…………SA-01サラーナ、arnest の接続を確認――
――arnestの脳内をスキャン開始――
――arnestの視覚情報記憶よりバックドアを検索中……――
アーネストの目蓋の裏に、フィギュアハーツのタイトル画面がフラッシュバックする。
――バックドアの開放を確認――
これは……。
まどろみの中、アーネストの意識が微かに覚醒した。思考の溶け込む真っ暗な闇の中に、プログラムが走る感覚だけが白く刻まれる脳内の仮想空間。
アーネストの覚醒を感知した脳内のaxelinaOSが、システム中枢の少女が不在であってもサブシステムを介して起動する。
――axelina起動中……――
――「axelinaへようこそ!」――
――FH-U SA-01サラーナの直結接続を確認――
――FH-U SA-04ショウコのクロッシング接続を確認――
サラーナ……?
アーネストは唇に柔らかい感触を、そして舌にピリピリと電池を舐めたような感覚を、今更ながらに感じる。
――「アーネスト隊長ぅ、無事ですかぁ?」――
思考通信でショウコの甘い声がアーネストの頭に響く。
――「…………」――
返答しようとするが、思考がうまく通信に乗らない。
隊長、もうしばらく大人しくしててね。
そんなサラーナの思考が舌を伝ってアーネストの中にトロンと溶け込んでくる。
何が……起きている?
――FH-U SA-04ショウコがクロッシングスキルを使用――
さらにクロッシングを介してショウコがクロッシングスキルを発動させるのを感じる。
戦闘モードのショウコの覇気も、高揚感も、戦場の熱気も、充満する硝煙の匂いも、ずっと戦場に居ながらアーネストがほとんど感じることのなかった本物の戦場が、クロッシングを通して痛いほどに伝わってくる。
ショウコ様が……戦っている……? 俺も……。
しかしアーネストの意思に反し、彼の身体はピクリとも動かない。瞼を開くことも、暗い視界の中で脳内OSを操作することすらも出来ない。
これが……バックドア……の……。
ごめんなさい、隊長。でも今はワタシを信じて、ワタシに体をゆだねて欲しいの。
アーネストは体の主導権を完全にサラーナに掌握されているため、指一本動かせない。信じるも信じないもなく、彼女にされがままだ。
サラーナ……、君は……何を……?
アーネストの疑念が思考の闇に溶けていく中、彼の新たな力にサラーナが触れた。
扉が開いて光が漏れ出るように、その力は解放される。
――arnestがクロッシングスキルを使用――
――「は? なんだ? 何が起きてやがる!? アーネスト隊長!?」――
バックドアから強制的にクロッシングスキルが発動させられた。
そのアーネスト本人すらも知らなかったクロッシングスキルの発動に、ショウコの驚愕が伝わり、彼自身の驚愕とも溶け合う驚きの二重奏。
サラーナだけが冷静にアーネストの脳内OSを操作して作業を進めている。
そしてさらに信じられない事が起こる。
――FH-U SA-01サラーナのクロッシング直結を確認――
――FH-U SA-01サラーナのデバイスドライバのインストールを開始――
――FH-U SA-01サラーナのクロッシングツールのインストールを開始――
アーネストの脳内に暖かな何かが広がっていく。あの時と同じ、しかしわずかに異なる懐かしくて安心できる、繋がりのようなもの、ショウコと始めてクロッシングした時の感覚が蘇る。
なんと、本来一人としか出来ないはずのフィギュアハーツとのクロッシング契約が、アーネストはサラーナとも繋がったのである。
――クロッシングパスワードを設定――
――「サラーナは――――――
クロッシング契約が完了し、アーネストの意識が暗闇から明るい覚醒へと向かっていく。
――「新たに増えたクロッシングパートナーであるサラーナと、覚醒したクロッシングスキル、マルチクロッシングを携えて!」――
――「やめてサラーナ!? 戦って意識を失ったわけでも無いのにドラマチックに覚醒させるの、恥ずかしいからやめて!!」――
――「おい! ホントに何が起きてやがる!?」――
結局、驚愕と混乱の中アーネストは覚醒した。
「ん……ちゅ、ぷはぁ! ……はぁ……はぁ……はぁ……」
アーネストが瞳孔まで開きそうな勢いで目を開けると、そこにはリクライニングベッドで上体を起こされた彼に馬乗りになったパイロットスーツ姿のサラーナが、視界いっぱいに映る。彼女の唇からは粘液の糸がツーッと伸び、アーネストの唇に繋がっている。
辺りは緑の粒子がたゆたい、長い金髪を乱れさせて大きな胸を上下させて熱い吐息を吐き出すサラーナをいっそう淫靡に魅せる。
アーネストは大きく瞳を開いたまま、サラーナに釘付けである。
場所は第十七保健室。アーネストが殴り倒されたアクセリナの部屋のある機密エリアから最も近い保健室、そのベッドの上にアーネストとサラーナは居た。