幻想支配の幻想入り   作:カガヤ

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お待たせしました!
イタリア編、これで終了です。
思ったより長くなってしまった・・・


第139話 「救出」

天草式が作った木の橋で女王艦隊の旗艦を目指す俺と当麻達の前に、剣や槍を持ったシスターが押し寄せてきた。

 

「俺がやる。下がってろ」

 

当麻達を一旦止め、俺だけで彼女達に立ち向かう。

 

「やあぁ!」

 

突撃してきたシスターのメイスの柄に、左逆手に持った木刀を滑らせ、膝蹴りを叩き込み昏倒させる。

ほぼ同時に剣が振り落とされたが、身をそむけてかわし、がら空きになった胴を木刀で斬る。

時間差で斧を持ったシスターが襲ってきたので、身を屈め背中に装備した棒で斧を受け流し、カウンターで蹴りを入れる。

すると、残りのシスター達が俺を取り囲み、一斉に武器を突き出してきた。

 

「「「やぁ!」」」

 

突き出された武器を、2本の木刀と背の棒で捌き、すり抜け様にシスター達を切り飛ばした。

シスター達は海へと落ちたが、骨にヒビも入らない程度には加減したし、大丈夫だろう。

 

「す、すげぇ。お前、剣術もできたのかよ」

「いや、剣術なんて上品なもの、俺は出来ない」

「えっ? そう、なのか?」

 

当麻は驚きの声をあげるけど、俺は剣術なんてできない。

俺にできるのは、どうすれば相手を殺せるか、どうすれば相手を殺さず倒せるか、それだけだ。

 

「ほら、ぼさっとしてないでさっさと行くぞ」

「お、おう」

 

背後を天草式に任せ、俺達は女王艦隊の旗艦、アドリア海の女王へやっとたどり着いた。

護衛艦と違い、甲板に人影はない。

それどころかこの艦自体に人の気配をあまり感じない。

 

「やっぱり、この艦が女王艦隊全体を統括制御しているんだよ。この旗艦だけは簡単に再構築できないんじゃないかな」

「護衛艦で周りを固めているのはそういう事なんだろうし」

 

艦内へ入る扉はすぐに見つかった。

扉には魔術的な鍵がかかっていて、当麻が幻想殺しで扉を殴った。

すると、扉と周りの壁が綺麗に消えて、四方をスパッと切り取ったようなあとが残った。

 

「ここも予想通りブロック構造だったって事か」

「なら、あの戦法が使えるな、当麻?」

「あぁ、そうだな」

 

ここへ乗り込む前、インデックスやルチア達から女王艦隊についてわかった事や推測できる事を教えてもらっていた。

恐らく旗艦は、ブロック構造になっていて、当麻の幻想殺しでも一気にすべては消せないだろうとの事だった。

それを聞いてある戦法が浮かび上がり、当麻に伝えた。

と、その時、甲板のあちこちの氷が盛り上がり、見る見るうちに護衛艦で見た西洋鎧へと姿を変えていき、あっという間に甲板は氷の鎧で埋め尽くされた。

 

「甲板が無人なのって、これがあるから、なんだな」

 

当麻が右手を構えるが。

 

「中へ!」

「全部相手にしてたらキリがないんだよ!」

 

オルソラが叫び、インデックスが当麻の手を取り中へと引っ張った。

インデックスの言う通り、こんなところで時間をかけるわけにはいかない。

 

「オルソラ、これで道案内頼む」

「これは、あの時の?」

 

オルソラに手渡したのは、俺や当麻達に付いている発信機の位置を3Dでマップ上に表示させる追跡デバイスだ。

今画面上には、アドリア海の女王をスキャンしたマップが表示されてい俺、当麻、インデックスの場所を示す3つの青い点がある。

それから船の最深部に赤い点が1つ点いている。

 

「今この船全体を大まかにスキャンした。これが俺達の現在地だ」

「この3つの青いのが俺達か。じゃあこの赤い点は?」

「アニェーゼにこっそり仕掛けた発信機だ」

「えぇ!? お前いつの間につけたんだよ」

 

当麻が呆れたように言うけど、本人に気付かれずこっそり発信機を付けるのは初歩なんだよな。

具体的にいつ付けたかと言えば、隠れていた部屋に入ってきたアニェーゼを取り押さえた時に付けた。

あの時は念のために付けたんだが、まさかここまで面倒になるとは思わなかった。

 

「お前、案外抜け目ないんだな」

「案外ってなんだ案外って」

 

こんなの当たり前の事……って、暗部を知らない当麻には分らないか。

それにしても、今更言われた感あるな。

 

「話を戻すぞ。アニェーゼがいるのが最深部のここ。恐らくここがこの術式の核になっている場所、だろインデックス?」

「うん。ここには壁や床全体に魔術的な意味が込められているから、それを辿っていくといいんだけど。たぶん、ルート的にもここで間違いないんだよ」

「というわけで、オルソラはこれ使って道案内してくれ、多分ここには敵兵はいないけど、あの船にいた氷の鎧……なら!」

「「「っ!?」」」

 

背後に振り向きざまに背中に差した棒を抜き突き出す。

すると、そこにはいつの間にか接近していた氷の鎧が巨大な斧を振り下ろす所だった。

 

――ドゴッ

 

鈍い音がして鎧の頭部に棒が突き刺さり、鎧は動きを止めた。

こういう時の為に天草式から硬い棒を貰った。

 

「当麻!」

「おう!」

 

そこへすかさず当麻が幻想殺しで鎧にとどめをさそう、としてこけた。

そして、こけた拍子に俺の足元付近に右手が触れてしまった。

 

「えっ?……」「あっ……」

 

足元の床が綺麗に四角く切り取られ、俺はそのままその穴に吸い込まれるように落ちていく。

咄嗟に手を伸ばしたが一足遅く、その手は宙を切った。

 

「バ、バカーーー!!」

「わわっ、わ、悪い、ユウキ!」

 

下の階層まで高さ的に距離があったが、何とか受け身を取って下の階の床に降り立った。

 

「大丈夫か、ユウ……くそっ!」

 

穴の向こうから当麻の焦った声がしたと思ったら、氷の鎧が次々と穴の周りを横切るのが見えた。

恐らく鎧が殺到してきて逃げたのだろう。

 

「仕方ない。こっちはこっちで動くか」

 

一先ず周りを見渡し、どうやらここは船倉だという事が分かった。

さっき見た船の見取り図を頭に思い浮かべ、ここからアニェーゼまでの道を確認。

インデックスほどじゃないが、さっき見た図面を瞬時に記憶するくらいはできる。

それから当麻の携帯に、合流地点はアニェーゼの所、とだけメールをして船倉を出た。

すると、既に居場所がばれていたのか、鎧達がワラワラと通路に群がっていた。

 

「あっちは大丈夫だろうな」

 

突進してきた鎧の間をすり抜け、脚部の関節を砕く。

本来なら、こいつらは俺と当麻で相手をして、オルソラが道順の確認、インデックスには魔術的な罠を見つけてもらう、そういう手筈だったのだが、うまくいかないものだ。

 

「ただ砕くだけでもそれなりに有効か」

 

砕かれた鎧が倒れたまま、両手を動かしている。

幻想殺し以外で砕けばすぐに再生するかと思ったが、そういうわけでもないらしい。

だけど、いちいち再生速度を確認している暇はない。

 

「人間相手以外なら加減する必要もなくて楽だ、な!」

 

腰の木刀は使わない。もともとこれはアニェーゼ隊のシスター達を殺さずに戦闘不能にする為に用意したもの。

ただでさえ、さっきアンジェレネを助ける時に氷の砲弾を真っ二つにした事でヒビが入っている。

これでは、氷の鎧相手では長くは持たないだろう。

両手に棒を構え、襲い来る鎧の腕を叩き壊す。

砕いた腕が持っていた剣を奪い、反対側から来た鎧の頭部に突き刺す。

剣はそのまま折れてしまったので、手を放し廻し蹴りで顔面を狙い、後方から迫る鎧の集団へ蹴り飛ばす。

ストレス解消にちょうどいいな、これ。

 

「本当は素手で砕きたいけど、流石に厳しいか」

 

いつも戦闘で使う殴打用のグローブをはめているならともかく、ただの素手で砕けると思うほどうぬぼれてはいない。

ま、ただの人相手なら簡単に撲殺できるけど。

 

「でも、こういう手でなら」

 

滑るように迫ってくる鎧集団の先頭の一体を、棒で足を払い転倒させ頭を潰す。

更にその後ろから来た鎧の頭を掴み、床に叩きつけ、同じく頭を棒でつぶした。

ここは、この船に入ってきた時の通路よりも細いので、数体鎧の残骸を転がせばそれだけで通路を塞ぐことができる。

それでも、こいつらならすぐに強引に突破してくるだろう。

今のうちに、アニェーゼが囚われている場所へと向かう。

 

――ドォン

 

鎧を破壊しながらしばらく進むと、少し離れた場所から爆発音のような音がした。

 

「ちっ……」

 

少しだけ足を止めたが、すぐに思い直し最深部を目指した。

気にはなったが、ここからは離れた場所で下手に向かうとアニェーゼの所まで行くのに時間を取られそうだったからだ。

あの音が当麻が出したものなら、悪運強いからきっと辿り着くはずだ。

 

 

そうして、アニェーゼのいる場所が近くなってきたと思ったら、前方に扉が開いた部屋が見えてきて中から声が聞こえてきた。

うかつに入らず、耳を澄ませるとこの中にアニェーゼがいて、オルソラともう1人の誰かが会話をしているようだ。

当麻とインデックスの気配がない。どうやらはぐれたか、囮になったようだ。

でも、今はそれよりも中から聞こえる会話に集中する。

中にいる男がルチアの言っていた今回の黒幕、ビアージオという名の大司教らしい。

ビアージオの狙いはやはり、アドリア海の女王を使い、学園都市を破壊して科学サイドを完膚なきまでに潰す事のようだ。

アドリア海の女王の歴史とか、色々話しているが俺には関係のない事だ。

要は、これが学園都市と科学サイドを破壊するもので、ビアージオをぶっ潰せば良いという事が確定した。

アニェーゼを救出できれば、ビアージオの目論見もご破算になるのも確認できた。

なら、もういいか。

 

「ローマ正教の悲願なのだよ。だからここで暴れてもらっても困るんだ」

「いや、今更そんな事言われても暴れまくってるわけだし?」

「っ!? 誰だ貴様!?」

 

突然の侵入者に驚くビアージオらしき男。

なんか、思ってたよりもずっと酷い顔。

いかにも悪人って顔だな。数多といい勝負だ。

 

「どもー通りすがりの旅行者です」

「ユウキさん。ご無事だったのでございますね」

 

ほっとした顔をするオルソラと、対照的に驚いた顔をするアニェーゼ。

なんで、そんなに驚くかな?

 

「まぁな。そっちこそ大丈夫だったか? 当麻とインデックスは、はぐれたか?」

「あ、はい。お2人とも囮になると……それに、あの方は」

 

そういってオルソラはちらりとビアージオの右手に目を向けた。

ビアージオの右手には血らしきものが見える。

どうみてもビアージオの血には見えない。

という事は……

 

「当麻なら大丈夫だろ。あいつ見た目より頑丈だし。それより、アニェーゼを早く助けないとな。これ、どうなってるんだ?」

 

アニェーゼは、氷で出来た巨大な球体に寄り添うような形になっていて、よく見ると少し球体に取り込まれているようだ。

球体を視たところ、膨大な魔力を感じる。

恐らく、これが術式の要なのだろう。

幻想殺しなら簡単に壊せるのだろうけど、これは能力停止では解除できない。

かといって手持ちの武器でも破壊できそうにない。

だったら……

 

「な、なんであなたまでここに来ちまってるんですか!?」

 

驚きのあまり固まっていたアニェーゼだったが、ようやく口を開いた。

 

「なんでって、お前を助けにだぞ? オルソラやあいつが来てるんだから俺だって来るだろ?」

「そ、それはそうなのですが……」

「ええい! 何をごちゃごちゃと、私を無視して喋っているのか、この異教の猿が!」

「お前まだいたのか。邪魔だからとっとと巣に帰れよ、しわくちゃチンパンジー」

「な、なにをっ!?」

 

チンパンジー、もといビアージオは顔を真っ赤にしながら胸元の十字架に手を伸ばした。

あれがあいつの礼装か。それじゃあいつが使う魔術は、っと。

 

「日本人なら誰でも彼でも猿猿って言ってる単細胞と言った方が良かったか? 人を猿言う前に鏡見ろよ、どう見たってお前の方が老いてキーキーわめくしか出来ない皺だらけのチンパンジーじゃないか。あ、チンパンジーは元から皺多いか」

「ぷっ……」

 

今吹き出したのはアニェーゼだ。

この状況でのんきな事だ。

って、俺がそうさせたんだけどな。

 

「こ、この、主の威光をもって万民を導こうとせん、ビアージオ=ブゾーニを下等な猿どもと同列にするか、この異教徒めがぁ!」

「異教徒って、別に俺はどっかの宗教に入ってるわけじゃねぇっての、オルソラ借りるぜ! 万物照応。五大の元素の元の第五。平和と秩序の象徴『司教杖』を展開」

 

オルソラからアニェーゼの杖を取り、()()()()()()()()()()()()()()アニェーゼを視た。

俺がアニェーゼの魔力を使った事は、ビアージオも感じたらしく目を見開いていた。

 

「その力は、シスター・アニェーゼの……なんなのだ貴様はぁ!」

「学園都市からの刺客、って奴かな? 最もお前らが変に手を出してこなきゃただの観光客で終わってたんだけどな」

「学園都市の……お、おのれぇ! 十字架は悪性の拒絶を示す!」

 

ビアージオが胸元から投げつけてきた十字架があっという間に巨大化に襲い掛かってきた。

が、俺の方はすでに迎撃の詠唱は終わっている。

迎撃と言っても、ビアージオに対して、ではないが。

 

「異なる物と異なる者を接続せよ!」

「なにっ!?」

 

杖に当たる直前、十字架の衝撃はそのままアニェーゼを縛り付けていた氷の球体を直撃した。

氷の球体は砕け散り、自由の身となったアニェーゼが崩れ落ちそうになったので、小脇に抱えオルソラの所まで下がった。

 

「えっ、これは一体?」

 

救出されたアニェーゼは今何が起こったのかさっぱり分からないといったようで、唖然とした顔で俺を見ていた。

 

「そういえば、俺はお前の魔術当麻達から教えてもらってたけど、お前は俺の能力知らなかったよな」

 

ルチアやアンジェレネには使ったけど、アニェーゼの前では幻想支配、使ってなかったな。

俺がやった事は簡単。

アニェーゼの魔力を使い、蓮の杖を起動させてビアージオの魔術を利用して球体を破壊しただけだ。

 

俺自身の力では棒を使っても球体は破壊できそうにない。

そこでさっき、ビアージオを揶揄う間、こっそりと視てアイツが使う魔術を一通り覚えた。

と言っても、アイツの魔力はなぜか普通の魔術師達とは何か違う感じがして、コピーするのは時間がかかりそうだった。

だから、直接使わず、アニェーゼの魔術を使ったのだ。

ビアージオも俺の挑発で頭に血が上ってなければ、俺から自分の魔力を感じただろうにな。

感づかれないように挑発したわけだけど。

 

「そうではなく、なぜ敵だったあなた達がここまでして私を助けるんですか! あの時は利害が一致したからですけど、でも、今回は……私を助ける利なんてあなた達には!」

 

オルソラの傍まで戻り、地面に立ったアニェーゼが睨むような、それでいて苦しそうな表情で俺とオルソラを見上げて叫んだ。

対してオルソラは、苦笑いを少しだけ浮かべたが、すぐに慈愛に満ちた表情へと変わった。

 

「先ほども申し上げましたが、あなたの帰りを待っている人たちがいます。それだけで理由になりませんか?」

 

アニェーゼはオルソラの言葉にハッとした顔をした。

俺が来る前に、アニェーゼとオルソラで何か会話があったようだな。

 

「おのれ、私を無視するな! 十字架はその重きをもって 「うるさい」 ブホォッ!?」

 

ビアージオが何かしようとしたが、それより速く俺が投げた棒が当たった。

 

「アニェーゼ、俺はオルソラや当麻みたいに説教とかグダグダ話すのは性に合わないから簡単に言うぞ……利? そんなの知るか」

「えっ?」

 

さっきまでとは打って変わって、キョトンとした顔をするアニェーゼ。

 

「オルソラが言うようにお前を待ってる人がいて、その人達とお前、全員を助けたいって動く馬鹿がいる。俺はその馬鹿の護衛についてきただけだ」

 

と言いつつ、今回肝心の護衛が真っ先に護衛対象からはぐれちゃったんだが、考えないようにしよう。

 

「ま、ここまで来た以上、見過ごすのは胸糞悪いからな。要するに、俺は俺の為、自分勝手にお前を助けるって事だ」

「……ぷっ、なんですかそれ。要するにあなたもその馬鹿の1人ってだけじゃないですか」

「あー、そうかもな。馬鹿が移ったようだ。で、馬鹿が沢山お前を待っているんだが、どうする?」

「全く、馬鹿ばかりですか。ですが、シスター・ルチアは馬鹿真面目だったり、うちのシスター達も真面目そうに見えて案外馬鹿な所ありますし」

 

俺はアニェーゼに杖を差し出すと、彼女はさっきまでの弱弱しく苦悶に満ちた表情とは正反対の、初めて会った時や敵として対峙した時のような不敵な笑みを浮かべて受け取った。

 

「まぁ、クソみたいな命令で無理やりうちのシスター達を戦わさせられてるアイツよりは、馬鹿の方がまだ1000倍マシなんでしょうね!」

「じゃ、やるぜ、アニェーゼ!」

 

俺は、さっき棒が当たった事で地面に散らばったビアージオの小さな十字架を片手に持ち、腰の木刀を抜いた。

ビアージオもヨロヨロとしながらも、なんとか立ち上がった。

さっきの攻撃で気絶してくれれば良かったんだが、当たりがちょっと浅かった。

 

「なめた……口を、利いてるんじぇねぇぞ、この罪人共がぁぁぁ~!! 十字架は…「十字架はその重きをもって驕りを正す!!」 なにぃ~!?」

 

ビアージオが発動するより早く俺が拾った十字架を使い、魔術を発動させた。

咄嗟にビアージオはその場を退き、どうにか十字架の攻撃から逃れたが、まだまだこれからだ。

 

「アニェーゼ!」

「偶像の一。神の子と十字架の法則に従い、異なる物と異なる者を接続せよ」

 

俺が木刀をアニェーゼの杖めがけて思い切り振りぬき、同時にアニェーゼが魔術を発動させる。

 

「ぐほぉっ、な、なんだと……」

 

すると、杖に掛かるはずだった木刀の衝撃が、十字架を取り出し反撃しようとしていたビアージオの腹部に襲い掛かった。

 

「ぎ、きさま……なぜ、なぜシスター・アニェーゼだけでなく、私の……力、まで」

「教えるかよ、チンパンジー」

 

ビアージオのダメージは相当なはず。後はアイツから十字架をすべて回収して、当麻を探して幻想殺しでこの部屋を破壊すれば終わりだ。

そう思っていた矢先の事だった。

 

「あ、ギッ、あああぁぁぁぁ~!!」

 

突然アニェーゼが床に倒れ伏してもがき苦しみだした。

と、同時に船全体が地震にあったかのように大きく揺れて、崩れ始めた。

 

「アニェーゼさん!? もしかして、刻限のロザリオがまだ!」

 

オルソラがアニェーゼに駆け寄り、俺はビアージオへと向き直った。

ビアージオは息を荒くしながらも1つの十字架を握りしめていた。

その目はもはや正気を失っており、狂気に満ちた笑みを浮かべている。

 

「ビアージオ! それが刻限のロザリオか!」

「礼装を介してアニェーゼさんに何かしたのでございますか!」

 

ビアージオを止める為駆け出したが、天井が崩れてきて行く手を阻んだ。

 

「ハッ、刻限のロザリオ……このままでは、使えんよ。未調整のままではな。だが、力はここにある。術式を爆発させて、貴様らローマ正教の脅威を潰すだけの力はなぁ!」

「そんなっ! この術式が爆発すれば、私達だけではなく、ヴェネツィアやその周囲の街までもが巻き込まれてしまいます!」

「これだけ膨大な魔力の爆発だもんな!」

 

なんとか瓦礫の隙間からでもと思ったが、すでにビアージオの姿は完全に瓦礫の向こうに隠れていて視えない。

声はすぐそばに聞こえるのに姿が見えない。

これでは能力停止は使えない。

ちっ、もっと早くとどめを刺して完全に気絶させるべきだった!

 

「オルソラ、アニェーゼとインデックス、当麻を受信機で探してここから脱出しろ!」

「あ、あなた様はいかがなさるのでございますか!?」

「こいつは俺の不始末だ。俺がケリをつける」

 

瓦礫をよけるなり砕くなりして何とかビアージオを視るだけでもできれば……

 

「ユウキ! お前も脱出してくれ!」

 

と、瓦礫の向こうから当麻の声がした。

 

「当麻!?」

「き、さま。生きていたのか!」

「死体くらい確認しろよ。ユウキ、状況は分かってる。こいつは俺が止める。だからオルソラ達を頼む!」

 

声の感じから重傷は負っていないようだが、それでも無傷ではないはずだ。

だが、今の状況では俺にできることはない。

 

「……行くぞ、オルソラ」

「はい……」

 

オルソラももどかしさを感じながらも、この場を逃げる事に同意した。

 

「必ず、後から追いつく!」

「絶対、絶対でございますよ!」

 

瓦礫の向こうからの当麻の力強い声を聞き、アニェーゼをおぶり俺達は部屋を出た。

途中、インデックスとも合流し、外で待機していた天草式にオルソラ達を託し、俺は崩れ行くアドリア海の女王へと戻った。

瓦礫の山をかき分け、当麻の発信機の辿り、どうにか海中に沈んでいくボロボロの当麻とビアージオを引き上げ再度脱出した。

 

 

それから、当麻の傷の状態を看て、学園都市に報告して急いで帰りの手配をした。

ここまでの大怪我を学園都市外部の病院で手当するわけにはいかないからだ。

近くの病院から学園都市に戻る道中、冥土返しからの電話を受け、当麻が何か叫んでいたがいつもの事なので無視した。

 

こうして、俺の生涯初めての海外旅行は幕を閉じた。

もう俺が海外に行くことはないだろう。

そう、思っていた。

 

だが、この数か月後に、再度海外へ渡ることになるとは。

それも、第三次世界大戦の戦場のど真ん中へと、予想外の人物達と行くとは思っていなかった。

 

 

続く




はい、やっと過去編Ⅳ終わりです。
最後はちょっとアレですけど(;'∀')
長かったなぁ。まさか1年かかるとは……いや、執筆遅かっただけですけど(-_-;)
まさか過去編Ⅳの最中にとある魔術の3期始まるとは思わなかった(笑)
しかも、とある科学の超電磁砲3期と一方通行がアニメ化!
待たせてくれた分一気にとあるシリーズ進展しますねぇ。

では、次からはやーっと幻想郷の日常ラブコメ(?)になります(笑)


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