幻想支配の幻想入り   作:カガヤ

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お待たせしました!
戦闘描写が無いと難産ですね、自分。と改めて実感……
と言うわけで2013年最後の更新です!


第16話 「不器用な姉妹(前編)」

時間は少し遡る。

 

紅魔館 屋上

 

 

紅い月の元、私レミリア・スカーレットは地に付していた。服が少しボロボロになり、スペルカードも全て攻略され、私の負け。

そんな私を少し服が汚れた程度の博麗霊夢が見下ろしている。

なんて事はない。これも予想通りの結果。

 

「私の負けね。霧の維持はもう止めたから、朝になれば元通りになっているわよ」

「そう。で、あんたは結局何がしたかったの?」

「何って、変な事聞くわね博麗の巫女よ。幻想郷を紅い霧で覆えば私は自由に行動出来る。幻想郷を支配出来るわ」

「嘘ね」

 

霊夢は私のついた嘘をハッキリと否定した。間違ってはいないけど、こうも断言されるとはね。

 

「確かに吸血鬼が真昼間から自由に動ければ脅威になる。だけど、それは表向きの理由でしょ? 霧に対して執着も見せなかったし」

「さぁ? そう見えただけじゃない?」

「そこまでしらばっくれるなら、私が言うわ。あんた自分の力を誇示したかっただけじゃない?」

「ホント、ここまで言い当てられると怖いくらいね。確かに今回の一件、自分の力を幻想郷に魅せ付ける為、だったわ。ここまですれば十分でしょ」

「そこまで肩肘張らなくてもいいのに。幻想郷は全てを受け入れる。前に紫にそう言われたでしょ?」

「プライドの問題よ」

 

そう、これはプライドの問題。私達は海の向こうからこの地へきた。歴史も浅いし、認知もされていない西洋妖怪。

私の名声も力も何も知らない連中に、しっかりと力を見せつけなければいけない……私以外の為にもね。

別に畏怖されたいとは思っていない。日本の妖怪と違って、人間達に恐怖を与えても別に得はない。

けれども、軽く見られたり下に見られるのもダメだ。人間や弱小妖怪ごときに舐められるのは腹立たしいけど、それは私が気にしなければいいだけの事、ウザかったら黙らせればいい。

これは、私個人だけの問題ではない。だから、力を示す必要があった。特に人間と妖怪が共存しているここ幻想郷では。

ただでさえ一度失敗しているのだから。

 

「プライドねぇ。じゃあ、次。ユウキさんをどこにやったの?」

「あの外来人なら心配ないわ。ちゃんと生きてるわよ」

 

フランの部屋に間違いなく飛ばしたけど、まだ生きている。巫女と一緒に来た魔法使いもフランの部屋に行ったようだけれど、どうなっているのかまでは分からない。

 

「なら、私をそこまで案内しなさい。こんな所にいたんじゃ何があるかわからないじゃない」

 

本当にユウキの心配をしているわ、この巫女。でもその指摘は間違いじゃないわね。

 

「いいけど、その前に着替えさせてよ。あなたが派手に暴れたせいで、お気に入りの服が台無しだわ」

「お嬢様、着替えをお持ちしました」

「……ありがとう咲夜」

 

いつの間にか咲夜が、私の着替えを持って側に立っていた。

と言っても私と霊夢の弾幕ごっこ中、咲夜が紅魔館の屋上からずっと見ていたのも知っている。

一度霊夢に負けた咲夜は手を出す事は出来ない。だから見ていたのだろう。

それはいい、けれども時間を止めて着替えを取りに行った風ではないので、私がこうやってボロボロになって負けるのを前もって予測済みだったと言うわけね……少し、腹立たしいわ。

 

「これくらいメイドとして当然ですわ」

「本当に気がきくわね、少し利き過ぎじゃないかしら?」

「メイド長、ですから」

 

咲夜は、業務用の笑顔で私の皮肉に答える。こういう子だったかしら?

 

「お嬢様~咲夜さ~ん! 大丈夫ですかー?」

 

私が着替えを終えると、美鈴が門の方から飛んできた。確か鴉天狗とやりあっていたはずだけど、私以上にボロボロね。

 

「美鈴、どうしたのその格好!? あなたがそんなになるなんて、巫女と魔法使いにそこまでやられたの?」

「失礼ね。私も魔理沙もそこまで鬼じゃないわよ」

「そうですよ。ボロボロになる前にやられたんです! これは鴉天狗の文とやりあってこうなったんです」

 

美鈴、そこは胸を張って否定する所じゃないわよ。確かに巫女と魔法使いは本気で追っ払わなくていいと言ったけども……

隣で咲夜も額に手をあて、深いため息をついている。

 

「そう言えば文があんたと戦っていたわね。アレは何だったの?」

 

霊夢も気付いていたのね。まぁあれだけ門の近くでやり合っていたら、その上空にいた私達が気付かないわけないか。

 

「ユウキさんの案内兼取材の為だそうで、でもお嬢様から通すなと言われていたので今までやりあっていたのですが……」

 

美鈴が指を指した方を見ると、門の外で服がボロボロになった鴉天狗が目を回して倒れていた。

これには驚いた。あの鴉天狗は決して弱くはない。むしろ天狗の中でも上位のはず、それを美鈴が負かすなんて。

 

「あの文を倒すなんて。美鈴って言ったわよね。あんたそんなに強かったの?」

「美鈴、あなた巫女達相手の時は手を抜いていたでしょ?」

 

霊夢も驚きの声をあげ、咲夜が不機嫌そうに美鈴を睨んでいる。いくら私がそこまで本気で巫女達を止めなくていいとは言っても、門番が侵入者相手に手加減などしては門番失格だ。

 

「い、いや~……その、負けられない理由と言いますか」

 

ユウキは文と一緒に来ていた。ユウキは通して文は通さなかった。見る限り美鈴だけではなく、文も熱くなっていたようだし、とすれば……

 

「……なるほど。ユウキ絡みね?」

「えっ!? な、何の事ですか?」

「「どういう事!?」」

 

あら、美鈴だけでなく、霊夢と咲夜まで驚いた顔をするなんて、これはますます面白い事になりそうね。

 

「咲夜は知らなかったの? ユウキが霊夢達の後にここにきて、今地下でフランと遊んでいる所なのよ?」

「ユ、ユウキさんがフランお嬢様の所へいるんですか!?」

 

咲夜がここまで驚いた顔をするのは珍しいわ。無理もない事だけれど。

 

「そのフランって言うのは誰の事? とっても嫌な予感するんだけど」

「それは……っ!?」

 

気が進まなかったが、霊夢にフランの事を話そうとしたその時だった。突然、紅魔館の地下から感じるフランの気配が2つになった。

 

「フランお嬢様の気が、2つ?」

 

美鈴も気付いたようで、慌てている。霊夢と咲夜だけが気付いていない。

 

「えっ? 何?」

「お嬢様? 美鈴? 一体どうしたんですか?」

 

これはフランが分身のスペルカードを使ったわけじゃないわね。一体地下で何が起こっているのか……

 

「行くわよ、咲夜、美鈴!」

 

とにかく、フランの所に行くしかない。

 

「ちょっと、待ちなさいよ! ユウキさんはどうしたのよ!」

「来れば分かるわ!」

 

未だに何が起きているのか分からない霊夢の腕をとり、私達はフランの所へと跳んだ。

 

 

 

 

「これは、一体?」

「ひどいわね、これ」

 

跳んだ先で私たちが見たものは、ある意味予想していた光景だったが、それでも想像を越えるものだった。

フランの部屋の壁はパチェの補強魔法がかかっていたにも関わらず穴だらけどころか、天井ごと崩落している所もあり、扉も原型をとどめていない。

フランが暴れたと言う事だろうが、ここまでヒドイのは何百年ぶりだろうか。

そして、部屋の内部からはやはりフランの気配が2つ感じられる。

 

「おぉ? なんだ? 魔力を感じたと思ったら霊夢じゃないか」

 

壊れたドアからひょこりと顔を出したのは、箒を持った白黒の魔法使い。確か霊夢と一緒にここに乗りこんできたはず。

 

「魔理沙、あんたここで何しているのよ。地下にあるっていう図書館に行くんじゃなかったの?」

「図書館にいたら爆発音が聞こえてな、ここに来たらあいつらが未熟な弾幕ごっこしてたもんで、ついな」

「あいつらって……ユウキさん!」

 

部屋に入ると異様なまでの妖力を感じた。これはフランの妖力。ここまで昂ぶっていたなんて。

そのせいで部屋の中が、異界と化しかなり広がっていた。

 

「妹様があんなにはしゃぐなんて、私が来てから初めての事ね」

 

そこへパチェ、パチュリー・ノーレッジがやってきた。顔色が少し悪い。

 

「パチュリーまだ顔色悪いぞ? お前大丈夫かよ」

「あなたが妹様目がけて跳び出したから、薬飲んで急いで追いかけてきたのよ、魔理沙。それよりも、あの外来人あんな能力あったのね」

 

パチェはそこでチラリと霊夢に眼を向けた。霊夢は状況が分かっていないようだったが、その表情にはユウキのあの状態に心当たりがあるようだ。

その時ユウキが視線だけこちらに向けた気がした。私達に気付いたのかしら。でも、何事もなかったかのようにフランに向き直った。

 

「……見てれば分かるわ。ユウキさんの能力、幻想支配」

 

幻想支配、それがユウキの持つ能力のようね。でも、さっき会った時は何の力も感じない普通の人間だったのに。

 

「【禁忌・レーヴァテイン】」

「えっ!? あれってフランお嬢様の!?」

 

咲夜が驚くのも無理はない。ユウキがフランと同じスペルを宣言し、右腕を振うと炎の杖が現れた。

あれはまぎれもないフランのスペルカード。

 

「ユウキさんは元いた世界では、あの幻想支配で様々な能力を操って戦っていたそうよ。幻想郷に来てすぐの頃は妖怪の力はコピー出来なかったのに、もうここまで馴染んじゃったのね」

「おいおい、霊夢。前にユウキの事話した時は、幻想支配の事なんて聞いていないぜ?」

「当たり前じゃない。言わなかったんだもの」

 

魔理沙は霊夢に何か抗議しているが、霊夢の視線はレーヴァテインを持ったユウキにしか向いていない。

私やパチェ達もただじっとユウキとフランを見守っている。

フランもユウキがレーヴァテインを使った事に驚いてはいたが、すぐに別のスペルカードを取り出した。

あれは、4人に分身するスペルね。そして、更にフランもレーヴァテインを使った。

 

「霊夢、あれいいのか?」

「スペルカードの重ね掛けは問題ないわ。ただ一気に使用枚数増えるし、私はあまり使わないわね」

 

これで実質1対4になった。いかにレーヴァテインをコピーしても、4本相手に1本では厳しい。

 

「模造品は本物には勝てない。これは定石だけど、彼の場合模造品とは違うわね」

 

パチェに頷く、ユウキの幻想支配の見た目は模造だが、それは違う何かを感じる。

眼を瞑れば、ユウキとフランの区別がつかないほど、力だけではなく気配もフランだ。

それに、幻想支配と言った。支配とはどういう意味なのだろう。模造するだけでは支配とは言えないけど。

 

「おい見ろよ。ユウキの奴、1対4なのに全然食らってないぞ?」

 

魔理沙の言う通り、ユウキは4人のフランが四方八方から放つ攻撃を全てかわしている。

弾幕を交わしたかと思えば、レーヴァテインの斬撃を同じくレーヴァテインで防いでいる。

 

「ユウキさんはフランお嬢様の力を使いこなしていますね。それも本人以上に」

「そうね。霊夢、ユウキは武具の扱いに長けているとは聞いてる?」

「元いた世界で幼い頃から色々訓練を受けていたと言っていたわ」

「私が手合わせした時に、刀剣の類や棒術、あらゆる武術を仕込まれたと聞きました。ユウキさんは、相当の修羅場を潜り抜けなければ身につかない体術の達人です」

 

美鈴にここまで言わせる人間は初めてね。なるほど、それならフランを圧倒しているのも分かる。

フランは、吸血鬼特有の身体能力や私並の力を持っているが、ただ使っているだけだ。

もし私がユウキと戦うとしたら、こうはならない自信はある。

でも、フランは495年前からずっと地下に閉じこもっていたのだから無理もない。自分の力をただ本能で振り回しているだけ。

対するユウキは幼い頃からずっと訓練を受け、それを十二分に発揮できる戦場をいくつも戦ってきた。

使う力は同じ、けれどユウキにはフランにはない実戦経験と技術がある。

 

「あそこまでの戦闘技術レベルだと、能力なしだと咲夜でも厳しいかもしれないわね?」

「えぇ、そうでしょうね、時間停止もコピーされるでしょうし。ですが、パチュリー様の場合は身体能力もユウキ様に劣っていますから、魔法を真似されると私以上に勝ち目がないかと」

「パチュリーは、私との弾幕ごっこだって、喘息起こしてバタンキューした程だし。あいつには勝てそうにないだろうな」

「むきゅっ!? い、言うじゃない咲夜、魔理沙」

 

後ろで漫才している3人はスルー。すると、霊夢が隣にやってきて少し小声で私に尋ねた。

 

「で、あの妹はどういう子なの? なんだかとっても訳ありみたいだけど。それにユウキさんがここにいる理由も聞いていないわよ」

「……分かったわ、教えてあげる」

 

私はフランの過去と、ユウキがなぜここにいるのかを話した。

霊夢は最初こそ驚いていたが、段々とその顔は驚きより呆れに変わっていた。

 

「はぁ……何よそれ、ユウキさんって思っていたよりバカなのかしら」

「それには同意ね。正直、初めて会った時は驚いたわよ。フランの誘いを受けるなんてどんな人間なのかとね」

 

ま、会ってみて分かったのはとんでもなく歪な人間と言う事。

自分より他者を優先させる自己満足に溢れた偽善者とも違う。

強いて言えば、他者への依存ではなく、干渉する事を糧に生きている異常者。そして、どこか死に場所を求めているとも言えた。

 

「どうやら、そろそろ決着がつくみたいよ、レミィ」

 

パチュリーに頷き、2人の弾幕ごっこの決着を見守る。

フランが最後のスペルカードを使う。だが、ユウキはそれまでとは違い迎撃はせず、部屋を走りまわる事で回避に専念している。

そして、部屋の隅に追いやられたユウキが、弾幕の一角に出来た少しの隙間を潜り抜けたと同時にスペカの効果が切れ、フランのスペカを攻略したユウキの勝ちとなった。

 

「ほら、行ってあげないのレミィ? 今のフランなら大丈夫よ? 話したい事沢山あったんでしょう?」

「わ、分かっているわよ」

 

パチェが私の背を軽く押すけど、私は動けない。ユウキの前ではああ言ったが、私は怖かった。

フラン自身やフランの力が怖いのではなく、フランに対する自分が怖い。

たった1人の妹に対して、今更どう接すればいいのかが分からない。

それでも話したい事は沢山あった。だけど495年の間に、フランに会いに行くたびに私はフランに厳しく接してきた。

 

『お姉様、私お外で遊びたい』

『ダメよ。あなたはもっと自分の能力が危ないって事を自覚しなさい』

『お姉様のケチ!』

 

こんな会話はまだ可愛い方ね。時には狂気に落ちたフランがいきなり襲いかかってきて、私はフランを止める為に本気で相手をして、気が付いたらボロボロのフランを見下ろしていたりもした。

そんな事があって、私は段々とフランに会う回数が減って行った。私が行く事でフランが情緒不安定になっていると思ったからだ。

それからメイド妖精や美鈴、咲夜と出会いフランの世話を命じていった。それでもフランに変わりはなかった。

不安定になる回数は減ったが、一度狂うと周りを破壊するのまで止まらないのは変わらない。

外に出たいと言った事は何度もあったが、誰かに会うのを怖がるのは昔から変わらず、美鈴や咲夜もかなり苦労をした。

そんなフランが、初めて自分から誘った相手、外の世界から来た人間ユウキ。

彼に興味を持った私はフランに会わせてみる事にした。別に私の能力 【運命を操る程度の能力】 で何かが視えたわけではない。

ただ、今までずっと地下で独りぼっちだったフランが初めて興味を示し、誘った彼なら何かフランが変わるきっかけになるかもしれないと思ったからだ。

結果は……正直まだ分からない。確かにユウキと弾幕ごっこをしている時のフランは楽しそうだった。あんな楽しそうなフランは久々に見たと思う。

だから、今度は大丈夫、ちゃんとフランと話せると思い、2人の元へと足を踏み出そうとして……

 

「さっきも言ったけど、フランは一人ぼっちじゃない。気付いていないだけで、フランの側にはずっと……家族がいるじゃないか」

 

ユウキのその言葉に思わず体が強張り、次の瞬間には霊夢の後ろに隠れてしまっていた。

 

「ちょっ、なんで私の後ろに隠れたのよ?」

「……何となく?」

「はぁ?」

 

自分でもなぜ隠れたのか分からない。パチェや咲夜や美鈴はこっちを見て笑っている。

 

「お、こうやって見ると見た目相応な子供だな」

 

魔理沙、後で覚えておきなさい。

その時フランがこちらに振り向いた。フランは私達が来た事に気付いていなかったようで、心底驚いた表情をしていた。

ああいう表情もしばらく見た事がなかったわね。

 

「お姉、様?」

「……フラン」

「レミリア達はさっきからあそこで、フランの事見ていたんだぞ?」

 

やっぱりユウキは気付いていたのね。何か含みのある笑みを浮かべている。そう言えば、私霊夢の後ろに隠れたままね。これはうかつだったわ。

 

「どうして、なんでみんながいるの?」

「それはフランが心配だからだろ」

「嘘! きっと私がお兄ちゃんを壊さないか心配で来たのよ。私の事を心配しているわけないわ」

「っ!」

 

その言葉に心が痛むが、フランにそう言わせたのは間違いなく私だ。そうか、霊夢の後ろに隠れた理由が分かった。

ユウキが私を指さして家族と言った。私にそんな資格はないのに、だからとっさに隠れてしまったのね。

 

「レミリアお嬢様はフランお嬢様の事を心配して、ここへ飛んできたんです」

「嘘よ! 咲夜はお姉様のメイドだから、庇うような事言って!」

「嘘じゃないぞ、フラン。レミリアはお前の事をずっと心配していたんだぞ。妹のお前に何かあってもすぐ来れるようにと、転送の魔法陣を部屋の外に仕掛けているくらいだからな」

 

それを聞き、私とパチェは驚いた。まさか、ユウキは気付いたと言うの?

 

「えっ? 転送の魔法陣?」

「あぁ、俺がフランの所に来た時もレミリアに送ってもらったからな。で、今さっきレミリア達が跳んできた場所も全く同じ。レミリアはフランの部屋にすぐ来れるようにと仕込んでいたんだ」

 

これには驚いた。確かに私は転送用の魔法陣を仕掛けていた。ユウキの言う通り、もしフランに何かあった時屋敷のどこにいてもすぐに来れるようにと仕掛けたものだ。

幻想支配で気付いたのだろうか?

 

「それに俺は、フランに会う前にレミリアに頼まれたんだよ。妹をよろしくってな。フラン、お前には家族がいるんだ。だから、独りなんかじゃない」

 

撫でるようにユウキが背に手をあてると、フランはフラフラとこちらに歩いてきた。

フランに向けたユウキの言葉は、なぜか私にも向けられている気がした。

 

「お姉様、本当なの? 本当に私が心配で来てくれたの?」

 

フランが自分から向かってきているのに、肝心の私がただ黙って待っているのはダメよね。

 

「お嬢様」

「行ってあげて下さい」

 

咲夜と美鈴が優しく肩に手を当てて囁くように言った言葉が、私の足を一歩進ませた。

 

「フラン……」

 

何を言えばいいのか分からない。それでも、私はフランへと歩きだす。

フランは私に向けて、ゆっくりと手を伸ばしてきた。私はその手を掴もうとしたが、フランの様子がおかしい。

 

「お姉様……い、イや。私は、もう壊したくなイ……」

 

フランに怯えと恐怖が浮かんでいる。

狂気がまたフランを包みこもうとしているのか、またダメなのか……

咲夜達もフランの様子がおかしい事に気付いたが、パチェが制している。

 

「大丈夫、大丈夫よフラン。私は、ここにいるわ」

 

それでも私は動じずフランに手を伸ばした。もし、またフランが狂気に落ちても私がきっと止める。

 

「私は……ワタシは、誰も壊したクないのに!……ダメ、逃ゲテお姉様……」

 

伸ばした手に 【破壊の目】 が現れた。アレはフランが能力を使う時に現れるもの、あれを握られたら私は恐らく破壊されるわね。

 

「馬鹿ね、逃げるわけないじゃない……私はあなたの姉なのよ?」

 

そう、壊される? だからなんだ。フランが、妹が必死に自分を抑えながらも私に手を差し伸べてくれている。

涙にくれたその目が、助けてと叫んでいる。なら、私がする事はただ一つ。差し出された手をしっかり握る事。

 

「オネエ……サま」

 

フランは必死に左手で右手を抑え込もうとしている。私はその上からそっと手を置く。

右手に更に力が籠り、手の中の目を握りつぶそうとしている。後1秒もせずに目は壊れ、私も壊されるだろう。

でも、それでもいいと思った。ここまでフランを不安定にさせたのは私だ。

家族である私がフランの側にずっといれば、何があっても私がフランを守っていればこうはならなかった。

だから、これは当然の結末。

 

「レミリア様! フラン様!」

「いけない、妹様!」

 

破壊の目が……破壊される。

咲夜や美鈴がこちらに向かってくるのが見えた。パチェも何か言っているようだけど、聞こえない。

霊夢と魔理沙も何が起きているのかは分かっていないようだが、札と八卦炉を構えてフランを狙っているようだ。

 

「ダメ、ダメ! 私は……お姉様を壊したくない! 今目の前にいるお姉様は幻想なんかじゃないもの!!」

「そうだ、フラン。それは現実だ、幻想なんかじゃない! そして、言ったはずだ! お前の幻想は……俺が支配すると!」

 

ユウキの声と共に、フランの手がギュっと握られた。

 

つづく

 




レミリアサイドでした。
次回はフランサイドです!

難産の割には……大丈夫かな今回(汗)

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