全裸になったアーネストに、ショウコから作戦イメージが飛んでくる。
――「たいちょう、急いで!」――
ショウコの右肩のミサイルポッドが背中側に収納形態になり、蓋が開いてミサイルの弾頭が顕になる。
アーネストは左のミサイルポッドに掴まって降りてきたそれを避け、弾頭をひねって回し、わずかに出来た隙間に脱いだパンツを挟んで、また閉め直す。
――「ショウコ様! 出来ました!」――
――「サラーナ! ルートを!」――
――「今送ったわ!」――
ショウコはミサイルポッドを元に戻し、RAシールドのエネルギーカートリッジを取り替え、シールドを再展開させる。
小さい部屋が密集しているエリアなのか扉が多く道幅も広くはない。十字路とT字路が連続るす迷路のような通路を、サラーナを先頭に一見無茶苦茶に駆け抜ける。
――「たいちょう、心の準備は?」――
――「……大丈夫。やるよ。これで逆転逃げ切り確定させる!!」――
アーネストが決意を固め、最後の角を曲がったその時!
グァッシャーン!
「「「!!?」」」
音を立てて前方のドアが蹴破られ、ドアだったひしゃげた鉄板が反対側の壁に衝突して倒れた。
三人揃って驚くも、サラーナとショウコは咄嗟に減速してしまった。
――「まずいわね……。一気に抜けるべきだったかしら?」――
――「サラーナ、使って!」――
ショウコは持っていたガトリング砲バラージを投げ、サラーナがそれをくるりと回りながらキャッチして正面へ構える。ショウコは反転しもうすぐ姿を現すであろうリリへと向き合う。
そしてそのドアを蹴破った生足の主が、ひたひたと歩み出てくる。
「アテのラボで、ずいぶんと好き勝手してくれはりますなぁ。男、あんさん名は?」
姿を表したのはモデルのような抜群のスタイルの長い黒髪の美女。……でありながら股間には立派な男のアレを持つ全裸のふたなり、ダッシーであった。
同じく全裸のアーネストは、ショウコから降りてダッシーと向き合い答える。
「アーネストだ」
「ほう……。なるほどあんさんが……。そんで、アクセリナ取り返しにきなはったんか。わざわざそん子を殺すために……!!」
どうやらダッシーはニフルからマルチクロッシングなどの情報は知らされていない。そうなるとダッシーから見たアーネストは、クロッシングチャイルドを電子精神体化させるための触媒ということになる。
「違うダッシーさん! もうそんな必要はないんだ! アクセリナはもう起きてる……、いや今は寝てるけど、起きてるんだ!」
「わけぇわからんこと言うてのぅで、とっとと銃下ろして投降しぃや! アテもええとこ邪魔ぁされて気が立っとるさかいなぁ!」
立っているのは気だけではないのだが、アーネストの身体を舐めるように見つめるダッシーに、一体ナニを見て勃っているのかは怖くて聞けない。
話している間にも、ダッシーが蹴破った扉からトルメンタが一つ二つと出てくる。
――「サラーナ、前は任せた」――
――「ショウコ!? まさかやる気なの!?」――
ショウコの意図を読み取り、サラーナがバラージの引き金を引く。短い空転時間からの発砲!
「そないなもん効かへん!」
しかしバラージから放たれた弾丸の嵐は、ダッシーへと辿り着く前に不自然に方向を捻じ曲げられて周りの壁へと突き刺さる。ふたなり化しているとは言え人間であるダッシーにRAシールドは張れない。これはダッシーの念動力の仕業だ。
投降の意思なしと見たダッシーが、今度はトルメンタで反撃してくる。
サラーナは咄嗟にバラージを捨て、RAシールドを張ってアクセリナを守る。
――FH-U SA-01サラーナがFH-U ZS-01マリィのクロッシングスキルを使用――
さらにマリィの皮膚硬化を使い、体を張って銃弾を受ける覚悟を固める。
――「問題はなにもないはず、ただ少し――」――
「力任せになるだけッ!! APミサイル発射!!」
思考通信ではない叫び声とともに、ショウコのトラッカーが一斉に火を吹き四発のミサイルが発射される!
APミサイル、APとは徹甲弾のことではなくアーネスト・パンツ略であり、特に貫通力の高いミサイルなどではない。普通のミサイルの弾頭にアーネストのパンツを挟んだ物であり、ヤシノキラボの極一部で高値で取引されているアーネストのパンツにより、一発の単価が高く、アーネストの脱ぎたてパンツが使用されるためリロードに一日以上の時間を要する。
そして今、そのアーネストのパンツにはリリによるマーキングが施されており……。
「なんであの男が突っ込んで!?」
角を曲がってきたリリに一瞬のスキが生じ、罠だと気付いてRAシールドを展開するも範囲は自身だけをカバーする最小限の物となり、乗っていた戦車までは覆えなかった。その戦車に二発のミサイルが、そしてAPミサイルともう一発はシールドを張ったリリへと命中する!
「キャーッ!!」
ミサイルと戦車の誘爆を受けリリはシールドごと壁へと叩きつけられる。そしてシールドが消えて地面に尻餅をついた所に――
「どぅぉぉぉぉぉぉぉぉりゃァァァァ!!」
ショウコがアーネストの手を掴んで全速力で突っ込む!
勢いの付いたところで、さらにアーネストをぶん投げた!
「食らえ! アーネストグレネード!!」
ロボット三原則などはなから設定されていないフィギュアハーツならではの、主人を投擲する攻撃。
アーネストグレネード、全裸のアーネストを投げる。ただそれだけ。
しかしアーネストとはたとえ全裸でもアーネストであるだけでアーネストである。そう、アーネストにはフュギュアハーツやクロッシングスキルを使う者に対しては、特効となりうるスキルが有る。
――arnestがFH-U SA-01サラーナのクロッシングスキルを使用――
サラーナのスキルを発動させたアーネストがリリの手前で顔面から着地、
「ブベっ!」
さらにもんどり打って転がりリリを巻き込んで壁際で止まった。
「はぁ……はぁ……ふぅ……」
その様はまるで逃げ場のない少女に全裸で跨る男そのモノであったが、リリはなぜかその姿にときめきを覚える。
そして迫る男の顔から目を離せず、恍惚とした表情でその唇を唇で受け止め、舌を受け入れる。
そして繋がり、
――arnestがクロッシングスキルを使用――
アーネストはダッシーからリリを寝取った。
その瞬間、浮遊していたトルメンタや戦車が一斉に地面に落ち、けたたましい音が通路に響く。
「アァァァァァネストォォォォ!! 何しよったァァァァ!!!?」
「えっと、ダッシーさん、これは……」
激高するダッシーにアーネストは言葉を紡ごうとするが、ショウコに手を引かれ立ち上がる。
――「たいちょう、逃げますよ!」――
――「え? なんでリリの中にショウコの……?」――
「ってキャァァァァァァァァァァァァ!!」
――クロッシングエラー、FH-U SA-05リリとのクロッシングを強制切断――
ものすごい嫌悪感とともに、リリとのクロッシングが切れた。
ショウコがさらにアーネストを引き寄せると、一瞬前までアーネストの股間があった位置をリリの拳が空を切り、その余波でアーネストの股間のペンデュラムが揺れて肝を冷やした。マリィのクロッシングスキルがあっても、直撃したらアレがもげてたかも知れない勢いだった。怖い怖い。
――「ほらほら、再契約される前にとっととずらかる! これ一択っしょ!」――
――「……了解!」――
アーネストは怒り狂うダッシーの説得は無理だと諦め、ショウコの背に戻る。
――「先に行くわ。出口まではもうすぐのはずよ」――
サラーナが颯爽とアーネストたちの横を抜けて行く。
ショウコもそれを追ってスラスターを吹かし、混乱するダッシーとリリを残しその場をあとにする。
サラーナの背中でアクセリナがわずかに身じろいた気がしたが、この娘が起きていてくれればこんなことにはならなかったと考えると、徒労感が増すので誰も気付かなかったことにした。