幻想支配の幻想入り   作:カガヤ

102 / 159
ちょっと強引ですが天草式戦です。
天草式の術式もいくつか出ていますが、独自設定です。


第101話 「VS天草式」

俺を取り囲む天草式の数は老若男女合わせて6人、全員そこら辺にいそうな一般人の服装をしている。

けれども、1人1人が普段相手にしているスキルアウト共よりもかなり強い。

しかも、天草式が使う魔術や今まで戦ってきた魔術師たちと違い、明確な動作や道具、呪文がない。

普段の仕草や服や装飾品に意味を持たせる術式だ。

そんなの相手に長期戦は不利だ。

だから、一気に片付ける事にした。

 

「まずは……お前だ!」

「っ!?」

 

正面にいた少年を殴ろうと右腕を振りかざし、左から迫ってきていた青年に左のひじ打ちをしかける。

青年は対応が遅れ鳩尾にめり込み、そのまま意識を失った。

残り5人。すかさず持っていた西洋剣を奪い取り、背後から迫っていた老人の刀を受け止める。

そのまま体勢を崩し、お腹に一撃加え気絶させようとしたが、突然ポニーテールの少女が割り込んできて代わりに拳を腹に受けた。

しかし、手応えが全くなかった。スポンジにパンチしたような感覚だ。

思っていた通り、この術式を使って来たか。

 

「ちっ」

 

と、ここで少女が反撃に移ろうとたので急ぎその場を離れ、また別の相手に向かう。

足を止める事なく次々に相手を無力化して行かないと、向こうに流れを取られる。

正面に回り込んできた大男が斧を横薙ぎに振った。

そいつの頭を踏み越えて、後ろで何か術式を準備していたであろう少年に飛び蹴りを放つ。

しかし、さっきの少女同様に手応えがない。

でも、それは予想通りだ。

なので、着地と同時に少年の懐に飛び込み、顎に手加減なしでアッパーカットを打つ。

 

「ぅぐっ」

 

これは効いたようで少年はそのまま倒れて、意識を失った。残り4人。

すぐに少年が持っていた2本の短剣を拾い、左右から迫ってきていたさっきの老人と少女に投げつける。

2人共避けたり自分の武器で弾いたりしたが、それで倒せるとは思っていない。

 

「おぉらぁ!」

 

西洋剣を両手で握り、振り向きざまに振う。

背後では踏み台にされた大男が今度は斧を振りおろしている所だった。

俺の横薙いだ剣が斧の腹に当たり、斧の軌道がずれる。

その衝撃の反動で俺も体勢を崩したが、その勢いを利用して大男の真横へと移動する。

そのまま大男を蹴りあげようとした。

でも、そうはさせないと、大男の影から金髪の少女が手に持ったレイピアを突き出してきた。

こいつら本当に集団戦が得意だな。

互いの攻撃の隙を埋めるように連携を取ってきて、うまい。

だからこそ、攻撃パターンが読みやすいんだけどな。

半回転して突き出されたレイピアを西洋剣で受け止め、そのまま受け流しつつ少女へ足払いをかける。

そして、少女の背中を強く押し、体勢を立て直していたポニーテールの少女へとぶつける。

 

「ぅっ!」

「きゃっ!?」

 

まだこれで終わらない。

剣を置き未だ体勢が崩れたままの大男に組みつき、そのまま背負い投げで2人の少女に向けて投げつける。

 

「だりゃぁ!」

「ぐふっ!?」

「かはっ!?」

 

こいつらに張られていた対衝撃の術式では、今のは耐えられない。

3人共折り重なったまま、意識を失っている。

これで残るは老人が1人。

本当ならこれで退いてくれるとありがたいんだけど、この爺さん全く闘志が衰えていない。

こいつらと対峙して今の今まで数分にも満たない出来事だ。

その間に、俺はすでに5人、出会い頭のあの男も含めて6人倒してきた。

これで俺との力の差が分かったはず。

なのにその表情に驚きこそあれど、退く気配すらない。

強い意志が籠った目で俺を睨んできている。

こういう目を俺は知っている。

少なくとも営利目的でオルソラを誘拐したり、法の書なんて魔術兵器を盗んだりする目には見えなかった。

やっぱり、コイツらは……

 

「諫早さん!」

 

そこへ女性の声が響き、こちらに向かってこようとしていた爺さんの動きが止まり、一歩引いた。

 

―ゾクリッ

 

と、嫌な予感がして、急いでその場を離れると轟! と言う音と共に地面に槍が突き刺さった。

そして、ショートカットに桃色の服をきた女性が空から降ってきた。

爺さんを庇うように槍を構えたその姿を一目で見てすぐに分かった。

コイツ、今までの天草式とは全く違う。

彼女の持つ槍も柄と先端の刃がとても長く、先端にはウイングのように両端に開けた刃もついている

フリウリスピアか、厄介だな。

 

「五和、すまない」

「いえ。ここは私が」

 

爺さんは俺を一瞥すると、この場から離れた。

他の場所の仲間の元へ向かったのだろう。

それを横目で確認して五和と呼ばれた少女は周囲に散らばる自分の仲間に目を向けてから、俺を睨みつけた。

対する俺は幻想支配で五和を視た。

そして、そのレベルの高さに少し驚く。

やはり彼女は他のメンバーと違う。

実は、幻想支配で天草式を視ている。

さっき当麻と追いかけられていた時や、囮となって対峙した時などにだ。

それぞれ視たのが一瞬だった為、俺の眼が何度も赤くなった事に天草式は気付かなかったのだろう。

その一瞬で彼らが使う術式を把握出来た。

これで、彼らがいつかの錬金術師やシェリーレベルの魔術師だったら、こうも一瞬で全てを把握出来はしなかっただろう。

俺の幻想支配相手のレベルに応じて、視なければいけない時間と効果が変わってくる。

レベルが高い相手にはしばらく視ていないと、能力をコピーしたり把握は出来ない。

美琴も最初はしばらく視てないと使えなかったしな。

魔術師も何度も相手にしているせいか、魔術にもかなり視慣れた。

おかげで彼ら程度の魔術師なら一瞬で全てを把握し、支配も出来るようになる。

……これを狙って俺を魔術師にぶつけてきたんだろうな、尼視は。

ともかく、彼ら全員を視て、使える術式を把握したおかげで、それぞれを短時間で倒す事が出来た。

どんな防御術式や移動術式を使ってきて、どの程度の攻撃なら防御しきれないか、などだ。

少なくとも五和は一瞬で全部を視る事が出来ない。

このまま視ていればすぐに大丈夫だろうけど、時間をかけたくない。

それにさっきの爺さんの反応をみると、彼女は結構メンバー内では高位にいそうだ。

ならちょうどいい。彼女に事情を聞くとしよう。

でも、俺が仲間を倒しまくったせいで向こうが結構怒ってるのをどうにかしないとな。

 

「しっ!」

 

そう考えている暇もなく、五和は俺の目の前に一瞬で詰め寄り手に持った槍を振って来た。

その速度はさっきまで相手をしていた天草式とは比べ物にもならない。

咄嗟に転がるようにかわし、転がっていたドレスソードと短剣を手に取る。

五和の攻撃は、西洋剣一本では捌ききれない。

なのでここは二刀流で行くとしよう。

右手に順手持ちのドレスソード、左手に逆手に構えた短剣。

欲を言えば両手にナイフで相手をしたいが、ないものねだりをしてもしょうがない。

 

「っ、せいっ!」

 

振われたスピアの刃を短剣で受け止め、そのまま懐に飛び込もうとしたが、五和は踊るように身体を捻りこちらの攻撃をかわし、カウンターでスピアを突き出してきた。

ドレスソードで受け止め、短剣で上に弾き今度は懐に入る事が出来た。

そのまま左の肘打ちを五和の胸に打ち込む。

うまく入ったが、手応えがない。

さっきまでの連中とはまた違った術式のようで、完全に衝撃を吸収されている。

五和は、打撃をもらったのが意外だったのか少し目を見開き、俺から離れた。

まずいな。このままじゃ決め手に欠ける。

負けはしないが、勝つには時間がかかりそうだ。

先に行かせた当麻やインデックスの事も気になるし、渦の時間まであまりない。

なら、ここで切り札を使わせてもらおう。

 

「っ!?」

 

どうやら五和は俺の眼が赤くなった事に気付いたようだ。

でも、動揺はせず声もあげないのは流石だな。

右手のドレスソードを五和に向けて投げつける。

五和は弾くよりもかわす事を選んだようで、身体を捻ってソードをかわした。

その隙に俺は目的の場所まで駆け出した。

五和は突然走り出した俺を追いかけたが、目的地はすぐそこ、もう着いた。

さっきアッパーで倒した少年の元に走り、地面に落ちていたもう1本の短剣を拾いあげた。

俺が視た相手は、五和ではない。この少年だ。

逆手で持った両手の短剣を無造作に振いつつ、呼吸を整える。

 

「なっ!?」

 

それだけで五和は俺が何をしたのか分かった。

そして、俺はひとっ飛びで五和の真後ろの死角に回り込み、短剣で斬りつける。

かろうじてスピアが間に合い防ぐ事が出来たが、おかげで隙が出来た。

短剣を捨てて、スピアを掴み背負い投げの要領で地面に投げ飛ばす。

その際、幻想支配で五和を視て、能力停止を使い術式を全て解除させた。

 

「きゃっ!?」

「ふぅ、これで終わりだ」

 

地面に倒れこんだ五和に馬乗りになり喉元に短剣を突き付け、勝負はついた。

スピアは遠くに投げたし、幻想支配で術式も封じた。

五和の眼からは闘志は消えず、敵意むき出しで俺を睨んでいるけどもうどうしようもない。

 

「妙な動きするなよ?」

「な、なぜ術式が消えたんですか。それに今のは香焼の……」

 

あの少年は香焼って名前なのか。

俺がやった事は、香焼を幻想支配で視て彼が使える術式の一つ、死角を狙った移動術式を使った。

ただそれだけだ。

なんで離れた場所で倒れている香焼を視たかと言えば、短剣を使った術式だったからだ。

やっぱり西洋剣や斧よりも短剣の方が使いやすいしな。

 

「それより先にこっちの質問に答えろ。なぜ、オルソラを誘拐した?」

 

俺の質問に五和は困惑の表情を浮かべた。

まぁ、そうだろうな。

オルソラを誘拐した理由を俺達は知っているはずだもんな。

そんな質問をこの場でする意味が五和には分からないだろう。

 

「じゃあ質問を変える。お前ら本当に法の書を盗んだのか?」

「どういう意味、ですか?」

 

五和の眼から敵意が少しだけ薄れた。

 

「自己紹介しておく。俺の名はユウキ、学園都市からやってきた。俺がローマ正教から聞かされた事は法の書と言う十字教を破滅させるほどの魔導書の解読法を発見したオルソラが、書ごとお前ら天草式に誘拐された。俺はその手伝いをしているだけだ」

「………」

「ちなみに、お前は見てたか知らないが、俺と一緒に逃げていたツンツン頭はただの学園都市の学生だ」

「……それを私に言ってどうするんですか?」

 

まだ敵意は消えない。

 

「どうも俺達が聞かされた話と事情が違うようなんでさ。おたくら……ひょっとしてオルソラをローマ正教から保護しようとしてないか?」

「なっ!? どうしてそれを!?」

 

カマをかけたが見事に引っ掛かった。これは演技ではないな。

 

「簡単な話だ。神裂火織が頭張ってた組織が、どうしてこんな野蛮な真似までして、十字教最大派閥に喧嘩売ってまで、なんで身に余る兵器を手に入れるのかって事だ」

「女教皇を知っているんですか!?」

 

火織の名前を出した途端、五和の表情が変わった。

演技をしてこちらを油断させている可能性はゼロじゃないが、ひとまず彼女の上から退く事にした。

 

「神裂火織とは一度手合わせしてる。敵だったが、どうにも悪人には見えなかったな。ものすごーく不器用そうではあったけど」

「……女教皇」

 

悲しげに女教皇を呼ぶ五和を見て、彼女達と火織に何があったのか気にはなった。

けど、今はそれどころじゃない。

 

「話を戻すぞ。法の書ってのは使えば十字教の時代が終わるような代物だろ? そんなのを現時点でトップに立っているローマ正教がなんで持っているか。そもそもそんなもの、ローマ正教が必要にしているのか? いいやしていない」

 

科学側に置き換えれば簡単な話だ。

例えば科学側のトップである学園都市が、もし科学の終わりを告げる兵器を自分で持っている理由。

それは、誰にも使わせない為に持っている。

レベル5を筆頭にした能力者達を自分達の手元に置いておき、他の能力開発組織に警戒を強めている理由もそれだ。

もしも、そんな誰も使えない兵器を使えるように出来る者が現れたら?

学園都市は……ソイツを消すだろうな。

って、自分で仮定しておいてなんだが、学園都市に例えると色々無理がありそうだな。

 

「そんな中、どういう理由か分からないけど、法の書の解読法を見つけてしまった人がいた、オルソラだ。ローマ正教はその解読法が広まる前に何としても彼女を消す必要があった。それを知ったオルソラは逃げ出して、おたくらに救いを求めた」

「……」

 

五和は無言で俺の仮説を聞いていた。

ただ、時折拳を強く握りしめている。

 

「ここからの経緯は推測しにくいんだが、何らかのトラブルでオルソラは再び逃走。魔術や宗教が関わっていない学園都市に逃げ込もうとした。あ、俺と当麻はその時オルソラに出会ったんだ。で、その後は見ての通りだ。どうだ?」

「……あなたの推測通りです」

 

五和の表情から大分警戒が消えてきたな。

 

「でだ。オルソラが法の書の解読法を知った経緯とかも疑問だけど、もっと重大な疑問がある。それは、なんでオルソラはおたくらから逃げた? まさかと思うが、見返りに法の書の解読法でも求めたか?」

「違います! 私達は彼女に何も求めていません! 私達はただ彼女が救いを求めてきた。だから助けようとした。それだけです!」

 

ここからは五和の話になった。

大まかな経緯は俺が予想した通りで、オルソラを救おうとしたのも、ただ救いが必要だったから手を差し伸べただけだった。

天草式は昔からやっている事は変わらない。

火織がトップになってからは、特にそれが顕著になっただけだ。

たった1人の少女の願いの為に、大蛇を相手にしたり。

死にゆく者の願いで、大勢の軍勢から村を守ったりしてきた。

彼女達は、当麻みたいなヒーローだった。

しかし、そんな彼女達でも守れないものがあった。

それは神裂火織。

トップであった彼女と共に闘う為に、守るために五和達は必死に戦った。

その結果、火織以外の者達が彼女を守り犠牲になる事が、火織自身には耐えられなかった。

だから、火織は天草式から離脱した。

 

「……結局、私達が弱かったから、女教皇の居場所を守れなかった。でも、だからこそ今度こそ、女教皇がいつ戻ってきてもいい場所にしたいんです!」

 

そう話す五和の眼に一点の曇りもなかった。

嘘も、演技でもない、彼女自身の決意だ。

 

「でも彼女には……それが通じませんでした。だから彼女は私達の元からも去ったんです」

 

あのオルソラが、五和達を信じきれなかった……か。

恐らくだけど、それはオルソラが今までローマ正教にいたからこそ思い至ったんだろうな。

うまく言葉に表せないけど、それこそがローマ正教の本当の姿だと思った。

 

「そっちの都合は分かった。信じよう」

「えっ……本当ですか?」

 

五和はチラリとまだ気絶している香焼達に目を向けた。

……仲間をこれだけ倒す相手がこうもあっさり自分達を信じるのはどうも納得出来ないと言った顔だ。

 

「あー……素手の高校生相手に数人がかりで殺す気で武器を振ってきたら、正当防衛になるからな!?」

「いえ、それに関しては完全にこちらの落ち度ですから……その、すみませんでした」

「そうあっさりと謝られると、まぁ俺もやりすぎた。ごめん」

「あなた程の腕なら、もっと簡単に、それこそ殺せたはずです。ですが、香焼達を最低限の怪我をさせないように気絶させています。それだけでも信用していいと思いましたので」

「ははっ、そうかい」

 

それを聞いて思わず笑みが零れる。

 

「な、なぜ笑うんですか!?」

「いや、やっぱりあの神裂火織がいた組織だけはあるなと思ってさ。お前ら色々似過ぎだ」

「それは最高の褒め言葉です!」

 

そう言って初めて五和は笑った。

 

「うん、良い笑顔だ。さてと、これからどうするかだな」

 

さっきまで響いていた音がいつの間にか止んでいる。

それは戦闘が終わったと言う証だ。

 

「こう言っちゃなんだが……恐らく、戦闘は」

「私達の負けでしょうね。仲間と連絡が付きません」

 

悔しそうに言う五和を見て、複雑な心境だ。

 

「ひとまず、みんなを起こして当麻達に合流するか。五和、俺に捕まったフリをしてくれないか?」

「保険、ですか?」

 

五和は俺が何をしようとしているか勘付いたようだ。

 

「あぁ、香焼達は隠れてもらって、俺は五和を捕まえたって事でローマ正教に合流して、状況を確認する。後は、臨機応変だ」

「か、肝心な所はあやふやなんですね。ですが、時間はありません。それでいきましょう」

 

それから、気絶している香焼達を起こそうとしたその時だった。

 

――キャーーーーー!!

 

数々の悲鳴を聞いた俺でも驚くほどの悲鳴が、オルソラの絶叫が遠くから聞こえてきた。

 

 

 

続く

 




ユウキが今回相手にしたのは、天草式で名前が分かっている浦上、五和、牛深、香焼、諫早、野母崎、対馬の7人です。
原作で当麻が倒した相手もユウキが倒したので、あっちはどうなってるかは想像にお任せします(笑)
ただ、当麻の方は原作通りステイルと一緒にクワガタ頭を倒しました。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。