ダァァァンッ――
『なっ!?』
『たいちょう! 今のは!?』
『この銃声……、照合完了なのです。やっぱり、ルクスティアLV01でほぼ間違いないのです!』
ヤシノキラボ西の森上空。
マスドライバーで得た速度をスラスターで調整しながら戦闘態勢を整えるラモンの背で、ミゾはその銃声と通信を聞いた。
『銃撃はされたが射出に問題なし! ショウコ様! このまま行きましょう!』
『合点承知!』
アーネストが持ち前の勘と判断力を発揮する中、ミゾは困惑してしまう。
「これは……、いったい何がどうなって……」
何者かに追われるルクス。アーネストを狙ったルクスティアLV01の銃声。
つい数週間前まで自分が背を預けていた組織、ワールドハンターフレンズに何があったと考えるのが最もあり得る。しかしそうであってほしくはない。どうしても別の要因がミゾの中で幾つもの推測として浮かんでは、即座に常識が否定していく。
「考えるのは後だ! 今は目の前のことに集中しろ!」
ラモンの叱咤する声が、混乱するミゾの意識を現実へと引き戻す。
「う、うん。わかった」
ミゾは飛行するラモンの背にうまく跨がりワイヤーに体重をかけながら、愛銃ルクスティアLV04をラモンの肩越しに構えてスコープを覗く。まだトリガーに指はかけない。
本当は銃器は転送用の部屋に置いてきた方が身軽であるのだが、これだけはミゾは手放さなかったのだ。意地を張ったかいがあった。
「見えた! ルクス様、ハウンドに乗ってる。ルクスティアLVAを所持」
スコープの中、はるか遠くにドーベルマンのような機械の犬にまたがった少女が見えた。長い銀髪を大きな宝石のような髪飾りで左右にまとめたオリエンタルな服装のルクスが、後ろに向かって体に似合わない大きな銃、ルクスティアLVAを構え、撃った。
ドァァァンッ――
銃声と共に放たれた弾丸は、森の木々の間を針穴に糸を通すように抜け、追ってきていた先頭のハウンドのウィークポイントへ正確に突き刺さる。弾丸は首の付根から胴体を貫通し、機能を停止したハウンドが崩れ落ち慣性のままに派手に転倒した。
「すごい……」
ミゾは一瞬、助けなど要らないのではないかと思うが、ルクスティアLVAはその複雑な可変型の構造上の弱点である弾数の少なさを思い出す。レティアの報告では十六体のハウンドだ。ミゾの知る限りどう考えても弾が足りない。
FBDユニットもRAシールドも無いフィギュアハーツなど、そこそこ力の強い人間程度でありハウンド二体も敵に回せばひとたまりもない。三体いれば鎧袖一触と言ってもいい。この戦場でのルクスの弾切れは、イコールで彼女の死を意味する。
「ルク姐! 聞こえるか!? ルク姉!」
ラモンが昔二人だけで使っていた暗号通信チャンネルでルクスに呼びかける。
『まさかラモンですか? 久しいですね。早速ですがヤシノキ博士にお目通りを願いたいのですが』
追われているとは思えないほど冷静な声で、ルクスの返答が届いた。
「元よりそのつもりだよ。それよりまずは、追ってきてるハウンドをどうにかするぞ!」
『そうですね。結構いっぱい追ってきてるみたいですが、やれますか?』
「おうよ!」
「師匠! 私もいます!」
ラモンとクロッシングで繋がっているミゾも通信チャンネルに参加した。
『その声、御冬ですか? 驚きました』
「はい! でも今はPSWのミゾです!」
御冬とは、ミゾの本名でありルクスからそう呼ばれると少し懐かしい気持ちになった。
「そしてオレのクロッシングパートナーだ!!」
――MizoがFH-T NN-ex02ラモンのクロッシングスキルを使用――
――FH-T NN-ex02ラモンがクロッシングスキルを使用――
ちょうど地上のルクスとすれ違うタイミングで、二人は同時にラモンのスキルで半獣化し、繋がれたワイヤーを外して上下に別れる。
ミゾは夜明け前の黒い空へと舞い上がり、ラモンはその反動でハウンドの群れの真ん中辺りにいた一体へ突っ込み、RAシールドで押し潰す。さらに強化された脚力で着地の衝撃を逃しながら、目についたもう一体へと突進――拳に装着したドリルで胴を粉砕!
――Mizoがクロッシングスキルを使用――
宙に舞い上がったミゾは放物線の頂点で黒い球体転移結界を展開し、空中から狙撃を開始する。
ダァァァンッ、 ダァァァンッ、 ダァァァンッ、 ダァァァンッ――
上空から見えるものと地上のラモンによって位置が特定されたものを、次々とNNR弾で撃ち抜いて撃破する。時々届くハウンドからの銃撃も、黒い球体内部にいるミゾを素通りしていく。
『なるほど、まさかexシリーズがクロッシングを結んだ姿が見れるとは、本当に驚くばかりです』
ミゾとラモンの戦いぶりを見て感心するルクスの声を聞き、二人は互いに気分が高揚していくのを感じた。
数十分後、ミゾたちはルクスを連れて再び出撃ガレージに戻り、すでに予定されていたランゲージポイントに着いたアーネストたちと映像付きで通信を行っていた。
「ラボは今、ワールドハンターフレンズ日本支部局の者たちに包囲されておるのじゃ」
司令室からわざわざ出てきて直接ルクスの話を聞いたヤシノキが、こちらは心配いらないという事をかいつまんで伝えた。包囲されている状態を心配いらないと説明するのもどうかと思うが、事実、ワールドハンターズフレンズの戦力ではヤシノキラボは落とせない事をミゾもアーネストも知っている。
ちなみにもちろんヤシノキがわざわざ出てきたのには訳があり、分析のクロッシングスキルを使うためである。
ルクス本人もそれが一番手っ取り早く信用が得られると知っていたので、気持ち悪い視線を浴びる覚悟をして「ヤシノキに会いたい」と言っていたのである。
ちなみにレティアでも分析のクロッシングスキルは使えるが、彼女は今は周囲警戒のために管制塔から離れられない。
「申し訳ありません。最後まで止めようとしたのですが……、結局追われる身となってしまいました」
ヤシノキによって身の潔白が証明されたルクスも通信に参加している。複雑な構造のオリエンタルな服にも、盗聴器の類は無かったそうだ。
『あなたがルクスさん? よかった。無事だったのか』
「はい。おかげさまで。わたしがルクス・ティアです。みふ……じゃなくて、ミゾがお世話になってます」
『えいえいこちらこそ、ミゾさんにはいつも助けられてばかりで……』
なんだかまったりした空気になってきたのを、画面には映らずにあちら側で周囲を警戒しているブンタが引き締め直す。
『アーネストくん? 我々はすでに敵地にいるのだ。あまり悠長に話してる時間はないのだぞ。サラーナは合流したが、ミゾくんたちはどうなるのだね?』
本題に入りミゾの顔も引き締まる。
「……すいません、アネキ。私たちはこちらに残ります……」
「そちらの作戦に支障をきたしてしまったこと、重ね重ね申し訳ありません。しかし、こちらの件はどうしてもミゾに頼みたいのです。わたしだけでは京都江局長には敵いませんでしたから……」
『そうか……』
「アネキ、本当にすみません。でも京都江は、私の手で撃たねばならないのです! 護るための銃を……ルクスティアシリーズをPSWとワールドハンターフレンズとの開戦のために使うなど、私には許せない」
『そうか、わかった。ミゾさんにもミゾさんの戦う理由ができたんだな。それなら俺に止める権利なんて無いさ』
「アネキ……」
『帰ったら、また軍にいた頃みたいに一緒に酒でも飲もうぜ。今度はPSWのみんなも一緒にさ。それじゃあ健闘を祈る!』
「はい! アネキ、みんなで絶対帰ってきて下さい!」
そう言ってミゾは通信を締めくくった。
「さて、とりあえずこちらの状況は説明したとおりじゃ」
少年の姿のヤシノキが、得られた情報をまとめて説明を終え、臨時の作戦ブリーフィングに入る。
ヤシノキが手をかざすと、目の前にヤシノキラボ周辺の地図がホログラフによって展開される。更にそこに赤い点で敵を示すアイコンが表示されていく。
予想される敵戦力の表示が終わり、そこにミゾ、ラモン、ヌードルが目を落とす。ロッドリクは今この場にはいない。
ちなみにグランとマリィは近くのコンテナの上に寝かせたプチショウコで遊んでおり、ルクスは先程手を惹かれてそちらに行ってしまった。
ヤシノキラボは現在、苺指揮下のワールドハンターフレンズ日本支部局によって東西南が包囲され、先程のアーネストへの発砲によって得られた情報から苺本人は東の山岳地帯にいることが判明している。
「アネキへの発砲は、おそらく私への挑発です。京都江は私との勝負を望んでいるのでしょう」
「しかしまあ、わざわざあんたが行ってやることもないさね。ルクスの情報通りなら、あたしらなら一瞬で片がつく」
ヌードルが最も手っ取り早い案を出すが、ミゾは当然のように頭を横に振る。
「いいえ。彼女の相手は私がします。それに、ヌードルさんの能力では殺してしまう可能性が高いのではないですか? 相手の狙いが開戦、誰かが死ぬことによってせっかく結んだPSWとワールドハンターフレンズの関係を悪化させることですし」
「そうさねぇ。あたしゃ手加減なんて出来ないからね。かと言ってうちの旦那じゃ取り押さえるほどの力はない。もちろん、やって出来ないこともないだろうがね」
ルクスのもたらした情報によれば、苺の目的はワールドハンターフレンズとPSWの正面衝突であった。
世界の表の戦場の武器、特に現代の銃器を通してほとんどすべての国々とつながりのあるワールドハンターフレンズと、世界を裏から操る超科学の組織PSWの全面戦争は、予定調和的に開戦した土塊の戦争とは比べ物にならない本物の世界大戦となりかねないのだ。
もしもこの戦闘で苺本人ないしは、誰か一人でも死者が出るようなことがあれば、それを持ち上げて宣戦布告する魂胆らしい。
「そのあたりはワシらやグランちゃんペアも同じじゃな。帯に短し襷に長しじゃ」
「ふむ、京都江の相手はミゾさんに任せるとして、あたしゃ北側……、というかあたしら熱海ラボの人員はこの戦闘に参加して良いのかねえ?」
「熱海ラボの中立宣言なら、そんなに気にせんでもよかろう。ワールドハンターフレンズ日本支部局にダッシーラボやイトショウラボの息がかかってないとも言い切れんのも確かじゃが、それを言ったらあからさまにバックに奴らが関わってるソボ帝国との戦闘にカンパチロウが駆り出されたりはせんよ。熱海のことじゃ、どうせ中立と言ってもうまくバランスが取りたいだけじゃろうて」
「それじゃあ、あたしらも今回は好きに暴れて良いんだね」
ヌードルが歯を見せてニッと笑うと、ちょうどヌードルの旦那ことロッドリクが現れる。
「博士、持ってきたぜ。これでいいのか?」
「おおロッドリク、これじゃこれじゃ。皆に配ってくれ」
ロッドリクが持ってきたアンプルのラベルを見て受け取り、他の者にも配らせる。
「ん? 数が足りないが良いのか?」
「ああ、これならオレとミゾはもう飲んだからな。他のやつに渡してくれ」
ラモンとミゾはすでに同じ薬を飲んだらしい。
ロッドリクは飽きて遊び始めたグランとマリィ、そして二人の相手をして微笑んでいるルクスにアンプルを渡し、最後にヌードルが受け取るとその隣に落ち着く。
早速アンプルの先を折ってクピリと、当たり前のように飲んでしまうグランとマリィ。この元実験少女たちは、薬を渡されれば迷わず飲んでしまう。何人か説教したくなる者もいたが、今は我慢した。
ルクスはそんな危うさのある二人を見ながら問う。
「あの、博士。何かは分からないが、これは私も受け取って良い物なのか?」
「ルクス、おぬしも京都江と戦いに行くつもりなんじゃろ? なら飲んでおくんじゃ。ミゾくんたちの足を引っ張りたくはなかろう」
「ええ、そのつもりですが……。そもそもこれはいったい……?」
「まあ、それは今回の作戦、LMRP作戦の説明を聞けば分かるのじゃ!」
小さな体で胸を張ってヤシノキが堂々と作戦名を言い放った。そして恐らく最善でありながら最低の作戦説明が始まった。
「とまあ、作戦内容はこんな感じじゃ。配置は先ほどの意見を参考にするなら、東の山岳地帯で待ち構える京都江の相手はミゾくんたちとルクスに任せるとして、北側の草原地帯はヌードルさんたち、西の森林地帯はグランちゃんたち、そして南の森林地帯はワシらが行くとするかのう」
作戦の説明を終えたヤシノキを見る一同の視線は、微妙である。代表してヌードルが口を開く。
「はぁ、合理的な作戦だとは思うがねえ……。でもなんだ……もうちょっと何か無かったのかい?」
「無い! 奴らにはここは戦うための場所ではないと、心と身体に刻みこんでやらねばならんのじゃ!」
ヤシノキが言い切った。
「はかせー。わっちもスキル使って戦っていいのー?」
「いいのー?」
捕虜扱いでクロッシングスキルがロックされているグランとマリィが、手を上げて質問した。
「いいぞい。特別に許可するのじゃ。アネさんの帰ってくる場所を、一緒に護るのじゃ」
「わかった! アーネストさんのために頑張る!」
「頑張るー!」
張り切って互いにパンッと手を打ち合わせ、キャッキャとまたプチショウコのもとへ戻って行く。
「誰も殺してはダメなんじゃぞ! 分かっとるな!?」
「「はーい!」」
手を挙げるだけで振り返ることもなく返事をした二人は、本当分かっているのか不安であるが、任せるしか無い。
半眼でグランを見つめるヤシノキに、ルクスが声をかける。
「ところでヤシノキ博士。出来れば弾薬の補充と幾つか装備を貸してほしいのですが……良いでしょうか?」
「ん? ああ、かまわんぞ。というかおぬしとミゾくん、それにラモンもかのう。話しておかねばならんことがあるのじゃよ」
「……?」
ヤシノキに呼ばれ、近くで話していたミゾとラモンが不安げに振り向く。
「なんですかヤシノキさん。話って?」
「実は、ミゾくん単体で診た時は分からんかったんじゃがのう。おぬしら3人揃って診たら、新しい分析結果が出たのじゃ……」
「新しい分析結果?」
「実はのう――」
「「動いたー!!」」
その時グランとマリィが急に歓喜の声を上げ、ヤシノキの話は中断された。
『ファンッファンッ!!』
そしてその二人の元から四足で飛ぶように駆け出した小さな筐体。
「プチショウコ!? ……が、動いてる?」
驚くミゾが見ているのは、確かに先程までスヤスヤと眠っていたプチショウコである。確かAIのプログラムが無いため動かないはずだったのだが。
プチショウコは一度立ち止まりキョロキョロと何かを探し、ルクスを見つけると勢い良く駆けてくる。
「御夏! うまくいったのですね」
御夏とはルクスが逃げてくる時に乗っていたハウンドのAIであった。
しかしルクスがラボまで来る際、ラモンに運んでもらうのに邪魔になるのでAIのメモリーだけ抜き取って来たのである。そのスティック状のメモリーは今、元気に走ってくるプチショウコの尾てい骨辺りに刺さっており、さながら尻尾のようだ。
「師匠……、御夏って……。というかこれ、アネキにバレたらやばいのでは……?」
御冬ことミゾがルクスに何か言いたげに視線を送るが、ルクスはそれを無視して駆けてくる御夏へしゃがみこんで手を広げ、優しい笑顔で抱きとめる体勢になっている。
そこへ千切れんばかりに尻尾を振り、プチショウコが嬉しそうに突進してくる。
『ファンッファ――』
スポン! ズザー。カランカラン……。
そんな音を広いガレージに虚しく響かせ、御夏の尻尾のメモリーが吹っ飛び、筐体は顔面を床に擦り付けて停止した。
「あーあ、そんなに尻尾振るからー」
「取れちゃったねー」
駆け寄ったグランに抱き上げられたプチショウコは、またスヤスヤとスリープモードになっている。
「そんじゃ、あたしゃ出撃前にお花を摘みに、便所にでも行っとくかね」
「かあちゃん……。それじゃあ前文で綺麗に言ったのが、後文で台無しだ」
そんな会話をしながらヌードルたちはトイレへと歩いて行く。
「おぬしら、ワシのラボ守る気あるんじゃよな!? 信じて良いんじゃよな!?」
あまりの緊張感の無さにショタジジイが喚く。
「あたしゃこのラボがどうなろうと、正直どうでもいいさね。ただ、ここが無くなって年中発情期みたいな連中が熱海ラボに転がり込んでくるってのだけは、避けたいからねえ」
立ち止まって振り返らずにヤシノキに言うヌードルは、今回の作戦にはあまり乗り気ではない。
「理由は後ろ向きじゃが、ヌードルさんならやってくれると信じとるよ……」
肩を落としたヤシノキはミゾへ視線を送る。
「わ、私は、こんなことをしでかした京都江を粛清できればそれでいいですし。それにさっきアネキとも約束しましたし……」
「ミゾ……、さっきからもっと良い作戦がないかずっと考えてるみたいだが、諦めろ。この博士こんなんでも天才だからな、オレたち戦闘屋とは頭の出来が違うんだ。この作戦は現状の最善策だ」
ミゾの隣で難しい顔で立つラモンは、クロッシングでミゾの思考を感じ取っていた。
「でもラモン! だって……こんなアホみたいな作戦……」
「この戦火を世界に広げないためだ、受け入れるしかない……」
「くっ……。こんな時アネキがいてくれたら、何か奇跡を……」
うつむいて親指の爪を噛むミゾは、もうすでに奇跡にでもすがりたい気分である。
「あー、もうわかったのじゃ! この作戦が成功したあかつきには、おぬしらの望むものをなんでも作ってやるわ!」
ヤシノキは皆のやる気を出すための報奨を約束することになった。
「わーい! じゃあじゃあ、わっちは!」
「プチアーネストさん欲しいー!」
ここぞとばかりにグランとマリィが声を上げた。
「ええと、転がり込んだ身で図々しいとは思うのですが、私もこの子に新しい体をお願いします……」
ルクスは拾ってきた御夏のメモリースティックを、申し訳なさそうにヤシノキに手渡す。
「お安い御用じゃ。ヌードルさんもそれでやる気を出してくれんかのう?」
「ははっ! 言ったね爺さん? その言葉、ボケて忘れるんじゃないよ!」
顔だけ振り返ってニッと不敵な笑みを浮かべ、ヌードルはロッドリクとガレージから出ていく。
「ぬぬぬ……、あの口ぶり、何を要求されるやら……」
ヤシノキの筐体の頬を冷たい汗が流れ落ちる。
「オレはこの装備を作ってもらったばかりだしな。特に欲しいものはねえよ」
「私も、これと言って欲しい物はないですが……。まあ追々何か必要な物があったら作ってもらいましょうか」
そう言うラモンとミゾは、武装さえ整っていれば特に欲しい物は無く、自他ともに認める戦闘屋であった。
「それでも良かろう。ただこの老いぼれがいつまでも生きてると思わんでくれよ」
フムと頷いてから、通信に切り替えてラボ全体に聞こえるように宣言する。
『さて皆の衆! 各自準備が整い次第、配置につくのじゃ! 迎え撃つぞい!!』