幻想支配の幻想入り   作:カガヤ

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久々投稿です!
今回から日常編、ラブコメ編とも言いますか、それとも女難編と言いますか(笑)


日常編Ⅲ
第105話 「剣士の憂鬱(前編)」


最後の花見を終えて、梅雨の時期となったある日の事。

私、魂魄妖夢は博麗神社へとやってきました。

師匠へ弟子入りしてから私は幾度かここへ足を運んでいます。

目的は勿論、師匠から剣の御指導を頂く為です。

いつもは大抵こちらの空いている日に神社へ行ってから師匠の予定を聞くのですが、今日は違います。

3日前来た時に、師匠の方から明日も空いてるから来て良いぞ、と声をかけてくれました。

その時、霊夢さんがなぜか半分呆れたような怒っているような顔をしていました。

 

「それじゃ、準備はいいか妖夢?」

「はい! お願いします、師匠!」

 

師匠は今日も嫌な顔せずに付き合ってくれます。

……日が昇り始めた早朝だと言うのに。

 

「どうでもいいけど、もう少し遅い時間に来れなかったの妖夢?」

「も、申し訳ありません、霊夢さん」

 

昨日私はなぜか寝つけず、しかもまだ陽が昇っていない時間に目が覚めてしまい、いても経ってもいられず来てしまいました。

 

『あらあら、ふふふっ、そんなに楽しみだったなんて、妖夢もまだまだ子供ねぇ。ところで、今日の朝食は……「行ってきます!」 あっ』

 

と幽々子様に笑顔で見送られたのはどこか引っ掛かる所もあります。

幸いな事に師匠も霊夢さんも既に起きていて朝食の準備をしていました。

私は朝食を取るのを忘れていたので、ちゃっかり頂いてしまいました。

 

「次から気を付けてくれればいいわよ。ユウキさんにも私にも迷惑かけなければね」

「あはは、まぁそうだな。じゃ、来い!」

 

愛刀を模した木刀を握る両手に力が漲る。

最初はお互いに真剣でやり合っていたのですが、危なすぎると霊夢さんや咲夜さんなどに怒られました。

それからは白楼剣と楼観剣そっくりに削り取った木刀を持参しています。

師匠のナイフは切れ味を調整出来るそうなので、少し羨ましかったりします。

 

「行きます、師匠!」

 

一歩、二歩と間合いを詰め、飛び跳ねるように師匠に近付き、まずは右の袈裟斬り。

師匠は軽く身体を捻るだけで簡単にかわしてしまいました。

もうこの程度では驚きません。

 

「しっ!」

 

左逆手に持った木刀を横に振いますが、これもかわされます。

更に追い打ちをかけるように回転しながら何度も斬り付けますが、全てかわされました。

 

「っ?」

 

ここに来て私は違和感を覚えました。

しかし、その正体が分かりません。

 

「どうした妖夢? 手が止まってるぞ?」

「いえ、何でもありません。まだまだこれからです。」

 

ともかく今日の師匠はとにかく受けに周っているようなので、遠慮なく攻め続けさせてもらいます!

強く地面を踏み締めて間合いを詰めます。

 

「はあぁ~!!」

 

さっきよりも素早く鋭い斬撃を、さっきよりも連続して繰り出します。

右下、左上、真上、左下……

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 

あれからどれくら打ち込んだでしょうか。

ほんの数十分か、それとも数時間か。

とにかく、私の攻撃は何一つ師匠には当たらず、私は地面に膝をつき息があがってしまいました。

いえ、いつも師匠には届かないのですが、それでも今日みたくただかわされるのではなく、ナイフで受け止められたり受け流されたりです。

それが今日は、掠りもせずナイフで防御されるわけでもなく、攻撃が全てかわされました。

こんな事は初めてです。

 

「とりあえず、ここまでだな。大丈夫か妖夢?」

「っ、大丈夫です。でも、どうして、当たらない……んですか」

「それは昼食を食べながら話すよ。食べていくだろ?」

「あ、はい。ぜひ!」

「ははっ、元気戻ったみたいだな」

 

そう言うと師匠は台所へと向かって行きました。

 

「はい、これ飲んで洗面所で顔を洗って来なさいよ。それとも手を貸しましょうか?」

「いえ、大丈夫です。ありがとうございます」

 

霊夢さんが持ってきてくれた冷たい水を飲み少し落ちつきましたが、胸の中にはもやもやが積もって行きます。

洗面所をお借りして顔を洗ってスッキリさせたつもりでも、まだそれは続きました。

その後、朝食に続いて昼食も師匠の手作りを御馳走になりました。

 

「御馳走様でした。とても美味しかったです、師匠。今度は料理の方も教えてもらいたいですね」

「妖夢だって料理上手だろ? それに俺なんかより霊夢や咲夜に教えて貰えよ。すごくうまいんだから」

「……褒めたって何も出ないわよ」

 

師匠が褒めると霊夢さんは素っ気なく返事をして、食器を片づけに行きました。

その顔がほんのり赤かったのは、気のせいでしょうか。

 

「さて、そんな事より、さっきのアレの事話すか。以前、妖夢には経験値が足りないって弱点を教えたけど、実はもう一つ弱点があったんだよ」

「もう一つの弱点、ですか?」

 

私の弱点がもう一つあった。

師匠の言う事なので間違いはないと思いますけど、かなりショックです。

おじい様の教えを守り日々精進してきたつもりなのですが、まだ足りなかったようです。

 

「妖夢の弱点、それは太刀筋が素直すぎるんだよ」

「太刀筋が素直、それはどういう意味ですか?」

「簡単に言えば、妖夢の攻撃は読みやすいって事さ。初撃で相手を確実に落とすならともかく、何度もやっていればすぐに妖夢の剣の癖が分かって、斬撃の軌道が読める。それはすなわち、簡単にかわせて尚且つカウンターがしやすくなる」

 

――妖夢、お前の剣はまっすぐ過ぎる。それは短所でもあり、長所でもある。

 

師匠にそう指摘され、私は昔お爺様に同じような事を言われたのを思い出しました。

あの頃の私は今よりも未熟で、お爺様の言葉の意味が良く分かっていませんでしたが、今なら分かります。

 

「そう、ですか……」

「あ、そこまで落ち込む事ないぞ?」

 

俯いた私に師匠は焦ったような声を出しました。

 

「慰めは要りません。私はやはり未熟なのですから」

 

結局、私は何も成長していなかったのですね。

 

「そう言う意味じゃないっての。良いか、よく聞けよ? 太刀筋が素直なのは良い面だってあるんだぞ?」

「えっ? どういう意味ですか?」

 

相手に読まれやすいのであれば、短所しかないです。

 

「単純だからこそ攻めにうってつけって事だ。妖夢の力がそのまま太刀筋に乗っているから、鋭い斬撃が出せている。下手に捻くれてると自分の力が十分に刀に乗らないからな」

 

確かに、お爺様は短所でもあるけど、長所でもあると言ってくれました。

 

「妖夢の身体は見た目こそ細くて綺麗な体つきだけど、斬撃の速さと重さは十二分に持っている。太刀筋を改善するよりも、それをもっと伸ばして、手数を増やせるようにすればいい」

「速さと重さ……」

 

一瞬私が重いと言われていると思いましたが、違いますよね。

私の剣での一撃一撃に私の力の全てが乗っているので、それを伸ばすように鍛える、ですね。

それにしても、今私の身体がどうこうと、褒められた気がしますが……?

 

「あー話はまとまったみたいね」

「あぁ、うまく説明出来た……って、何で睨んでるんだ?」

「……別に」

 

霊夢さんが顔を半分だけ襖から出して師匠を睨んでます。

正直、ちょっと怖いです。あ、私にも睨んできました。

 

「で、どうする? 今日は空いてるから、少し休んでからまたやるか?」

「そうですね……あ“~!?」

 

師匠の言葉に甘えようかと思っていた時、大切な事を思い出しました。

 

「な、なんだ? 急に変な声出して」

「幽々子様の食事、用意して来るの忘れてました!!」

 

そうでした。いつもは大抵昼食後に来ていたので忘れていました。

思えば、出かける時、幽々子様何かを言いかけていた気が……

朝食どころか昼食も抜いていますね……

 

「幽々子って確か亡霊なのに物凄く大食漢だったわよね。用意してないのまずいんじゃないの?」

 

霊夢さんが意地の悪い笑みを浮かべていますが、全くその通りなので反論出来ません!

 

「す、すみません師匠! そう言うわけなので今日はこれで失礼します!」

「あぁ、いいぞ。俺でよければ寺子屋とかで用事なきゃいつでも相手になるから、また来い」

「出来れば手土産持参してね。食べ物限定で」

「はい。次は必ず用意します、霊夢さん。お2人とも、今日はありがとうございました!」

 

急いで博麗神社を後にして、私は白玉楼へと戻りました。

 

「……よ~う~む~?」

「ひぃ~!? ご、ごめんなさい幽々子様!」

 

餓鬼のような風貌になった幽々子様に危うく食べられそうになりました。

 

 

「ふぅ~生き返るわぁ~」

「いや、幽々子様死んでるじゃないですか」

「そんな事より、今日の稽古はどうだったのかしら?」

 

幽々子に聞かれて、私は今日の稽古を頭の中でふり返りました。

 

「その顔だと、何か言われたのかしら?」

「えっ? 私何も言っていませんよ?」

「妖夢の顔に書いてあるわよ。それに彼女から色々聞いたしね」

「彼女?」

 

幽々子様はまるで隣に誰かいるかのように話しますが、私には誰も見えません。

ま、まさか幽霊!?

 

「いやぁ~驚かすつもりはなかったんだけどね。ごめんごめん」

「萃香さん!?」

 

そう言っていきなり幽々子様の隣に現れたのは、幻想郷に戻ってきた鬼、伊吹萃香さんでした。

どうも幽々子様は萃香さんを昔から知っているようです。

 

「君と彼の稽古に興味があって、毎回見学させてもらってたんだよ。気付かなかった?」

「はい、気付きませんでした。あ、萃香さんの能力でですか」

 

萃香さんは身体を霧状にする事が出来るのでしたね。

それで、私と師匠の事をこっそり見学していたのでしょう。

 

「そうそう。で、今日もユウキに一本も取れなかったのが悔しいのかな?」

「悔しい、ですか」

 

萃香さんに言われて初めて胸のもやもやの正体に気付きました。

私は師匠から稽古を付けてもらっているのに、何も学べていない。

何も成長していない。これじゃいつまで経っても師匠に追いつけません。

 

「そう、ですね。私は悔しい、です。師匠に何度も稽古をつけてもらっても、掠りすら刺せる事ができません」

 

それに今日はとうとう全てかわされて、新しい弱点にも気付かされました。

これじゃあ、いつになったら師匠から一本取れるか分かりません。

 

「あらあら、妖夢はユウキ君から一本取る事が目的なのかしら?」

「それは……はい、私は師匠から一本もらいたいんです」

 

言われてみれば私が師匠から稽古を付けてもらいたいのは、一本取りたいから……なのでしょうか。

 

「一本取る、それだけでいいのかな?」

「? どういう意味ですか?」

 

萃香さんもですが、幽々子様も意味深な笑みを浮かべています。

 

「これ以上深く追求しても面白くはなさそうだから止めておくよ」

「ええ、そうね。もう少し、と言った所かしら?」

「お2人ともさっきから何を言っているのですか?」

 

全く意味が分かりません。

師匠から一本取れる。それだけで十分凄い事だと私は思うのですが?

 

「さてと。で、妖夢はこれからどうするんだい?」

「どうする、と言われましても……」

「ユウキから一本取る秘策か何かないのかな? 私から見て妖夢とユウキの実力差はそんなにないと思うよ。身体能力と経験値はユウキの方が上だけど、剣の腕はそれを補えるほどに妖夢の方が上だよ。だから総合的に大差はない」

「そ、それは大げさすぎます。師匠との実力差は私が一番身にしみています!」

 

でなければ毎回完敗しません。

 

「はぁ、妖夢はまず自分に自信を持つ事から始めないとダメかしら」

「そうだねぇ。ほんの少しのきっかけがあれば、ユウキから一本取れると思うんだけど、言葉で動揺誘うとか」

「言葉で、例えば悪口とかでしょうか?」

 

師匠に悪口なんてとんでもないです。

それに、そんな手で勝っても嬉しくないです

 

「悪口? ダメダメ。ユウキには全く効果ないよ。霊夢やあの吸血鬼達の悪口なら効果ありそうだけど、そもそも妖夢はそういうのダメでしょ?」

「はい。師匠に悪口なんてもってのほかです!」

「そもそも言葉で動揺誘うのは彼の十八番よ。妖夢にそれが出来るかしら?」

 

幽々子様の言う通り、師匠は言葉を武器にするのがとても得意です。

私なんかが言葉で太刀打ちできる訳ありません。

すると、萃香さんは悪巧みをしている悪者のような顔つきになって、こう言いました。

 

「大丈夫。悪口でも何でもない言葉ならいいんじゃないかな? 今度、ユウキに稽古付けてもらう時に彼にこう言うといいよ」

 

萃香さんが言う、悪口でも何でもないけど、師匠には効果抜群という言葉。

しかし、私にはその言葉を聞いて、師匠に効果があるのかどうかは疑問に思いました。

その言葉とは……

 

 

続く

 




今回は妖夢回、それも前後編に分けました。
萃香はもうユウキに敵意はありませんし、打ち解けちゃいました。
フラグが立つかはお楽しみ?(笑)

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