幻想支配の幻想入り   作:カガヤ

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大変お待たせしました!
イタリア編、ラストスパートです


第138話 「海戦」

アニェーゼとついでに学園都市を助ける為、脱出したばかりの女王艦隊へと再び乗り込むことになった。

今回の突入に関しては、作戦は天草式に一任した。

俺は海戦の経験なんかないからな。

その点天草式は、海戦が大得意というだけあって紙から木船を造る魔術や、木船で出来た艦隊の運用などテキパキと戦術を立てていた。

どうやら俺達の救出に使った上下艦と、火薬を積んだ火船を囮にして乗り込む作戦。

単純だけど、これならいけると思う。

さて、俺の準備もしないとな。

 

「斎字、悪いんだけど武器余ってたら貸してくれないか?」

「武器? おぉ、余ってるから構わないが、使えるのか少年?」

「これでも小枝からロケットランチャーまで何でも使えるぞ」

「そ、そいつはまた極端だな。で、何が欲しいんだ?」

「木刀、なければ日本刀でもいいけど。後は堅い棒だな、刃付いてなくていいぜ」

「それくらいならいくらでもあるのよな」

 

というわけで、天草式から2本の木刀と1本の棒を借りた。

借りたといっても恐らく、いや、絶対に無傷で返せるはずもなく、実質的に貰ったことになるな。

斎字も返ってくるとは思ってないみたいだし、思う存分使ってあげましょうか。

 

――ズキッ!!

 

「ぐっ!?」

 

と、ここで突然、一瞬だが強い痛みが頭に走った。

なんだ、この痛みは。今まで何度か幻想支配の使い過ぎとかで頭痛が起きた事はあったけど、こんな痛み方は初めてだ。

頭を押さえ、しゃがみこんだ時、目に映る景色がぼやけて見えた。

まるで微妙に違う2枚の重なった絵を網膜に直接投影されたかのような、そんな既視感にも似た何かだ。

でも、それはすぐに収まった。何なのかはわからなかったが、今は気にしないことにした。

どうせ気にしたところで、学園都市からかなり離れたここじゃ意味がない。

それよりもこれからの戦いに向けて確認する事があった。

 

「ルチア、アンジェレネ、そっちの準備は終わったか?」

「はい。アンジェレネ、あなたもいいですね?」

「は、はい。終わりました!」

 

ルチアは、術式に使う木の車輪を天草式が紙から生み出した木で作り、アンジェレネも革袋に硬貨を入れて武器を用意した。

ちょっと幻想支配で視てみたが彼女たちの魔術は、法の書の時より精度が上がっているようだ。

でも、アンジェレネの方はまだ術式の詰めが甘そうに見えるな。

魔術に関してはあまり分かってないから口出しできないけど。

 

「当麻達もいいか?」

「あぁ、と言っても、俺は何もないんだけどなぁ」

 

当麻は相変わらず幻想殺し一本で女王艦隊に乗り込むつもりだ。

ま、下手に武器持たせるよりは慣れてる素手の方がいいか。

オルソラは、インデックスから天使が彫られた銀で出来た杖を武器にするようだ。

アレは、確か法の書の時にアニェーゼが持っていた杖だな。

あの時回収していたのか。

確か、アニェーゼの魔術はちょっと面白い効果だったな。

 

「2人とも、今のうちに言っておく事がある。恐らく、相手はアニェーゼ隊になると思う」

「「………」」

 

ルチアもアンジェレネもそれはわかってはいたのだろう。

けど、アンジェレネはまだどこか迷いに近い戸惑いが見える。

 

「一応手加減はするけど。向こうの出方次第ではどうなるかわかなんないって事だ」

「えぇ、分かっています。私達の最優先はシスターアニェーゼの命です」

「よしっ、こっちの準備は終わった。お前らも準備終わったようなのよな」

「あぁ、行こうぜ女王艦隊へ」

 

今回天草式の取った作戦は、まず紙から作った大量の小型木船で艦隊を作る。

しかし、この木船は数こそ多いがどれも大砲や武器は一切積んではいない。

武器が付いていないのなら、これ自体を武器にすればいい。

 

女王艦隊VS木船艦隊。

俺達の前方には、先ほどまでと同じように女王艦隊が佇んでいる。

まずは、囮、その1の出番だ。

 

「よしっ、ドンドンいけぇ!」

 

斎字の号令と共に、木船艦隊のすべてが一斉に女王艦隊へ向けて進撃を開始した。

元から武器のないこの木船にできる事、それは特攻のみだ。

 

――ドカンッ!ドカンッ!

 

女王艦隊から、氷で出来た砲弾が次々とこちらの船を落としていく。

でも、数だけは多くそろえたこの艦隊、そう簡単には全滅できない。

やがて1隻、2隻と次々と女王艦隊へとぶつかり、大爆発を引き起こした。

実は俺達が乗っている船以外には火薬が積まれている。

 

「昔、イギリス海軍がスペインの無敵艦隊を破った時の戦法を真似させてもらたのさ」

「確か本物の軍艦に火薬を載せて突撃させたんだったよな」

「それはまた、大雑把な計画だな」

 

当麻が呆れたように言うが、計画はまだ終わっていない。

 

「さて、そろそろいい頃合だ」

 

斎字の合図と共に、上下艦が奇襲をかけるように女王艦隊へ向けて急浮上していった。

が、同じ手が通用するほど敵もバカではない。

対海中用の魔術砲弾を使用してきた。

上下艦の機動力ではかわすことは難しく、次々と着弾し爆発。

アッという間に沈められてしまった。

 

が、これも囮。

本命の俺達が乗った木船は、特攻と見せかけた激突で既に女王艦隊の一隻に既に取り付いていた。

 

「各艦の制圧は考えるな! 相手の核だけ潰す事を考えればいいのよな!」

「一か所でもたついてると、奴ら船ごと俺達を攻撃してくるぞ! 次々乗り移れ!」

 

俺達が飛び乗った船にはあまり人が乗っていないようで、甲板に人の気配はない。

すぐに天草式が紙から作った橋を渡り、次の船へと渡っていく。

次の艦ではさっきと違い、大勢のお出迎えに囲まれた。

その中の面々には、法の書の時に見覚えのある顔がちらほら見えた。

 

「アニェーゼ隊……お前ら、アニェーゼがどうなるか分かってるんだろ! だったら! ユウキ?」

 

立ち塞がるアニェーゼ隊の面子を睨む当麻を制し、前へ出る。

 

「俺達はお前らと押し問答してる時間はないんだ。だから、3つだけ言っておく。1つ、俺達はアニェーゼを助けに来た。2つ、協力しろとは言わない。が、邪魔するなら力づくで押しとおる! 3つ、その場合、殺しはしないが、骨の2、3本は覚悟してきやがれ!」

「……っ」

 

少し、ほんの少しだけ動揺が見えたが、それでもすぐに彼女達は武器を構えて俺に向けて突進してきた。

 

「仕方ない、よな!」

 

腰に差した2本の木刀を抜き、アニェーゼ隊を数人まとめて弾き飛ばした。

 

「殺さない程度にしか、手加減はしないからな」

 

本気の殺気を込めて睨む、それでも彼女達は引こうとはしない

 

「この馬鹿者共が! それだけの度胸があるなら、なぜシスター・アニェーゼを救う為に動けないのですか!」

 

ルチアは木の車輪を放りなげ、アニェーゼ隊の上で爆発させる。

爆発した木片はアニェーゼ隊へと降り注ぎ、倒れていく。

その隙に、当麻とインデックス、オルソラが次の船へ向けて進む。

が、まずい事が起きた。

 

「ちっ、急げ! もう砲をこっちに向け始めたぞ! お前らも邪魔したかったら次の船まで追ってこい!」

 

懐から天草式にもらった紙の束を取り出し次の船へと橋をかける。

すでに天草式の1人を幻想支配で視ているので、彼らの術式が使える。

 

――ドンッ!

 

当麻達が次の船に移ったと同時に、砲撃が始まった。

残ったのはルチアとアンジェレネだ。

 

「ここには味方しか残ってないってのに!」

「そんなのあいつらには知ったことじゃないんだろ! ったく! 悪い、先に行け!」

 

このままじゃ残ったアニェーゼ隊が危ない。

ルチアとアンジェレネもそれを気にして、船に残ったようだ。

俺も急いで元の場所に戻った。

護衛対象は当麻とインデックスだけど、そんな事言ってられない。

砲撃の第二波がすぐに発射された。

 

「きたれ! 12使徒のひとつ!」

 

アンジェレネが魔術を発動させ、投げつけた4つの金貨袋にそれぞれ4色の羽が生えてマストに当たり砕いた。

そして、折れた船のマストが盾代わりとなり、敵の砲弾の直撃を防いだ。

ナイス判断。でも、それだけじゃまだ足りない。

盾となったマストが割れて、大きな破片が船の上に落ちてきている。

 

「ルチア!」

「分かっています! このっ!」

 

ルチアが巨大な車輪を破片に当ててさらに小さく砕いた。

それでも、まだ当たりそこなった大きな破片が残っている。

そのうちの1つがアニェーゼ隊の1人に向かって落ちてきていた。

 

「きたれ! 12使徒の、あぁ!?」

 

アンジェレネがそれに気づき、金貨袋の魔術で破片を防ごうとしたがさっき使った衝撃で袋が破けてしまっていたようで、中の硬貨がバラバラと零れ落ちてしまった。

これでは魔術は発動しない。それでも、アンジェレネは躊躇する事なく、大きな破片に当たりそうになっているシスターを突き飛ばし救った。

けれども、今度はアンジェレネが危ない

 

「間に合えぇ~!!」

 

俺も、全力で走り、間一髪頭に破片が当たりそうになっているアンジェレネを抱き抱えて甲板を転げまわった。

勢いがつき過ぎて危うく落ちそうになったが、何とか踏ん張って持ちこたえた。

危なかった。天草式の術式で身体強化してなかったらあの距離とタイミングじゃ、流石に間に合わなかったかもしれないな。

 

「ふぅ……無事か、アンジェレネ」

「は、はい。ありが……」

「礼は後だ! てめぇら!」

 

アニェーゼ隊のシスター達は、最初自分達を救おうとしたアンジェレネに少し動きが止まったが、すぐに動き出した。

倒れこんだ俺達へと追撃を放とうとしていたシスター達を蹴り飛ばす。

この期に及んでもまだアンジェレネに攻撃を加えようとする彼女達に、怒りがこみあげてきたので今のは結構本気の蹴りだ。

蹴られたシスター達は船から落ちたが、骨が折れた感触はなかったし、たぶん生きてるだろう。

なおも詰め寄ろうとしたシスター達の前に、追いついてきた斎字達天草式が立ち塞がった。

どうやら最初に乗り込んだ船にも船倉にいくらか敵が残っていて、その相手をしていたみたいだ。

 

「ったく。心の底からつっまんねぇモンをこの俺に見せてんじゃねえのよ!! だが……」

 

斎字はチラリと俺達を見て、無事を確認すると安心したかのようにフッと笑みを浮かべた。

 

「シスター・アンジェレネ! 大丈夫ですか!?」

「シスター・ルチア、大丈夫ですよ。みんなで無事に帰るまで、私も、シスター・アニェーゼも、そこのみんなも、誰も死ぬわけないじゃないですか」

 

そこへ、ルチアとアンジェレネを狙って、隣接する船から3つの砲弾が放たれてた。

 

「あっ!」

 

斎字達が反応する前に、()()が先に動いた。

 

――ギャンッ! ギンッ!

――パキーンッ!

 

対照的な2種類の音は、それぞれ氷の砲弾から発せられた音だ。

 

俺が木刀で真っ二つに斬った2つの砲弾。

それに、当麻が幻想殺しで砕いた砲弾から発せられた音だ。

しかし、いくら魔術で作られたものだからって、躊躇いもなく飛んできた砲弾を手掴みしようとするかな。

流石、当麻だ。

 

「その願いは、アニェーゼも心の中で願っていたものだ。あいつは自分を犠牲にしてでも、ルチア、アンジェレネ、そして、お前らも救おうとしていたんだ!」

 

敵対姿勢なままのシスター達へと木刀を向け、しっかりと彼女達を視た。

 

「その願いをかなえる為なら、俺は何度だって立ち上がるし、どんな所にだって行ってやる!」

 

砲弾を砕いたその右手を強く握りしめ、改めてシスター達へと突き出す。

 

「だから使命感とか任務とか、そんな下らないものに縛られて、大事に慕って信じてるリーダーを助ける事もせず」

「敵対しても、それでも自分を救おうと体を張った仲間の、その願いを踏みにじるっていうなら、それが使命だと思っているなら」

 

「「まずは、その幻想を ぶち殺す/支配する !」」

 

 

 

続く




今月は台風やら地震やら、他にも個人的に色々ありすぎでした・・・

ともかく、これで後1話でイタリア編終了!
出来ればいいと思っていますが、2話になる可能性も無きにしも非ずです!

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