「ーー金曜の夜、予定明けときなさい。」
突然家にやってきたのは、河井伊奈子。『学校一の美人』と噂されていた隣のクラスの女子生徒だった。
「久々にモデルの仕事があったんだけど、その時のマネージャーが大手芸能事務所の偉い人たちに話を繋いでくれるって話になってさ。で、向こうはお偉いさんたち連れてくるっていうから、こっちもそれなりに人数そろえて合コンの形にしようってなった訳。」
「『「『「合コン!?」』」』」
うむ、と伊奈子が力強く頷いてみせる。普通、合コンは恋人のいない人間が参加するものである。私たちに声がかかるのを疑問に思ったチェルシーとシェーレは思わず口を開いた。
「ダメダメ、ダメだよ。そんなの。今までだって断ってるでしょう?」
「そうですよ。私たちは、今お付き合いをしている人がいるんですから。」
まあ、これまでにもイベントの度に伊奈子からはなんらかのアプローチを受けてきた訳だから、今回もそうだとおもったけれど。伊奈子の提案は毎回一日デート権だの一緒にカラオケをする会だのという内容で、受けることができないものばかりだった。なぜなら、今は私たちはのび太と付き合っている訳で、彼を差し置いて他の男と一緒に遊ぶのは気が引けたからだ。あくまで遊びと言われればそれまでだけど、やはり心のどこかでそれは避けたいと思っていたのは間違いないのだ。それに、当ののび太もそういう話があったことを伝えると、あまりいい顔をしない。だから、私たちは伊奈子には悪いが、ずっと断り続けていたのだ。
「またいつものような提案なら、お断りしますよ。」
シェーレの言葉を聞きつけた伊奈子は語調を強めた。
「彼氏がいてもいいんだよ。お偉いさんを接待するのが目的なんだから。うまくいけば、映画の仕事くれるって言われたんだから、絶対に成功させなきゃなんないのよ!」
「そういうのが困るんですってば!」
しかし、伊奈子は諦めた様子はなく、むしろその反応は想定範囲だったとばかりに笑っていた。
「実はみんなに参加するにあたってある人から承諾を得てるんだ。」
「ある人?それって、まさか・・・・」
「そう、もちろん。あんたたちが良く知っている野比のび太だよ。」
私たちに普通に頼んでも、断られるのは目に見えてから、のび太の方にも交渉をしていたわけか。
「のび太には喜んで承知していただいたわ!あんたたちの合コン参加を許可します・・・って。」
「そんな!のび太がそんなこと言う訳ない!」
「そうだよ!のび太が許す訳ない!アカメちゃんならともかく、のび太が私を売るようなことなんて絶対にないんだっから!」
グサリ
・・・ち、チェルシー?
「飽きられているアカメならともかく、のび太は私を売るようなことはしない!」
グサリ
・・・・れ、レオーネ?
「基本的にお肉の話しかしないアカメはともかく、のび太はとても友達思いですよ。」
グサリ
・・・・し、シェーレ?
「大食いで気品のないお姉ちゃんだけど、のび太はそんな事する人じゃないよ!」
グサリ
・・・・く、クロメまで・・・・・。み、みんな・・・・気にしている事をずばずばと言うんだから。なんか、軽くダメージ。
「いや、のび太はそれも含めて承諾したんだよ。」
「え、そ、そんな・・・・・」
「本当だよ。そう言ってもみんなは信じないだろうから、ちゃんと念書も取ってある。」
伊奈子がそう言って、ポケットから一枚の封筒を取り出す。私は恐る恐るそれを受け取り、中に入っている紙を取り出す。
「・・・・・・・のび太の字だ。」
そこには合コンへ私たちが参加するという説明とそれに同意するかどうかという文章が書かれていた。そして、紙の下の方には『野比のび太』という名前がしっかりと書かれていた。
「そんな、のび太・・・・・」
「わ、私達にも見せて。」
私はレオーネやチェルシーにもその念書を見てもらったが、そこに書いてある署名は間違いなくのび太のものだった。
「のび太が、私たちを・・・・・・」
もう一度念書ををじっくりと見たが、やはり署名の字は間違えようがない。念書は、私の手から離れ、はらはらと地面に落ちていく。
「これで理解した?だから、絶対に機嫌を損ねるようなことするんじゃないわよ?胸触らても尻触られても拒否しない。ホテルに誘われたらちゃんと枕すること。詳しいことは後日連絡するから。」
伊奈子は、紙切れを拾い上げ、懐にしまう。のび太が私たちが合コンに参加することを承諾した。のび太は、私たちが合コンで他の男に触られてもいいんだ・・・・・・。その上、枕するなんて・・・・・。のび太・・・・・、のび太・・・・・・。どうして。本当にいいのか?本当にそれでいいのか? 伊奈子が帰った後、私はなにか胸にぽっかりと穴が空いたような気分になった。なんだろう・・・・・。この気分は、なんだろう。
のび太の結婚相手は?
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アカメ
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クロメ
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チェルシー
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シェーレ
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レオーネ