幻想支配の幻想入り   作:カガヤ

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法の書編、いよいよ佳境です。


第103話 「VSアニェーゼ隊」

オルソラを助ける為、走り続けた俺達の目の前に現れた建設途中の大きな教会。

 

「ここだな、オルソラ教会。中は静かだな、本当にオルソラがここにいるのか」

「あぁ、そうみたいだ。入り口に結界が張られている。おそらく中の音が聞こえないような種類の結界だろうな」

「そんな事まで分かるのかよ、ユウキ?」

「まぁな」

 

当麻は驚いた声を上げるが、本当は幻想支配でこんな事が出来るようになったのはつい最近の話だ。

以前でも能力者が使った能力を視る事で痕跡を辿り位置を探る事が出来たが、魔術相手では魔術師本人を視る事しか出来なかった。

それが今じゃ、魔術の痕跡を視る事が出来る。

最も、解除したりする事はできないが、それでも今回見たく魔術的な結界が張られているのが分かれば、後は当麻の出番だ。

 

「じゃあ当麻、ここにはオルソラもだがアニェーゼ達もいる。覚悟が決まったならとっととぶち破ろうぜ」

「おお!」

 

当麻が幻想殺しで結界を破ると、途端に中から人の気配がして微かに声が聞こえてきた。

 

「壊された!? 結界が!? なぜ、どこの組織のもんですか!?」

 

それを聞き、当麻と頷きあい同時にドアを蹴破った。

中には沢山のシスターがいて、その中心には全身痣だらけのオルソラが横たわっており、アニェーゼが踏みつけていた。

 

「ちわーっす! パーティーの二次会が行われてるのはここで良かったか、アニェーゼ?」

「なぜ、ここに……なるほど、ただのド素人ってわけじゃないですか。結界に対して絶対的な特別な力があるようですね」

 

俺達をただの結界破りのエキスパートとかでも勘違いしてるのか。

まぁ、見た目ただの学生だししょうがないか。

俺も魔術に関しては素人だしな。

 

「一応聞くけどよ。もうごまかすつもりはねえんだな?」

「何を? この状況をみてわかんないんですか? ったく、どうやらイギリス清教は逃げ帰っちまったようですけどあなた達は一体何なんですか?」

 

アニェーゼは余裕の表情のまま、言葉を続ける。

周りのシスター達も警戒はしているが、俺達を侮っているように見える。

数が違い過ぎるから当然だけど、相手の力量の把握も出来ないとかこいつら素人集団か?

天草式の方が警戒心強かったぞ。

あ、でも車輪シスターだけはめっちゃこっちを睨んでるな。

 

「ほら、これが最後のチャンスです。自分達が何をすべきかわかっちまってますよね?」

 

とっとと尻尾を巻いて逃げ帰れ、とアニェーゼは暗に言っている。

 

「あぁ、よくわかってるよ。これが最後だ!」

 

俺と当麻は頷きあい、同時に走りだしアニェーゼに向けて拳を振った。

アニェーゼはとっさに両手を交差させガードしていたが、そんな身軽な身体で俺と当麻のパンチを防御出来るはずもなく、後ろのシスター共々ふっ飛ばされた。

そして、俺達はオルソラを背にしシスター達へと向き直った。

 

 

「き、サマ。なんのつもりだこれはー!」

「何をすべきか、だって? そんなの決まってるだろ。オルソラを助けるに決まってるだろうが!」

 

教会に響き渡る激昂したアニェーゼの声に、当麻はそれ以上の怒号で答える。

 

「集団リンチとか弱い者いじめって大嫌いなんだよな。あ、そう言ってて何だけど、俺達がお前らにこれからする事も、弱い者いじめだよな」

「弱い? 私達が弱いですって!? たった2人で何が出来るっていうのか、見せてもらうましょうか!」

 

それを合図にして、周りのシスター達が一斉に武器を構え俺達に突き付けてきた。

もうそろそろこの辺でいいかな。

 

「あー始める前に3つ、お前らに言っておく事がある」

「何ですか? 今更命乞いなんて遅すぎなんですよ?」

 

天草式にやったようにまず指を1本立てた。

 

「違う違う。天草式にも同じような事言ったけど、まず1つ、俺は老若男女問わず敵には容赦しない。殺しはしないけど、顔とかに傷ついても責任は取らないぞ?」

 

続けて2本目の指を立てる。

 

「2つめ、俺は集団相手に戦うのが大得意なんでね。200人いようが数の有利は通用しない。最後に3つ目」

 

3本指を立て、周りをゆっくり見渡して続ける。

 

「誰が、2人で乗り込んで来たと言った?」

 

その時、轟と爆音と共に炎が教会の窓を破壊して、付近にいたシスター達を吹き飛ばした。

そして、辺り一面にここにはいないはずの男の声が飛んできた。

 

「全く、勝手に始めないで欲しいね。で、始めるなら始めるでもう少し時間を稼いで欲しかったね。これじゃルーンを配置する時間もないよ」

「ステイル!?」

「お前を待ってた覚えはないし、大体お前の魔術は準備に時間かかり過ぎだ。結果ばかり求めて、効率化を疎かにしすぎ! もっと効率化を考えろよ」

「ぐっ、素人の君は黙っていてもらおうか!」

 

まさかこっちが来るとは思わなかった。

俺達がオルソラを助けに行くのが分かってても、黙認するだけとばかり思ってたんだけどな。

 

「イギリス清教!? 馬鹿な! これはローマ正教内での問題ですよ。内政干渉とみなされちまうのが分かんないんですか!?」

「残念だが、それは適応されない。オルソラ=アクィナスの胸を見ろ。そこにイギリス清教の十字架がかけられているだろう?」

 

小馬鹿にするような笑みを浮かべながらステイルが指さした先を見ると、オルソラの胸にステイルが当麻に投げ渡した十字架がかけられている。

当麻がオルソラの首にかけた……あ、そういう事か。

 

「イギリス清教の十字架をかけられる行為は、イギリス清教の庇護を受ける事を意味する。つまり、今のオルソラはローマ正教ではなくイギリス清教の人間、って事だろ?」

「ちっ、そこの素人の言う通りだ」

 

言おうとした事を俺に言われさっきまでのいらつく笑みを一転させ、イライラしながら悪態をつくステイル。

まさか学園都市の人間に宗教系の事が分かるとは思ってなかっただろうな。

うん、良い気味だ。

 

「そっか、それであの時あんなに喜んでいたのか」

 

オルソラの首に十字架をかけた時の事を思い出したかのように、当麻が僅かに笑みを浮かべて呟いた。

 

「そんな詭弁が通じるとでも思ってんですか!?」

「思っちゃいないね。だが君達ローマ正教の一存のみで彼女を審問に欠けると言うのなら」

 

窓から飛び降りたステイルは不機嫌そうな表情を消し、真顔でアニェーゼを見据えた。

 

「イギリス清教はこれを黙って見過ごすわけにはいかないんだよ。それに……」

 

ステイルは炎の剣を出し、アニェーゼに突き付ける。

 

「よくもあの子に刃を向けてくれたものだ。この僕がそれを見過ごす優しい人格を持ってると思ったのか?」

 

やっぱりそっちが本命ね。インデックスを傷つけようとした連中をステイルが見逃すわけないか。

 

「チィ、たかが3人に増えた程度で」

 

強がったアニェーゼの声は、また別の誰かの声にかき消された。

 

「3人で済むとか思ってんじゃねぇのよ」

 

声と共に教会の壁に大きな穴があき、その向こうに斎字を中心とした天草式が勢ぞろいしていた。

無事にローマ正教に監禁されていたメンバーを解放出来たようだな。

 

「建宮!」

「俺が戦わなきゃならん理由は、わざわざ問うまでもねぇよなぁ?」

「頃合いと思ったけど、良いタイミングだな、斎字」

「よぉ、ユウキ少年、お前さんには借りが出来ちまったな」

「ありがとうございました。おかげでメンバーを素早く解放する事が出来ました。これ、お返ししますね」

「おう。借りと言ってもメンバーの一部を捕まえたのも俺なんだけどな」

 

五和が渡してくれた小型ポータブル装置を受け取る。

 

「ユウキ、一体これはどう言う事なんだ?」

「ん? 別に、こいつらローマ正教の話が最初から胡散臭かったから、念の為倒した天草式達に小型発信器を付けておいたんだよ。で、事が露呈した後、五和に受信機を渡したってわけ」

「くっ、こちらの話を信じ込んでいると、油断しちまいましたか……」

 

アニェーゼが悔しそうに言うが、後の祭り。

 

「あとついでにあの車輪シスターを殴った時にも発信機を取り付けて、万が一監禁場所とアニェーゼ達本隊が違う所にいてもわかるように保険をかけたんだよ」

「なっ!? い、いつの間に!? どこに、どこにつけたんですか!?」

 

車輪シスターは顔を真っ青にして体中を弄って発信機を探した。

そこまで過剰反応するものか?

ま、男に免疫なさそうだし、潔癖症もあるから触られたのが心底イヤ何だろうな。

 

「発信機と言っても、そんな分かりやすい物じゃないぞ? 学園都市特製の特殊な電波を出す塗料だ。無味無臭で一定時間で消えてしまう優れ物。お前ら魔術に対しては厳重に警戒するけど、科学に対してはさっぱりだからな。学園都市を舐めるなよ?」

 

当麻に付けた発信機は半永久的に電波を発信する機械タイプだけど、天草式や車輪シスターに付けたのは特別製だ。

そもそも、魔術サイドに学園都市の技術を簡単に渡すような事出来ないし。

 

「ぐぐっ、たかが東国の異端者が、ここまで私達を馬鹿にするなんて!」

「世間を知らない非常識な西国の女狐よりはマシだろ?」

「なんですって!」

「お、落ちついて下さい。シスター・アニェーゼ、シスター・ルチア!」

 

確かアンジェレネだったか、一番ちっこいシスターがそう言うと、2人は深呼吸をしてどうにか落ちつかせた。

 

「話を続けるぞ。お前がこのまま学園都市に戻ると思ってなかったからな。予め、五和に言っておいたんだよ。俺達が突入して時間稼ぐって」

「ユウキ……まさかこうなる事を予想して?」

 

当麻が心底、驚いた顔をした。

本当なら学園都市に当麻を預けてから天草式に合流して一暴れしようとしてたけど、そうはならないとも思っていた。

こっちからしてみればステイルが参戦してる方が意外だったぜ。

 

「最初、お前さん方がそんな無謀な真似をするとは思ってなかったんだが。そもそも、お前さん達が動く前に肩を付ける算段のはずだったんだが。少年達、どうやらこっちの想像以上の面白いお馬鹿さん達のようだよな」

「その事をどうして僕らが知らなかったのか、そこを聞きたい所ではあるね」

「まったくなんだよ。とうまもゆうきも無茶するにもほどがあるんだよ」

 

また新しい声がして、振り向くと教会の入り口にインデックスが立っていた。

いや、なんでお前まで来るかな。ステイルが来ている時点で察したけどさ。

 

「むぅーゆうきが天草式にばっかり言って、私達には何も言ってなかったのはなぜなのかな? とうまもとうまで気にしなくていいよって言ったのに」

「イギリス清教を巻きこまないようにって俺なりの配慮だったんだけどな」

「インデックス、まかさお前まで……」

 

インデックスは腰に手をあて、ぷんぷんと言う擬音が聞こえてきそうな表情をしている。

 

「でもこうなっちゃったら仕方ないよね。助けよう、とうま。オルソラ=アクィナスを、私達の手で」

「……あぁ!」

 

これで本当に役者が全員そろった。

アニェーゼはそんな俺達を冷たい眼差しで見つめた後、シスター達に冷酷に一言だけ告げた。

 

「コロセ」

 

俺達を囲んでいたシスター達が一斉に襲いかかってくる。

 

「当麻、オルソラを! 進路は俺が切り開く!」

「分かった!」

 

傷だらけのオルソラに当麻が抱きあげ、外へと目指す。

2人を狙って襲いかかってくるシスター達を俺が纏めて蹴り飛ばす。

 

「おらぁ! お前ら、弱過ぎるぞ! 数が多いだけの無能集団か!」

 

それを聞いて顔を引き攣らせたシスターがまた何人か俺へと迫ってきた。

 

「だから、弱いっての!」

 

シスターの1人の襟を掴み、他のシスターへ投げ飛ばす。

実際、こいつら1人1人は弱い。天草式の方がまだ強い。

けど、数が圧倒的で一度に迫られたら、めんどくさい。

今は五和達天草式が俺達の周りに展開して、相手をしてくれているから突破するのは容易だ。

 

「悪い、オルソラ。遅くなった。だけどここからは俺達が絶対に守る!」

「オルソラ、体は大丈夫か?」

「えぇ、こんなもの。全然、大丈夫でございますですよ」

 

怪我をして歩くのも苦痛なのだろうに、オルソラは心底安心し切った満面の笑みを浮かべている。

それを見て、俺も当麻も闘志が高まった。

教会の外へ出ようとする俺達の前に、多くのシスター達が出口を固めていた。

俺達の歩みが止まる前に、五和が飛び下りてきてシスター達を長いスピアで薙ぎ払った。

随分と大げさにスピアを振り回し、天草式の術式で身体能力を強化した五和は俺を一瞥した。

 

「任せた!」

「さ、さんきゅ!」

 

五和は無言で頷き、外への進路を空け俺達が外へ出ると、退路を守るように塞いだ。

外へ出た俺達だったが、そこでも既にシスター達が展開されている。

彼女達は手に火のついた松明を掲げている。

幻想支配で視るまでもなく、彼女達がしようとしている魔術は分かる。

 

「当麻、あそこだ!」

 

教会の周りに組み立てられた建設工事用の鉄パイプで出来た階段を目指した。

開けた裏庭では、オルソラを守りながら大人数を相手にするのは不利過ぎる。

でも、狭い足場や屋根の上なら大人数でもまともに動けない。

 

「やぁ!」「ふんっ!」

 

俺達の背後からはシスター達が松明を振るい、その炎を投げつけてきた。

オルソラを抱きあげた当麻を先頭にどうにかかわしつつ、階段を駆け上がった俺は急に後ろを振り向き、シスターの1人を蹴り飛ばす。

一列に追っていたシスター達は将棋倒しのように次々と階段から転げ落ちていく。

それを下で見ていたシスター達の目付きが変わった。

手に持った様々な武器を天に掲げると、その穂先に赤や青などの光が宿った。

 

「ちっ、当麻向こうへ飛べ!」

 

遠距離魔術を数で使われたら、俺でも当麻でも防ぎきれない。

今はかわす事だけに専念するしかない。

 

「だぁー!」

 

魔術の一つが足元へさく裂した。

爆風に乗り俺と当麻は足場から反対側の屋根へと飛んだ。

屋根へと着地と同時に当麻の腕から転げ落ちたオルソラをキャッチした。

軽いとはいえ、女性1人を無理な体勢で受け止めたので少しばかり衝撃が強かった。

 

「ぐっ……」

「だ、大丈夫でございますか?」

「気にするな。それよりオルソラの方こそ大丈夫か?」

 

怪我をしているのは分かっていたが、オルソラの破れた衣服の下に多くの足跡がくっきりと残っていた。

それを見て当麻が強く歯軋りする音が聞こえる。

 

「くそっ!」

「当麻、その感傷は後だ。ともかく今は、また来たぞ!」

 

十数人のシスターが俺達を囲むように屋根へと這いあがってきた。

 

「しつこい!」

 

包囲の一角に突撃し、剣を振って来たシスターの腕を掴み、投げ飛ばす。

そのついでに剣を奪う事も忘れていない。

更に、左右から槍や斧を振り下ろしたシスターをかわし、武器を奪い蹴り飛ばす。

うん、やっぱりこいつら天草式より弱い。

右手に槍、左手に剣を構え、当麻とオルソラを背にする。

面倒だから、ここでこいつら全員潰すか。

 

「当麻、オルソラを決して離すな。敵は俺が潰す」

「あぁ、分かった」

 

言ってる間に左から攻めってきた手斧を剣で受け止め、膝を腹に突き出す。

右手の槍を風車のように廻し、残りのシスター達の攻撃を弾き飛ばした。

 

「おらぁ! 足元注意!」

 

体勢がひるんだシスター達の足元を槍の柄で薙ぎ払う。

 

「あぁ!?」「きゃっ!?」

 

足を払われたシスターは他のシスターを巻き込み、屋根を転がり落ちて行った。

 

「お、おいおいやりすぎなんじゃ……」

「この下は芝生で、この程度の高さじゃ悪くても骨折程度だ。それより今のうちに行くぞ! ん?」

 

視界の端で、インデックスが歌を歌い、周りにいるシスター達が苦悶に満ちた表情を浮かべ倒れているのが見えた。

どうやら魔術ではないみたいだが、あの歌に何か特殊な作用があるみたいだ。

シェリーの時もインデックスは強制詠唱と言う、相手の魔術にハッキングをしかけて逆利用した事もあったみたいだしな。

 

「インデックス? あれは魔術か?」

「いや、魔力を感じない。どうやらあれはインデックス独自の特殊能力ってやつみたいだ。あれならインデックスは大丈夫だろう。俺達もうかつに近付かない方がいいみたいだ。下に降りるぞ」

 

屋根から足場を伝い、再度地面に降り立った俺達が隠れるのに手頃な聖堂を見つけた時だった。

 

「玉砕覚悟で我らが主の敵を殲滅せよ!」

 

――ビクッ

 

それは多数のシスターを率いていた車輪シスターの声だった。

そして、その言葉の意味する事を瞬時に理解した俺は慌てて、インデックスへと向き直った。

 

「まずいっ! 当麻、その聖堂の中へ行け!」

「おい、どうしたんだよユウキ!」

 

インデックスへと駆け出す俺の目の前で、シスター達が両手に万年筆を構え、自らの両耳に突き刺して行くのが見えた。

と、果物を潰すようなイヤな音が、俺がたまに耳にする音が聞こえた。

 

「玉砕ってやっぱそういう事かよ!」

 

今までシスター達はこちらの様子を窺いながら攻めてきた。

攻撃の意思を弱めず、でも決して深入りせずだ。

だから数で劣る俺達は互角にやりあえた。

それが今車輪シスターの命令で変わった。

防御を捨て攻撃のみ、相手を滅ぼす為に手段も何も問わないと言う、神風攻撃命令。

その結果、自らを止めるインデックスの声が聞こえなくなるように耳を塞いだんだ。

 

「まさか、私の 【魔滅の声】 を回避する為に?」

 

インデックスを包囲していたシスター達は、両耳から血を垂れ流しながらも無表情で武器を構える。

 

「あーもうこれだからこの手の奴らは手に負えない!」

 

痛みなどお構いなしで、感情を殺して敵を殺す事だけに専念した戦闘人形。

そんな見慣れた馬鹿共は見ていて腹が立つ。

 

「痛みは感じなくても、熱さはどうだ!」

 

インデックスへ駆け寄ろうとしていたステイルを幻想支配で視て魔術をコピー、炎の剣を両手に宿しシスター達を薙ぎ払った。

 

「大丈夫か、インデックス!?」

「ありがとう、ゆうき!」

 

ステイルと斎字も駆け付け、インデックスを守るように陣取った。

 

「くそ、キリがねえのよ」

 

斎字の言う通り、これじゃキリがない。

屋根の上や他の場所では五和達が敵を倒してはいるが、それでも数が多すぎる。

 

「こっちだ!」

 

当麻が聖堂の中から叫んでいるのが見えた。

運よく聖堂の鍵はかかっていなかったようだ。

考える間もなく、俺達は聖堂へと駆け込んだ。

扉を閉めたと同時に、いくつも刃が扉を突き抜けてきた。

鉄製の扉でもない限り、すぐに突破されてしまうな。

 

「とりあえず、全員無事見たいだな。オルソラ、傷の状態はどうだ?」

「心配をなさらなくても、見た目よりは平気でございますよ」

「そっか、ならそっちは大丈夫だけど、何か手はあるか?」

 

 

一先ずオルソラは1人でも歩ける程度には回復したようだ。

でも、それで自体が好転したわけじゃない。

相手が捨て身の特攻を仕掛けてくる以上、オルソラとインデックスを守りながら戦うこっちが圧倒的に不利だ。

俺一人ならどうとでもなるが……ってそう言えば、こんな敵も味方も大勢の集団戦は初めての経験かもな。

 

「難しいのよな。ウチの連中もがんばってはくれてるようだが……」

 

いつまでもつかわからない。暗に斎字はそう告げている。

ただでさえ俺達が介入したと言え普通にやりあって、天草式はアニェーゼ達に壊滅状態にさせられたのだ。

今の悪化した状況ではどうなるかは、斎字達自身がわかっている。

 

「もしも、この場に法の書があれば、私の解読法と合わせて活路を見いだせるかもしれないのでございますが……」

 

オルソラの言葉に一同はハッとなった。

法の書は、科学側で言う核兵器みたいなもので、使うだけで魔術側が破滅すると言われている魔導書。

最も、法の書は天草式に盗まれたわけではなく、今もバチカンで厳重に保管されているのだが。

 

「……なるほど、法の書を使うってだけで脅しに使えるからな。十分に交渉に引きずり降ろせる……あっ」

 

そこまで言ってふと閃いた事が合った。

 

「「「あるっ!」」」

 

当麻もインデックスも同じ考えに至ったようだ。

 

「インデックス、確か法の書を一度見た事あるって言ってたよな!?」

「うん、未解読の魔導書として私の頭の中に保管されてるよ」

 

目をパチクリさせる斎字とオルソラに当麻が説明した。

インデックスの完全記憶能力、その能力で一度法の書を見た事があると言っていた。

流石に解読は出来なかったが、その内容だけはインデックスの記憶にある。

しかし、それを使えば……

 

「ダメだ! それをすればこの子が 【法の書の中身】 を記憶してしまう! そうすれば今以上に大勢の魔術師がこの子を襲ってくるんだぞ!」

 

だよな。ただでさえ大量の魔導書を記憶してるってのに、その上さらに今まで誰も解けなかった最終兵器までも使えるようになるんだし。

 

「?? 心配してくれるの?」

 

ステイルが自分の身を案じる 【本当の理由】 が分からないインデックスは首をかしげている。

当麻の立ち位置にむかし、ステイルがいた事など今のインデックスの記憶にはない。

そればかりか以前、命を狙って来たほどの相手がなぜ自分の身を案じるのか不思議なのだろう。

それを察したステイルが、顔を赤くしてインデックスから目を逸らした。

あぁ、こうなったインデックスが止められない事をステイルは知っている。

自分が狙われているのは当たり前で、これしか現状を打破出来ないのなら彼女は甘んじてその身を投じる事を、この場にいる誰よりもステイルが理解しているのだろう。

ステイルは隠しきれない心の苦しさをぶつけるように、俺達を睨みつけてきた。

 

「上条当麻、今以上に強くなれ! そして、木原勇騎! 彼女に危害が及びそうになったら学園都市が何が何でも彼女を守れ!! この件が尾を引いて彼女が倒れたら、僕は灰も残さず学園都市ごと君達を魂ごと焼きつくすからな!」

「……分かった」

 

ステイルはそれだけ言うと舌打ちして背を向けた。

当麻はぐっと拳を握り、オルソラと斎字は複雑そうな表情を浮かべ、インデックスだけが未だに首を傾げてる。

てか何で、俺までフルネームで呼ぶかなぁ。

まぁ、そりゃインデックスに何もないようには今後も動くし、いざとなりゃ学園都市の動かせる所まで動かす覚悟はとっくに出来てるけどな。

 

「それでは法の書の解読法をお教えいたしますね。まず基本はテムラー……」

 

オルソラはインデックスに何やら複雑な魔術用語を言っているが、俺や当麻にはその意味は全く分からない。

ただ淡々と聞いていたインデックスの表情が段々と曇り出したのが気になった。

 

「もういいよ。大体全部分かったから」

「あの何が分かったのでございましょうか?」

 

突然オルソラの言葉を遮ったインデックス。

その意味する所に、とんでもなく嫌な予感がした。

 

「これ、正しい解読法じゃないの。トラップとして用意されたダミーだよ」

「そ、んな……!?」

 

オルソラの表情が、いや、ステイルや斎字の表情すら凍りついた。

 

「ごめんね。この解読法は私も辿りつけたの。でも、法の書の怖い所は解読法が100通り以上ある事なの。正しい解読法でなくても、それらしく見えて解読出来たと思いこませるんだよ」

「……法の書は誰にも読めないんじゃなく、誰にも読めるからこそ正しい読み方が分からない魔導書、か」

 

立派なセキュリティーだな。間違えと言う正解を沢山用意する事で、本当の正解を分からなくさせている。

これくらいの対策はしているって事か、法の書を作った奴って心底性根が曲がりくねった野郎だな。

 

「考えようによっちゃあ救われたかもしれんのよ。連中に解読法が間違ってましたといやあ……」

 

――ドカッ!

 

斎字が無理やり明るく言おうとした時、扉が大きく壊された。

その向こうから無表情ながらも殺気だったシスター達が大勢こちらを睨んでいるのが見えた。

 

「無理だろうね。ここまで暗部を見せてしまった以上」

「都合の悪い目撃者は消せ、か。つくづく魔術側もこっち側と全然変わんねぇな」

 

またもやセリフを遮られステイルは苦虫を潰した表情を浮かべたが、気持ちを切り替えようと新しい煙草を取り出そうとした。

しかし、その時内心焦っていたのか、数枚ルーンカードが地面に零れ落ちてしまった。

それを見て、俺はある事が閃いた。

 

『始めるなら始めるでもう少し時間を稼いで欲しかったね。これじゃルーンを配置する時間もないよ』

 

当麻も俺と同じくカードを見つめて、何か思いついた表情を浮かべている。

 

「当麻……ひょっとして?」

「ユウキもか? 一か八かやってみるしかないか」

 

俺達は頷きあうと、ステイルと斎字に小声で話しかけた。

 

――バキッ!

 

扉が大きく破壊され、漆黒に包まれた雪崩のように数百のシスターが突入してきた。

 

「死ぬなよ、当麻!」

「お前もな、ユウキ!」

 

それを合図に、俺は懐から閃光弾と発煙弾を投げつけた。

あっという間に聖堂は煙と閃光に包まれた。

 

 

 

続く

 




次回で法の書編は完結予定。
で、それからまた幻想郷で日常編と言う名のラブコメが始まります(笑)
そして、しばらくして次の異変、永夜抄編です。

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