幻想支配の幻想入り   作:カガヤ

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おまたせしました!
日常編Ⅳ最後です。


第150回 「新聞大会」

香霖堂

 

昼食を終えて、のんびりしているとユウキ君がやってきた。

何でも、いきなり紫が霊夢に稽古を付けるとやってきて、追い出されたそうだ。

その内容が、霊夢に神様の力を使えるようにするというもの。

確かに博麗の巫女である霊夢は、神降ろしという神様の力を使う能力がある。

が、それはかなりの高等技術で、霊夢はまだ完全には使いこなせていなかった。

その神降ろしを完全なものにする稽古を、妖怪である紫が霊夢につけている。

で、幻想支配という他人の力をコピーするユウキ君がいては、神降ろしに影響を及ぼす可能性がある。

そこで稽古中はユウキ君は霊夢の側にいないようにと、追い出されたというわけか。

 

「それでここに来るとはね」

「迷惑だったか?」

 

そんな事はない。彼はよく店にある外の世界の商品の説明をしてくれて助かっている。

それに、魔理沙や霊夢と違って、商品を壊したりツケで持って行ったりしない。

何より僕は彼を友人と思っている。迷惑なわけがない。

 

「いや、君なら大歓迎だ。ただ、ここよりも人里や紅魔館とか他に行くところはいくらでもあるだろうにって思っただけさ」

「ここが一番気が休まるんだよ。それにちょっと欲しい物もあったしな」

「そう言ってもらえると嬉しいよ」

 

そう言うと彼は苦笑いを浮かべた。

その笑みは初めて会った時に見た時と少し変わったように見える。

初めて会った博麗神社での宴会での彼は、明らかに戸惑いがあった。

幻想郷に迷い込んできた外来人としての戸惑い、ではなくもっと別の戸惑い。

でも、今の彼からはそんな戸惑いがあまり感じられない。良い事だと思う。

彼は誰とでも自然に接して、優しさも厳しさもある。

それは、霊夢と似ている。だからみんなに好かれ、彼の周りには人も妖怪も集まる。

まぁ、彼の周りに集まる女性の半分からは明らかに恋愛的な好意を抱かれているけど、彼はそれに気付いているのか気付いていないのかまるで分からない。

彼は、自分の事に対して嬉しいとか悲しいとか思う事が全くない。

例えば、物をもらって喜んでいても、それは嬉しいからではなく、喜んでいる反応をしないと相手が不安になるから喜んでいる風を装っている。

だから誰かが自分に好意を抱いていても興味を感じず、ありきたりな反応でしか返さない。

そんな状況にやきもきして、強引に行こうとする女性もいるが、大抵彼に返り討ちにされるか、霊夢に退治されている。

変わったと言えば、彼以上に霊夢が変わった。

人間らしさ、というよりは年頃の女の子らしさが増えた。

恋する乙女は無敵だ。とは魔理沙の言葉だ。

全くその通りだと思う。

 

「それで、最近は何か面白い物でも流れてきてないか? 今日は暇つぶしだからタダで引き受けるぞ」

「ははっ、それはありがたい。実はそこそこ溜まっていた所なんだよ」

 

ちょうど彼に見てもらいたい物が沢山あるのでちょうどいい。

奥から数箱分持ってきたのだが、あまりの多さに彼が驚いている。

 

「多すぎだろ。いつの間にこんなに?」

「僕が無縁仏で拾ってきたものもあるし、魔理沙が集めてきたものもあるよ」

 

でも、彼の言う通り多すぎかもしれない。

見た所ではガラクタばかりだけど、それでも昨日一日でこの量は多い。

魔理沙も不思議がっていた。まぁ、理由はあるのだけどね。

教えるのもいいけど、魔理沙やユウキ君達には黙っておこうか。

もう数日もすれば分かることだろうしね。

 

「えっと、これは健康器具、これは調理器具っと。電池式やコンセント式ばっかりだな。使えそうなものがほとんどない」

 

彼は鑑定しながら残念そうな声を上げた。

僕としてもせっかくの拾い物が使えないのは残念だ。

外の世界からの流れ者はアンティークな家具から家電製品と呼ばれるものまで多種多様で、ただのゴミにしかならないものも多いのは昔からだからそこまで気にはしていない。

 

「使えない物も展示しておくからいつものように分けておいてもらえると助かるよ。それに気に入ったのあったら持って行って構わないよ」

 

既に僕が気に入ったお皿や調度品は別に分けている。

 

「ありがとな。えっと、ゼンマイ式はあっても玩具がほとんどか、梨奈や大ちゃん達はこういうのはとっくに卒業してるだろうけど他の子達にはいいかもな」

 

さり気なく寺子屋に通う子達の事まで気にかけている。

うん、いい先生をしているな。

けど、自分で使うものを探す気はないようなのは、相変わらずか。

彼に淹れてもらった紅茶を飲みながら、ふぅと息を吐いた。

紅魔館のメイド長に淹れ方を教わったという彼の紅茶は、なるほど僕が自分で淹れるのよりは美味しい。

魔理沙もよく淹れてくれるけど、彼女はコーヒー派だからね。

ふと、外を見ると風が強くなってきたのか葉っぱが宙を舞っている。

これは、新しい客が来たようだ。彼の匂いでも鍵つけたのかな。

 

「どーもー! 毎度おなじみ文々。新聞でぇーっす」

「おー、文。古新聞ならそこに纏めてあるよ、今日はトイレットペーパーと交換しようかな」

「はーい! 毎度どうもー……って誰がチリ紙交換ですか!」

 

と言いつつも、ユウキ君にネタを振られてすかさずトイレットペーパーを出すあたり大分彼に毒されてるな、

 

「相変わらず用意が良いな、文」

「これは新規ご契約様へお渡しする粗品です。それよりもここにいましたかユウキさん」

「ん? 俺を探していたのか?」

「えぇ、探しましたよ。博麗神社に行ったらスキマ妖怪に追い払われて、人里に行ってもいないし、紅魔館ではフランさんの相手をさせられるし、白玉楼では妖夢さんの料理の手伝いさせられるし、永遠亭では実験台にされそうになるし、幻想郷中を飛び回りましたよ」

「いい運動になったろ」

「ええ、おかげさまで。まさかここにいるとは思いませんでしたよ!」

 

まさか、彼がここに来たのは、それも狙いの一つだったのかな。

 

「あぁ、だからここに居たんだよ」

 

と思ったらやっぱりか。彼もなかなか意地悪だね。

 

「もうイジワルなんですから! あぁ、それとも気になる子には意地悪したくなるタイプですか? いやだもうぅ、ユウキさんったら♪」

 

文のキャラがここまで壊れるとは思わなかった。

 

「霖之助、大体終わったぞ。俺もちょっと使い方がわからない物がいくつか混ざってるからそれも分けたぞ」

「あぁ、ありがとう。君の目にかなう物はあったかい?」

「うーん、今回は玩具が結構あったからな。あとで寺子屋に持っていくよ。後、いくつか欲しい物があったんだけどいいか?」

「あぁ、僕が気に入ったものは既に抜いてあるからね」

「ありがとな。それと電化製品はにとりに売ると喜ぶぞ」

「そうだね。今度来た時に話してみるよ。最近河童は電力に興味があるみたいだからね」

「あのー……すみません。目の前でスルーされるのは流石に堪えるのですけど。あれ、なにこのデジャヴ」

 

若干涙目になった文がユウキ君にしがみついてきた。

流石妖怪、精神攻撃には弱いようだ。

 

「はいはい。わざわざそこまで飛び回ってまで俺に何の用だ?」

「はい! 実は前々から依頼したかった事がありまして、もうそろそろその時期なのでお知らせしようかと」

「前から言っていた件か? 別に俺はいつでも構わないぞ」

 

先の異変で、ユウキ君は文と妹紅と慧音に大きな借りがあるらしい。

具体的にどんな借りかは知らないけどね。でも、彼にとって借りを作るという重要な意味がある。

借りを作る事で繋がりが出来る。繋がりがない世界で生きてきた彼にとっては、それはとても重大な事だ。

と、霊夢は推測していた。魔理沙や慧音も同じような事を思っている。

けど、それにしては彼は貸しを作る事にはすごく無頓着だ。

自分の利益になる事へは必要最低限しか興味がない。

何でも屋としての仕事を引き受け報酬を得る事は、自分が生きる為というよりは世話になっている霊夢や他の皆へお礼をする為の手段でしか思っていない。

それは、とても哀しい生き方だ。

だからだろうか、霊夢や文、紅魔館のみんなが彼の事を必要以上に構ってしまうのは。

 

「それで、肝心の俺への依頼とは? 文の取材に付き合う事か?」

「おぉ、流石ユウキさん! 勘がいいですねぇ♪ 実はもうすぐちょっとした天狗たちの間で新聞大会があるんですよ。その新聞記事のネタとして取材をするんです」

「なるほど。でも最初に言っておくけど、俺は新聞記者関係の仕事は全くの素人だぞ? 暗殺するターゲットや侵入する施設の事前調査は何度もしてきたけど、取材ってなると話は全く違ってくるだろ?」

 

なんとも物騒な事を言ってる気がするけど、彼にとっては普通な事だったね。

 

「ああ、その点は大丈夫ですよ。ユウキさんなら簡単ですから」

「答えになってないとおもんだけど?」

 

僕もそう思う。

 

「とにかく、もう少ししたらその時期になりますから、その時に具体的にお話します。何をするかはお楽しみに♪」

「いや、だったらその時に話せばいいだろうに、今日はなんで俺を探してたんだ?」

 

彼に最もな事を聞かれ、若干文の目が泳ぎだした。

これは、本題はただ単に彼に会いたかっただけだった、のかな。

と、そこへ別の女性の声が聞こえた。

 

「あーそれはアレね。神社に行ったら霊夢が紫にしごかれていて、邪魔者がいない今が彼をデートに連れ出すチャンスと思って幻想郷中を探しまくった。でも、いざ見付けたら誘い文句が浮かばず、ちょうど前から話していた依頼の件っていう建前を使った。こういう事よ」

「はたて!」

 

いつの間にか文の同僚である姫海棠はたてが来ていた。

 

「いらっしゃい。今日は千客万来だな。君が来るとは珍しいよ」

「たった3人で大袈裟だな」

「1週間に3人来ればいい方さ、お客としてはね」

「確かにそうかもな」

 

客としてでなければ、もっと多い時もあるのだけどね。

 

「あら、なら私は4人目ね?」

 

今度は誰だと目を向けると、そこには風見幽香がいた。

今日は珍客が多いと思ったけど、彼女は意外と常連だ。

 

「こんにちは、ユウキ。こんな所で出会えるなんて。でも、ちょうどよかったわ」

「なんだ、幽香まで俺を探していたのか?」

 

流石はユウキ君。幽香にまでモテモテとは。

そういえば、以前彼の歓迎会でもそうだったか。

 

「いいえ、元々ここには用があってきたの。あなたに出会えたのは本当に偶然よ」

「彼女はよくティーセットや家具を見にに来るんだよ」

 

幽香は、咲夜と同じく外の世界の食器やアンティーク家具に興味がある。

だからたまに見に来て、買っていったりする数少ない常識的な上客だ。

 

「ちょっと椅子が痛んできたから買い替えようと思って見に来たの。人里には椅子は座椅子くらいしかないのよ」

「人里は和風ばかりだから洋風の家具は不似合いだもんな」

 

人里では手に入りにくい洋風の家具や食器類は紅魔館やアリスなどに人気がある。

だから、入荷したらすぐに使えるように手入れをしている。

 

「それで、俺に何か用事か?」

「いつかの約束、もうすぐ果たせそうだから知らせておこうと思ったのよ」

「あーアレか。随分と待ったな」

「ふふっ、待たせちゃってごめんなさいね。今年はちょうどいい時期なのよ」

 

なんの話をしているか分からないけど、彼と風見幽香には何か約束事があるみたいだ。

あまりいい約束には見えないけどね。

 

「あの~? 風見幽香とどんな約束したんですか?」

 

文が少し警戒心を強めにして彼に問いただした。

彼女も宴会での彼と幽香の初対面時の騒動を知っているから、警戒しているのだろう。

 

「別に、いつかちゃんとした舞台が整ったら本気でやりあおうって約束しただけだぞ?」

「「「………」」」

 

文とはたての時間が止まり、鳩が豆鉄砲を食ったような顔になった。

流石の僕もメガネがずり落ちたが。

 

「「えぇ~!? なんで!?」」

 

そして、ひと呼吸置いて2人が叫びだした。

 

「なんでって、そっちこそ大げさに騒ぐのはなんでだよ」

「「はぁ~……」」

 

分かっていないのは当の本人だけか。

幽香は文たちの慌てっぷりがおかしいようで笑いをこらえるのに必死だ。

 

「ユウキ君。風見幽香は危険って霊夢や魔理沙から言われていただろう?」

「幽香程度の危ない奴なんてゴロゴロいて慣れっこだ。それにやりあうと言っても弾幕ごっこだぞ?」

「あら、それはそれでプライドが傷つくわね。私程度が、なんですって?」

 

ニコニコと笑いながら殺気を放つ幽香、それでも彼は涼しい顔をして返した。

 

「俺からすればそんな殺気満々で来られるより、無邪気な笑顔なチルノ達の方が厄介だ」

「ぷっ、あはははっ! ホント、あなたそういう所は正直よね」

 

まぁ、彼からすれば氷精達の方が厄介だと言うのは何となくわかる。

殺意と敵意には慣れていても、子供特有の無邪気な好意にはいまだ慣れてはいないのだろう。

つまり、それだけ、元居た世界で彼は少なくとも分かり切った好意を向けられた事がない。

 

「ユウキさん、風見幽香は危険だって知っててなんでそんな約束受けたんですか。しかもいつの間に!」

「危険だからと言われてもな。俺には誘いを断る理由はないし」

「あ、そうですか……」

 

文は彼を説得するのを諦めた。

彼は幽香の危険性を理解した上で、あんな約束をしたのだという事が嫌でも分かってしまったからだろう。

 

「本人目の前にしてよくもそこまで言えるわね文。でも心配しなくても殺したりしないから安心しなさいな」

「いえ、ユウキさんを取って食う気、ではないかと、色々な意味で」

「あら、そんなあなたや紅魔館の吸血鬼たちみたいな獰猛な真似するわけないわ」

「わ、私はそんな事しませんよ!?」

「まーしそうになった事はあるわよねー?」

「な、ななんの事を言ってるのかしらーはたてー?」

 

女三人寄れば姦しいとはよく言ったものだ。

最も、幻想郷では三人ではきかないか。

おや、話題の中心である彼はいずこに?

あ、いたね。何やら小物類を収めた棚を見ているようだね。

 

「ユウキ君、アクセサリー類を見て誰かにプレゼントかい?」

 

おっと、今まで騒いでいた文たちの声がピタリと止まった。

これは失言だったかな。

 

「ん、この前大ちゃんやチルノ達からプレゼントもらったんだよ。最近俺が元気ないように見えたからって。あいつらに変な気を遣わせちゃったからさ」

 

なるほど。彼は探し物があるといったけど、妖精達へのお返しをさがしていたのか。

それにしても、彼の元気がないようにみえた、ね。

 

「贈り物を贈り物で返すのは何か違う気がするけど、生憎これしか浮かばなくてさ。お、これいいな」

 

そういって彼が持ってきたのは、花の形をして5色に輝く装飾が施された小さな髪飾りセットだ。

装飾は宝石ではないけれど、見た目は綺麗だ。

 

「これもらうよ。いくらだ?」

「そうだね。これなら……」

 

彼の買い物を三者三様の表情を浮かべて見守る文、幽香、はたて。

文は白目を向いてあんぐりとしていて、幽香は面白そうなものを見た顔をして、はたては呆れてるような顔をしている。

恐らく、自分の話題で盛り上がっているのに、当の本人は呑気に他の子へのプレゼント選びをしていてマイペースすぎると呆れているのだろう。僕もそれには同感だ。

心の中で苦笑いを浮かべつつ、彼から代金を貰う。

さっきお願いした仕事の報酬ついでに渡しても良かったのだけど、あれはすでに報酬をもらっているからこれは別問題だ。

と彼は言ってお金を出した。変なところで律儀なのも彼の特徴だ。

 

「さってと、人里で買い物して帰るとするよ。その頃には霊夢の修行も終わってるだろうしな」

「おっと、もうこんな時間になってたんだね」

 

時計を見ると、4時を回っていた。

彼がいると時間がたつのは早いね。

 

「それじゃ、文たちもまたな。文も幽香も詳しい日取り決まったら知らせてくれ」

「えぇ、その時が来たら知らせるわ」

「はぁ……ユウキさんのマイペースにはまだ慣れそうにないですね。まぁいいです。それではまたです、ユウキさん」

「まったねーユウキ♪」

 

こうして彼は帰って行き、幽香もお目当ての椅子を購入して上機嫌で帰って行った。

残ったのは天狗2人だけだ。

 

「そういえば、はたて。なんであんたがここに来たの? 別にユウキさんに用があったわけじゃないんでしょ?」

「……ヤバッ……大天狗様にあんたを大至急呼んで来いって言われて探してたんだった……」

「ちょっ、それを先に言いなさいよー!! そ、それでは私はこれでー!」

「これは、私も行かないとまずいわよね。というわけでまたね、店主さん!」

「まいどどうもー」

 

ついさっきまで賑やかだった店内が急に静かになると、どことなく物足りなさを感じる。

以前は、こんな事はなかったのだけどね。

 

「それにしても、このタイミングで文と幽香が彼に接触と言うのは偶然ではないね」

 

きっと2人共もうすぐ起こる異変に合わせて彼に仕事を依頼したり、弾幕ごっこに誘ったのだろうな。

異変は異変でも、これから起きる今までの異変とは少し違う。

ユウキ君でも、霊夢でも解決できない異変……六十年周期の大結界異変がもうすぐ始まる。

 

 

続く

 




さて次回からは花映塚編+文花帖編です。
原作では春に起きた異変もこの作品ではお盆付近で起きる事になっています。

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