多忙+パソコンが壊れかけてしまい遅れてしまいました。
でも、なんとかパソコンついたー
なので更新します。
当麻達と合流し念の為、俺がオリアナから奪った刺突杭剣らしき看板を元春に確認してもらった。
見た目が看板だからと言って魔術で偽装しているとも限らない。
幻想支配があるとはいえ、科学サイドの俺が魔術サイドのブツを鑑定できるなんて驕りはない。
「俺がしくじったんだ。最初は美琴が礼装に触れたと思った。でもそれは勘違いで、それに気づく前に制理が……くそっ!」
オリアナが玉入れ競技のポールに張り付けた礼装を、当麻と元春が追っていた。
そして、ポールに触れたのは、運悪く競技の運営委員担当だった吹寄制理だった。
当麻がいち早く制理に右手の幻想殺しで蝕んでいた魔術を消したけど、後遺症は少し残った。
「冥土帰しには、熱中症と過労って事で処置してもらった。命に別状はないそうだ」
念のため、冥土返しに手配はとっておいたから、彼の病院に搬送された制理は万全の態勢で治療を受けることが出来た。
元々運営委員として働きづめだったから、その疲労が溜まっていたのもあったそうだ。
「このツケは絶対にオリアナに支払ってもらおうぜ」
そういうと、当麻は今まで以上に決意の籠った目をして頷いた。
「さて、盛り上がってるところ悪いけど、話に割り込むぜよ、お二人さん。この荷物に関しては問題ないぜい。これは正真正銘、ただの看板だ」
「全く、とんだ茶番だね。こんなものに付き合わされていたとはね」
と、そこへステイルもやってきた。
彼は電話しながらこっちに向かっていたが、表情がかなり険しくなっている。
嫌な予感しかしない。
「今回の一件、第一報は魔術側が持ってきたものだろ。精査はちゃんとしろよ。情報は武器なのはそっち側も同じだろ」
「……違いない。あぁ、根底から間違えていた。今イギリスから連絡があった。事態は思っていたよりずっと深刻だったよ」
ステイルがイギリスから受けた連絡はこうだ。
オリアナが学園都市に運んでいたのは、刺突杭剣にあらず。
そもそも、刺突杭剣という魔術礼装は存在しない。
歴史が深い魔術礼装が本来とは違った伝承として伝わるのは、考古学的にも魔術的にもよくある事らしい。
で、ここからが重要だ。
刺突杭剣が存在しないなら、オリアナが学園都市に持ってきたのは何か。
それは……
「使徒十字<クローチェディピエトロ> ペテロの十字架と言えば聞き覚えはあるかな。全く、とんでもないにもほどがある」
ペテロの十字架。俺は、かろうじて聞き覚えがある程度の知識しかない。
当麻に至っては何のことかさっぱりわかっていないようだ。
元春は流石に理解しているようで、眉間に皺をよせて冷や汗をかいている。
それからペテロの事も含めて、色々元春が説明してくれたが、経緯やら伝承やらはどうでもよかった。
肝心なのは、使徒十字が何に使われて、使うとどうなるものなのかという事だ。
「使徒十字をここで使うと、学園都市はローマ正教の支配下になるという事だ」
「「なっ!?」」
使徒十字が刺した場所は、ローマ正教の物になる。
それは単にローマ正教の領土になるという事ではない。
使徒十字が刺さった場所では、目に見える見えない、良い事悪い事、その全てが、戦争ですらローマ正教が有利になるように働くようになる。
そして、誰もそれを不思議に思わない。
気が付けばローマ正教だから安心、ローマ正教は絶対に正しい、なんて深層心理に深く植え付けられたりもするんだろう。
学園都市は物理的に崩壊しなくても、使徒十字が刺される前と後では内面的に全く別の都市になってしまう。
そんな事になれば、科学も魔術も関係ない。
世界のバランスがローマ正教に一気に傾く。
そういえば、似たような事を考えてた木原がいたな。
そいつは俺が殺したけど、あの時は命令があって殺せるから殺しただけだったから深くは考えなかったけ。
って、今はそんな事どうでもいい。
「つまり、この取引の引手が分からなかったのは、最初から引手なんかいなかったからか」
「送り側リドヴィアと運び手のオリアナで、ローマ正教の支配下に落ちた学園都市と世界のバランスを引き取るって事さ」
ステイルはタバコを地面に捨て、忌々しげに吐き出した。
「止めるよ。この取り引き。さもなくば世界は崩壊よりも厳しい現実に直面する事になる」
はぁ、今までも何度か危うい状況を防ぐことはあったが、ここにきてついに世界レベルの危機ですか。
で、そんなこんなで昼休みという事で一時解散となった。
悠長にしている場合ではないのだけど、オリアナの行方が追えなくなった。
学園都市中の監視、隠しカメラ+その他、でオリアナを自動追尾していたが、それもとっくに巻かれている。
流石は追跡封じ。魔術師とはいえ、科学の本拠地に乗り込んでくる以上、それ相応の備えはしているらしい。
どうやったかは知らないけど、俺の手段ではオリアナを追えなくなった。
かといって、これくらいで追跡手段が全て絶たれたわけじゃないけど、俺の用意できる追跡のリソースはそろそろ別の案件に向けなければいけない。
世界の危機と天秤にかけれるレベルじゃないが、世界の危機を救った後の事も考えるとこっちの方がいい。
今回の一件を解決して、はい全部終了、ではない。
オリアナやリドヴィアを追跡する手段は元春に任せる。
さっきは魔術側での追跡手段が絶たれたからこっち側を使っただけだ。
で、今は当麻がオリアナの探索妨害魔術を打ち破ったおかげで、魔術でオリアナを追跡できるようになったんだ。
なら、今後はそっちでやってもらう。
魔術側が発端の問題に、こっちの手札をこれ以上使うのは今後を考えても効率悪い。
というか、そろそろ上から止められそうだしな。
天草式の時はこっちの手札を切りすぎたとまで言われたからな。
あの程度の技術、別にさらしても痛くもかゆくもないだろうけど、変なところに慎重なんだよな。
それに元春にだって科学的な追跡が出来ないわけじゃない。
色々と裏ワザを教えたことだってあるし、当然見返り込で。
まぁ、いっか。
ステイルが使徒十字の詳しい情報をイギリスで調べるというのだ。
闇雲にオリアナを撃破したところで、使徒十字を使われればそれまでだ。
だから、使徒十字の詳しい使用条件が分かれば、先手を打ちやすくなる。
その方針には賛成なので、俺も今のうちに食事を済ませることにした。
「……世界の危機、ねぇ」
今回の一件が世界の危機だっていう実感はあるが、それを俺が食い止めるという実感がわかない。
当麻と関わってから、いや、その前から色々やってきた。
でも、それは単に殺したり、逃亡者を追跡したり、裏切りや取引を潰したりという人助けとは真逆の事ばっかりだ。
まぁ、理后や最愛、海鳥達の時みたいな事も多かったけどな。
「柄じゃない。なーんて今更だな。さて、何を食べるか……な」
何気なくモニターを見上げると、バルーンハンターという競技が行われていて、美琴が他校の生徒のバルーンを落としていく様子が映し出されていた。
が、何かおかしい。美琴の振る舞いに違和感があった。
まさかと思い、美琴をよーく見ると……
「やっぱり、御坂妹か。多分10032号かな」
直接見てないのでどの御坂妹かは正確には分からないけど、モニターに映っているのが美琴ではなく御坂妹だというのは分かった。
「美琴も御坂妹も自分から入れ替えるわけないから、何かの事故か……まずいな」
もし、このモニターに映っているのが美琴ではない、と
この状況下では特にだ。
せっかく
「動くのは明日、の予定だったけど、仕方ない」
元春には裏の用事で抜ける。何かあればすぐに連絡しろ。とだけメールして、すぐにモニターが映し出している場所へ向かった。
途中にいた摩擦を操る能力者を視て、急いでかけつけた。
しかし、少し遅かったようだ。
御坂妹、10032号は何者かに昏倒させられていた。
足に何かで刺されたような跡がある。
彼女にそんな事が出来るタイミングは、さっきのバルーンハンターか。
そういえば、さっき御坂妹のバルーンが割られる寸前、彼女の様子がおかしかった。
恐らく、その時に小型のデバイスで遅行性の麻酔を打たれたみたいだ。
毒を盛るとは思えないからな。
で、あのバルーンハンターの状況下で御坂妹本人にも周りにも誰にも気づかれず、的確に麻酔を打つことが出来るのは恐らく小型の軍事デバイス。
そして、その持ち主は、馬場芳郎あたりか。
が、そこまでは想定内の事だったのだけど、それ以外の想定外の事もあった。
「よっ、お前らも来たのか」
「あらあらこれはこれは、せんぱーい♪ こんな所で出会うなんて偶然力働きすぎだぞ☆」
俺より先に異変に気づき、御坂妹を保護しようとしていた2人の男女がそこにいた。
体操服の少女は、美琴や沈利と同じく超能力者第5位の食蜂操祈。
学園都市最高の精神系能力者。
複数のリモコンで能力の指向性を安定制御しなきゃいけないという欠点もあるが、それでも彼女は敵に回せばある意味一番レベル5で手ごわい相手になる。
そんな彼女は、昔からの知り合いで俺の能力や木原絡みのごたごたも知っている。
で、俺が今年から高校に通う事を知ってからは、わざとらしく先輩と読んでいる。
「おや、アナタもここにきましたカ」
そしてもう1人、スーツを着た外人男の方はカイツ=ノックレーベン。警備強化専門のアドバイザーで、今は操祈に雇われている。
こいつはあの実験にもセキュリティー面で関与していて、天井亜雄の一件で知り合った。
善人と悪人、どっちつかずのフラフラな性分で、慎重派だが詰めが甘い所もある。
で、この2人がここにいるってことは、別に俺来なくてよかったじゃん。
「状況は?」
「アナタの懸念は分かりますヨ。ですが、今回は逆のようですネ」
「逆? どういう意味だ?」
「つまり、敵は御坂さんを狙ったつもりで、妹さんを間違えて襲ったのよ。私と彼もあなたと同じ懸念力があったから、ここまできたのだけれどねぇ」
俺と操祈とカイツが懸念していた事。
それは敵が御坂妹と分かっていてこんな事をしたのではないか、という事だ。
けど、実際は御坂美琴を無力化する目的で間違えて御坂妹を襲った、のが正しい。
それはそれで問題ありだが、ひとまずは大丈夫か。
「なるほど。敵が馬鹿でよかった。そんじゃ、彼女の事は任せた」
「ちょ、ちょっとちょっと! どこへ行くつもりなのよ」
「俺は今別件で超忙しいんだよ」
「別件?」
操祈が俺を睨みながらリモコンを向けてきた。
それに対して俺は何もしない。
幻想支配を使う必要もない。
彼女が俺の頭を覗くのは必要最低限の情報のみだからだ。
操祈が俺に能力を使うのはこれが初めてじゃない。
けど、操祈は俺の心を読むことはあっても、操ったり超機密事項まで読み取ったりはしない。
それをした場合、どんな事になるか知っているからだ。
彼女も、学園都市の真の闇を知っている。
「……そう。あの人も関わっているのね。なら説得力が100倍増ね」
「お前、いらん所まで読むなよ。自爆って言うんだぞそれ」
操祈は、俺が今学園都市内である重大事件を追っている事だけを抜き取った。
だが、それに当麻も関わっている事まで知ってしまい、少しだけ表情を曇らせた。
あまりそういう表情をさせたくはないんだけどな。
「とにかくそういう事情だから。御坂妹は、恐らく暗部の馬場芳郎のT:MQにやられたんだと思う。殺す事は目的じゃないはずだから、そっちで駆除できるレベルだろう。後でデータを送る」
「えぇ、分かりましタ」
「あぁ、ついでだ。カイツ 【Auribus oculi fideliores sunt.】はどうなってる?」
あれもあれで早急にどうにかしたいけど、カイツの方が適任だ。
初春レベルでもなきゃな。
「そっちも問題ありませんネ。あなたのくれたプログラムを元に、強力なダミープログラムを走らせてまス」
「あれ、先輩が作ったのね。彼ったらプログラミング力で作った―なんて大胆な発言力だったのよ」
「い、いえいエ。それは……ですネ」
「そんな細かい事気にしてないっての。大部分を作ったのはたいかにカイツなんだし。じゃ、俺はもう行く。また
「えぇ、また
あまり操祈たちと接触してない方が今はいいからな。
それに、さっきから妙な胸騒ぎがする。
最初は御坂妹の事かと思ったが、違う。
何か、こうとんでもなく嫌な予感がする。
元春に電話したらつながらなかったので、当麻に連絡をした。
すると、元春はオリアナと交戦して取り逃がしたようだ。
その時に携帯と、探索する理派四陣に必要なオリアナの礼装である単語帳を破壊されたらしい。
正直、手詰まり感はあるが、ひとまず第7学区へ向かった。
元春がオリアナと交戦した第5学区の地下道から近くにある交通手段をいくつか検索すると、第7学区へ地下鉄とバスを乗り継ぐ可能性が高い。
「さて、当麻とステイルはこの先の後から地下鉄で来るはず、うまくいけば挟みうち……っ!?」
そこへ向かう途中の路地で、人だかりができている。
けど、それに訝しむ前にある臭いが鼻についた。
それは嗅ぎ慣れた臭いだったが、この場では似つかわしくない臭い。
血の、臭い。
「……くそっ!」
血の臭いが強くなる。
その時、オリアナの事は頭から消えていた。
「どけっ!!」
大声を出して、人の海を突き進む。
「ひ、姫神ちゃん! 姫神ちゃんしっかりしてください!」
その先にあったのは、倒れた少女とそれに寄り添い泣き叫ぶ小萌先生の姿。
そして、一面に広がる赤い血。
「……あ、秋沙?」
嫌な予感が、的中した。
血だまりの中、倒れているのは、全身をずたぼろに切り裂かれた姫神秋沙だった。
続く
来月にパソコン修理に出すので、それまで更新はできなさそうです。
さっきまで再起動の繰り返しだったので……
操祈との関係はもう少ししたら詳しく書く予定です。