麻に送っちゃった」

「ぎゃーー!? もっとダメじゃない!!」

 

美琴はムンクの叫びのような面白い絶叫から一転、顔面蒼白で絶望感丸出しになった。

うん、こういう反応してくれるからコイツはからかい甲斐がある。

 

「み、御坂さん。女の子が発しちゃいけない叫びあげてますって!」

「まぁこういう風に涙子が憧れ抱いているレベル5だって、実際はこんな事するバカな女の子だぞ?」

「ば、ばかは余計でしょ、バカは! っていい加減あの画像消しなさいよー!」

 

飛びかかってきた美琴を片手で止める。構わずブンブン腕を振ってくるが、こいつの腕の長さじゃ当たらない。

 

「ぷっ、ははっ、あはははは!」

「涙子?」「佐天さん?」

 

突然笑いだした涙子に俺と美琴はポカーンとした。

 

「ご、ごめんなさい。なんだか2人が仲のいい兄妹に見えて、それが何だかおかしくって」

「きょう、だい?」

 

俺と美琴が? 美琴が、妹?

 

「うーん、何だろ。寒気がして鳥肌立ってきた」

「って何失礼な事言ってるのよ、こっちだってあんたみたいなのが兄貴だなんてゴメンよ!」

「だよなー。美琴が妹だと、掃除ロボや自動販売機やら発電所の損害賠償請求が沢山きそうだもんなー」

「ちょっと、それどういう意味よ!」

「言葉通りだ」

 

心当たりが沢山ある美琴はシラーっと冷や汗を流しながらも、文句を言ってくる。

それを見て涙子が更に爆笑。周りの学生達は何事かとこっちを見て来るが、俺達がその視線に気付くのには少しかかった。

 

 

 

「ところで、ユウキさんは幻想卸手って聞いた事ありますか?」

 

いい加減、虚空爆破事件の事を切りだそうとした時、涙子から意外な事を聞かれた。

 

「名前のみならな。確か使えばレベルが上がるっていう都市伝説だろ?」

「そうです! ユウキさんもそういうの興味あるんですか!?」

「いや、まぁ話に聞いた程度だけどな」

 

美琴はこういう都市伝説には興味がないと言う顔をしているが、俺にはそういう趣味があると思ったのか涙子はさらに身を乗り出してきた。

 

「同じ都市伝説の【脱ぎ女】がいたんですから、幻想御手もきっと……あ!」

 

脱ぎ女って何だよ……ただの露出狂の痴女じゃん。

 

「そう言えば、ユウキさんに聞こうと思ってた事あるんです。ユウキさんって……【能力をコピー出来る】っていう都市伝説の人なんですよね!?」

「へっ?」

 

藪から棒とはまさにこの事。いきなり俺が都市伝説の人と言われてしまった。

しかも、能力をコピー出来るって、確かに幻想支配の事なんだろうが、俺がそれだってなんで涙子が知っているんだ?

と、ここで美琴がアチャーという表情を浮かべ、こちらをちらちらと見てきた。

 

「美琴、お前か」

「いや、そのこの前都市伝説の話をしてて、その中であんたの事っぽい記事見つけて、それで……つい、あんたの名前出したのよ。黒子や初春さんはわざと触れなかったんだけどね」

 

なるほど、幻想支配の事はそこまで秘密にしている事じゃない。

けどあまり人に広まりたくないから、よく知っている黒子や飾利、美偉先輩には言わないでくれとは言ってはいた。

 

「まぁ、いいさ。いずれ分かる事だし。俺も結構目立つ使い方しちゃってるから、今更だしな」

 

主に暗部系の仕事で使いまくっている。幻想支配は便利に見えて、不便なところも多いから知られると厄介な時もある。

 

「あーえっと、そのやっぱりいいです。なんだか、聞いちゃまずい事みたいですし」

 

涙子はどうやら、俺から幻想支配の事を詳しく聞きたがっていたみたいだ。

都市伝説や噂話が好きななのはこの年頃の女の子なら当たり前、か。

 

「別に構わないさ。美琴や黒子達には教えて、涙子には秘密にする理由ないしな。えっと、美琴、お前の力使うぞ」

「しょうがないわね。使用料高いわよ?」

「ふんっ、後でクレープでも奢ってやるよ」

 

軽口を言いながら、美琴を見つめる。実際に見るのは体のどこでもいい。【御坂美琴】と言う存在を視れればいいのだから。

 

「あ、ユウキさんの目が……青くなった?」

「俺の能力は、幻想支配。これを使うと視た相手の能力を自分のものに出来るんだ。で、使用中は目が青くなっちゃうから、相手に使ってる事がばれやすいのが欠点の1つかな」

 

美琴の能力を発現し、俺が飲みほしたアルミ缶を空に投げ、それを磁力で操作し近くのゴミ箱へと放り投げた。

 

「とまぁ、こんなものかな。黒子や飾利がいれば2人の能力も使う所見せれるけど、今は美琴ののみだ」

「相変わらずわけの分からない能力よね。これでレベル0なんだから」

「れ、レベル0なんですか!? そう言えばこの前もそう言ってましたよね。レベル5の御坂さんの能力も使えるのに!?」

 

俺が美琴の電撃を使った事にも驚いたが、それ以上に俺がレベル0だと言う事を思い出し尚の事驚いた。

 

「俺の能力はメカニズムと言うか、仕組みや理論がさっぱり分からないって事でレベル0扱いなんだよ」

「そうよね。私の能力使っている間も、私が目の前にいるような奇妙な感覚するし。アンタ一回解剖してもらった方がいいんじゃない?」

「物騒な事言うなよ美琴。何回かされかけたんだから」

「さ、されかけたの!?」

「す、すごいですね。ユウキさん」

「それは流石に冗談だ」

「あ、そうですよね、あははは……」

 

今さらだが、涙子には俺の能力を黙っていた方が良かったかもしれないな。

涙子は自分がレベル0だと言う事にコンプレックスを抱いている。

で、目の前にレベル0でも能力を持っている人間がいる。

それが、劣等感に繋がるんじゃないかと、少し気になったが、当の本人はなぜかやる気が満ちてきたようだ。

 

「よーっし、脱ぎ女もいて、能力をコピーする人もいるなら、きっと幻想御手だって存在しますよね!?」

「あ、あると良いわね。ねぇ、ユウキ?」

「あぁ……そうだな」

 

こうも前向きだとは思わなかった。でも、これで涙子が幻想御手に更に興味を持てば、色々情報を手に入れて来るかもな。

案外、裏の人間である俺よりこういう子の方が早く真相にたどり着く事もある。

けれども、この幻想御手、どうにも暗部と言うか学園都市の【闇】の気配するから、美琴や涙子みたいな表の人間は関わらない方がいい気がするな。

 

 

つづく

 




インデックスさんの出番はまだまだ先、その前にウニ頭の彼が出番ありますー次回!

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