幻想支配の幻想入り   作:カガヤ

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お待たせしました!⑨話です!



第⑨話 「さいきょーの氷精」

いやぁ~思わぬ形でユウキさんに同行取材出来て良かった良かった。

この赤い妖霧は我々の住む妖怪の山にまで及んでて、特に影響はないけれど人里や他の場所にはどんな影響出てるか調べてこいと言われて人里の様子を見ていました。

そこで誰かが寺子屋から飛び出るのを偶然見つけて、後を追って見るとユウキさんが弾幕を使って妖精達を蹴散らしていた。

幻想支配、やはり脅威になる。でも、彼はその力を最低限にしか使ってない、八雲紫に忠告でもされたようね。

 

「さっきから何ブツブツ言ってるんだ?」

「え? いや、ちょっとここまでの取材を纏めてるんですよ。えっと、ユウキさんの趣味は餌付け……ワプッ!?」

「いい加減そのネタはいらねぇっての」

 

後ろ向きで弾幕を撃たれました。妖精やルーミアとの弾幕ごっこを見て改めて思ったけど、やはり戦い慣れてるわ、ユウキさんは。

身のこなしや気配の読み方、未知の能力にも即座に対応し対策を立てれる判断力と順応力。

幼少の頃から何かしらの訓練を受けて、それ相応の修羅場をくぐり抜けてこないとこうはいかないわ。

 

「ユウキさーん、紅魔館での用事が済んだら、元の世界でのあなたの武勇伝も聞かせてくださいねー」

「断る。それよりお前は自分の仕事しろよ」

 

分かってますよー。と、私は向かってくる妖精を弾幕で追い払う。落とせば済む話だけど、護衛なんでそこまでする必要はないしね。

紅魔館への同行取材の代わりに、私が道案内と護衛をする事になったけど、すでに一度紅魔館に行っているというユウキさんに道案内は不要で、護衛と言っても今のユウキさんは慧音の力を使っているので、そこらへんの妖精や妖怪じゃ相手にならないからこれも不要。と思っていたけど何やらさっきからユウキさんから感じる力が弱くなっている気が?

見た目は疲弊しているわけでもなさそうで、調子が悪いわけでもなさそうね。

 

「ユウキさん、少し休みますか?」

「そうだな。湖が見えてきた、あそこで休むか」

 

おや、随分あっさりと休憩を取る事に賛成したわね。てっきりそのまま行くと思ったけど。

 

「霧の湖、その名の通り今は赤い霧で覆われてますね。でも、月が出てるので少しはマシですか……赤い月ですけど」

「……もう、限界だ」

 

湖に到着し降りた途端、ユウキさんの様子がおかしくなりました。

フラッと地面に倒れ込み、片膝をついたかと思えば、彼の体から慧音の力が霧のように霧散してしまったのです。

 

「ど、どうしたんですか一体?」

 

もう何の力も感じず眼の色も元に戻ってしまったユウキさん。

それでも本人は体の調子を確認するだけで、特に混乱している様子はありません。

 

「タイムリミットが来ただけだ。幻想支配が解除されるのは自分の意思で解くか、一定時間が経つかだ。学園都市に居た時は能力者相手では大体1日くらいは保ってたけど。それも最初のうちは1、2時間ですぐに解けたりもしたしな。要は慣れって事だろうな」

 

つまり、慧音の力もっと言えば幻想郷にある力の1つ、霊力は視慣れない力だから持続時間が短かった。と言うわけね。

 

「霊夢の時みたいに気絶しないだけマシだ。特に体に問題ないみたいだし、護衛もいるから道中も問題ない」

 

なるほど、力が切れそうなのが分かってたから私に護衛をさせた……って、あれ?

 

「それじゃユウキさんはそのまま紅魔館に行って、フランドールさんに会う気なんですか!?」

 

慧音の力を使っているならいざ知らず、今の誰の力も持ってない状態で行くのはかなり危険。

 

「そのつもりだ。けど、何もないよりは……」

 

そう言ってユウキさんは、じっと私の事を見つめてきました。

 

「え、えっと……一体何でしょうか?」

「………」

「流石の私もそう見られると、ちょっと……恥かしいんですが」

 

うわぁ、ユウキさんが真剣に私の事見てる! そう言えばこうもじっくりとユウキさんを見た事ないような?

これは負けていられません! 全てを見て聞いて知る新聞記者が見られっぱなしじゃダメです!

う~、なんだか色々混乱してきました、ここは私もユウキさんを見つめる事にしましょう!

 

「ジー……」

「………」

「ジ、ジー……」

 

無理、もう降参! なんだかすごく恥かしくなってきたぁ! 赤い月明かりに照らされた湖畔でこれはかなりムードがあるんじゃない?

なんでユウキさんはこうも私をじっと見つめるの!? わ、私に惚れました? さっき弾幕撃たれたりルーミアをけしかけてきたのは照れ隠し!?

そ、それはそれで嬉しいような……その、いきなりこういう展開は予想外と言いますか。

 

「やっぱダメか、文の力をコピー出来ない。慧音で出来たから文でも出来ると思ったんだけどな」

「そうですよね!? そのパターンですよね? お約束ですか!? 私1人が舞いあがってばっかみたいですよね!?」

「……何いきなり木に頭ぶつけてるんだ? 気でも狂ったか?」

 

こ、この人は本当にもう……この展開は想像できたはずなのに私のばかぁ!

 

「と言うか、ユウキさんも私の事じっと見つめててそのうっすい反応は何ですか!? 私れっきとした女の子なんですよ!?」

「あ、悪い。今日は化粧してなかったのか? でもそれにしても綺麗だけどな?」

「ちっがいます! そういう意味じゃありません!」

 

全くもう、さっきの仕返しかな……あれ? 私今さりげなく綺麗って言われたのかな?

あと女の 【子】 にツッコミも何もしてこなかったのは嬉しいけど、これでも私はユウキさんより何百年も年上ですが。

 

「ん? あそこにいるのはチルノと大ちゃんか?」

「なんでユウキさんって私にドライなんですか……」

 

がっくりと項垂れながらユウキさんの指さす方を見ると、確かに霧の向こうに青い髪の少女が湖の淵に座り込み、隣に緑髪の少女がいるわね。

それにしても私よりもあの小さい妖精が気になるのは……ひょっとして、ユウキさんはそういう系の人?

外の世界では流行りだとも言うし、ルーミアにも餌付けしたし、フランドールに呼ばれてのこのこ行くあたりも……

 

「……」

 

と考えていたら、ユウキさんが無言で私の脳天にチョップを、それも割と強く。

 

「痛いー!? ちょ、何いきなり人の頭叩くんですか?」

「お前がさっきから思ってる事口に出まくってたからだ。俺にそんな趣味はない」

「ほうほう、でしたらユウキさんのストライクゾーンはどれくらいなんですか?」

「少なくとも何百歳も年上はアウトだな」

 

うわっ、何気にアウトと言われた……少しショック。

 

「よっ、大ちゃん。こんにちは」

「あ、ユウキさん、こんにちわ! それと誰ですか?」

 

うーん、そう言えばチルノには何度か会ってるけど、大妖精にはまだ会った事なかったような……あれ? でも会ってるはずだけど? ま、妖精だからこんなものね。

 

「あぁ、初対面だったか? こっちはバ鴉っていう文だ」

「どうもぉ、バ鴉という文です……って違います! 射命丸文というバ鴉です……ってそれもちがーう!」

「な? バ鴉で十分通じるだろ?」

「は、はぁ……どうも、バ鴉さん」

「しゃ・め・い・ま・る・あ・や、です!」

 

な、何なの? さっきからユウキさんにペースを乱されっぱなし、そんなに私が嫌いなの!?

 

「で、さっきから黙ってるチルノは一体どうしたんだ?」

 

チルノは私達が近くに来てから顔をちらりと向けただけで、無言で湖に石を投げ込んでいるだけ。

その姿は誰がどう見ても落ち込んでいるようにしか見えない。拗ねているとも言えるわね。

でも、年中無休で頭の中がお花畑の妖精がこうも落ち込んだりするのは珍しい。

この氷精と大妖精は妖精にしては力が強く、人間臭い所も多いからかしら?

 

「実は、さっき巫女さんと魔女さんに弾幕ごっこで立て続けに負けて……それで」

「自信を無くしたか。それにしてもまた霊夢と魔理沙かい、あいつら紅魔館に霧止めに行くのになんで通り魔みたいな事してるんだ?」

「いえ、むしろ逆ですね。異変なんで妖怪も妖精も興奮して、暴れたい所にたまたま通りすがったあの2人が標的になって、返り討ちって所です。私達だってここまで来る時に妖精が襲ってきたじゃないですか」

「それもそうか」

 

私達からしたら普通の事だけど、外から来たユウキさんには変に見えるようで、でもこれは慣れてもらうしかないわね。

ユウキさんはチルノの側に座った。と言ってもチルノに何を言うわけでもなく、ただ黙って湖を眺めている。

紅魔館に行くんじゃなかったの? ユウキさんも寄り道がお好きなようで。

 

「ユウキ……あたい、負けちゃった。それも2回も、あたいさいきょーじゃないのかな?」

「最強だって負ける事もあるさ。強いからっていつも勝つとも限らないしな。俺のいた所でも最強最強と言われてたけど、何回か負けた奴も知ってるしな」

「あたい、負けたくないもん。さいきょーだから負けたくないもん!」

「チルノちゃん……」

 

チルノは涙を浮かべるほど悔しかったのね。気持ちは分からなくもないけど、でもやっぱり分からない。

 

「弾幕ごっこに負けた事に悔しがりますか、別に勝ち負けは重要じゃないんですけどね」

「どういう事だ?」

「弾幕ごっこという遊びの戦闘をする事自体が重要なんですよ。中には勝ち負けにこだわる妖怪もいますけど、実力者はみんなそうです」

「じゃあ文もか? お前も実力的には結構強いだろ?」

「えぇ、勝とうが負けようがネタに出来れば、私はそれでいいので」

「なるほど、分かるような分からないようだな。俺のいた世界じゃ生死をかけたり、世界の運命をかけた戦いばかりしてきたからな」

 

外の世界から来たユウキさんには、そこらへんの理解はまだちょっと無理かもね。

それに今更だけど、つくづく物騒な生活をしていたのねユウキさんは。

 

「チルノ、お前もっと強くなりたいって事か?」

「……うん」

 

もう十分に強いんですけどね、妖精としては。これ以上強くなるのは色々とマズイような気も……

 

「分かった。なら、少し待ってろよ」

「ユウキさん、何かいい案でもあるんですか?」

 

大妖精が首をかしげ、私もユウキさんが何か思いついたような表情が気になるわね。

 

「それは、こうするのさ」

 

そう言ってユウキさんはじっとチルノを見つめ始めました。すると、みるみるうちに瞳の色が変わり、ユウキさんの体から冷気が溢れだしてきました。

 

「これ、チルノちゃんの冷気?」

 

大妖精もユウキさんから、チルノの力を感じたようです。

これは少し驚きですね。私の力を使えないのに、チルノの力は使えるなんて。

 

「よしっ、成功だ」

「どうしたのユウキ!? あたいみたいに冷たい空気出して、それに眼が緑色に輝いているよ?」

 

今のユウキさんの目は緑色、慧音の力を使っていた時は青だったのでこれで2色。

しかも、緑色に輝いているから赤い夜によく目立って少し綺麗かも。

 

「緑か、緑にはなった事ないな」

「どうしましたかユウキさん?」

 

怪訝そうにするユウキさん、一体何だろう?

 

「文には言ったけど、元いた世界では俺は能力者の力を使う時は青、魔術師の力を使う時は赤になるんだ。だから、緑色ってのは初めてだ。あ、それ以外の色にはなったかもしれない時は何回かあったけど、その時何色かは分からない。自分の目の色は鏡とか見なきゃ分からないだろ?」

「はぁ、それは確かに。で、チルノさんの力をコピーして一体何をするんですか? その力でフランドールさんに会いに行くとでも?」

 

確かに何もないよりはマシだけど、でも妖精の力をコピーしても吸血鬼相手にはキツイと思うわ。

 

「過小評価は良くないな文。チルノよく聞けよ。俺は今チルノの力を使ってるんだ、分かるか?」

「う、うん。何となく、ユウキを見てるとなんだか自分を見てる気になるよ」

 

自分と全く同じ力を持ったのが目の前に居ればそうなるわね。私はまだ体験した事ないけど、実際そうなったら気持ち悪いものかも。

 

「すごい、あたいがもう1人いるみたいだ。ユウキすごい!」

「でも少し寒いかも……」

 

確かに。力の強い氷精が2人、それも冷気がだだ漏れ、妖怪といえど側にいるだけで風邪引きそうですね。

私は平気だけど、大妖精には少しキツイかな。

 

「で、だ。ここからが肝心」

 

ユウキさんの体からあふれ出る冷気が弱まっていき、完全に止まりました。

目の色は以前緑のままだし、感じる力はそのままなので力を解除したわけじゃなさそうだけど。

 

「見てろよ、チルノ」

 

そう言って空に飛びあがったユウキさんは、空中で両手を前にかざす。すると両手から冷気が放たれ空中に氷の道を作っていく。

ユウキさんはその氷の道に乗り、スケートをするように滑って行った。あれなら空を飛ぶより速いかもしれない。

 

「何あれ、何あれ! 面白そう!」

「氷の道を作りながら滑ってる、すごい!」

 

妖精2人は大興奮。空中をただ飛ぶより、氷の坂道を滑って移動する方が確かに楽しそうではあるから、子供みたいな妖精には受けがいいみたいね。

と言いつつ、実は私も少しやってみたくはある。外の世界には氷の滑り台があるって聞くけど、あんな感じかしら?

そして、ユウキさんは湖に浮かぶ木の枝や丸太に向けて、滑りながらチルノの弾幕を撃ち始めた。

これは弾幕ごっこにうってつけかも……なるほど、そういう事ですか。

歓声をあげていた2人も、空中を自在に滑りながら弾幕を撃つユウキさんの姿に見惚れているようで、黙って見上げています。

私も思わず見惚れちゃいましたが、新聞記者としての仕事は忘れてないですよ、ばっちりカメラに収めています。

 

「どうだった、チルノ?」

 

やがて降り立ったユウキさんの目は元に戻っていて、彼からチルノの力は感じなくなっていた。時間切れのようね。

 

「………」

「チルノ? 大ちゃん、チルノどうしたんだ?」

「多分、ユウキさんがかっこよかったからだと思います。私もすごく感動してますから」

 

興奮のあまり顔を赤くしたチルノが大ちゃんの言葉に、うんうんと頷いています。そんなに赤くして溶けないのかしら?

 

「そうか、でもな今俺がやった事、チルノも出来るんだぞ?」

「「えっ!?」」

 

2人揃って驚く。そりゃあんな事を自分も出来ると言われたらそうなるわね。

 

「俺はさっきチルノの力を使ったけど、チルノに出来ない事はさっきの俺では出来ない。逆に言えばチルノの力を使って俺が出来る事はチルノでも出来るって事だ」

「うーん、あたいにもさっきみたいに滑り台が作れるって事?」

「あぁ、それがチルノの新しいスペルカード、必殺技の完成だ」

「おぉ~!」

 

物凄く目がキラキラしてるわね。子供の扱いがうまいと言うか、何と言うか。

でも、さっきのアレは確かにスペルカードとしても十分ね。スペルカードは魅せる事が一番大事、現にさっきの氷の道を作りながら弾幕を撃つ姿は、チルノや大妖精それに私も見惚れちゃったし。

 

「本当は俺がさっきの動き教えても良いんだけど、これから他に約束があるんだ」

「ううん、だいじょーぶ! さいきょーのあたいならあれくらいらくしょーだよ! 次に会ったらユウキに見せてあげれるようになるよ」

「そうだな。チルノなら楽勝だな、なんて言ったって……」

 

「「最強だもん(ね/な)!」」

 

それからチルノや大妖精に別れを告げ、私達は湖の向こうに微かに見える紅魔館に向けて出発しました。

 

「あれ? ユウキさん、チルノの力もう使えないんじゃないんですか?」

「いや、さっきは時間切れで解除になったんじゃなく、力を解除しただけだ。幻想支配の解除とコピーした力の解除は別だからな。自分で解除しても時間切れにならない限りはコピーした能力は使えるんだよ。と言っても、これでまた別の誰かの能力コピーしたら、チルノの力は使えなくなるけどな」

「つまり、幻想支配は時間切れにならない限り、一度コピーした能力は何度でも使えると言うわけですか」

 

そして、幻想支配を使っているかいないかは目を見ればすぐに分かる。と、ふむふむやはり同行取材して正解でしたね。これで結構幻想支配の事が分かってきたわ。でも、まだ色々出来る事がありそうな気もするわね。

 

「てか文。いつまでその話し方してるんだ?」

「えっ? 何がですか?」

「新聞記者だからだろうが、その取材相手に対する時の独特の話し方と言うのは、あまり好きじゃないんだ。出来れば素で話してくれた方が俺も話しやすいんだけど」

「バレてましたか。ですが、これは私の癖といいますか、今は取材中ですし習慣なので気にしないでくださいな。私ともっと親密になれば話は別ですけど?♪」

 

とにこやか営業スマイル全開でユウキさんにせまってみても……

 

「……一生その話し方でいろ」

 

つれない人ですね、ホント。

だけど、ユウキさんとは取材対象兼監視対象としてではなく、もっと親密になってもいいかなーなんて、思ってるのは事実ですよ?

 

 

つづく

 




うーん、フラグを付けたい相手は別にいるのに思わぬフラグが立ちまくりな気がする……キャラの暴走とも言うのでしょうか(違)

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