PSW~栄誉ある戦略的撤退~   作:布入 雄流

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アクセリナがお風呂で教えて、あ・げ・る♡

 個室にバスルームが無いため、シャワールームへ向かうことになったアーネストだが。

 

『大浴場もありますよ?』

「じゃあそっちで」

 

 日本人たる者アーネスト、湯に浸かれる誘惑には勝てなかったでござる。

 

 

 アクセリナに案内され大浴場の脱衣所へ行き、ここまでの道中お世話になった毛布を籠に入れて、いざ浴場へ。

 

「おおぉー」

 

 曇りガラスを開けると思わず感嘆の声が漏れる。こんな風呂らしい風呂など何ヶ月ぶりか。

 いくつも並ぶシャワーと鏡、湯船から立ち上る湯気、壁際には桶が積み重なり、奥の壁には一面の美少女の絵? そこは富士山ではと思わなくもなかったが、アーネストは気にしないことにした。

どこからか、カポーン! という音が聞こえてきそうだ。

 ふとアーネストは洗い場や湯船の配置に少し違和感を覚えた。

 ――妙に死角が多い?

 

『着替えはこちらで用意させておきますね』

 

 と言いながらアクセリナもフワフワと、アーネストとともに浴場に入ってくる。

 

「え? 君も入るの?」

『いえ、せっかくなのでここでお話しようと思って。ほら裸の付き合いといいますし』

 

 アクセリナもいつの間にかタオルを撒いた姿になっていた。

 全裸ではないが、ロリコン垂涎の浮遊するタオル幼女である。

 アーネストも一瞬ドキリとするが、ショウコの教えの中に「汝、幼女を愛せ。しかして幼女に触れることなかれ」というものがあったので、それ以上迫ることは無かった。

 yes Lolita No touchの精神だ。

 

「まあいいか。とりあえず体洗ってくるわ」

 

 手近な洗い場でアーネストは身体を洗い、湯船に向かう頃には先ほどの違和感などただの建築デザインとして受け入れてしまっていた。

 

「ああぁ~。……生き返るぅ」

 

 湯船に浸かると得も言われぬ声が出る。

 

『さてでは、何から聞きたいですか、アーネストさん』

 

 結局、全裸で話をすることになるのか。と苦笑いするアーネスト。

 

『仕方ないんです。ショウコがRAシールドの使い方を覚えました。クロッシングスキルを使われる前に捕まえないと』

 

 ショウコは今も逃げ回っているらしい。

 アーネストはショウコを助けに行きたいが、そもそもショウコ達の事を何も知らないのでは足手まといにしかならないだろうと考え、情報を聞き出すまでは大人しくしておく事にした。

 

「えっと、じゃあまず、……ショウコ様やレティア、フィギュアハーツってのはなんだ?」

『そうですね……。一言で言えば、ラブドールです』

「それはレティアが言ってたな」

『さらに付け加えるなら、自立戦闘用ラブドールです』

「それも、最初に聞いた時は何だそりゃって思ったし、今も思ってる」

『もっと言うなら、人間の生殖機能を持ったラブドールです。人工の子宮を持つのがユータラスモデル、人工の精巣を持つのがテスティカルモデルであり、実際に射精、排卵、受胎、妊娠、出産も可能です』

 

 ゲームのフィギュアハーツ内には男性型AIのフィギュアハーツも居た。そしてそれらがテスティカルモデルというこである。

 しかしそもそも戦闘ができ妊娠するラブドールなどという、非効率で非合理的で無節操で、何より非現実的な物が存在する理由がサッパリ分からない。

 

「その説明は初耳だ。しかし、なんでそんなもんが……? いやもしかして、クロッシングスキルのため……か?」

 

 頭に浮かんだほとんど当てずっぽうな答えを言ってみた。

 

『さすが、良い勘をしてますね。クロッシングスキルはヤシノキ博士いわく、天才たちの狂気と欲望の果の閃きが起こした奇跡の産物。人に近い筐体と人工知能、生殖が可能な人工生殖器、クロッシング技術、そして人工知能との高い適合を持つ者が揃って初めて可能となるものです。クロッシングスキルを戦力として行使するためには、今のフィギュアハーツの形になるのは必然なのです』

「なるほど、さっぱり分からん」

『ですよねぇ。まだまだ謎の多い技術ですから』

 

 それについてはアクセリナにもよく理解できないらしい。

 

『クロッシングは元々、アーネストさんもご存知の[ツーレッグ]を戦術的最高効率で動かすための技術でした。[ツーレッグ]が二足歩行かつ人型なのも、クロッシングによる感覚共有での違和感を軽減するためなんですよ』

「もしかして、フィギュアハーツはそのためのゲームだったのか」

 

 というか[ツーレッグ]という二足歩行型のロボット兵器が実在する事についても驚きそうなものだが、アーネストはもうその程度では驚かなかった。

 

『そうです。フィギュアハーツは表向きは[スカイエアニクス]運営のオンラインゲームでしたが、実質的な開発は当時大学生だった四人の天才と、[インモラルファクトリー]という性玩具会社所属の三人の天才博士たちでした』

「そのイン……なんとかって会社が、ショウコ様たちの身体を作ったのか。何で兵器関連のところじゃないんだ?」

 

 もっともな質問である。そしてそれにも理由があった。

 

『もっともな質問です。当時最も二足歩行ロボットの技術が発達していたのが[インモラルファクトリー]であると四人の天才達が判断したから、だそうですよ? その頃、二足歩行が可能で激しい運動に耐えうる人型のロボットというと、[インモラルファクトリー]のラブドール以外になかったらしいです。[ツーレッグ]はその技術を元に大型化して完成したものですね』

 

 確かに二足歩行で人型というのは、兵器としては非効率にすぎる。ゆえに現代の戦場でも四足歩行や静電気浮遊型駆動機構や無限軌道が主流である。

 クロッシングという技術が無ければ、彼らも人型にはこだわらなかったであろう。

 

『そしてフィギュアハーツたちも最初はただの戦闘及び戦術サポートAIでしかありませんでした。一人の博士が、製作中だったラブドールに、せっかく作ったのだからと個人的に開発した人工子宮を取り付け、さらにクロッシングまで行った状態で使用した事でクロッシングスキルが発現したのです』

 

 エロゲとかで稀に見る感覚共有プレイをやりたかったんだなと、アーネストは理解した。

 

「そんなことをやろうと思った奴の気が、理解できないな。誰だよまったく」

 

 なぜ人はつまらない嘘を付き、見栄を張りたがるのか……。

 

『そうですね、今もアクセリナには、ケンチクリン博士の事は理解できないです』

「ああ~。あの変態かー。ケンチクリンなら感覚共有プレイもやるわな……。俺もやりたか……ごほんっ、んん、……続けて」

 

 妙な理解の良さを見せたアーネストに、アクセリナは半眼を送る。つまらない嘘がバレそうでピンチ。

 しかし内心アーネストにとってはケンチクリンが博士だった事に驚きだったりもした。ゲーム内の言動的に正直、ただの変態だと思っていた。

 

『…………まあいいです。……そして出来てしまったものは仕方なく、その頃から博士たちの研究はもっぱらクロッシングスキルについてになっていきました』

 

 そうであろう。人間は未知への探究心も好奇心も、それをより有用に使うための技術開発も止めることは出来ない。天才と呼ばれた博士たちならその気持も人一倍であろう。

 

『戦略的、戦術的有用性を求めた[ツーレッグ]とのクロッシングと違い、フィギュアハーツとのクロッシングは戦術方面よりも、精神がより深く共感するように進化していき、今もなお進化し続けています』

 

 うむうむと頷くアーネストは、イマイチ理解できていない。

 アクセリナも、こいつ分かってねぇなと思った。

 

『そして、ゲームのフィギュアハーツもまた、戦術の研究から適合者の発掘の場へと形を変えていったのです』

「そう言えば何度か大きなアップデートがあったな。主に新しいフィギュアハーツが増えたり、フィギュアハーツとの会話ができるようになったり……。でもってあのゲームの中で俺たちが選ばれた、と?」

『そういうことです』

 

 これ以上深いことは説明しても無駄だとアクセリナは悟り、ちょっと無理やりまとめた。

 

「へぇー。……そういえば、人工の子宮と精巣ってことは、フィギュアハーツ同士で子供が出来たりもするのか」

『それが、そうでもないんです。理論上は可能なはずなのですが、フィギュアハーツ同士での受胎率は〇%です。原因は不明。ヤシノキ博士の研究の一つがこの原因の究明なのです。現在出生が確認されているのは、人間とフィギュアハーツの間でのみになります。それもたったの六例のみ』

 

 たったの六例、と言ってもその確率が高いのか低いのかはアーネストには測りかねる。クロッシングで繋がったペアがどのくらい居るのかも知らないし。そもそも人間同士の受胎率も知らない。

 

「へぇ、ヤシノキさんもケッタイな研究してるんだねー」

 

 わからんことだらけなので、アーネストは適当に流すことにした。

 

『まあ、ヤシノキ博士の研究についてはケッタイとしか言いようがないですね。それはそうと、その人間とフィギュアハーツの六例のうちの一人がアクセリナなのです。アクセリナ達のような人間とフィギュアハーツの間に生まれた子供は、クロッシングチャイルドと呼ばれています』

 

 どうりで浮世離れした雰囲気だと思ったら、そういうものだったらしい。

 

「浮いてるだけに浮世離れ……はははっ」

 

 特にうまくもないし面白くもない。

 

『いえさっきも言ったようにこれはホログラフみたいなものです。正確には、アーネストさんにインストールされたOS、axelinaOSのアクセリナヴィジュアルウィザードによって脳の視覚野に直接見せているものになります。本来の身体は研究所の奥で眠っています』

「???」

 

 アーネストに難しいことを言っても通じない。

 

『要はこのアクセリナの姿は、脳内にaxelinaOSをインストールした人にしか見えません』

 

 アクセリナの手がアーネストの肩を触ろうとするがスルスルと通り抜けてしまう。

 

「ふむ、なるほど、そーいうことかー」

 

 こいつ分かってねぇな、とアクセリナは思った。

 

『……。そしてクロッシングチャイルドは、大半が人体と同じ肉体なのですが一部分だけ、ユニバーサルコネクターだけはフィギュアハーツと同じものが備わって産まれてくるのです』

「ユニバーサルコネクター?」

『ええっと……。あ、ちょうど良い所に……』

 

 ちょうど曇りガラスの向こうに人影が見えた。脱衣所に誰かがアーネストの着替えを持ってきたらしい。

 アクセリナはその人物に応援要請を送った。

 

『この子に見せてもらいましょうか』

「はーい。アクセリナ、何か御用ですかー」

 

 曇りガラスを開けて入ってきたのは、

 

「サラーナ!?」

 

 かつてアーネストがゲーム内で部隊内の僚機ツーレッグに搭載し、背中を預けあったAIキャラクター、サラーナであった。

 フィギュアハーツ、ユータラスモデル、SA-01 サラーナ

 長い金髪をポニーテールにまとめて、活発そうな萌黄色の瞳は今は驚きに見開かれている。

 服装はジャージ姿でありながら、出る所は出て引っ込む所は引っ込んでいる見事なプロポーションである。特にその胸はジャージというラフな格好でありながらも特大の存在感を放ち、男であれば必然的に視線が向かってしまう。

 

「アーネスト隊長!? ああ、なるほど、アクセリナの言ってたお客さんってアーネスト隊長のことだったんだね」

 

 サラーナが駆け寄ってきて、懐かしい知人に会えて嬉しそうな顔をする。走るほどに胸がバインバイン、ボルンボルンと揺れている。アーネストの視線もすごい向かってしまう。

 

『ええ、それでサラーナ。今アーネストさんにフィギュアハーツとクロッシングチャイルドについて説明していたのだけど、ユニコネを見せて欲しいの』

 

 ユニバーサルコネクター、略してユニコネらしい。

 

「お安い御用……って嫌よ。恥ずかしい……。何かテキトーな画像でも見せればいいじゃない。ヤシノキ博士のサーバーになら何か盗撮写真とかあるでしょ」

『嫌ですよ。面倒くさい。あの人のサーバー、しょーもないファイルばっかりなくせにセキュリティだけは一般的な国防機関の三年は先を行ってるんですよ』

「面倒くさいってあんた……それでもオペレーションシステムか……」

『ええい鬱陶しいですね。こっちも時間がないので、こうですっ!』

 

 アクセリナがビッと指差すと、あれだけ嫌がっていたサラーナが後ろを向き、ジャージの下をパンツごとずり下げた。

 

「きゃぁぁぁぁっ!! 強制アクセスなんて卑怯よ!!」

 

 サラーナは真っ赤になりながら抗議の声を上げるが、アクセリナは聞く耳を持たない。どうやら完全にアクセリナに支配権があるようだ。

 プリンとしたお尻、瑞々しい果実のようなハリとツヤがアーネストの目の前に晒される。

 

『にゃはははっ、ちょっと下げすぎましたね。まあいいや。これがユニバーサルコネクター、ユニコネです』

「よくないわよ!」

 

 アクセリナが抗議の声を上げるサラーナのお尻の上あたり、ちょうど尾てい骨の辺りを指すと、そこには直径五センチほどの銀色の半球が埋まっていた。普通の人体にはない、どう見ても人工物である。

 

『触ってみればわかりますが、このプニッとした銀色のパーツはあらゆる接続端子との接続が可能なんです。これがアクセリナ達クロッシングチャイルドと普通の人間との体の違いになります。そしてフィギュアハーツ達もこのユニコネを介して、各種武装FBDユニットや重力制御マントをはじめ様々な機器との接続が可能なのです』

 

 そう言ってサラーナの汎用コネクターを触ろうとするが、アクセリナの指は透けてしまってプニッと感は伝わらない。ホログラフみたいなものだからだ。

 

「ほ、ほう……、なるほどなー」

 

 アーネストは立ち上がって触りたいが、諸事情で湯から下半身を出すわけにはいかなくなっていた。

 勃ち上がってしまったブツを鎮めるために、アーネストはサラーナのお尻、じゃなくてユニバーサルコネクターから目を逸らす。そろそろショウコを助けに行きたいからである。

 しかしその行動の紳士さにサラーナは尻が、じゃなくて胸がキュンと来る。

 

「それじゃあ、アクセリナもレティアみたいに戦ったりするのか?」

「あ……」

 

 サラーナが何かに気付いた。アーネストも何か触れてはいけない話題だったと悟る。

 場に少しの沈黙。

 

『……それは……、出来ません。アクセリナ達クロッシングチャイルドは、アクセリナの身体は、産まれてから一度も目覚めた事がないのです……』

「え? それは……どういう……。いや、ごめん……」

『いえ、これも説明しておかなければいけないことですので。クロッシングチャイルドは産まれる前からずっと眠り続けているため、専用の保育カプセルで育てられるのです。そのカプセルはユニコネを介してネットワーク接続が可能なもので、このようにラボのシステムをはじめ沢山の情報に産まれてからすぐに触れることが出来ます』

 

 それは幸せなのだろうかと、アーネストはつい考えてしまう。

 確かにネットゲームをそれなりに嗜めば、ずっとこの世界に居たいと思うこともある。しかし、本当に産まれてからずっと電子の世界に居るというのは、幸福なのかと。

 

『クロッシングチャイルドはネットワークと接続すると驚異的な速度で情報を吸収し、学習し、生後二ヶ月ほどで自我を持ち、三歳になる頃には独自のシステム構築が出来るようになり、ラボのシステム管理を任されるようになるのは五歳頃ですかね。……他には……クロッシング契約のないフィギュアハーツならアクセスが可能なのとか、アクセスは出来るけど読み込みがイマイチうまくいかないせいでクロッシングは出来ないとか……?』

 

 先ほどサラーナに尻を出させたのも、クロッシング契約のないフィギュアハーツへの強制アクセスである。

 ちなみにショウコはすでにアーネストと契約済みなのでアクセスできなくなっていた。

 

「へぇー。すごいんだなー」

 

 こいつよく分かってねぇな、とアクセリナとサラーナは思った。

 アーネストは勘は良いが特に頭が良いわけではない。普段は自分でも割り切って諦めているのだが、流石に女の子二人に無能を見る目を向けられるのは気まずい。

 話題を変える。

 

「……。そういえば何で俺達なんだ? ゲームで強いやつなら他にもっといただろう」

 

 [PSW]はけっして強いクランではなかったし、個々の能力もミゾやダッシーのような戦闘能力の高い例外、さらに戦術そのものがセオリーから外れたフィリステルのような存在を除けば、強いプレイヤーの集まる場所でもなかった。

 

『その辺は未だに謎ですね。確かに適合者を意識してのメンバー募集文ではあったらしいですし、適合者が多いのは必然といえば必然です。ゲームが上手い人間が必ずしも適合値が高いわけではないですし、上手く[ツーレッグ]やフィギュアハーツが使える人間が高いわけでもなく、戦績には出ない数値、[愛]とでもいいましょうか、そういう曖昧なものが関係しているみたいです。もちろん、[PSW]以外でも適合者はいましたよ』

 

 そういう曖昧なものを数値として出すためにどれだけの技術があのゲームに詰まっていたことか。

 ゲームバランスの調整がおろそかになっても致し方ないだろう。どうりでロケットランチャーやグレネードのダメージ値が異常に高いわけだ。あれは本当に下方修正して欲しかった。

 

「なるほど愛か、俺のショウコ様への愛は崇拝の域にまで達しているしな」

「でもアーネスト隊長はワタシとの適合値もそれなりに高かったんですよ?」

 

 ここでサラーナが口を挟んできた。

 

「え? 確かにサラーナも背中を預ける戦友としては、良い関係だったと思うけど……、ショウコ様への崇拝とは気持ちの方向性も深さもまったく違うような?」

「がーん! ワタシ、アーネスト隊長とはもっと深い関係だと思ってたのに……。というかいい加減恥ずかしいからアクセス解除してほしいんだけど!?」

 

 そういえばずっと尻出してました。

 

『おっと忘れていました。まあサラーナは元々、適合しやすく設定されたフィギュアハーツですし、クロッシングは相互関係ですからね。いくらアーネストさんがショウコを崇めても、ショウコからはお気に入りの信者程度だったんでしょうね。ショウコを愛用するプレイヤーは結構いましたし。それに案外アーネストさんもサラーナのダイナマイトバディに深層意識では惹かれていたという可能性もあります』

「そんな……、まさ……か……」

 

 違うとは言い切れないアーネスト。チラチラとサラーナの隠れゆく尻に目が行ってしまう、それを見てニヤニヤするサラーナとも目が合ってしまい頬が赤くなる。

 

『クロッシングというのはそういう曖昧でデリケートなシステムでもあるのです。今現在は世界中に散布された[aracyan37粒子]のおかげである程度安定はしましたけどね』

「あの粒子は核兵器を使えなくするための物じゃなかったのか?」

『そういえば一般的な認識はそういうものでしたね。しかし実際はクロッシングなどの新技術への応用的使用の方がメインですよ』

 

 この説明でさすがのアーネストも気付いた。どうやらこの[PSW]という組織はあのテロリスト、アラーチャンと関係が深いらしいということに。

 

『クロッシングは[ツーレッグ]で戦術利用が考えられていた頃から、電波や光通信ではなく[aracyan37粒子]による粒子間即時通信で企画されたものです。そしてそこに人工的に生殖能力と持ったフィギュアハーツAIと適合値の高い人間とのクロッシングいう要素が加わることで、クロッシングスキルという物理法則すらも超える奇跡が発現するのです』

「そういえば、クロッシングスキルってのは一人では使えないんだったな、二人いれば二つの能力が使えるのに」

 

 アーネストは、レティアがフィリステルに倒されていた事を思い出す。

 

『はい。互いの心が繋がって初めて表層に出る深層心理の具現化、それを共有するのがクロッシングスキルだという説もあります。二人がクロッシングで繋がっていられる距離でないと互いのスキルは発動しないのです』

「その繋がっていられる距離ってのはどのくらいなんだ?」

『それは各々のペア次第ですね。地球半周分くらいなら届くというペアもあれば、手の届く範囲でないと繋がれないようなペアの例もありますからね』

「そうなのか……」

 

 アーネストは、ショウコと自分はどうなのだろうかと考えてみる。今、ショウコと繋がっている感覚はない。それは今の距離ではショウコとクロッシング出来ないということなのだろうか。

 

「ねえねえ、アーネスト隊長。もし良かったらワタシとクロッシングパートナーにならない? ほら、ワタシとパートナーになったらこの身体、好きにしていいんだよ?」

 

 やっとアクセリナから開放されたサラーナが腰をフリフリとセクシーポーズでアーネストを誘う。

 

「え……。いやでも……」

『残念ながらサラーナ。アーネストさんはすでにショウコと契約済みですよ』

「へ? だってアーネスト隊長ってまだラボに来たばかりでしょ? ワタシも適合値は悪くなかったんだから、適合試験も無しでっておかしくない?」

『ショウコがアーネストさんの寝込みを襲ったのです。バックドアまで使って』

「あぁんの盛ったメス犬がぁっ!!」

『ショウコなら現在、K-28エリアを逃走中ですよ?』

「とっ捕まえてやり直しを要求するわ! 第一一四五一四番倉庫の使用許可ちょうだい!」

『え、でもあそこにはブンタパパの……』

「いいのよ。あのおっぱい好きはどうせ、今回の任務ではアレは使わないわ! それにあのおっぱい好きなら何を使おうとおっぱい揉ませれば許してくれる!」

 

 アクセリナの父、ブンタはおっぱい大好きである。娘としてはちょっと悲しいくらいに。

 

『はあ、しょうがないですね』

 

 ショウコを捕まえられるなら、背に腹は代えられない。アクセリナは倉庫のロックを解除した。

 

「ありがとッ。じゃあアーネスト隊長、あとでねーッ」

 

 猛スピードで浴場から走り去るサラーナを見送り、アーネストも慌てて立ち上がる。ザッパーンと飛沫が上がるが、現実には存在しないアクセリナは近くに居ても特に濡れたりしない。

 

「ショウコ様が危ない!」

『アーネストさんはこれからヤシノキ博士の所に行きましょうねー』

 

 その時、グルルウウゥウウゥゥゥと地の底から響く獣の鳴き声のような音が浴場に響く。

 

「その前にお腹減った……」

 

 アーネストの腹の音であった。

 なんだかんだでまる一日くらい何も食べてないんじゃないかと思う。人間それくらいでは死なないが、流石にこのまま走り回ったりは出来そうにない。

 

『ニッシシシ。それじゃあ次は食堂にごあんなーい』

 

 拳を振り上げフワフワと先導するアクセリナに続き、アーネストも浴場をあとにした。

 脱衣所に用意されていた服は、このラボの制服みたいなものらしく、ポケットの多い白の上着と同色のスラックスだった。

 

 何かこの幼女に良いように動かされてるような気がするアーネストだが、幼女に動かされるならまあ良いかと、気にしないことにした。ショウコのしつけの賜である。


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