おーばーろーど ~無縁浪人の異世界風流記~   作:水野城

4 / 17
好きな事で飢えを凌ぐ

 エ・ランテルに伸びる街道を、金髪のショートボブをわさわさと上下に揺らしながら歩く女がいた。黒い外套(マント)をまとい、まるでその内にある狂気を隠そうとしているかのようだ。

 

 彼女、クレマンティーヌ。元漆黒聖典第9席次にて現ズーラーノーン十二高弟の一人。

 整った顔立ちに猫を思わせる可愛げを持った見た目麗しい女戦士だが、とんでもない性格破綻者。今まで仕えてきた法国を裏切り、秘宝を盗み、追っ手から逃れるために何人も手に掛けてきた。人を殺すのが好きで拷問も好き。それを愛して恋しているイカれた女。

 

 エ・ランテルでは盗んだ秘宝である〈叡者の額冠〉をズーラーノーンの仲間に譲り、面白い騒ぎでも起こしてもらおうとしていた。

 法国からの追っ手はしつこく、エ・ランテルにも既に潜んでいるかもしれない。騒ぎに便乗し、法国の手も届かない遠い土地に逃げ、好きに暮らそうとでも考えていた。だが、このクレマンティーヌ自身がよく騒ぎを起こす女である。

 街で人を殺したり攫ったり、中でも冒険者を多く狩っていた。彼女の着る鎧には今まで狩った冒険者たちのプレートが隙間無く打ち付けられている。まさに狂気の逸品と言えよう。

 

 当然行く先々でそんなことをしていれば、法国の情報網にすぐに引っ掛かり居場所がばれることになるのだが、彼女の衝動は収まることを知らない。枷が無いのだ。このままずっと気ままに殺し、人命を弄ぶことだろう。

 

 ふと、傍を流れる川の方を見てみた。この時間帯は人通りが少ないため、人の気配があればクレマンティーヌほどの強者であればすぐに勘付いた。

 

 そこには男が二人。黒い髪の釣り人と青い髪の刀を持った人。風貌から冒険者だろうかと考えるが、冒険者ならこの時間帯には大抵依頼に出かけているはずである。休日を過ごしている可能性もあるが奴らは宿屋か酒場に引きこもる生き物だ。もしくは旅人だろう。その呑気に過ごし、陽気に暮らしている姿に頭に来るものがあった。

 

(あぁ、あんなの見ると壊したくなっちゃうよぉ~~)

 

 余り騒ぎを起こすなと言われている。だが、堪らないのだ。のほほんと生活している奴らが、まさか今日死ぬなんて思ってもいなかった者の死に際の顔が何よりもこの女は好きだ。

 

(ついつい見ちゃうよ。ヤバいヤバい、警戒されちゃうなぁ)

 

 クレマンティーヌの下卑た視線に気付いた青髪の男が、刀を手に警戒した面持ちでクレマンティーヌを睨んでいる。

 

(なに睨んでやがるあいつ)

 

 咄嗟に腰のスティレットに手を動かそうとしたが、男の佇まいと纏う空気に何か気圧されるものがあった。俺は強いぞと思わせる、オーラとでも呼べる物。それは強者にしか許されない態度である。益々、クレマンティーヌの腹は立つ。

 

(ん? アイツ………)

 

 彼女は思い出した。ずいぶん前に集めた自分と対等に戦えるであろう戦士たちの情報を。その中の一人に刀を使う男が、今こちらを見ている人物と情報が合致していた。

 

(まさかブレイン・アングラウスか!? 何でこの街に!)

 

 ガゼフ・ストロノーフと互角の戦いを演じた男として記憶している。近隣国家最強のガゼフ・ストロノーフだが、それはあくまで表世界での話である。裏ではもっと強い者がゴロゴロいることを、クレマンティーヌは良く知っていた。

 

 彼女は当然、ガゼフに勝つ自信があった。漆黒聖典時代の装備を捨てたため、王国の至宝を纏った状態のガゼフなら多少危ない戦いになるかもしれないが、ブレイン・アングラウス程度なら今の装備でも倒す自信がクレマンティーヌにはある。

 

 自分を強いと思っている者を殺すのはとても心地良い。この行いは皆が知るべきものだと、切に願う。

 

(あ~でも、メインディッシュは最後にって言うし。カジッちゃんには黙ってお~~こおっと)

 

 にんまりと口が広がり、可愛げのある笑い声を出しながら二人の前から遠ざかって行った。

 一度火が点けば簡単には消せないものだ。今夜には路地裏のジャンキーが何人か消えることになるだろう。絶えることのない笑いを上げながら、クレマンティーヌはエ・ランテルの闇に姿を眩ませるのだ。

 

 女が去ったのを見て、ブレインは息をつき額の汗を拭った。

 

「旦那。イカれた女が見ていたの、気付いていたか?」

 

 クレマンティーヌから浴びせられた殺気を一身に受けていたブレインは、多少の疲労感を負っていた。いつ相手が仕掛けてくるか分からない状況と未知数の力量。裂けんばかりに笑う口元は気味が悪く、今までに出会ったことのない類の女であった。強い相手と戦うのは歓迎なのだが、あの女に自分が負ける光景が何度か頭に浮かんでしまうほどのプレッシャーを感じさせられた程だ。

 ゴンベエと力を合わせれば勝てただろうが、これほど心労を負わされるのは初めてのことでブレインは少々動揺していた。

 

「ああ、可愛い女だったな」

 

 終始、二人に背を向けていたゴンベエは何事もなかったかのように、ぼそりとそう言う。

 

「マジで言ってるのか旦那?」

 

「俺はいつだって大真面目よ」

 

 呆れた。彼は正直なのだ。こう言われれば何も言い返せない。他人の趣味にとやかく言うつもりないブレインであるが、これだけは別だ。

 

「こっち見て、こう笑ってたんだぞ?」

 

 そう言いながらブレインは指で口を引っ張り大きく広げた。女の口が裂けたような笑いを真似しているのかとてもユーモア溢れる姿だが、ゴンベエは一瞥しただけで川の方を抜き直り「ふーん」と鼻を鳴らした。

 

(こいつ初めて会った時より、何か明るくなったな)

 

 あの湖畔で会った時のブレインは、研ぎ澄まされた一本の剣そのもの。触れれば指が飛び、決して馴れ合いをしない野生の獣。ゴンベエはブレインにそういう印象を抱いていたが、彼と過ごしたここ何日かで棘が抜けたような落ち着いた印象に変わった。

 

「女の趣味悪いぞ」

 

 ゴンベエが聞く耳を持たないと分かると、ブレインは吐き捨てるようにそう言った。

 言われた本人はケラケラと笑っている。太陽から零れ落ちたような気持ちの良い顔で笑うのだ。ブレインは馬鹿々々しくなり、寝転がって不貞寝をする。何が面白いのか、ゴンベエは川辺に響き渡るほど高笑いを続けた。

 

 無論、今日も魚は釣れなかった。彼はユグドラシルでは魚釣りの名人であったが、現実の世界となった今、こっちの世界では下手もいいところであった。ゲームの仕様と違うなどと文句は言わず彼は出向く。飢えを凌ぐためでもあるが、何よりも楽しくて仕方がないのだ。ゲームでしか体験したことが無いことを実際にやってみると驚くほどに違うのだが、何倍も面白く刺激的な体験。それがどこにでもあるのだ。

 人々の営みや天気の移り変わり、草花の香りや夜空に広がる星々の美しさに心から魅了されていた。

 

 

 

 ゴンベエの一日は無為に過ぎていく。朝早く宿から飛び出すと、エ・ランテル近くの川にて釣り糸を垂らす。そのまま何もかからないまま一日が過ぎていく。夜遅くまで起きていることもあればさっさと寝ることもある。朝早く起きることもあれば昼まで寝ていることもあった。

 ブレインは彼の生活リズムに極力合わせていた。朝早く出ていくゴンベエに置いて行かれても追いかけ、その傍で刀を振るうか手入れをして一日を消費する。酷く退屈だったが、どこか充実した日々に最初は困惑した。

 

 日々消費することになる宿代や食事代などの各種料金はブレインが払っていた。傭兵団―――ほぼ野盗みたいなものだが―――では高給で雇われていたため、暫くは無理せず暮らせるだけの蓄えがあった。なぜ自分がゴンベエを養っているのか疑問に思うこともあるが、仕方がない出費だと捉えるしかない。自分が望んだ道だ。文句は言わない。

 

 人生に余裕ができたとでも言うべきなのか、知らず知らずの内に生き急いでいたのかもしれない。時には寝転がって何もしない日があっても良いのだと、ブレインは教えられた。

 

 

 

 

 イカれた女と出会った次の日も、ゴンベエは釣りに勤しむ。傍には相変わらずブレインが片時も離れずにそこに居た。朝から何組かの冒険者を見送っていた。そこにまた一組の冒険者が依頼に出向こうと彼らの背後を通り過ぎようとしていた。

 

 彼らは漆黒の剣の一団であった。ゴンベエたちと面識のある彼らだったが、三人ほど見知らぬ顔を連れている。一人は馬車に乗り馬を操るンフィーレア・バレアレという街でも有名な薬師の少年。

 

 そして漆黒の甲冑を纏った大柄の戦士。彼は騎士のような印象を受けるがその実、ゴンベエと同じようにユグドラシルからやってきたプレイヤーの一人であった。

 

 名はユグドラシルではモモンガ。現在はアインズ・ウール・ゴウンと名乗っている。

 

 ギルド:アインズ・ウール・ゴウンの至高の四十一人の一人にして死の支配者(オーバーロード)。人間に化け、冒険者のモモンとして身分を偽り、この世界での活動を始めたばかりだ。その傍らにいるのは、モモンの相棒として共に冒険者をしているのはナーベラル・ガンマというNPCの一人である。

 

 アインズは、釣りをしているゴンベエに気付いた。河原に転がっている大岩に胡坐を掻いて糸を垂らしている姿が気になったのだろう。

 

「あそこにいる方は何をしているのですか?」

 

 自然と発した言葉であった。

 

「え? 魚釣りだと思いますが………」

 

 ペテルが訝しい顔をしながら答える。その様子に馬鹿なこと訊いてしまったと、アインズは自分を責めた。

 

(釣りならユグドラシルでも出来たじゃないか俺のバカ。でもブルー・プラネットさん以外やってる人見たことない不人気なアクティビティだったしな)

 

「仕方ねえよ。だってゴンベエさんが釣ってる所なんて見たことないしな」

 

「ハハハッ、そうであるな」

 

「何日か街から離れますし、挨拶していきましょうか」

 

 ニニャの提案に漆黒の剣の皆が大きく頷いた。トブの大森林まで行く依頼だ。もしかすれば帰ってこれないかもしれない。行き掛けの駄賃に見知った顔に軽い挨拶を交わすの冒険者としての験担ぎのようなものである。また会おうと約束していれば、破ることはできない。

 

「我々の友人です。モモンさんもどうです? ここだけの話ですが、彼らはアダマンタイト級の実力を持ってるみたいなんです。顔を繋いでおいて損はないですよ」

 

 ペテルの言葉を聞いて、アインズは疑問符を浮かべた。

 

(アダマンタイト級といえば冒険者の最上級の位じゃないか。そんなのがエ・ランテルに居るなんて聞いてないぞ)

 

 調べた情報では、アダマンタイト級の冒険者は王国では二組しかいないと聞いていた。早速得た情報と相違が出るのは望むところではない。

 

「彼らも冒険者なのですか?」

 

「いえ、旅人だと聞いています。エ・ランテルに滞在してから、いつも釣りに出ている変わった人達でして」

 

「はあ、変わった人ですか。興味がありますね」

 

 何かあればナーベが第5位階魔法を唱える手筈になっている。いざとなればアインズが本気を出し、それでも何とかならなければ逃げる手段はいくつも用意していた。

 

「ナーベよ、警戒を怠るな」

 

 アインズは漆黒の剣には聞こえないように隣に静かに佇んでいたナーベラルに言った。コクリと頷き、鋭い眼差しで二人の事を睨んだので「怪しまれない程度に」と付け足す。

 

 漆黒の剣とンフィーレアと共に河原に降りていく。青い髪、ブレインが彼らに気付いて抜いていた刀を鞘に納めた。見慣れない顔が混じっていたので、危ない印象を与えない為であろう。

 

「旦那、漆黒の剣と他の冒険者だ。依頼に行く挨拶にでも来たんだろう」

 

「んぁー」

 

 ゴンベエが首だけを回して彼らに振り返った。アインズが彼の顔を見て軽く驚いた。

 

(日本人みたいな顔立ちだ。この世界にもアジア系の人種がいるのだろうか?)

 

 軽く親近感が湧いたが、心までアンデットと化した彼は人間など虫けらと変わらない存在にしか思えない。この感情も一時のものだろうと感じる。

 

「ゴンベエさん。今日はこのンフィーレア・バレアレさんの依頼でトブの大森林に行ってくるので、暫くは会えません」

 

「どうも」

 

 ンフィーレアが軽く二人に頭を下げる。彼もこの二人の噂は少しだけ聞いていた。店にやって来た冒険者が度々話してくれる人物であった。曰く、空桶の釣り師や天才剣士など憶測に過ぎないような噂だったが、大凡の人となりは分かっていた。

 

「俺たちに会えないからって寂しくて泣くんじゃないぜ」

 

 ゴンベエはルクルットの軽口を慣れたように無視すると、風を切るように岩から飛び降りて彼らと向き合う。巨躯のモモンに負けず劣らない偉丈夫である。アインズはこの世界で初めて、味わったことのない圧迫感に思わず一歩退いた。ナーベラルが両者の間を遮るようにアインズの前に移動しようとするが、彼はそれを手で退け、怪しまれないように演じた。

 

「どうも初めまして、モモンと申します。彼女はナーベ」

 

 ゴンベエは立派な鎧を着たモモンと美しい容姿のナーベに「ほう」と息を漏らすが、銅のプレートを見て訝しい顔になった。モモンは銀級の漆黒の剣より良い装備をしている。怪しまれても仕様がない。

 

「俺のことはゴンベエとでも呼んでくだされモモンとやら。その鎧を見るに何やら訳ありと見えるが、まあ漆黒の剣となら大丈夫だろう」

 

 冒険者は野蛮な連中だ。アインズ達を騙して装備を盗まれる心配をしたのだろうが、漆黒の剣はそういう事をする連中ではないと知っていた。ゴンベエは釣竿を持ち直すと、手首にスナップを効かせて糸を飛ばす。ポチャリと音を立て、浮きが流された。

 

 ただブレインだけが、ナーベラルに向けて射るような視線を送っていた。彼女のちょっとした動作や表情から違和感があったのだろう。美麗な瞳を見ていると、ナーベラルがゴミ虫でも見るかのようにブレインを見下した目で答える。ブレインの背筋に悪寒が走った。

 

 自然と刀に手が伸びたが、はたと手を止めて頭を振った。軽はずみな行動を起こして騒ぎを起こすのはまずいと分かっていたが、この女の眼がブレインに剣を抜かせようとする敵意に似た何かを感じさせたのだ。屈強な精神力で宥め、ナーベラルから目を反らした。

 

 どこか勝ち誇った顔をしていたナーベラルを横目に、アインズはゴンベエの傍に寄って川の流れに揺れる浮きを眺める。そして何日か前に会ったガゼフ・ストロノーフの顔を思い浮かべた。彼が王国最強と称され、その実力はアダマンタイト級の冒険者より勝ると言われていた。アインズにしてみればあの程度どうってことないが、傍にいるゴンベエがガゼフ位の強さと考え、慎重に言葉を選んで投げかけた。将来的に敵になるかもしれないのだ。彼が欲深い人間ならば、味方に引き込んで情報でも引き出せれば申し分ない。

 

「釣りがお好きなんですね」

 

 言った後にもっと何か良い言葉あったのではないかと思うが、意外と嫌な顔もせずにゴンベエは答えてくれた。

 

「まあ、飢えない為に釣りをしているのさ」

 

「飢えない為ですか……」

 

 アンデッドの身体になってから飲食は不要となった。それどころか睡眠や休息など人間には必要な行為のほとんどが不要となっていたが食べ物には興味があった。魚なんて尚更だが、味覚を持っていない自分が食べても意味がないし胃袋もないから全部出ていってしまう。

 

「あれ、釣りは趣味だって言ってませんでした?」

 

 ニニャが軽い疑問を口に出した。初めて会った時にそう言われたのを覚えていたからだ。

 

「確かに言ったな。こうしていると心が落ち着いて、色々と考えさせられるからな」

 

 ゴンベエがニニャにそう言うのと同時に、彼の竿に動きがあった。浮きが沈み、流れに逆らって動き出す。ゴンベエが透かさず竿をあげるが、綺麗にエサだけを食べられており、魚の姿はそこには無かった。

 

「好きなことをしながら食料が手に入る。こんな素晴らしいことはないと思わないかニニャ?」

 

「ははは………」

 

 ニニャの乾いた笑いが河原にこだました。

 

「飢えるというのは怖いことだからな。知っているからこそ、どうにかしようとする。冒険者なら分かるだろう」

 

 漆黒の剣は、ゴンベエの言わんとしていることは何となく理解できた。自分たちも冒険者を始めた頃は、収入が安定せずに飢えを凌いだことなど一度や二度じゃ済まなかった。

 

 だがしかし。

 

「そう言うが、旦那が釣り上げてるところなんて見たことないが」

 

 それだ。ブレインが漆黒の剣の代弁をしてくれた。

 

 アインズは、なるほど変わった人物だと納得した。ギルドにいた変人たちとはまた違った変わり具合の人物。『風変わり』という言葉が良く似合う男だなと思った。格好も和服の着流しだし、刀を佩刀している。昔にいた侍という言葉も似合いそうだがどこか違う。ギルドにザ・サムライと呼ばれたプレイヤーもいたが、あそこまでの堅苦しさは見られない。

 

(プレイヤーという線も捨てられない。この世界に似つかわしくない人間だ)

 

 軽い別れの言葉を交え、お互いは分かれた。

 

 アインズは道中張ったキャンプ地の見張りをしながら夜空を見上げているとき、ゴンベエの言葉をふと思い出す。

 

「好きなことをしながら食料が手に入る。こんな素晴らしいことはないと思わないか、か。確かに自分のやりたいことをしながら飢えが凌げるのなら素晴らしいことだ」

 

 自分に置き換えるのならば、ユグドラシルをプレイするだけで食べていけると言ったところだろう。少し違うかもしれないが、趣味で食っていけるのならそれより素晴らしいものはないと思うのは当然だ。

 もし、アインズがナザリック地下大墳墓と共にこちらの世界に転移していなければ、ゴンベエのように好きに行動し、自由に生きていたかもしれない。

 だが、今のアインズにそれはできない。大事な友人たちが残してくれた愛する家族がいる。元はただのNPCだが、勝手に動き出すようになって最上の敬意を示してくれる。そんな者たちを、放っておける筈がない。

 多少羨ましいとは思うが、アインズが今行っていることは好きなことであり己の正義である。彼にとってこれ以上に素晴らしいことは無いのだ。

 

 傍に座っているナーベラルに視線を移した。

 

「そうだよ。俺には大切な家族とナザリックを守るご立派な趣味があるじゃないか」

 

「何か仰いましたモモンさ――ん」

 

「えっ!? いや、何でもないナーベよ。警戒を続けよ」

 

 

 こうして夜は明けていく。アインズはどこか誇らしげに、白々の空を見詰めていた。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。