幻想支配の幻想入り   作:カガヤ

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お待たせしました!
これでオリアナ戦終了です


第130話 「敵」

あれから探索や準備に時間がかかり、気が付けばそろそろ夕方になろうかという時間になっていた。

でも、時間をかけたおかげで今度こそ逃がさない為の段取りが出来た。

当麻達の方はどうなったかと電話をかけてみる。

もうすでにあっちでカタがついているのならば、それはそれで問題ない。

が、それはあまりに甘すぎるな。

 

「当麻、俺だ。こっちの準備は終わった。いつでもあいつらを狩れる。そっちは何か分かったか?」

『あぁ、使徒十字の使用条件は分かった。あー俺じゃなくて土御門の方がいいな』

 

それから元春の説明で、使徒十字の事が大体分かった。

使徒十字は星座の力を利用して、使用ポイントである 【天文台】 から特定地域を支配下におさめる。

ただし、その為には使用する日付が年に一度と限られているなど色々制約がある。

法の書事件でイギリス清教に改宗したオルソラから得た、今日ここらへんで使徒十字が使えるポイントを算出してもらったようなのでこちらにも教えてもらい地図にマーキングした。

そして、それを見た時にオリアナの本来の役目が何かという事が頭にちらつき、何か違和感があった。

 

「元春、説明の途中で悪いが、距離はどうだ?」

『距離、だと?』

「正確には術式の有効発動範囲だ」

 

電話の向こうで元春が怪訝な声を出しながら、推測でしかないが大まかな有効範囲を教えてくれた。

それを聞き、改めて地図を見直してようやくオリアナの今までの行動の不自然さから、彼女の真の目的とその目的地が絞り込めた。

これで必要な情報は全て揃った。

 

「よしっ、これでもう逃がさない。元春、当麻を連れて第23学区に向かえ。オリアナを 【鉄身航空技術研究所所属空港】 に追い込む。合流ポイントはメールした」

『なっ、第23学区だって? そりゃ今俺がオリアナの向かう場所にと思っていた所だ。そこが現実的に使徒十字の天文台として最も適した場所だからな』

「なんだそうだったのか。ま、こっちはそれとは別にオリアナをそこへ誘導させていたんだが、それならそれで好都合だ。オリアナがそこへ向かう可能性が100%になったってだけだ」

 

元々俺はオリアナを追いこむ場所を探して、周りに犠牲者が出にくく開けた所を探していて、ちょうど目に留まったからそこへオリアナが向かうように警備配置にわざと隙を作ったりさせていた。

 

「ともかく、すぐに合流ポイントに向かえ。それと、ステイルに代わってくれ。あいつにはほかにやってもらう事がある」

『……分かった』

 

元春が何か言いたそうな様子だったが、ステイルに電話を代わった。

俺が本気で追跡するとどうなるかは、元春が一番分かっているだろうからな。

 

 

 

それから俺は合流ポイントへ向かい、元春と当麻と合流した。

本当ならいい加減体操服じゃなくて戦闘服にしたかったけど、まだ祭りの最中だから仕方ない。

 

「全く、相変わらずユウやんは無茶苦茶するにゃー」

「無茶苦茶って、ユウキは一体何をやったんだ?」

「普通こんな所には易々とは来れないんだぜい、カミやん」

 

元春の言うこんな所とは、合流ポイントとして設定した場所の事だ。

ここは、普段は警備が厳重で一般人は即座に見つかるルートだ。

でも2人共、ここまで来るのに特にほとんど障害も警備に引っ掛かる事もなく来れた。

俺が色々と手回ししたからなんだけど。

 

「そんな事今はどうでもいいだろ。オリアナは確実にこの奥にいる。警備を気にしないで最短ルートで追跡できるんだ。魔術なりなんなりを使わなきゃうまく動けないオリアナより、俺達の方に分があるだろ? ここで確実に仕留めるぞ」

「おーこわいこわい。それじゃいくぜい」

 

2人を連れて、広大な滑走路をひた走る。

元春はともかく、当麻はこんな広大な場所をひた走って見つからないかヒヤヒヤしているみたいだ。

監視機体とかその他もろもろが俺達を補足して、捕縛する事はないとさっき言ったのに。

ま、これが普通か。

 

「見えた! あのフェンスの向こうが天文台のポイントだぜい!」

 

しばらく走ると広大なフェンスの壁が見えた。

あの先が鉄身航空技術研究所所属空港の敷地で、学園都市内で使徒十字を使うのに最も適したポイントであり、オリアナを追い込んだポイントだ。

幸いフェンスは2メートルほどで、電流が流れるタイプじゃない。

フェンスを乗り越えようと手足を引っかけようとして、ふとフェンスに何かが挟まっているのが見えた。

それは、金網の針金と針金に挟まれた、単語帳の1ページだ。

当麻もそれに気づいたようだが、元春はフェンスを乗り越える事に意識を集中させすぎていたのか気づかず、そのままフェンスに手足をかけていた。

 

「まずいっ!」「つちみ……」

 

俺と当麻が同時に叫びかけたその時だった。

 

――バチチッ!

 

フェンス全体が青白く輝きだし、凄まじい電流が流れた。

それはそのままフェンスに手をかけていた元春の全身を襲った。

 

「があああぁぁっ!!」

 

元春の体は感電したようにぴくぴくと跳ねていた。

 

「ちぃ! 当麻! そのページを殴れ!」

「でも土御門が!」

「命に別状はない! 治療をさせたいなら早くあいつを止めるんだ! オリアナに次の手を打たせるな!」

 

俺が指差した先に当麻が目を向けると、そこには単語帳を口に咥えたオリアナが不敵な笑みを浮かべていた。

 

「くそっ!」

 

当麻が単語帳を右手で触れて、破壊したのを確認すると急いでフェンスを乗り越えた。

そして、そのままオリアナへと駆け出した。

 

「オリアナぁ~!」

「ふふふっ…」

 

フェンスは越えたが、オリアナがいるところへは距離がありすぎる。

先手は確実に打たれる。

切り札である、能力停止をここで使うわけにはいかない。

もう1つ切り札は持っているが、それもまだ使うには早すぎる。

オリアナが単語帳を口から離して、踊るように一回転すると凄まじい暴風が地面を削り取りながら迫ってきた。

当麻が右手を構えて暴風を打ち消そうとしたが、すぐにそれを止めた。

 

「待て、当麻! 地面に屈んで地面の津波を止めろ!」

 

この魔術の本命は暴風ではなく、暴風が削り取っていく地面の津波だ。

だから、地面の方を止めれば風はどうにか凌げる。

 

「分かった!」

 

当麻が迫りくる地面津波に手を当てると同時に、俺は当麻の襟首を摘みその場から飛びのいた。

すぐ後ろを風がそのまま通り過ぎた。

ちっ、危なかった。思ってたより風が強かった。

 

「なっ!?」

 

当麻の右手が自分の魔術を無力化したことにオリアナは少し驚いたようだが、すぐに気を引き締めて次の魔術の準備を始めた。

当麻の幻想殺しにもっと驚くと思ったけど、そこは流石プロと言っておくか。

ともかく、2人して一直線にオリアナに向けて走り出す。

 

「もっとギャラリーがいても楽しかったけど、そっちは3人なのね。しかも、1人はリタイア。あの赤髪の坊やはどうしたのかしら?」

「敵にそれを簡単に教えると思うか?」

「大方、追跡封じの魔術の怪我が治りきってないって所かしら?」

「………」

 

オリアナの指摘に図星をさされた、演技をする。

それに騙されるかどうかは別だが。

 

「そっちの新顔君はともかく、あなたにはもう油断はしないわ」

 

オリアナが次に発動した魔術は攻撃ではなく、結界だった。

離れた場所では飛行機が飛び交っていて、さっきまではエンジン音が聞こえていたが今は何も聞こえない。

 

「なんだ!?」

「結界だ! どうやら外との通信を遮断するタイプだな」

「やっぱり、科学の人間なのに手品の種は割れちゃっているのねぇ。だったら」

 

オリアナは続けてページを咥えて、水が渦を巻くように現れ鞭のように襲いかかってきた。

俺を狙ったかと思ったが、狙いは当麻だった。

当麻は幻想殺しで打ち消そうと右手を構えた。

しかし、水の鞭は何本も左右から襲いかかってきたので、幻想殺しが追いつかず当麻は激しく打ちつけられてしまった

 

「うわっ!?」

「当麻!」

 

当麻は結構吹き飛ばされたが、かろうじて意識は残っているようだ。

けど、しばらく動けそうにない。

オリアナは次に俺を狙い魔術を発動させようとしたが、今度は俺の方が速い。

単語帳を咥えようとした顔目がけて飛び蹴りを放つ。

 

「っ!?」

 

オリアナは、ページを咥えるのをやめ、地面を転がりかろうじて蹴りはかわされた。

 

「昼間と違って、今のは殺すつもりだったわね?」

「あぁ、殺すつもりだったさ。お前は敵だ」

 

冷や汗を流すオリアナに、何の感情も籠めずに答えた。

近くに当麻がいたが、それでも構わず殺すための攻撃を続けた。

こいつは敵だ。敵は、殺す。

 

「シッ!」

 

喉元目がけた右手の突きはかわされたが、反撃の隙も与えず次に左手で首を掴んだ。

 

「あ、がっ……」

「………」

 

絞め殺すつもりでいたが、それより先にオリアナが蹴りをいれようとしたので、首を絞めたまま地面へと投げつけた。

 

「かはっ……」

 

起き上がろうとするオリアナの頭を踏みつぶそうと足を上げるより先に、どうにかオリアナは地面を転がり俺から距離をとった。

それでも起き上がるより早く髪を掴み持ち上げた。

 

「…つっ、ぅ……じょ、女性の髪を乱暴に扱うのはいけないわよ?」

「お前はただの敵だ」

 

髪を掴んだまま顔を殴ろうとしたが、オリアナが単語帳を咥えているのに気づき、手を離して今度は俺が地面を転がるように離れた。

オリアナが次に繰り出してきた魔術は、数本の銀色の針を連射してくる魔術。

1本でも触れれば即座にしびれて動けなくなる。

広範囲魔術なので避けようがないし、俺の後ろにはまだ当麻が倒れている。

ここで、切り札を使うしかないか。

 

「ちぃ!」

 

ポケットから、ある物を取り出し口に咥える。

そして、幻想支配を発動させる。

 

「っ!? それは、まさか!」

 

次の瞬間、俺達を守るかのように青白い壁がそそり立ち銀の針を全て防いだ。

 

「……私の魔術を見破るだけじゃなく、使えるなんてね。しかも、私の魔力までもコピーできるなんて」

「切り札は最後までとっておくもの、だろ?」

「あの時、まさか盗られていたなんて、気付かなかったわ。手癖の悪い坊やね」

 

そう。最初の戦闘の時、一瞬のすきをついてオリアナの単語帳から数枚拝借していたのだ。

それを今回、幻想支配で魔力をコピーして使用した。

ただ、盗れたのはほんの数枚で、オリアナに幻想支配の事を感づかれないように温存していた。

 

「次はこっちの番だ!」

新たに1枚盗ったページを口に咥え、魔術を発動させる。

俺の周囲に数個の緑の刃が現れ、オリアナを取り囲むように放たれる。

 

「まさか自分の魔術に襲われるなんてね。でも!」

 

オリアナは踊るように身をかわし、迫りくる刃を次々にかわしていった。

 

「自分の魔術だもの。簡単に読めるわよ?」

 

そうだ。俺がこの切り札を最初から使わなかったのはこの為だ。

俺がオリアナの魔力を視て、あいつが使える魔術の全てを把握して対処してきた。

逆に言えば、オリアナにも俺と同じ事が出来るわけだ。

実際、木山春生の時みたく相手の能力で攻撃したら、相手も自分の能力だから弱点も知っているので、そこをつかれてちょっと手こずった事があった。

 

「どんな魔術も使い方次第って事だ!」

 

次に繰り出した魔術は、巨大な水晶の杭をいくつも発生させオリアナ……ではなく、オリアナの周囲にばら撒くように這えた。

 

「一体何のつもり?」

 

てっきり自分に向けて放たれると思っていたオリアナは、この使い方に怪訝な表情を浮かべた。

本来なら、水晶の杭で相手を拘束させる魔術なのだが、俺は違う使い道をした。

 

「こうするんだよ!」

 

俺は水晶の杭を足場にして、空中を駆け回った。

実は、俺が今はいている靴はただの運動靴ではなく、靴の裏に地面や壁を蹴った時の反発力や圧力を最大限に利用して瞬発力を高める機能がある特注品だ。

 

「えっ!? 速い!」

 

俺の速さに戸惑いオリアナは、迎撃するための魔術の発動が遅れた。

その一瞬の隙が命取りだ。

 

「遅いっ!」

 

渾身の廻しけりがオリアナのお腹にめり込んむ。

 

――ベキベキッ

 

骨が数本折れた音と感触が足に伝わった。

オリアナは受け身もろくに取れず、十数メートル吹き飛ばされた。

これでオリアナは戦闘不能になった。

だからと言って、これで終わりというわけではない。

 

「ゴホッ、ゲハッ……はぁ、はぁ……わた、し……だれ、もがしあわせ……に」

「もう黙れよ」

 

オリアナはかろうじて意識が残っているようで、うわごとのように何かをぼそぼそと呟いているが、俺には関係ない事だ。

 

「てめぇがどんな目的がこんな事してるか、どんな理由があるのかどんな信念があるのか、なんて俺の知った事じゃねぇんだよ」

「………」

 

オリアナはじっと俺を睨みつけてきている。

その瞳には悲壮感すら漂って見える。

 

「てめぇはなんの関係もない制理や秋沙を傷つけた。ただ大覇星祭を盛り上げてみんなで楽しもうとしていただけの2人をな。どんな主義主張があろうと、どんな大義名分があろうと……誰かを傷つけていい理由にはならねぇんだよ!」

 

俺は最後に残った単語帳のページを取り出し、口に咥えた。

右手を掲げると、巨大な火の玉が生み出された。

この魔術は単純明快だ。

ただ、巨大な火球で相手を焼き殺すというもの。

単純な威力や殺傷力では、オリアナの魔術の中でも1、2を争う魔術だ。

 

「こんな結末は覚悟していただろ? なら、塵も残さず消え去れ!」

 

オリアナは諦めたような顔つきになると、そっと目を閉じた。

 

――ゴウッ!

 

巨大な火球はそのままオリアナに向かっていき……

 

「やめろぉーー!」

「当麻!?」

 

いつの間にか当麻がオリアナを守るように現れ、幻想殺しで火球を消し去った。

 

「もういい、もうこれ以上はいいだろユウキ! もう勝負はついた!」

「……なぜ?」

 

覚悟を決めていたオリアナは、さっきまで殺そうとしていた相手が自分を守った事に心底驚いた顔をしている。

けど、俺は当麻の顔を見て、さっきまで熱く燃えたぎっていた頭が急に冷えていくのを感じた。

 

「オリアナ、俺だって吹寄や姫神の事は怒ってるし、許せない。けど、だからってここで終わっていいわけないだろ」

「ぼうや……」

「俺は魔術と科学の価値観の祖語とか、小難しい話は分かんねえ。お前にどうしてもこんな事をしなきゃ。学園都市をローマ正教の支配下に置かなきゃならない理由があるなら。自分の為だけじゃない理由があったなら……」

「ふっ、ふふふっ……おかしな、坊やね。けど、もう手遅れよ」

 

『その通りです』

「「っ!?」」

 

突然、辺りに何者かの声が響き渡った。

女性の声だが、聞き覚えはなく初めて聞く声だ。

当麻も同じようで辺りをキョロキョロと見渡している。

その声はどうやら、オリアナの胸元から発せられているようだ。

オリアナに目を向けると、彼女は気絶していた。

だが、一枚の単語帳のページがはらりとその胸元から地面に落ちた。

あれは魔術式の携帯電話のようなもので、オリアナが気絶したことで張られていた通信妨害の結界が消えたから使えるようになったのだろう。

 

『まもなく使徒十字はその効果を発動し、学園都市はローマ正教の都合のいいように改変されます』

「この声は……」

「お前がリドヴィア=ロレンツェッティか」

『はい、はじめまして。そして、ようこそローマ正教の世界へ。まずは、あなた方の間違いを一つ訂正させていただきましょうか。使徒十字は現在、学園都市内部にはございません』

 

リドヴィアはまるで勝利宣言でもしているかのように、軽やかで穏やかでそれでいて俺達を諭すかのように話している。

 

『あなた方は天文台を学園都市内部のみと思い込んでいたようですが、使徒十字の有効範囲は数百キロもありまして、学園都市外部からでも十二分にその効力を発揮するのです』

 

淡々と話すリドヴィアに、俺と当麻は顔を見合わせた。

その表情に、絶望感はない。

むしろ、その逆だ。

 

『おや? あなた方は私の話を理解できなかったのでしょうか? あなた方がいくらオリアナを追いつめようと、いくら学園都市内部を探し回ろうとも、徒労に終わるのですよ?』

 

リドヴィアの口ぶりから、どうやらこの通信術式は声だけではなく、こちらの映像もリドヴィアに見えるタイプのようだ。

なら、都合がいいか。

 

「わざわざご教授いただき感謝するぜ、シスター・リドヴィア。こちらばかりがあなたの正体を知ってるだけじゃ不公平だから、一つ自己紹介させてもらってもよろしいでしょうか?」

『……どうぞ』

 

大げさにお辞儀をすると、リドヴィアはさらに困惑したようだ。

 

「俺の名は、木原勇樹。学園都市の治安維持やらその他もろもろをやってる何でも屋。で、得意分野も色々あるけれど……追跡はもっとも得意な分野の1つなんですよ」

『それが、何か?』

「最初は魔術側のゴタゴタだったからつい手を抜いてしまって、そちらを甘く見ていたのは事実。それは謝りましょう。ですが、一度本気になった以上……お前ら、逃げ切れると思うなよ?」

『ご忠告感謝します。ですが、いくら学園都市のエキスパートでも、学園都市の外にいる私をそこから今すぐ補足して捕えること事は不可能でしょう?』

 

ここまで言ってもまだリドヴィアの声にはまだ余裕があった。

自分が絶対的有利になっていると思い込んでいる。

まぁ、状況的にはそう思い込んでも仕方ないか。

 

「あぁ、俺は不可能だな……俺はな?」

『えっ?』

 

『あぁ、彼には無理だね。でも、僕らイギリス清教を舐めてもらっては困るね』

 

ここでさらに別の声が俺達の会話に割り込む形で聞こえてきた。

その声は、バーコード神父ことステイルだった。

 

『なっ、なぜ……どうしてここに!?』

「あーその様子だと、ちゃーんと補足できたみたいだなステイル?」

『まぁね。今僕達の目の前には巨大な十字架とリドヴィアの姿があるよ』

『あ、ありえません。あなた達は学園都市内部にいた、はず!』

 

さっきまでの余裕な声とは打って変わって、今のリドヴィアの声には恐怖すら浮かんでいるようだ。

 

「簡単な事だ。オリアナが囮だって気付いてから何のための囮で本命のお前はどこにいるかって考えただけさ」

 

元春やステイル曰く、使徒十字が過去に一度だけ使われた時は今のバチカンがそのまま有効範囲に収まったというのだ。

ならば、別に学園都市程度の広さなら、わざわざ内部で発動させなくても良い事気づいた。

更にオリアナがなぜ学園都市内部をウロウロしていて、人払いや気配を遮断する魔術を持っているにも関わらずそれらを積極的に使わなかったのかもわかった。

オリアナの役目は、追跡部隊の戦力把握と自分に追っ手を集中させるための囮だと気付いた。

そこから先はステイルに言って、学園都市外部で待機中の他のイギリス清教の応援と合流して天文台ポイントを探索させた。

結果、リドヴィアを捕縛できたというわけだ。

 

「オリアナは一応生きてるからちゃんと回収しろよー」

『その口ぶりだと、まさか君……殺す気だったんじゃないだろうね?』

「あはははは~じゃ、俺は元春を病院に連れて行くからまたなー」

『……全く、つまらん貸しが出来たな、君には』

 

本当につまらなさそうに吐き捨ててステイルは通信を切った。

 

「さーってと、すぐにイギリス清教が来るみたいだから、面倒にならないうちに俺達は撤収するぞ。秋沙と制理のお見舞いついで元春を病院に放り込んでくるか」

 

当麻はさっきからずっと黙って俺を睨むように見つめていたが、重たい口ぶりでこう尋ねてきた。

 

「なぁ、ユウキ。本気でオリアナを殺す気だったのか?」

「……まさか」

「そっか、そうだよな」

 

笑って答えると当麻は安心したように深く息を吐いて、グーッと背伸びをして元春の元へ歩き出した。

 

「なら早く行こうぜ。ナイトパレートが始まる前に姫神の所に行かないとな」

「そういえばお前、約束してたもんな。この女たらし~」

「ひ、人聞きの悪い事いうな!」

 

悪い、当麻。

あんな事言ったが、本当はお前が止めなきゃ間違いなくオリアナを殺していた。

殺したらどうなるかは分かっていたけど、それでも殺す事しか考えていなかった。

本当に殺さなきゃいけない敵は、オリアナじゃない。

当麻が止めてくれたおかげで色々と助かった。

ありがとうな、当麻。

 

 

さて、今俺が本当に殺さなきゃいけない敵は、ただ1人だ。

待ってろよ、木原幻生。

 

 

続く




さてはて、次回はVS幻生編です。
ここは今まで以上にオリジナル展開になります。
そして、そのあとはイタリア編です。

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