幻想支配の幻想入り   作:カガヤ

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お待たせしました!
相変わらず描写穴だらけですが、ご了承ください。



第132話 「食蜂操祈」

事の始まりは今から少し前、学園都市に残っている妹達の情報を集めている組織が複数確認された事から始まった。

まぁ、これは予定内だったし、そう簡単に妹達の事を追跡できないようにしていたので問題はなかった。

ただ、その中の1つに暗部が関わっていて、もう1つの組織に食蜂操祈が関わっていると分かった。

 

「暗部がわざわざ関わるなんて妙だな。それに操祈もなんでだ?」

 

妹達を学園都市と世界各地へ治療目的で分布させた事に裏があるのは、すでに知っている。

それに上層部の思惑があるなら、わざわざ暗部を使って学園都市内部の妹達の所在を確認する必要はない。

 

「主流派ではなく、どっか別の所」

 

暗部に関して言えば、主流派の動きではないのなら、その事を知らせて向こうから動きを止める事もできる。

問題は、暗部を動かしたのが誰かという事だ。

 

「……幻生か」

 

今、幻生は学園都市内部で色々動いているとはいえ、すでに俺に一度殺されて主流派ではなくなっている。

だからこそ暗部を使って妹達を狙っている。

ミサカネットワークが狙いか、それと美琴か、もしくは、一方通行を引きずり出すつもり、か?

 

「アイツの事だから狙いが多すぎて逆にわかんないな。まさか操祈が動く事を前提にしての、外装代脳狙い?」

 

幻生のしでかしそうな事は、考えれば考える程膨大になっていく。

だからこそ、俺はあいつの抹殺許可が出ても追跡しきれないでいるんだけどな。

前にあのババアが追跡しかけたが、それでも逃げられた。

アイツは表出て学会や実験やらに顔を出す事はあっても、そこでは補足できなかった。

毎回影武者だったり、妨害だったりで逃げられてしまう。

だからこそ、向こうから動きだしてくれた今回だけは外したくない。

 

「その為には、使えるものは何でも使わないとな」

 

まずは、今回の幻生の手駒を調べる事にした。

最初に浮かび上がってきたのは、警策看取という少女。

そして、その少女の名を目にした時、ある昔の事を思い出した。

俺と操祈が出会う事になった仕事だ。

 

「警策看取。そうか、才人工房の一件でのあの子が生きていたのか」

 

才人工房、天才や偉人級の人間を人工的に生み出す事を目的とした学園都市暗部の研究機関、のはずだった。

それが食蜂操祈という超能力者候補を手に入れた事で半ば暴走、本来の目的とは違った動きを見せた。

で、俺がその機関へ潜入して調査し場合によっては排除を命じられた。

そこで出会ったのが、操祈だった。

操祈はすでにそこにいた研究所職員全員を洗脳して、操り人形にして裏から支配していた。

所属する能力者に関しては手を出すなと言われていたので、操祈から話を聞いて、問題なしと上には報告した。

ま、操祈から話を聞く時に一悶着はあったけど。

その時にかつてドリーというクローンとの出来事も操祈から聞いて 【みーちゃん】 という存在も知った。

で、そのみーちゃん 【警策看取】 という名前で消息不明になっていることも知った。

でも、その時の俺は必要以上に詮索しなかった。失敗だったかな。

 

「その警策看取が、幻生の協力者、ねぇ。またどんな洗脳紛いの手を使って利用しているのやら、あのクソジジイ」

 

協力者と言っても、生易しい関係ではない。恐らく幻生が警策看取の事をうまく利用しているのだろう。

 

「これは、使えるか」

 

警策看取の過去、ドリーとの関係、消息不明となって今までどうしていたかの経緯を調べる事にした。

幻生の企みを知るには遠回りな事だが、これも何かの役に立つと思ったからだ。

その結果、警策看取がかつて親友であるドリーの投薬実験の中止を訴えて、反抗とみなされ軟禁された事。

ドリーにはクローンの妹がいる事、などなどたくさん知る事が出来た。

そして、尼視からの情報で幻生の狙いが外装代脳とミサカネットワークを利用した美琴の暴走だという事が分かった。

これらすべての情報と考えられる展開をいくつも予想して、ある計画を立てて操祈と会う事にした。

 

「はろぉ~先輩☆久々の御呼出しなんて一体どんな要件かしら? 最近は大人しくしてたつもりですけど?」

「よく言うぜ。妹達の事とか幻生の追っかけとか、俺が知らないなんて微塵も思っていないだろ?」

「流石の諜報力。でも、始末しに来たわけじゃないんですよねぇ?」

 

才人工房の一件以来、なぜか俺は操祈のお目付け役というか何かしら縁がある事が増えた。

当時の操祈は情緒不安定な時が多く、その調整として俺の幻想支配がうってつけという事だったのだろう。

操祈自身も俺には露骨な嫌悪感を示さなかったしな。

ま、初対面で頭の中覗かれた時。

 

『なんでこの娘、目が椎茸なんだ?』

 

と思った事で、操祈が変に力が抜けたからかもしれない。

でも、俺が別件で手が離せない時、幻想殺しと接触した事でお役御免となった。

と思っていたら、幻想殺し共々デッドロックとかいうチンピラ暴走族に狙われているのを、アフターサービスとして対処した。

そして、当麻と操祈の哀しい関係も知ってしまった。

 

「単刀直入に言う。木原幻生がミサカネットワークとお前、正確には外装代脳を狙って動き出しているから手を貸せ」

「単刀直入すぎ!? 大体、木原が相手なら先輩だけで十分な壊滅力あるんじゃないですか?」

「正直、アイツには何度も逃げられ、って口で説明するのめんどくさい。適当に読め」

 

操祈相手に長話する余裕はない。

今、操祈と接触している事がバレたら面倒事が増えそうだしな。

 

「はぁ、ほんっとうに先輩って変わり者ですよね。自分から頭の中読めなんて言ってくる人、先輩くらいですよぉ」

 

そう呆れつつも、操祈はリモコンを取り出して俺に能力を発動させた。

操祈は協力者や怪しいと思った人には躊躇なく能力を使って頭の中覗くからな。

変に誤魔化すより、こっちから覗かせた方が早い。

もちろん、学園都市の闇とか命に係わる情報は読ませないけど。

 

「なるほどなるほど……えっ? 先輩が私になる? 魔術?」

「あー魔術ってのは、学園都市外部の能力の事って思えばいい。そこは深入りすると、マジで死ぬぞ?」

「は~い。毎度の隠蔽力は分かってるわ。で、これ……私のメリットは?」

 

俺の頭の中の計画を全て読んだのなら、それも分かっているはずなのに、あえて操祈はこの計画の自分の報酬を口で言わせようとしてきた。

 

「ドリー妹の解放、並びに警策看取の無罪と暗部から完全解放してお前に身元引受人となってもらう。これでどうだ?」

「それが私にどんなメリットになるのかしらぁ?」

「お前がクローンである妹達の事を気にかけているのは、今回の一件と全くの無関係とは俺には思えないんだが……もっと言った方がいいか?」

「………」

 

そのまま俺と操祈は無言で睨みあう事、数秒。

結局、折れたのは操祈の方だった。

 

「……はぁ~分かりましたー降参でーっす。先輩の洞察力ってもう能力者レベルよねぇ」

「あはははっ、これくらいでないとここじゃ生きていけないからな」

「それにしても、乙女の柔肌を結構傷つける計画なのに、メリットが低すぎなんですけどぉ?」

「気に掛けるところはそこかい!」

「そこかいって、先輩乙女の理解力無さすぎにも程があるじゃないですかぁ! 人の肌を数センチ切り取るって怖い計画をよくも躊躇なく出来るわよねぇ!?」

「いや、ほら、そこは俺も、木原だし?」

「そういう時だけ木原を出すのはズルいにも程があるんだゾ☆」

 

額に青筋を浮かべながらリモコンを構える操祈。

 

「冗談だ冗談。肌を切り取るのは俺もなんだし、お相子だろ?」

「先輩の肌と私の柔肌を同列に扱うなんてどんな無神経力!?」

 

操祈がガーガー喚く計画とはこうだ。

まず、操祈が黒子や涙子達、美琴の周辺の記憶を操り、孤立化させる。

これは美琴が狙われる以上、巻き込まれる恐れがあるのでそれを防止する為でもある。

ここは、操祈も同意した。

その上で、美琴に接触し事の経緯を話し、幻生を確保する。

俺は、()()()()()で影武者を作って、囮として別の場所に行き、俺自身は身を潜める。

どうも幻生は俺の前には現れたくないみたいだからな。

というか、多分俺自身の動きを封じる手を使ってきそうだ。

ちなみに、幻生は近々行われる会議にお忍びで参加するという情報がある。

 

俺の影武者を作る魔術とは、一か月前に当麻を襲撃したエツァリというアステカの魔術師が使う変身魔術だ。

その魔術は対象者の皮膚を札として変身するもので、外見だけではなく声も何もかも本人そのものになる。

幻生は、変装を警戒して対策をしてくる可能性があるが、魔術による変身は見破れない。

念のため、操祈の能力を使って俺の記憶や癖などもエツァリにコピーさせる。

 

ここまでがプランA。

 

もし、幻生が外装代脳の施設まで辿り着いたら、今度は俺がエツァリの魔術を使って操祈に成りすます。

その時、俺は幻想支配で変身魔術を使った状態のまま、操祈が俺に能力で記憶や癖などを上書きする。

そして、その際、操祈には外装代脳のリミッター解除コード、と思わせた自壊コードを俺に埋め込ませる。

更に、そのコードが外部から読み込まれた時、俺の意識が完全に目覚めて魔術を解除するスイッチになるようにする。

もちろんその際に、操祈が俺に上書きした情報は自動で削除されるようにする。

これは保険だが、予想だと操祈に化けた俺でも、操祈本人でも幻生は破るだろう。

あのジジイの事だ。それくらいの用意はしているはずだ。

まぁ、プランAでカタが済めばいい。

被害は俺の皮膚を削ぎ取る程度で済むが、プランBまでいくと操祈の皮膚も必要になるからな。

で、結果は最悪だったけど、予想通りの展開となった。

外装代脳のリミッター解除コードを手に入れたと思った幻生は、自壊コードを埋め込まれて内部崩壊した。

更にトドメとして、俺の幻想支配による能力停止によって、完全に消滅した。

 

 

全てが終わった翌日。

警策看取とドリーに関わる手続きを全部終わらせて俺と操祈は、警策看取を連れてドリー妹がいる施設へとやってきた。

 

「それにしても、今回はまた随分と遠回りで面倒な手段を使ったのねぇ」

「仕方ないだろ。幻生のジジイを完全に殺すには俺の能力停止を使うしかなかったんだから」

「木原幻生が先輩から逃げていたのは、先輩の能力停止力を恐れていたからって事かしらぁ?」

「そういう事。どんな技術や理論使ったのかは分からないけどな」

 

そう。木原幻生を確実に殺すには俺がアイツの目の前に立って、能力停止を使う必要があった。

ぶっちゃけ、幻生にそれが出来れば後はどうでもよかったんだが、今回のあのジジイの計画を逆に利用させてもらった。

 

木原幻生は、昔、とある一件で俺から脳天に銃弾を浴びて死んでいるはずだった。

尼視もそれは確認していて、仕事はそれで終わったはずだった。

それがどういうわけか数週間後には生存が確認された。

どうやら幻生は完全に死ぬ間際に学園都市中に蔓延するAIM拡散力場を媒体に意識を別の肉体に移したらしい。

その原理とかは、いまだに詳しくは分かっていないが、ともかく幻生は生き延びた。

また次に殺す機会があっても、肉体を破壊しようが同じ手を使われたらキリがない。

しかし、前に殺されて以来、幻生は逃走を重ねた。

まるで俺と出会うのを恐れるくらいの逃走の仕方だった。

それを不審に思った尼視が出した結論は、俺の幻想支配があいつには天敵であるという仮説。

原理も何もかも不明な幻想支配だが、相手が発するAIM拡散力場を視認して、それをコピーしたり流れを止めるなりしているのではないかという事だ。

それを幻生に使えば、アイツは意識を肉体から外に移す事が出来なくなるばかりか、うまくいけば意識そのものを消滅させることが出来るかもしれない。

 

「結果的にその仮説は大当たり。木原幻生はあなたの幻想支配で完全消滅。全くとんだ化け物がいたのね」

 

警策看取はブルッと身震いをして、俺を少しおびえた表情で見てきた。

 

「そうよぉ。先輩の恐怖力は半端じゃないの。だから、あなたも今回の一件でせっかくゼロになったんだから、これからは変に暴れたりしないでねぇ。迷惑するの私なんだからぁ」

「……もう、そんな無意味なコトはしない」

 

能力者や暗部にいた者からみても俺は、化け物。

それは間違いないな。

だからこそ、俺は能力者キラーで、木原殺しなんだから。

 

「はい。面倒な事は全部終わってるから。後はこの地下にいる彼女とご対面するだけ。あとは2人でお好きにどうぞ」

「分かったわ」

 

ドリー妹がいる部屋に繋がるエレベーター前で、俺は2人と別れた。

ドリー妹には興味がないし。必要な手続きは全部済ませた。

とはいえ、施設にいる研究員達も念のため操祈の能力で操ってある。

操祈も看取も、かなり緊張しているようだけど、後は3人の問題だ。

それに多分大泣きの場面になるだろうし。

そんなの操祈は、俺に見られたくはないだろうからな。

俺が関わるべき事じゃない。

 

施設を出て、とある人物に電話をした。

今回の一件の陰の功労者であり、暴走した美琴の相手をした当麻と軍覇に勝るとも劣らない程苦労したであろう、エツァリだ。

 

「よぉ、エツァリ。昨日は色々お疲れさん」

『いえ、これくらいどうって事ないですよ……と言いたいところですが、あなたの影武者は予想以上にハードでした』

「だろうな。幻生はどうやっても俺を現場に近づけさせたくなかったみたいだし」

 

実際、エツァリに化けた俺に幻生がどんな妨害を行ったのかは知らない。死人の手口に興味はない。

 

「でも、おかげで()()()()に動けたぜ」

『いえいえ、これも暗部の仕事ですから』

 

エツァリは、1か月前に当麻に敗れてから暗部に落とされた。

と言っても、手引きしたのは俺だけどな。

エツァリは魔術世界から学園都市にスパイとして侵入したが、なんの経緯でか美琴に惚れてしまった。

当麻を襲ったのも美琴の為だったしな。

で、そんなエツァリなので、美琴が狙われていると知ったら、有無を言わさず協力してくれた。

 

『ですが、1つ忠告を』

「……なんだ?」

 

急に呑気な口調から真面目なトーンへと変わった。

自然に俺も周囲に目を向け、人がいないのを確認して耳を傾けた。

 

『襲撃は受けましたが、その手口は分かっていません』

「はっ? どういう意味だ?」

『襲われたのは確かですが、暗闇に誘い込まれて一方的に攻撃されたんです。人数は恐らく4人、遠距離からの狙撃と接近戦での斬撃だったのでしょうが、生憎暗闇だったので詳しくは分かりませんでした』

「それでよく生き延びれたな」

『ははっ、尻尾を巻いて逃げただけですよ。あなたの恰好でお恥ずかしい真似をしてしまいました』

「そこは気にするな。とにかく、助かった。ありがとな」

『っ!? 相変わらず変わった人だ、あなたは』

 

電話の向こうでエツァリが苦笑いを浮かべた気がする。

ま、いいか。それよりも4人の襲撃者か。

近々、お目にかかる事があるかもしれないな。

 

 

続く

 




はい、原作では幻生は、意識体で生きてるみたいですけど、こういった経緯でこの世界では完全消滅しました。
それとレベル5組で一番最初に出会ったのは実は操祈という裏設定。

乙女の柔肌を傷つけないような替え玉作戦といいつつ、結局変身魔術のために皮膚切り取るという鬼畜作戦(笑)

次回からイタリア編です。

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