幻想支配の幻想入り   作:カガヤ

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原作通りと言えば原作通りですが、大幅アレンジ加えてます。


第104話 「乱戦決着」

聖堂に迫るシスター達を閃光弾と発煙弾で凌ぎ、俺は当麻達と別れちょっとした荷物をかかえ屋根を登り裏手へと回った。

しかし、そこには既にさっきも多くのシスターと、それを率いる車輪シスターとアンジェレネが待ちかまえていた。

 

「おや、やっと出てきたと思ったらあなた1人ですか。ですが、これは好都合です! 数々の無礼と侮辱と凌辱、今ここで晴らすとしましょう」

 

うっわぁ~、なんか知らないけど車輪シスターブチ切れてるなぁ。

それにしても、無礼と侮辱はともかく、凌辱ってなんだ!?

殴った以外俺何にもしてないぞ!?

あ、それが彼女にすればそーなのか。

 

「はぁ、めんどくせぇ女だな。しょうがないから相手してやるよ」

「ふっ、強がりを! この数相手にあなた1人で何が出来るんですか!?」

 

ざっと見て100人前後のシスターを連れているせいか、やけに強気な車輪シスター。

ま、普通に考えれば魔術師でもない一般人1人対戦闘シスター100人じゃ話にならないよな。

一般人、ならだけど。

 

「ん? えっ? 何? お前、この程度の数で強がってるの? ぷぷっ、いや、笑えるよあんた。シスターよりコメディアンになったらどうだ?」

「な、何を!?」

「この程度、ハンデもにもならないって言ってるんだよ。どうせなら他のシスターも呼んで全員でかかってこいよ。それでようやくまともな勝負になる、かもな? それにしても今の絵はいいな。烏合の衆のお前らを、たった1人の俺が見下す、いい構図だな」

「ど、どこまでも我々を侮辱しますか……その傲慢、今すぐ後悔させなさい!」

 

怒号と共に、シスター達が一斉に魔術を放ってきた。

この程度の挑発にいとも簡単に引っ掛かるから小物なんだよなぁ。

屋根を駆けまわり、飛んでくる火や光の魔術を回避する。

こいつらが使う魔術はさっき対峙した時、幻想支配で視ておおよそ確認済みだ。

最も、全員視たわけじゃないから油断出来ない。

それでも、今こいつらが使っている精密性も誘導性も低い魔術程度なら簡単にかわせる。

問題なのは……

 

「これなら、どうですか!」

 

車輪シスターとアンジェレネ、こいつらの魔術なんだよな。

本来なら、幻想支配で対応すべきものなんだけど、今は無理。

車輪シスターは手に持った巨大車輪を俺の方へと投げ放った。

車輪は、俺の真上へと行き、そのまま爆発して多数の鋭い木片となって降り注いできた。

 

「そぉらよっと!」

 

と、同時に俺はわざわざ聖堂から持ってきた、分厚いカーテンを空に向けて広げた。

アイツの魔術は車輪を爆発させるのと、飛び散った木片を再度手元に戻すのは魔術によるものだ。

でも、爆発した後は自然の法則に従って飛び散らせてるだけ、ある程度の厚さと大きさの布をタイミング合わせて振う事で、防げる。

それでも貫通する物は貫通する。目の前をカーテンから突き破った木片が通り過ぎていく。

ボロボロになったカーテンを放り投げ、一目散に駆け出す。

次にくる魔術は恐らく、アンジェレネのだろう。

あれをかわすのは難しい。だけど、対処法はある。

 

「きたれ、十二使徒のひとつ…「遅い!」…えっ!?」

 

アンジェレネが詠唱を終える前に屋根から飛び降り、シスター達のど真ん中へ着地する。

いきなり屋根から降ってきた俺にアンジェレネも車輪シスター達も驚き、固まっている。

アンジェレネの魔術の欠点は、詠唱が長い事だ。

それに、このように味方に密接していればあの性格では、うかつに使えなくなる。

今も戸惑ってるし、この隙に数を減らそうか。

 

「いつまでも逃げてばかりじゃ飽きるだろ?」

 

近くにいたシスター達が武器を付き立てようとしたが、それより先に俺は身を屈め下段回し蹴りで、シスター達へと足払いをかけた。

周囲にいたシスター達は一斉に転倒した。その隙に槍を2本拝借して、大きく振り回した。

 

「おらおらおらぁ~!」

 

なるべく穂先の刃ではなく、柄に当たるように振り回すのは地味に大変だ。

やっぱりただの槍より、棒の方がいいな。

ナイフじゃ殺さずに仕留めるの難しいし、そこら辺の木の棒じゃすぐ折れそうだし、天草式に手頃なの借りれば良かった。

そう思ってる間にもシスター達を次々と倒して行く。

背後から斬りつけてきたシスターの刃を槍で受け止め、ふり返り様に回し蹴りで蹴り飛ばす。

こうも密着しているから1人蹴り飛ばしたり投げ飛ばすと、他のシスターも巻き添えに出来るな。

 

「これでは私の魔術も使えない。一端散りさない!」

 

車輪シスターの号令と共に、それまで俺に蹂躙されていたシスター達が四方へと一斉に距離を取った。

と言っても、あれだけいたシスター達もほぼ1/3近く減ってるけど。

 

「くっ、僅かな時間でこれだけやられるとは……」

「お前、仮にもアニェーゼから部隊の前線指揮任されてるんだろ。それなら相手の戦闘力や戦術を見極めて運用しろよ。数だけに頼ってたら、俺みたいなタイプにすぐやられるぞ?」

 

周りにはシスター達がたくさん倒れていて、まさに死屍累々。

いや、勿論気絶程度には収めてるけどな。

万が一にも骨が折れたりヒビ入っていたとしても、正当防衛だから問題なし。

 

その時だった。

 

――ピィーッ!!

 

どこからともなく笛の音が響き渡った。

 

「な、なんですかこの笛の音は!?」

「これは私達の合図とは違いますよ、シスター・ルチア」

 

シスター達は自分たちの合図とは違う笛の音に驚いているが、俺は音を聞いて思わずニヤリとした。

 

「どうやら、ここまでのようだな」

「……ふ、ふふっ、なんですか。今のは降参の合図ですか? 今更遅すぎますよ!」

「いーや、降参は降参でも、お前達を降参させる準備が整ったって合図だ」

 

今まで我慢していた幻想支配の力、これでようやく使える。

静かに目を閉じ、ゆっくりと力を解放させる。

その力は……ステイルの力。

 

「なっ、目が赤くなっている!?」

「そ、そう言えば私の魔術を使っていた時も赤くなっていましたよ!?」

「今更気付いても、遅い!」

 

―世界を構築する五大元素の一つ、偉大なる始まりの炎よ

―それは生命を育む恵みの光にして、邪悪を罰する裁きの光なり

―それは穏やかな幸福を満たすと同時、冷たき闇を滅する凍える不幸なり

―その名は炎、その役は剣

―顕現せよ、我が身を喰らいて力と為せ

 

「【魔女狩りの王】(イノケンティウス)!」

 

俺の背後にオレンジ色の炎に包まれた、巨大な巨人が現れた。

と、同時に建物を挟んだ向こう側でも炎があがった。

あれはステイルが使ったイノケンティスだろうな。

これを、この瞬間を俺は待っていた。

 

「一応、ネタばらししておこうか。俺が1人でお前らの前に現れた理由。天草式に頼んで、ステイルの最強魔術を発動させる為の下準備をする為の囮になったんだよ」

 

聖堂でのあの時、地面に散らばったルーンカードとステイルの魔術を思い出してピンときた。

ステイルの魔術はルーンの枚数に応じて威力が増す。

だが、少ない枚数でもこの教会の周囲に要所要所に配置し巨大な魔法陣を描く事で、威力が増すのではないか。

そして、この大乱戦の最中、大人数で行動でき尚且つ地図や図形を使った術式が得意な天草式ならば、短時間で最も効率的な巨大魔法陣を描けるのではないか。

ステイルと斎字に確認すると、理論上は可能と言われた。

ならば、後はそれを可能にする為に部隊の総司令官であるアニェーゼの足止めに当麻がその役を買って出た。

当麻がアニェーゼの相手を1人でする事にはインデックスや斎字だけではなく、俺も猛反対した。

護衛で来ているのに1人で敵の指揮官に向かわせるのでは、全く意味がない。

けれども、当麻は自分がいては幻想殺しで術式を阻害するから、俺が1人で行く方がいい。

それにその方がアニェーゼも油断する、と言った。

確かにその通りだと思ったし、これ以上時間はなかったから、仕方なく任せる事にした。

代わりと言っては何だが、シスター達の大部分を俺が引き受ける事にした。

これにもインデックスと今度は逆に当麻が反対した。

俺1人の方が大人数相手にするのに動きやすいし、天草式が早く魔法陣を完成させたらステイルの魔術を使って切り抜けられるから、と幻想支配の説明をステイルと斎字にもして納得させた。

後は、ステイルを一度視て、いつでもステイルの魔術を使えるようにしつつ、温存させる為に幻想支配なしでシスター達の相手をして、天草式の合図を持って、発動させたわけだ。

一度他の相手を視ると、上書きされてステイルの力が消えてしまうし、早く使うとそれだけステイルの力を消耗させて肝心の時に効果が切れてしまうからな。

 

「あー後、乱戦でのお前の前線指揮を見て、俺達が聖堂に隠れた後、万が一の逃げ道を封じる為に裏手を固めていると踏んだんだ。大人数でここを張ってくれたおかげでこっちの計画はかーなりやりやすかったんだ。ありがとな、ヒステリックシスターさん♪」

 

いやー思ってた以上のシスターが裏手に集まってるの見た時は、ラッキー♪ と思ったね。

それにあの車輪シスターは俺に恨みあるし、挑発すれば簡単に乗ってくれると思ったし。

 

「お、のれーー! いきますよ、シスター・アンジェレネ!」

「あ、シスター・ルチア、は、はい!」

 

他のシスター達が戦意消失している中、車輪シスターは殺意が籠った目で俺を睨みつけて、悪あがきをしようと車輪を投げつけた。

アンジェレネもそんな彼女を制する間もなく、急いで硬貨の入った袋を天に放った。

 

「往生際が悪いなぁ」

 

2人が魔術を発動させるよりも速くイノケンティウスが腕を振い、車輪と硬貨袋を握りつぶし、超高熱の炎があっという間に灰とドロドロの液体へと変化させた。

 

「さーて……次は誰がこうなりたい?」

「ぁ……あぁ、ぅ」

 

今度こそ2人も戦意を失い、茫然自失となってヘナヘナと地面に座り込んだ。

これでここは決着ついたけど、当麻は大丈夫かな。

アニェーゼが使う魔術は、念の為前に幻想支配で視た時に覚えて、一通り教えたから大丈夫だとは思うけど。

 

「じゃあな。もう二度と会う事はないと思うけど」

 

もう殺気も敵意も持てず、ただ諦めと絶望に満ちた表情を浮かべる車輪シスター、ルチアに背を向け当麻の所へと向かった。

 

 

ところどころ炎で焼かれた敷地内を歩き、アニェーゼがいるであろう場所へとやってきた。

途中倒れていたり座り込んだりするシスター達がいたが、誰も俺に何かしようとせず、ただ黙って通しているだけだった。

まー背後にイノケンティウスを出したままだったからだろうけど。

 

「よぉ、ここも片付いたみたいだな」

「あっ、ゆうき!」

 

中には、インデックスや斎字に抱きかかえられたオルソラ、それにステイルと五和もいた。

皆がいる向こう側では、当麻に殴られたのだろうアニェーゼが気絶していて、当麻がゆっくりとこっちに歩いて来ていた。

 

「よっ、そっちも終わったのか?」

「当然」

「そっか……これで、解決、だ……な」

 

突然、当麻の身体がよろけて倒れそうになり、慌てて駆け寄り抱き支えた。

 

「とうまとうま!」

「あー心配するなインデックス。怪我は深くない、ただ気絶しているだけだ。ずっと戦い続けて緊張の糸が切れたんだろ、疲労も溜まってたようだしな」

 

当麻は俺の肩に抱かれて、健やかな寝息を立てていた。

 

「全く、大したもんだな、お前さんたちは。まさに奇跡としかいいようがないのよな」

 

苦笑いを浮かべた斎字は、抱き抱えていたオルソラを下ろすと、外にいる他の仲間の元へと行った。

よろよろとしながらも、オルソラは1人で歩き、俺の元へとやってきた。

 

「本当に、ありがとうございました」

「私からもお礼を言わせて下さい。あなたが囮になってくれたおかげで、こちらも素早くルーンカードを配置する事が出来ました」

「礼なら当麻に言えよ、オルソラ。俺はコイツの護衛で来ただけだ。五和も、元々騙されたとは言えこっちから攻撃しかけたんだし、今のだって生き残る為に自分からやった事だ」

「ふふっ、そうですか。それでも、ありがとうございました」

 

この手の礼はあまり慣れていない。

なんか背中がかゆくなったので、話題を逸らす為にステイルに話を振った。

 

「で、オルソラと天草式はこれからどうなるんだ? オルソラはイギリス清教の庇護を受けるって仮の手続きだろ?」

「そうだね。それに関しては問題ないだろう。後は上がローマ正教と話をするだろうし。天草式もイギリス清教の傘下につく事になりそうだ」

「えっ? そうなのか、五和?」

 

これは意外だ。なんかオルソラのついでに、な感じではなさそうだけど。

 

「実は、これは前から天草式の皆と決めていた事なんです。形はどうあれ、私達は女教皇の近くにいるのが正しい天草式の姿ですから。例え、共に闘う事ができなくても」

 

そう言った五和の表情は少し寂しげだった。

 

「そっか……あっ、アレとかアレとか。どうするんだ?」

 

寝転がっているアニェーゼや外で茫然としているローマ正教を指さすと、オルソラや五和がプッとなぜか噴き出した。

何がそんなに面白いんだ??

 

「……アレ呼ばわり、か。まぁ、いい。ここから先は本当に僕らの仕事だ。君達はこれ以上関わるな。何、彼女達もローマ正教に送り返すさ。後の事は向こうが決める事だ」

「なるほど、確かに。じゃあ、俺達学園都市の人間は元の場所に帰るとするよ。当麻も一応検査させないといけないし」

 

当麻は毎度のごとくボロボロだったが、いつものゴタゴタよりはよっぽどマシだ。

 

「天草式も改めて色々世話になったな」

「い、いえ、こちらこそ! また会えるといいですね」

「ははっ、立場的にはもう会わない方がいいんだろうけどな」

「それでも、私はまたあなた達とお会いしたいと思います。その時は、ぜひお礼をさせて下さいね」

「ま、その時が来たらな。じゃあな、五和、オルソラ」

 

笑顔で手を振る2人に見送られ、俺達は学園都市へと向かった。

また会えるといいな、か。

一応、科学サイドと魔術サイドの裏側の人間だし、難しいと思うけどな。

でも、なんとなーくまた会う気がするんだよな、天草式やオルソラとは。

 

「早くとうまを病院へ連れて行こうよ、ゆうき!」

「あぁ、そうだな。歩いて帰るの面倒だし、迎えを呼ぶか」

 

何気に疲労が溜まってるののは俺もだ。

イノケンティウスの消耗も激しかったし、殺さずに大人数と戦うのは疲れる。

 

その後、迎えの学園都市の救急車が現れ、どんな迎えが来るかワクワクして待っていたインデックスが若干凹み、なぜかステイルもちゃっかり着いてきた。

安全にインデックスを学園都市内に届けたら、すぐにまたここに戻ってくると言っていたが、お前いなくて後始末どうするんだよ。

 

 

こうして、法の書の事件は終わり、当麻は病院で検査入院と言ういつも通りの、俺は暗部での仕事と言うこれまたいつも通りの日常に戻った。

しかし、この時はまさか天草式やオルソラはともかく、アニェーゼ達ともすぐに意外な場所で意外な再会をするとは、夢にも思っていなかった。

 

 

続く




これにて過去編Ⅲは終わりです。
次回からまた幻想郷での日常(ラブコメ)に戻ります。

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