そこはまるで古代の神殿のような場所だった。
今アーネストたちが立っているのは、二体の巨大な女神像に挟まれる形で鎮座する、神々しい意匠の白亜の扉の前である。今にも動き出しそうな女神の石像に見下され、アーネストは警戒を通り越してビビって足がすくみそうだ。
実際アーネストの警戒は正しい。ハスクバーナの案内なしに来て、正常にセキュリティが作動した場合、FBDユニットを装備したフィギュアハーツであっても撤退を余儀なくされただろう。
「あ、アクセリナの部屋とは、ずずずいぶんと違うんだな」
『親の趣味だ』
「ちなみに、わたくしじゃないわよぉん」
言い切ったハスクバーナと否定したミランダいわく、ダッシーの趣味らしい。
その扉が、見た目に反して静かに、そしてゆっくりと開く。
「「「おおぉ……」」」
ヤシノキラボから来た三人がハモったのは、クロッシングの効果だけではない。三人揃ってその荘厳さに圧倒されたのだ。
部屋の中は扉の意匠に勝るとも劣らず、白い大理石の床、等間隔に立つ神殿のような縦線の入った柱、どこかの神話をモチーフにしたらしい壁面の彫刻、天井からは綺羅びやかなシャンデリアが吊るされ、その天井には天使たちが舞う絵が一面に描かれており、一言で言えば眩しい。
「目がチカチカする……」
「これは……、悪質な視界デバフですぅ」
「さすがに子供部屋で、これはやりすぎじゃないかしら」
三者三様のクレームが付いた。
ついでに言えば、宗教に詳しい者が見れば、そのカオスぶりに激怒するか、呆れるであろう。なにせ、世界四大宗教はもちろん、北欧、インド、中国、日本、エジプトなどなど、世界中の神話から荘厳さをコピー&ペーストして一部屋にまとめた様なものだ。博物館のように整理されているならまだしも、こうもゴチャゴチャに混ざると素人でも頭がクラクラしてくる。
『すべての意見に全面的に同意するよ……』
「ほらほら、躊躇う気持ちもわかるけどぉ、時間も押してるんだから行くわよぉん」
ミランダが促すその先には、幾本ものケーブルやチューブの繋がった人間が一人は入れそうな大きさのカプセルが二つ、部屋の奥に設置されている。
今回のアーネストの作戦目標、クロッシングチャイルド専用育成カプセルである。
アーネストたちはミランダに続いて、広い部屋を低速でまっすぐに進む。
「ブリーフィングでヤシノキさんが見せてくれた通りの形だな。ぶっちゃけ違う形の物になってたらお手上げだったよ」
『外観を何かで覆うことは出来るだろうけど、中核となるカプセルの形はあれが最適らしいからね。何でも最初のクロッシングチャイルドであるベルフ姉が生まれた時に七人の博士が総出で作ったって聞いている。そしてあのカプセルは七人の天才が全員揃って開発した唯一の物というだけあって、完成度はツーレッグやフィギュアハーツの筐体よりも高いらしい』
ベルフ姉とは、現在ケンチクリンラボのシステム管理を行っているクロッシングチャイルド、ベルフェゴールのことである。名前のせいか親の育て方のせいか、性格は怠惰。ラボのシステム管理も自身が組んだサブシステムにほとんど任せきりであり、一日中殆ど本当の意味で眠った状態だという話だ。ちなみにもうすぐ二十歳になる彼女は、もうそろそろチャイルドという年齢でも無くなる。
「へぇ……。ああ、だから空間感覚能力を持ってるブンタさんたちが必須の作戦だったのか。そういう風に隠されてても見つけ出せるから!」
「何でたいちょぅは、そういう大事なこと今頃理解するかなぁ……」
「え? ショウコ様は知ってたの!? もしかしてサラーナも?」
「もちろんよ」
「え? え? じゃあラボの外でブンタさんたちと別れた時、もしもカプセルが隠されてたらどうするつもりだったの……?」
「そりゃあ、アタシが推測されたポイントで適当に壁とかぶっ壊してぇ」
「ワタシが瓦礫の中から見つけるつもりだったわ。ショウコの持ってきたホーミングミサイル、トラッカーじゃあ、カプセルやその中にいるアクセリナを傷つけることは出来ないはずだし」
背後で交わされる物騒な会話に、ミランダたちは案内役をやって本当に良かったと思った。
そんなことを話しているうちに、カプセルの前に着いた。
『さあて君たち、お姫様とご対面だ』
ハスクバーナの言葉とともに、二つのカプセルが内部の気圧をプシッと漏らしながら開かれた。現れたのは眠れる二人の子供。
右のカプセルには、今もミランダの方に投影されているハスクバーナの本体。服装こそ清潔感のある白い入院着だが、紫がかった銀髪も、その顔立ちも彼そのものだ。
そして左のカプセルには、同じ入院着に身を包んだ金髪の美幼女、アクセリナが。
「おお! 本物のアクセリナだ! ホントにこの年でこのおっぱいだったんだな。正直、ホログラムで盛ってるのかと思ってた……」
実はアーネスト、なにげに懸念に思っていた。
「この娘はそういうことはしないわよ。そもそも、どっかの誰かと違って盛る必要なんて無いもの」
と、サラーナ。
「誰でしょうねぇ? そんなオッパイ盛っちゃうような可愛いおちゃめさんはぁ」
ショウコはそう言うが、アーネストには覚えがあったが黙っておく。
「…………」
自分のシリコン製一分の一フィギュアの胸部パーツを少し大きい物にした、可愛いおちゃめさんは一体誰だったかな?
『なんでも良いから、とっととやってくれ』
「あ、うん……」
少し焦り始めたハスクバーナに急かされ、アーネストは左のカプセルに近づく。
彼の「やってくれ」の言葉で、ハスクバーナもアーネストがこれから何をやろうとしているのか知っているのだろうと、漠然と推測することが出来た。
なので一応聞いておく。
「君からじゃなくて良いのかい?」
そう、アーネストたちはただアクセリナを連れて帰るために来たわけではない。
『ふんっ。誰が男と接吻などしたがるものか』
「ふふふっ、ハスクちゃんはそのためにこんな手の込んだ事をして、セリナちゃんのパパたちを足止めしたんですものねぇ」
『何度も言うけどね、ママ。彼らがここまで辿り着くと――』
「はいはい分かってますよぉ。ハスクちゃんを目覚めさせない未来の可能性と、アーネスト様のキッスよって目覚めさせられる未来があるのよねぇ」
『危惧しているのは、あくまで前者だけだ。決してファーストキッスがどうとかじゃないからなっ!』
「じゃあ、隊長に目覚めさせてもらう?」
『やめてくださいというか時間も押してるからさっさとやれ!』
気取った感じで可愛げのない男の子だなと思っていたが、案外可愛いところもあるんだなと、ヤシノキラボ組は思った。
「それじゃあ、失礼して……」
アーネストは眠れる金髪幼女にそっと顔を近づけ、その唇に目覚めの口付けをする。さらに舌を入れると、バチィッと今までにないほどの接続刺激が走った。
「「「ッ!!?」」」
クロッシングで繋がったショウコとサラーナにもそれが伝わり、思わず口を抑える。アーネストも一瞬口を離しそうになるも、なんとか堪える。
――不明なデバイスを確認――
――不明なデバイスを確認――
――不明なデバイスとの接続に失敗――
――不明なデバイスとの接続に失敗――
――エラーをHusqvarnaに送信し、今後の問題解決に役立てますか? はい/いいえ――
――「いいえ」――
こうなることはアーネストもヤシノキから聞いていた。もちろんハスクバーナにエラー報告をしても問題解決にはならない。
そしてこの接続失敗をどうにか出来るのは、アーネストだけだということも説明されていた。
――arnestがクロッシングスキルを使用――
――不明なデバイスを確認――
――不明なデバイスを確認――
…………………………………………
…………………………………………
…………………………………………
不安になるような沈黙がしばらく続き……。
――axelinaの直結接続を確認――
――axelinaの直結接続を確認――
――axelinaのクロッシング直結を確認――
――axelinaのクロッシング直結を確認――
――axelinaをaxelinaと同一アカウントと断定――
――axelinaをaxelinaと統合処理――
…………………………………………
――クロッシングパスワードを設定――
――「アクセリナ、起きる時間だよ」――
――クロッシングパスワードを設定完了――
ここでアーネストはアクセリナから顔を離す。今回のパスワードは事前に考えていたので、つまずくことはなかった。
「ぷはっ……」
ヤシノキに適合値の問題は大丈夫だと言われていたので、サラーナのクロッシングスキルは使わなかったが、たぶん上手く行ったはずだ。
『うまく、行ったのか……?』
ハスクバーナの言葉には答えず、アーネストは口にするべきその言葉を発する。
「アクセリナ、起きる時間だよ」
パスワードを唱えたその瞬間、アーネストの中に莫大な量の情報が流れ込んできて、頭痛に頭を抱える。――各所の時刻情報更新――戦況情報――兵器の戦術レート――[PSW]介入規模――戦況予測――各所の時刻情報更新――戦況情報――……
「うくぇふぁっ!!??」
――「うくぇふぁっ!!??」――
アーネストの声と思考が同時に悲鳴を上げる。
――「ショウコ! アーネスト隊長に流れ込んだ情報を削除よ! このままじゃ脳が持たない!」――
――「わ、わかった!」――
二人のフィギュアハーツが必死に流れ込んでくるデータを削除してくれて、アーネストの頭痛はだいぶ楽になる。
――「……え? アーネスト、さん……? ふぇ!? ごめんなさいアクセリナったらお漏らしを……」――
アクセリナが恥ずかしそうに気が付き、データの流入が止まった。
頭痛の収まったアーネストは、どさくさで倒れ込んで思いっきり顔面ダイブしていたアクセリナの胸から顔を離す。ちなみに、めっちゃ柔らかかった。
――「……いや、大丈夫だよ。可愛い女の子のオモラシならむしろご褒美だ」――
――「セリナちゃん、もう一回お漏らししちゃってもいいわよ」――
――「そうですねぇ。たいちょぅの脳ミソは一回沸騰させて消毒しとくくらいが、ちょうど良いかもしれないですぅ」――
――「ちょッ!? やめて! あれほんとに死ぬほど痛いから!! なんでもしますから! それだけは!!」――
――「たいちょぅ、なんでもって言いましたねぇ?」――
なんでもって言わなくてもアーネストはショウコの命令にはなんでも従うので、その言葉にあまり意味は無いかもしれない。
思考通信での騒がしいやり取りを聞きながら、アクセリナは自分と繋がる意思をはっきりと認識し始める。
――「アーネストさん、ショウコ……。それにサラーナも……。それじゃあ、成功……したんですね……? あ、ホントだ。ハスク兄さんの理論の通り、クロッシングチャイルドは生身の人間のアカウントと人工知能としての電子的アカウントが混在してたんですね。これのせいで普通のクロッシングは受け付けなかったのですか。ログにもちゃんとアクセリナが二人分あります! それにアカウント統合処理もされてます! すごい! すごいです! これがマルチクロッシング!」――
――「アクセリナも知ってたんだな」――
マルチクロッシングについては、アーネストのクロッシングスキルが判明する前に拉致されたため、アクセリナは知っているはずが無いのだが。
――「はい。ニフル博士から聞いています。……ちょっと待って下さいね。こっちの演算ももうすぐ終わり…………ました。今、アーネストさんの中から、体を動かすためのデバイスドライバ的な神経モジュールをコピーさせてもらいます……」――
アーネストの脳内がアクセリナにスキャンされ、必要な人体の構造データがコピーされていく。
『上手く行ったみたいだな。アクセリナがこっちのサーバーから強制ログアウトさせられた』
「そういえば、アクセリナちゃんは何の演算をしてたんですかぁ? 戦況がどうとか、戦術レートがどうとかってチラホラ見えましたけど?」
『そうだ! 演算中だったはずだ……。いや、演算は終了してる……って、結果の送信を忘れてるじゃないか!!?』
「そうだハスク兄さん! 演算結果送信し忘れました!!」
瞬間、アクセリナが目をカッと開き、ガバッと起き上がった!
ゴチンッ!
「ふごっ!?」
彼女を覗き込んでいたアーネストの額に思いっきりヘッドバットが決まった。頭を抑えて痛みに悶える者が四人。こういう時、一応安全装置は付いているもののクロッシングも不便である。
「イタタタ……。あはっ。これが本物の痛み……あはは! すごい! 動きます! 体、動きます! あははははっ!!」
嬉しくなってアーネストに抱きつくアクセリナ。
それをポンポンと背中を軽く叩いて受け入れるアーネスト。
「おはよう、アクセリナ」
「おはようございます。アーネストさん、暖かいです……」
少しの間アクセリナは、アーネストの温もりを感じる。
『ふむ、健康状態にも問題なさそうだな。筋肉の方も普通に動ける程度に成長してるみたいだ。さすがは七博士のカプセルと言った所か』
さらに言えば声帯や鼓膜なども、完璧に機能している。まるで目覚めることを前提としてカプセルが設計されていたかのごとく。
「ハスク兄さん、すぐにデータを!」
『ああ、頼む』
すぐにカプセルから出て、ふらつくアクセリナをアーネストが支える。
「おっと!」
「ふぁ!? 大丈夫です。……すぐに最適化します」
驚くべきことにアクセリナは赤いフカフカのカーペットの敷かれた床を、次の一歩からは何の危なげもなく歩いてみせた。
そうして一同が見守る中、隣のカプセルに辿り着くと、眠っているハスクバーナへ顔を近づけ――何かを思い出したように一旦止まる。
「あ、そうでした。クロッシングは解除しちゃいますね。どの道、詳細がわからないクロッシングスキルは危なくて使えませんし」
「ああ、分かった」
アクセリナとクロッシングをつないだ今、アーネストには新しいスキルを得ていた。しかもなんとアクセリナは二つのクロッシングスキルを持っていたのだ。
しかしこれを消すことも事前に決まっていたのだ。その事についても、アーネストは内心勿体ないと思いつつも理解している。
ヤシノキの授業によると、クロッシングスキルの中には詳細を知らずに使用すると危険な物も多数あるらしい。具体例をあげると、体が爆発したり、内臓器官が鉱物化したり、突然消えて戻ってこなくなったり……。
アクセリナのスキルが、両親からそのまま引き継いだ能力なのか、あるいは全く別の能力なのかは、ヤシノキの分析が無い今はわからない。不用意に使わないように消去しておくに越したことはないのだ。
――axelinaのクロッシング契約破棄を承認しますか? はい/いいえ――
――「はい」――
――関連ファイルをアンインストール完了――
アーネストのクロッシングスキルフォルダから、何が起こるかわからないアクセリナのクロッシングスキル二つが削除された。
そしてアーネストの支えを必要としなくなった少女は、隣の眠れる少年と口付けを交わす。
アクセリナからデータを貰って目覚めたハスクバーナは、ヒョイとカプセルから出ると、すぐにミランダに乗る。今度は肩に乗るのではなく、アーネストたちと同じように硬化させた重力制御マント乗り、ワイヤーで身体を固定する。
「ハスク……兄さん……。あとは、頼みました……」
「ああ、お前はもう休め」
ハスクバーナの言葉を聞くと、すでに船を漕ぎ始めていたアクセリナがフラリと倒れるように眠ってしまった。
「危ないっ……と」
咄嗟に近くにいたサラーナが受け止める。
どうやら脳を酷使しすぎて、疲れて眠ってしまったようだ。
「まったく、あの規模の演算をこなしたあとに、運動神経系ファイルの最適化までやってのけるとか、大した妹だよ。ちゃっかり[aracyan37粒子]の操作権限をセリナの方が上位に設定されたくらいは、まあ、大目に見てやるさ」
ハスクバーナはアクセリナに安心と感謝の混ざった視線を送ると、次にアーネストへ視線を移す。
「アーネスト、アクセリナを頼む。無事にヤシノキラボまで送ってやってくれ」
「おう、任せとけ。平和になったら遊びに来いよ。アクセリナも喜ぶだろ」
「そうだな……。わかった。落ち着いたら行くよ。じゃあな!」
そう言ってハスクバーナは前を向き、ミランダとともに行ってしまった。
この時アーネストたちは、てっきりハスクバーナはダッシーの下へ向かったと思っていた。クロッシングチャイルドが、息子が目覚めればダッシーとイトショウが世界征服をする理由はなくなり、戦争は終わるはずなのだ。
しかしまたアクセリナが眠ってしまった今、アーネストたちは知る由もなかった。彼らの目的は別にあるということを。
「さて、ワタシたちもさっさとずらかりましょう。これから平和になるにしても、今はまだダッシーラボとは敵対関係よ。面倒なことになる前に帰りましょうか」
「だな」
「ですねぇ」
眠ってしまったアクセリナをサラーナの背にマントとワイヤーでうまく固定し、もと来た道を戻っていく。
ふと、ショウコの背でマップを見ながら進んでいたアーネストは思いついた。
「なあ、この先の部屋を突っ切って行けばかなりショートカットできないか? 大きさ的に格納庫か何かだと思うんだけど」
来た時に大きく迂回した部屋を指して提案した。反対側へと去ったハスクバーナが、ダッシーの元へ向かったと思い込んでいたがゆえの判断だ。
その部屋はサッカーコート六つ分はありそうな大きな部屋で、周りに幾つか小さな部屋がくっついている形だった。構造的に格納庫の可能性が高い。
「そうね……。ブンタペアがどうなってるかも心配だし、早いに越したことはないわね」
「アタシもサラーナに賛成ですぅ。早く帰ってプチショウコのプログラミングしたくなってきましたぁ」
「あ、俺も! それ俺も手伝います!」
「それじゃあ決まりね!」
通路が扉の前で突き当たり、その扉を意気揚々と開き三人は中に入る。
パンッパンッパンッパンッパンッパンッ――
「湯気? 視界が悪いな……」
呟いたアーネストタたちの目の前は白い湯気で見通しが悪い。
パンッパンッパンッパンッパンッパンッ――
空気は生暖かく、パンパンという妙な音が聞こえる。
「もしかしてここって……」
パンッパンッパンッパンッパンッパンッ――
「めちゃくちゃ広い、お風呂ですぅ?」
そうここはダッシーラボの地下入浴施設。大部屋は大浴場、そこに付属した小さな部屋はサウナや更衣室であった。
パンッパンッパンッパンッパンッパンッ――
今しがた入ってきた扉から湯気が出て行き、空気が流れて視界がにわかに晴れてくる。
それと同時に、声が聞こえてくる。
「あっ、あっ、あっ、あん! ダッシー、博士! そこ! イイ!」
パンッパンッパンッパンッパンッパンッ――
「ここかえ? リリ? この角度かえ? こっちもどうかえ?」
パンッパンッパンッパンッパンッパンッ――
「んっ! ふぁ!? そこも! そこもイイ! 博士! ダッシー、博士は! リリのことっ! どれくらい! 好きッ!?」
パンッパンッパンッパンッパンッパンッ――
「ぎょうさん、しゅきっ……」
湯気が晴れてきて顕になったのは、二人の人影。
一人は四つん這いの犬のような姿勢でお尻を突き出す、ピンクの髪のツインテールが特徴的な、青い瞳のスレンダー少女(全裸)。
フィギュアハーツ、ユータラスモデル SA-05 リリ。アイドルのような振る舞いをする明るい性格の少女AIキャラクター。何事も真剣に取り組み、フィギュアハーツの試合でも好成績を残すことが多かった。アイドル性の高いサラーナをライバル視しているフシがあることは、アーネストも知っている。
もう一人は、そのリリの臀部に腰を打ち付けている大人びた身体つきの黒髪ロングの女性(全裸)。腰を打ち付けるたびに、大き目な胸がプルンプルンと揺れている。
リリからダッシー博士と呼ばれていたが、アーネストの知るダッシーは男だったはずである。
どういうことだと目を凝らすと、そのダッシーと目が合った。
ちょうど背後位からキスをするために、顔を近づけたタイミングだった。
「「あ……」」
「「「あ……」」」
しばしの沈黙……
リリの形の良い臀部からチュポンッと、ダッシーの生ウィンナーが抜けた。
…………………………………………
「侵入者や!! ひっ捕らえッ!!!」
「リリ狩る! マジ狩る! ぶっ殺す!!」
先に沈黙を破ったのはダッシーたちだった。
「てっ、撤退ぃぃッ!!」
アーネストが叫んだのが先か、サラーナとショウコがもと来た扉から飛び出すのが先か、大慌てで逃げ出した。
このまま大人しく捕まったとしても、事情を話せば命までは取られないだろう。
しかし、アーネストはダッシーのそそり立つ生ウィンナーを見た瞬間に、直感した。「捕まったら、ヤられる……!!」と。
「と言うかあれは何なんだ!? ダッシーさんって男じゃなかったのか!? 確かに生えてたけど! 生えてたけど!!?」
「すす、少し落ちちちち付いて、たいちょぅ。……ふぅ、サラーナが冷静で助かりましたぁ。……うちのラボのジジイだってあんななりですぅ。ふたなりくらいどうってことないでしょぅ?」
「ふたなり!!?」
「ええ、そういえば誰かが研究してるとは聞いていたけど、まさか成功してるとは思わなかったわ……。いえ、なるほど……、それであの大の男好きのミランダが別れたのね……」
さすがは不測の事態への対応が得意な、初心者向けフィギュアハーツ。すぐに平静を取り戻し戦闘モードになったサラーナが冷静に事態と変態を分析してくれる。
続いて冷静さを取り戻したショウコも、戦闘モード並行する。
「そうだっ。さっきのってリリだったよな!? てことはスキルは目視した物質のポイントロック! たいちょう! 服とかどっかに赤い点が付いてたりしないか!?」
アーネストが視線を巡らせると、それはすぐに見つかった。
「あった! 俺の服の肩に何かついてる!! それから、サラーナのアサルトライフルに!!」
アーネストの言葉で迷うこと無くサラーナはライフルを捨てる。
「たいちょう! 脱げッ!」
こうしてアーネストたちの戦略的撤退が始まった!