幻想支配の幻想入り   作:カガヤ

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そろそろ本編に深く関わってきまーす。


第21話 「視覚阻害」

学舎の園

 

「結局、なんで俺が呼ばれたのかは不明、か」

 

運んでいた荷物を狙って、暗部や外部からの侵入者が狙ってくる。なんて事はなく、涙子達と別れ待ち合わせ場所に時間通りに付き、無事に荷物を引き渡した。

引き渡した相手も普通の研究員兼教員であり、特に怪しい点もなし。

本当にただの運び屋仕事を、わざわざ男の俺に頼んだ理由は、信頼性の高い人物に依頼したかった。というもの。

荷物の内容については、元から興味なかったので聞かなかった。

ここまであっさりと短時間で終わる運び仕事も珍しい。

 

「ま、報酬もちゃんともらったし。せっかくここまで来たんだ、店が閉まる前に何か食べて帰るか」

 

こんな事でもなきゃ学舎の園には来れない、何か美味しいものでも食べようかと考えていると携帯がなった。

かけてきた相手は……木原尼視。電話に出たくない相手ぶっちぎりの第一位だが、出ないと後がうるさいから仕方なく出る。

 

『はろはろ~♪ ユウちゃん元気?』

 

無言で切る。再度着信。

 

『ちょっと、無言で切る事はないでしょ!』

「ものすごくキモかったから。聞くと頭やられそうになったから。自己防衛と言うやつだ。んで、何の用だ?」

『こ、このガキはいつもいつも……あんた今学舎の園にいるんだろ? 仕事はもう終わったかい?』

 

さっきまでのアイドル声から、男っぽい声に変わる。

木原尼視、木原の中でも異端であり嫌われ者の部類に入る。

こんなババアだが、赤ん坊の俺を気まぐれで拾い育ててくれた恩義は一応ある、一応。

で、そのせいで色々な面倒事や厄介事をさせられるわけだが、しっかり報酬は過剰要求もするから、どっちもどっちだ。とは木原数多の言葉。

 

「あぁ、わけわからん仕事だったよ。わざわざこんな所に面倒な手続きふんで俺を入れた……お前の意図は?」

『流石に気付いたか』

「こんなくだらない事に俺を指名するのは、お前くらいだからな。今度は俺に何させようっていうんだ?」

『何、簡単な事だよ……学舎の園内にあるとあるケーキ屋でケーキ一式を買ってきて欲しいな☆って、店名と場所はメールしたから、依頼料は……』

 

無言で切るパート2。今度は着信拒否+迷惑着信撃退用ノイズ発生機能オン。

きっと尼視は今頃、耳に残る痛烈なノイズに襲われているであろうが、いい気味だ。

 

「ふざけんなっての、自分で買いに来ればいいだろうに、この引き篭もりめ」

 

こんなふざけた事の為に今回の依頼を俺に回すとは……アイツならやるな。

依頼を果たす気は全くないが、せっかくだしアイツが気にいっているというケーキ屋でも行ってみる事にする。

実は俺は、結構甘いものやケーキが好きだ。幻想支配を使うとすぐにお腹すくからカロリー摂取と言う目的もあるが、幼い頃から尼視にケーキをたくさん食べさせられたせい……にしておこう。

 

「地図だと確かこの辺りだな……お、あれか」

 

携帯を見ながら目的の店を探していると、それらしい店を見つけた。

と、その時店のドアが開き、2人の学生が飛び出して行くのが見えた。

 

「行きますわよ、初春」

「はい~」

「あれは、黒子に飾利? あんなに急いでいるって事は風紀委員の呼び出しか。ま、俺には関係ないか」

 

特に気にも止めず中に入ると、美琴と涙子もいた。

 

「げっ、あんたは!」

「よぉ、また会ったな涙子」

 

美琴がこっちを見て嫌な顔をしたが、それには触れず涙子に目を向ける。

彼女はなぜか常盤台中学の制服を着ていたが、泥でも撥ねて制服汚したから黒子から借りたって所かな?

 

「あっユウキさん! さっきぶりでーす。仕事はもう終わったんですか?」

「さっきな。それで有名なケーキ屋があると聞いて、ちょっと食べて行こうと思って。常盤台中学の制服もなかなか似合ってるな」

「あれ? ちょっと!」

「えへへ、ありがとうございます! ちょっと汚しちゃって白井さんから借りたんです。で、ユウキさん意外と甘党なんですね?」

「ケーキ好きに性別も年齢も関係なし! ってな」

「ねぇってば!」

「ですよねー。良ければ一緒に食べますか? 初春達行っちゃって」

「さっきそこで見かけた。風紀委員も大変だよな~」

「いい加減気付けやぁ!!」

 

涙子と2人で話していると、美琴が今にも放電しそうな勢いで割り込んできた。

危ないなぁ。店に損害出す気かよ。

 

「なんだよ、ビリビリ。涙子と話してるんだから邪魔するなよ」

「あいつみたいにビリビリ言うな! ってそれより私を無視するんじゃないわよ!」

 

美琴の言うあいつとは、上条当麻の事。当麻が美琴をビリビリ呼ばわりしているのを聞いて、俺も真似をしたのだ。

 

「無視してるわけじゃないぞ? お前に関わりたくないから敢て視界に入れてないだけだ、ウルウル」

「もっとタチ悪いじゃないのよ! しかも、ウルウルって何よウルウルって!」

「ウルウル?」

「涙子は知らないか。ちょうどいい機会だから見せてやるよ。これが美琴の……」

 

携帯を取り出し、いつぞやの美琴ウルウル写真を見せようとすると美琴が顔を真っ赤にして慌てて飛び付いてきた。

 

「ちょ、ちょっと! ウルウルってあの時の事まだ言ってるの!? しかも、それあの時の写真、あんた消したって言ったじゃない!」

「あぁ消したぞ? あの時携帯 【から】 はな」

 

これは個人サーバーに保管していた写真を、あの後また携帯に移した写真だ。

 

「な、なな何してんのよ! 私はちゃんと約束守ってるじゃない、あんたも消しなさいよ! 出ないとまた勝負ふっかけるわよ!」

「あの時携帯からすぐに消す。それが条件だろ? 携帯以外の写真も消すとなると、また別の条件出さなきゃ乗るわけにはいかないなー」

「ぬぐぐぐ、あんた年下相手にそんな詭弁振りまいて恥かしくないの!?」

「そうだなー大人げなかったなー。年下のチビガキ相手に、ゲコ太グッズにのめり込むお子様相手に大人げなかったなー」

「ひ、人の趣味は関係ないでしょ! それにゲコ太は悪くないじゃない!」

 

学舎の園で1,2を争うその上品なケーキ店でなんとも低レベルな口論を繰り広げる俺ら。

片やレベル5の美琴。片やゲスト扱いとは言え男である俺。

周囲の目を引くのは当たり前で、そんな周りの視線にただの中学1年生である佐天涙子が耐えれるはずもなく……。

 

「あ、あの私ちょっとお手洗いに行ってきますね。もう私の分は頼んだので……」

「「……行ってらっしゃい」」

 

ものすごくドン引きした笑顔を浮かべ、この場を去る涙子を見て流石に周囲の視線に気付き、気まずい空気を浮かべつつさっさとケーキと紅茶を買い席へと移動する俺達。

 

「「………」」

 

お互い無言のまま、涙子を待つ事十数分。

 

「……遅いわね佐天さん。紅茶冷めちゃうよ」

 

周りの学生客がちらほらとこっちに好奇の視線を向けて来る中、美琴が耐えきれないかのようにぽつりと呟くように言った。

俺もチラリと涙子が向かったトイレの方を向けると、少しだけ何か異変を感じた。

血の匂いがする。とか、殺気を感じるのとは違う。言葉に言い表せない俺の第六感を刺激するこの感じは……

 

「美琴、様子見てきてくれないか?」

「私が!? ってあんたじゃ無理だものね。ちょっと見て来るから、先に食べたりしないでよ」

「あぁ、食べるとしても美琴の分だけだから安心しろ」

「安心できるかぁ!」

 

怒りながらトレイに向かう美琴を見ながら、ふと自然と口元がゆるむ。

全く、当麻と言い美琴と言い、からかい甲斐のある奴らだ。

それにしても……

 

「やっぱり、こういう店でこういう状況に男1人ってのは物凄く浮くなぁ」

 

一応外からは見えない席に座っているから、まだいいけど。

 

「……ん?」

 

ふと店の入り口に目を向けると、何か違和感を感じた。

食べ終えた学生2人がちょうど店から出て行く所だったが、何か気配がおかしい。

幻想支配で視てみるか、と思ったその時だった。

 

「ちょ、佐天さん!」

 

トイレの方から美琴の緊迫した声が聞こえ、急いでそっちに向かう。

ドアが開いていたが、その向こうに涙子が倒れているのが見えたので構わず入る。

 

「美琴、涙子がどうした!?」

「佐天さんが、私が来た時には……もう、こうなってて」

「っ!? こ、これは……」

 

むごい。俺が見てもそう思える程の惨状だった。

 

 

それから涙子に外傷がない事を確認して、黒子に連絡を取り学舎の園内部にある風紀委員室に運んだ。

念の為医者に診てもらったがやはり大したことはなく、スタンガンなどで気絶させられ、それから……

 

「常盤台狩り?」

「えぇ、先程の呼び出しの件もまさにそれでしたわ」

「涙子は常盤台の制服を着てたから、1人になった所を狙われた。つまり、少なくとも美琴達に合流するまで犯人は涙子を見ていないと言う事か」

 

有名お嬢様学校である常盤台は、狙われる事はたまに起きる。

レベル3以上しか在籍出来ないせいで、一部低レベル能力者の女子から逆恨みとも言える八つ当たりもある。

それでも暴力沙汰になる事はない。今回こんな事が起きたのは珍しい。

 

「犯人の目星は付いているの?」

「それが少々厄介な能力者のようでして……」

「目に見えない能力だろ、それ」

「えっ? ユウキさんどうしてそれを?」

「まだ何も言っておりませんのに、もう分かったのですの?」

 

黒子と初春が驚いた声をあげるが、別に推理と言う程じゃない。

 

「俺の座ってた席からトイレに向かう通路は見えたからな。涙子が入ってからは誰も出入りしていない。客席からトイレに向かう通路にドアはなかったし。それにレベル3以上の常盤台中学の学生が、何も知らぬ間に白昼堂々襲われた。透明人間、もしくはそれに類似する能力者って事だろ」

「す、すごいです。大当りです!」

 

それにあの時入口で感じた違和感。恐らく、あの時犯人は客に紛れて店から出ていたんだ。

幻想支配で見れば、犯人もすぐに分かって無効化しつつ確保も出来たかもしれない。

けれども俺の幻想支配は、発動すれば目の色が変わるから安易に使えない。

それでも使うべきだったか……これは、俺の失敗だ。

 

「で、監視カメラには? もちろん映ってなかったんだろうけど、何か手掛かりくらいは」

「映ってます。監視カメラには被害者の横を歩く人がはっきりと、映ってたんです。ですけど、被害者の皆さんは1人でいる時に襲われたとしか言っていなくて」

 

初春の言う通り、襲われた時の監視カメラの映像を見せてもらったが、被害者の横を歩く女子学生の姿が映っていた。

どうやら犯人はこの女子学生のようだ。

ん? 監視カメラにははっきり映っているのなら、犯人は光学系の能力者じゃないな。と言う事は。

 

「被害者には見えていなかったって事ね。あ、もしかして」

「美琴も気付いたか、この能力恐らくは五感操作系の能力者だ」

 

五感操作、相手の五感を操り苦いものをマズイ、白い物を赤い、などと思わせる能力者。

今回の場合は視覚の認識をずらしているのだろうな。

となると、確か該当者は1人のはず。

 

「ありました。能力名は視覚阻害(ダミーチェック)。登録されている能力者は1人、関所中学校の二年、重福省帆」

「そいつに違いありませんわ!」

 

パソコンに映し出されたの少女は、前髪を伸ばした団子頭の地味な印象を受ける。

黒子が息まいて犯人と断定するが、俺も彼女だと思うがけどこの子は確か……

 

「この子確かレベルは2だろ。姿を完全に見えなくする程のレベルじゃなかったはず」

「そうですね。実験データでもそうなっています」

「そっか、いい線言ってると思ったんだけどなぁ」

 

初春の言葉に美琴は軽く肩を落とす。

 

「いや、案外この子かもしれないぞ? 身体検査の時よりも調子がよくなって……って事もないわけじゃないし」

「まぁ、確かに体調やらで実験結果が左右される事はあるけど……」

 

レベルが上がるほどの急上昇は、ほとんど有り得ない事だけど。

 

「それって何でも屋としての 【勘】 ですの?」

「って勘かい!」

「あぁ、そうだ。バカにするなよ美琴に黒子、こう言う時の俺の勘は良く当たるんだぞ?」

 

確かに俺の勘がそう言っているのもあるけど、本当は学舎の園で涙子達と会話した後でチラリとスタンガンらしきものを持った彼女の姿を見かけたから……なんて、言えるわけではないので、勘と言う事にしておく。

 

「まぁ、ユウキさんのそういう勘は確かに当たりますわね」

「ですね」

 

黒子と初春は彼女達が新人の頃からの知り合いなので、よく知っている。

 

「多分、涙子は姿をはっきりと見てると思うぞ。視覚阻害は直接見なければ意味がないから、あの洗面台の大きな鏡にだと姿がはっきり映っていたはず、ともかく彼女が目が覚めたら聞いてみるといい」

 

と、言いながら時計をチラ見して鞄に手をかける。

 

「あれ、もう帰っちゃうの? 珍しいわね。あんたなら最後まで関わると思っていたのに」

「そうしたい所だけど、俺はもう制限時間なんでな。これ以上ここにはいられないんだよ。この件は依頼もされてないし、特に危険な事はなさそうだから、お前らだけで大丈夫だろ」

 

招待された涙子や初春はともかく、仕事できている俺には学舎の園には滞在時間の制限がある。

今回の件は、俺の失敗もあるし、視覚阻害の異様な効果にも興味があるが、流石に依頼も受けていないのにこれ以上の滞在は出来ない。

なので、仕方ないが、美琴達に任せる事にした。

 

「それじゃ、後で電話するから話聞かせてくれよ。それと涙子に伝言、眉の件、そんなに悲観するな後で良い物送る。ってな」

「はぁ分かりましたの……色々御助言感謝いたしますわ」

「これを悲観するなと? ま、まぁ伝えておくわ。後は任せなさい」

「ユウキさん、お疲れ様でした」

 

目にタオルが置かされ、寝たままの涙子を見ながら怪訝が表情をした黒子達だったが、構わず俺はその場を後にした。

 

 

「……やっぱり、あの子気になるな。無理言って滞在時間延長すべきだったかな」

 

学舎の園を時間内に出て、ふと振り返る。

レベル2の視覚阻害、けど状況を考えると明らかにレベル3や4クラスの能力だった。

幻想支配で重福省帆と言う子を見れば、はっきりと分かるだろうが……

 

「っと、電話だ。美琴か? って……誰だ?」

 

見慣れない番号からの電話に嫌な予感がして、出て見るとその予感は的中した。

相手は尼視だ。

 

『色々と言いたい事はあるが、まずは素敵な子守歌(ノイズ)ありがとう』

「いや、何、耳掃除の手間省けたろ? 俺特性だからな」

『今度覚えておきなさい……まぁ、いい。仕事だ』

 

尼視の声色が変わる。と言う事は結構大事になりそうな仕事だな。

 

「へぇ、久々にまともな仕事なんだろうな?」

『どういう意味のまともと言っているのか知らんが、一つ聞くぞ?』

 

 

『幻想御手(レベルアッパー) と言う言葉に聞き覚えはないか?』

 

 

つづく

 




重福省帆って髪をどうにかすればあの眉毛もよく見えるのでは?
とアニメ見て思いました。

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