幻想支配の幻想入り   作:カガヤ

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今回からしばらく過去編その①ですが、注意点をいくつか。

1.ユウキ視点のみなので、原作での事件にユウキが関わっていない事件は飛びます。

2.ユウキが関わっていた原作での出来事でもダイジェストや省略して描写する事があります。



過去編Ⅰ
第19話 「表と裏」


7月に入り、校内では徐々に近付く夏休みの話がちらほら聞こえ出した朝の事。

 

「おはよう、遅い!」

 

それが教室に入ろうとすると、巨乳委員長こと吹寄制理が飛び出してきた。

 

「おはよう、制理。んで、遅いってまだベル鳴ってないだろ?」

「……あれ、どうにかして」

 

心底ウンザリした顔で制理が指さした方を見ると、教室の一角が騒がしい。

 

「だから、ウサミミ+バニーはもう古臭いんだって。ネコミミ+ナースの癒し効果を見よ!」

「何をカミやん! ならこっちは犬耳+巫女で勝負や!」

「2人共わかってないぜい。ウサミミメイドにネコミミメイド、メイドがあるからこその獣耳だにゃー」

「「それただ義妹に着けたいだろ!」」

 

上条当麻、青髪ピアス、土御門元春の3バカ、デルタフォースが何やら無駄に熱く議論を繰り広げていた。

関わりたくない話題を振りまいているが、クラスの男子はともかく女子ですらドン引きせず、むしろまた始まったか。という顔をしている。

 

「……今回はまたどうしてああなった?」

 

正直、関わりたくなかった。が、これをスルーすると俺にまで飛び火するのは目に見えている。

最近俺を含めて、バカルテット。などと影で言われ始めているくらいだ。

 

「最初は、料理の話をしていたわね」

「なるほど」

「で、心霊特集の話になって」

「ん?」

「コスプレと獣耳の関係についての話になったわ」

「……日本語で言ってくれ」

 

話に繋がりがなさすぎる。どこをどうやったら料理の話から心霊特集に繋がるんだ?

 

「わ、私に言うなぁ! 全部が全部耳に入ったわけじゃないんだし。とにかく……」

「「「吹寄、この獣耳つけてみてくれー!」」」

 

何を血迷ったか、思い思いの付け耳を手にしたデルタフォースが吹寄に飛び掛かった。

普通なら逃げるなり、悲鳴あげるなり固まるなりしそうだが、この委員長は即座に反応。

 

「ふんっ!」

「ごわっ!?」

「めぎっ!?」

「がっ!?」

 

両手を使った正拳と頭突き、という見事なコンボで3バカを撃沈した。

 

「俺に頼まずに最初からこうしとけよ……」

「……次からはそうするわ」

 

と、そこへ【歩く学園都市七不思議】【生きる都市伝説】とも言われている。か、どうかは定かではない身長135センチの女教師月詠小萌がやってきた。

 

「はいはーい、皆さんおはようございます。今日も元気、に……ってなんで上条ちゃん達が洗濯物みたいに干されてるんですか―!?」

 

当麻達3人が窓から半身を出して伸びている惨状にうろたえる小萌先生に、俺と制理は冷静な声で

 

「「脳の洗濯です!」」

「脳の洗浄はちゃんとした設備でやるのであって、こんな所でやる意味が……そうじゃなくてですね!」

 

微妙にズレたツッコミをする先生だったが、当麻達が頭を抑えながらそそくさと席に戻ったので溜息をつきながら教壇にのぼった。

これでまた学園生活の一日が始まった。

 

 

 

今日は珍しく、朝以外では特に騒動もなく無事に放課後となった。

眼下では学生達はバイトに向かうなり、どっかに遊びに行くなりといった健全な放課後ライフを満喫する為に学校を後にしていく。

それを俺は屋上から無表情で見下ろしたまま、ぽつりと呟いた。

 

「……何の用だ元春?」

「流石はユウキ。完璧に気配は消してたつもりなんだがにゃー」

 

後ろのドアが開き、土御門元春が入ってきた。

 

「わざわざ気配を消しても、裏の空気出してたら俺が気付かないわけないだろ」

「だから流石、と言ったんだぜ」

 

土御門元春。こいつは俺と同い年の学生だが、学園都市の人間と言うわけではない。

学園都市外部の組織からスパイとして潜入してきたが、あっさりと露見し学園都市の逆スパイにされた人間。

それでも堂々と学生生活送りながら、学園都市の暗部としても、学園都市外部のスパイとしても十二分に動いている器用な奴。

能力はレベル0の肉体再生。俺には使い道あまりないから、幻想支配で視た事はない。それ以外にも色々の裏技を持っていて、仕事で組んだ時はその器用さを見せられた。

ま、それは俺も同じだけどな。

 

「今日は仕事入っていないだろ。何の用だ?」

「べっつに~、舞夏の手料理が堪能できる時間までまだあるから、時間潰そうと思ってブラブラしてただけですたい。そう言うユウキは何を見てたんだ?」

「俺こそ別に……なぁ、元春は今の自分の立ち位置に違和感感じたり、もどかしく感じた事はないか?」

「裏切り者の殺害やら暗殺やら、血生臭い事しつつカミやん達と学生生活を満喫している事を言っているのか? ま、確かにユウキは数か月前までは考えられなかっただろうにゃー。でも、それでもちゃんと両立出来てるんだから、ユウキはすごいって事ぜよ」

 

話をはぐらかされた気はするが、それなりに核心を付いた助言な気もする。

その時だった、2人の携帯にそれぞれメールが入った。しかもそれは当麻達からのメールではなく……

 

「どうやら、楽しい楽しい表の時間は一時停止みたいだな」

「にゃー……さっさと終わらせて、舞夏の手料理を堪能しますか」

 

こいつの唯一にして絶対の短所は、重度のシスコンって事だろうな。舞夏は義妹だけど。

俺に届いたメールの内容は仕事の依頼だった。

 

――オーダー:複数のスキルアウトがおよそ2時間後に集会を行う。参加者はそれぞれ武装しており、集会の目的を探れ。

状況によっては集会参加者全員の排除も有。

 

これが、俺の仕事。様々な人からの依頼を受けどんな仕事もこなす。

依頼主は芹亜先輩と言った統括理事会絡みだったり、健全な研究機関から実験の手伝いだったりと表も裏も綺麗も汚いも様々だ。

報酬も様々で、金だったり新型の軍事用装備だったり、武器だったりする。

昨日も、とある依頼をこなして新型の武器をいくつか頂いた。

で、今回の依頼主は、木原尼視。俺が一番依頼を受けたくない相手、と言うか関わり合いたくない相手。

しかし、あのババアにしては中途半端な情報だな。だからこそ、俺1人じゃなく元春にも似たような仕事が来たって事か。

 

「はぁ、つまらなさそうな依頼にくそな依頼主か」

「あっはっはっは、それもまた俺ららしいぜい」

 

そう言って、俺と元春は時間までの間にそれぞれの準備をする為に別れた。

まずは部屋に戻って、アレを取ってくるか。

 

 

そして、準備を終えて途中野暮用を済ませ、情報のあった集会場に向かっている途中に追加のオーダーが入った。

 

――追加オーダー:スキルアウト達は、とある競売に参加する模様。競売リストの一部には試作用の駆動鎧もあり、将来的な危険性もある為。バイヤーの確保と、仲介人情報および競売リストを入手せよ。尚、参加者の処理は現場委任。

 

駆動鎧ねぇ。学園都市の駆動鎧は用途も性能もバラバラだが、どれもこれもスキルアウトに渡れば面白くない事が起きるのは目に見えている。

が、セキュリティーが厳重なはずの駆動鎧が、そう簡単にスキルアウトの競売にかけられる事はない。

技術者が単に裏切ったか、それとも最初から外部に持ち出すつもりで技術部に潜入した産業スパイが裏にいるか。

そこら辺を探るのは元春の役目らしい。とにかく、駆動鎧以外にも危険なブツがごろごろ競売にかけられるなら、ほっとくわけにもいかないか。

多分、駆動鎧もダミー。本当の目玉商品は他にありそうだ。

そんな見るからに高額商品を買える資金源やら、芋づる式で沢山情報が得られそうだし。

 

「ん? まだ追加オーダーか?」

 

――追加オーダーⅡ:昨日手に入れた玩具を使う機会出てきたら、ぜひぜひその破壊力をレポートして欲しいンだゾ☆

 

あのクソババア。文面だけで俺にここまで鳥肌やら寒気やら嫌悪感抱かせるとは流石だな。

 

「アラフォーのババアが心理掌握の真似しても痛々しすぎて、可哀相としか思えないからやめとけ。っと、ついでにさっきのメールを数多達にも転送。うん、これでよし」

 

要は昨日手に入れた武器、新型の演算銃器(スマートウェポン)の性能実験もしろ。と言う事。

わざと大げさに競売会場で騒ぎを起こして、バイヤーかスキルアウトの誰かが商品の駆動鎧を駆動させれば、演算銃器の性能を試す絶好の機会になる。

 

「……めんどくせぇ。とっとと参加者ごと皆殺しにした方が早く終わるってのに」

 

上着から歪な形をした拳銃を2丁取り出す。

演算銃器は、赤外線で標的の硬度や大きさなどを測定し、即座に似合った弾頭を精製する大型拳銃。

これはその新型でより精密な弾頭設定が出来、尚且つ従来のものより小型化したもの。

おかげで、2丁拳銃として携帯出来るが、肝心の性能はまだ実験不足らしい。

 

「で、あそこが競売会場。一応警備ロボ対策のバリケードやら、監視衛星対策もしているか。こんなの奥で何かよからぬことしてまーっす。と宣伝しているようなものなのに。まだ時間じゃないけど、人は結構集まってるな」

 

競売会場となる路地裏の空き地から少し離れたビルの影に隠れ、現場の様子を窺う。

来る途中で高レベルな透視能力を幻想支配でコピーしてきたから、わざわざ現場に近づかなくてもいい。

ん? わらわらと集まってきたスキルアウトの中に、見覚えのある奴がいるな。

確かアイツは、利徳んとこの奴だな。アイツらは危ない橋は渡るが、こういう危ないブツには手を出さないはずだったが、これは使えるかも。

そのうち、バイヤーらしき人物が偽装トラックと共に現れ、ついに競売が始まったようだ。

 

「じゃ、楽しいパーティーの始まり始まり……っと、んん~?」

 

右手にスマートウェポン、左手に特注コンバットナイフという裏での基本スタイルで踏みこもうとした時だった。

メイド服を着た少女と学生服の少年が、6人ほどのスキルアウトを引き連れてこっちに向かって来た。

あれれ~? 学生服の少年、見覚えがありまくりなウニ頭をしているのは幻覚かなぁ~?

 

 

 

『お前らしくもないな。オーダーをキャンセルだなんて』

「新型武器の性能実験、なんて優先順位が激低オーダーだがら、問題ない。それにバイヤーは確保したし、競売リストも仲介人の情報もお前に渡しただろ。オーダーコンプリート、後はお前の仕事だ、元春」

『それは確かに受け取った。で、今回は誰も殺さず素手で気絶させただけ、しかも、一部の人間は逃がしている。ってのはさっきの屋上での一幕が原因か?』

 

電話口で元春の声色が変わった。標的に手心を加えたのは、裏の仕事に嫌気刺したのか、と言うニュアンスだ。

 

「いんや、逃がしたのは2人。とある連中に貸しを作る為だ」

『あっはっはっ、お前さんに貸しを押しつけられる連中が、心の底からお気の毒だにゃー』

「そして、駆動鎧を起動させなかったのも、誰も殺さなかったのも、とあるウニの不幸少年が乱入してきたからだ」

『カミやんか、そりゃあいつの前で血生臭い事は出来ないよなぁ。で、いつのようにカミやんの側には誰かしら女の子がいたんだろ?』

「 【俺やお前が見覚えのあるメイド服を着た子】 がいたな。大方、あの子を助ける為に一緒に逃げてここに来たって所だな。だからこそ、血生臭い事も出来ず、大事になる前に素早く制圧する必要があったわけだが? あ、当麻は少しボロボロだけど、その子は傷一つ付いてないからさっき帰らせたぞ?」

『……すまない。【舞夏】を助けてくれて、心から感謝する。俺もお前に借りが出来たな』

「それは当麻に言え。今回の件は当麻に貸しつけてるから、気にする事な。とっととお前も仕事終わらせろよ」

『分かった』

 

と、ここで元春からの電話は切れた。

 

「ん~、別に俺、舞夏と同じメイド服着た子って意味で言ったわけで、助けた子が舞夏とは一言も言ってなんだけどな。勝手に勘違いするとは、このシスコン軍曹め」

 

ニヤリ、と物凄く悪そうな笑みを浮かべつつ、とある不良へ電話をかける。

 

「あーヅラか? ユウキだが、利徳も一緒か? 電話繋がらないからお前にかけたんだけど」

『何度も言うが、俺はヅラじゃねぇ、浜面だ! 大体なんで他の人はほぼ全員名前で呼ぶのに、俺だけ名字で呼ぶんだよお前は!』

 

俺は相手がだれであろうと、名字ではなく名前で呼ぶ癖がある。なぜかとよく聞かれるけど、俺も分からない。

ただ、相手が名前で呼ばれるのを嫌がれば名字で呼ぶが、大抵は名前で良いと言ってくれる。

 

「そりゃお前が、俺は仕上じゃないヅラだ! って顔してるからだろ」

『どんな顔だそれは! あぁ、もう駒場さん、ユウキから電話……って今まで携帯の電池切れてるの忘れてた? きっと船来が何度も電話をかけてくれてるだろうから、早く充電機探してくる? ちょっ、どこ行くんですか!? 半蔵、幼女の為に充電器買いに行くゴリラを止めろー!』

 

女子供に手を出す事を禁ずる。と言う顔に似合わず優しいスキルアウトのリーダーは、どうやらロリコンに目覚めたようです。

今すぐ電話を切って、着信拒否リスト入りさせて、ついでに学園都市中の幼女の為にあそこの集団を潰そうかと本気で考えた。

 

「要件だけ伝える。お前んとこの村櫛と礼拿が裏の競売で物騒な物買い漁ろうとしてた。あのままだとバイヤーと他のスキルアウト顧客共々潰される所だったから、俺が助けた。貸し一つ追加、忘れるなよ」

『えっ、それ本当かよ。それより貸し、ってまた増やす気か!?』

「真偽のほどは本人から聞け。んじゃなーロリコンゴリラによろしくー」

『ぶっ、ろ、ロリコンゴリラって……い、いや、違いますよ!? 俺じゃない俺が言ったわけ、じゃ、ぎゃあぁぁぁ~~!?』

 

……安らかに眠れ、ヅラ。

 

「さって、これで仕事は終了。さて、当麻に何を奢らせようかなー」

 

後の事をどっかの下っ端要員達に任せ、目を回した当麻を担ぎながらその場を後にした。

 

これが俺の日常。

最も木原から近くて遠く、最も木原とは正反対の性質を持つ男。

 

木原 勇騎(きはら ゆうき)

 

の日常。

 

 

つづく

 




過去編その①は、原作1巻、とある科学の超電磁砲の幻想卸手編を混ぜたものになります。
基本的に描写されていないキャラの行動や物語の展開は原作通りになります。

では、また次回!

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