幻想支配の幻想入り   作:カガヤ

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お待たせしました!
再び幻想郷の日常編です。


日常編Ⅳ
第140話 「薬師稼業(前編)」


私、因幡てゐの朝は、早……くもなく普通。

目が覚めて、軽く体を伸ばしつつ外を見る。

窓の外は雲一つない青空が広がっている。

 

「うーん、今日もいい天気だねぇ。さって、鈴仙ちゃんはどうしてるかなー?」

 

着替えて鈴仙ちゃんの部屋の前まで行き、そっと襖をあけて中を見る。

 

「……ブツブツ」

 

そこには毛布に包まり体育座りしながらブツブツ呟く鈴仙ちゃんの姿があった。

 

「あーまだ重症だねこりゃ。ってか怖っ!」

 

全く、よっぽど一昨日の宴会での一件を引きずってるんだね。

そりゃ、酔ってたとはいえ、ゆーちゃんLOVEばっかりの所でいきなりキスしちゃうんだもんねぇ。

しかも、その後みんなして鬼も逃げ出すくらい阿鼻叫喚の地獄絵図。

ゆーちゃんがどうにか幻想支配やら使って収めたけど、下手すればあの辺り一帯更地どころかクレーターになってただろうね。

ま、酔わせたのは私だけど、あそこまでやるとは思わなかったよ。

でも、流石に後で御師匠様に怒られたなぁ。

 

 

顔を洗って居間に行くと、御師匠様が朝食の準備をしていた。

いつもなら食事は鈴仙ちゃんがやっているのだけど、昨日は私、今日は御師匠様がやることになった。

姫様も料理すると言っていたけど、御師匠様が止めてたっけ。

御師匠様は危ないからって理由で止めていたけど、本当は姫様料理が下手だからなんだよねー。

 

「おはよう、てゐ。その様子だとウドンゲはまだみたいね」

「おはようございます、御師匠様。鈴仙ちゃんもいい加減開き直れば良いんだけどねぇ」

「ああなった原因の1つはあなたでしょ、てゐ。でも、ウドンゲの気持ちは分かるけどね。宴会であんなトンでもない事しちゃったったらね」

 

御師匠様が呆れ顔で溜息をついた所で姫様がやってきた。

 

「2人共、おはよう。鈴仙は相変わらず、というよりあれ昨日より悪化してない? 思わず攻撃しそうになったわよ」

 

どうやら姫様は鈴仙ちゃんの部屋に寄ってからきたみたいだね。

 

「そんなにですか。それならある程度の荒療治は仕方ないわね……ねぇ、てゐ?」

「えっ?」

 

まずい、こういうとてもいい顔をしてる御師匠様は、絶対に何か面倒なことを企んでいる顔だよ……

 

 

 

「はぁ……」

 

窓から入る陽の光が強くなり、お昼になったのが分かる。

いい加減、引きこもるのもやめようかな。

でも、一昨日のあの出来事が頭に浮かぶと……

 

「……」

 

無意識に指が唇をなぞってしまう。

酔っていたとはいえ、私は、あの人とキスをした。

 

「っ!?」

 

あの時の感触を思い出して、一瞬で身体が火照ってきた。

あり得ない。そんなのあり得ない。

確かに彼は、罪人の私を認めてくれた。

それに殺し合いをして、殺しかけた私を本心から相棒と、友達と呼んでくれた。とても嬉しかった。

でも、だからって、キ、キスをするまでなんて……

と、また身体が暑くなったところで、お師匠様の声が聞こえてきた。

 

「ウドンゲ? 入るわよ?」

「はいっ! あ、ちょ、ちょっとだけ待ってください!」

 

真っ赤になった顔を見られたくないとしたが、時すでに遅くお師匠様は既に襖を開けていた。

 

「……はぁ、姫様やてゐの言った通り、重症ね」

「ぅぅ~……」

「さてと、ウドンゲ。いい加減、引きこもりはおしまい。今日は、あなたに1つ仕事を言い渡します」

「はい? 仕事、ですか?」

「えぇ、いい気分転換にもなるでしょう?」

 

師匠の言いたいことは分かる。

2日間も布団に引きこもってウジウジするのは良くない。

だから、師匠は気分転換として私に仕事を頼みに来たんだ。

師匠や姫様達にこれ以上甘えるわけにはいかない。

うん、よしっ。気分一新して頑張るわ!

 

 

 

「って、これのどこが気分転換になるんですか師匠――!!!」

「声がデカいぞ、鈴仙」

 

今俺は、鈴仙と一緒に永遠亭を出て、人里に向かって歩いている。

事の始まりは、少し前の事。

朝から霊夢は、修行の為とかで紫に連れられてどこか行ってしまった。

それでいて、珍しく午前中は、文やレミリア達とかアリスとか魔理沙とか誰も来客がなく一人で留守番をしていた。

1人分の昼食を作るのも材料の無駄と思い、人里に行こうとした時、てゐがやってきた。

何でも、永遠亭はこれから診療所として開業するらしい。

それは、この前の宴会で永琳が慧音と紫と話していたようで、俺も知らなかったし、霊夢も宴会後に知らされたようだ。

まぁ、宴会では俺も霊夢もそれどころじゃなかったからな。

迷いの竹林内にある永遠亭までの道は、妹紅やお京達ウサギが案内役になる事になった。

しかし、案内役がいるとはいえあんな場所に患者は来ない。

そこで、宣伝と患者のアフターサービスも兼ねて薬の訪問販売もする事にした。

問題は、誰が訪問販売するかと言うと、永琳は必要になれば出張診断もするけど、普段は永遠亭で診断するので無理。

輝夜は姫だし、医療経験ないので無理。てゐやウサギ達も助手程度レベルで同じく無理。

その点、鈴仙は永琳の元で医学を学び、知識も経験もそれなりにあるので訪問販売兼宣伝役となった。

ただ、鈴仙はアレで結構人見知りするタイプらしく、人里にうまく馴染めない所か余計なトラブルを生みかねない。

で、なぜか俺が人里の案内役、そして、鈴仙の手伝いをお願いされたというわけだ。

 

「永琳には、俺より適任がいるとはっきり言ったんだぞ。でも、てゐやお京にまで俺が適任だって頼まれたら断るわけにはいかないだろ」

「……」

 

鈴仙はまだ納得いかない顔で俺を睨んでいる。

さっきも永遠亭で会った時は、絶叫されたっけ。

 

『なんでここにいるのよー!?』

 

顔を真っ赤に叫んでたけど、ありゃ寝起きだったな。

そりゃ寝起きの顔を男に見られたくないか、若干寝ぐせもあったし。

と、言ったらてゐと輝夜に盛大にため息つかれたのはなぜだろ。

 

「あなたはそれでいいわけ?」

「えっ? 何がだ?」

「その、私なんかの手伝い、それも人里でなんて」

 

鈴仙が俺に対して何か遠慮してるというか、気を使ってるのはすごく分かるが、その理由がいまいちわかんないな。

 

「あー殺し合いをした件か? あれは俺と鈴仙お互い悪かったって事で、もう終わった話だろ? 俺は気にしてないから、鈴仙も気にするな」

「そうじゃない! そっちじゃない! いえ、全部否定できるかと言われれば微妙だけど、そうじゃなくって、宴会の事よ!」

 

宴会? あぁ、最後のアレか。

 

「霊夢達との鬼ごっこの件か? 別にアレはなんか慣れた」

「慣れてるの!? ってまさかあ、あの……えっと、私とした、その……アレも慣れてるの?」

「口移しか? あれは流石にないな。されそうになった事はあるけど」

「だーもう、そうじゃなくって! って、まさか意識してるの私だけ……」

 

鈴仙は頭を抱えるとブツブツと何かつぶやきだした。

聞かない方がいいだろうと、意識を外した。

 

少し歩くと人里に着いた。

あれからなぜか不機嫌そうな鈴仙と共に、まずは梨奈の家へと向かった。

今日、薬師として鈴仙が訪問するのは、慧音経由で話はいっているとの事だったからだ。

 

「ごめんくださーい!」

「……失礼します」

 

玄関に入ると、近くに気配を感じなかったので少し大きな声を出したのだが、鈴仙はおずおずと声が小さい。

 

「鈴仙、それじゃ中まで聞こえないだろ」

「わ、分かってるわよ。あなたの大声に驚いただけよ」

「あ、お兄ちゃん! 久しぶり!」

 

と、そこへ梨奈が2階から階段を駆け下りてきた。

 

「おいおい、そんなに走って降りたら危ないぞ」

「大丈夫だよ。それよりいらっしゃい、お兄ちゃん」

 

階段を降りてきた梨奈はそのままの勢いで飛びついてきた。

こうなることは予想してたのでしっかりと受け止めた。

横で鈴仙が驚いて目を丸くしてるけど、気にしない。

梨奈の両親はちょっと出かけていて、お手伝いさんも買い物に出ていて今は梨奈一人らしい。

ちょっとタイミングが悪かったか。

 

「おっ、梨奈。結構大きくなってないか?」

「えへへっ、分かる?」

 

最初に会ったころより身長は伸びているし、他にも色々大きくなっている。

うん、こりゃ美琴を越えたな。

 

「あの~この子は?」

 

置いてけぼりな鈴仙が梨奈をチラ見して俺に尋ねてきた。

若干顔ひきつってるように見えるけど、緊張してるか?

 

「ん? この子は俺が手伝いしてる寺子屋の生徒だよ」

「初めまして! 御咲梨奈です」

「あ、初めまして。私は鈴仙・優曇華院・イナバ。鈴仙でいいわよ」

「ふーん、鈴仙さん……」

 

梨奈は観察するように鈴仙をジーっと見つめている。

まぁ、鈴仙の格好は人里には斬新だからな。

 

「その恰好。ここに来た頃のお兄ちゃんに似てるけど、お兄ちゃんとはどういう関係ですか?」

「えっ!? ど、どどどういう関係って、それはその……仕事、仲間?」

「動揺しすぎだ。梨奈、鈴仙は竹林の奥に住むウサギの妖怪だ。で、今は仕事仲間で俺のとも……」

「だああーーー!!」

 

友達と言おうとしたら鈴仙が突然大声を上げた。

 

「あ・な・た・は! またあの時と同じ過ちを繰り返すの!?」

「えっ? あの時って何がだ?」

「いいから、あなたは黙ってて! 全く、やっぱりこの服、人里じゃ目立ってるんじゃない? あの服装にした方が良かったんじゃないの?」

「あっちの方が不審者に見えて目立つぞ?」

 

今の鈴仙の服装は、いつものと同じブレザー服だ。

最初、出かける時には、行者のような紫色の服にうさ耳を隠すように編み笠を被っていた。

目立たないようにと鈴仙が選んだ服だが、逆に思いっきり目立っていた。

だから、普段の服装の方が鈴仙らしくていいだろ。と言うと、渋々いつものブレザー服にした。

その時、なぜか輝夜とてゐがニヤニヤしていたけど。

 

「ふーん、へぇー?」

 

梨奈は俺と鈴仙の話を興味深そうに聞いていた。

なぜか品定めをするかのように鈴仙と俺を交互に見ていたけど、急に笑顔になった。

 

「うん。色々分かった。よろしくね、鈴仙お姉ちゃん♪」

 

そして、満面の笑みで鈴仙に手を伸ばした。

対する鈴仙は最初少し戸惑っていたが、やがて何か合点がいったかのような顔をして、差し出された手を握った。

 

「えぇ、これからよろしくね、梨奈」

「「ふふふふっ……」」

 

なんか2人の間に火花が飛び交っている気がする。

まるで霊夢と咲夜、文と美鈴とかがたまにかわす視線の戦い、みたいな感じだ。

なんにせよ、鈴仙も思ったよりも早く人里に馴染めそうで何よりだ。

 

 

 

続く




はい、原作通り鈴仙は薬売りになりました。
けど、服装は普段通りの服装です。
今更ですけど、この人里では妖怪や妖精は人を襲ったりしない限り、普段と変わらない姿です。
で、久々登場の梨奈、鈴仙を早くもライバル認定(笑)
今までは梨奈は最愛より少し大きいくらいのイメージですが、今回より美琴よりも大きいくらいになってます。
背以外にも色々と、です(笑)

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