といいつつ、またしばらくは出来ませんが(笑)
それは7月に入ってすぐくらいの頃だった。
「全く君くらいだよ? 週に何度もここに来てる患者は」
「いやぁ、あははは……すみません」
カエル顔の医者、冥土返しに言われベットの上で凹む上条当麻。
「ま、そりゃ無理でしょ先生。スキルアウトに絡まれている女の子ホイホイだからコイツは」
「何だよその変なネーミングは……ま、今回は正直ユウキのおかげで助かったけどな。さんきゅ」
俺の呆れたような視線に当麻はジト眼で返事をしたが、すぐに笑顔で礼を言ってきた。
「ってか、何だよあの騒ぎは、スキルアウトの集会に行こうとしていた1人に絡まれた女の子を助けようとして、一緒に逃げたら集会のど真ん中に行きついて大ピンチって。お前馬鹿だろ!」
……その集会を1人で潰そうと張っていた俺が言うのもアレだけどなぁ。と小声で呟く。
「ん? 何か言ったか?」
「いや、何も」
「君達本当に仲がいいねぇ。まぁ、彼の方は検査で何も問題なかったし。これで帰っていいよ? 次に会うのは明日、なんて事にはならないようにね?」
「明日どころか数時間後だったりしてな」
「不吉な事言うなよ! でも、気を付けますよ。お世話になりました」
お大事にと言って、冥土返しは病室から出て行った。当麻が検査衣から着替えている間、俺はふとした疑問を口にした。
「なぁお前ってどうしてそこまで体張って他人を助けるんだ? 基本的に面倒くさがりなのに」
「どうしてって、うーん、そんなの考えた事すらないな。たださ、頭で考えるよりも気が付いたら助けに行っているんだよ。俺に何が出来るかとか、どうすればいいとか、そう言うのは助けるって決めてから考える」
困っている人がいれば、考えるより先に行動する。そこには裏も表も何もない。
「はぁ、要するにバカって事だな」
「バ、バカは言いすぎだろ! それに困ってる人に手を出すくらいお前だってしてるだろ」
「俺は後先考えず突っ走って敵のど真ん中に特攻する。なんて人助けと正反対の事はしないなぁ」
「う、うぐぐぐ……」
ま、こんなバカだから入学早々に興味持って友達になったんだけどな。
幼い頃から実験やら暗殺やらやってた俺には……眩しいな。
全く、いきなり高校に通えだなんて言われて、色々手続きやら勝手にやられて、ポイっと放り込まれた時は今度こそ殺してやる! と息まいたけど、コイツと出会えた事が唯一の幸いかな。
それとも……当麻の右手、あらゆる異能を殺す 【幻想殺し】 と俺の 【幻想支配】 を引き会わせたかった?
そっちの方がありえるな。
「終わったぞ。待っていてくれてありがとな。お前がこんなに俺を心配してくれるなんて嬉しいぞ」
「んじゃ晩飯食いに行くか。勿論お前の奢りで。もしくは3万出せ」
「んなっ!? なんでそういう話になりますか!?」
「当たり前だろ。30人の武装したスキルアウト相手にしたんだ、普通は1人1万円として30万円の報酬を要求してもいいくらいなんだぞ?」
ただの善意でここまでするほど、俺はお人よしじゃないんでね。
「お、お前がちょくちょく学校休んで、研究所とかから依頼されたバイトしてるのは知っているけど……まさか友達の俺にまでそれをするのか!? ってかなんか色々とおかしくないですか!?」
当麻は俺の裏の仕事を半分だけ知っている。最も俺の能力が珍しいから研究所から実験の協力を頼まれたり、お偉いさんから何でも屋っぽい仕事をしているという表向きのバイトだけだ。
実際は裏切り者の暗殺や、侵入者の排除なんかもしているが流石にそれはない内緒だ。
今回も、スキルアウトが変に武装しているから現場を押さえて排除しろとあのくそババァに言われて、情報のあった場所に張りこんでいたら当麻が女の子を連れて現れたと言うわけだ。
『手を貸すか? 安くするぜ…………1人につき千円』
『だぁもう、なんでもいい! この状況どうにかできるなら手を貸してくれぇ!』
で、助ける時に持っていたレコーダーになぜか録音されていた声を聞かせると、当麻は口をあんぐりとあけて絶句した。
「お前それ最後絶対聞こえないように言ってただろ! 全然聞こえなかったぞ! 大体いつからそんな金にがめついキャラになったんだよ!? そりゃ晩飯くらいは奢るつもりだったけど、そこまで今余裕が……不幸だー!!」
うん、ホント見ていて飽きないなこいつは。
「いや、流石に万年貧乏のお前にそこまで要求するほど俺も鬼じゃないさ」
「十分にお前が鬼に見えるっての……」
げんなりする当麻と共に病院を後にし、ファミレスへと向かった。
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「んっ……ここは、病院か?」
確か俺は、インデックスを助けようと……そうだ。幻想支配で、自動書記の 【竜王の殺息】 を使って……それを撃ちあって、それから頭が痛くなって……羽。
「そうだ羽だ! あの羽が当麻の頭に!」
意識が落ちる前、インデックスと当麻に降り注いだ白い羽。幻想支配でアレが危険だと言うのがわかり、当麻に逃げろと言おうとして意識が落ちたんだ。で、最後に視たのが……当麻の頭に羽が落ちた所。
「だったら当麻は……こうしちゃいられない!」
腕に刺さった点滴を抜き、かけてあった服に着替えて病室を飛び出る。幻想支配の後遺症は何もなく、体は至って快調だ。
通りかかった看護師さんに当麻の病室を聞いて行ってみる途中、冥土返しとインデックスが一室に入って行くのが見えた。
あそこは当麻の病室じゃなくあの医者の個室だから、何か話をしにいったのだろう。
内容は気になったが、それよりも当麻の方を急いだ。
「……で、来てみたが。どうしようか」
俺の推測が正しければ、当麻は……ともかく、俺はノックをして中から聞き慣れた声がするのを確認し、部屋へと入った。
「よっ、当麻!」
まずは軽いジャブ。これであいつがどんな反応しめすか。
「あっ、えっと……よ、よぅ」
「なんだなんだそのぎこちない返事は? せっかく【兄】が見舞いに来てやったのに」
「あーあぁ、そうだよな。ごめん、兄、さん。俺さっきまで寝てたから頭ボーっとしててさ」
……想定していた中で、最悪のパターン。上条当麻は記憶を失っていた。
恐らくはあの白い羽が頭に降ったせいだろう。幻想殺しも直接右手で触れるか、全身に効果のある攻撃以外は打ち消せない。
「……下手な芝居はやめようぜ上条当麻。お前に兄はいない、従妹はいるらしいけどな。俺はお前が記憶を失う場面に立ちあっていたんだ」
「っ!? そ、そっか……ごめん。気を使わせたみたいだな」
俺の言葉に顔を真っ白にして謝る当麻。気を使ったのはお前の方じゃないか、謝るのは俺の方だ。
落ち込む当麻の頭をかるく小突き、ベッド脇の椅子に腰かけた。
「なんでお前が謝るんだよ。俺の方こそ、お前を助けれなかった……ごめん」
「いやいやいや、こちらこそ。心配をおかけしまして……えっと?」
「俺の名前は……ユウキ。ちなみに俺は兄でも何でもないお前の同級生だ」
「そっか、ユウキ、か。うっし、覚えた! あれ? 名字は?」
「記憶を失う前もお前は俺をユウキと呼んでいた。だから今まで通りでいいだろ? それに俺は名字で呼ばれるのが心底嫌いなんでね」
そう、俺はユウキ。名字はあるが、大嫌いなんで誰にも呼ばせない。
必要以外には教える事もないし、知ってる人には呼ばせないようにもしている。
「そ、そうなのか。あのさ、良ければ俺がなんで記憶を失う事になったのか、それと前の俺がどうだったのか教えてくれないか? 一応魔術師って奴らからカエル顔の先生経由で色々聞いたけど、ちょっとピンと来なくて」
なるほど。ステイル達が冥土返しにそのまま伝えたのか。確かにあの先生なら魔術とかにも理解しめしそうだな。学園都市の闇の顔も知っている冥土返しなら。
そして、冥土返しは当麻の記憶は絶対に戻らないと言う事も聞かされたようだ。曰くあの先生の最大の敗北だ。と心底悔しそうだったらしい。あの人らしいな。
「いいぜ。俺はそのつもりで来たんだ。と言っても俺は高校以前のお前は知らないし、記憶を失った経緯に関わったのは半分くらいだからな。それでいいなら話すよ」
本当はインデックスの事知ってから、ずっと関わっていようとしたんだが、幻想御手事件の方が緊急だったからそっちを優先してしまった。
結果的に幻想御手を使おうとした佐天を説得し、美琴と2人で思ったより早く解決できたけど……こっちを優先させるべきだったかもしれない。
それから俺は高校入学式で出会った時から今に至る話をした。勿論、インデックスやステイル達の事も。
「俺は、記憶を失う前の俺はインデックスを守る為に、文字通り命を張ったんだな」
「………」
実感が湧かないんだろうな。自分のした事とはいえ、記憶そのものが破壊されて、元には絶対に戻らない。
自分と同じ顔の人物が活躍する漫画を読んでいるようなものだろうからな。
「で、インデックスは今どこに?」
「それなら先生と一緒に話をしている所だと思うから、もう少ししたら来るぞ? ってやばっ! 俺病室抜けてきたんだ。見つかる前に戻った方がいいな。あ、お前……記憶喪失の事どうするんだ? なんだったら俺が……」
「悪い。それは黙っていてくれないか? 俺、記憶を失ってないフリするからさ。ユウキにも協力して欲しいんだ」
驚いた。てっきり悩むと思っていたのに、しかも、記憶喪失をしていないフリだなんて。
「当麻、まさか……インデックスの為か?」
「そのさ、自分のした事全然分からないし。聞いても何の事だかさっぱりだけど、インデックスって子を悲しませちゃいけないって思うんだ。おかしいよな、名前も顔も覚えていない相手なのに、それでもインデックスの悲しむ顔は見たくない。記憶を失う前が必死になって守ろうとしたんだ。それは誇りに思う……って、自分の事を誇りに思うのは変だよな」
変わらないな、上条当麻は。
「なら、インデックスに会った時どんな顔して何言うか考えとけよ。きっとあの医者からお前が記憶喪失だって聞かされていると思うぞ」
「そう、だな……よしっ、上条当麻一世一代の大芝居だ!……なぁ、ユウキ? 俺、記憶を失う前の上条当麻とどこか違っているか?」
当麻は少しだけ不安そうな顔を向けてきた。違和感があれば、インデックスに気付かれてしまうと思ったのか、それとも単にこれからの事が不安なのか。
でもその顔がおかしくて、俺は笑ってしまった。
「ぷっ、あはははは」
「な、なんだよいきなり笑う事ないじゃないか! やっぱり俺どこか違うのか?」
「いーや、そんな事ない。上条当麻は変わってねぇよ。記憶を失う前も今もバカでおっちょこちょいで……お人よしさ」
「……そっか」
安心した笑みを浮かべる当麻を見て、俺も笑みを浮かべつつ病室のドアを閉めた。
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それからも当麻は、以前と変わらなかった。魔術師絡みの事件やら戦争にまで巻き込まれるなど、不幸レベルは臨界突破したけど。そして、それにもまして女運が天元突破していたけど!
それでも、あいつは眼の前で誰かが困っていれば、進んで手を差し伸べていった。損得勘定もなく、ただただ自分がそうしたいからと、言葉には出さなかったが自分の信念を貫いて多くの人を救って行った。
それを見て、俺は羨ましくなった。記憶を失おうとも当麻が失ったのはそれだけ、他は何も変わらない。
俺もそれからは当麻と一緒に魔術師絡みの事件に巻き込まれたかと思えば、学園都市の暗部組織と協力したり敵対したりを繰り返ししてるうちに、一方通行やら浜面、アイテム、打ち止めなど多くの人と友達レベルとまではいかないけど、レベル5ほぼ全員と知り合った。だが……
いや、これ以上は考えるのは止めよう。
ともかく、俺は……上条当麻のおかげで変わった。だから、アイツに出来て俺に出来ない理由はなかった。
例えそれが、アイツを真似たただの幻想(げんそう)だとしても……俺はそれを支配する。
学園都市に、その世界の全てに……当麻達にさえ忘れ去られて捨てられようとも、俺は変わらない。
突然目の前に狼に襲われそうになった女の子を助けたのも、落ち込んだチルノを放っておけなかったのも……あぁ、そうだ。
フランに呼ばれて何がなんでも紅魔館に行こうとしたのも、フランが一人ぼっちで寂しそうだったから、俺に出来る事があるとか考えてなかった。
ただ……何とかしたいと思ったからだ。そこに理由はない、理由はいらない。
「俺はバカだな……誰かが俺を必要としているから動くんじゃない、俺がそうしたいから……立つんだ」
そうだ立て! 寝ている時じゃない。魔理沙が俺の代わりに? 違う。誰も俺の代わりは出来ない。魔理沙は魔理沙が出来る事をしているんだ。それに甘えるなんて、俺らしくない。
おぼろげだった意識がはっきりとしていく。魔理沙とフランはまだ戦っている。少しずつだけど、興奮したフランがまた狂気に飲まれようとしている。
――理由? みンナ私が怖イカラ、ミンナ壊レルから、ミンナ私ガ怖いカラ、ダカラ私ハズット1人ナノ!
「誰が一人ぼっちだって? 誰が怖がってるって?」
痛みも気だるさももうない。一歩一歩魔理沙とフランに歩いて行く。
「おいユウキ、お前は休んで……お前、その眼は?」
「えっ? お兄ちゃんから、私と同じ力を感じる? それに眼が……銀色?」
俺の中にフランの妖力を感じる。さっきもずっと視ていたが、フランの力は使えなかった。
けれども今は違う、はっきりと幻想支配がフランの力を支配し始めたのを感じる。
「フラン、お前を誰もが怖がってると思うなら、お前がずっと独りぼっちだと思っているなら……」
この言葉を使うのはいつぶりだろうな。全く、羨ましいからって中二っぽい決め台詞まで真似る事ないだろうにな、なぁ当麻?
「まずは、その幻想を……俺が支配する!」
つづく
ユウキは自分でふっ切りました。
と言っても全部が全部ふっきれたわけじゃないですけど……肝心な部分はね。
フラン戦は次回で終わる予定です。
幻想支配の本領発揮!
あ、決め台詞はツッコミなしでお願いします(笑)