幻想支配の幻想入り   作:カガヤ

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お待たせしました!



第12話 「狂気乱舞」

「あんた、ユウキさんをどこにやったの?」

「あの人間は邪魔だから飛ばしただけよ。何、そんなにあの男が気になる? 博麗の巫女は結構ドライな性格って聞いていたけど、これは予想外ね」

「……別に、そんなんじゃないわよ」

 

紅い月の元、私とレミリア・スカーレットは紅魔館の外へと飛び出し弾幕ごっこを始めた。

紅魔館の門辺りで門番と天狗がなぜか戦っているのが視界の隅にちらりと見えたけど、それは無視。

正直、あの吸血鬼の部屋にユウキさんがいたのには驚いたし、どこに飛ばされたのかも気になる。

けれどもそれは二の次、今はこの異変の元凶をとっちめるのが先、それが博麗の巫女である博麗霊夢の使命だから!

 

「……無事でいてよね。死なれたら寝覚め悪いわよ」

 

それでも、無事ぐらいは祈ってもいいわよね。

 

 

 

 

レミリアに魔法で飛ばされた俺は、紅魔館の地下と思われる場所にいた。

暗く淀んだ空気が漂う、ここが地下で滅多に誰も来ない場所だと言うのが分かる。

そして、目の前には赤い扉があある。レミリアの部屋の扉と似た装飾だけど、あっちは主の部屋と言う感じだったが、こっちはまるで金庫室のような頑丈な扉だ。

この中にフランドールがいる……と手を触れようとすると、重い音を響かせて扉がひとりでに開いた。

中からは温い風が流れてきて、その風に触れただけで鼓動が速くなるのを感じた。

 

「こっちに来い。って事か」

『あなた、そうしないと生きていけなかったからそうした、ただそれだけじゃないの?』

「……あぁ、そうさ。これまでもずっとそうだった。だからこれからもずっと続けて行く、それだけが俺の存在意義だ」

 

開けられた扉へと入ると、中は真っ暗だった。

 

「やっと来てくれたね。お兄ちゃん♪」

 

幼い声がすると扉が閉まり、部屋の壁と天井に沢山の蝋燭が灯った。

レミリアの部屋よりも数倍広く感じる。多分空間が歪んでいるせいだな。

紅魔館は咲夜の能力で、広くしてあると聞いたけど、これはフランの強い力のせいだろう。

幻想支配を使わなくても分かる、部屋を覆い尽くこの圧迫感。それは全て部屋の奥にあるベッドの上から発せられている。

そのベッドの上には夢の中で会った、七色の宝石が付いた金髪の少女がこっちをじっと見つめている。

 

「あぁ、招待してくれてありがとうな。フランドール」

 

この少女がレミリア・スカーレットの妹、フランドール・スカーレット。

 

「フランでいいよ、お兄ちゃん!」

 

そう言ってベッドから飛び出し、こっちに向けて飛んでくるフラン。

良く見ると、ベッドの周りには沢山の壊れた人形やおもちゃが落ちていた。これがレミリアの言っていた能力の結果か。

 

「あはっ♪ やっぱりお兄ちゃんは私と一緒だ♪」

 

フランは俺の前に降りるとじっとこっちを見つめて来ると、にこやかに笑った。

その瞳は見かけどおりの純粋な子供のような物。が、その瞳の奥底に言いようのない冷たいものが見えた気がした。

それにしてもさっきから体の調子がおかしい気がする。

 

「何が一緒なんだ?」

「お姉様に495年もずっとここに閉じ込められてるの」

「……なんで閉じ込められてるんだ?」

 

レミリアから聞いていたが、あえて本人からその理由を聞いてみると、フランは足元に転がるまだ壊れていない玩具を近くのテーブルに置いた。

 

「フランはね。なんでも壊しちゃうから、こうやって……」

 

フランは玩具に向けて、右手を突き出すと目玉のような黒い球が現れた。

 

「ぎゅっとして、どっかーん!」

 

その目玉を思いっきり握りつぶすと、玩具はまるで内側から吹き飛ぶようにして粉々に砕け散った。

なるほど、こうやって玩具やぬいぐるみが壊して言ったのか、実際に見てみると力任せとは違った壊れ方をしている。

これが 【ありとあらゆるものを破壊する程度の能力】 か、確かに危険だな。

暴走した美琴や、垣根の未元物質、テレズマみたいに圧倒的で不可侵な力よりも、俺としてはこういう分かりやすい力の方が危険な場合が多い。

単純にして明快、故に能力の穴を利用すると言った攻略法が掴みにくい。

で、こういう能力相手には正攻法しかない。

 

「私はね、昔からこうやって色々壊して言ったの。だからお姉様に閉じ込められたの。みんな私を怖がるわ、私に壊されるのを怖がるわ。だから私は一人ぼっち、誰にも必要とされない、誰も私に近付かない。私ハヒとり……お兄ちゃんと一緒♪」

「っ!」

 

その言葉に僅かに心の奥底に黒いものが浮かんだが、それを消した。フランの言葉1つ1つに変化が現れたからだ。

まるで待ち望んでいた玩具を与えられた子供のような、狂気に近い冷たいものをヒシヒシと感じる。

でも、さっきから言葉に出そうとしても何も出ない、何も浮かばない。

場の空気に飲まれているのか、フランの妖気に圧倒されているのか……それとも。

自分でも分からないが、何か言わないとまずいのだけは分かる。

 

「お兄ちゃんは、フランとずっと一緒にいてくれるよね? だって……」

「俺は、フランとは違う」

 

かろうじて出せた言葉。その意味をフランはどう受け取ったのかは分からない。

けど、俺にはどうしてもこの言葉が言いたかった。フランは、俺とは違う……

 

「そんな事ないよ……お兄ちゃんモ、私もズッと1人ぼっち……だから、一緒にいようよぉ」

 

フランが、まるで何かに酔ったかのような面妖な面持ちで俺に手を伸ばす。

 

 

俺は、その手を掴まなかった。

 

「なんで……どうして? どうしてそんな目で私を見るの?」

 

今の俺がどんな表情でフランを見ているのかは分からない。けど、きっとフランは失望しているだろうな。

それよりもさっきから頭がぼーっとする。少し、痛い。

 

「分からない。分からないよ! ……フッ、フフフッ、アハッ♪ アハハハハハッ♪」

 

フランは俯きながら何か呟いているが、俺の耳は入って来ない。ただ、フランが笑っている事はわかる。

 

「もういいやぁ、お兄ちゃんも壊れちゃえ♪」

 

右手の爪を突然俺に向けて突き出す。すごく早い動作のはずなのに、なぜかゆっくりに見えた。

顔を少しすらすだけでかわすと、フランはすごく驚いた表情を浮かべ、一旦俺から離れた。

 

「お兄ちゃん、すごいね! じゃあこれはどう!?」

 

フランが右手を突き出すと、いくつもの弾幕が放たれた。

それを最小限の動作でかわす。かわされた弾幕は壁や床を無尽蔵に破壊していった。

どうやら、妖精やルーミアのよりも凶暴で破壊的な弾幕のようだ。

弾幕ごっこってこういうものだったか? よく思い出せない。

 

「避けてばっかりじゃつまらないよ?」

「……ソうだな」

 

幻想支配でチルノの力を使い、両手から青い弾幕を放った。

フランはそれもまた面白がってはいるが、余裕の表情でかわしていく。

 

「あはは~! 目の色が変わったね、お兄ちゃんおもしろーい!」

 

また放たれた弾幕をかわして反撃しようとしたが、気が付けばフランがすぐ横にまで迫って伸ばした爪を振り降ろしてきた。

咄嗟に右手に氷を纏って受け止める。流石に素手で受け止めはしない。

 

「冷たっ!? お兄ちゃん、人間なんだよね? 人間ってみんなこんな事できるの?」

「……サアな」

 

右手の氷に爪がどんどん食い込んでいく、すぐにでも砕かれそうだ。それよりも先に左手をフランに突き出し弾幕を撃った。

弾幕はフランに直撃し、吹き飛ばされるがすぐに体勢を立て直される。

ただの弾幕ではあまり効果がないようなので、俺は頭に浮かんだチルノのスペルカードを使った。

 

「【雪符・ダイアモンドブリザード】」

 

言葉通り、吹雪のような白い弾幕がフランに降り注ぐ。

 

「アハハハッ、綺麗綺麗♪ なら私はこれだよ! 【禁忌・レーヴァテイン】」

 

フランの右手にハート状の突起が付いた杖が現れ、一振りすると炎が走りこちらの弾幕を吹き飛ばした。

更にもう一振りすると杖が伸びてきた。どうにか空に飛びかわすと次は衝撃波と弾幕に襲われた。

 

「杖の斬撃と衝撃波、それから撃たれる弾幕の3段攻撃か」

 

空を飛びながら反撃をしようと試みるが、フランが間合いを詰めて来るせいでうまく距離が取れず高密度の弾幕がかわしきれない。

 

「あぐっ!?」

 

左肩を弾幕が掠ってしまった。妖精やルーミアの弾幕は掠っても野球の球が当たった程度の痛みだったが、フランのは違う。

まるで熱い炎と鋭利な刃物で斬られたような痛みが走る。

思わず痛みに動きが鈍った所で、フランが俺の目の前に現れた。

 

「そーれっ♪」

「しまっ……」

 

かろうじて斬撃は避けたが、衝撃波を正面から受けてしまい背中から床に叩きつけられてしまった。

 

「……がはっ! げほげほっ」

 

情けない。あの程度のダメージは日常茶飯事のはずだったのに、それでも一瞬だけ気が緩んでしまった。

弾幕とは言え、殺し合いが目的ではないと無意識に思っていたので感覚が鈍ったのかもしれない。

 

「だったら……」

 

いつものようになるだけ。

チルノの力を使っていて身体から冷気が出ているはずなのに、体中が熱い。

あまりの熱さで頭がぼーっとしてきている……いや、逆に頭がすっきりとしてくる。

 

「どうしたの? もう壊れちゃった?」

「いや……まだまだ……これからだ」

 

……何だか色々難しい事考えていた気がする。単に今までと同じ事すればよかっただけなのに……なんで俺は回りくどい事しようとしていた?

ここに来た目的?……目の前の敵を倒す為。

なんでフランの誘いに乗った?……あぁ、フランを……コロスタメダ。

 

「さぁ……続ケヨウカ?」

「うん、いいよ……踊ロウヨ、オ兄チャン♪」

 

フランの両爪に妖力が集まり伸びる。対する俺は両手両足に冷気を集め、氷の手甲脚甲を作った

 

「器用ダネ、オ兄チャン♪」

 

空を飛ぶにはチルノの力じゃ遅くて不利、ならば地を駆けた方が手慣れていて速い。

 

「……行クゾ……ハアアァァァ!!!」

 

全身から冷気を噴出し、一時的に部屋全体を凍らせた。

スケートリンクのようになった床を滑るように走る。

 

「寒イ、サムイ、アハハッ♪」

 

対するフランは、地面スレスレを滑空してきた。突き出した俺の氷の左拳とフランの右手が激突する。

拳に氷を纏わせてるとは言え、ただの氷。フランの強化された爪に拮抗できるわけもなく、爪は氷に突き刺さった。

だけど厚い氷は簡単には貫けず、拳自体に爪が刺さったわけではないので痛くもかゆくもない。

逆に俺が狙っていたのはコレ。爪が氷に刺さり、拳に届くまでの僅かな時間フランの動きは止まる。

俺はそのまま左手を横に振うと、左拳に爪が刺さったままのフランの右腕も外側に引っ張られるように広がり……ボディががら空きになる。

 

「っ!?」

 

こっちの狙いに気付いて驚いて目を見開いたフランが、左手で突き刺そうと構える前に俺の右拳がフランのお腹に決まった。

 

「ゴフッ!?」

 

助走なしでほぼ密着してからの拳なので、普通ならあまりダメージはないが、今の俺の拳は厚い氷で覆われているのでそれなりには効いているはずだ。

衝撃で俺の左拳から爪が抜けたフランの体が少し宙に浮いたが、これで決まるとは思っていない。

アイススケートのように左脚を軸に高速で回転する。氷の床と氷の脚のおかげでいつもよりも高速回転が出来、キックに勢いがつく。

その勢いをころさず活かしたまま、フランの顔面を蹴り飛ばした。

空中で、それも受け身も防御も取れないままフランは壁へと吹き飛ばされ、激しい地響きと共に瓦礫に埋もれて行った。

 

「……っ、はぁはぁ……」

 

猛烈な脱力感に襲われ、地面に倒れ込む。途端に身体から力が抜けていくのを感じた。恐らくチルノの力はもう使えないだろう。

いや、それ以外にもこの疲労感は一体。と思いつつふと顔をあげて……頭の中が真っ白になった。

 

「な、んだ……これは」

 

部屋の天井や壁には穴が空き、氷柱が突き刺さったりしている。

床は凍りつき、こちらも所々が破壊されている。

そして、遥か向こう側の壁は激しく崩れ落ち、瓦礫の隙間から先程まで話をしていた少女の羽が見えた。

 

「……俺が、俺がやったのか」

 

この部屋に入り、フランの能力を見て何かを言った所までは記憶にあるが、そこから先の記憶があやふやだ。

だけど、感覚だけははっきりとしていた。フランと戦い、殺そうとして、殴り蹴り飛ばした感覚がある。

 

「俺はなんであんな事を……フランっ!」

 

とにかく、フランを助けようと駆け出し手を伸ばそうとしていたその時、突然瓦礫が爆発したかのように弾け飛んだ。

俺は至近距離で瓦礫が当たってしまい、元いた場所まで吹き飛ばされてしまった。

 

「がっ……ぅ、ぐっ……左手が」

 

咄嗟に左手で庇おうとしたのがいけなかったようで、激しく痛めてしまった。

血だらけの左腕はブラリと垂れ下がり、自分の腕ながら見ていて痛々しい。

ヒビが入ったか、骨折したかは分からないが左手はもう使えない。

 

「アハッ、アハハハハハ! スゴイヨ、オニイチャン!」

 

土煙の中からフランがふらふらと出てきた。

その瞳はさっきよりも狂気に満ちているようで、見る者全てを恐怖に落としそうな程に狂っていた。

 

「今度ハ……フランノ番! 【禁忌・クランベリートラップ】」

 

そして、魔法陣がフランの周りに沢山現れ、そこから部屋を埋め尽くすほどの弾幕が放たれた

 

「俺も、さっきまではああだったのか?」

 

だとすればこの状況は自業自得か。もうチルノの力は使えず、身体に力も入らない。

俺は……ここに、何をしに来たのか分からない

 

「悪い、借りを返す前に俺、死ぬ」

 

霊夢や慧音など世話になった人に何も恩を返せず。

美鈴やレミリアの期待にこたえられず、俺は……死ぬ。

 

「おいおい、諦めるのはまだ早いんじゃないか? 【恋符・ノンディレクショナルレーザー】」

 

女の子の声と同時に、部屋の外からいくつものレーザーのような光が走り、襲いかかってきたフランの弾幕を魔法陣ごと撃ち抜いた。

 

「ムー! 邪魔ヲシタノ誰!?」

「……だ、誰だ?」

 

フランも知らない謎の侵入者。

俺を助けてくれたその女の子は、箒に跨り、白と黒の服を着て黒い帽子を被った、絵本に出てきそうな魔女のの格好をしていた。

 

「いやぁ、弾幕ごっこなら邪魔をするつもりはなかったんだけどさぁ、2人共全然弾幕がなっちゃいないからつい手を出しちゃったぜ」

 

箒に乗ったままゆっくりと俺とフランの間に降りた女の子は、俺達をビシッと指を刺した。

 

「ガサツで品も華もない。おまけに相手を殺す為だけの弾幕なんて本当の弾幕じゃない。仕方ないから2人にこの私、霧雨魔理沙が本当の弾幕ってやつを教えてやるぜ!」

 

そう言って白黒の女の子、霧雨魔理沙は右手に八角柱の置物のようなものを構え、不敵な笑みを浮かべ何かを宣言するかのうように言った。

 

「弾幕は……パワーだぜ!」

 

 

つづく

 




今回は色々と描写や表現がうまくイメージと合わず……
表現と頭に浮かんだ絵が一致しないのってよくある事……ですよね?(汗)

途中のユウキの異変に関しては想像つくと思いますが、次回分かります。

やっと、魔理沙参戦です!

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